●リプレイ本文
イギリスにも、ギルドが再開されたせいか、徐々に人が集まりつつある。中には、異国でそれなりに実力をつけた者達もいるようだった。
「ほほう。貴殿らもか‥‥。久々の馬上試合だ。楽しませてもらうとしよう」
会場には、すでに先客がいた。馬上槍試合の話を耳にして、わざわざジャパンからやってきたと言うデュランダル・アウローラ(ea8820)である。
「ジャパンでは、それなりにのんびりした依頼ばかりだったのでな。体がなまったと言われかねん。俺も参戦させて貰おう」
同じ様にジャパンにいた真幌葉京士郎(ea3190)。かの地の経験談を話しながら、彼はそう答えている。
「それに、『敬愛する貴婦人に勝利を捧げる』、か。はっ、いや、べ、別に、誰に、とかでは、あぅ」
槍試合の意味を考え、勝手にうろたえるルシフェル・クライム(ea0673)。どうやら、意中の女性がいるらしい。既に自分がその女性に勝利を捧げる姿でも考えたのか、顔が真っ赤になっていた。
「こんにちは、議長。噂はかねがね伺っておりますわ。そちらが奥方様ですね?」
と、ケンブリッジからキャメロットに拠点を移したらしいリースフィア・エルスリード(eb2745)が、議長に丁寧に頭を下げる。もっとも、本人は、結果的に実力者扱いされているだけで、あくまでも一介の騎士でいるつもりのようだった。
「お久しぶりですわ、議長」
「ご健勝で何よりです。その後、夫婦生活はいかがですか?」
同じ様に挨拶するセレナ・ザーン(ea9951)に続いて、常葉一花(ea1123)が、にやにやと意地悪く笑いながら、そんな事を切り出す。
「って、会うなりそれか‥‥」
「ふふ、冗談ですよ。これは遅ればせながら、御祝いの品です。奥様の為にも、頑張ってくださいね♪」
頭を抱える議長に、彼女はそう言って、高級羽ペンをプレゼント。だが、一応受け取るものの、彼は困惑した表情を見せて、こう言った。
「私は出るとは言っていないんだが」
「ギルバード卿は、円卓の騎士にも肩を並べる程の使い手と聞いた。是非ともお手合わせ願いたいものだ」
デュランダルが興味があると言った面持ちで、そう申し出る。と、原因を作った一花、ダメ押しをするように、「議長の勇姿、期待してますよ♪」なんぞと言い出す。
「私も、是非お手並みを拝見したいものだ。そういえば以前拝見した、ヒメニョ殿の羊皮紙があったなぁ‥‥」
やんわりと断ろうとする議長に、今度はルシフェルが、ごそごそと以前手に入れたらしい禁断のお品を出してくる。悪乗りした一花の、「まぁ、それは興味深いですわねぇ〜♪」との一言と、引きつった議長の表情を見れば、その内容は推して知るべし。
「‥‥お前達、そんなに私を出場させたいのか」
「「「ええ」」」
こっくりと頷く冒険者様一同。深くため息をついた彼は、仕方なさそうに、奥の部屋へ消えて行った。
「ともあれ、久方ぶりの試合です。装備もちょっと奮発しましたし、全力を尽くしましょう」
リースフィアがそう言うと、彼女は夫の名代とばかりに、皆にこう告げた。
「くれぐれも、事故のないようにして下さいね。リカバーは使えますが、なるべくなら、血は見たくないですから」
「一番見たくないのは、旦那の血でしょ」
一花が、ぼそりとそう言っているが、とりあえず聞かなかった事にして。
「そうですわ。天気が不安です。レオン、占いが得意でしたよね? ウェザーコントロールが使えるかしら‥‥」
雨が降っては、事故率も上がる。そう考えたらしいフローラ・タナー(ea1060)、レオンにそう尋ねる。
「やってみますが、使えたとしても初級ですから、あまり期待はしないで下さいね。奥様」
が、彼にまでそう言われて、顔を真っ赤にして黙り込むのだった。
非公式の槍試合だったが、ルールはそれほど変わらない。だが、会場は思いの他、派手になっていた。
何しろ、フローラとルシフェルの提案で、試合前にカンタベリー産の織物を使って、ショーが行われる事になり、色とりどりのサーコートに身を包んだ参加者達が、飾り布をつけた馬やその他騎乗動物にまたがって、颯爽と入場してくる。鮮やかな刺繍の施された天幕は、会場を彩り、華やかな雰囲気を演出していた。
「ショーは間に合わなかったが、これはこれで良い雰囲気ですね」
馬上で、満足そうなフローラ。参加者達を先導しているのは、白馬エルカイトに跨り、カンタベリー製サーコートを翻し、白一色の鎧姿となった彼女である。
「勇敢なる戦士たちよ! ここにチョストの開催を宣言します! 戦いの儀礼に則り、その力を示さんことを!」
儲けられたひな壇に上がり、セントクロスソードを翳すフローラ。彼女の開会宣言に、会場がわぁっと盛り上がる。
