【ジューンブライド】ヴェールと鯨

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:10〜16lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 84 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月18日〜06月23日

リプレイ公開日:2006年06月25日

●オープニング

 議長が手がけているのは、毛織物ばかりではない。バンブーデンの海運業と提携し、ノルマン産の絹織物や、ジャパン産の綿織物等も取り扱っている。数の少ないそれらは、主にオーダーメイドで仕入れられ、各地で結婚式等の特別な衣装に仕立てられるべく、運ばれて行く。だがそれは、時に危険を伴ったりもするのだ。
 この忙しい時期には、元海賊のリーナも、借り出されている。もちろん、武装商戦団な彼女達は、モンスターのいる海域を運搬するのが、主な仕事なわけだが。
「何ィ!? 通り道に、キラーホエールは子供産みに来てるーーー!?」
 時には、彼女達の手に余るモンスターも登場する。キラーホエールもその一種だ。全長15mと言う巨大な生き物だが、どうやら暖かくなったので、環境の良い場所に、出産に来ているらしい。
「へい。それだけじゃなくて、産まれたてのキラーホエールを狙って、グランパスも何匹か北上して来てるそうです」
 自然の摂理と言う奴で、力のない子供は、真っ先に食料として狙われる。それにしたがって、グランパス‥‥ジャパンで言う所のシャチ‥‥も、普段の遠洋から、回遊に来ているようだった。
「‥‥何匹だよ」
「えーと、全部4〜6匹くらいっすかね」
 見張りの報告では、キラーホエールとその子供が2匹、グランパスが4匹だそうである。
「‥‥うーん。手ぇ出すより、逃げ回った方がよさそうだなー」
 子持ちの動物が凶暴なのは、海でも山でも変わらない。その為リーナは、彼らがいる海域を避け、遠回りルートを選ぼうとしたのだが。
「大変です姐さん!」
「今度はなんだい」
 もう1人、伝令が彼女の元に現れる。
「荷揚げ船を引っ掛けたキラーホエールが、ついでにヴェールを被って行きましたーー!」
「何ーーーー!!」
 かくーんと顎を外すリーナ。港から、本船に荷を運んでいた所、子供のキラーホエールに追突され、荷の一部を持っていかれてしまったそうだ。
「‥‥呼んで来い」
「は?」
 顔を引きつらせながら、そう言うリーナ。
「今すぐキャメロット行って、応援呼んで来い! 子持ちのキラーホエールなんて、まともに相手できるかぁぁぁぁっ!」
「「アラホラサッサー!」」
 そんなわけで、ギルドから冒険者達に、招集がかかるのだった。

