【甲州街道】水龍の怒り

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:11〜17lv

難易度:やや難

成功報酬:6 G 24 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月31日〜08月05日

リプレイ公開日:2006年08月06日

●オープニング

 盆地である甲府のツヅジが崎館では、どんよりと曇った空と、まとわりつく湿度に多少のうっとおしさを感じつつ、留守を預かる高坂が、報告書を読んでいた。
「おかしいな‥‥」
 だが、目を通していた彼の表情は、あまり上向きではない。難しい顔をしたままの高坂に、側仕えの1人がこう尋ねた。
「いかがいたしました? 高坂様」
「うむ。この間の一件、少しばかり気にかかる点があってな」
 彼の手もとにあるのは、先日の神楽舞の報告書だった。それには、幽霊騒ぎの原因が、水神の怒りを買った為だと記されている。それが、高坂には引っかかるようだった。
「笛吹川の水神は、お屋形様に恨みを抱いているように思える。だが、我ら甲州の民は、季節ごとの祈りを欠かさず、祭も絶やした事はない。それなのに‥‥何故だ?」
 つまり、心当たりがない。
「冒険者殿の話では、何やら企む者の影ありとの事でしたが‥‥」
「水神様を騙し、我らにけしかけ、利する者か‥‥。調べるより、当人に聞いた方が早そうだ‥‥な!」
 思案した表情の高坂、何かに気付いたようで、懐の小柄を、庭へ向かって投げる。と、小さくうめき声がして、何やら精霊らしきものが、姿を消した。どうやら、敵の手先が、入りこんでいたようだ。
「油断も隙もありませんな」
「全くだ。これは、事を急がなければなるまい」
 今でこそ、主の信玄公は、江戸に赴いて留守をしているが、もしこれが、お屋形様在宅の頃であれば、容易に不法侵入を許した事になる。それは即ち、警備の緩んでいる証。
「水神様の祠へ、手勢を差し向けるのですか?」
「いや、どこに通じているかも分からぬ祠を探すよりは、呼び出した方が早かろう。やる事は多いゆえ、人手を集めてくれ」
 頭を垂れ、その命に「御意」と答える用人。こうして、ギルドには再び冒険者求むの募集が乗ったのだった。

『お屋形様を狙う妖怪をひきづり出す為、手勢を募集。主の影武者、警護、祠への斥候‥‥その他諸々。水神を呼び出し、その真意を確かめるべく、対話できれば、委細は不問とする』

 水神を妖怪としたのは、神に刃を向けるを恐れる者達への配慮であろう。この国には、精霊に敵対する事を良しとせぬ者も多い故である‥‥。

●今回の参加者

 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6226 ミリート・アーティア(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8428 雪守 明(29歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「ただいま。お屋形様病の話は、店で流してきた」
 街で噂をばら撒いていた雪守明(ea8428)が、屋敷へと持ってくる。
「思うに、サーペントって所かしらね。水のエレメントだから、配下に水の精霊を抱えてても、おかしくないし」
 共に情報収集に行っていたミカエル・クライム(ea4675)は、既に正体を見抜いてしまっている。
「ジャパンでは、精霊が神として崇められるのは不思議なことではないのですね。イギリスでも前例が無い訳ではありませんが‥‥と、それはともかく。精霊‥‥水神様を騙して得する人間とは、どういった相手なのでしょう? うまくお話が聞けると良いのですが‥‥」
 その話を聞いて、納得すると共に、不安そうなユリアル・カートライト(ea1249)。
「だとすると、これは余り意味無いかな」
「ううん。精霊だからって言って、実体が無いわけじゃないと思うし。問題はないと思うわ」
 鳴子を作っていたミリート・アーティア(ea6226)に、そう答えるミカエル。いくら精霊といえど、デビルとは違う。通常武器が聞かないわけではないと。
「上手く行くかしら‥‥」
「でなきゃ困るわよ。その為に、お屋形様には、ご病気になってもらってるんだから」
 出来上がった鳴子を、潜みそうな庭に仕掛けながら、ミリートがそう尋ねると、ミカエルは頷いて、屋敷の離れを見る。そこには、結界でも張られる様に、病魔退散の符が張られ、中で仕度しているらしき御仁の姿が見える。
「こんな感じかな? 高坂殿」
 信玄公の着物を借り、人遁の術で、それらしく装った双海一刃(ea3947)は、側近ともいえる高坂に、その影武者ぶりを確かめさせていた。
「上出来かと」
「まぁ、長くは持たん。知っている者には、偽物だと分かるだろうが」
 そう言って、病人のふりをする為、布団に潜り込む彼。その傍らに、高坂も心配そうな顔をして座っている。
「刀持ちでもやろうかと思ったが、殿があの状態なら、普通に護衛かな」
 襖を閉じた状態で見れば、立派な病人と看護人だ。その様子に明はそう言って、縁側に刀を持って待機中。
「来たみたいだな」
 暫くして、水面が揺れるように、カラカラと音を立てる鳴子。されど、姿はどこにも見えない。それを聞いて、家人を集めようと席を立つ高坂を、一刃が制した。
「まだ様子見と言った所か‥‥。高坂殿、下がっておられよ」
 まるでお屋形様に対するかのように、頭を垂れ、控える高坂。
「近くにいるんだね‥‥。探してみようかな」
 そんな中、ミリートはブレスセンサーのスクロールを持ち出す。
「なら、私は殿の御部屋で使いましょう。その方が、対処できますし」
 水神が息をしているとは限らない。そう思ったユリアルは、離れに潜んだまま、バイブレーションセンサーを唱えた。
「間違いない。近くに居るようだ。皆、用心しろよ」
「ちゃんと息はしているから、デビルやアンデッドの類じゃないと思うわよ」
 警戒するよう呼びかけるユリアルに、話の通じる相手らしき事を告げるミリートだった。

