【陽動鎮圧】誰がための剣――黎明
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 70 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:03月30日〜04月02日
リプレイ公開日:2007年04月07日
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●オープニング
●激戦
――すべては最初から謀られていたものであったのか‥‥。
真実はどちらか分からぬが、この戦い、国王として一歩も引く訳にはいかぬ――――。
「‥‥全軍進軍せよ! デビルの軍勢に、この王国の底力を思い知らせてやるのだ!」
陽光にエクスカリバーを照り返らせ、掲げた剣と共にアーサー軍が迎撃へ向かってゆく。
各隊の円卓の騎士と冒険者達が打ち破るは、凶悪なデビルと醜悪なモンスターの軍勢だ。
次々と異形の群れを沈黙させてゆく中、マレアガンス城から駆けつけた軍勢と対峙する。
アーサーは不敵な笑みを浮かべた。
「よいか、小競り合いを続け、グィネヴィア救出までの時間を稼ぐのだ」
そう、アーサー軍の攻防は陽動だったのである。
マレアガンス城から敵軍を誘き寄せ、手薄になった所を冒険者達で城内戦を繰り広げ、王妃グィネヴィアを救い出す。
円卓の騎士トリスタンがこの攻防に参戦していなかったのは、少数精鋭による偵察を担っていた為だ。先の王妃捜索時と同様にシフールを飛ばし、様々な情報を送り届けていたのである。
――この時、既に戦線を離脱した者達がいた。
マレアガンス城攻略に志願した冒険者達だ。共に深い森を円卓の騎士と王宮騎士達が駆け抜けてゆく。
王妃救出を果たす為に――――。
――マレアガンスの城が目視できる距離まで近付くと、一斉に息を殺した。
城周辺には未だ少数の兵が待機していたのである。最後の砦を担う精鋭か否かは判別できないが、騎士の姿や弓を得物とする兵も確認できた。軽装の出で立ちは魔法を行使する者だろうか。更には醜悪なモンスターも混じっている始末だ。
トリスタンに偵察を任されていたシフールが、顔色を曇らせながら伝える。
「見ての通り、未だ簡単には近付けません。‥‥ですが、城に入れそうな扉を幾つか確認しました」
情報は限られているものの、扉の場所は何とか把握できそうだ。城の規模から判断するに、各班が連携できる程それぞれの扉が近い訳でもない。
冒険者達は『城周辺陽動鎮圧班』と『マレアガンス城突入班』に分かれる事となる‥‥。
●真偽
――一体、どこから間違っていたのか?
何が本当で、何が偽りだったのか?
流された噂。貶められた威厳。伝わる風聞は、垣間見える事実と相まって目晦ましのように真実を覆い隠していく。
その度に裏切られた思いを抱え、失意とともに憎むようになった。
それは、騎士としてはあるまじき感情。
結局オレも、最初から嵌められていたってことか‥‥。
自嘲に唇が歪む。
「‥‥ガラハッド」
呼ばれた声に振り向けば、そこにはかつて騎士学校の先輩で今は王宮騎士となったヒューイット・エヴィン先輩の姿がある。
どこか心配そうな眼差しを向ける彼に、オレは思わず舌打ちした。
なんだよ、今のオレってそんなにヤバく見えるのか。
ちぇっ、こんなんじゃ世界最高の騎士なんてまだまだ先だな。やっぱり、もっと広い心と冷静な目を持たないと、到底アイツなんかにも勝てないって事なのか。
軽く溜息をつき、もう一度ヒューイット先輩の方を見た。まだ何か言いたげな表情に向かって、オレは真顔のままで返した。
「先輩、大丈夫だよ。‥‥大丈夫、今オレに出来る事は解ってるから」
求める答え。出口のない思い。
グルグルと渦巻くそんな感情を、オレは今すぐぶつけてやりたい。
だが、それは『今』ではない。そのぐらいのケジメ、オレにだってちゃんとあるんだ。
