【甲州街道】生贄の乙女

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:11〜17lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月06日〜08月11日

リプレイ公開日:2006年08月14日

●オープニング

 どことも知れぬ闇の中。御簾の奥に鎮座するモノ。そは、まるで高貴なる御前のような立ち振る舞いにて、その膝元に、配下を呼び寄せていた。
「3姉妹‥‥おるか?」
「は、ここに‥‥」
 しゅるりと凝る、銀髪の娘子。だが、その雰囲気は、人のモノではなかった。
「信玄公が妻、三条夫人が元には、確か20前の娘がいたな」
「はい。名前は確かお琴と申します」
 彼女らが話すは、信玄公の正妻‥‥その侍女の事。
「やり方は任せる。だが‥‥上手くやれ」
「かしこまりました」
 頭を垂れる三姉妹。その姿が、人の子に目撃されたかは、定かではない。

 さて、一方。富士学問所では。
「うーん。なんだったのかしら、あの夢は‥‥」
 多少寝不足な顔したパープルさん、今日も学問所で、教鞭を取っている。
「で。ここで、こう切り替えして、ここの道を絶てば、こっちは孤立する。ここを、こっちの部隊で切り込むわけよ。わかった?」
 もっとも、彼女の事なので、口調は多少ぞんざいになる。壁に貼り付けられた甲府近辺の地図を題材に、戦略の教授をしているようだ。
「パープル殿、ご苦労じゃ。ところで、お琴を知らんかや?」
 三条夫人が声をかけてきたのは、授業があらかた終わり、自習時間になった時だった。聞けば、いつも後ろにカルガモのヒナみたいなツラをして従っているお琴がいないと言う。
「今日は‥‥見ていないけど‥‥。どうしたの?」
「実は‥‥」
 しかも、朝彼女が目を覚ました時からおらず、身支度の時にも、朝餉の時間にも、姿を見せなかったそうな。
「え、朝からいない?」
「黙っていなくなるような子でなし。渋谷屋にも使いを出したが、戻っ
ておらぬようじゃ」
 何か所用があって出かけたと言う可能性もある。そう思って、確かめたものの、彼らも驚いているようだ。
 と、その時である。
「ただいま‥‥」
 不意に、彼女が玄関から堂々と姿を見せる。
「あら、いるじゃない。どこへ行ってたのよ?」
「別に」
 だが、パープル女史が『心配かけさせないでよ』と続けた所、彼女は『関係ない人は黙っていて』と言ったような態度を見せた。
「あれ?」
 調子が狂ったパープル、笑顔が凍りついている。
「お琴、どうしたのじゃ?」
「何でもございません。国許から、火急の書状を承ったよしにございます」
 心配げにそう言う三条夫人に、お琴はある書状を差し出した。躊躇わずに開いた夫人、少し嬉しそうな表情となる。
「ほほう‥‥なるほど。パープル殿、今度、こちらで夕涼みの会を行うそうじゃ。お屋形様にも列席願っている旨が、書かれておる」
 その為の準備をよしなに願う‥‥と、書かれていたそうだ。
「そう。で、護衛はいるの?」
「必要ありませぬ」
 ところが、パープル女史の問いに、即答するお琴。
「そうかのう?」
「はい。我が家中の者が、護衛に付きますれば。冒険者風情に頼む事もないかと」
 江戸屋敷にも、腕の立つ者は、沢山おりますわ! と主張する彼女。その主張に、三条夫人は、少々戸惑った様子だったが、「ふむ‥‥。お琴がそう言うのなら、任せるとしようかの」と、頷くのだった。
 だが。
「おかしいわね‥‥」
 1人、疑いの眼差しを向けるパープル女史。お琴や三条夫人より、様々なモノを見てきた彼女は、注意深く、お琴の態度を見てとった。
「あれは‥‥」
 そのお琴から立ち上ったのは、人ならざるモノの気配。
「ふぅん、そう。だったら、手を打っておく必要があるわね」
 にやりと笑ってそう呟くパープル女史。直後彼女は、こっそりとギルドへ手を回すのだった。

