【冬に備えて】女王蜂

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:9〜15lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月23日〜09月28日

リプレイ公開日:2006年09月28日

●オープニング

 ロシアの冬は厳しい。
 真冬ともなると、気温がマイナス20度を下回る事もあり、それに伴って、毛皮の需要も高まっていた。
「今年も居ると良いんだけどなぁ」
「見つけないと、こっちが死んじまうかもしれんし‥‥」
 最近入植したばかりと言うその村では、猟師達が山に入り、冬眠前の動物達を追っていた。だが、獲物が捕れなければ、かなり死活問題に発展しかねない。その為、彼らはそう言いながら、以前より少し山奥へと分け入っていたのだが‥‥。
「何か、羽音が聞こえないか?」
「そう言えば‥‥」
 獣用の罠を仕掛けていた猟師達の耳に届く、鋭い羽音。少し様子を見てこようと、その1人が、見回りに出た直後だった。
「うわぁぁぁ。ラージビーだ!!」
 遭遇したのは、体長50cmもある巨大なスズメバチだ。どうやら、近くに巣があるらしく、アゴをカチカチと鳴らし、そして5cmもある毒針で、テリトリーに近付いた猟師達を狙っている。
「に、逃げろ〜っ」
「わぁぁ。追いかけてくる〜!!」
 罠をそのままに、その場から逃亡する猟師達。しかし、スズメバチは侵入者には死の制裁を! と言わんばかりにして、襲いかかってくる。
 こうして、山にラージビーがいて、獲物が取りにいけないと言う話は、その村にいた技術者を通じ、ギルバード・ヨシュアの元に届けられた。
「その村の方の話では、普段ならもう少し前に、冬眠に入っているそうなのですが、今年はどう言うわけか、凶暴化したまま、山に居座っているそうです」
「ふむ‥‥。だが、新入りの私に何故その話を?」
 仕事をしながら、レオンにそう尋ねるギル。と、彼はその理由をこう報告する。
「あちらも、村に入植したばかりですし、キエフの町出身ではない方もいるそうです。ギルドに、敷居の高さを感じているのかも知れません」
「それで、私に間に立って欲しいと言うわけか‥‥」
 本来、ギルドはもっと気軽に利用して欲しい施設ではあるのだが、そこはそれ、多少なりとも遠慮と言う心情があるのだろう。
「わかった。ではギルドには、私の方から話を通しておこう」
 そう思ったギルは、そう言って準備を整える。こうして翌日、ギルドに次のような依頼が載っていた。

『森に巣を作った凶暴なラージビーを退治して下さい』

 なお、森の入り口までは、村の猟師が案内してくれるそうだが、それ以上は危ないので近付きたくないそうである。

●今回の参加者

 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5753 イワノフ・クリームリン(38歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea6320 リュシエンヌ・アルビレオ(38歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

