戦う理由

■ショートシナリオ


担当:葉月十一

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月25日〜09月01日

リプレイ公開日:2004年09月07日

●オープニング

 少年は、一人で戦うことを由としてきた。
 徒党を組むことを嫌い、常に一人前線へと赴く‥‥依頼を受ける際も、必ずといっていいほど一人きりで。どれだけ危険を秘めた内容であっても、その主張を頑として譲ろうとはしなかった。
 たとえそれが、すでに引退をした先輩冒険者の言であっても−−少年を心配するあまりの忠告であっても、だ。

「‥‥だから、少しは協力というものをだな」
「この程度、オレ一人で平気だ」
「あ、おいフェイ! 待てって」
 受付の男から無造作に依頼書を奪い取ると、伸びてくる手を素っ気無く振り払い、少年は足早にその場を後にした。
 遠くなる後ろ姿に、はぁぁと呆れたような溜め息をつくと、そのまま受付の椅子にドカッと腰を下ろした。
 その時点で、彼はようやく自分を注目する冒険者達の視線に気付く。不意に顔を上げ、ハタと目の合った彼を見て、男は名案とばかりに顔を綻ばせて一枚の依頼書を見せた。
「ちょうどいいトコロに来たな。ちぃとばかし、頼みたいことがあるんだがいいか?」
 いいか、と聞きながら、男は断られることなど考えてもいない。有無を言わさず肩を掴まれ、切り出されたのはとある森での小鬼退治。
 キャメロットから北へ向かう街道には、いくつかの森を抜けなければならない。だが、最近になってそのうちの一つにゴブリン達が大量に住み着き、旅人達の邪魔をしているという。
「まあ大量とはいえ、今のお前さんらのレベルなら難なく片付くだろう。気を抜かなければな」
 そこまで聞く限りは、普通の依頼に思えた。
 が、男の話はそこで終わらなかった。
「今出て行ったフェイって少年だがな、その依頼に一人で行くといって聞かなくてな。身軽なヤツのことだから、当然もう出ちまった後だろうが、今から追えばなんとか森の手前までには追いつく筈だ」
 いくら少年が腕に自信があるとはいえ、多人数を相手に一人立ち向かうのは無謀過ぎる。だが、男の立場−−ベテランの冒険者だった彼の言葉は、少年をよけい頑なにさせるだけだった。
「まだ成り立てのお前さんらなら、なんとか説得出来ると思ってな。ゴブリン退治のついでで構わねえから、あいつに協力するってことの大切さを教えてやっちゃあくれねえか」
 礼は弾むぜ、俺のポケットマネーからな。
 そう言って男は、冒険者達に依頼書を手渡した。

