【ジューンブライド】ドッキリ告白
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月27日〜07月04日
リプレイ公開日:2006年07月03日
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●オープニング
その日、ギルドには年頃の青年が訪れ、こんな事を依頼していた。
「言いにくい事なんだが‥‥。その‥‥、プロポーズを手伝って欲しいっ」
「は!?」
目を点にするギルド職員。と、その青年は、照れくさそうな表情をして、事情を話す。
「い、いや。別に、自分が告れないと言うわけじゃないんだ。ただその‥‥、彼女、演劇が好きで、そう言うシーンに憧れているようなんだ。だから‥‥、せっかくだから、そう言うドラマチックな告白の方が、喜んでくれそうだなーと」
つまり、複数の人間で、告白が盛り上がりそうな場面を演出してもらいたいらしい。
「なるほど、それで人手がいるわけですね」
「結果的に振られてしまっても構わないんだ。そこは後悔しないから」
ただ、それで成功率を上げようと言う腹ではなく、ただ単純に、好きな相手の喜ぶ方法で‥‥と言った心持らしかった。
「何か、他に入りようの物はありますか?」
「いや、衣装と指輪に関しては、すでに用意してある。冒険者の人達には、彼女が驚くような方法で、それを渡せる演出をしてくれれば良いよ」
彼の話では、礼服や指輪は、すでに購入済みなので、もし何か用意するとしても、演出の為のものだけにして欲しいそうだ。
「つまり、演劇みたいなものですかね」
「まぁ、悪戯も多少入るだろうけどね。それじゃ、お願いします」
そんなわけで、ギルドには次のような依頼が、張り出された。
【告白ドッキリ大作戦、参加者募集中!!】
彼の説明だけでは分かり難いので、職員が機転を利かせたようである。
●リプレイ本文
さて、依頼を受けた冒険者達は、依頼人が勤めている牧場を、集合場所に選び、軽く挨拶と打ち合わせを済ませていた。
「フられてもかまわないっていう心意気がいいよねー。気に入った!」
レン・レント(ea1943)が、笑いながらそう言っている。べしばしと、背中をたたかれ、ちょっと痛そうな顔をしながら、彼は『よ、よろしくお願いします』と言っていた。
「とはいえ、もちろんやるからには成功してほしいんで、僕もがんばるよ。さて、ドッキリの内容についてなんだけど、こんな感じで‥‥」
ごしょごしょと、皆に耳打ちをするレン。確かにその作戦なら、あまり深い事を考えずに済みそうだった。その為、他の冒険者達も特に反対はせず、早速配役を決めにかかる。
「ここはやはり悪役に徹するべきですね? 彼女には、少し怖い思いをさせてしまうと思いますが‥‥」
鈴木雪(eb5497)がそう言った。と、レンが頷いて、同意する。
「僕ももちろんその悪役をやらせてもらうよ。それで良いよね?」
依頼人に反対する意思はなさそうだ。と、お雪さんは、彼を見て、こうきり出した。
「うーん、彼には殺陣の勉強をさせるべきでしょうか? さまになっていないと、彼すらかっこ悪く見えますし…」
確かに、牧場でそれなりに鍛えているとは言え、彼らのような冒険者と言うわけではない。だが、彼女の提案に、レンが首を横に振る。
「演劇好きな彼女はともかく、あまり演劇見てない彼に、凝った演出頼んでも難しいだろうし」
「やるからには、完璧を目指したかったんですが‥‥」
残念そうにそう言うお雪さん。と、レンはそんな彼女を慰めるように、こう続けた。
「僕らだって、プロの俳優じゃないしねー。自然体で良いと思うよ」
あまり肩肘を張ると、わざとらしく見えてしまうだろう。演劇好きと言う相手に、見抜かれてしまう可能性は高い。そう諭されて、お雪さんは、「そうですね」と、納得したように、頬笑みを見せている。
「それじゃ、ドッキリを行うのは、彼女の仕事の邪魔にならない、休みの日で良いかな?」
その話を聞いていた依頼人は、レンのその申し出に、「はい、お願いします」と、頭を下げるのだった。
で。
「そこのお嬢さん。パン屋の娘さんだね?」
その次の休みの日、出かけようとした娘さんを待ち伏せていたレンは、彼女が大通りから離れた瞬間、他の仲間達と共に、彼女を取り囲んでいた。
「だ、だれっ?」
後ずさる彼女。それもその筈で、レンの姿ときたら、鷹の羽根があしらうわれた、いかにもそれらしい鎧‥‥ホークウィングに、禍々しい装飾の施されたブラック・ローブ、おまけに黒皮の首飾りである。同業ならともかく、パン屋の看板娘に、驚くなと言う方が無理と言うもの。
「ちょっと付き合ってもらえないかな」
そう言って、レンは持っていたダガーを、彼女に見せつけるようにちらつかせる。パラの彼では、あまり迫力があるようには見えなかったが、そこへ充分迫力がありそうなお雪さんが、旅装束で顔を隠したまま、こう告げた。
「親方様があなたをご所望です。一緒に来ていただきましょう」
「いやですってばー」
