オールド・ファッション・ラブソング
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 94 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月13日〜03月19日
リプレイ公開日:2007年03月21日
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●オープニング
男は、神に仕える身として常に誠実であろうと心掛けた。
そして、騎士としての実力を兼ね備えた男は、人々の役に立とうと冒険者となった。
数多の依頼をこなし、時には失敗を繰り返し、それでも男はただただ真摯に生きようと試み、それは長じるに従って男の名声へと変わる。
されど男は驕ることなく、懸命に己の人生を駆け抜けた。
やがて――男の髪には、うっすらと白いものが混じり始め、力にも衰えが見えだした。
勿論、それで男の実力が他の冒険者に比べて、劣っているわけではない。それまで男が歩んできた経験で補う事で、男は常に最善を尽くしてきた。
が、人づてにある噂を耳にした時、男は冒険者としての引退を決意した。
その噂を聞いた瞬間、男は長い人生の中で唯一つ、深い後悔を胸に刻んだ過去を思い出す。無謀だった自分、世を知らなかった愚かな自分、そして、救えなかった最愛の女性‥‥そのまま、二度と帰る事のなかった村。
だからこそその最後の冒険を、男は最初で最後の依頼人という形でギルドの扉を開いたのだった――。
「珍しいですね。貴方が依頼人となるなんて」
顔見知りの受付に言われ、初老の男は思わず苦笑を浮かべた。
確かに依頼を受けにギルドへ訪れていたが、依頼を出す立場となったのはこれが初めてだった。そして、きっと最後になるだろう、そう男は胸中で呟く。
「バンシーが現れるという噂がある土地は、私の故郷でもありますから。やはり放っておく訳にはいきませんからね」
「え? でも確かあの村はとっくに‥‥」
言いかけて、受付は失言とばかりに顔を顰めた。
彼が言いたい事を察した男は、いいんですよ、と笑みを浮かべる。
「もう随分昔の話です。噂を聞くまで、私自身すっかり忘れていましたから」
呟き、男は視線を天井へ向ける。まるでどこか遠くを眺めるかのように。
その笑顔は淋しげで、受付はかける言葉をなくす。何か、胸の内に秘めたものが男にある事を、長年ギルドで依頼を受けてきた彼は経験で察した。
が、それ以上追求はしない。
言いたくない事を無理に聞き出さない。それが鉄則だからだ。
「それでは報酬はこの額でよろしいですか?」
「ええ、構いません。仮にも相手はバンシーです。くれぐれも冒険者の皆さんには注意するようお願いします。決して同情することなく、手を抜くことのないように」
それだけ言い置いて、男はその場を去ろうとした。
受付の机の上には、報酬の入った袋がどさりと乗っている。
「え、これは別に後でも」
「預かっておいて下さい。もし、私に万が一のことがあった場合にでも――」
そして男は、にこりと笑みを浮かべてギルドを後にした。
残されたのは報酬の袋、依頼を記した羊皮紙、そして――云い得ぬ不安‥‥。
●リプレイ本文
●出立の前に
「なるほど‥‥そのような事があったのですね」
溜息とともに、柊静夜(eb8942)は小さく呟いた。
見せられたギルドの古い報告書。さすがに当時の人間は残っていなかったが、件の村での事件はまだ僅かではあるが残っていた。
そこに記されていたのは、モンスターに村が襲われた事で殆どの村人が亡くなったこと、僅かに残った村人は村から離れ、その結果廃村となってそれ以来誰も立ち寄らなくなった、といった事務的な報告だけだった。
「こちらも少し話を聞くことが出来ましたよ」
顔を上げた静夜の前に、酒場での情報収集を終えて戻ってきたブリード・クロス(eb7358)が立っている。隣には、同じように聞き込みへ出掛けたグラン・ルフェ(eb6596)の姿もあった。
どちらも僅かな苦笑を浮かべているところを見ると、あまり成果は芳しくなかったのだろう。
「やはりもう何十年も前の出来事ですからね。その事件を知っている人は殆どいませんでした」
ブリードが指差したのは、広げられた報告書。知り合いにも頼んで情報収集してみたが、大した事を得られなかったことに肩を竦めた。