「久々に帰ってみれば、随分と変わりつつある。せっかくだ、人脈も作り直したい。壁役、盾役はこなせるだろう」
 イワノフ・クリームリン(ea5753)が、今回の友を見渡しながら、そう申し出ている。立派な体躯を誇る彼に、ギルバード・ヨシュア(ez1014)はほっとした表情で、こう言った。
「それは助かる。何しろ、今回は後衛が多いからな」
 彼の言う通り、見回せばメンバーには、女性も多い。
「セーラ様、無事に終わりますように見守り下さいませ‥‥」
 祈りを捧げるユキ・ヤツシロ(ea9342)は、見た目どおりの優しげなクレリック。
「ふむ、開拓されたばかりの森の依頼ねぇ‥‥。力になれるかもっ」
 わくわくとした表情で、そう言っているローサ・アルヴィート(ea5766)は、どう見てもレンジャーである。
「さーてと、蜂には悪いんだけど‥‥」
 けちょんけちょんにさせてもらおうかしら☆ と、にこやかに怖い事を言っているリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)の声が、延びの良いところを見ると、おそらく吟遊詩人だろう。
「それはよろしいのですが。ギル、どーしてここに?」
 もっとも、前衛に立てるらしき者もいる。いつものメイド服から、ネイルアーマーに変えた常葉一花(ea1123)は、すぐに抜ける側に、パリーイングダガーを装着済みだ。その彼女が、怪訝そうに尋ねると、彼はこう言った。
「前衛が少ないと、フローラから聞いたのでな。少し様子を見に来たんだが‥‥」
 良く見れば彼も、羽織った上着の下に、ネイルアーマーが見えている。それなりに準備を整えてきたらしい夫に、当のフローラ・タナー(ea1060)は、安心させるように、背後のペットを指し示す。
「大丈夫。無茶はしませんし、今回はボナパルトが戦ってくれますわ」
 そこには、彼女と同じくらいの背格好を持つストーンゴーレムが、無言で立っていた。見れば、フローラの胸元には、意思伝達道具と思しきメダルが光っている。
「それに、私も今回は前衛に立ちますわ。奥方様に傷一つつけはしません」
 そんな夫婦の姿に、一花がにやりと意地悪な笑みを浮かべながら、そう言った。フローラが顔を真っ赤にしている。その姿に、「あんまりいじめてくれるなよ」と釘を刺して、戻って行くギルを見て、イワノフはこう評した。
「なるほど。家族思いな奴なのだな。今は‥‥養う為に尽力していると言うところか」
「色々と、貴族や他の公国の方ともつながりを持つよう、交渉している所だそうです」
 フローラがそう答える。考え込む表情のイワノフ。もし、それが本当なら、少しは役に立つかも知れないと言ったところだ。こうして、村へと向かう一行。
「スノゥ、貴方は村の外で‥‥見えない場所で待機していてね。これ、お弁当にあげるから」
 入り口で、彼女はペットのスノゥドロップに、塩抜きした干し肉を渡し、そう頼んでいる。こうして、彼女の提案で、一行はまず、刺されて重傷だと言う猟師の家へと向かった。
「これで大丈夫‥‥」
 ギルの妻だと名乗ると、家の者はすんなりと通してくれた。ベッドで呻いている彼に、唯一アンチドートを使えるフローラが、浄化をかける。
「他に、怪我や刺されたと言う方はいませんでしょうか?」
 ギルドに報告のあった者以外にも、被害者がいるかも知れない。そう思い、申し出たフローラに、村のあちこちから、声がかかった。どうやら、予想外に被害は広がっているようだ。
「これも、神の使徒の役目ですから。ただ‥‥、少し荷物や愛馬を預かっていてくれると、嬉しいのですか」
 礼を言われた彼女、にこやかに微笑んでそう伝える。その結果、納屋を貸してくれる事になった。
「ふむ‥‥。粘着性のある道具とかは、ないのね」
 荷物を運び込みながら、リュシエンヌが周囲を見回し、そう言う。主に農作業や伐採等々に使われる道具や、保存食などが置かれている中には、彼女の求める道具は入っていなかった。話を聞けば、そう言った物は、主に森の中で調達する事になっている。
「本当は、矢の補充も頼みたかったのですが‥‥。これでは無理は言えませんわね」
 矢も、木を削って作った簡素なものが多いそうだ。やはり、自前で調達しなければなりませんね‥‥と、苦笑するフローラだった。

