幸せの黄色いフンドーシ
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■ショートシナリオ
担当:葉月十一
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月29日〜07月04日
リプレイ公開日:2007年07月07日
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●オープニング
――それは、とある地方に伝わる伝承。
罪を犯した一人の男がいた。
審議の結果、遠く流刑の地へ追放される形となった。
それを嘆く一人の女。
男には、愛する妻がいた。
男は、自分のことは忘れるように女に告げたが、女は頑として首を縦に振らなかった。
そして女は言った。貴方が帰ってくるまで何時までも待ちます、と。
その言葉を聞いて、男は女に誓った。ならば何時の日か、必ず女のもとへ帰ってくる、と。その日まで待っていてくれるかと尋ねると、女は静かに頷いた。
やがて一人となった女は、男は待ち続けた。
目印となるよう、男が常に愛用していた太陽の光のような黄色の――――フンドーシを掲げながら。
それは、マーナが幼い頃に聞いた御伽噺。
「それで二人はどうなったの?」
「勿論、約束どおり彼は彼女のもとへ帰ってきたよ。村の様子は様変わりして、彼が知る風景ではなくなっていたけれど、彼女が毎日掲げていた黄色いフンドーシを目印にしてね」
「素敵!」
「以来、その地では黄色いフンドーシは幸せを呼ぶ象徴として尊ばれるようになったんだ」
父の話に彼女はいたく感動した。
その感動から十年、今では幾つものフンドーシを手がけるようになったマーナは、その御伽噺に出てくるような黄色のフンドーシを作ろうと奮闘していたのだが‥‥。
「――盗まれてしまったんです」
ギルドの受付を前に、本来お屋敷の庭師見習いであるリュートが、悲痛な面持ちで訴えかける。フンドーシと聞いて一瞬受付員のこめかみがピクッと震えたのをあっさりとスルーして。
「どうも噂が噂を呼んで、お嬢様が作った黄色のフンドーシが、その言い伝えにあるフンドーシと思い込んだ褌愛好会の一グループが盗んで行ったみたいなんだ」
褌愛好会。
かつて冒険者達に成敗されて以来、すっかり心を入れ替えたと思っていたが、どうやら一部の会員はいまだ「苦労して略奪してこそ価値がある」と考えているらしい。
ワザワザ詫びに来た会長がそう言っていた、とリュートは説明する。
「マーナお嬢様、それ以来すっかり意気消沈してしまって‥‥オレ、あんなお嬢様の姿見てられないんだ」
「では依頼の方は、盗んだソレを取り返すことですね」
あくまでも冷静、決してブツの名を口にしない受付員。
そんな対応にもリュートは何事もないかのように話を続けた。
「うん。それと‥‥お嬢様の方も出来れば元気付けて欲しいんだ。同じ趣味の冒険者達なら、きっとお嬢様だって立ち直るはずだよ」
冒険者全員が一緒の趣味を持っている、と思われるのは些か心外だが。
彼の出会った冒険者達は確かにそういった方々ばかりだった事を思い出し、受付員は小さく溜息をついた。
「では、依頼書の方にはそのように明記しておきます。他に何かありますか?」
「うーん‥‥」
「なければこれで」
「あ、そうだ! 会長さんが言ってたんだけど、盗んだ人たちは今消息不明なんだって。でもきっと、同じ趣味――フンドーシ一丁で歩いていれば、そのフンドーシを強奪しようと出てくる筈だって言ってたよ」
ピキッ!
思い出したとばかりに付け加えられたリュートの言葉に、今度こそ受付員は石のようにその場に固まった。
●リプレイ本文
●顔合わせ
ギルドに集まった面々を前に、依頼人であるリュートは何故か身を小さくしたまま。申し訳なさそうに俯く姿はまるで主人に叱られた子犬の姿を連想させた。
「そいつら、まだやってたのかよ‥‥」
そんな彼に同情しつつも、やや呆れ気味に呟く来生十四郎(ea5386)。毎度のことに慣れたもので、もはや憤慨する気力もない。
その隣では、こちらもお馴染み葉っぱ男ことレイジュ・カザミ(ea0448)が、拳をあげて憤慨している。
「それにしてもマーナさんの褌はいつも狙われてしまうねえ」
いっそ専属ガードマンでも雇った方がいいんじゃないかな?
