【領主帰還】蘇りしマダム

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:11〜17lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2006年08月09日

●オープニング

 レオンの見る占いの夢は、何も夜ばかりとは限らない。その日、表へと出ていた彼は、まるで白昼夢のように、その光景を見ていた。
「‥‥ん‥‥」
 舞台となったのは、見覚えのある館。そこでは、どこからか、女の泣き声が響いていた。
「誰?」
 主人公となるは、幼き領主‥‥ショコラ。お昼寝から覚めたばかりの顔と身なりで、声の主を探している。
「そこで泣いているのはだぁれ?」
 見つけたのは、地下室。その中央に、乾きかけた血の色をしたドレスを纏った女性。透き通った身を持つ彼女は、ショコラの問いにも答えない。
「泣かないで。お姉さん」
 心配そうにそう言うショコラ。低く、嗚咽するその女性に近付き、目線を合わせる様にしゃがみこむ。
「ねぇってばー‥‥」
 顔を覗き込もうとする彼女。だが、その時だった。女性の手が素早く伸びてきて、小さな彼女の身体を両腕で掴んでしまう。
「そうね‥‥。貴女が身体を貸してくれたら‥‥、いいわよ‥‥」
 真っ赤に泣きはらした瞳に見つめられ、凍りつくショコラ。地の底から響く‥‥と言った表現が相応しい、半ばしゃがれた声で、そう囁く。
「いや‥‥やめ‥‥」
 逃れようとしたショコラだが、その小さな身体では、逃れようもない。包み込まれるように、彼女に取り込まれてしまう‥‥。
「ふふ。まぁ少し小さめだけど、仕方がないわね。すぐに新しい体に乗り換えるわけだし」
 直後、立ち上がった彼女は、自身の身を顧みて、そう呟くのだった。
「今のは‥‥。そうだ‥‥。確かめに行こう」
 夢から覚めたレオンは、その光景にただならぬ物を感じ、すぐさま領主の屋敷に赴く。まだ日も高く、そう離れてもいないからと、判断しての行為だったが‥‥。
「ああ、丁度良かったわ。レオンとか言ったわね。あなたの御主人様に、これを渡してちょうだい」
 応接間に通されたレオンに、ショコラが自らその小さな手で、差し出したのは、聖教会の印がついた、正式な書状。
「これは‥‥」
 羊皮紙で出来たそれを、震える手で受け取る彼に、彼女はこう言った。
「査問会からの召集状よ」
 それは、事実上の訴訟だった‥‥。

「あの娘が‥‥これを?」
 急いで招集状を持ち帰ったレオンは、真っ青な顔で、それまでの事を話した。
「しかも、妙に大人びた様子で‥‥。どうしましょう、議長」
 おろおろと判断を仰ぐ彼に、議長は「落ち着け」と言い含め、こう告げる。
「私は、査問を受けるような行為はしていない筈だが‥‥。どうも策略の匂いがするな」
「同感です。ショコラ様の言い方、まるでマダム・タリスのようでした」
 ついこの間までは、彼女は少し背伸びこそしていたものの、年相応の少女だった。むしろ、早く大人になろうと、頑張っているように見えた。こんな風に、聖教会の勢力を取り込んで、議長を敵視するようには見えなかったのに。
 だが、議長には心当たりがあった。それは、領主に仮の館として提供された場所が、いわくつきだったから。
「あの娘が住んでいるのは、かつてのマダムの館‥‥。改装をしたとは言え、マダムが亡霊となって蘇った可能性は充分にあるな‥‥」
 当初、議長は反対をしていたのだが、聖教会は、強引にあの場所を推し進めた。何とか改装だけはさせたものの、何かが残っていた可能性は否定出来ない。
「私が査問を受けている間、そのあたりを調べてきてくれ。もし、解放が難しい場合は、証拠を掴むだけでも構わん」
「しかし‥‥。それでは‥‥」
 表情を曇らせるレオン。査問会の事情聴取は、厳しいと聞いている。下手をすると、命を落としかねないほどに。
「心配するな。これでも査問の1週間や2週間、耐えて見せるさ。それに、あの気丈な少女を、このまま亡霊の檻に閉じ込めておくわけにもいくまい?」
「‥‥かしこまりました」
 大丈夫だから、と安心させるように言う議長。彼にも、守らなければならない物はある。そう信じたレオンは頷いて、「どうか、お気をつけて‥‥」と呟くのだった。