 その頃、真幌葉京士郎(ea3190)と超美人(ea2831)、それに鋼蒼牙(ea3167)は、館の警護を他の面々に任せ、水神の祠へと向かっていた。
「村人の話によれば、祠はもう少し上流にあった‥‥そうだ」
「あった? どう言うことだ?」
 怪訝そうに首を傾げる京士郎。と、美人は村人から聞いた話を、彼へと教えてくれる。
「実は‥‥、半年ほど前に、管理人が姿を消したそうだ」
 眉をしかめる京士郎。彼が聞いてきた話と、若干違う。山も深く、近付く者がいた形跡は無い。と、京士郎がこう言った。
「いずれにせよ、黒幕がいるのなら、祠の周りでも何かしらの動きを見せているだろう」
 頷く蒼牙と美人。そうして、愛馬若葉を従え、山の奥深くへと分け入った美人達は、崖の下に、滝の流れ込む湖を見つけていた。岸辺には、祠が建てられており、そこには『竜神堂』と銘が刻まれている。間違いないようだ。
「あれがそうか‥‥。確かに荒れ果ててるな」
 だが、祠にはコケが生え、すでに訪れる者もなくなっているようだ。これでは、水神が怒るのも無理はない‥‥と判断する京士郎。
「ん? 誰かいるな‥‥」
「あの笛は‥‥。そうか、彼が例の笛吹き幽霊だな」
 と、その荒れ果てた祠の傍らに、悲しそうに佇む半透明の幽霊が1人。彼が、ギルドの報告書にあった笛を携えている所を見ると、その報告書に上がった幽霊なのだろう。
「奴には聞きたい事が山ほどある」
 そう言って、崖を下って行く蒼牙。突然現れた冒険者に、笛吹き幽霊は少し驚いたようだったが、ややあって深々と一礼する。
「質問をさせてもらう。笛を吹く回数で、返答してくれ」
 そう言って、方法を伝える蒼牙。はいが1回、いいえが2回、わからないが3回だ。
「水神が怒ってるとあるのだが、何か知ってる事はあるか?」
 笛は1回。そして、彼は祠の方へと案内する。
「これは‥‥人為的なものだな‥‥」
 京士郎が、半ば崩れた祠を見るなり、そう言った。壊れた祠の傷口は、まだ比較的新しい。しかも、彼の見立てでは、獣やモンスターの類が壊したわけではなく、刀傷である。
「やはり水神はあの3人に騙されているのか?」
 これには、笛は3回吹かれた。その3人が、誰を指しているのかわからないんだろう。そう判断した蒼牙は、質問を変える。
「表立って動いてる手下っぽい3人‥‥。それの当主は水神なのか?」
 笛1回。それを聞いて、考え込む彼。
「なんというか水神以外の当主がいて、それが水神にいらぬ情報を与えてるようにも思えるんだよな‥‥」
「その、水神以外の『当主』が、おそらくこの事件を起こした張本人だろう。奴が、堂の守人を神隠しにあわせ、ここを壊し、その責任を、お屋形様になすりつけた‥‥と言う所かな」
 笛幽霊が、笛をひと鳴らしし、頷いてみせる。正体はわからぬが、彼はお屋形様も水神も、悪い方ではないと訴えたいようだ。
 だが、その時だった。湖の表面が逆巻き、人の形になる。中央に、蛟が現れていた。
「おっと、来たか‥‥!」
 湖から響く声に、蒼牙はそう言って、オーラエリベイションを唱えた。
「ここで戦うつもりはないんだが‥‥。そうも言ってられないか」
「面倒だ。水人だけ追っ払うぞ!」
 美人の台詞にそう答え、蒼牙は向かってくる水人に、オーラショットを放った。ちょっとした日本刀以上の威力を誇るそれは、瞬く間に水の眷属を元の姿へと戻してしまう。と、京士郎がこう言った。
「仕方ない‥‥。ある程度の調べは付いた、ここはいったん引くとしよう」
 そして、ぴゅいっと指笛を吹く彼。と、湖から離していた愛馬が駆け寄ってくる。
「急ぐぞ真九郎! 早く皆にこの事を伝えねば」
 そう言って、早々にその場を撤収する京士郎達だった。