続く彼の言葉に、思わず顔を顰めたカメノフ・セーニン(eb3349)。
「わ、わしは遠慮しとくぞい‥‥」
可愛い女の子が大好きと公言して憚らないご老体――ゆうに二百年近く生きている――が、何の因果でこの場にいるのか。世の常を無情をしきりに噛み締めつつ、彼の目はしっかりとヒルケイプ・リーツ(ec1007)の足を眺めていた。
その視線に気付き、思わず後ずさるヒルケイプ。
「どうせなら、わしはお嬢ちゃんのスカートをガードした――ぐはぁっ!?」
「な、なにするんですか?!」
浮かびかけた彼女のスカート。
それに気付いた瞬間、見事な蹴りがカメノフの顎を直撃した。
「か、風じゃよ、風」
「ここは室内よ!」
「老い先短い老人をもちっと労わらんか」
「それだけ元気があれば大丈夫じゃないの」
真っ赤な顔のヒルケイプと好々爺然としたカメノフの口論が続く中、彼らの元へもう一人の冒険者が訪れた。長く伸ばした白い髭が印象的なオーガ・シン(ea0717)だ。
「――やれやれ、騒々しいのう。同じ年寄りとしてもうちっと落ち着いたらどうじゃ?」
「あ、お帰りなさい。どうだった?」
「うむ。なんとか警吏の連中には話は通しておいたぞ。ひとまず儂らが褌一丁で出歩いておっても騒ぎにはならんじゃろうて」
「オーガさん、ご苦労様〜」
労うレイジュを見返し、オーガは思わず苦笑を洩らす。
その届出を出しに行った先の連中の顔を思い出したからだ。彼らは、今回のメンバーの名を伝えた途端、皆一様に『またヤツらか』といった表情を浮かべた。
勿論こちらも慣れていたから、そのままスルーをしてやったが。
「それじゃあ、一旦マーナお嬢様のところに行くか。道すがら、色々話聞かせてくれ、リュート」
「うん、わかった」
おもむろに十四郎が椅子から立ち上がる。
つられてリュートも立ち上がり、こくりと大きく頷いた。
「ま、折角作ったんだ。きちんと取り返してやらないとな」
そう締め括ると、彼らはマーナのお屋敷へ赴くべくギルドを後にした。
●お嬢様の受難
「まあ皆さんお揃いで」
出迎えたマーナは、突然の来客に驚くも笑顔でレイジュ達を迎えてくれた。
表面上は元気そうだが、長い付き合いのレイジュや十四郎には、一目見て彼女が無理して明るく振舞おうとしているのが解った。
「ダメだよ、マーナさん。無理して笑わなくても」
「え‥‥?」
「大丈夫、僕らが必ず盗まれた褌を取り返すから。だからほら、元気出して。貴方が落ち込んでいたら、僕まで悲しくなるよ」
「そうだ。必ず褌を取り返して帰って来るさ」
「レイジュ様、十四郎様‥‥」
大人の余裕、とでも言うべきか。安心させるような笑みを浮かべ、十四郎は自分で用意した黄色い褌をマーナに渡す。思わずハッとした彼女だが、それが自分の作った物でない事に気付くと、少しばかりの落胆を見せた。
(「‥‥紛らわしかったか」)
彼女の反応に一瞬顔を顰めたが、すぐに気を取り直した。
「俺達を信じて、窓からこれを掲げて待っていて欲しい」
それは御伽噺のように。
彼女の為の約束の誓い。
そんなやり取りを隣で眺めながら、ヒルケイプは思わずうっとりしている。
「ロマンですよね〜」
フンドーシを掲げ続けて夫を待った妻と、約束どおりに帰って来た夫。依頼の発端として聞いた御伽噺、そして目の前で繰り広げられているのはその御伽噺になぞらえた行為。
なればこそ、彼女の羨望はよりいっそう燃え上がっていく。
