【捜索】流れの行方
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■ショートシナリオ担当：葉月十一 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：0 G 71 C 参加人数：8人 サポート参加人数：5人 冒険期間：02月13日〜02月19日 リプレイ公開日：2007年02月21日 |
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●オープニング
●極秘の再捜索「つまりグィネヴィアはあの男の許にはいなかったと言うのだな？」
アーサー王は喜びの砦に潜入を果たした一人の密偵からの報告を聞き、思わず腰をあげた。
先の物資補給阻止の際、巧く紛れ込んだ者がいたのである。日数の経過から察しても砦が遠方にある事が容易に理解できた。新たにもたらされた情報に、円卓の騎士が口を開く。
「もしかすると、隠し部屋や他に隠れ家があるのでは？」
しかし、男は首を横に振る。いかにラーンスとは言え、隠し部屋か他の隠れ家があれば向かわぬ訳がない。そんな素振りもなかったとの事だ。
――ならば、グィネヴィアは何処にいるのか？
――ラーンスは何ゆえ篭城なぞ‥‥！？
「否‥‥違う」
アーサーは顎に手を運び思案するとポツリと独り言を続ける。
「ラーンスは森を彷徨っていたのだ。喜びの砦は集った騎士らの為‥‥ならば」
――グィネヴィアは見つかっていない。
同じ答えを導き出した円卓の騎士の声も重なった。王妃は発見されていない可能性が高い。
アーサーは円卓の騎士や選りすぐりの王宮騎士へ告げる。
「冒険者と共に『グィネヴィア再捜索』を命じる！ 但し、王妃捜索という目的は伏せねばならん！ ギルドへの依頼内容は任せる！ 頼んだぞ！」
新たな神聖暦を迎えたキャメロットで、刻は動き出そうとしていた――――。
――集められた食料はこれで全てか‥‥。
ラーンス・ロットの瞳に映ったのは、騎士達に依頼した補給物資の全てだった。誰が見ても長き篭城を凌げる量ではない。血気盛んな騎士が彼の背中へ口を開く。
「戦の準備を整えましょう！ 我々に残された道は他にありません！」
予想していた声にうろたえる事なく、ラーンスは青い瞳を流す。集まった騎士達の眼差しから覚悟を決めた色が窺えた。
――王よ‥‥何故、邪魔をしたのです。これでは騎士達を留めておく事は‥‥！！
「それは危険です。恐らく物資補給に失敗した我々を待ち構えている事でしょう。それでは術中に嵌るのと同じ。‥‥森で狩りをするしかありません。モンスターの肉でも構わない」
飢えを凌ぐ為とはいえ、騎士達にとっては屈辱的な事かもしれない。何ゆえ森で狩りを行い、挙句は醜悪なモンスターの肉でさえ食らわねばならぬのだ。しかし、現実が過酷なのも事実。
「‥‥ラーンス様が、そう仰られるなら」
「‥‥すみません、苦労を掛けてしまって‥‥」
円卓の騎士が詫びると、周囲の者達は首を横に振る。
「何を申されますか！ 我々が押し掛けたのがそもそもの始まり。冒険者たちに諭された事が今になって‥‥分かった気がします」
「ですが！ 我々はラーンス様と共にある事に変わりありません！ 行きましょう！ 森へ！」
ラーンスは口元に僅かな微笑みを浮かべる瞳を和らげると、力強く頷いてみせる。
「森で何か発見したら報告して下さい」
アーサー王の命が下る数日前の事であった――――。
●消えた少年
森での捜索。
それが、今回王宮騎士であるヒューイットに与えられた使命だ。だが、その真の目的を伏せたまま、冒険者に協力を要請しなければならない。
ギルドへ向かう途上で、彼は小さく溜息をついた。
彼の悩みの原因は、もう一つある。
先日の依頼で、彼と冒険者達が無事に救出したペレス家の令嬢エレイン。驚いた事に彼女は、ヒューイットのよく知るガラハッドの母親だった。
酷く衰弱していたが命に別状はなく、徐々にだが回復しているという。
その事を彼は、ガラハッドへ伝えようと彼の姿を探したのだが、あの日別れて以来プッツリと姿が見えなくなっていたのだ。
（「‥‥どこ行っちまったんだよ、お前」）
そして数日が経過し、ヒューイットはようやく一つの手がかりを得た。
森へ向かうガラハッドの姿を見たというのだ。目撃者の話では、彼は父親の手掛りを求めて森へ向かったという。なんでも宿へ届けられた手紙にそんな伝言が残されていたという話だ。
『――父親の話をする時のあの子は、ホント誇らしげな顔をしてたねえ。なんでもとても立派な騎士で、自分の憧れだとか』
