父親学級

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:9人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月07日〜11月12日

リプレイ公開日:2006年11月15日

●オープニング

●そろそろ時期ですね
 どこの世界でも、初めての出産となると、落ち着かないものである。ここ、ギルバード・ヨシュア宅でも、それは同じだった。
「雪か‥‥」
 窓の外では、すでに気温が霜が降りるほどまで下がり、時折白いものがちらついている。冬将軍の足音が聞こえてくるにつれ、議長ことギルバード・ヨシュアには、大事な仕事が待っていた。
「ロシアの冬は厳しいと聞く‥‥。その時期に生まれるとなると、寒さには強くなりそうだな」
 その口元に、何かを楽しむような笑みが浮かんだ。こちらに来てもうすぐ三ヶ月。ようやく仕事が落ち着くと、浮かぶのは家族の事のようだ。
「なーににやついてるのよ。気色悪い」
「ぶしつけだな。パープル女史」
 そこへ、お琴の礼儀作法見習い先を融通してもらう為、議長宅を訪れていたパープル女史がそう言った。むっとした表情の彼、こう続ける。
「もうすぐ子供が生まれるのを、楽しみにして何が悪い」
「あら、楽しみにするのはかまわないけど、あなた、子供扱えるの?」
 まともに顔色を変える議長。と、パープル女史はにやりと笑って、こう告げる。
「赤ん坊って、乱暴に扱うと壊れちゃうのよ?」
「い、いやそれは‥‥」
 そんな事、考えても居なかったらしい議長。と、彼女はにやり笑いを貼り付けたまま、くるりと振り返る。
「やっぱりね。れーおんくん☆」
「なんですか?」
 関係のないふりをして、お茶を入れていたレオン、振り返る。
「冒険者ギルドに行って、依頼を出してきて頂戴。この新米パパに、赤ん坊の扱い方を教えてくれる人、募集ってね☆」
「乳母を雇うのでは‥‥」
 身分的には、そうしても不思議ではない立場だ。しかし、怪訝そうにそう尋ねるレオンに、彼女はお手手を振ってみせる。
「いーのいーの。どうせ募集したって、冒険者の方が多いんだから」
「勝手に決めないでくれ‥‥」
 そんなわけで、当人置き去りのまま、冒険者ギルドに、こんな依頼が表示されるのだった。

『父親学級開催。当家の主に、子供の扱い方や、父親としての心構え等々をご教授してくださる方や、参加者募集中です』

 表現が軟らかくなっているのは、レオンの采配に違いない。

●今回の参加者

 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb5300 サシャ・ラ・ファイエット(18歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8457 青沼 静馬(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8803 トリディア・バーグディ(22歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)