「貴女様もそう思いますか?」
「ええ、もちろん」
「フンドーシを掲げ続けた彼女‥‥本当に素敵ですわね」
「そうよね。奥さんはずっと信じ続けたのよね、きっと」
女性二人で盛り上がる会話だが、微妙に熱の入れ具合の方向性が違うのは気のせいだろうか。いやきっと気のせいに違いない、とカメノフは慌てて首を左右に振った。
「さて、そろそろ出かけるとするかのう。今回の敵はどうやら複数じゃ、二手に分かれてるが良いか?」
仲間と一緒に集めた情報では、少なくとも二人以上はいるとの話だ。
オーガがそう告げると、囮に名乗りを上げたレイジュは、大丈夫だと笑顔で答えた。
「あんな連中に不覚を取る僕じゃないからね。任せといてよ!」
「ふむ、では行くとするかのう」
バサリと服を脱ぎ捨てた二人は、晒した裸に褌一丁という格好のままで街へと繰り出していった。
「それじゃあ俺らも尾行するか」
「やれやれ‥‥わしの目は趣味の為なんじゃがのう」
呆れつつも気にしない十四郎と、トホホと肩を落とすカメノフがその後に続き。
「お二人とも、素敵ですわぁ〜」
うっとりと見送るマーナの横では、顔を真っ赤にしたヒルケイプが直視できずに目を逸らしたまま。
「あ、あの人がキャメロットの葉っぱ男さんなのね‥‥」
高鳴る胸の鼓動を抑えていた。
●それぞれの説得
練り歩く街中で、いつもより集まる視線が多い事にレイジュは気付く。
そこで羞恥心が働く思考回路は、当然彼にはなく。
(「ふふーん、いつも葉っぱだから、きっと珍しいとか思ってるに違いないよ♪」)
よけいに元気よく歩き出した姿に、尾行する十四郎は小さく溜息をつく。
いつだってポジティブシンキングはレイジュの長所だろう、いやきっと長所、多分‥‥長所。そう納得しつつも、苦笑が零れてしまうのは――うん、気のせいだ。
そうして街を歩くこと十五分。
予想に反してあっさりとレイジュの前にその男達は姿を見せた。
いや、予想通りというべきか。
「出たね! さっすがレアモノのフンドーシ、効果抜群だね」
「何を言ってるのか知らんが、貴様の褌を寄越せ!」
威嚇する男。
並の人間ならきっと怯えて言うことを聞くだろう。
だが、生憎と彼らの前に立つ若者は、並の人間ではなかった。前だけでなく、気付かれる事なく後ろに立った者もだ。
「ったく、今度盗んだらぶん殴ると言った筈だ」
手加減無用とばかりに十四郎の拳が振るう。
無論全開ではなく軽く殴っただけだったが、冒険者と一般人の差は相手の男があっさりと地面に撃沈した事で証明された。
「お、お前らはッ?!」
見覚えのある男達を前に、褌愛好会の面々は思わず後ずさる。
「君達、まだこんなことをやっていたなんてね! ホント、情けないよ!」
力で叶わない事を知っているからだろう。レイジュの一喝に彼らは皆一様にしゅんと俯く。
そんな姿を見て、レイジュもすぐ肩の力を抜いた。褌が好きな人たちだもの。根っこから悪い人間じゃない筈だ。
そんな思いがあったからこそ、彼は懸命に説得を続けた。
「幸せの黄色いフンドーシには、恋する女性の思いが込められているんだよ。そんな純粋な思いを奪おうだなんて、同じ褌好きとして恥ずかしいよ」
「それにお前らのやったことは、褌と褌愛好家の名誉を傷つけるものだ。褌だってきっとお前らを恨んでるぞ」
睨み付けるような十四郎の言葉に、ますます小さくなる男達。
「‥‥ただ」
「オレ達は‥‥」
「褌が好きで‥‥」