『お琴の様子がおかしい。何やら、操られている節がある。護衛に紛れ、夫人と彼女を守って欲しい。ただし、本人には内密に』

 なお、2人に気付かれぬ様にする為、パープル女史自身は、あまり協力出来ないとの事である。

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3947 双海 一刃(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4734 西園寺 更紗(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1555 所所楽 林檎(30歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 その日、パープル女史から一通りの事情を聞いた冒険者一行は、どうしたかと言うと。
「パープルさんによると、お琴さんは普段、ご家中の方にこだわる娘さんではないそうですわ」
 所所楽林檎(eb1555)がそう言った。もし、あのような状況に普段の彼女なら、真っ先に『冒険者様も呼んで、盛大に夕涼みの会を!』とか言い出すと推測されるとの事だ。
「後は‥‥、あんなに冷たい感じの話し方をする娘さんではなかったとの事ですわ。気をつけていないと、分からないのですけど」
 そう話す林檎。と、その話を聞いた真幌葉京士郎(ea3190)が、こう告げる。
「彼女は朝から居なかったんだろう? その時間を追って見るべきかもしれんな」
 もし、変貌の影に何ものの陰謀があるのなら、その空白の時間に、何かあったと見るのが筋だ。彼女の出かけた理由、操った経緯も含めて、調べて見るべきだと告げる。
「俺も調査組に回ろう。お琴さんには、顔が知られているしな」
 鋼蒼牙(ea3167)もそれを手伝う事を言い出す。以前、顔をあわせている為、おそらく潜りこんだら分かってしまうだろうから。それを聞いた林檎、他の面々が潜入する手筈を整えるからと、別行動を申し出る。彼女の意見に従った京士郎と蒼牙は、屋敷の近所で、お琴の目撃情報を探していた。
「ふむ。彼女は朝、急いでいたと言うわけだな」
 蒼牙が、近所のしじみ売りから聞いた所によると、彼が仕事をしている時に、お琴が青い顔をして、屋敷から飛び出してきたそうだ。そして、挨拶もそこそこに、実家のある方へ向かったらしい。
「だが、実家には帰っていない。だとすると、彼女は何らかの手紙で呼び出されたと考えるのが、妥当だろうな」
「ああ。しかし‥‥。何故呼び出したんだろう。操るなら、夜中に忍び込めば良い話しだ」
 蒼牙の話に、自分が抱いていた疑問を口にする京士郎。
「出来れば誰かと会っていた‥‥的な情報が欲しいが‥‥。厳しいだろうな」
「朝早いしな」
 蒼牙の意見に同意する京士郎。それでも、何もしないよりはマシだと言う事で、しじみ売りから聞いた方向へ足を伸ばす彼ら。ほどなくして、人気の減ってきたそこに見えたのは、小さな社。その入り口にあった絵馬に、見覚えのある文字が書かれていた。
「蒼牙、見てみろ。お琴ちゃんの字だ」
 それには、彼女が父親の無事を願う文が書かれていた。しかも、墨の具合からして、そう時間はかかっていない。ごく最近書かれたものだ。「どうやら彼女、何者かに父親の危難で呼び出されたらしいな」
「社の誰かが、知っているかも知れん。ちょっと聞いてくる」
 そう話す蒼牙に、京士郎は社の祭神を指して答えた。そして、彼が神社の巫女さんに聞いた所、確かに数日前、お琴と思しき少女を目撃したそうだ。誰かを探しているようだったが、彼女が記憶する限り、その時間に現れた他の御仁はいなかったとの事。
「もし、それが人なら、足跡があるはずだが‥‥」
「おい、京士郎。見てみろ、これ‥‥」
 彼の意見に、お琴が目撃された辺りを調べていた2人。と、蒼牙がある意外な物を発見する。
「ん?」
 それは、何か太くて大きい物をひきづった跡だった。顔を上げ、周囲を見回すと、古びた祠が一つ。
「この社‥‥火の神の社かな」
「こんな所にあるなんて‥‥」
 跡は、その社に延びて消えていた。聞けば、お琴はそのあたりをきょろきょろと見回していたらしい。その後、静かになったので、見に行くと誰も居なかったから、巫女さんは帰ったのかと思ったらしい。
「単純な操りではないのかもしれんな‥‥。入れ替わりか?」
「何にせよ、犯人は人だけではないのかもしれない。むしろ、操られた可能性の高い事がわかっただけでも、上出来だ」
 京士郎の疑問に、蒼牙はそう答え、急ぎ屋敷へと戻るのだった。

