【少年は剣を手に】手紙
|
■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:7人
サポート参加人数:5人
冒険期間:06月02日〜06月07日
リプレイ公開日:2007年06月09日
|
●オープニング
深夜過ぎ。
すっかり暗くなってから宿へ帰り着いた少年――ガラハッド・ペレスは、疲れたように溜息を零した。
実際、一日中駆け回っていたため、体の疲労もあるだろう。だが、それ以上に何の収穫も得られなかった事の落胆が、精神的にも大きく疲れる原因となっていた。
「‥‥やっぱ、今日も手掛りなしか」
呟き、そのまま倒れこむようにベッドへと体を投げ出す。
そのままポケットから手紙を取り出し、その文面をもう一度読み直した。
「貴方の父親について、お話したい事があります、か‥‥」
それは、ケンブリッジにいた時に彼の元へ届いた書簡。差出人の名前もなく、唯一の手掛りがここキャメロットから出されたという事だけ。
幾つかの情報を頼りに辿り着いた村は、デビルによって滅ぼされていて、人っ子一人いなかった。
その後、先の戦乱に巻き込まれる形で紆余曲折あった。その間にも、宿の方へ何度か手紙が届けられていた。
だが、そのどれをも調べている途中で、例の人物と遭遇してしまったため、結局のところ差出人に関して有耶無耶になってしまった節があるのだ。
さすがにそう何度も重なれば、いくらガラハッドといえど手紙自体を疑ってしまう。
果たしてこの手紙の差出人の意図はなんなのか、を。
「やっぱり、もう一度あの村へ行って調べてみるか。前の時は、色々衝撃的な事が有り過ぎて、詳しく調べられなかったからな」
ガバッとベッドから上体を起こす。窓の外を見れば、月明かりの殆どない暗闇がキャメロットの街に降りている。
そういえばもうすぐ新月だったか、と細くなった三日月を見上げた。
「噂じゃ、オーガの連中が住み着いてるって話だったな。数がどれだけか知らねえが‥‥しょうがない、明日にでもギルドで冒険者を募集してみるか‥‥」
大きく、欠伸を一つ。
重くなる目蓋を何度か擦り。
そうしてガラハッドは、襲う睡魔に無条件降伏し、そのまま泥のように眠っていった。
夜空に浮かぶ月が、まるでニタリと笑うかのように妖しく闇を照らす――――。
●リプレイ本文
●それぞれの考え
その名を幾つもある依頼書の中から見つけた時、どこかで聞いた事があるわね、とエルザ・ヴァリアント(ea8189)は気になっていた。
それが出発の段になり、ようやく揃った面々を見て彼女はああ、と納得した。
この前の戦いで一緒の部隊だった子か、と。
「お久しぶり。私のこと、憶えてる?」
「え? んーと‥‥えっと、あ! この前ん時一緒だったヤツか?」
すぐに出てこなかったのは、ガラハッド自身ここ最近の一連の騒動に巻き込まれていたから。思わず謝る少年に、エルザはお互い様だと苦笑を零した。
ふと、隣を歩くバデル・ザラーム(ea9933)に目がいく。彼がじっと眺めている手元の手紙に。
「それが例の手紙?」
「ええ。見たところ普通の書簡のようですが‥‥ここまで端的だと確かに意味深ですね」
「むしろ怪しさ満点ね」
眉間にしわを寄せ、あらゆる事象――最悪な展開すらをも脳裏に思い描くバデル。
そんな雰囲気を払拭するためか、わざとおちゃらけるエルザの感想。全員が和むかのようにホッと肩を下ろした。
そうして多少冷静になった思考回路で、メイユ・ブリッド(eb5422)は改めて手紙の中身を覗き込んだ。
「これらの手紙の筆跡にお心当たりは?」
「いや」
彼女の問いかけに、ガラハッドはあっさり首を振る。
言葉の使いまわし、綴りの流麗さ、など立て続けに出る質問にも、彼はいっそう心当たりがなかった。
メイユの目には、どことなく教養のある人物のような気がする。
もっとも思い込み過ぎてもいけない。それだけ父親の対象を調べる範囲を狭めるだけなのだから。