『議長が査問を受けている間に、領主ショコラ様に取り付いた亡霊の正体を暴き、その証拠を、聖教会に持って行って下さい!』

 ただ、切羽詰った感情は、依頼の文面からも、読み取れたと言う‥‥。

●今回の参加者

 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7487 ガイン・ハイリロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

閃我 絶狼(ea3991)/ マギー・フランシスカ(ea5985)/ シーダ・ウィリス(ea6039)/ レイル・セレイン(ea9938)/ ベルティアナ・シェフィールド(eb1878)/ ドナン・ラスキン(eb3249

●リプレイ本文

 まず、何人かに分かれて行動することになった。その内、セレナ・ザーン(ea9951)とガイン・ハイリロード(ea7487)は、まず領主の館へと赴いていた。と、見慣れた姿の常葉一花(ea1123)が、従業員を無理やり呼び出していた。
「要身分証? 困りましたわ。そんなもの用意してませんし‥‥」
 だが、いぶかしんだ目を向けられ、さらに紹介状の提示等を求められ、表情を曇らせている。
「侍女として潜入するのはダメっぽいなぁ。よし、それなら‥‥」
 それを見て、そう呟くガイン。楽器を片手に、話へ割り込んで行った。
「えーと、ここの人かな? 最近、領主が変わったって事で、何か無いか、聞き込みに来たんだけど」
 いかにも楽士と言った風情のガインと共に、聞き込みに回っていたセレナも、こう口添える。
「御領主様の雰囲気が、以前と変わられたという噂を耳にしたのですが、その前後に何かあったかご存じありませんか」
 3人を見比べて、困った様子のお手伝いさんに、ガインは楽器を爪弾きつつ、にこやかに語りかける。 
「何でも良いんだ。最近の領主の様子とか、館の方で何か起こってないかとかさ。歌のネタを探してるんだ」
 リュートベイルを携えたその物腰は、宮廷楽士と比べても遜色はない。しばし悩んでいたお手伝いさんだったが、声を潜めて人形の購入率が高くなった事を、教えてくれた。
「どんな人形ですか?」
 セレナがそう尋ねると、そのお手伝いさんは彼女の身長と同じぐらいの人形を手に入れたがり、それと同時に急に大人びて来たんだと語った。
「一花さんが見た通りだね。多分、好きな物は死んでも止められないって所かな」
「うーん。でも業者に化けて乱入は、前にやりましたし‥‥」
 帰り道、話を聞き終わり、確信を得たガインに、一花はそう言う。彼女も、このままやみくもに潜入手段を探すより、彼に従って何か情報を掴んだ方が良いと判断したようだった。
 さて、その頃アラン・ハリファックス(ea4295)はと言うと。
「うーん。職人連中は不発か‥‥。流石に、身元関係から、ボロは出さないようだな〜。残るは、教会だけか〜」
 健武から貰った改築関係者リストを手に、当時の作業状況を聞きに行っていたアランだったが、口止めされているのか、本当に知らないのか、中々これはと思う御仁に出会わなかった。そこで彼は、聖教会の関係者から、話を聞きに行く事にした。
「これは‥‥」
 まず向かったのは、フローラ・タナー(ea1060)が話していた聖教会の神父。しかし、彼がいるはずの教会は、すでにそこから撤収されていたのだ。
「ここの教会の牧師は、どうしたんだ?」
「先月、どこかに旅立ちましたけど」
 アランが近所の者に尋ねると、そんな返答が帰ってきた。しかもその時期は、領主が来る前だった。
「やられた‥‥。奴め、改装を進める前に、議長の味方を除去しやがったな‥‥。やっぱり、何か裏があると見て良さそうだ‥‥」
 悔しそうにそう言うアラン。だがそれは、領主を動かしている者が、決して1人では無い事を示唆していた‥‥。

