【甲州街道】笛吹き幽霊
|
■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:10〜16lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 82 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月17日〜07月24日
リプレイ公開日:2006年07月24日
|
●オープニング
旧暦6月。甲州では、梅雨の時期に、毎年頭を悩ませている問題があった‥‥。
「おぉーい。どうだったー?」
「ダメだー。流されちまってるよぉう」
河辺で、大水の後らしき水路を修復している村人達。そう、この時期、市内を流れる大川は、度々氾濫を起こしていたのだ。しかも、川は領国を分断するように、中央を流れている為、事は村人ばかりではなく、甲州全域に及んでいた‥‥。
「うーむ。今年は多いですね‥‥」
「いつもなら、だいたい氾濫する場所も、時期も決まっていると言うのにな‥‥」
当然、話は主であるお屋形様こと、源武公のもとにも届いている。
「いかがでしょう。ここは、精霊様のご意見を伺って見ては」
各方面の被害を耳にした高坂、そう尋ねた。ここん所、お屋形様が大人しくしてるので、口調も穏やかになっているようだ。
「奉納神事か‥‥」
「何をにやけてるんですか」
まぁ、何か他の事を考えたらしいお屋形様が、頬を緩ますのはご愛嬌と言う事で。
「べ、別にっ。舞妓を踊らせるのはともかく、その程度で、果たして答えが出るだろうか‥‥」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦と申します。もし、何も答えが出なかったとしても、水神様のご機嫌を沈める為に、舞いを奉納するのは、悪い話ではありますまい」
そうすれば、今年はこれ以上暴れないかも知れない。苦しい時の神頼みとは言うが、少しでも気分を上向きにしてもらうのは、人も精霊も変わらないと。
「神楽舞と言うしな。わかった。差配は任せよう」
「ははっ」
頭を垂れる高坂。こうして、大川の水辺に、急遽、舞台が建てられるのだった。
さて、それと時を同じくして。
「頭領、お呼びッスか」
領内の河辺に集う影4つ。
「うむ。頼みたい事がある」
「なんなりと」
一つは、夜だと言うのに、水面に身を浸している。彼は、他の3人にこう命じていた。
「人間どもが、我らの棲家を荒しておる。こやつら、例年の大水だけでは、足らぬと見える」
「どこからその様な話を‥‥」
頭を垂れる1人がそう尋ねると、その御仁はこう言った。
「うむ。我らに従う人間が、その様な注進をしてくれたのじゃ。行け! 行って、我らに逆らう愚かさを思い知らせてくるが良い」
「「「はっ!!」」」
散る彼ら。後に残り、寂しげに水面を見つめる青年が、村人に目撃されたとかされないとか。
だが、しばらくして。
「なぁ? 聞いたか? 川に出る幽霊の話」
「ああ、聞いた聞いた。何でも、笛の音と共に、若い男が現れて、笛吹きながら、上流の方へ消えて行くってあれだろ?」
川の周囲に住む漁師達の間で、そんな噂が広まっていた。しかも、お屋形様の命を受けた役人が、この辺りで普請‥‥つまり、舞台の建築を行っている間、まるで警告でもするように、現れると言うのだ。
「もしかしたら、川の神様が、怒っていなさるのかもしれねぇなぁ」
「わざわざ引っ掻き回す事ぁないのになぁ」
漁師達は、すっかり怯えて「「くわばらくわばら」」と呟いている。その怯えようは、いずれ人足達にも広がってしまうだろう事が、目に見えるほどだった。
数日後。
「奉納舞?」
「うむ。是非うちの生徒達も‥‥と、お屋形様から手紙が来たのじゃ」