その言葉を聞き、ヒューイットはドキリとした。
お前がラーンス様に怒るのは‥‥侮蔑するのは、それか？
だから、あんなに憧れたあの方を許せないのか？
様々に流れるラーンスに対する醜聞。円卓最高の騎士の誉れである筈の彼が、いまや王に反旗する象徴すらになっている現状。
今彼が、偶然にもラーンス派の騎士と会ったりすれば――いや、もっといえばラーンス自身と遭遇でもしたら、下手な騒ぎだけでは済まないかもしれない。
今回の拝命を受けた時、ヒューイットの脳裏に真っ先に浮かんだのはこの事だ。あくまでも王命は絶対で、彼自身王妃の捜索を第一に考えている。
が、やはりガラハッドの事も気になってしまう。だからこそ彼は、一計を案じた。
二つの事象をうまく誤魔化すような依頼を。
「なんとか‥‥間に合ってくれよ」
祈るような気持ちを込めて、ヒューイットはギルドの扉を開いた。
『――森付近の村から、少年が一人森の中で行方不明となった。
彼の捜索のため、冒険者を数名募集する。
なお、情報の一切は依頼者よりもたらされるものとし、異議の一切を認めないものとする。
依頼者 ヒューイット･エヴィン』
●今回の参加者
ea2220 タイタス・アローン（31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国）ea7435 システィーナ・ヴィント（22歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国）
ea9937 ユーシス・オルセット（22歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国）
eb0379 ガブリエル・シヴァレイド（26歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国）
eb4840 十野間 修（21歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン）
eb7628 シア・シーシア（23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国）
eb7636 ラーイ・カナン（23歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国）
eb9033 トレーゼ・クルス（33歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国）
●サポート参加者
エヴァーグリーン・シーウィンド（ea1493）／ イフェリア・アイランズ（ea2890）／ アクテ・シュラウヴェル（ea4137）／ 玄間 北斗（eb2905）／ 大鳥 春妃（eb3021）●リプレイ本文
●偽る意図出発日当日。
待ち合わせ場所で待つヒューイットの元へ集まった冒険者達は、開口一番とばかり矢継ぎ早に質問を投げかけた。
その最もたるは、行方不明といわれる少年の名前である。
「だって名前を知らないと呼びかけも出来ないしね〜」
とはガブリエル・シヴァレイド（eb0379）の言だ。
そんな彼女の言葉に同意するように、十野間修（eb4840）も同様の質問を繰り返す。
「そうです。少年を探してくれ、だけではどこをどう探したらいいのか検討もつきません。せめて名前や容姿程度は教えて頂かないと」
もっとも彼の場合、イギリスの言葉が分からない為に重複してしまった事も一因にある。
システィーナ・ヴィント（ea7435）は、そんな彼の質問を通訳しつつも、ふとした予感が頭を過ぎる。元々依頼人がヒューイットだと知った時から、彼女の中では気になって事があった。
「あ、あのね‥‥ヒューイットさんからの依頼って事はもしかして‥‥」
僅かに言い淀む。
そんな彼女の言葉を引き継ぐようにユーシス・オルセット（ea9937）が勢い込んで尋ねてみた。
「まさかガラハッドなのか？ ったく、あいつは何やってんだか」
「い、いや、違う。行方不明の少年の名は‥‥そうだ、ガラドと言うんだ」
早とちりするユーシスの言葉を慌てて否定するヒューイット。
一先ず少年の名を口にする。次いで少年の容姿や目的の説明を始めたが、どこか嘘っぽい感がするのは否めない。その場に集まった冒険者全員が感じた印象だ。
しきりに周囲の視線を気にする様子は、明らかに何かを隠している。
が、この場でそれ以上追求しても、おそらく彼は話してくれないだろう。それは、長年冒険者を続けた者が持ちえる勘みたいなものだ。