『キラーホエールの子供に奪われた花嫁のヴェールを取り返してください』

 なお、船はリーナの海賊船を使うそうである。

●今回の参加者

 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2889 森里 霧子(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3579 イルダーナフ・ビューコック(46歳・♂・僧侶・エルフ・イギリス王国)
 ea3970 ボルジャー・タックワイズ(37歳・♂・ファイター・パラ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 キャメロットを出発した冒険者達は、まず小船でテムズ河の河口まで下り、そこからリーナの操る海賊船へと、乗り込んでいた。
「グランパスかぁ、強そうだぞ!!」
 広がる海を眺めながら、目を輝かすボルジャー・タックワイズ(ea3970)。そんな彼の背中を、軽く叩きながら、リーナはこう言った。
「強いつーか、落ちたら間違いなく食われるからな。特に、お前みたいな柔らかいのは」
「なんだとぅ!」
 口の悪い彼女、パラのボルジャーが、子供っぽく見えたらしい。と、そんなリーナをやり込めるように、横から差し出された薔薇一輪。真幌葉京士郎(ea3190)である。
「久しぶりだなリーナ嬢、またこの旗の下で戦わせて貰いに来た」
 挨拶しつつ、その手を取って口付ける彼。侍らしからぬ騎士風の仕草に、開いた口がふさがらないリーナ。それを面白そうに見ながら、京士郎はこう続けた。
「さて、こう言う時は‥‥。マドモアゼル、これは運命というものだよ‥‥と、言えばいいのかな」
「誰がマドモアゼルだいっ。いい加減にしないと、うちのタートルどもの餌にしちまうよっ!」
 そんな挨拶に慣れていないのか、顔を真っ赤にして怒鳴り散らすリーナ。これ以上からかうと、本当に切り身にされそうなので、京士郎はふふっと微笑みながら、その身を離す。
「さ、とりあえず急ごうぜ。コワい連中よりも先におチビさんに追いつきたいしな」
 相変わらず、マストのあたりに陣取ったジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)、ケタケタと大受けしていた。
「まぁ、挨拶はの位にして、早速だが、ちょっとこの辺りの地図を見せてくれないか?」
 と、京士郎はむすーっとしているリーナに、海図を見せてくれるよう、申し出る。
「どこが挨拶なんだか‥‥。まぁいいさね。ちょっと待ってな」
 まだ納得していない様子だったが、彼女は部屋から、海岸と航路の描かれた羊皮紙を持ってきた。それを、しげしげと眺めていた京士郎は、彼女にある提案をする。
「リーナ嬢、下手に追い回すから怯えるというのであれば、逆に先回りをする事は出来ないかな? 鯱がこの鯨を追っているのだとすれば、逃げよう逃がすまいと動くはず」
 小石で、鯨と鯱の位置を示す彼。兵法の理論を応用したものだ。まぁ、自然の摂理に従えば、獲物として狙われたものも、それなりに逃げる筈。そこを利用したいらしい。
「その習性がわかれば、先回りも可能だと思うのだが‥‥。例えば、こんな航路で動く事は出来ないか?」
 指で海図に線を引く彼。と、それを聞いたリーナは、こう答える。
「奴らもバカじゃねぇ。普段は海の深みに潜んでるしな。ただ、キラーホエールの方は、敵を恐れて、比較的浅い海にいるから、目星をつけて、その辺りまで進むくらいなら、何とかできるさね」
 もっとも、それは彼らキラーホエールにとって『浅い』だけで、人間達にとっては、十分深い海なのだが。
「それで良い。要は、追いつけば良いのだから」
 頷く京士郎。その様子に、森里霧子(ea2889)がこう呟く。
「って事は、スピード重視か。えぇと、重さ調整しておかないと‥‥」
「馬は連れていけないからな。そこのワンコくらいなら、乗せてやるけどよ」
 結構な大きさの船とは言え、流石に大きな動物はお断りらしい。仕方なく、港近くに留守番をさせざるを得ない森里。
「これだけの大きさだと、気付かれずに近付くってのは、ちっとムリがあるか。なら、とにかく船を飛ばすだけだな。最短距離で突っ切ってやろうじゃないか」
 マストの見張り台から、船全体を見回しながら、そう言うJJ。と、リーナはこう言う。
「グランパスがキラーホエールをとっ捕まえる前に、追いつかなきゃならんしねぇ。そんなトコにへばりついてると、振り落とされるかもよ」
「俺ぁ、そんなへまはしないよ」
 ニヤリと笑って、見張り台の上で逆立ちなんぞしてみせるJJ。そんな彼らの姿に、京士郎は舳先に立って、偉そうに手を挙げる。
「さぁ、俺達の船出だ! 帆を上げろ、全速力でな!」
 肩に乗った黒猫の露出霧が、主のせりふに、にゃおんと一声応えるのだった。

