先祖の遺産を探して

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月21日〜09月26日

リプレイ公開日:2006年09月26日

●オープニング

 その日、冒険者ギルドに駆け込んできたのは、キエフの町に住む人々の1人だった。街中で、雑貨屋を営んで居ると言うその青年は、在庫置き場兼納屋で、先祖代々受け継いでいたクローゼットの掃除をしていた際、古びた地図を見つけたそうだ。
「こいつは、何代か前のじーさんが残したお宝だ! こいつさえあれば、一生遊んで暮らせるぜ!」
 自慢げにそう言って、酒場であれこれとその先祖の話を繰り返す青年。酒の席と言う事もあり、周囲の人々も、そして酒場の主も、あまり真剣に耳を傾けていなかったのだが。
「た、助けてくれっ!」
 翌日、青い顔をして、冒険者ギルドに駆け込んでくる雑貨屋の青年。
「どうしたんだ? 一体」
 ギルド職員が、息を切らせる青年に水を飲ませつつ、そう尋ねると、彼は慌てた様子で事情を話した。夕べ、話しすぎたせいで、地図を狙われ、やむなくギルドに逃げ込んだと言うわけだ。
「このままじゃ、おちおち仕事もしてられないんだ。何とかしてくれ!」
「わかった。頼んでみる」
 そう訴えてくる青年に、職員はそう言って、必要書類を持ってくる。その間に、青年は隠されているらしいお宝とその場所の、詳細を教えてくれた。
 そこは、実家の裏山にあたり、村の子供達から大人まで、庭の様に扱っている場所だそうだ。ただ、奥地に分け入れば、それなりにモンスターも多く、一番奥には、先祖代々の墓を兼ねた遺跡がある。依頼人も、悪さをした際には、墓からご先祖が蘇って、お前達を襲うぞと、説教された事がある。それが真実かどうか分からないが、先祖も寝ていられなくなれば、怒るだろう。そして、厄介な事に、遺産が納められている場所は、その墓のすぐ近くだそうだ。中々にやりがいのありそうな場所である。

『地図に示された遺跡へ潜ってくれる方を探しています』

 おまけに、このままにしておけば、キリがないので、さっさと取って来ようと言うわけだった。

●今回の参加者

 ea8991 レミィ・エル(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0815 イェール・キャスター(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2205 メアリ・テューダー(31歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5634 磧 箭(29歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●はじめに村で
 その村は、後ろに山があり、近くには小さな川が流れている。冬になれば、全て雪と氷に閉ざされてしまうだろうそこは、針葉樹に囲まれた、どこにでもあるような変哲のない村だった。
「墓を兼ねた遺跡ですか。興味深いですね。しかし、そのような場所では、アンデッドの類が潜んでいる恐れがあります。放置しておくわけには参りませんね」
 アシュレイ・クルースニク(eb5288)が、森の光景を見てそう言った。既に、森の隙間から、建物らしき姿が見えている。うっかり迷い込めば、命を危険に晒す事になりかねない。
「それにしても。ふーん、おじーさんが残したお宝ねぇ‥‥。骨折り損のくたびれもうけって事にだけならなきゃいいわよね」
 イェール・キャスター(eb0815)が、依頼の写しを眺めながら、そう言っている。と、そこへレミィ・エル(ea8991)がこんな事を言い出す。
「遺跡といっても、やろうとしている事は、墓荒らしと同じだな」
 身もふたもない台詞に、苦笑する彼女。そうしている家に、一行は依頼人の待つ村長の家へとたどり着いていた。小さな村なので、だいたい集まるのはそう言った場所と、相場が決まっている。事実入って見ると、当人の他、仲間らしき数人が、冒険者達の到着を待っていた。
「早速だが、教えて欲しい事がある」
 簡単な自己紹介の後、ジュラ・オ・コネル(eb5763)がそう切り出した。村にいた猟師を捕まえ、裏山の様子を尋ねる。それによると、出没するのは、どこの山の中にいる動物ばかり。もし、アンデッドが現れたとしても、怯えてどこかに逃げてしまうだろう。
「私も少し聞きたい事があります。よろしいですか?」
 それをコネルが、無言で受け取る中、アシュレイが依頼人の年格好を確かめる。地図を書いた御仁と、体格や種族が違うなら、歩数にはそれを考慮しなければならないからだ。
「ふむ。しかし、見た目は普通のエルフですね‥‥。ご先祖も、そうだったのですか?」
 頷く青年。ここロシアでは、人によっては親戚縁者がエルフではない場合もある。だが、この青年の場合、問題はないようだ。
「そうすると、歩数は平均的なエルフの歩幅ですね」
「ミーの倍はありそうでござるよ」
 河童の磧箭(eb5634)が、背を比べて苦笑してみせる。その彼は、青年の家に、ペットの動物達を預けたいと申し出る。それが終わると、いよいよ裏山への出発となるのだった。