ぐいっと腕を引っ張るお雪さんから、意味のわかっていない彼女は、いやいやをして、反対側に逃げる。
「おっと。逃がさないよ!」
だが、その退路は、トウ・シス(eb4830)によってふさがれてしまう。シフールの彼女、その異性に間違われる外見を活かし、帽子を深く被って、まるで盗賊のようだ。
「彼女達が抑えているうちに、登場するんだ。いいな?」
「は、はいっ」
1人、出番待ちだったタンザナイト・ジェイ(ea3154)に押し出され、ぎゅっと拳を握り締めている依頼人の兄さん。
「聞き入れないのであれば、力ずくでいかせていただきます」
そう言って、忍者刀に手をかけるお雪さん。もちろん、抜くつもりは欠片もない。棍棒として使う予定さえないが、一応雰囲気と言う奴だ。
「もう。名前くらい名乗ってくださいよー!」
「「「お断りします」」」
看板娘さんの文句に、3人が口をそろえて、そう宣言した時である。
「ま、待ていっ!」
やや緊張した表情で、打ち合わせ通り駆け込んでくる依頼人さん。
「誰です? あなたは」
「そ、その子の知り合いだっ。え、えーと、どこの誰だか知らないが、嫌がってるだろう。は、離してやれっ!」
お雪さんがそう言うと、彼はちゃんと台詞を言ってくれた。ただ、口がよく回っていないのは、ご愛嬌と言う奴にしておこう。
「あ、牧場の‥‥」
看板娘さんも、それが知った顔だと気付いたようだ。
「逆らうとは良い度胸だな。ならば‥‥」
お雪さんが、ぱちりと指を鳴らすと、増援とばかりに、タンザナイトが後ろから現れる。びっくりして飛びのいてしまう依頼人さん。
「こう言う時もあろうかと、傭兵を雇っておいたんだよ。やっちゃって」
レンがそう言って、タンザナイトをけしかける。
「お前に怨みはないが。これも渡世の義理と言うやつだ。悪く思うな」
「わ、わわっ」
問答無用で打ちかかるタンザナイト。依頼人が、身を守ろうとかがんだ所へ、その腕を掴み、自分の方へと引き寄せる。そして、抵抗する彼を組み伏せようとするふりをして、こう囁いた。
「大丈夫だ。絶対に怪我はさせん。上手く投げてやるから、安心してぶつかって来い」
「は、はい〜」
こくこくと頷く依頼人さん。そこへ、加勢の不利をして、彼の頭に止まったトウが、こう言った。
「ちゃんと打ち合わせどおりにやってくれれば、あわせるからさ」
「わ、わかりましたっ」
意を決したらしい依頼人さんは、タンザナイトが腕の力を緩めた瞬間、逃げるように身を離す。と、すかさずそこへ、レンが割り込んできて、彼に詰め寄っていた。
「ちくしょう。お前とは何の関係もないだろっ」
「わぁっ」
突き飛ばされ、尻餅をついてしまう依頼人さん。
「し、しまった。力が入りすぎちゃった」
驚いたのは、彼ではなく、レンの方である。どうしよう、と思ったその刹那、彼の前に立ちはだかる女性が1人。
「だ、大丈夫ですかっ。んもう、何をするのよ!」
「え‥‥?」
一行、まさか看板娘が割り込んでくるとは思って折らず、一瞬動きが止まる。と、それを良い事に、娘さんはつかつかとレンの元に歩み寄り、片手を上げた。
「あんたなんか、こうしてやる!」
すぱーーんっと平手の音がした。
「痛ぁ〜」
ほっぺを赤くしたレン、思わず涙目になってしまう。
「ねぇねぇ、何か話がおかしくない?」
「構わん。とりあえず、約束通りやれば良い話だ」
トウの問いに、タンザナイトはそう言いながら、再び依頼人へと近付いて行く。が、そこでまた看板娘が反撃に出た。
「触らないでって言ったでしょ!」
「っつー‥‥」
がぶり、とタンザナイトに文字通り噛り付く娘さん。年頃の女性らしからぬ行動だが、武器も何も持ち合わせていないので、仕方ないと言ったところだろう。
「ねぇ。こ、ここらで引き上げた方が良いんじゃないかしら」
そんな彼女の姿を見て、慌てた様にお雪さんが言う。顔を引きつらせて、「そ、そうだねっ」と答えるレン。
「「「「覚えてろー」」」」
こう言う時の捨て台詞は、だいたい決まっている。踵を返して、路地の向こう側へと退散する4人。暫く走ったふりを続けていたが、そろって足音を小さくし、こっそりと様子を見に帰る。
「ごめんなさい。私の為に‥‥」
「い、いや。こっちこそ、迷惑かけて‥‥」
建物の影から覗くと、なんだか『ちょっと頼りない青年』と『母性本能の強い女性』とのラブロマンスが始まっているようだ。
「上手く行きそうだね」
これなら、プロポーズも受け入れてもらえるだろう。そう思ったレン、ほっとしたようにそう言った。
「こっちは、少々かっこ悪かったですけどね」
苦笑を浮かべながら、そう言うお雪さん。そう言う情け深い話に弱いらしく、服の袖で、すぐに溢れた感動の涙を拭っていた。
「後で、詫びを入れたほうが良さそうか?」
タンザナイトはと言うと、噛まれた腕をさすりながら、そう聞いている。まぁ、怪我自体は大した事はないだろう。
「後で、お花でも贈ってあげようよ。お祝いに、さ」
そんな彼らに、トウがそう提案する。持って行った花を、花嫁の髪飾りにする事を夢見て。