●今回の参加者

 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2182 レイン・シルフィス(22歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea2939 アルノール・フォルモードレ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3389 トーマス・ドゥーリトル(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4287 ユーリアス・ウィルド(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea6140 八田 光一郎(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●戦いの火蓋
 ギルドの親父に頼まれた冒険者達は、急ぎ少年の後を追った。さすがに一人という身軽さ故か、準備に手間取る彼らよりも半日早く出立していたのだ。
「それにしても、どうして頑なに一人を貫こうとするのでしょうか‥‥。何事も気持ちを分かち合える仲間がいるから楽しいのに」
 道中、ユーリアス・ウィルド(ea4287)はそうポツリと洩らした。
 それは、今いる冒険者達全員の意見でもある。
 少年の過去に何があったのかは知る由もない。あるいは、依頼してきた親父ならば知っていたかもしれないが。
「ともかく放っておくと死んでしまいそうですし、見過ごすわけには行きませんね」
 クレリックであるアリッサ・クーパー(ea5810)が静かに告げると、トーマス・ドゥーリトル(ea3389)が振り向きざま笑顔で応える。
「なんとかわかってもらいたいです」
 仲間の大切さ。
 それを教える為に何が出来るのかを、彼は真剣に考えていた。
「『All For One、One For All』ですよね、やっぱり」
 思わず呟いた言葉に、誰もが無言で頷く。協力する事で得られるかけがえのない仲間。フェイにその事が少しでも伝わればいい、とトーマスは願った。
「――そろそろ森が見えてきたよ!」
 先頭を行くディーネ・ノート(ea1542)が声を発する。その声につられて向けた視線の先に広がる広大な森。
 その場所へ、今にも足を踏み入れようとしていた少年の姿が目に入った。
「いた!」
 誰が声を上げたのか。
 驚いて振り向く少年の元へ、彼らは急いで集まった。
「な、なんだお前ら?」
「キミと同じ依頼を受けたんだよ。どうせなら一緒に戦いません?」
 一見すると女と見間違う容姿をしたカシム・ヴォルフィード(ea0424)が協力を申し出る。
 が。
「女と一緒に戦えるか」
 どれだけ男っぽく振る舞ったところで、やはりフェイの目には女性に見えたようだ。少年と言えど男の矜持からかあっさりと断られる。
 勘違いされることに慣れているカシムは、特別嫌そうな顔は見せず平然としていた。
「‥‥男だよ、僕は」
 さすがに内心の腹立たしさからか、ポツリと零れた声はどこかぶっきらぼうで。
 そのまま森へ入ろうとするのを、レイン・シルフィス(ea2182)が慌てて押し留めた。
「お願いします。今回の仲間内では前線で戦える者が少ないのです。どうか僕たちと共に戦って下さいませんか?」
 竪琴を携える彼。バードという職業を考えれば当然なのだが、強さこそが全てのフェイにとって、レインの格好はあまり気に入らなかったようだ。
 軽く一瞥をした後、強引に腕を払う。
「あ、待って下さい」
「チャラチャラした連中とつるんでられるか!」
「‥‥待てよ」
 それまで黙っていた八田光一郎(ea6140)は、痺れを切らしてフェイの肩を掴む。今回集まった冒険者の中で彼だけが唯一の剣士――ジャパン国の侍――であるので、フェイの気持ちも多少は理解出来る。
 だからこそ、仲間と協力する事の大切さをも、彼には分かって欲しいと思っていた。
「一人で戦って、それで英雄気取りか? それとも他人が信頼できないのか?」
 後半の一言に思わずハッとなるフェイ。
「今すぐとは言わねえけどさ、俺達を――仲間を信じろ! 俺の故郷に伝わる話にな‥‥」
 そう言って光一郎が取り出したのは三本の矢。
 彼がそのまま話を続けようとした時、フェイが思いの外強い力でその手を叩いた。拍子に三本の矢が地面に落ちる。
「うるさい、俺に構うな! 仲間なんて、俺には必要ねえんだよ!」
 殆ど癇癪を起こす子供だ。
 バッと踵を返したフェイは、勢いよく森の中へと駆け込んでいく。
「おい待て! 折角いいところで‥‥人の話を最後まで聞けよ! うぉ〜!」
 慌てて追い掛ける光一郎。他の仲間も急いでその後を追った。

●交戦
 始めに気配を察したのは、ディーネだった。森へ入ってから常に周囲を探っていた彼女の五感に、ゴブリンの気配が幾多も感じ取れた。
「向こうだよ!」
 彼女が指差したのは、ちょうどフェイを追い掛ける道筋。つまりこのまま行けば、彼は単独でゴブリンの群れに突っ込む事になる。
「マズイですね、間に合いますか‥‥」
 先行するフェイと光一郎の二人を食い止めるかのように、アルノール・フォルモードレ(ea2939)はプラントコントロールを進行方向右手の樹にかけた。
 途端、彼の意志を思い描くままに枝が張り巡らされ、簡易のバリケードが出来上がる。
 が、やはり一瞬遅く、二人と残りの冒険者達はそのバリケードによって分断されてしまっていた。ある意味計画通りとも言えなくはないが‥‥。
「ふん、足手まといがなくなっただけだ」
「お前‥‥」
 あくまでも一人で戦おうとするフェイに、光一郎は強引にペアを組もうとその背に立った。そのうちに姿を見せ始めたゴブリン達。その数はおよそ二十。数の上ではかなりの不利だ。
 フェイが動くよりも先に、ゴブリンが問答無用で襲いかかる。
 一瞬反応の遅れたフェイ。その隙を突く形で動いた光一郎の、振るった二刀の前にモンスターは露と消えた。
「な、俺とお前が協力すりゃ平気だろ?」
「こっちも行くよ!」
 バリケード越しに聞こえた声。
 直後、ディーネの放ったウォーターボムが群がるゴブリンの足下を直撃した。相次ぐ形で同じ水撃がゴブリンにダメージを与えていく。時間差を考慮したユーリアスの攻撃だ。
「同じ仕事を受けて来たのです。仕事である以上は、あなたの我が侭を聞くわけにはいきませんよ」
 言外に『仕事なのだからプロ意識を持て』という意味合いを持たせた彼女の言い分は、はたしてフェイに届いただろうか。
 一方で、戦いの場に似つかわしくない歌声が薄闇の森に響く。
 竪琴の音色に併せ、透き通る声を張り上げるのは吟遊詩人でもあるレイン。
「歌うことで戦うことだって出来るんです。甘く見ないでくださいっ!」
 奏でる歌声が詠唱となり、月の光を収束していく。集められた輝きは一本の矢となって枝のバリケードを越えてゴブリン達に襲いかかった。
 同じく矢を放ったのはトーマス。
 こちらは現実の矢であり、ショートボウによる狙い撃ちだった。その一矢は、ちょうどフェイの背後から襲いかかろうとしたゴブリンを勢いよく貫いた。
「ま、こんなものですよ」
 木の上でにこりと笑う彼に、フェイはお礼を言うことなく顔を背ける。
 が、その横顔が少し赤くなっていたのをトーマスは見逃さなかった。
(「‥‥友達になれるといいですね」)
 やがて矢の雨も止んできた頃。
 幾度も張り巡らせた枝のバリケードもそろそろ限界に近い。ここぞとばかりにゴブリンは先行の二人に向かおうとする。
 さすがに体力の消耗も激しく、剣を振るう鋭さも落ちていた。
「くっ‥‥」
「フェイ!」
 光一郎が叫ぶ。
 気が付けばゴブリンに囲まれている。
 ハッとした次の瞬間――突風がフェイの横を走った。
「させないよ!」
 カシムの放ったウインドスラッシュが、囲うゴブリンの一角を崩す。そして、颯爽と飛び降りたトーマスがフェイを庇うようにゴブリンの攻撃を受けた。
 驚くフェイにトーマスは痛みを堪えて笑みを向ける。
「怪我は‥‥ないですか?」
「お、お前‥‥なんで‥‥」
「このくらい平気ですよ」
「おっと、呑気に会話してる場合じゃないだろ?」
 振り下ろした右手の日本刀が、ゴブリンの身体を袈裟懸けに切り裂いた。他の仲間も、二人を護るために一斉に魔法を振るう。
 風の刃が、水の爆発が、光の矢が残りのゴブリンをことごとく撃破していった。
 やがて。
 静けさを取り戻した森の中に立つ者は、冒険者のみとなっていた。