富士学問所でも、パープル女史を含め、招待状が届いていた。
「じゃあ、久しぶりにお屋形様と会えますのね☆」
「そなたには、また実家から引き剥がす事になってしまうがのう」
嬉しそうなお琴ちゃん。と、申し訳なさそうな顔をする三条夫人に、彼女はうふふふふと怖い笑いを浮かべながら、こう話す。
「とんでもございませんわ。ああ、またあのえきさいとな日々が始まるのね‥‥」
「やっぱり何か勘違いしておるのう‥‥」
最近は、だいぶ西洋かぶれが進んでいるようで、言葉にイギリス語が混ざっている。
「でも、気になるわね‥‥。何か嫌な予感がするわ‥‥」
だが、それを教えるパープル女史は、手紙を片手に、そう呟くのだった。
そして。
『水神様に奉納する舞を披露してくれる方を募集します。当日は、源武晴信公もお見えになられますので、御前舞の形になると思います。詳しい演出方法はお任せします』
『御前奉納舞の舞台に、怪しい幽霊騒動が起こっています。何やら企んでいる方の目撃情報もありますので、調査の上、被害の出ないようにしていただきたいです』
そんな依頼が、ギルドに張り出されたと言う。
●リプレイ本文
大量の雨を集めた川は、ごうごうと水音を立て、その荒々しさを人の子に見せつけていた。
「へー、エリスも先生なの?」
「はい。ジャパンに錬金術を広めにやってきました。いつか、この流れを、我が錬金術で止められると良いのですが‥‥」
ミカエル・クライム(ea4675)の問いに、エリス・フェールディン(ea9520)は流れる川面を見つめ、そう答えた。と、彼女は感心したようにこう続ける。
「そっかー。頑張ってね☆ しかし、パープル先生と一緒になるのも久しぶりねー♪」
「って‥‥。私は見物に来ただけの筈なんだけどっ」
不満顔のパープル女史。そんな彼女を、まぁまぁと慰めながら、ミカエルはこう言った。
「いーじゃないの☆ さーてと、しっかりと依頼を完遂しましょうか♪」
「けひゃひゃひゃひゃ。そっちがティーチャーなら、我が輩の事はドクターと呼びたまえ〜。くれぐれも、名前で呼ばないようになー」
そんな2人を見て、トマス・ウェスト(ea8714)が自己紹介を済ませようとする。人を見下したような口調で、気だるげに語尾を延ばす彼。しかし、ご機嫌斜めなレディさんに、そんな自己主張をすると、どうなるか。
「お黙んなさい、トマス」
思いっきり名前で呼ばれてしまう。ドクターが牙を剥くようにして、「呼ぶなって言っただろー!」と食って掛かると、それを押し留めるように、雪守明(ea8428)がこう言った。
「まぁ落ち着け。今はそんな事より、その幽霊騒ぎを解決しようじゃないか」
「この世に、錬金術で説明できないことなどありません」
物理法則を重んじるエリスは、幽霊など端から信じていないようだ。
「なんにせよ、現場百回と言いますし。村人から、現場の事を聞いて見るのが、筋ではないでしょうか」
「そうだな。目撃談があるということは、それなりに目撃している人がいるということだから。まずは、そういう人たちから情報収集だ」
エリスの提案に、頷く鋼蒼牙(ea3167)。そう言うわけで、冒険者達は、手分けしてその笛吹き幽霊の詳しい状況を聞き込みに行く。
「河童の悪さか、はたまた川姫の仕業か‥‥いずれにせよ、物の怪の仕業か、人的企みに違いありませぬ、紅葉達がしっかり調べて、解決致しまするゆえ、皆様はご安心くださいませね」
聞き込んでいる間、村人を安心させるように、そう言う火乃瀬紅葉(ea8917)。答える村人さんの顔が、多少引きつっていたのは、連れてる鬼火の都合上、仕方がないと言うものだろう。
地元漁師や住民に、蒼牙が聞き込んで来た所によると、笛吹き青年の方は、線の細い神経質そうな奴で、吹いている曲は、どこか緊張した感じの曲だったらしい。会合していた面々に関しては、見かけこそバラバラだが、皆、一様に青白い肌をしていたそうだ。