口々に呟く言い訳を前に、十四郎は一つの提案を出した。
「そんなに褌が好きなら、マーナお嬢さんの元で褌作りを学んでみたらどうだ? 自らの手で褌を作る過程でその心を学べば、真の愛好家へ近づけると思うがな」
「うん、それいい!」
思わぬ言葉にハッとなる男達。
名案だとばかりに諸手を挙げて賛同するレイジュ。
「そうだよ、盗んじゃうよりも自分達で作ってみたらいいじゃないか。この黄色い褌だって伝説の褌じゃないんだよ。マーナさんが自分の手で作り上げたコレクションの一つなんだ」
彼の言葉に、男達は誰もが目を瞠る。マジマジと自身が身につけた黄色いフンドーシを見つめ、その出来栄えに驚嘆の声すら上がらない。
自分達もいつかはこんな褌が作れるのか。
「真の褌愛好家ならきっといつかね!」
「まあ、とりあえず弟子になるかどうかはこれから俺が掛け合ってみるけどな。一先ずその褌は返してもらうぞ」
「あ、ああ。わかった」
こうして説得に成功したレイジュ達。
一方、もう一組の方はどうなったかというと――。
「――きゃぁぁっっっ!!」
ずらりと並んだ裸の褌男達を前に、ヒルケイプのパニックが止まらない。辺り構わず次々と物を投げつけていったのだ。
加えて、この騒動に紛れてカメノフが彼女のスカートをめくり上げてしまったからさあ大変。
「やっぱわしは、褌のむさい男より女の子の方がええわぁ〜」
「やだー、すけべー、えっちー!!」
「ぎはっ!?」
ヒルケイプ投げた物が直撃し、思いっきり気絶してしまったカメノフ。それでも満足げな笑みを浮かべた彼は本望なのだろう。
対するヒルケイプも、ようやくパニックが収まった頃合いに。
「あのぅ〜」
「いやぁ――っ!?」
素肌を晒した屈強の肉体の男に声をかけられ、動転した結果、彼女もまた気を失ってしまった。
「なんじゃなんじゃ、尾行が儂より目立ってどうする。オマケに気絶しおってからに‥‥役に立たんのう」
褌姿のオーガは、気絶した二人の姿にやれやれと溜息をついた。
「あ、あの‥‥」
「おうスマンスマン。どこまで話したかのう」
「い、いや、俺たち、もうこの辺で」
「何を言うか。儂の説教はまだ終わっておらんぞ。大体じゃな、女性が精魂込めて作った褌を盗むとは、漢としてあるまじき行為じゃ! よいか、褌とは昔から伝わる漢の一張羅じゃ。なればこそ身につける者は、真の漢でなければならぬ。そもそもおぬしらは‥‥」
くどくどくど。
年寄りの説教は長くなるものと昔から相場が決まっている。案の定、オーガに捕まってしまった男達は、延々と彼の説教を聞く羽目になってしまった。
結果として、彼らは二度と盗みを働かない事を心に誓ったという。
そうして、盗まれた褌を取り返した冒険者達。
マーナの待つ屋敷へと続く道を戻っていた彼らの目に飛び込んできたのは――視界一面を覆う黄色い光景。
「うわぁ――!」
「ふっ」
「なんとまあ」
「うっへぇ‥‥」
「まぁ‥‥♪」
感嘆する者。呆れる者。驚く者に落胆する者、そして何故か頬染める者、と冒険者達の反応は様々で。
彼らを出迎えてくれたのは、屋敷のいたるところにはためいている黄色い――フンドーシの数々。その数は果たして幾つになるのか、数えるのが面倒になるぐらい至る所でフンドーシが太陽の光を受けて輝いていた。
「皆様、お帰りなさいませ」
そして、マーナのはちきれんばかりの笑顔。
「どうぞ皆様、わたくしからのささやかなお礼を受け取ってくださいね」