「囲まれています。ここから出ないで下さいね」
 離れの中で、バイブレーションセンサーを使ったユリアルが、そう警告している。その頃、外では既に明が、池より現れた蛟に刃を向けていた。
「面倒だ、叩っ斬っちまえッ! オーラエリベイション!」
 もとよりそんなつもりなどない彼女、躊躇わず魔法を唱える。そして、一番手近な蛟に、切りつける。だが、鱗で弾かれてしまった。
「目的はあくまで対話なんですから、攻撃しないで〜!」
 慌てて止めるミリート。
「人質とって、御大に突きつけるのが、一番早いだろうに」
「そんな事したら、交渉にならないでしょ!」
 脅迫って言うんですよ! と、明を止める彼女。まぁ、彼女自身も、喧嘩をする気はないので、大人しくその忠告に従い、鞘に刀を納めている。一方、攻撃禁止令を食らったミカエルはファイヤーコントロールの魔法を唱える。焚かれたかがり火から吹き上がった炎は、炎の蛇と化していた。
「つまり、動きを止めればいいんですね。やってみましょう」
 ユリアルがそう言って、アグラベイションを唱える。効いたかどうかは分からなかったが、ミリートもそれを真似するべく、スクロールを取り出した。
「私もやってみようっと。その間、魔法よろしくね」
 彼女がそれを読み上げる間、魔力の温存と牽制を任されたミカエルは、頷いて、マグナブローを唱える。
「攻撃したら、余計怒りを買ってしまうしな。大人しく力量を見抜いてくれれば良いんだが‥‥」
 赤々と照らされた襖の内側で、刀を傍らに置き、そう呟く一刃。いつでも飛び出せるようにはしてあるが、出来るだけ傷つけたくはなかった。
『おのれ‥‥。意地でも逆らうか‥‥』
 ぐるぐるととぐろを巻く蛟。
「く‥‥。あの体制では、スタンアタックが聞かないかもしれん‥‥」
 足が無いのでは、転ばない。たとえ鞘で引っ掛けたとしても‥‥だ。と、その時だった。
「そう言うわけじゃないぞ、水神殿」
 馬のいななく声がして、祠に向かっていた面々が、愛馬と共に乱入してくる。
「お屋形様は今、風邪を引いておられる。だから、簡単に表に出るわけにはいかんのだ」
 開口一番そう言って馬を降り、離れに立ちふさがる蒼牙。美人も、刀を抜かず、離れの前へ。
『ならば、ひきづり出すまで‥‥!』
 しかし、それでも蛟達は、中のお屋形様をひきづり出すつもりのようだ。それを見た蒼牙は、駆けつけたミリートの求めに応じに、オーラを付与する。その間、京士郎が前へと進み出て、こう諭した。
「全く、仮にも神というのに、聞き分けのないことだ‥‥。鎮まれ! 真の黒幕は別にいる、ここで我らが争う事は供に益とならん」
 蛟の注意が、そちらに向かった瞬間、ミリートが輪っか状ににした縄を、蛟めがけて投げつける。身動きの取れなくなった蛟を、池から引っ張り出す彼女。
「どうやら、破棄しないで済みそうね」
 それがダメなら、キューピッドボウを使おうと思っていたミリートだったが、そうならずに済みそうだった。
「さぁ‥‥。真意を聞かせてもらおうか」
「我々に敵意はないのです」
 蒼牙がそう言うと、離れから姿を見せたユリアルが、そう申し出る。
「知らず知らずの内に怒らせるような事があったとしても、それが何なのかわからなければ、改善することも出来ないわよね。水神さん☆」
 ミカエルがウィンクしながらそう言うと、黙り込む蛟。
「私たちはただ、水神様と話がしたいだけ。話し合うことが出来るのに、碌にそれをしないってのは勿体無いよ。話し合わなきゃ相手を理解できない。それは誰だって一緒でしょ? 感情をぶつけるなら、相手に話してこそだよ」
 ミリートもそう言った。と、その刹那。
「退け、お前達」
 人の声がした。見れば、青い衣を纏った20代後半の青年が、いつの間にか館の中に入り込んでいる。
「あなたは‥‥?」
 ユリアルが尋ねると、彼は『竜神堂ヶ淵の主、青海と申す』と名乗って見せた。
「交渉の席に着くと言うのなら、それに応じてやるのも、神たる礼儀だ。そうだろう? 権三郎」
 その青海が連れてきたのは、笛吹川の幽霊。
「どうやら、祠へ向かった事が、上手く好転したようだな」
 事態が丸く収まりかけているのを見て取った一刃は、そう言って、高坂と共に、青海の前へと姿を見せるのだった。