「ん〜しかし、ガラハッド君を騙して得をするような人もそうそういるとは思えないけどね」
「‥‥人、ならいいのですが」
思わず零れたバデルの微かな呟きに、エルザが反応する。
「え、なんか言った?」
「いえ、なんでもありません」
即座に否定し、彼はいつもの涼しい顔。その態度に彼女はそれ以上の追及を避けた。
「ま、あんま細かい事気にするのは、止めにしようぜ。ひとまず俺らの仕事は、オーガ達の退治だろ?」
ジェイス・レイクフィールド(ea3783)があっけらかんと口にしたのは、今回の依頼が掲げる大前提の目的だ。
「だったら先ず、そいつらをやっつけてから考えりゃいいじゃん!」
抱えた槍を天へ向け、その威風を示すかのように仁王立ち。荒々しい言動なれど、彼がひどく頼もしく見えた瞬間だ。
目的の村までの道のりを、そんな会話を続けながら冒険者達は向かう。
●戦いの帳
「下がれ、ガラハッド!」
一歩、足を踏み入れると、そこは既に戦場だった。
ガラハッドの護衛へと回っていたタイタス・アローン(ea2220)。素早く彼の前で立ち止まり、振り下ろされた金棒を思わず剣で受け止める。
だが、不意打ちの勢いも加わって、殺しきれなかった衝撃でガクリと膝を付いた。
「このやろー!」
反射的にジェイスが前線へ飛び出す。単純なオーガにとって目の前にいる者だけが敵、すなわちジェイスの動きに反応出来ずにいた。
問答無用で槍を一気に突き下ろす。
致命傷まではいかないものの、かなりのダメージを負ったオーガがよろめきながらタイタスから離れる。そのタイミングを見計らったバデルが、炎を纏った剣の一撃を放った。
直後、断末魔の叫びがオーガの口から迸る。程なく絶命し、その巨体が地面へ倒れた。
「‥‥マズイですね。連中が集まってくるかもしれません」
そう言って顔を顰めるロッド・エルメロイ(eb9943)。
事前にオーガの生態を調べていた彼は、連中があまり知能が高くない代わりに、その凶暴なまでの本能を剥き出しに戦う事を知っていた。先程の絶叫を、仲間のオーガ達はきっと聞きつける筈。そうなれば集団戦に縺れ込むだろう。
ロッドの説明を受け、バデルは小さく嘆息する。
「罠を仕掛ける暇もないということですか」
「どうする? 一旦身を引いて隠れるか?」
「‥‥そんな暇はないみたいです」
ジェイスの提案を、微かに聞こえていた物音と会話していた衣笠陽子(eb3333)がやんわりと否定する。
届いた音は‥‥こちらへ近付いてくる足音。
「少し遅かったみたいです」
「のようねぇ」
エルザがちらりと視線を流す。
すると、そこにはヤツら――村に巣食うオーガ達が、ぞろぞろと姿を見せ始めていた。ただのオーガだけならば多少梃子摺ろうともなんとかなったかもしれない。
だが、その中に屈強な肉体の上に更に頑丈な鎧を纏ったオーガが三体。おそらく彼らがオーガ戦士なのだろう。
ぞろぞろと集まっていくオーガの群れ。
それを彼らは微動だにせず、相手の動向を緊張の面持ちで見守っている。その時、エルザとロッドが互いに目配せで合図した。
狙うのは――群れの中央、オーガ戦士が立つ中心部。
「火霊よ――その尊き御魂の片鱗を我が前に示せ!」
高らかと響くエルザの詠唱。
続くロッドの詠唱が重なり、二人の手から放たれた紅蓮の火球は、オーガの群れの中心で一気に爆発した。
吹き荒ぶ爆風。数体のオーガが群れから弾き出され、一人になったとしても果敢に冒険者へ向かってくる。
それを排除しようとするジェイスの槍。逃げようにも身動きが取れないのは、メイユの仕掛けたコアギュレイトに捕らわれてしまったため。
「サンキュ、メイユ」
「わたくしにはこの程度しか‥‥ジェイスさん、危ない! セブン!」
連れてきていたペガサスへ向けて放つと、それを理解したのかジェイスの背後から近付こうとしていたオーガを力いっぱい蹴り上げた。
倒れ、起き上がろうとするオーガ。その隙を突くように陽子がスリープを唱えた。そのまま眠りついた相手にトドメを刺そうとしたが、もう一体のオーガが近付いて庇うように前へ出た。