でも、とグランが言葉を続ける。
「バンシー達に関しては、ある程度わかりました。実際、酒場の方でも結構な噂になってるみたいです」
目撃証言はそれほど多くなかったが、聞いた噂を総合すると、出現するのはやはり夜のようだ。正確な数まではわからず、また場所もかなり広範囲らしい。
「そうですか」
「村の構造は、依頼人から直接聞くしかないだろうね」
「‥‥訳ありのご様子でしたから、深く立ち入るのもあれですが」
言葉を濁すブリードだったが、モンスター退治の為にはそうも言っていられないだろう。
一瞬訪れた重苦しい沈黙。それを打破するようにグランがもう一つの報告を始めた。
「それと、バンシーの性質について少し調べてみました。未練を持ったまま亡くなった女性の魂、という事なんですが、ただ村が亡くなってから随分経ってますよね。そうなると、今度現れたというバンシーは村の人じゃないと思うんですよ」
「――その通りです」
不意に会話に飛び込んできたのは、教会に仕える神聖騎士のタイタス・アローン(ea2220)。彼もまた、依頼人や廃村について何か記録がないか調べていた。
そうして探した古い記録の中に、彼は依頼人の名前と当時の事件の記載を見つけたのだ。
「どうやら依頼人は、その時に僅かに生き残った一人です。そして、村を襲ったとされるモンスターは今回と同じバンシーだったようです」
「え?」
「更に付け加えるなら‥‥この当時、そのバンシーは結局退治出来なかったらしいですね――」
●前夜
村まであと半日、といった場所で冒険者達は野営をすることにした。
村の構造は、依頼人より聞きだしてある程度は理解した。後は村へ入る前にしっかりと準備をする事だった。もっとも長い年月が経過してるためどれだけ変わっているか解らないが、と一言注釈があったが。
「隣、よろしいですか?」
「私も失礼する」
夜営の不寝番に立つシルヴィア・クロスロード(eb3671)が、じっと焚き火の炎を見ていた依頼人の隣に座る。同じくメアリー・ペドリング(eb3630)も飛んできて、そっと肩に降り立った。
一瞬怪訝な顔を浮かべたものの、すぐに男の表情は笑みに変わった。
「構いませんよ。どうなさいました?」
男の笑みはあくまでも穏やかで。
おそらく普段の時であれば見逃したであろう。
が、今の彼の様子は、二人にとってどこか胸騒ぎを起こすものにしか見えなかった。
「どういう村だったのか、改めて聞いておきたいと思ったものでな」
メアリーの問いかけに、男はぽつりぽつりと語り出した。
村で過ごした若き日々。まだその頃は色々な無茶もした。絶えなかった笑い声。心配する友や、優しく見守る家族。そして――。
「その時のお話、聞かせていただけませんか?」
言葉に詰まった男に、シルヴィアが改めて問う。何か言いかけたメアリーを視線で制し、男に向き直ると静かに双眸を見つめた。
「バンシーが出ました、倒しました‥‥そんな形式的な報告に、私はしたくないのです。どれだけ悲しくても、どれほど苦しくても、私は決して忘れたくない」
胸に刻んで、次の悲劇を防いでいきたい。
そんな想いを吐露するシルヴィアに、男はようやく重い口を開いた。
「‥‥私は、勝てると信じていました。襲ってくるバンシーに対し、その時も大丈夫だろうと。それがどれほど傲慢な考えだったか、若かった頃の私は、まるで気付いていなかったのですよ」
口元に浮かぶのは、ただ穏やかな笑み。
村が滅んだ責任は自分にある、そう男は言葉を結び、再び唇を閉ざす。
シルヴィアとメアリーが互いに顔を見合わせる。パチッと焚き火の枝が飛んだ。
それっきり会話は途切れ、やがて夜は深まっていく。
●嘆きの女
「いましたね」
乱雪華(eb5818)の発した声に、全員が素早く戦闘体制を取った。
既に周囲一帯は、クァイ・エーフォメンス(eb7692)が使用した結界の中だ。その間に、と雪華はオーラパワーを前衛に立つ者達に施していく。
「一先ず、神聖騎士として邪悪なるものを許すわけにはいきません」
タイタスが素早く男の前に立ち、彼を警護する立場を取った。一瞬何か言いかけたが、すぐに男は口を閉ざす。
その間にシルヴィアが飛び出して、立ち塞がるズゥンビに向かって剣を振り下ろした。
「邪魔です!」
動きの鈍くなった相手を、剣に秘めた威力も手伝って彼女は易々と切り捨てる。
最優先すべきはその向こうにいるバンシー――彼女の能力は知っている。それがどれ程危険な代物かを。
