imitation〜真犯人追跡編〜

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月15日〜09月20日

リプレイ公開日:2004年09月22日

●オープニング

 冒険者ギルドには、さまざまな依頼者が訪れる。それは、決して時間的に余裕のあるものばかりではない。
「3日‥‥ですか‥‥」
 依頼書を叩きつけられた担当官は、難しい表情を浮かべていた。
「それを過ぎると、弟は処刑されてしまうんだ。何としてもその前に無実の証を持ってきてくれ!」
「しかし、ただ無実の証と言われましても‥‥。闇雲に調べるわけには行きませんし‥‥」
 カウンターから身を乗り出すようにして訴える依頼者。まだ若いレンジャー風の青年である。それに対し、困惑した顔で答える担当官。と、その彼は、渋い表情を浮かべながら、こう言った。
「証拠ならある。ただ、採用されてないだけだ」
「どういう意味です?」
 怪訝そうな表情を浮かべる担当官。と、依頼者はさらに訴える。
「あいつはあの日、確かに俺と一緒に居たんだ。本人の名誉にかかわるんで、詳しいことは話せないんだが‥‥。確かに俺と一緒にいた。なのに、お貴族様は、親族と家族の証言は証拠として採用できないとか抜かしやがって‥‥」
 がんっとカウンターに拳をたたきつける彼。苛立ちを隠しきれない彼を抑えながら、彼はその続きを促した。
「落ち着いてください。詳しい事情をお聞かせ願えますか?」
「あ、ああ‥‥。実は‥‥」
 話は、数日前にさかのぼる。
 彼の住んでいる村は、すぐ隣が貴族の荘園‥‥つまり私有地だ。そこでは、一般の住民の狩猟行為は固く禁じられている。しかし、その荘園内で、鹿が一頭殺された。その数日に、狩猟の予定はなく、また明らかに殺されている為、まっさきにその村の住民が疑われた。そして、目撃証言から依頼者の弟が犯人として捕らえられた。
「なるほど‥‥。つまり、その鹿を殺して弟さんに罪をなすりつけた奴を探せば良いんですね」
 うなずく依頼者。彼によると、傷ついた鹿を見つけた弟が、家に連れ帰って治療し、他の村人に見つかるのを恐れて、こっそりと私有地に戻した。ところが、それを中途半端に目撃された話におひれはひれがつき、結果、『弟がいかがわしい魔法をつかって鹿を射殺して森に捨てた』と言う話が広がり、捕らえられてしまったらしい。
「そう言う事だ。絶対にあの野郎が仕組んだに決まってる! お貴族様がうちの弟を狙ってるのを知ってて、炊きつけたに決まってる!」
 そうまくし立てる依頼者。なんでも、そのとがで兄の彼までお咎めを受け、今まで勤めていた貴族の屋敷を首になり、後釜には、彼を疎んでいた青年が入り込んでいたらしい。
「ですから、落ち着いてくださいって。今日中に召集をかけますから」
「頼む。こっちは監視されてて、あまり動けないし‥‥、両親から預かった大事な弟なんだ。俺みたいな野蛮人とは違って、まじめにクレリックを目指してる。あいつの未来を閉ざさないでくれ‥‥」
 急にまじめな顔になり、そう頭を下げる依頼者。どこの国でも、身内を大切に思う心は変わらないらしい。
 そうして、冒険者達に真犯人を探すよう、要請が来たのだった。