 先回りをするには、ある程度のスピードが必要だ。そんなわけで、船は、普段より3割り増しの速度で、キラーホエールの向かった海域へと向かっていた。
「ほらほら、今の倍はスピード出せる筈だろ! そこの岬をこー、ぎゅぎゅーんっと曲がってさー」
 舵を取るマーメイドを、後ろから煽っているJJ。見れば、帆を膨らませるロープを支え、少しでもスピードが出るようにしている。
「船乗りのお守り、持って来てよかったなー」
 その姿に、手もとの貝殻で作られた首飾りをチャラつかせるイルダーナフ・ビューコック(ea3579)。
「いつ落ちるかわかったもんじゃないしねー」
 霧子も、同じお守りを所持しているようだ。出なかったら、JJが極限まで上げさせたスピードで、船酔いでひっくり返っていたかもしれない。
「まぁ、残念なのは、小船が付いて来れない事だけど‥‥」
「小船数隻引き連れてなんて、どこの水軍だよ」
 霧子が残念そうにそう言った。念の為、救助用の小船に随行させる事を提案したのだが、それでは旗船の速度が遅くなるのと、集団出航を良しとしないリーナの意見で、却下を食らっている。
「まぁ、あれを積み込めただけでも、よしとするか」
 船の片隅には、空樽にロープを縛り付けたものが数個、転がっていた。いざとなれば、それを浮き代わりにするそうだ。他の荷物は、出来るだけ水を被らないように、密閉中である。ちなみに、彼女が使う忍術は、魔法扱いなので、水に濡れても大丈夫だ。
「「「「「いたーーーー!」」」」」
 それでも、普通の二倍の速度で進んだ結果、積荷に救助用道具を追加しても、程なくして、キラーホエール達に追いつく事が出来た。
「でっかいなぁ」
 キラーホエールを見て、ボルジャーが目を輝かせた。海面に浮かび上がる体躯は、船と同じくらいはある。
「あ、ちび鯨、まだヴェール被ってる」
 その傍らに、その3分の1くらいの大きさの、子供がぴっとりと寄り添っていた。頭には、ヴェールがちょこんと乗っかっている。しかも、落とさないようにそっと泳いでいるようだ。
「すっかり気に入られたみたいだな」
 多分、女の子なのだろう‥‥と、そう呟く京士郎。尻尾が、るんるん気分で揺れている。それを見たイルダーナフ、こう解説する。
「うむ。ご機嫌のようだ。このまま、歌でも歌ってくれれば良いのだが」
 それを聞いたボルジャー、歌うクジラに興味を示し、こう尋ねてきた。
「鯨って歌うのか?」
「そんな話を聞いた事がある。なんでも、それでコミニュケーションを取るそうだ」
 イルダーナフが聞いた限りでは、キラーホエールは、その歌声を使って話すそうである。ただ、実際に聞いた事はないので、あくまでも知識でしかないのだが。
「何も聞こえないぜ」
「俺も、さっきから鯨の声を聞こうとしてるんだが‥‥」
 彼の解説に、耳を澄ましている霧子だったが、そう言ったイルダーナフともども、何も聞こえては来ない。並の音と、子キラーホエールが、ぱしゃぱしゃと波を立てる音だけだ。
「どうやら海の上では、聞き難いようだな。誰か笛でも吹ければ良いんだが‥‥」
 クジラの歌から、その感情を読み取ろうとしたイルダーナフだったが、その試みは失敗してしまったようだ。
「よぉし、そういう事なら、おいらに任せな!」
 と、そんな彼の呟きに、ボルジャーがぴょこんっと船の縁に飛び乗り、自作らしき鼻歌を歌い始める。
「こんどのあいてはグランパス〜。海の王者だ水の中〜♪ 取りもどすんだ、子供から〜鯨の子供は逃げ回る〜♪」
 ただし、吟遊詩人達の様に、歌唱に長けているわけではないので、とっても調子っぱずれた。
「だーっ、音程外れてるって! 見ろ、グランパスがこっちに気付いたぞ!」
 耳を塞ぐJJ。彼の指摘に沖合いを見れば、音痴な歌に、グランパスの攻撃意欲が上がったようだ。
「姐さん、船であいつら牽制できます?」
「ま、やってみようかね」
 霧子の申し出に、リーナは船をキラーホエールとグランパスの間に入りこませる。構わず突進してくるグランパス達。
「よぉし、来たな!」
 進路を確かめると、霧子は荷物の中から投網を出してきた。
「若いの自愛しろよ、さすれば運命の女神も微笑んでくれる」
 イルダーナフが、その彼女を含め、全員にグッドラックの魔法をかける。これで、少しは運が向いて来た‥‥筈だ。
 ところが。
「って、えぇぇっ!?」
 グランパスは、彼女が投網を投げようとした刹那、手前で大きくジャンプする。巨体の跳ねる衝撃で、大きな波が出来、大きく揺れる船。