だからこそ、冒険者達はまず彼女を狙った。
「いくよ!」
クァイの手から放たれた矢は、神の祝福を纏って一直線にバンシーへ向かう。
「これ以上、アンデッドの犠牲者なんて出したくないんだよね」
「ええ、そうですね」
静夜の一閃が、迫ってきたズゥンビの首を刎ねる。とにかく前へ、と進む彼女だったが、死の咆哮の脅威を知るだけに近付く事に躊躇いがあった。
当然それは、自らの動きにも現れてしまい、一瞬の隙が出来る。
「危ない!」
気付いたメアリーが、グラビティーキャノンで近付くズゥンビを転倒させた。気付いた静夜と目が合うと、軽く頷き返す。
「急げ」
「ありがとうございます」
迷いを吹っ切って接近する静夜。
彼女に追いすがるように放たれたグランの矢は、やがて追い抜き、バンシーへの一撃と変わる。泣き叫ぶかのように歪む表情。追い打ちをかける静夜の一閃。
だが、まだ倒れない。
混迷する戦闘は、現れるズゥンビの数も手伝って次第に消耗戦となる。
「く‥‥まだでしょうか」
ブリードの少し焦る声。普段、どんな状況でも落ち着き払っている彼ですら、さすがに長引く戦闘に僅かな苛立ちが見え隠れしている。
結界の切れた後、雪華は『長弦の弓』を一気にかき鳴らした。
音に反応してバンシーやズゥンビの動きが目に見えて遅くなる。
「今です、早く!」
声に促されるようにシルヴィアが一気に間合いを詰めた。当然、相手もその動きに気付く。
が、バンシーが魔法を放つより早く、彼女の剣が振り下ろされた。声のない悲鳴が、その表情を苦悶に歪めていく。
倒した、とシルヴィアが思った瞬間、誰よりも早く男の声が上がった。
「すぐに離れなさい!」
その意図を、彼女は考えるよりも早く本能で察知した。他の冒険者も同様で、急ぎ間合いを取ろうと後退する。
だが、その中にあって男だけは何故かバンシーへと近付こうとしていたのだ。
「お待ち下さい!」
タイタスが気付き、ハッと腕を取る。
「ちょっ、何をしているんですか。あなたが死んで何になるのです!」
ブリードもまた冷静に男の手を掴み、踏みとどまらせようとした。その間にもズゥンビは近付いてきている。そして、バンシーも‥‥。
「だが、私は‥‥ッ!」
言いかけた言葉の続きを男は言えなかった。
シルヴィアの拳が男の頬を叩いていたからだ。誰もが目を瞠る中、彼女の怒声だけが響き渡る。
「ふざけないで下さい! あなたがここで死んで何になるのです!」
目の前のバンシーは、かつて村を滅ぼした敵。男の最愛の人を奪った敵。
その懺悔の意味があるのだとしたら。
「死んでしまった人たちの為にも、あなたは生き続けるべきなのです!」
それは、この場にいる冒険者全ての思い。
だからこそ。
「貴方には、この村のことを後世に語り継ぐ義務が残っています」
添える手で男の手を握り締め、雪華は静かに紡いだ。男の心を少しでも前へ向かせるために。
「みんな早く!」
矢を放とうとするクァイが叫ぶ。手持ちの矢はこれで最後だ。
彼女の声に再び後退を始めた仲間達を確認し、狙いを定めて最後の矢を放った。
突き進む矢。
逃げる冒険者。
そして、バンシーの放つ咆哮と矢が届いたのは、ほぼ同時だった――。
●故郷
「これで最後だね」
動かなくなった遺体を、グランが丁寧に埋葬する。その横で静夜が静かに手を合わせた。
「この方達は‥‥きっとずっとこの村で待っていたのでしょうね‥‥」
何を、と彼女は言わない。それは、依頼人が解っていればいいことだから。
「どうか安らかに眠れることを」
祈るブリードの言葉は、そよぐ風に優しく溶け込んでいく。
――アンデッド達は一掃された。
思いの外消耗戦を強いられた冒険者達は、負傷や疲労になりながらも動けない程ではなかったため、短い時間ではあるが村の弔いに務めた。
そして、依頼人の男は今、一つの墓地の前で静かに佇んでいる。
「これでよかったのでしょうか?」
離れた場所で眺めるタイタスの呟きに、メアリーは小さく肩を竦めた。
「それは私達が決めることではないな。私に出来る事は、このような思いをする人を少しでも減らすべく、しっかりと努力していきたい」
「ええ、そうですね。苦しみから解き放たれ、新たな一歩を踏み出せるように‥‥」
遠く聞こえるクァイの歌声に耳を傾けながら、シルヴィア達冒険者はまっすぐ男の背中を見つめる。
明ける朝の光に雪華は目を細めつつ。
いつまでも‥‥いつまでも‥‥。