●リプレイ本文
●初めての旅立ち
集まった冒険者達は、皆緊張した面立ちをしていた。
なにしろ初めての依頼だ。固くなっても不思議はない。
「初めての依頼なので、変な点などあるかもしれませんが、よろしくお願い致します」
丁寧に頭を下げる龍鈴鈴(ea0034)。
華国出身であるため言葉におぼつかない彼女の科白を、シフールであるケイ・ヴォーン(ea5210)が仲間達に通訳する。
「こんにちは。昨日は良く寝れましたか? 私はケイ・ヴォーンと言います。ケイと呼んで下さい」
彼が今回のメンバー間の通訳をする役を担っていた。
もう一人シフールもいるのだが、彼――ルイ・ビエラ(ea1018)はゲルマン出身の為、イギリスの言葉を習得しておらず、完全な通訳をすることは出来なかった。今は、鈴鈴の迷子対策のために頭の上に乗っかっている。その手にしっかりと子供達の手紙を持って。
「ギルドの連中に聞いたんだがのう。野犬やコボルトがやはり多いらしい。昼間よりも夜に気を付けろ、ということだな」
「一応、簡単だがサインとか決めておこうか」
ルイの言葉の後にセキ・カズマ(ea0846)がそう付け加える。それにヒックス・シアラー(ea5430)も同意した。
「そうですね。とっさの時の伝達に便利ですから」
そうして、「敵が居る」「皆を起こせ」などの簡単なサインを彼らは決めた。
そうこうするうちに太陽も高く昇り、昼近くになった時。
「さて、そろそろ出発‥‥あれ?」
ギルドを出ようとしたところで、ヒックスが視線を出口に向ける。つられてセキも目をやると、そこには子供達が互いに突っつき合う姿があった。
ゆっくりと近付く冒険者に気付いた子供達は、ハッと見上げたまま押し黙ってしまった。何度か口を開きかけ、その度に閉じる彼らに、セキとヒックスは思わず苦笑しながら彼らに尋ねた。
「どうした?」
「何か伝言があったら伝えるけどどうする?」
そんな二人の言葉に、子供達の一人がおそるおそる口を開いた。
「あ、あのさ‥‥オレ達ずっと友達だって伝えてくれよ」
「ああ、わかった。伝えておくな」
セキは腕を伸ばすと、子供の頭をクシャクシャと撫でた。
そのまま彼らは、村へ向かって旅立っていった。
●道中〜真夜中の危険
森に入ったところで陽が落ちた為、一行はひとまずそこで野営する事にした。
焚き火をたいて夕食を取った後、彼らはあらかじめ決めておいた見張りの順番どおりに寝ずの番を始めた。
パチパチと火の粉が弾ける音がする。
すっかり静まり返った深夜。時折風が葉を揺する音がする以外、何も聞こえてこない。じぃっと焚き火を見つめる鈴鈴の頭に、ポンと何かが落ちた。
慌てる彼女にルイが静かに答える。
「‥‥交代の時間だ」
「あ、ゴメンなさい」
隣を見れば、ヒックスに交代を告げるレオン・ガブリエフ(ea5514)と目が合う。どこかほけーっとした表情に不安を抱きつつ、二人は見張りを交代した。
二人が去ったところでルイが近くの木の枝の上にもたれ掛かる。
「わしはここから見ておるよ」
「ああ、頼むな」
言葉は通じなくとも、その身振り手振りで彼の言いたい事を理解するレオン。そのまま焚き火の前に座る。例え見かけ的にはぼけらっとしていようと、ちゃんと人より優れた五感を働かせて‥‥いるのかもしれない。
そのまま、予定の二時間が終わろうとした、その時。
ピクリとレオンの眉が動く。じっと闇を見つめるその表情は真剣で、彼は静かに聞き耳を立てた。
ルイも同じように気配に気付いており、互いの視線の合図で二人は動いた。
「皆、起きるんだ!」
ピーッと笛の音が響く。
「な、なに?!」
慌てて起きた鈴鈴。他の仲間も同じように飛び起きる。
が、さすがに一度に全員が起きれる訳もなく、なかなか起きない仲間にはその額をペチペチと叩いて回った。
ほぼ同時に。
笛の音に触発されたのだろう。取り囲むようにいた野犬達がいっせいに襲いかかってきた。最前線にいるのはレオン一人だ。いかに冒険者といえど、大勢にかかられては堪えようがない。
「しまっ‥‥!」
二三匹を切り伏せたところで、横から野犬が跳びかかる。反応できずに思わず目を瞑ったところへ、後方からディズィー・スタットフォード(ea2619)のウォーターボムが勢いよく当たった。
「必要とあらばいつでも指示を下さい。頑張りますよ〜!」
次いで、セキの振るった剣が野犬の進行を食い止める。
「さて‥‥月並みな科白だが、此処から先は一歩も通さないぜ!」
全体をオーラで纏い、後衛に控える仲間達の護衛に回る。