 その頃、林檎は三条夫人から、ある約束ごとを取り付けていた。
「では、こちらが身元保証の添え書きですわ」
「すまぬのう、気を使わせてしまって」
 彼女が差し出した、名前と簡単な身上書に目を通し、申し訳なさそうにそう言う夫人。と、後ろに控えていたお琴が、少し厳しい表情をして、その身上書の理由を尋ねてくる。
「今度の夕涼み、余興として舞を頼まれましたの。それで、私の友に、絵師がいらっしゃいまして、是非夕涼みの夫人とお琴様を、絵に描きたいと申し出てまいりまして‥‥。三条の方様に、ご許可を頂いていた所ですわ」
 よどみなくそう話す林檎。その身上書は、彼女の一座の大道具係と言う事にしてある。実際は、今度の護衛を行う面々なのだが。
「絵師‥‥ねぇ」
「腕は確かです」
 いぶかしむ彼女に、そう告げる林檎。そして、実際に彼が描いた絵を、見本として差し出す。確かに、芸術的な美人画だった。その結果、当日本人を連れてきて、実際に鑑賞に足る絵を描くか、試してみようと言う事になった。
 そして、当日。
「林檎殿の紹介で参りました絵師、鷹見仁と申します。早速ですが、これが、先ほど描き上げました、御二人の似姿絵にございます」
 挨拶もそこそこに、木版に書いた二人の姿を差し出す鷹見仁(ea0204)。それを見た三条夫人とお琴は、正当な報酬を支払い、彼が参加する事を許してくれる。
「さて‥‥。蒼牙さんと京士郎さんの聞き込みでは、物の怪やら、鬼やら悪魔やらが関わっているとか‥‥。絶えぬものですね」
 舞装束を身に付けた林檎、悲しげにそう呟く。今日は、その辺りの憂いを、舞に込めた方が良さそうだ。お琴を操る何者かに揺すりをかけるためにも。
「そろそろだな‥‥。お琴さんの動きに変化はなし‥‥と。って、その方がおかしいってかい」
 絵を描く口実で、お琴の真正面に陣取った仁は、彼女の横に座るパープル女史から、『いつもならここで騒ぐ』と言った合図を見て、そう呟く。見れば、お琴はむしろ大人しく、口も聞かずに三条夫人の後ろで正座していた。
(「まずいな‥‥。あの位置から小柄でも投げられたら‥‥夫人は一撃だ」)
 そう思い、お琴の動きだけを注視する仁。そんな中、林檎が舞台に進み出るように、池の上に渡された小さな橋に登場する‥‥。
「我が舞は、歌を必要とせぬ舞。ただ自然にあるがまま、木々を揺らす風、鳥の羽音、皆様の話し声さえも…周囲全てが、舞の一部です。どうか、ゆるりとご鑑賞ください」
 深々と三つ指ついて挨拶する彼女。舞師の姿はしていても、中身は僧籍にある者。神に捧げる奉納舞を基本とせざるを得ない。そして、折りしも吹いてきた風の音と、夜を照らすかがり火のはぜる音に、身と心を任せる事にする‥‥。
「囮は彼女で良いと思うが‥‥。さて、音に紛れて侵入するのは、敵さんも出来なくなったな‥‥」
 元々居た家人達も、林檎の舞に注目している。その間に双海一刃(ea3947)は、顔を知られていないのを幸いに、脱出経路になりそうな場所へ、見回りに赴いていた。この仕事の為に、江戸屋敷の面々に近い格好を整えた彼、周囲に見咎められずに、出入り口付近を調べる事が出来た。
「表門に裏門、勝手口‥‥と。いかん、この状態では、入ってくれも同然だ‥‥」
 一通り見回った彼、難しい表情を浮かべている。屋敷自体は、一般的なものだが、夕涼みの会に加えて林檎の舞。気もそぞろになってしまい、護衛どころではなくなっているようだ。
「穴だらけだな。仕方が無い‥‥」
 一刃、あらかじめ仁やパープル女史と打ち合わせていた虫の鳴き声を真似る。と、程なくして、外で見回っていた蒼牙が、裏口の塀から姿を見せた。
「呼んだか?」
「ああ。これじゃ護衛して無いも同じだ。俺は表門を見張るから、裏口を頼む」
 一刃の台詞に、心得た‥‥と頷く彼。
「さて、この辺りなら良いかな‥‥」
 その蒼牙が腰を下ろしたのは、裏口の外に生えていた木々の上である。あまり近くにいても不審がられてしまう。その分、ある程度家から離れたこの木ならば、微かに見える舞姫の姿を見物に来たと言えば、何とか誤魔化せるし、その上、全体の様子も見渡せて、一隻二丁だったから。
「さて、他の面々は‥‥」
 それなりに良い目でもって、屋敷をうかがう一刃。それによれば、表門に一刃、裏門に彼と山下剣清(ea6764)。護衛に紛れる京士郎と西園寺更紗(ea4734)。
「あれ? 喪は‥‥どこだ?」
 後1人、護衛にも門の内外にもいない‥‥。しかし、目を凝らしてよく探せば、瀬戸喪(ea0443)は女物の着物を着て、化粧まで施し、パープル女史の側に、侍女として座っていた。
(「皆、お琴に注目しているな‥‥。あれなら、何かあった時は、すぐに知らせてくれるだろう」)
 そう思い、少し安堵した表情を見せる蒼牙。しかし、その思いもつかの間。危難はすぐに姿を現していた。