 話し合いは、そのまま離れで行われる事となった。膳を運び、形ばかりの酒席を設けた中で、一刃は、深々と頭を垂れる。
「まずは度重なる非礼を、主に代わりお詫び申し上げる」
「さっきはごめんなさい。もし、怪我をしているようなら、これを」
 ミリートがそう言って、高坂から預かったらしきポーションを差し出した。が、青海はそれをやんわりと断っている。
「早速だが、甲州の民は季節ごとの祈りも欠かさず、祭りも絶やしていないと聞く。龍神ともあろう者がそれらの者を害するとはいかがなものか」
 今度は美人がそう尋ねると、青海は首を横に振った。そして、若干厳しい表情になり、逆にこう尋ねてくる。
「そうは言うが、我が祠は見た通りの状況。もし、真に絶やしていないのであれば、それはどう説明する?」
 どうやら彼は、祠を壊した事を、相当怒っているようだ。身に覚えの無い高坂が「そうなのか?」と小声で尋ねてきたので、彼女は「ああ。何者かに壊されていた」と、その時の様子を答える。しかし、高坂側は首を傾げるばかりだ。
「どうやら、そなたの棲家を荒らした連中と、この方々は無関係のようだが‥‥。誤解を生むような真似をして、申し訳ない」
 高坂の台詞に、一刃が重ねてそう謝った。と、その直後、明が疑問を口にする。
「しかし‥‥、何故祠を壊したのが、お屋形様だと? 誰か、そう言い含めた者がいるのか?」
「この領地には、我ら水神の一族の他、もう一つの一族がいる。それが、鉱山に住む火竜の一族だ」
 青海によると、自分達の祠が荒らされた直後、山に住む火龍の一族から、祠が壊されていないか問い合わせが来た。その火龍から、壊された時期が同じで、お屋形様達がなにやら領土内に作っている事を知らされ、青海は祠がその計画の一環で壊されたのだと思ったそうだ。
「火竜って、サラマンダーの事かしら」
「おそらく‥‥」
 ミカエルがこっそりユリアルに尋ねると、彼はそう言って頷いている。
「どうやら、鍵はその火竜が握っているようだな。青海殿、我が殿は貴殿らに協力を惜しまぬ」
 そこへ明がそう申し出ていた。その姿を見て、ユリアルもこう続ける。
「どうか、牙を収めてください。平和を望まないようには見受けられません。我らに手を貸して頂け無いでしょうか」
 きちんと調査をして、二度とこのような事が起こらぬようにしますから‥‥と、続ける彼。2人の姿に、彼はしばし考えていたが、祠の修復を条件に、頷いてくれるのだった。