「とにかくその少年の安全確保が第一だな。最近は身なりのいい山賊が蔓延る時勢だし」
「ああ、よろしく頼む」
「それにしても最近は騎士の依頼が多いな。それだけ内部で処理出来ないことが多いということか」
思わず口をつくどこか皮肉めいたトレーゼ・クルス（eb9033）の科白。ヒューイットが僅かに身を強張らせる。
勿論、それ以上の追求はしない。騎士の名誉も面倒だが、依頼を受けた以上まずそれを遂行するべきだからだ。
シア・シーシア（eb7628）も同じように考えており、口にする言葉も少年の安否を気遣ったものだ。
「森は未開の地ということだな」
「‥‥そうだ」
「ならば早く探し出してあげたい。きっと心細いだろうからな」
少年の捜索、と依頼人であるヒューイットは言っているが、これまでの言動から今回の依頼がそれだけには留まらないものであると察したシア。
が、彼はもう一度だけ念を押す。
「僕が引き受けたのはあくまでも少年の捜索だ。他の事に関わるつもりはない」
「まあまあ、いいじゃないか。俺自身、色々気になる事は確かだが、今はともかく迷子の少年を探し出すのが先って事でいいだろ？」
どこか冷たく言い放つシアの肩を、ラーイ・カナン（eb7636）が朗らかに叩いた。あっけらかんとした口調は、それまで張り詰めていた空気を一瞬で和ませた。
思わずホッと息をつくヒューイット。
それを見てラーイは、ニッと笑みを向けた。幾分解けた緊張に、固かった表情にも柔らかさが戻ってきた。
「そう、だよね。まずはその子の行方を探さなきゃ」
心配が先行するあまり、思わず詰問してしまった事に軽く項垂れるシスティーナ。そんな彼女の肩を友人であるユーシスが軽く叩いて慰めようとした。
そうして、それまで仲間達の様子を黙って見ていたタイタス・アローン（ea2220）が、頃合いとばかりに口を開いた。
「それではそろそろ参りましょう。あまりこの場で時間を取っていて、手遅れになってしまったら困りますから」
彼の言葉に誰も異存はなく、依頼人であるヒューイットを先頭に件の森へと出発する。
（「森の中で迷える子羊を救うのも神聖騎士としての役目です」）
殿となったタイタスはそう胸のうちで呟き、改めて依頼の達成を誓うのだった。
●偽らざる本音
森に入って二日。
冒険者達は二手に分かれ、昼間それぞれに捜索し、夜は集合場所に戻って情報交換をした。
「こちらには居ませんでした」
タイタスの一言をラーイが補足する。
「ええっと、俺らが探したのはこの辺だ。一応パンダにも手伝ってもらったがな、手掛りはなしだ。シアも何も聞こえなかったって言ってたし、森の形跡の方も‥‥て、おい？ シア？」
振り向けば、隣にいたはずのシアの姿がない。
首を捻るラーイにユーシスがあらぬ方を指差した。
「シアさんなら向こうに行ったよ。手に発泡酒持って」
「あいつ、また！」
呆れる彼は、すぐさま立ち上がる。実は昨夜も同じ事があった。ラーイとシアは同じテントに寝ているのだが、何時の間にか抜け出して森を散歩していたのだ。
いくら危険がないとはいえ、一人で歩くなどとんでもない。
「連れ戻してくる」
そう言って出て行ったラーイを見送り、残った者達は再び話し合いを始めた。
「一応、この周辺は探したし、私の魔法でも動く存在は確認出来なかったよ」
ガブリエルがそう言って、探知した場所をぐるっと円で囲む。
ちなみに今、彼らの前に用意された地図は、タイタスが持ってきたものだ。当然地理的に細かい描写はなく、かなり大まかなものだったが。
「それとこの辺にですね、僅かですが人が通った痕跡がありました。足跡も確認したので間違いありません」
身振り手振りを交えての修の説明を、システィーナが丁寧に訳して説明する。本当ならもう少し先へ行って今日中に見つけたかったのだが、既に辺りは暗くなっていた。
夜の行動は危険だ、というヒューイットの忠告に彼らは素直に従った。
「それにしても深い森だな。いったい少年は何を思ってこんなところに」
トレーゼがぽつりと呟く。
と、しばしの沈黙が訪れた。
さざめく風に揺れる梢。時折、パチッと音を立てる焚き火。
やがて――システィーナが静かに口火を切る。
「ねえ、ヒューイットさん」
「ん？」
「そろそろ本当のこと、教えて？ もうここには、街の人達はいないよ？」
ハッと顔を上げるヒューイット。いつの間にか冒険者全員の視線が、彼に集中していた。
「そうですね。もういいんじゃないですか」
「そうそ、ここには聞き耳立てる人なんかいないんだし」