「うーん。幽霊が出始めたのは、中州の舞台の普請が始まってからなんだな。ということなら、例年にない水害と、幽霊騒動の関係は‥‥」
その聞き込み情報を元に、相関関係を導き出そうとする明。が、元々戦闘系の彼女、思考力を越えてしまい、耳から煙を吹き出している‥‥ように見えた。
「無理して考えないほうが良いと思いますよ。しかし、何か証拠はないかしら‥‥。あれば、錬金術理論を応用できるのだけれど‥‥」
そんな彼女に、エリスがそうアドバイスする。と、紅葉が痕跡が残っていないかどうか、ペットの鬼火くんで照らしつつ、こう言った。
「幽霊の正体見たり、枯れ尾花とも言いまする。きっと何か証拠があるはず‥‥」
だが、いくら目を凝らしても、川岸から川へ向かう足跡は、村人の物と区別がつかない。蒼牙の話を採用すれば、河童が笛を吹く青年を御神輿して、上流に消えていった‥‥のかもしれないが、この状況では、判別がつかなかった。
そして、深夜。
「幽霊というのは、夜出るものと相場が決まっているのではないかね〜?」
どこでもやなぎを使って、擬態しているドクター、気だるげな口調のまま、そう言っている。目撃されたのは、かなり限定的な場所だった。ので、一行は、眠い目をこすりつつ、出現場所に張り込む事になった。
「だいたい、夜中に会合とかしてる時点で怪しいわよね〜」
ミカエルが、銀の儀礼用短剣を握り締めながら、そう答えている。
「奉納舞の舞台を作らせまいというのなら、中洲に化けて出ればよいこと。どちらにせよ、もし悪意あるものなら、ここで普請を取り止めれば、向うの思う壺だしな」
皆をそう鼓舞する明。彼女が聞き込んできた話では、笛吹き幽霊の奏でる曲には、古老が聞き覚えがあったと証言している。もう60年も昔の話らしくて、誰が作ったかと言うのは、忘れてしまったそうだが、少なくとも彼らには、悪意で奏でていたようには、思えなかったようである。
「うーん‥‥。そうすると、幽霊と中州で話していたのは、別人物の様な気もするが‥‥」
中洲で話していた人物は、ジャパン語と言うよりは、頭に直接流れ込んでくる感じで、話していたらしい。口を開かずに話す不気味さが、村人の恐怖を煽っていたようだ。
「しかし‥‥。あの気弱な大工連中ではなぁ‥‥」
頭を抱える明。普通、大工や鳶と言った職種の御仁達は、肝の据わった奴が多いものだが、やっぱりそれでも、幽霊は怖いらしく、すっかり怯えきっている。あれでは、事件が起きる前に、小屋がどうにかなってしまうと、そう考えた時だった。
「あ、聞こえてきた!?」
物悲しい音色が、川の上流から流れてくる。目を輝かせるミカエル。目を凝らせば、ぼんやりと闇夜に浮かび上がる青年。その口元には、木製の素朴な横笛が当てられている。と、その時だった。
「けひゃひゃひゃ、判別と攻撃をかねてピュアリファイをかけてやろう〜」
やなぎに擬態していたドクター、いきなり詠唱開始。その輝きからして、アンデッドには洒落にならない威力だろうと判断した紅葉、彼を羽交い絞めするようにして、押し留める。
「マテマテマテ! 確かめるだけなら初級で充分だ! 達人まで使うな!」
「えぇい、止めるなぁ〜」
じたばたと暴れるやなぎ姿のドクター。それに気付いた笛吹き幽霊くん。びくうっと驚いて、茂みの中に隠れてしまう。その直後、今までの緊張した印象の曲から、音が小さくなり、息を潜めるような印象に変わる。
「攻撃を仕掛けてくる様子はなさそうですね」
「この子がいるからでしょう」
エリスが怪訝そうな表情を浮かべると、紅葉はそう答えた。彼女の後ろには、鬼火と不思議な輝きが浮かんでいる。どうやら彼は、冒険者達を自分を退治しに来た連中だと思っているようだ。
「なんだか怯えてるみたい‥‥。ちょっと話、聞いてみましょう」