●裏山で
 まだ、日の明けぬうちから、村を出る冒険者達。
「そう言えば、コネル殿は、遺跡を必要以上に傷つけないって、約束しませんでしたな」
「‥‥必要ない」
 かわやが気付いた様にそう言うが、コネルは短くそう答えるだけだ。無愛想な性格らしく、それ以上の台詞は語らない。と、そんな彼をフォローするように、アシュレイがこう告げる。
「目的は遺産の回収ですが、アンデッドが襲ってくるような事があれば、速やかに殲滅しなければなりません。約束は‥‥出来ないでしょうね」
 頷くコネル。周囲はまだ暗かったが、この調子で進めば、夜明けには、遺跡付近にたどり着くだろう。それに普通、6人もの集団を、野生動物は襲わないし、巣は人の通る道には作らない。そう思い、彼女は自ら先頭を進む。しかしそれでも、相変わらず無愛想なコネルは、必要以上の台詞は喋らなかった。
「スパーダ、もう少ししたら、人里も見えなくなるから、そうしたら教えてね」
 道中、テレパシーのスクロールで、ペットの虎に頼むイェール。だが、そう言った直後だった。
『うー‥‥』
 と、その途中。暁の影で吠える声。一瞬、動きの止まる冒険者達。走る戦闘の緊張に、レミィが思わず声を上げた。
「をーほほほほ! 邪魔な狼ですわね!」
 高飛車に笑う彼女。見れば、その瞳は真紅に染まっている。緊迫感に耐え切れず、狂化を起こしてしまったようだ。
「待て。ここで放つのは危険だ。まずは広がって」
 そんなレミィを押し留め、そう指示するコネル。言われた通りにする彼女。1人、ゲルマン語の分からないメアリ・テューダー(eb2205)には、かわやがその意図を伝えている。
「だめみたい」
 しかし、狼達は、よほど腹が減っているのか、包囲網を狭めてくるばかりだ。確かにメンツには女性も多い。迫力が足りないのも、仕方ないのかも知れない。
「スパーダ、ちょっと脅かしてあげて」
 そこへ、イェールがペットにそう頼んだ。これでだめなら、実力行使と言う名の、ウインドスラッシュやライトニングサンダーボルトを撃てば良い。だが、狼達は、虎の吠える声に恐れをなして、逃げて行ってしまった。
「これで当分は襲ってきません。ありがとうスパーダ」
 飼い主に撫でられ、ゴロゴロと喉を鳴らす虎さん。このあたりは、猫と変わらない。
「さて、そろそろだな‥‥」
 ようやく落ち着いたレミィが、地図を見てそう言った。そこには、目印となる木が描かれている。それと同じ木を見つけた彼女、呟く。
「東、南に対して、この上と左というのは何だ?」
 北かな? と、レミィは思ったが、木の北側には、崖があり、歩けそうにない。そんな彼女の考えを、かわやに通訳してもらったメアリー、彼を通じて、こう言った。
「地図上の上方向なのか、それとも坂などを上っていくという意味なのか。これだけでは何ともいえませんね」
 と、アシュレイが、自分なりの地図の読み解き方を伝える。
「地図にある『上』は山頂方向、もしくは傾斜の上方向のことではないかと思います。『左』はその進行方向に対する左側。どうでしょうか?」
 確かに、目印の木からは、山頂へと延びる道が、うっすらと続いている。どうやら、その道をたどれば良さそうだ。
「まぁ、なんにせよ。見つかった地図に描かれている目印の扇状の石を探し出すのが第一の作業よね」
 イェールがそう言って、その道へと足を踏み出す。だが、その向かう先には、遺跡がそびえ立っていたのだった。