 その頃、貴族の館では、その主と使用人が、何やら話していた。
「主様、御機嫌でございますな」
「ふん。さもあらん。せっかくの獲物だ。楽しまねば損と言うものだ」
 主である貴族は、怯えた表情で牢に繋がれている少年を見て、ほくそえんでいる。
「程ほどになさってくださいませぬと、後で処刑の楽しみが減りまするぞ」
「わかっている。私とて、貴族の義務は心得ておるわ」
 側に控えていたレンジャー風の男。彼の言葉に、持っていた鞭をぴしりと鳴らすその貴族。
「それならば上々。では、私はそろそろ行って参ります」
 返事を聞いて、その男はそう言いながら、恭しく頭を垂れた。
「うむ。吉報を待っているぞ」
「はい。必ずやご主人様のご期待に沿える獲物の情報を、持ってまいります」
 軽薄そうな顔つきをしたその男は、主人の言葉にそう答えている。対する貴族と思しき男は、ずいぶんと偉そうな態度で、足を組みなおした。
「おや? どちらへお出かけに?」
「3日後の処刑ショーの後、狩猟に出かけるそうなんで、そのための獲物を探しに行くのさ。こいつら連れてね」
 出かけざま、他の使用人が声をかけたのに、レンジャー風の男はそう答えている。その足元には、凶暴そうな顔つきをした犬が5匹もいた。
「きゃあ、唸らないでくださいましぃ」
「そう訓練してあるからなー。気をつけないと、お前さんも食われちまうぜ」
 低く唸る猟犬達。怯える他の使用人に、その男はにやりと笑いながら、そう言ってみせる。
「ちゃんとつないでおいてくださいましね。おお、怖い」
 おびえながらその場を立ち去る使用人。残されたレンジャー風の男は、猟犬の頭をなでながら、こう呟く。
「ふふふ‥‥、今に目にモノ見せてくれるさ」
 そうして‥‥彼は、私有地である森の中へと、姿を消すのだった。

●今回の参加者

 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0763 天那岐 蒼司(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1877 ケイティ・アザリス(34歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5456 フィル・クラウゼン(30歳・♂・侍・人間・ビザンチン帝国)
 ea5575 梁 暁黒(34歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)