「頼みますね、ウェイル‥‥一緒にがんばりましょう!」
最初の試合は、リースフィアとマカール・レオーノフ(ea8870)の対戦だ。実力もほぼ互角の相手に、リースは愛馬の首筋を励ますように撫でる。
「絡め手なしで行きます!」
「エルスリード家が末子リースフィア。お相手仕ります」
借り物の戦闘馬でもって、正面から胸を狙ってくるマカール。だが、その一撃は、リースを庇おうとした馬の動きに遮られ、また本人のガード能力もあって、防がれてしまう。
「馬との相性は、向こうのほうが上ですね‥‥」
借り物の不利を思い知るマカール。そんな彼に、リースフィアは馬を回頭させながら、にやりと笑う。
「武術の技量はまだまだですが、絆にはちょっと自信がありますよ」
その為に、何度も旅行やピクニックに行ったのだから。と、そう続ける彼女。
「く‥‥。せっかく見に来てくれているのに‥‥」
人との絆なら、負けないのに‥‥と思う彼。見れば観客席には、話を聞いてケンブリッジから見に来たらしいランスが、「マカールさん‥‥。頑張って‥‥」と、祈るような表情を見せていた。
「それに! 誰が相手であろうと、突撃するだけです!」
リースフィアが、少し距離を取ると、馬の腹を蹴った。スピードを上げた馬の横で、彼女は槍を抱え、チャージングの体勢を取る。
「この一撃に、全てをかけます!!」
迎え撃つマカール、あえて馬を動かす事はせず、自分自身の回避術によって、どうにか避けようとする。
「手加減はしません! 行きます!」
攻撃力を、槍の切っ先に込め、スピードを緩めないリースフィア。ここで手を抜いたら、かえって失礼に当たると考えたらしい。
そして。
「ああっ!」
観客席のランスが悲鳴を上げた。リースフィアのチャージは、マカールの右肩を押さえさせていた。だが、完全には、捉え切れなかったらしく、かろうじて落馬は免れている。
「お見事です」
からんっと、リースの槍が、地面に落ちた。逆に彼は、回避の落ちた瞬間を狙い、ディザームをかけていたようだ。判定は、お互い得物を失ったと言う事で、引き分けとなる。結果、会場から、ため息が漏れるのだった。
その頃、フローラは、渋々ながら試合に出る事になった議長と共に、ハーブティを嗜んでいた。
「祈りがギルを護りますよう‥‥」
リラックス効果があると言われているそれで、お茶を済ませた後、彼女はレオンに用意させた、一本のレースのリボンを、お守り代わりに巻いている。そして、自分が持っていた十字架のネックレスをその首にかけ、セーラ神の加護を祈った。
「ああ‥‥。行って来る」
約束の変わりに、そう言いながら、フローラの額に軽くキスをする議長。
「ふふん。相手が貴方でも、作戦は変わりませんわ!」
相手は、一花だった。怯える馬で、遠巻きにする彼女に、議長、困った様子で、「やりにくいな‥‥」と一言。
「ほぉら、こちらまでおいでなさい!」
何とか引きずり出そうとする一花だったが、彼、あまり動こうとしない。
「いまひとつ、ノリが悪いですね。議長」
「うかつに攻撃出来ないんだと思います。彼女、回避は得意じゃないですから」
一応、志士のたしなみとして、馬には乗れるが、能力値の低さに、怪我をさせてしまう事を恐れているのだろう。
「じゃあ、引きずり出しましょうか。フローラさん、ちょっと協力して下さいね」
「え?」
それに気付いた一花は、遠巻きにしていた位置から、フローラのいる観客席に近付き、彼女を馬の背に乗せてしまった。驚いたのは議長の方である。
「こ、こらっ! フローラに何をするっ!」
「返して欲しければ、実力で取り返すがいい!!」
バックの中に押し込んでいたグレートマスカレードをごそごそと貼り付けた一花、そのまますたこらさっさと回れ右。
「聞いてないのですが‥‥」
「余興ですわ。私の力では、フローラ様に傷一つ付けられませんし」
背中でぶつぶつと文句を言うフローラには、『様子見ててくださいね☆』と言いおいて。
「貴様も騎士だろう? さあ、この女性を賭けて勝負だ!!」
「まったく‥‥。どうしても相手をして欲しいのか‥‥。ならば、覚悟するが良い!」
ため息をついた議長、槍を持ち直し、馬の腹を蹴る。ややスピードを上げた彼に、一花は「をーほほほほ!!」と高笑いしながら、フェイントアタックで応戦。しかし、馬は臆病なので、結果的に会場外へと逃げるはめになるのだった。
三戦目。学生同期同士の対決である。
「まずは何事にも礼儀を重んじねばならんな。騎士道は、礼に始まり、礼に終わる‥‥だ」
騎士道に乗っ取った作法で、一礼するルシフェル。ちらりと見れば、セレナも同じ様に、深く一礼していた。
「あの時の決着、つけさせていただきますわ!」