●サポート参加者

ティアラ・サリバン(ea6118)/ ジークフリート・ミュラー(eb5722)/ ジム・スミス(eb6087

●リプレイ本文

「いらっしゃいませ」
 メイド服姿で、深く頭を垂れる常葉一花(ea1123)。真幌葉京士郎(ea3190)に連れられ、出迎えられたサシャ・ラ・ファイエット(eb5300)は、恥ずかしそうにこう答える。
「はじめてお目にかかります。本日は、えーと‥‥後学の為に参加させていただきますわ」
「皆さん、ギルのために御苦労様です。こちらの席へどうぞ。 今、御茶を出しますわ。レオン、リーン、手伝ってくれるかしら」
 フローラ・タナー(ea1060)が教会の中央に持ってきたテーブルに、クロスをかけている。それの上に、ティーセットや花入れを置くレオン、ハーフエルフのリーン。と、一花があわてた様に駆け寄っていた。
「ああもう、フローラさんは座っててください。こういう事は、メイドの私に任せてゆっくりしててくださいね」
 そのまま仕事を奪い取る彼女。いや、一花ばかりではない。カーシャ・ライヴェン(eb5662)もその1人だ。
「お手伝いの皆さん、よろしくお願いしますねー」
 引き連れているのは、村の女性達。皆、子供を産んだ事のある者ばかりだそうだ。
「さぁさぁ、お茶が入りましたよー」
 そこへ、一花がハーブティを持ってくる。フローラが手を叩くと、リーンがそれを客人達へと振舞った。かつて、京士郎らと共に、闇狩人から救い出された彼は、今針子の1人として、刺繍や縫製などに携わっているらしい。人前に出るのは、まだ苦手だが、黙々とこなす作業に関しては、すでに一人前の職人になっているようだ。
「よろしくお願いします。こちらが議長さん‥‥でしたよね?」
 深く礼をするサシャ。そんな彼女に、京士郎は依頼文を思い出し、にやりと笑う。
「ああ。イギリスで色々と世話になった方だ‥‥。しかし、あのやり手の議長でも、こういう時は取り乱すのだな」
 その話を聞いたサシャは、議長にこう頼んでいた。
「あの‥‥、できれば京士郎さんのイギリスでの暮らしぶりも、あわせて教えていただきたいですわ」
「あら。そうぉ? じゃあいい事教えてあげる」
 口を開いたのは議長ではなくミス・パープルの方だ。どこから聞いたのか、サシャになにやら耳打ちしている。
「えぇぇっ。イギリスでも、そんな事がっ!?」
「何を教えたんだ、一体‥‥」
 顔を引きつらせる京士郎。そんな彼に、レディは『港町の可愛いお嬢さん☆』とだけ答えていた。
「それにしても、父親になるために教室ですか。この際、レッドにも色々叩き込んであげましょう」
 嫁の台詞に、顔を引きつらせるレドゥーク・ライヴェン(eb5617)。あんぐりと口を開けっ放しの彼に、今度は青沼静馬(eb8457)がにやりと笑って見せた。
「それではワシが一つ、テテオヤのあんたの心得次第で、赤子の未来がどうなるか占うてしんぜよう。当たるも八卦、当たらぬも八卦」
 彼のテーブルには、占い道具がずらりと並んでいる。うんべらうんべらとなにやら唱えている彼を見て、議長は引きつった表情で「悪い結果が出ないといいがな」と言っていた。
「では、その間に講義を始めましょうか。ギル、そんなに緊張しなくてもいいと思いますよ」
「そうか? どうも、改めてとなるとな‥‥」
 フローラがそう言って、話を進めるが、議長は居心地が悪そうな表情のままだ。と、そこへ父親としては先輩にあたるレッドが、真面目な表情で、自らの経験を語る。
「父親となって早6年、上の子は6歳、下の子は2歳になりました。といってもハーフエルフは成長が遅いのですから、今が可愛くも大変なときであるわけですが‥‥。出稼ぎや村の内政で忙しいですから、ほとんど妻に任せっぱなしです‥‥。ギルバートさんも私のようになる前に何とかなされた方がいいですね」
「冒険者稼業にかまけた言い訳でしょうに‥‥。良く言いますわね」
 しかし、その実態は子供を預けっぱなしでふらふらしているだけのようだ。それでも、何か感じるもののあった議長は、考え込む仕草で、こう言った。
「ふむ。確かに仕事にかまけていては、レオンやリーンのように寂しい目に合わせてしまうな。やはり、子供達の為には、あまり家をあけるべきではないと言うことだな‥‥」
「いっそ、あの保養所に落ち着くって言うのはどうだ? ちょうどここに行儀見習い件世話係とか、乳母候補もいるわけだし」
 東雲辰巳(ea8110)が、お琴を指し示しながらそう言った。しかし、ご指名を受けた彼女は、あわてて首を横に振る。
「えぇぇっ。私には無理ですぅ。子供産んだ事ないですしぃ‥‥」
「冗談だ。まぁ、王妃の保養所でいいんじゃないか?」
 それならば‥‥と、納得する彼女。高貴な女性のお相手なら、ジャパンで慣れている。本当になれるかどうか分からなかったが、打診はしてみると、議長も言ってくれた。