●リプレイ本文

 ケイティ・アザリス(ea1877)が、連絡兼情報収集場所として、辻占いを始めたのは、ちょうど、酒場の正面出口だ。開け放した窓からは、中の様子が垣間見える。そこでは、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)が営業活動の真っ最中だった。
「ずいぶん活気付いているみたいですね。お祭でもあるんですか?」
 ただの通りすがりの旅人めいた表情で、そう尋ねる彼。と、店の主人は、わざと声を低くして、こう答えた。
「火あぶりだとよ。宴会付の。楽しみだねぇ」
 くっくっくと、含み笑いをもらす店の店主。露骨に顔をしかめるディアッカ。どうやら、この村事態が、かなりクールなようだ。その感想を、彼は心の底にに閉じ込め、柄じゃないとは思いつつ、興味津々な顔をして、こう尋ねる。
「そいつ、一体何やらかしたんです? 相当悪いことしたんでしょ?」
 マスターの話では、クレリックは屋敷の人間をたぶらかして、財産を則ろうとした、極悪非道のデビルだと言う事になっていた。
「で、そのデビル説のネタ元はどこです? いや、歌のネタになりそうなんで。ね?」
 パフォーマンスの様に寄りかかりながら、横笛を吹いてみせる彼。同時にリシーブメモリーの魔法を使う。マスターは咎めだてるかと思ったが、特に気にしてはいないようだ。それを見れば、術の効果を確かめるまでもなく、嘘なんぞついていない事が分かる。
「うーん、どこだったっけなぁ。処刑が決まった直後に聞いた話だったから‥‥」
「思い出して下さいよ〜。重要な事なんだから〜」
 ごろごろと喉を鳴らす仕草を見せるディアッカ。全く疑っていないのか、マスターはしばし考え込んだ後、こう言った。
「ああ、そうだ! アレは確か、領主様ン家に弁当持って行った時に、使用人さんから聞いたんだ」
 ぽんと手を叩く彼。マスターは、『バードが歌のネタ拾いに聞いて行った』と思っているようだ。見ていた、ケイティは、店から出てきたディアッカにこう言う。
「上手い事取り入ったわねー。それで、キミの見解としてはどうなの?」
「どうも、誰かが意図的に噂を流したのでは‥‥と思いますよ」
 たかだか鹿一頭が、デビルの手先に化けるなんて、大事過ぎます。と、続ける彼。ケイティも、納得したように周囲を見回す。
「この街そのものの雰囲気もあるかもね。いずれにしろ、碌な街じゃないと思うけど」
「ええ。この調子じゃ、解雇されてよかったかもしれません」
 濡れ衣をかけられた事は気の毒だとは思ったが、あの性格では、ここにいるよりも、別の場所でやり直した方が、本人の為だろうと。そこへ、パタパタとすっとんでくるアルカード・ガイスト(ea1135)。
「いたいた。探しちゃいましたよ」
 くすっと気まぐれ屋めいた表情で、「ごめんなさいね」と返すケイティ。
「何かわかったの?」
「そうですねぇ、どうも尾鰭羽鰭胸鰭背びれがついて、泳ぎだしちゃった噂を、ろくに確かめもせずに、依頼人の弟さんを捕まえた‥‥みたいな感がありますね」
 やはり、ここでもディアッカが聞き出してきた事と同じ見解のようだ。
「まったく‥‥。犯罪者を処刑とか何とかと言う前に、取り締まり能力を強化して欲しいですね」
「そうねぇ。これじゃあ、どれが真実で、どれが嘘なんだか、わかりゃあしない」
 その2人が、交互に呆れているのを見て、アルカードは指を横に振りながら、こう言ってきた。
「噂を逆にたどって行って、誰が誰からその話を聞いたのか、そしてどこで誰のところで話の内容が変化したかを、確かめに行けば良いんです」
 又聞きが混乱をさせているのなら、その元をたどれば良い。そう説明するアルカード。しかし、そんな彼の意見に、ケイティが疑問を投げかける。
「けど、あの酒場は使えないんじゃない? さっき、ずいぶんマスターと話し込んでたし。怪しまれちゃうわよ」
「構いませんよ、その程度なら」
 しかし、それにはディアッカが異を唱える。
「何か怪しまれて、誘導してもらえるのなら、手間が省けますしね」
 むしろ、好都合です。と続けて、彼は今しがた話し込んでいたばかりの店の扉をくぐる。そこでは、マスターが警備の私兵と思しき相手を捕まえて、騒いでいた。話を聞くと、処刑が2日ばかり延期になってしまったらしい。
 必要事項だけを告げて、さっさと酒場を立ち去ろうとする警備兵。と、アルカードはそれを捕まえて、こう尋ねた。
「その処刑される人が、実はデビルじゃないかって噂聞いたんですけど、一体誰が言い出したんです?」
「俺も直接見張りに立った奴から聞いたんで、確信はないんだけどさ。それに、鹿を魔法で殺したって言うし‥‥」
 そんな警備兵の言い分に、アルカードは冷静にこう分析してみせる。
「白の神聖魔法に、そんな攻撃呪文はありませんよ。それに、駆け出しのクレリックが、高度な術を使えるはずがありません」
「俺に言うなよ。それに、鹿運び込んだのだって、何人も見てるし」
 警備兵の方も、いまいち自信がないようだ。
「それにしたって、一頭の死体を運ぶとなると、かなりの重労働だと思いますが」
 ばつが悪くなったのか、視線をそらし始める彼。それを見て、アルカードはたたみかけるように、核心を問う。
「そもそも、誰が言い出したんです?」
「えぇと、確か新しく入った狩人殿が‥‥」
 どうやら、全ての糸は、そこで繋がっていると見て、間違いないようだ。
「やっぱりな。そう言うこったろうと思ってたぜ」
 それを証明するかのように、街で事件当日の事を聞きこんでいたフィル・クラウゼン(ea5456)が、姿を見せる。
「そのレンジャー、最近おかしくなかったか? 誰か、見知らぬ者と接触したとか、用がないのに、森にやたら出入りしてたとか」
「言われて見れば、そう言う事もあったかも‥‥」
 余り気にしてはいなかったらしい。屋敷付きの狩人が、森に様子を見に行っても、誰も咎め立てないと言った所か。今現在も、留守のようである。
 森への不法侵入が決定したのは、言うまでもない。