未だ寝惚け眼の鈴鈴とヒックスは、なんとか眠気を振り払って前線で孤軍奮闘するレオンに加勢した。
「人が寝ているのを邪魔するな」
「ヒックス、お前その格好‥‥」
「つべこべ言っても始まりませんよ」
「しかし」
寝起きで鎧も着ていないヒックスだったが、心配するレオンをよそに積極的に攻撃に参加した。勿論、あくまでも怪我を負わないよう防御重視で慎重な行動を心懸けていたが。
「愛しいペットが待っているのに初仕事で負けられないわ!」
鈴鈴の目にも止まらない蹴りが野犬にヒットする。悲鳴を上げる同胞に、更に彼らは殺気立って唸りを上げる。
が、所詮は野犬。
冒険者の敵ではない。前線で活躍する三人のおかげで、なんとか撃退する事が出来た。
●変わらぬ友情の証
野犬の群に襲われて二日後。
一行はようやく森を抜け、目的の村へと辿り着いた。あれから何度か襲われはしたが、その度に撃退出来た事で、冒険者達の自信にもなったようだ。
そのまま目当ての子供のところへ手紙を持っていくと、彼は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「あ、ありがとう! オレ、すぐ返事書くからちょっと待っててよ!」
「ああ。僕達は明日まで村にいるから届けて欲しかったら遠慮なく声をかけてね」
そう言ったヒックスの背後から、仲間達が「そーそーお土産買わないとね」等とはしゃいでいる。
そして、彼らは久し振りのベッドを思う存分堪能した。その翌朝にケイがフライパンを叩いて起こして回るという珍事に遭遇する羽目になったりもしたが。
その時の言い訳を彼はこう語る。
「え、だって一度やってみたかったのです」
にっこりとした笑顔つきで。
●道中〜真昼の激闘
日射しはまだ高く、鬱蒼とした森にもところどころ木漏れ日が差し込んでいる。
そんな中を行く冒険者達の前に、立ち塞がる四体の影。犬のような顔を嫌らしく息を吐くコボルトだ。殺気立った彼らが、じわじわと近付いてくる。
冒険当初ならば、少し緊張したかもしれなかったが、今の彼らは多少の戦闘を経験したためか余裕があった。
先制を切ったのは、冒険者の方だった。
「じゃあいくよ。二時方向、レオンさんの向こうのコボルトに、白銀の矢を!」
集中するケイの手から、月の光にも似た矢が放たれる。避ける間もなく、コボルトの一体に衝撃を与え、その身を吹き飛ばした。
同時に、前衛に立っていた鈴鈴、ヒックス、レオンの三人が飛び出す。
鳥爪撃――鋭く繰り出された素早い蹴りがコボルトの股間に命中する。目を白黒させる相手に彼女は遠慮なくトドメの一撃を加えた。
立ち塞がる目の前のコボルト。その手に持つ武器を懸命に振り回す。そこに付着する毒は確かにやっかいだが、当たらなければ意味がない。
「刃向かう相手が間違っている」
冷たくそれだけを言い置いて、ヒックスが振り下ろした剣は敵を一刀両断した。
「ま、ここで会うのも何かの運命だ。悪く思うな」
いっそとぼけた顔をするレオン。相手の攻撃を殆ど本能で避け、剣を一気に一突きする。唸りを上げる声も虚しく、モンスターは冒険者達の前に一掃された。
「私の出番はなさそうですねぇ〜」
後衛に控えていたディズィーは、のんびりとそんな一言を呟いた。
●打ち上げ
「ほら、友達からの手紙を預かってきたぞ」
「彼、随分喜んでたよ。また手紙を送る時には言ってね」
「そん時はまた俺らが送ってやるさ」
手紙を受け取った子供達は、一斉に「ありがとうございましたー」と頭を下げた。そのままパタパタと出ていく彼らを見送るのと入れ替わりに、ギルドへ報告に行ったシフール二人が戻ってきた。
「ちぇ、あれだけ苦労したのに報酬はこれっぽっちかぁ」
「しょうがないよ。まだまだ僕らは初心者なんだし。それに子供達からお金なんて貰えないよ」
「まあそうなんだけどなぁ」
聞こえてきた二人の会話に、仲間達は苦笑を零す。
確かに依頼としてはまだまだ初心者用だから、報酬も少なくて仕方ない。だが、いずれ力をつけて、その力量に見合った依頼をもこなしてみせる。
集まった彼らは、互いの表情の中にそんな思いを抱いている事を見て取った。
「ま、なにはともあれ依頼は終わったんだ。遠慮なく飲み明かそうぜー♪」
レオンがグラスを高々と掲げる。
それに合わせて皆も手にしたジョッキやらコップを上げた。
「それでは初めての依頼成功を祝して」
乾杯の音頭が鳴る。
そして、全員の声が一つになる。
「「「「「「「「かんぱーーーーい♪」」」」」」」」