(「いずれは俺も‥‥か‥‥、いい勉強になりそうだな‥‥」)
 その間、当の東雲はと言うと、同じように父親になる日を夢見ているのか、レディさんの横顔をじっと見つめていたり。
「うらやましいの? まだ産む気はないわよ。悪いけど」
「そのうちで良いさ。そのうちで」
 気付いたレディにさっくり断られても、彼は動じない。と、そこへ一花が一冊の本を差し出した。
「お姉さまには、こっちの方が子供みたいなものですもの。ね?」
「って、なんでこの場にこれが‥‥」
 特徴のある表紙には、ヒノミ・メノッサと記されている。どうやら『禁断の愛の書』のようだ。
「ふふふ。子供には、早いうちからの読み聞かせが大切なんですわ。特にこの本が効果的です」
「い、いや‥‥。私にはこれを読む技量はないのだが‥‥」
 フローラには見えないようにして、その本を薦める一花。しかし、愛の書は、特殊な技量を持つ人じゃないと読めないため、議長には無理だったようだ。
「なんなら、お姉さまが‥‥」
「もう! 子供にはまだ早すぎます! 何吹き込んでるんですかぁ!」
 意地でも読ませようとした一花、議長の代わりに、レディを使おうとして、フローラに怒られている。だが彼女は、いっこう気にせず、白樺のメモ帳片手に、こう口走っている。
「えー、私が聞いた話ですと、生まれた直後に見た人物を親だと思い込むので、出産には立会い産湯には夫婦共々子供と一緒につかるとよく、産湯には冬場でも凍らぬ水を使うと、さらに効果的だそーですわー」
「なるほど‥‥。つまり、温泉に一緒に入って、出産するといいのですね」
 素直なサシャ、彼女の一字一句を、逃さぬようにメモしている。このままでは、彼女が勘違いしてしまうと思った議長、止めに入った。
「頼むから嘘知識は吹き込まないでくれ‥‥。真似られると困る‥‥」
「そんなぁ。まだありますのよ? 例えば、子供は親の背中を見て育つものなので、母親が依頼などでいないときには、父親がそのかわりを勤めなければならないから、特に、奥方様の恰好で面倒を見るのが効果的です♪ とか」
 一花が議長に何をさせようとしているのか、予想が付いた東雲、にやりと笑って、彼女が持っていたフローラの上着を、彼の背中に押し付けてみせる。
「確かに、母親の代わりは重要だな。いっそ着てみちゃどうだ?」
「せっかくだが断る。だいたい、サイズが合わんだろうが」
 即答されて、不満そうに頬を膨らませる二人。そんな彼らを見て、青沼さんってば、「ダメ親父に育てられる赤子の未来は真っ暗じゃ‥‥」なんぞと、占い道具の向こうからむせび泣いている。
「なんなら俺がやろうか?」
「バカねー。女装ってのは、似合う子がやるから可愛いのよ。お人形さんも、中身選ばないとね☆」
 東雲が勝手に拝借したフローラの上着で、可愛らしく小首を傾げると、レディさんは軽く小突いて彼からそれを奪い取る。そして、フローラに控えるように従っていたリーンくんの背中へぽふり。
「って、だからってリーンに人の服着せないでくださいっ!」
 さすがに気付いたフローラに怒られて、あわてて逃げ出す三人組。
「まったく‥‥。油断も隙もあったもんじゃないですわね」
「うむ。もう少し建設的な意見を聞いた方がいいと、我が占いには出ておる」
 あきれた表情の彼女に、青沼がそう言った。と、それを聞いた議長、参加者達を見回して、こう言う。
「しかし、この中で父親なのは、レッド殿だけだが‥‥」
「別に今の父親連中でなくてもよろしかろう。卦には、『幅広く話を聞くべし』とあるゆえ、そこな若い者達に、父親の話を話させるのはどうじゃな?」
 青沼が指し示したのは、サシャと京士郎の二人だ。しばし考えていたサシャだったが、ややあって、自分の家族のことを話してくれる。両親を早くに亡くし、兄が父代わりだったらしい。何不自由なく育った彼女は、ある日、こう思ったそうだ。
「このまま甘えていては自立できないと思い、家を出てキエフにきました。それを知って飛んできた兄にいきさつを話すと、彼はわたくしの思いを解ってくれました。『お前が帰る場所はある。それだけは忘れないでくれ』と言い残し去って行く後ろ姿に、わたくしは兄の持つ父性を垣間見たのです」
 が、自分で何を話しているのか、分からなくなってしまったのだろう。あたふたと非礼をわびる彼女に、議長はこう感想を述べてくれた。
「いや、参考になったよ。なるほど、父親と言うのは、帰る場所を作っておく存在でもあるのか‥‥」
 それならば、自分にも出来そうだな‥‥と、そう思ったらしい議長。その姿を見て、京士郎もこう言った。
「そうだな‥‥。父親にとっての子育てとは、己の生き様を子に見せる事なのだろうと思う。もっとも俺がそうなる日が来るかは、わからないが」
「貴殿なら、立派な生き様を見せることが出来るだろうな。生き様‥‥か。そう言えば、あの方も、私にそうしてくれたような気がする‥‥」