 その頃、もう1つの聞き込み組は、依頼人が潜んでいる教会へと、足を伸ばしていた。
「ああ、あんたか。すまんが、弟は今寝てる。後にしてくれないか」
 出てきた依頼人は、少し疲れた表情で、こう出迎えた。しかし、そんな彼に、キットがこう告げる。
「今回は、そっちのクレリックじゃねぇ。あんたに用があるんだよ」
 怪訝そうな表情で自分を指す依頼人。と、キット・ファゼータ(ea2307)はこうきり出した。
「体裁を気にしている場合ではないのが、あんた一番知ってるはずだろ」
「色々と聞きたいんだよね。だからいいかな?」
 梁が、答えを聞くより前に、体を滑り込ませた。依頼人は、少し面食らった表情ながらも、2人を案内する。
「まずは、レンジャーの名前、容姿などの特徴。出来るだけ、詳しく」
「そうだな。俺より少し年上だ。カラーリングが逆の筈だが‥‥」
 キットの問いに、彼は素直に後釜レンジャーの事を話す。
「じゃあ、次。今からあたしがする質問に、正直に答えてね」
 それを記憶の片隅にメモりながら、今度は梁暁黒(ea5575)が事情聴取を開始する‥‥。 それによると、弟の治療した鹿と、殺されていた鹿は、専門家が見れば別物。さらに、魔法で殺されていたのではなく、動物に殺されたわけでもなく、射殺されていたらしい。それが、ろくすっぽ行われなかった捜査と、本人が兄をかばったせいで、犯人にされてしまったようだ。なお、怪我をした方は、罠に引っかかったのを、リカバーで治療したらしい。
 なお、その他のことについては、ほぼ依頼にあった通りとの事だ。
「もう少し口が堅いかと思ったんだけどなー」
 帰り道、そう言うキット。あとは、そのレンジャーを問いただすだけである。