 その森は、所々に日の差し込む、比較的明るい森だった。
「何が出てくるか分からない所がこういう森のいい所よねぇ、ゾクゾクする‥‥」
 まだ勝手がわかっていないはずの森で、先頭を行くローサ。不気味な笑みを浮かべ、木の上から、進むべき道を模索する。
「気分に浸るのは良いけど、囮用のえさは大丈夫なの?」
「ん、平気。これでも森の道案内が生業だもの。ほら、足跡発見」
 リュシエンヌに言われ、彼女は木から下りてくる。その足元‥‥下草で覆われた中に、彼女は目的の痕跡を見つけ出す。
「あらホント。ユキちゃん、スノゥはしっかり押さえててね」
「はーい」
 そのまま、足跡を追いかけて行くローサを見送ったリュシエンヌ、スノゥと合流したユキに、そう言った。彼女は言われた通り、スノゥを一行から見えない位置へと移動させている。その間に、ローサは上手い事野兎を捕まえて着ていた。
「これで良しっと」
 リュシエンヌが、その兎に長い布を結び付け、野兎を蜂が目撃された方向へ放つ。ほど無くして聞こえてくる羽音。
「ごめんなさい、ウサギさん‥‥」
 動く物に襲いかかると言う話のラージビー、動きの鈍い野兎に襲いかかる。その様子を、少し離れた場所から、申し訳なさそうな表情をして見守るユキちゃん。
「まだ仕掛けるなよ。通常、蜂は夜に巣に入って眠る。今は巣を確かめるだけにしておけ」
 人前から、一歩引いてしまうような奥ゆかしい性格の彼女に、バックパックを預かっていたエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)は、そう言った。
「だったら、今のうちに、安全地帯を作っておきましょ。集めるものは、たくさんあるからね」
 その間に、リュシエンヌはラージビーを捕まえる為の、ねばねばする樹液を集める事にしたようだ。ただ、森は不案内なので、ローサが同行する事になった。
「少しは休めそうですね。ボナパルト、私の側にいなさい」
 その間、ボナパルトを操る為、MPを消費していたフローラは、ゴーレムを傍らに座らせ、ソルフの実を口にしている。こうして、準備を整える頃、あたりはすっかり暗くなっていた。
「そろそろ‥‥か‥‥」
 闇に包まれた森で、漁師セットの網を取り出し、その中にランタンを吊るすエルンスト。まるで天蓋の様になったその中で、ローサはこう言った。
「やっぱり、動物達も危険を感じて、近づいてこない‥‥と言った所かしら」
 彼女の耳には、木々のざわめきに隠れた動物達の姿も、虫の声さえも聞こえてこない。凶暴なスズメバチに、皆息を潜めているようだ。
「巣は、どのあたりにあるの?」
「調べてみよう」
 リュシエンヌの問いに、エルンストはブレスセンサーを唱えた。
「ふむ。木の根元に固まっているようだな‥‥」
 見れば、もっとも反応の大きいあたりには、半ば朽ちた木が横たわっている。その巣には、入り口に数匹の蜂が止まっているのが見て取れた。夜のこの時期、蜂達も眠っているらしく、微動だにしない。そこへ、リュシエンヌがこう言った。
「やっぱりね。入り口に網を被せておいた方が良いかしら」
「ああ。だが、もう少し身の軽い奴の方が良い」
 そう答えるエルンスト。巣に網をかけるのは、彼も考えていたが、さすがに吟遊詩人の彼女では、うっかり蜂を刺激して、刺されかねない。と、ローサが彼女から網を受け取り、その役を申し出る。
「じゃあ、私の出番だね。これでも、少しは自信があるんだ」
 回避能力なら、ラージビーには負けない。そう主張する彼女に、網を手渡しながら、エルンストはこうアドバイス。
「蜂は夜動かんとは言え、モンスターだからな。気をつけていけよ」
 うなずいて、慎重に巣へと近づく彼女。そして、リュシエンヌの塗った粘液上の樹液でもって、べたつく網を、朽木にかぶせたのだが。
「出て来た!」
 その直後、警戒音をカチカチと鳴らしながら、難を逃れたラージビー達が、ローサへと迫る。刺されては戦力外になってしまうので、さっさと逃げ出す彼女。
「えぇい、一番近くにいるラージビー!」
 その撤収をフォローするようにリュシエンヌがムーンアローを打ち込んだ。しかし、半分は抵抗されてしまったらしく、ややスピードが落ちた程度だ。
「刺されてない? もし刺されてたら、これ飲んで」
「あ、ありがと」
 網で囲まれた安全地帯に逃げ込むローサに、彼女は持っていた解毒剤を差し出す。フローラがアンチドートを使えるが、彼女はボナパルトの操縦に専念してほしかったから。
「あまり前に出ないで下さい。夜とは言え、刺激するとまずいですから」