挨拶が終わると、彼女は馬の上で、槍の柄を少し短く持っている。重い鎧を身に纏っているのは、あえて防御を捨て、デッドオアライブで、落馬を防ぐ事にしている為だろう。
「力で押すは流儀ではない。我が華麗なる技量、受けて見るが良い!」
相手が重装備なのを見て取ったルシフェル、スタンアタックを使う事は諦め、フェイントアタックEXで、彼女を幻惑する方へと切り替えていた。カウンターアタックを封じられた形となったセレナだったが、構わずこう宣言する。
「ザーン家のセレナ、騎士としてこの場に立てることを誇らしく思いますわ。それでは‥‥参ります!」
動きこそ捨ててはいるが、その分ジャイアントとしての体力がある。人間の男性には、負けないくらいの。
「ふう‥‥。まさかこうも長く続くとはな‥‥」
「私も、まだまだですわね」
不動の盾と、技量の剣。結果は、精神力で勝るルシフェルが、消耗戦を制したとだけ、追記しておこう。
さて、最後の試合は、デュランダルVS京士郎。ところがその試合は、思いの他、派手なものとなった。何しろ、登場したのは、派手な身なりの侍と、魔獣ヒポグリフに乗った騎士だったのだから。
「私には、乗ってる騎士様の方が、素敵に見えますわ」
トゥインは、ヒポグリフに乗ったデュランダルよりも、彼と対峙している京士郎の方が、いたくお気に召したらしい。トレードマークのだんだら模様マントに、バラのマント止めをあしらい、颯爽と登場した彼は、観客席最前列に陣取った彼女の手を取り、こう言った。
「来ていたのか‥‥。では、では、再びの出会いを祝して、この試合をトゥイン嬢に捧げよう」
うちゅっと西洋風に軽く甲に口付けると、彼女、黄色い悲鳴を上げて、目を回してしまう。おそらく、興奮しすぎてしまったのだろう。若い女性には、よく起こる現象だ。
「私は‥‥、そうだな。招いた小さな姫達に、としようか」
そんな乙女の微笑ましい姿を見たデュランダル、自分は招いた将来の貴婦人や姫君、そして騎士になる少年少女達へ、槍先を捧げている。
「お互い、捧げる貴婦人が決まった所で、我が愛馬『真九郎』と共にお相手しよう‥‥。真幌葉京士郎、参る!」
借り物の馬に名前をつけたらしく、そう言って、馬を出発させる。
「バーストアタックは使わん。遠慮なくかかってくるが良い!」
一方のデュランダルは、そう言うと、ヒポグリフを空へと舞わせた。ソレを見て、トゥインが不満そうにこう尋ねた。
「ハイランドぉ、アレ、反則じゃないのですか?」
「どこにも、飛んではいけないとは、書いていないぞ」
看板に書かれた各種ルールを確かめた彼、そう答えている。納得行かない彼女の前で、京士郎は大丈夫、と言った風情で、構えを変えた。
「これが俺の全てをかけた一撃‥‥。我が烈風に、二の太刀はない!」
振り下ろされたそれから、衝撃波が放たれる。それは、空の上へと逃げたデュランダルにも、容赦なく遅いかかった。
「そちらがCOを使うなら‥‥燃え上がれ! 我が闘気よ!」
だが、そこは彼とて騎士。身を包むオーラ魔法が、その思考に加護を与えてくれる。弾き飛ばされた盾の変わりに、盾を作り出してくれる。
「く‥‥。だが、諦めはせぬ!」
そう言って、時間の許す限り、ソニックブームを放つ京士郎。こうして、馬上槍試合は、息詰まる空中戦へと発展し、観客は多いに満足するのであった。
そして、終了後。
「野に咲く小さな花々に、この勝利を捧ぐ」
試合に勝ったデュランダルが、招いた子供達に、そう宣言している。目を輝かせている彼らを尻目に、ちょっぴり複雑な表情のトゥイン嬢。
「残念ですわ〜」
「仕方がないさ。相手の実力が上だったのだから」
彼女はそう言うものの、京士郎は納得している様子だ。そして、懐に持っていたらしい真紅のバラを、彼女へと指し出す。
「負けた奴の薔薇なんか、貰っても嬉しくないだろうが‥‥、受け取ってくれるかな?」
「はいっ☆」
嬉しそうに、恭しくそれを受け取る彼女。どうやらトゥインにとっては、試合の結果は既に頭になく、『素敵なジャパンの騎士様からお花を貰った☆』だけで、舞い上がってしまっているようだ。
「丸く収まったようですわね」
「ああ、その様だな」
見守るフローラに、そう答える議長。と、彼女は、周囲に誰も居ない事を確かめると、その背中に寄りかかるようにして、告げる。
「私のナイト。地が割け、空が落ちようとも、共に歩んでいきましょう」
目を閉じて、誓う。と、彼はそんな彼女を抱き寄せ、預けられた十字架を、まるで指輪の様に返すと、軽く顎を持ち上げる。
「そうだな。我が妻‥‥、いや我が貴婦人フローラ。どこまでも、共に」
誓いの口付けが下りて来たのは、それから程なくしての事だった。