「チッ、やっぱり個別でないと難しいじゃんか」
ジェイスが軽く舌打ちする。
一方、タイタスとバデルはまずオーガ戦士を倒す事に専念した。
当然彼らは奥深くに位置する場所にいる。明らかに経験からくる戦いの手法だ。闇雲に前へ出るのではなく、いかに戦闘を効率よく行い勝利を収めるのか。
稚拙ではあるものの、今の冒険者達にはそれで十分だった。
「このままではまずいです」
「そうですね。あまりにも時間をかけすぎて、消耗戦になってしまってます」
爆発があちこちで大きな音を立てる。
そんな環境の中、タイタスとバデルは会話を交わす。現在の状況、過去の相談、これからの顛末など‥‥一つ一つは些細なことだったかもしれない。
だが、それらが積み重なった時、冒険者達の失策が浮かび上がった。
「やっぱりあまり話し合いが出来なかったからな」
返す返す、悔しそうに唇を噛むガラハッド。冒険者が個々の考えの下、互いの作戦を知らぬまま協調性なく動けば、あっという間に囲まれてしまう。
今のジェイスのように。阻むように彼の前に立つのは、数体のオーガ達
「くそっ!?」
「ジェイスさん、伏せて!」
直後、火の玉が自分に向かってくる。言葉通りに身を屈めると、ロッドの放ったそれは群れたオーガを爆風で吹き飛ばした。
それでも所詮はトドメを刺すまでは足りず。
咆哮を上げて迫り来る敵を、後方からエルザがファイヤーボムで足止めする形となった。
「きりがないわねえ」
舌打ちするとともに溜息も零れる。
別段侮っていたワケではない。オーガの集団に対して、自分達も各個撃破を狙っていた。決して単独で突っ込むような真似はしない。
が、それだけだ。
「見通しが甘かったんじゃねーの?」
「‥‥どちらにせよ、これ以上留まるのは無理でしょう。一旦引き上げた方が‥‥ガラハッド?」
バデルが振り向くと、そこに少年の姿がない。
慌てて見回すと、少し離れた場所で何故か茫然と立ち尽くしているガラハッドを見つけた。そこへ一体のオーガが金棒を振り回しながら迫っていた。
「ガラハッド!」
ロッドの放った火球がオーガの体を弾く。
ハッと気付くガラハッドに、ロッドの怒声が飛んだ。
「何ぼうっとしてるんですか! いったい何に気を取られ」
「あ、ああ。悪かった。ちょっとこれがさ」
「‥‥絵、ですか?」
指差したのは、ボロボロになった一枚の絵。ところどころ掠れているが、描かれている人物達の顔はなんとか判別出来た。
大人が一人と、子供達が数人。
「おいおいのんびりしてんじゃねーって。連中が迫ってきてるんだぜ? で、どうするガラハッド?」
引くか、続けるか。
依頼人である彼の意思を確認するジェイス。その言葉に全員の視線がガラハッドに集まる。
疲労があるとはいえ、このまま続けても勝てるかもしれない。
だが。
『――気をつけて』
閃くように脳裏に浮かんだのは、出発する日に見送りに来た三人の言葉。
彼ら彼女らの気持ちを思ったからこそ、少年は決めた。
「撤退しよう」
そうと決まれば、冒険者達の行動は早い。
陽子のスリープ、そしてメイユのコアギュレイトが、オーガ達の足止めをする。エルザとロッドも彼らの足止めを目的に、抑えたファイヤーボムを幾つも放った。
「‥‥」
その場から去ろうとしたタイタスは、少し振り返った村の光景を見ながら心の中で静かに詫びた。それは冒険者達全員の思いであっただろう。
悔しげに唇を噛み締めると、思いを振り切るようにバデル達は急いで村を後にした。
●手掛り
結局、持ち帰った手掛りはボロボロになった一枚の絵。
ガラハッドが気になっていたというその絵を見るなり、ロッドはそれが描かれたのはオクスフォードだと断じた。
「ほら、ここに描かれてる建物にオクスフォードの紋章がありますから」
描かれていた修道院の端、小さく描かれているそれは確かに紋章だった。
その時、ふと彼の脳裏に蘇る記憶があった。
それは――幼い頃に過ごした修道院の事。
「オクスフォードか‥‥」
ポツリ。
小さな呟きが少年の口から零れた。