そう言って、てこてこと幽霊の方へ歩いてくミカエル。無抵抗な幽霊を無理やり浄化と言うのも、気がひける。
(「素直に話を聞けたとしても、本当の事を話すとは限らないから、慎重にやらないとねー」)
イギリスでの経験が、しっかりと身についているらしいミカエルは、そう思うと、幽霊さんに話しかけた。
「えーと、はいだったら笛を1回、いいえだったら、笛を2回吹いてくれるかな?」
ぴーと、笛を1回鳴らす幽霊さん。その様子を見るに、どうも笛でしか話せないようだ。多少面倒だが、敵ではないのがわかっただけでも、儲けものなのかも知れない。
その幽霊さんから、話を聞いたところ、どうやた神楽舞の最中に、信玄公を襲撃する計画があるらしい。幽霊さんは、それを警告する為に、夜な夜な現れて、なんとか計画を断念させようとしていたそうだ。
「やっぱり現場を押さえねばな」
「その為に、こうし見廻りを致しているのです」
明の台詞に、そう答える紅葉。舞や踊りに関われない彼らは、こうして警備を兼ねて、油断なくあたりを見回していたのだが。
「神楽舞か‥‥。それで収まる類のものであればいいが」
舞台の上では、早くも設置が行われている。その様子を見て、そう呟く蒼牙。
「他の皆様も、ご苦労様にございまする‥‥?、まるで幽霊でも見たような顔を致しておりまするが、大丈夫にございまするか?」
そんな彼に、一礼してみせる紅葉。しかし、作業を続けている村の人は、顔を引きつらせたままだ。
「驚いているようだなー。それにしても‥‥。中州の工事を止めさせたい妖怪の類いなら、中州に出ればいいと思うが‥‥」
そんな彼の姿を見て、苦笑する明。続けて、この場で襲撃してくる意味を問うてくる。
「高坂殿の話では、この後、すぐに江戸復興祭に出発するらしいですから、その前にって所でしょうね」
そう答える紅葉。江戸に行ってしまえば、襲う事は難しい。自分の力の及ぶ範囲にいるうちに、その首を貰い受けたいと考えたようだった。
「しかし‥‥。舞に関しては、お任せだ‥‥正直」
「ええ。その為に、早めに来て、彼女達が、パープル先生に仕込んだのですから」
もっとも、その為には、神楽舞の舞台を完成させなければならない。苦笑する蒼牙に、そう言う明。聞き込みの最中、姿を見せなかったジークリンデ・ケリン(eb3225)と、アレーナ・オレアリス(eb3532)は、先について、エリスとミカエルが強引にひきづりこんだパープル女史に、奉納舞用の民族舞踊を無理やり仕込んでいたようだ。
「始まったか?」
「そのようだ」
そんな‥‥ばたばたした準備を経て、ようやく幕が上がる。衣装を着替え、丹念に呼吸を合わせようとするアレーナ。それを見て、ミカエルがジークにこう尋ねた。
「ねぇねぇ、ファイヤーコントロールの演出、入れたらダメなの?」
「水神様のお祭ですから、火はなるべく使わないで下さいね」
首を横に振るアレーナ。と、ジークが「その分、私がファンタズムで何とかしますから」と言ってきたので、彼女はそれに従う事にする。
その彼女が皆に示したのは、甲斐の国の、四季折々の風景。その中を、アレーナは感じたままに舞う。多少たどたどしい踊りだったが、ジークが三条夫人から借りて来た衣装と、金髪碧眼の容姿が、それを補っていた。
「綺麗ですねー。神楽舞は一種の法なのでしょうか。錬金術で考えると、踊りを舞うだけで、洪水がなくなる原理はないのですが」
まるで、羽衣をまとった天女のように。薄絹の衣を身に纏い、金色の髪をたなびかせ、その体を惜しげなく見せているアレーナ。鍛え上げた体は、一種の芸術品のようで、観客はため息を漏らしている。それを見て、そう感想を述べるエリス。
「あれは祈りよ。もっとも、娯楽も多少は入っているみたいだけどね」