 議長の横顔に、誰かを思い出すような寂しげな笑みがよぎった。
「それにしても‥‥。だいぶ、お腹も目立つようになってきたかしら‥‥」
「元が細いから、それほどでもないさ」
 一花から没収した報告書に、自分の事が書かれていたので、フローラはそう言って腹をさすった。だが、議長の言う通り、上着を羽織ってしまえば、懐妊していることなど、注視しないと分からない。
「でも、そろそろ生まれるのは確かですわ。そうだ、産着やお包みの準備は、整ってますの?」
「あ、ああ。それならレオンに‥‥」
 彼女に尋ねられ、議長は彼の方を向いた。と、レオンは「縫製は、リーンにしてもらってます」と、金糸で刺繍された産着を製作中だと、報告してくれた。
「後は‥‥ゆりかごやベッドは、木工ギルドに頼みましたの? 自分の子の事なのですから、レオンに任せきりではいけませんよ?」
「い、いやそれは‥‥。至急発注しておく‥‥」
 その辺りのことはまったく考えていなかったらしい議長。苦笑するレオン。一方のフローラはと言うと、楽しげな様子で、教会の十字架を見上げる。
「そうですわ。洗礼の事を考えないと‥‥。名前は何にしましょうか?」
「出来ればルーリック家から受けたいものだな」
 そこだけははっきりと考えを述べる議長。
「そうですわ。聖夜祭には、議長宅で出産祝いのパーティをしてはどうでしょうか。お名前は、そこで決めてもいいと思いますし」
「‥‥か、考えておく」
 すかさず、一花がそう提案してきた。しかし、また何か企まれそうだなと思ったらしい議長、その返答は言葉を濁す。
「王室は、ジーザス教の敬虔な信者と伺っております。洗礼も、王家の方でもいいかもしれませんね」
 一方のフローラはと言えば、そう答えていた。「そうなれば、名誉な事だな‥‥」と、議長は答えたが、その割には、王家は闇を抱えている。一抹の不安はぬぐえない。
「責任ある身と言うのは、お互い大変ですね。公務を果たしながら、子育てしなければならないのだし」
「私は一介の商人さ。ただ、少し商才より皆の揉め事を差配する運命にあるだけで」
 それを慮ってか、レッドが言うと、議長は首を横に振った。
「お互い、子供たちと接する時間がなかなか取れないようですね」
「出来るだけ、取りたいとは思っているよ。そうした方が良さそうだ」
 議長は、どこかに腰を落ち着けて、手元で子供を育てる事にしたようだ。乳母を雇える身分ではあるが、そうはしたくないらしい‥‥。
「まぁ、領地に戻れば、収穫高や徴収分の割合だの、冬の食糧確保だの、領民の安全だの考えねばなりませんからね」
「そちらも大変だな。私は貴族の雇われになる予定だから、そこまで‥‥とは思うが、どうなるかわからん」
 今、彼の元には、とある高貴な家柄から、御用達の看板を交渉している最中だそうだ。ただその過程で、彼のようにどこかの領地を預けられ、そこで作業をするよう命じられるかもしれないとのこと。
「では、次は実践ですわ。まずは小さな子供に慣れていただきましょう、この子の相手をしてくださいね〜」
「え‥‥。いや、いきなり相手と言われても‥‥」
 志が決まったところで、カーシャは子供を差し出していた。一方のグリーン君はといえば『長い髪だー』とか言いながら、議長の髪を引っ張るとか言う、豪気な真似を敢行している。興味深そうに、自分にまとわり付く子供に、議長、どう振舞っていい河からない様子。
「レッド君は、イエローちゃんのオムツを換えてあげてくださいね」
「こ、ここでかっ?」
 その一方で、カーシャは下の子の面倒を、レッドに押し付けていた。頬を膨らませる彼に、彼女はびしりとこう言いきる。
「はい、口答えしない! これからは、男性も子守をする時代です。妻に任せっぱなしと言うのは、駄目ですよ」
「‥‥こ、子育てと言うのは大変なのだな」
 話を聞くだけに回ってしまっている議長に、泣き出されておろおろしているレッド。新米パパが、その苦労を実感したのを見て、占い道具を手にしていた青沼は、満足げにこう言った。
「それが分かれば上出来じゃ。おお、素晴らしい父親に恵まれ、赤子の未来は燦然と輝いておる!」
 多少大げさだが、占いと言うのは、人々の心を導くカウンセリングのようなものだ。これで、議長もその子も、正しい道に進んでくれるのなら、嘘も方便と言うもの。
「では、生まれてくるお子の為に、これを贈ろう。これで鍛えれば、生まれてくるお子の力と器用さは安泰だ」
 そんな議長に、京士郎が差し出したのは、剣の稽古用の木刀に、何故か‥‥箸。
「女の子だったら、どうするのかしら」
「女性でも、体を鍛える事は重要だと思いますわ」
 パープル女史の突っ込みに、サシャは京士郎が間違った事をするわけがないと、そう断言する。
「私も手紙、出そうかな‥‥。あの人に」
 それを見て、そう呟く一花。だが、羊皮紙の手紙が、想い人に届いたかどうかは、定かではない‥‥。