視線を向けた先に見えるのは、数名の騎士達。もちろんそれだけじゃなく、ご大層にもモンスターまで連れ立ってるって事は、連中もただの人間じゃないって事か。
「とにかくあの連中の気を城からこっちへ引き付ける役がいるんだろ?」
「ああ、そうだ。伝令シフールの話では、この先、城の西側に中へ入れる扉があるらしい。もっともかなり錆びれてて殆ど使用された形跡はなかったみたいだが」
「なら‥‥オレが連中を引き付けてやる」
その言葉に、先輩はハッと目を瞠った。
「ガラ」
「心配すんなって、先輩。別にオレ一人なワケじゃない。仲間だっているんだしさ」
遮った言葉に構わず、オレは同じ場所に潜む冒険者達を見渡した。
そうさ、オレは一人じゃない。いつだって、一人じゃなかったんだ。
「それに――」
「それに?」
「いや、なんでもない」
咄嗟に言葉を濁してオレは誤魔化した。
別に黙ってたつもりもないんだけどさ、言うととまた余計な心配するだろ。あいつも加勢に来るとか言ってた、なんてさ。
折角のチャンスなんだ。
あいつの真意、少しでも垣間見たいんだよ‥‥オレ自身の目と耳で。
「それよりオレの心配ばかりしないで、先輩の方こそ気をつけろよ。大体城の内部は何もわかっちゃいないんだ。いくら使ってなさそうな入り口だからって、手薄って事はないだろ?」
「‥‥まあ、そうだな。向こうの勢力が不明な以上、不用意に駆け回る事も危険だろう。だからこその――一斉突入計画だ」
そのための鍵がオレらの陽動と引き付けって事だ。
「任せとけ。あっという間に鎮圧してやるさ、連中が伝令なんか飛ばす隙もないぐらいにな」
「そうか。なら、頼んだぞ」
「ああ」
へへ、先輩やっと笑ってくれたな。大丈夫、もう心配なんかかけないさ。
オレは頷き、仲間――冒険者達を振り返った。
――さあ、後はオレらの出番だぜ。
●リプレイ本文
●鬨の声
「――みんな、準備はいいか?」
ガラハッドの声に、集まった冒険者達は誰もが真剣な表情で頷いた。
逸る気持ちを抑え、エルザ・ヴァリアント(ea8189)は胸の辺りに持ってきた拳を強く握る。沢山のヒトが戦い、傷つき、そして帰らぬヒトとなった。
そして、戦いはまだこれからも続くだろうけれど――それでも。
「今ここで勝利という名の区切りをつけることは、価値あることよね」
「ああ。だからこそ突入隊の為になんとしてもこの場を鎮圧するぞ! そうですよね、ガラハッド様」
「様はよせって。オレはお前達と同じで、この国の為に何かしなきゃって思う仲間だ」
名剣を手に掲げ、あくまでにクールに語るセイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)。そんな彼の呼び名に思わず苦笑するガラハッド。
その様子を少し下がった場所から見守るマクシミリアン・リーマス(eb0311)は、何故かホッとした気持ちになる。以前見た時の彼と違い、今はとても良い目をしていたから。
(「僕も負けていられないです」)
知り合いに研いでもらったティールの剣の柄を握り締めるマクシミリアン。その思いに報いるためにも、今回の作戦は必ず成功させなくては。
そんな仲間の気負いは、当然他の者達にも伝染する。
無論、いい意味での緊張感がタイタス・アローン(ea2220)の表情を引き締める。
「ええ、ガラハッド。共に戦いましょう」
これで何度目の邂逅か。あるいは運命なのだろうか。
同じ戦場に立つことに意味を求めるタイタス。それは時に勇猛なる決意を彼に抱かせた。
「それにしても、デビルと行動を共にする人間というのは、いったい何を考えているんでしょうか?」
乱雪華(eb5818)の見つめる先には、騎士と思しき人間が一人。彼は他の騎士と違い、明らかに他のデビル達を従えているような雰囲気さえ見える。
が、その疑問を吟味する時間は、今はない。
早急の鎮圧が彼らの手にかかっているのだ。
「もっともこの戦いが終わっても、どうやらそうもいかなさそうだがな」