●戦いの幕引き
「‥‥大丈夫ですか?」
「このぐらい平気ですよ」
 アリッサの放つ光――リカバーの力がトーマスの怪我を徐々に癒していく。その光景を憮然と眺めるフェイの視線に、くすりと笑みを零した。
 治療が終わり、クルリと向き直る。
「フェイ様はお怪我はありませんか?」
「‥‥怪我なんかしてねえよ‥‥」
 ‥‥こいつが俺を庇ったからな。
 彼は誰にも聞こえないように呟いたつもりだろうが、その場にいた全員はその言葉を聞き逃さなかった。
「フェイ様」
「な、なんだよ」
「私には戦いは出来ませんが、フェイ様にはそれが出来ます。でも、フェイ様は魔法を唱えることは出来ません。冒険に限らず、人はそれぞれ役割があり、一人では出来ないこともあります。それぞれを補うことで人は生きているのだと‥‥私は思います」
 本来なら戦いの前に言いたかった言葉。
 だけど、その時の彼は頑なに差し出す手を拒んでいた。
 戦い終わった今ならば、自分の言葉も彼に届くのではないか、と‥‥アリッサはそう考えてみた。それは他の仲間達も同じで、言葉少なくても、あるいは無言の雰囲気で協力する事の大切さをフェイに解ってもらおうとしていた。
「僕たちウィザードは前線で時間を稼いでくれる仲間がいるからこそ、様々な魔法を使うことが出来るんです。フェイさんだっていずれ魔法の力が必要になる時が来るはず。だから――」
「私自身、戦う理由は魔法の実践が目的ですけど‥‥困ってる人を放って置けませんから。人のためになるウィザードになりたいんです」
 アルノールとユーリアスの二人のウィザードが、笑顔とともに話しかける。
「あの‥‥どうしてあなたは一人で戦うのですか?」
 トーマスが静かに問い掛ける。
 その言葉に、すぐさま返事はなく。
「‥‥別に」
 返ってきたのはぶっきらぼうな言葉だけで。
 やがて踵を返したフェイが立ち去ろうとするのを、光一郎が慌てて引き止めようとして‥‥伸ばした手をゆっくりと引っ込めた。
 無理に追えば、逆効果になるのが目に見えるからだ。
 だが。
「‥‥今日は、助かったぜ‥‥」
 最後に言い残したその科白こそ、少年が少しでも心を開いてくれた証であると。
 冒険者達は願いつつ、彼らもまたキャメロットへの帰路に着いた。