「と言うわけで、どうやら領主様は、人形を集めてるみたいなんだ」
「その中に、私が以前納めた人形もあるようですわ。それが見つかれば、少なくともあちらが不利にはなるかと」
 そう話すガインと一花。あちこちで話を聞いた結果、どう考えても怪しいと言う判断をした風霧健武(ea0403)は、こっそりと領主の館へ向かっていた。
「ここで見付かったら、末代までの恥だな‥‥」
 そう呟く彼。忍びの技術を持ちし者として、意地でも見付かるわけにはいかなかった。
「ん、あれは‥‥」
 その隠密技術で、易々と侵入した彼、屋敷を取り囲む木々に紛れ、こっそりとその屋敷が見下ろせる位置に陣取ったところ、眼下にセレナの姿を見つけた。どうやら、オーラテレパスで話しかけているようだ。
「よう。どうだった?」
 話が終わったと見た瞬間、気の上から、しゅたりとセレナの前に降り立ち、その結果を問う健武。彼女は少し驚いた様子だったが、落ち着いてこう話してくれた。
「動物達の話では、やはりあの屋敷には、人外の方が住んでいるような感じだったと‥‥」
 依頼と前後するようにして、近付いてはいけないような雰囲気が感じられ、その動物達の一つ上の世代から伝わる怖いお姉ちゃんの伝説と一致していると、彼らは話していたと告げる。
「その人外の気配が、どこから来たかわかるか?」
「近付いた事が無いから、詳しくは話してくれませんでしたが、入り口より、奥の方が濃かったとの話ですわ」
 健武が地図を片手に場所を尋ねると、彼女は屋敷の奥を指し示す。
「だとすると、原因はそこか‥‥。わかった、見てくる」
 再び、姿を消す健武。そして彼は、見張りの目をすり抜け、天井裏から、領主の寝室へと忍び込んでいた。
(「あれがお姫さんだな‥‥」)
 ぴくりとも動かない彼女。よほど深く眠り込んでいるのだろう。そう見て取ったが、彼は寝室を後にし、疑いの深い部屋を目指した。
「どうやらこの先に、秘密の小部屋がありそうだな」
 棚には、大小さまざまの人形が並べられている。まだ、数は多くはないが、さりとて簡単には持って帰れない。
(「さて、どうやって持って帰る‥‥?」)
 そう思い、棚の一部にかがみこんだ時だった。何やら動かした跡が見える。軽く手で押すと、棚は簡単に動き、その向こうに小さな扉がある。そっと内部を伺うと、一花が以前持って行ったと言う人形を入れた籠があった。
 にやりと笑みを漏らし、周囲に人の気配が無い事を確かめた健武は、その籠の鍵を持って帰るのだった。

 さて、他の面々は話を聞いた後、ショコラへの面会を求めていた。
「御用は何でしょう」
 いきなり襲うと言うのは躊躇われたルシフェル・クライム(ea0673)だったが、御手伝いにそう言われ口ごもる。何か思いつかないかなと思っていた所、同行していたテスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)がぼそりと言った。
「ギルドから依頼された件だ。真偽を確かめたい。会わせて貰えないだろうか」
「‥‥議長がその様な依頼を? ならば、なおの事、会わせるわけには行きませんね」
 ガインが話を聞いた相手より、若干偉い従業員らしい。査問会の事がある為か、きっぱりと拒否してきた。
「やっぱり無理でしたね‥‥。このまま彼女が出てこないとなると‥‥、証拠を突きつけられませんわ」
 査問会まで日はない。時間は限られているのだ。と、あせった様子を見せるセレナに、テスタメントは静かに代案を主張する。
「そんな事は無いさ。チャンスなら、いくらでもある。全く家から出ないわけには行かないのだし」
 声こそ大人しいが、彼なりに今回の事件には納得行っていないのだろう。セレナが「例えば?」と尋ねると、彼は言葉少なに続ける。
「査問会は教会を使うだろう。それと‥‥親書もある」
 あまり口数の多い方では無いらしく、詳しくは語らない。
「なるほど、移動中を直接狙うか、親書で公開査問会にしてもらうと言うわけですわね」
 頷くテスタメント。それと時を同じくして、レオンがトリスタンからの書状が届いた事を知らせてくるのだった。