タイタスとガブリエルの言葉が彼女を後押しする。
僅かな逡巡ののち、ヒューイットはやれやれと溜息をついた。
「分かった。さすがに全部は無理だが、お前達の気になってる部分なら」
「それじゃ、やっぱりあなたが探してるのって――」
「‥‥ガラハッドなのか？」
システィーナとユーシスの声が重なる。二人にとってガラハッドという少年は、ケンブリッジにいた頃からの友人だ。その彼が危険な事に巻き込まれてるとなると、心配で仕方ない。
「いや、そうじゃない。正確に言うと探しているのは違うんだが‥‥」
「どういうことだ？」
トレーゼが繰り返し尋ねるが、肝心な点は濁すばかり。
「けど、ガラハッドがこの森にいる事は確かなんだ。なんでも父親の手掛りを探して森へ入ったみたいだが、ここには最近」
「身なりのいい山賊が出る、という事か」
「ああ」
そこまでの説明で、タイタスは勿論ユーシスもハッとなった。
以前依頼で一緒になったとき、彼はラーンス派を悉く目の敵にしていた。もし彼が、その『山賊』達と遭遇してしまえば、結果は火を見るより明らかだ。
「ガラハッド‥‥」
タイタスの口から思わず零れた彼の名。
「とにかく今は詳しく言えない。だが、なんとかガラハッドの方も探して欲しいんだ」
きっとそれが彼の偽らざる本音。
本当に探すべき対象は別。あくまで王命の隠れ蓑としての少年の捜索。
だが、ヒューイットからすればガラハッドの行方こそ真に知りたいのだろう。それが理解出来たからこそ、冒険者達は改めて捜索の意志を決めた。
それは、ラーイに連れ戻されたシアも同様で。
「だから最初から言ってるであろう。僕が引き受けたのは少年の捜索だ」
むしろ彼からすれば、今更確認する意味がどこにあるのかといったところだろう。
●真相と建前
翌日。
前日に見つけた人の痕跡は追うごとに段々とはっきりとしてきており、冒険者達は注意深く歩みを進めた。
そして、ようやくガブリエルの魔法が人と思しき振動を感知する。
「いたよっ！ でも‥‥一つじゃなくて、二つ？」
その情報を聞き、咄嗟に彼らは駆け出した。
やがて聞こえてきたのは――。
「――あんたなんか、騎士じゃない！」
少年の怒声。
木々を抜け、彼らの目に飛び込んできたのは、今にも突っかかろうとしている少年と苦渋の表情を浮かべた青年騎士。
少年が腰の剣に手をかけようとした瞬間。
「駄目ぇ――っ！」
咄嗟に飛び出したシスティーナが、少年の体を後ろからギュッと抱きついて抜刀を止める。ほぼ同時に残りの冒険者達も駆けつけ、少年と騎士――ラーンス･ロットの間に割り入った。
突然の来訪者に、だがラーンスは驚きもしない。おそらく近づく気配を察していたのだろう。
「お、お前らいったい」
「駄目だよ、ガラハッド君。一人で危ないことしちゃ」
「そうそう。厄介ごとならいつでも力貸すって言ってたよね？」
「ちょ、ちょっとなんだよ。システィーナ、ユーシス、放せって。オレはそいつに――」
足掻く少年を、問答無用とばかりに二人がずるずると物陰の方へ引っ張っていく。
その様子を横目で見ながら、ヒューイットはラーンス卿を前に僅かばかり息を飲んだ。
「ラ、ラーンス卿‥‥」
が、彼は何も言わずその場を去ろうと踵を返す。
だからだろうか。相手のそんな態度に腹が立ち、シアはその背に向かって憮然と言い放った。
「もっと自由になったらどうだ」
進みかけた足が止まる。
「回りを見ろ。この広い森の中、おまえなんてちっぽけな存在だ。英雄と呼ばれても、ただの一人の人間だ。何を気にし、何に縛られている？ ‥‥とてもつまらなくて、かわいそうだな」
彼の毒舌に、思わず苦笑を洩らすラーイ。
何も言い返さないラーンスに対し、彼もまた一言付け加えた。
「騎士として難しい立場にあるのは解るが、騎士の本分は守る事だ。今のあなたは、何を守っていると言えるのだ？」
が、結局彼は何も答えることなく、素早く森の中へ姿を消した。
「逃げるな――ッ！」
叫ぶガラハッド。
ある意味、その言葉が冒険者全員の思いを代弁していたかもしれない。
「‥‥一先ず依頼は終了か？」
トレーゼの呟きにヒューイットがああ、と返した。
あくまでも依頼は『少年』の捜索だ。そして、『少年』を発見した以上、これ以上冒険者達を拘束しておく事は出来ない。仮に冒険者が望んだとしても、だ。
「なんだかすっきりしないものがありますが」
ぼやく修の呟きが耳に入り――当然言葉は解らなかったが――タイタスもまた、ぽつりと呟きを洩らした。
「いったいこの国の流れはどこへと‥‥」
見えない奔流はどこへ向かおうとするのか。
それはまだ誰にも見えない――。