気配を殺し、ひっそりと立つ陰守森写歩朗(eb7208)。一分の敵も逃がさぬよう、彼は注意深く敵の動きを見張る。
「とにかく目立ちゃあいいんじゃろ? ひたすら目の前の敵を倒していけば、否が応でも目立つ!」
「所詮やることは普段とかわらん。ただひたすら敵を叩き潰す、それだけだ」
思い切り腕を振り上げるオルロック・サンズヒート(eb2020)。その元気のよさは、到底200近い年齢とは思えない。
また、彼の科白に追記するようソル・アレニオス(eb7575)の言葉が淡々と続く。
そして。
「では――出陣する!」
セイクリッドの掛け声を合図に、冒険者達は一斉に飛び出していった。
●闘争
こちらに気付いた敵の反応は素早かった。
一気に躍り出て先陣を切ったタイタスの太刀筋を見切り、あっという間に後退するリーダーと思しき騎士。なおも追いかけようとした矢先、両者の間に立ち塞がったのはいつの間にか現れたグレムリン達。
「くっ!」
「下がれ!」
デビル相手に通常武器は効かない。その意味も込めたセイクリッドの指示が飛ぶ。
更に彼はエルザに視線を向ける。
その意図を諒解した彼女は、タリスマンを手に祈りを捧げた。見る間に聖なる結界が張られ、襲いかかろうとしたデビル達の動きを鈍らせる。
そのタイミングを見計らったように、ソルの持つ黄金の槍が中央を穿つ。身軽な盾で敵の攻撃を流しつつ、彼は果敢にもデビルの群れに飛び込んでいく。
「デビルだろうがアンデッドだろうが関係ない。無論、人間相手であろうとも、な」
敵意あるものは全て叩き伏せる。
そんな気迫を受け、オルロックも全身を炎に包んで空を飛ぶデビルへ迫った。当然身を翻して逃げようとするが、彼の動きの比ではなく。
「逃がさん!」
敢え無く追撃される形となる。
「‥‥なるほど、なかなかやるもんだな」
その時、奥へ退いた騎士が初めて言葉を洩らした。ハッと全員の動きが止まる。
彼を守るように控えるデビル。そして虚ろな眼差しの騎士が数人。
件の騎士を改めて見ると、明らかに異質な気を放っているように雪華には見えた。普通の人間ではない。だが、それ以上なんなのかまでは彼女には分からない。
かき鳴らしていた長弓を一旦止める。
「あなたは、一体‥‥」
「あの方の仰ったとおりだ。たかが人間と侮っていたが、なかなかしぶとい」
「何を! あなただって私達と同じ人間では――」
「いや、違う!」
雪華の言葉を遮るように森写歩朗が叫ぶ。スモールアイアンゴーレムに預けておいた中から取り出した写本の一つ。詳細までは解らない。それは可能性の一つでしかない。
だが、今自分達の目の前にいるのは、紛れもなく同じ人間ではない。
「よもや‥‥デビルに魂を売った者がいるのか‥‥ッ!」
森写歩朗の言葉に誰もが耳を疑った。
それは、敵が浮かべた笑みで確信になる。ヒトというにはあまりにも残忍な笑み。
その瞬間、冒険者達の間に張り詰めていた何かが切れた。
「お前!!」
吼えるガラハッド。
この男だけは――騎士としての誇りも、人としての尊厳も、全てを捨てた目の前の敵だけはこの場で倒さなければならない。
それは、自分が自分である事に対する矜持だったのかもしれない。
「いくわよ! ――火霊よ、その尊き御魂の片鱗を我が前に示せ!」
エルザの詠唱が終わると同時に、派手な爆発が周辺一帯を吹き飛ばした。続くオルロックの放った火球も、同様の場所で爆発した。
逃げ惑うデビル達。
が、包囲するようにソルとタイタスがその退路を防ぐ。
「逃がすわけにはいかんな」
「当然です!」
黄金の槍が、エルザの与えた炎を宿した剣が、一陣の風を描いてデビル達を切り捨てた。
乱戦の体を為す中、後衛の守りを務めていたマクシミリアンの脳裏を過ぎったのは。
(「‥‥そういえばラーンス卿は来るのでしょうか?」)
剣を振るうガラハッドが視界に入り、思わずそんなことを考えてしまった。戦争時、敵方にいたのは偽者だった。ならば本物は、きっと身の証を立てようと思っている筈。