●遺跡
 その遺跡は、少し大きめの遺跡だった。道自体は、それほど厳しくはない。その為、皆は相談して、隊列を組んで、歩数を数える事にした。
 前列がかわやとレミィ。中列がイェール、メアリ。後列がアシュレイとコネルだ。さすがに、大勢で遺体を運ぶ都合上、それほど狭いわけではない。その為、一列にはならずに、行動する事が出来た。
「罠‥‥と言うより、足元が危ないですね」
 警戒して、松明で照らしていたレミィがそう言った。墓を兼ねていると言うその遺跡は、獣が迷い込んだり、悪さをされないように、細かい石が敷き詰められている。
「まるでまきびしでござるなぁ。落とし穴とかは、ないようでござるが」
 ロングロットで、こんこんと床や壁を突付き倒して、そう言うかわや。だが、先に進むにつれ、次第に暗くなり、松明だけでは物足りなくなる。
「そろそろ、これつけた方が良さそうね」
「油が足りなかったら、言って欲しいでござるよ。予備はあるでござるから」
 イェールが、ランタンに火を灯しながらそう言うと、かわやは荷物の中から、油壷を取り出してみせる。暗闇で狂化を起こすらしき彼女には、必須の装備だ。
「しかし‥‥。ずいぶん深いわね‥‥」
「ミーには、倍の距離に感じるでござるよ〜」
 通路はまるで地の底へ続くかのように、急な勾配となっていた。その中を、彼らは一歩一歩確かめる様に進んで行く。しかし、河童のかわやにとっては、歩幅が他の面々とあわず、少し辛そうだった。
「周囲の警戒は、ヨークにやってもらいますから、かわやさんは、罠の警戒だけしておいてくださいな」
 メアリがペットのわんこをなでなでしながら、そう伝える。こうして彼らは、慎重に、底へ向かって歩いて言ったのだが。
「しかし、本当に敵がいないですね」
 後ろを振り返りつつ、そう言うアシュレイ。もう少しアンデッドや獣等が出て来るかと予想されたが、後ろを振り返っても、その気配は無い。
「この子のおかげでしょう」
 ランタンを持ったままのイェールが、自慢そうにペットの虎さんを撫でている。ところが、その最中だった。
「何かある」
 先頭を歩いていたレミィが、松明を掲げながらそう言った。と、かわやも灯りを掲げてみせる。と、そこには天井まで吹き抜けになった、少し広い空間があった。
「ここは‥‥ちょうど遺跡の底辺にあるようだな」
 スープ皿の底にも見えるそこには、今入ってきた通路の他、四方に通路が延びている。それぞれ、違う出口があるのだろう。
「今何歩だっけ?」
「428歩だ」
 イェールが後ろを歩いていたコネルに確かめる。と、今まで会話に参加せずに、ずっと歩数を数えていたらしき彼女、正確な数値を教えてくれた。
「じゃあそろそろかな。扇状の石がないか、調べて見るね」
 そう言うと、彼女はレビテーションのスクロールを唱える。浮き上がる彼女を見て、レミィもじっと目を凝らした。彼女のように空は飛べないが、目の良さには自信がある。それに、何らかの手段でカモフラージュされているのなら、その身破り方も、心得ていた。
「経年劣化によって形が変わっているかもしれませんね。ことによっては、墓石と見分けが付かないということもあるかもしれません」
「むしろ、墓石に刻まれている可能性もある‥‥。調べて見るか」
 メアリの意見に、レミィはそう答え、周囲に並べられた墓石らしき物を調べようとした。ところが。
「うー。わんっ!」
 ヨークが低く唸り、一声吠える。はっと気付いたメアリ、こう叫ぶ。
「気をつけて! 何かいます!」
 警告に、作業を中断するレミィ。しかし、時既に遅く、墓石がゆっくりと内側から開く。
「メアリさん下がって! 魔法撃ちますから!」
「は、はいっ!」