 話は、林檎の舞が終わり、夕餉を兼ねた食事会の時に始まる。美味しいご飯に気が緩むのは、誰しも同じ。見張りの者達にも食事が振舞われ、のんびりとした空気が流れ始めていた。夕涼みの会としては、それはそれで正解なんだろうが、一刃はむしろ警戒を強めていた。
「おや。どこへ向かわれるのです? お琴様」
「新入りに話す程の事ではありませぬ」
 三条夫人の元を離れ、裏門へ向かおうとするお琴。見咎めた女装姿の喪がそう言うが、彼女はぷいっと横をむいたまま。いつもなら、にっこりと笑顔で応えてくれるものを。
(「やはり何かありますか‥‥」)
 人間、そう簡単に性格が変わるものではないし‥‥と確信する彼。しかし、あの性格設定では、中々近付かせてもらえなさそうだ。
「やっぱり、何かあったみたいやわ。喪さん、後を追いかけて」
「そうだね。知らせてくる」
 更紗の台詞に、そう考えた喪は、彼女が向かった裏門で、警護をしていた一刃に知らせに向かう。
「わかった。俺は三条夫人の側にいる。お前はお琴さんを見ててくれ」
「りょーかい」
 ぱしんっと軽く手を打ち鳴らし、配置を交代する彼ら。そのまま、お琴を尾行して行った彼は、裏門で、天空を見上げる彼女を見つけた。
「皆、気を緩ませてございます。おいでくださいませ‥‥姉様方」
 そう言うお琴。その時、喪は見た。彼女の体から、鬼火のような気配が立ち上るのを。
「これは‥‥ゆゆしき事態ですね。彼女が戻ってくる前に、何とかしましょう」
 人ならざる者の気配を感じた喪は、すぐさま三条夫人の元に、ご注進に及ぶ。
「何かが憑り付いている可能性が高いですね。夫人が狙いかな‥‥」
 剣清が、霊刀を手にしながら、そう言った。優先は夫人だが、三条の方自身も、お琴を傷つけたくは無いと、彼に言う。
「心配しなくても、出来るだけ両方とも守りますよ」
 安心させるようにそう答える剣清。
「何、ただの侍だ。一体何をやっているのかな、と」
 その頃、外にいた蒼牙は、木の上で覗いていた所を見付かり、そんな話をしていた。その目の前を、知らせに走る喪の姿。何かあったなと直感する蒼牙。
「なるほど‥‥。彼女を操った理由は、ここに新たな何者かを引き込む為‥‥そして暗殺か」
 一方、知らせを聞いた京士郎は、厳しい表情で呟いた。
「実態の有る無しで、対処できるか変わってしまいますなぁ、鬼と出るか邪とでかやねぇ」
 三条夫人の側にいた更紗は、夫人を守れるように下がらせながら、現れるはずの敵を見つめる。
「来たみたいやねぇ」
 戻ってきたお琴は、見慣れない侍女を3人連れていた。そして、表の警護に目立たぬよう、屋敷の勝手口から、何くわぬ顔をして、三条夫人の側に侍ろうとする‥‥。
「誰か操っている人がいると思いましたが‥‥、あの3人がそうみたいやわ」
 間近でお琴とその従者を見た更紗、そう確信する。あまり人ならざる者に詳しくはないが、長年の感が、その3人が殺気を漂わせている事を告げていた。