 そして。交渉の結果、領主と2人っきりで会わせるわけにはいかないが、弁明の面談の機会を与えられる意味で、査問会は非公開から公開になった。
「ギル‥‥!」
 姿を見せる議長。思わず席を立ちかけるフローラ。遠くから見ても、少しやつれた姿に、彼女は何としても助けなければ‥‥と心に誓う。
「あの屋敷は、以前、マダム・タリスと呼ばれる者は住んでいました。改装は済んだと申しておりますが、埋められた筈の地下室があるのは、どう言うことでしょう」
 こうして‥‥依頼を受けた冒険者達は、議長の弁護に回る事になった。セレナが開口一番そう言っている中、テスタメントは静かにこう告げる。
「もし、後ろ暗い事が無いのなら、何故それを公開しない?」
 だが、その時である。横合いから一花がツッコむ。
「つかぬ事をお聞きしますが、屋敷には関係者以外入らせぬよう、通達していた筈。何故それを知っているのです?」
 にこやかに、私は入れなかったのに‥‥と続ける彼女。
「全く‥‥。権力を持った宗教家のやることときたら、神の名の下にどんな屁理屈でも通しちまう」
 呆れた口調で、その様子を見守るガインに、セレナがさらに言う。
「フローラ様も、敬虔なジーザス教徒ですわよ」
「あっちは、そんな卑怯な真似はしないだろ。おっと、俺の番だ」
 そうこうしている内に、彼の証言時間となった。
「議長は不正蓄財や、越権行為をしていたわけじゃない。俺達の為に尽力してくれたんだ。それに、普段の勤務態度からして、叛意を持ってるわけじゃないのは、見ての通り。この査問事態が事実無根だ」
 ガインの証言に、公聴人がざわめいた。それを、その主張を支持する声だと受け取ったフローラは、ここぞとばかりに証拠書類を提出する。
「こちらに、従業員レオンから預かった日誌と出納長がございます。それに、ギルドの報告書と、他の騎士様からの親書も。ギル‥‥いえ、議長がどれだけ民の為に心を砕いてきたか、分かる証拠ですわ」
 それには、カンタベリー織物評議会の紋章が記されていた。彼らのサインも時折見受けられる。正当な商取引の証だった。
「確かに屋敷の中から、悪しき気配がしている証言は、こちらでも取れておりますわ。例えば‥‥アンデッドの気配とかですわね」
 フローラがそう言った。そして、そのアンデッドの気配を感じた証人として、セレナを紹介する。
「私どもの方でも、その様な証言がありますわね。ここは、議長ばかりではなく、領主殿の証言を取らせていただけないでしょうか」
 彼女もそう言って、自分が見聞きした話を、証言として出す。彼女が話している間、ルシフェルが領主に向かって魔法を唱えた。
「今しかチャンスは無いな。デティクトアンデッド!」
 公衆の面前で放たれたその魔法は、領主の中に潜むアンデッドを明確に捉えていた。
「そこに居るのは分かっている! 正体を現せ!」
 そこへ、アランがすかさず駆け込み、センチュリオンソードを真横に薙ぐ。紙一枚あけたすれすれの位置を剣が通った直後、浮かび上がるは、半透明の女性‥‥マダム・タリス。
「‥‥タリスは御前一派だそうだな。そこらへんにシフールもどきのちんちくりんでもいるんじゃないか?」
 剣を持ったまま、公聴席の反対側へ回り込むアラン。それこそ、決定的な場面を目撃したルシフェルは、聖教会の面々に、こう叫んだ。
「査問委員の皆! これが動かぬ証拠だ! 領主ショコラは、何者かに操られている!」
「その者の訴えが、真実であると思いまして? 彼女こそ、カンタベリーの秩序を乱す、真犯人ですわ!!」
 一花が領主をゆび指し、声高に宣言する。
「おのれ‥‥。だが、この体は渡さぬ‥‥」
「こうなっちまうと、後は憑依を強引にひっぺがすのみだな」
 それでも、領主を渡すつもりのないマダムに、ガインがオーラエリベイションをかけながら、そう呟くのだった。