 その間に、フェザーマントを翻し、ラージビー達に立ちふさがる一花。安全地帯のそれにも、粘着性の樹液が塗りたくられている。
「魔法使いの方々は、中から出ないでくださいね!」
 蜂をひきつけるかのように、安全地帯の後ろ側へと走り出す一花。これでも、それなりに足の速さには自信がある。器用に蜂達を避ける彼女のスピードは、決してローサに劣ってはいない。
「一花さん、先に女王を狙って!」
 安全地帯の中で、リュシエンヌがそうアドバイスする。蜂達は寝ぼけているのか、まだ動きが鈍い。
「そうは言われても、どこにいるのかわかりませんよ〜!」
 しかし、表に出ているのは働き蜂ばかり。その様子を見て、エルンストは、もう一度ブレスセンサーを唱えた。
「大きいのは1匹‥‥。いや、2匹、3匹‥‥!? 新女王が生まれてるようだな‥‥」
 それによれば、まだ巣の中に、数匹の蜂が潜んでいるようだ。どうやら、この巣が巣別れ前の状態にあり、新しい女王蜂がいくつも誕生する直前のようだ。
「これが目覚めれば、大変な事になる」
 そう言って、ムーンアローのスクロールを広げるエルンスト。網で覆われた箇所に、ウィンドスラッシュをぶち込めば、網も壊れてしまうからだ。だが反面、彼の放った魔法では、かすり傷程度しか負わせられていない。
「スノゥ、頑張って私を守ってね。お家に帰ったら、お肉いっぱい食べさせてあげるから」
 そこへ、ユキがスノゥの首筋を撫でながら、そう頼んでいる。一声鳴くスノゥ。これなら、大丈夫そうだ。
「皆さん、下がって! 網の向こうの動きを止めるから!」
 仲間達に、そう声をかける彼女。その間に、スノゥはゆっくりと巣の正面へと回りこみ、網の向こうの蜂達に、極寒の冷気が浴びせた。そのとたん、蜂達の動きが格段に鈍る。
「ボナパルト。飛ぶ物をその場で攻撃」
 それでも、外にいた蜂達の動きは止まらない。フローラがボナパルトで攻撃をさせるが、ストーンゴーレムの動きでは、彼らに追いつけなかった。
「なかなか逃げるの早いよね、ヒット&アウェイってやつ?」
 ダブルシューティングで、蜂達を狙っていたローサがそう言った。様子を見る為に使ったCOだったが、命中率が6割ほどな所を見ると、このまま撃ってよさそうだ。
「お前たち、我が後ろに隠れていろ。そこからでも、貴殿の腕なら、当てられるだろう?」
「は〜い」
 しかし、そこへイワノフが盾を構えてそう言ってくれる。重装備の防具を着込み、稼働部の隙間を布で袋状に覆い、顔当ての隙間もマスクで覆われた全身が、ピンク色のオーラで包まれているところを見ると、おそらくすでにオーラボディを唱えているのだろう。
「さぁっ。かかってくるがよい!」
 その鎧の厚さも手伝って、すでに毒針は通らない。しかし、少しでもかすれば、重傷になる可能性はある。フローラの負担を減らす為にも、リュシエンヌは解毒剤を投げて渡す。
「威力は大した事ないかも知れないけど、毒には気をつけて!」
 警告するフローラ。彼女が、アンチドートを使おうとすると、ローサは首を横に振り、こう伝える。
「フローラさんは、ボナの操縦にMP使って! 解毒は何とかするから!」
「これくらいなら、まだ倒れはしません!」
 ソルフの実は、一花も予備を持っている。もう少し、大丈夫だと。
「その前に止めてみせる! 自分の装甲は伊達じゃない!」
 それを使わせまいと、接近する蜂に、自身の盾を押し付けるイワノフ。おかげで、1匹が昇天していた。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ。心配せずともよい」
 恐る恐ると言った表情で、ユキちゃんがそう言うと、彼はそう答えて、腕を見せてくれる。分厚い鎧には傷が入っていたが、貫通はしていないようだ。
「よかった‥‥。私、まだ大きな怪我は治せないから‥‥」
 ほっと胸をなでおろすユキ。どうやら、狂化はしなくて済みそうだ。これならば、用意したポーションや解毒剤で、どうにかなるだろう。
「何とか当てられそうね。ならば‥‥」
 手ごたえを感じたローサは、一本の矢を番え、狙いを巣の中心部‥‥女王蜂がいる辺りへと定める。他の蜂は、エルンストの唱えたストリュームフィールドに阻まれ、近づけない。
「久々にNo hay ROSAs sin espinas‥‥ってね! 棘痛いでしょ?」
 近づけなくなる鉢達を背後に、彼女は矢を解き放つ。それは、狙いたがわず巣の中心部‥‥を撃ち貫く。
「ボナ! 巣を抱いて倒れ込め!」
 そこへ、フローラがそう命じる。
 言われた通り、巣にのしかかるボナパルトだった。