「悪鬼羅刹よ! その正体を現せ!」
 その台詞の直後、林檎がそう言って、デティクトアンデッドを使う。それは、彼女にお琴のすぐ近くに、アンデッドが潜んでいる事を教えてくれた。
「おーい、今怪しい人が入っていったんだが‥‥」
 魔法の光を見た蒼牙は、そう言って正門の扉をくぐろうとする。
「やっぱり‥‥。お琴さんから離れなさい!」
 それとほぼ同時に、林檎は潜んだアンデッドに向かってブラックホーリーを使った。それは、彼女自身をかすめ、背後の侍女達に命中する。ゆらりと立ち上がったその気配は、生者のものではなかった。
「どけ! 中で侵入者と戦ってるやつの仲間だ! 俺は!」
 今度こそ戦闘が起きていると確信した蒼牙、止める門番を振り切って、庭先へと向かう。
「行かせるか! ちょっと我慢してくれよ!」
 中では、懐剣を手にしたお琴を、一刃が止めていた。攻撃力は大した事は無いが、傷つけてはいけない。そう思った彼、一言謝ると、彼女にスタンアタックを食らわせる。あっけなく転がるお琴。しかしその直後、まるで吸い寄せられるように、割り込んできた影がある。
「ち‥‥。増援か‥‥。そいつらは俺が相手をする。お前はお琴ちゃんを!」
 彼が裏口から戻ってくる間に入りこんだのだろう‥‥死霊侍。おそらく、お琴を操っている連中の仲間だと思った一刃は、そんな彼らをひきつける様に相手取り、そう言った。
「お琴さん、逃げちゃいますよ!」
「そっちの塀沿いに行かせるな!」
 しかし、その隙にお琴、起き上がる。それを見て警告した喪に、一刃は立ちふさがるように指示をする。動きの止まったお琴を見て、林檎が更紗にこう頼んだ。
「今の内にお琴さんの捕縛を!」
「心得ておりますぇ!」
 すぐ後ろに現れた彼女、そう言ってお琴に体当たり。こてんと転がる彼女。しかし、それは運悪く、あの怪しい侍女達の中‥‥。
「持ち去られるな!」
「やらせん‥‥。唸れ烈風!」
 遠慮なんぞいらない‥‥。そう感じた京士郎は、刀にオーラパワーを書け、ソニックブームを放った。衝撃波は、侍女だけに命中する。
「おっと、危ないな〜」
 それを受け止める仁。そして、戦いを遠巻きに見守っていた他の侍女たちへこう言った。
「女達は俺の後ろへ!」
 そして、絵筆を刀に持ち替え、怪しげな死の侍女に向かい、スマッシュを振り下ろす。
「まったく‥‥。おちおち昼寝も出来やしない」
 戦いに加わった蒼牙が、オーラショットを放ちながら、そう言った。そして、彼らの働きにより、敵の半分が消えた頃、侍女の1人が言葉を話す‥‥。
「おのれ‥‥。またしても邪魔をするか‥‥」
「しますよ。それがお仕事ですから‥‥!」
 しかし、それを最後まで良い斬らない内に、後ろから忍び足で近付いた喪が霞刀を振り下ろした。蒼牙のオーラで魔法の武器と化した死の侍女は、そのままごろりと倒れこむのだった。