 慌てて彼女を下がらせ、前へと出るアシュレイ。それと同時に、コネルも無言で剣を抜いた。そこへ、墓石を押しのけて現れたのは、骨も皮も腐り落ちきったスカルウォーリアーである。
「先祖の守り人って所ですかね」
「ふん。スカルウォーリアー如き、何ほどの事でもありません。わたくしが守ってさしあげますわ、安心しなさい」
 緊張感に、再び狂化を起こしてしまうレミィ。しかしその結果、愛犬のホリーは、怯えて隠れてしまった。
「ああもう! 待ってくださいなっ!」
 矢は彼が持ったままだ。慌てて追いかける彼女。その間に、かわやは持っていたロングロットをその場に投げ、代わりにクルスダガー「トロイツカヤ」へと持ち替えていた。
(「魔法の武器でなければ効かない‥‥と言うのは、なさそうだ。ならば、遠慮なく打ちのめさせてもらう!」)
 言葉にこそ出さないが、コネルはその意図でもって、剣を振るう。しかし、スカルウォーリアーに、突きの攻撃は通用しない。COを使えない彼女にとっては、あまりダメージは与えられていなかった。
「コネルさん。これ使ってください!」
 そこへ、アシュレイがホーリーメイスを投げる。突く攻撃は通用し無くても、聖なる打撃武器なら、効果はあるに違いない。
「感謝する」
「私は後ろで、回復してます。少しでもやばかったら言ってくださいね。治せるの、捻挫がせいぜいですから!」
 礼を言うコネルに、注釈を付けるアシュレイ。
「えーん、せっかくひきつけてくれてるのに、危なくてこの距離じゃ、聖水がかけられない〜」
 その隙に、清らかな聖水を、スカルウォーリアーへかけようとしたイェール。しかし、体術には全く通じていない彼女にとって、接敵して中身を振りかけると言うのは、無理な行為だったようだ。
「無理に出てくるな」
 そんな彼女を後ろに庇いつつ、そう言うコネル。渋々頷いたイェールは、こう申し出ていた。
「何とかしてあいつら並べて。このままじゃ、納得行かないもの」
「そういう事なら、私が、コネルさんは、そのまま前衛やっていて下さい」
 メアリが頷くと、彼女も「心得た」と、同意してくれる。
「吹き飛ばすものなら、いくらでもある‥‥罰当たりだけどね!」
 そのメアリが、サイコキネシスで持ち上げたのは、スカルウォーリアー達が壊した墓石の欠片だった。拳二つほどはあろうかと言う石だったが、それでも、彼らの歩みは止まらない。
「援護します‥‥。コアギュレイト!」
 アシュレイが、後ろからスカルウォーリアーの動きを封じ込めにかかる。それを見たメアリ、見習うように魔法を唱えた。
『地の精霊よ! 彼の者に枷を与えよ、アグラベイション!』
 ぐぐっと重さを増したように、スカルウォーリアーの動きが鈍る。
「動きを鈍らせるなら、ミーにも任せるでござるよ!」
 しかし、まだ動いている彼らに、今度はかわやがフェイントアタックを食らわせた。ダメージではなく、彼らに傷を負わせ、動きを鈍らせる効果を狙って。しかし、そこは精神のない怪骨、あまり動きは鈍らない。
「地の精霊よ! 汝らの司りし数多の命に我が意思を伝えよ、プラントコントロール!」
 それでも、稼いだ時間は、メアリに再び魔法を詠唱する隙間を与えたようだ。
「今ですわ!」
「行くわよぉ! ライトニングサンダーボルト!!」
 ようやく追いついたレミィが、牽制代わりの矢を打ち込む。動きを完全に抑えられたスカルウォーリアー。一列に並んだそこへ、イェールはその手から稲妻を飛ばした。専門レベルの効果を食らい、バラバラに崩れ落ちるスカルウォーリアー達。
「で、何歩まで数えたっけ?」
「429歩だ」
 そのイェールの問いに、コネルは、自分が踏み出した一歩を加えて、正確に答えて見せるのだった。
 なお、見つけたお宝は、金銀財宝ではなく、家族の肖像画だったそうである。