「やはり怪しいのは、そのレンジャーだな‥‥。それで、向こうの面々は、どう言ってたんだ?」
 事情を聞いたルシフェル・クライム(ea0673)、現場に向かいながら、そう言った。
「向こうは上手い事、依頼人と弟さんを助け出して、領外に逃げ込んだみたいだよ。それと、2日間延長されてる」
 ユーディス・レクベル(ea0425)がそう答えている。それだけの日数があれば、真犯人を追い詰めるには、充分だろう。と話すルシフェルの横で、彼女は周囲を見回しながら、こう呟いた。
「しっかし、以外と簡単に入れるもんだね」
「そこまで手を入れる必要を感じていないんだろう」
 こんな事件も起きず、極普通に暮らしていれば、ここはただの森にすぎない。見張りや巡回を置く理由はなかった。
「見た限りじゃ、特に異常はないみたいだけど‥‥」
「そんな事ないよ。よく見てみな」
 ミケーラ・クイン(ea5619)の言葉に、ユーディスは足元から何かを拾い上げた。それは、だいぶ干からびてはいたが、色鮮やかな花だ。
「匂いがきついな‥‥。何らかの薬効があるものか?」
 人よりも鼻の良いルシフェルが、綺麗な眉をしかめながら、そう問うた。だが、ユーディスは首を横に振る。専門知識のない彼女に、詳しいことは分からない。だが、彼女の足元には、土に紛れてしまった折れた矢と、埋もれた鏃が見つかったところをみると、どうやらトラップのようだ。そして、そんな真似が出来るのは、専門知識を持つ奴だけである事も。
「おう。いたいた。どうだ? 何か見付かったか?」
 そこへ、情報収集がてら、キットと合流したフィルが追いついてきた。
「そうね。証拠はあるけど、肝心な本体がまだってところ。そっちの収穫は?」
「怪しさ爆発って感じだな。やっぱりあの貴族、ろくすっぽ調べてねぇでやんの」
 街中での聞き込みすら、まともに調べていない。ユーディスの言葉に、フィルはそう告げる。ルシフェルの確認に、彼は他の面々が酒場で聞いてきた事も付け加えた。
「いたぞ。後釜レンジャーだ」
 と、後ろを警戒していたキットが、ターゲットを見つけ出す。気取られないように、そのレンジャーへと近付く冒険者たち。顔色を変えたのは、ターゲットの方だ。
「おおかた、証拠を隠滅しようって所だろ」
「‥‥何を知ってる」
 声が、若干低くなった。それを見て、キットがナイフ片手に、睨みつける。
「俺達の手元にあるのは、状況証拠だけさ。だからこそ、貴様の口から問いただしたい」
「ガキが、何言ってやがる。俺は獲物を探しに着ただけさ。痛い目見たくなかったら、とっとと帰んな」
 年齢のせいか、余り迫力はないらしい。言い返されて、黙り込んでしまう彼。その代わりに進み出たのは、ユーディスだ。
「帰るのはあんたの方だよ。もっとも、戻るのは家じゃなくて、牢屋の方だけどね」
「冗談じゃねぇ。捕まってたまるかよ!」
 くるりと踵を返すレンジャーくん。だが、そこにいたのは、唸り声を上げるブラウンベア。どうやら、臭いをかぎつけてきた模様。
「さぁ!! 仕事仕事、邪魔な奴は排除するのみ!! 何処からでもかかって来な!! ああ‥‥血沸き肉踊る〜〜、ふははははは〜〜〜〜〜〜〜♪」
 ダガーを構えたまま、自ら向かって行くミケーラ。なんだか、やたらと嬉しそうである。
「おい! 奴が逃げるぞ!」
 キットが慌てたようにそう言った。見れば、この隙にさっさとおさらばするつもりのようで、レンジャーくんが逃げ出していた。
「させるか! 呪・従、縛・暴、自由を奪い去れ!!」
 無防備な背中に、ルシフェルがコアギュレイトを叩きこんだ。身動きが取れなくなった彼に、ユーディスが怖い笑いを浮かべながら、ゆっくりと近付く。
「逃げるって事は、後ろめたいって事だよねぇ?」
 首を横に振って、激しく否定する彼。
「口を貝のように閉ざしててもね、世の中には心を読む魔法もあるし、薬もある‥‥手っ取り早く、あなたの雇い主のようにやってみようか」
 指の関節を鳴らし、『ボコボコにするわよ』と言わんばかりの態度を見せる。と、レンジャーくん、そのあからさまな脅迫に耐え切れなかったらしく、あっさりとその場で機を失ってしまった。
「すまない。お前達に罪は無い。元はといえば人間の争い事から始まったこと‥‥。身勝手な人間を許しておくれ‥‥」
 逃げて行くブラウンベアの背中に、彼女はそう言葉を投げかける。
「半分は私がマジカルミラージュで追っ払ったんでしょ」
「熊の半分は俺が受け持ってただろうが」
 途中で追いついたらしいケイティとフィルが、いらん事を言って、彼女に怒鳴られていた。特に、自慢の二刀流ダガーを振り回す機会を奪われたキット、かなり不満そうだ。
「まぁまぁ、無事とっ捕まえた事だし。あとはこいつを、当局に突き出すだけだね」
 ユーディスが、レンジャーを縛り上げながら、そう言って慰めた。
 なお、冒険者が突き出したあの男は、弟の代わりに処刑され、兄弟はその責任を感じて、村を去っていったそうである‥‥。