「‥‥えっ!」
視界の端に映ったのは、見目麗しき円卓の最高の騎士。
「ラーンス卿!」
思わず声を上げたマクシミリアン。それにラーンス、そしてガラハッドも動きを止める。それは時間にしてほんの僅か。互いに背中を向けたまま、どちらも何も語らない。
だが、その隙を敵が見逃すはずがない。
そんな迫り来る凶刃を、代わりにマクシミリアンが薙ぎ払う。そこでようやくガラハッドが気を取り直す。
「悪ぃ、助かった」
「‥‥いいのですか?」
思わず問うた科白に、彼はああ、と一言返す。
「今のオレは、騎士として与えられた事をやるだけだ」
その言葉に、ラーンスは背中を向けたまま肩の力を抜いた。おそらく笑みでも浮かべているのかもしれない。
そのまま彼は振り返ることなく城のほうへと向かう。彼の歩みを止めようとしたデビルもいたが、悉く討ち払われていた。
「オレらもいこうぜ」
「そうですね」
すでに陽動の役目は果たしている。
残るはこの場に集った連中の殲滅。例えかつてはヒトであった者が相手でも、手を抜く訳にはいかない。
「さあてここからが本番だ。気合入れていくぞ!」
セイクリッドが鼓舞するように声を張り上げた。
戦いは、いよいよ苛烈さを増していく―――――。
●決着
倒されたデビルの死体は、瞬く間に霧散する。あれほど地面を埋め尽くしていたデビル達の姿は既になく、ただ操られた騎士達とモンスターの屍が今度は地面を埋め尽くす形となった。
そして、今や立っている敵はただ一人。
「これで――最後だ!」
「ひゃっほう!」
セイクリッドの放った黒い光。そして、タイタスの放つ白い光。
二つの聖なる力に対して、悪しき者――デビルは決して抵抗出来ない。もはや防ぐ事も避ける事も叶わぬまでに消耗させられた悪しき騎士はただその時を待った。
ふと、視線がガラハッドと合う。
ニヤリと浮かぶ笑み。
「愚かだな」
「なに?」
「何も知らぬのだな。お前の父親は――――」
続く言葉は誰にも届かず、最後の敵は絶命した。追い縋ろうとするも、その遺体はあっという間に霧散していった。或いはその言いかけの言葉こそが、デビルの最期の悪足掻きだったのだろう。
「‥‥終わりました?」
息をつく雪華。見渡せば、仲間もまた満身創痍という状態だ。それでも、自分達はまだ自力で立ち上がる事が出来る。
「これで少しでも時間が稼げればいいが」
森写歩朗は、後衛の守りにいたスモールアイアンゴーレムを労いながら、いまだ緊張の解けぬ顔で周囲を注視する。
その時、何の前触れもなく城が大きく揺れた。
「なっ?!」
思わず目を見開くソル。急いで身構える中、彼らの目の前で城は急激に崩れ落ちていった。
立ち込める土煙が冒険者達の視界を覆う。
「み、みんなは!? みんなは無事?」
「駄目だ、また近付くな!」
慌てて駆け寄ろうとしたエルザをオルロックが食い止める。
この場の敵は倒したとはいえ、城にだってまだ残っていた筈だ。突入班が全てを倒したのなら話は別だが、その確たる証拠もない。
それは他の冒険者達も同様で、まだ緊張を解くつもりはない。
やがて――土煙の向こうに城へ突入した仲間達の姿を見つけた。
「よかった、無事だったんですね」
ホッとするマクシミリアンだが、ふと彼の姿が見えないことに気付く。それはガラハッドも同様で、だから思わず顔見知りの少女へと詰め寄った。
「お、おい! アイツはどこいったんだ?」
「え? あ、あのね、ラーンス卿は‥‥」
何が起きたかを伝える少女に、ガラハッドは握る拳の力をどんどん強くする。それを見てとったマクシミリアンが慌てて止めようとするが、既に遅く。
「ガラハッドくん」
「ふざけんな!!」
大きな声に全員の視線が集まる。それを気にせず、少年は視線を空へ投げた。
そして。
「最高の騎士だってんなら‥‥逃げんじゃねぇぇぇ―――っ!!」
静寂を取り戻した森の中、絶叫がいつまでもいつまでも響き渡る―――――。