「乙女に何するんだよぉぉぉぉ!!」
「大丈夫だ! そう簡単に船は壊れない!」
 傾いだ船を、何とか元に戻そうとするリーナを見て、JJが安心させる様にそう言った。イルダーナフが、慌ててホーリーフィールドを唱え、グランパスの一撃に備えている。
「これで一撃には耐えられるはずだ。今の内に割り込め!」
「むしろ奴らを跳ね飛ばすくらいの勢いで!」
 彼とJJの指示に、リーナは「あたいの船を、盾代わりに使うんじゃねぇ!」とか言いながら、言われた通りにしてくれる。直後、どんっと鈍い衝撃が走り、ホーリーフィールドが砕け散った。
「よぉし! グランパスが強いか、パラの戦士が強いか勝負だ!!」
 相手の動きが鈍った所で、ボルジャーがメタルロッドを持ち出してくる。長さ2mの鉄の棒で、海面を打ち据えると、グランパス達は、船を襲う事を諦め、周りこもうとしてきた。
「グランパスの奴め、子クジラに向かってるぞ!」
 急いで逆側の縁に走ると、グランパス達は、船の影にいた子キラーホエールに標的を変えたらしい。
「ここで何とかおチビさんから、引き離せれば‥‥!」
 キラーホエールとて、決して頭が悪いわけではないだろう。自分の子を助けてくれれば、警戒を解いてくれるかもしれない。その為には、あのグランパス達を追い払うのが一番だ。
「俺が何とかしよう」
 すっと縁に進み出た京士郎、そう言うと、グランパス達へ向けて、ソードボンバーを放つ。ゴルロイス公に良く似た太刀筋のそれは、彼らへ衝撃の刃を飛ばしていた。
「これで鯨達に、こちらが敵でない事がわかればよいのだが‥‥」
 攻撃を食らったグランパス達は、まるで様子を見るかのように、遠巻きにキラーホエールと、船の周囲を回遊している。と、その時、船の反対側から、大きな波は襲ってきた。
「やば! ママンに気付かれた!?」
 霧子がそう叫ぶ。見れば、異変に築いたキラーホエールが、子供を守ろうとしている所だった。しかも、逆側に居たちびキラーホエールも、母親の所に戻ろうとしている。ヴェールは、未だにその頭に載せたままだ。
「仕方ないなっ。霧ちゃん、近付いている今のうちに、なんとかしてくれ」
「ああもうっ! 仕方ないなぁっ!」
 言われた彼女、まず空樽を落とすと、その上へと飛び降りていた。
「頼むから、潜らないでくれよっ!」
 直後、霧子の姿が、煙と共にかき消える。微塵隠れの術を使ったらしく、一瞬後には、子キラーホエールの背中へと移動していた。
「だ、大丈夫かな」
「さっき、水遁の術を唱えていたから、少しくらいなら大丈夫だろう」
 不安そうなボルジャーに、イルダーナフがそう答えている。霧子の唱えた忍術の効果は、例え覚えたてでも、1時間は保つ。もし、今キラーホエールに潜られても、息が詰まって死ぬと言う事はないだろう‥‥と。
「そんなら、意地でも、グランパスを近づけないようにしないとな。頼むぜ、旦那」
「任せておけ」
 反対側で、グランパスの様子を見ていたJJが、京士郎にそう言った。と、彼はぐるぐると回遊しているグランパスに、続けざまにソニックブームをぶつけている。
「ほらほら、おねむの時間でちゅよー」
 その間に、霧子はキラーホエールの上で、春花の術を発動させた。と、キラーホエールの動きが、だんだんと鈍くなってくる。その隙に、ヴェールを確保する彼女。
「よし、今だ!」
 合図を送ってきた霧子嬢の元に、船の上から飛び込むJJ。腰につけたロープを使い、まるで曲芸師の様に、彼女を上から引っ掴んだ。
「引っ張り上げろ!」
 イルダーナフが、リーナの配下にそう叫ぶ。彼らの力で、微塵隠れを使わずに済んだ霧子、パニくる母親から、さっさと逃亡したのは、言うまでもない。

 そして。
「パッラッパパッパ!! おいらはパラっさ!! パラッパパラッパ!! おいらはファイター!!」
 依頼が概ね解決して、ご機嫌度数の上がったボルジャー、とりあえず歌って踊っている。相変わらず下手くそではあったが、好きで踊るのには、関係ないだろう。
「結局、御友達にはなれなかったなー」
 残念そうにそう言うJJ。まぁ、いくら知識があるとは言え、専門家ではないので、仕方ないと言ったところだろう。
「それでは、ここにいる全てのものに、揃って長寿と繁栄があらんことを。敢えて言うなら‥‥グッドラック」
 皆に、そう言う自称:不良中年のイルダーナフ。どっかで聞いたようなセリフだが、多分、吟遊詩人が歌っていたのだろう。そう、きっと異国のエルフあたりが。
 こうして、ヴェールは無事、花嫁さんに配達されるのだった。