「相手はアンデッド‥‥。魔法詠唱をさせない方が優先だな!」
 ルシフェルがレジストデビルを唱える中、そう言うとガインはオーラショットを放った。剣よりもそちらの得意な彼の魔法は、マダムへと命中する。だが、抵抗されてしまったようだった。
「ちっ。数を出さないとダメか」
 再び詠唱に入るガインの代わりに、今度はテスタメントが切りつけに行く。しかし、その直前、彼女は薄く笑った。
「仕掛けて良いのかしら? 宿主はまだ生きていると言うのに」
「‥‥ち‥‥」
 間合いを取る彼。
「体はショコラ殿のものであるのだから、手荒な事は避けたいが‥‥。らちがあかんな。コアギュレイト!」
 その様子を見たルシフェルは、まずは逃げられないようにと、魔法を唱えた。アンデッドにも効果を発揮するその魔法だったが、やはり抵抗されている模様。
「神父様方、このまま教会をアンデッドに蹂躙させてよろしいのですか!? 助力をお願いいたします!」
 聖教会の神父たちに呼びかけるフローラ。その天使と見まごう姿に、彼らは動揺したようだが、うかつに手を出すわけには行かないらしく、変わりに議長を戒めていた拘束具を外してくれる。預けられていた剣を取り、フローラの前に立ちはだかるギル。彼の背中で、安堵したらしい彼女は、捕らわれの少女に向かい、浄化の魔法を唱えた。
『清めの光にて退け。祖は聖母の慈愛にて癒されん』
 ピュアリファイ。手にした聖なる杖は、彼女の奇跡に力を与えてくれる。その途端、いままで攻撃を躊躇していたルシフェルが、ルーンソードを振り下ろした。
「今度こそ、トドメをさして差し上げますわ!」
「ふっ飛ばしてやる!」
 続けて、セレナがワイナーズ・ティールで、スマッシュEXを食らわし、その間に詠唱を済ませたガインが、オーラショットを放っていた。
「運命は強い意志によって切り開かれるもの。ショコラ様、お忘れですか」
 一方、フローラは憑依の解けたショコラを抱え、声を荒げずに揺り起こす。目を覚ました彼女は、きょとんとしていたが、すぐさまこう言った。
「大変よっ、お家の地下にモンスターが! 早く倒さないと、皆が!」
「大丈夫。皆、駆けつけてくれましたから」
 彼女の台詞に、ほっとした様子のショコラ。どうやら、フローラが教えた事は、彼女の心に届いているようだ。
「おのれぇ‥‥っ」
 ぼろぼろの状態でもなお、攻撃をやめないマダムの亡霊。
「マダム・タリス、あなたを地獄になど行かせません。天に召され、神の愛に触れなさい!」
 とどめとばかりに、ピュアリファイが放たれる。光に包まれて、消滅するマダム。
「これで、二度と蘇らない‥‥と良いんだがな」
 アランはまだ疑問を挟んでいる。それは、この事件が、領主の来る前から仕組まれていたように思えてならなかったから。
「安らかに」
 その間。テスタメントはマダムの為に十字を切り、黙祷を捧げている。悪霊でも、せめて来世では迷わないように祈りを込めて。
「これで大義名分はなくなった。どうする?」
 それが終わると、今度は聖教会に訪ねた。首を横に振る彼ら。そして、物も言わずに引き上げていく。
「おーい、生きてるか? やっこさんに手加減してると、次は首が落ちるかも知れんぞ」
「残念だが、私を召し上げる予定はないそうだ」
 残された議長を、アランが揶揄すると、彼は口の端に笑みを浮かべてそうやり返した。
「子供も生まれますしね。きっと議長やフローラさんに似た、可愛い子になりますわよ」
「ああ、その予定だ。って、何を言わせる!」
 だが直後、やっぱり一花にからかわれている。この辺りはもはや儀式と言って良く、フローラもくすりと笑みをこぼすのだった。