パープル女史が苦笑している通り、観客の半分をしめる男性諸氏は、アレーナの体躯より、その豊かな胸に心奪われているようだったが。
「くそう。半エルフ如きが錬金術を修められて、くぅ〜、いいないいなコンチクショ〜」
「をほほほ。努力しなさい。じゃ、行ってきまーす☆」
話の弾む教師2人を見て、うらやましげにそう言うドクター。そんな彼に、パープル女史は高笑いしながら答え、舞台へと上がる。
「そろそろ終盤‥‥。今のうちに、唱えておくか‥‥」
来るとすれば数分の内だろう。蒼牙はそう呟いて、オーラエリベイションをかける。舞は、水の精霊の踊りから、剣の舞へと変わっていた。普段はライトハルバードを愛用しているパープル女史だが、今回はアレーナにあわせ、儀礼用の剣を使ってくれている。民族舞踊風にアレンジされたその舞の上で、ジークが水飛沫をかける。クリエイトウォーターのスクロールで湧き出した水は、水の張った舞台に、綺麗な虹を作っていた。
だが、その虹の元、パープル女史とアレーナが、剣を合わせようとした刹那である。舞台に張り巡らされた水が、勢い良く吹き上がっていた。
「襲撃者か!?」
かけつける蒼牙。彼が、オーラショットを放つと、それは水の幕に阻まれ、中から3人の青白い肌の青年が姿を見せる。目撃証言にあった姿とそっくりな彼らこそ、この騒動の真犯人だろう。
「ちっ、アンデッドではないようだね〜。それで君たちは何者かね〜? コ・ア・ギュレイトォ!」
明らかに死者の軍勢ではない。その正体を確かめるため、ドクターが魔法をかける。だが、その三人衆は、にやりと笑って、それを払いのけるような仕草を見せた。
「こっちに来る! お屋形様、抵抗しないで下さいね!」
異変を悟ったアレーナが、上覧席にいる信玄公に、レジストマジックをかける。そのまま、立ちはだかるように、彼らの前へ陣取る彼女。パープル女史、それにジークも一緒だった。
「今のうちに、オーラかけといてやる。すぐに抜くなよ!」
その容姿から察するに、普通の武器では聞かないかも知れない。そう判断した蒼牙は、すぐ側に居た明の剣へ、オーラパワーを付与してくれる。
「そんな事しないわよ。とっ捕まえる方が先だもの! どうやってやるかわからないけど!」
「ひきずり出すんですよ!」
エリスが明に変わり、3人のうち、一番年の若そうな御仁に向かって、ローリンググラビティを放った。続いてミカエルも、かがり火をファイヤーコントロールで、襲いかからせる。
「不本意ですけど、お屋形様をお守りするのが、我らの仕事!」
そこへ、ファイヤーボムを打ち込むジーク。すでに信玄公には、水魔法使いである事を危惧し、マジカルエブタイドを付与済みだ。
「ふん‥‥。さすがに信玄。使える手駒を用意しているようだな。だが、今回はほんの挨拶代わりだ‥‥。いずれ、その首貰い受ける。我が‥‥水龍様の御為に」
さすがに、少しは手傷を追ったようだが、おそらく軽傷だろう。相手に、手誰の護衛がついている事を知った三人衆、一番年上らしき御仁が、そう言った。
「いきなり、力で訴えるのは‥‥正しいとは言えないな」
「ほざけ! 仕掛けたのはそちらぞ!」
蒼牙の台詞に、彼は吐き捨てるように答えると、そのまま引き上げていく。
「行ったようだな」
騒動の収まった頃、ようやく高坂が姿を見せていた。と、それを見たジーク、にっこり笑って、木簡を差し出す。
「あ、高坂様☆ 無事守りきりましたから、ソルフの実代は下さいね☆」
それには、請求書と書いてあった。
「そうだ。富士学問所で学問を教えているとのことですが、私も錬金術の講義をしたいので、三条夫人に頼んでいただけませんか」
一方では、エリスがパープル女史にそう申し出ている。
なお、その後、笛吹き青年に変わり、鬼火の目撃談が噂になり、これは青年が姿を変えた火に違いないと、川はやがて、笛吹川と呼ばれる様になったとか。