【粛清の冬】召し上げられた者

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月14日

リプレイ公開日:2006年12月16日

●オープニング

●討伐隊
 その日、議長宅に再び客人が訪れる事になった。
「ふむ。この間の一件は、あれはあれでよかったようだな」
 彼の手元には、その事を伝える旨の、紋章付き羊皮紙の手紙がある。そこには『この間の返答をするので、貴殿宅を訪れたい』と書いてあり、日時が併記されていた。
「レオン、お茶の準備を」
「かしこまりました」
 その旨を伝え、早速用意させる議長。程なくして、香ばしい匂いが漂ってくる。そして、それが応接室へと届いた頃、ちょうどルーリック家の馬車が、議長宅へと横付けされていた。
「御使者殿には、お変わりなく」
「挨拶は良い。早速本題に入ろうか。人払いを頼む」
 姿を見せたのは、例の金髪近衛騎士。茶を出してきたレオンを見て、そう指示をする。だが、議長はこう言って首を横に振った。
「いえ、大丈夫です。彼らはイギリスの地にいる頃より、我が家に仕える者達。ご心配には及びません」
「そうか。ならば話そう。王室御用達の件だが、ラスプーチン様の御認可が降りた。これが鑑札だ」
 差し出された木の札。それには、ルーリック家の紋章を背景に、御用達の旨が記されている。
「ありがとうございます。では、さっそくエリザベータ様の為に、生地をお持ちしましょう」
「いや、実はその前にやってもらいたい事がある。今回は、ラスプーチン様のお使いと言うのも、兼ねているのだよ」
 使者に言われ「何なりと」と頭を垂れる議長。彼に、近衛騎士は事情を告げた。
「粛清に力を貸してもらいたい」
 貴殿のところならば、相当に力を持つ冒険者もいるだろう‥‥と。
「‥‥確かに、不正を行っているものなのですか?」
「ああ。間違いない。しかも、複数だ」
 近衛騎士が差し出した羊皮紙。それには、複数の名前が記されている。
「わかりました。そう言うことなら、お力をお貸ししましょう」
 いくつかに見覚えがあった議長は、そう言って羊皮紙を受け取る。そして直後、ラスプーチンの名で、冒険者が秘密裏に集められていた。

『粛清参加者募集中! 不正のはびこる村に、正義の鉄槌を!』

 無論、表向きはまっとうな依頼に見せかけて‥‥である。

●巻き込まれた生贄
 物語が紡がれたのは、馬車で三日ほど行った先にある村だった。
「ふん。ラスプーチンめ。意に沿わぬと知って、攻撃に出たか‥‥」
 村の中央にある大きな屋敷。そこには、近在の村々から、『代表』が集まり、ぼそぼそと話し合っていた。
「どうしましょうかね?」
 余り日の差さぬ室内。しかし、燭台に置かれた蝋燭は、お互いの顔が判別出来る程の光を放っている。
「迎え撃ってやるさ。何しろこちらは、向こうの弱みを握っている。大物を強請ると言うのも、また一興と言う奴だよ」
 ほのかに暗い部屋の中で、そう言うリーダー格の男性。他にいるのは10人前後の‥‥男女様々な年齢の者達だ。
「なるほど‥‥。倉庫に収めたお宝を、利用するわけですな」
「うむ。奴らは、あのお宝には、手を出せないからな‥‥」
 彼らが視線を送る『倉庫』の内側からは、奇妙な物音がしていた。そう、まるですすり泣きのような‥‥音。
「くくく‥‥」
「ダンスは多い方がよろしいですからね」
 普通なら恐怖を感じるであろう怪しげな音に、彼らが顔色を変えないのは、おそらくその正体を知っているからに違いない‥‥。

 一方、偉い人達とは離れた、別の村では。
「え‥‥? でもそれって、生贄なんじゃ‥‥」
 議長達と共に、ロシアへと渡ってきていたハーフエルフの少年、アルヴィンくんは、薬草の採取に来ていた村で、ある話を耳にしていた。
「ううん、違うよ。村を助ける為の、必要な事さ」
「そんな‥‥」
 村の羊飼い曰く、王室への献上品代わりに、彼が選ばれたそうだ。もちろん、詳細は伝わっていないが、それまでにも何度か運ばれていった少年がいたらしく、おおよそ何をされるかは見当が付く。
「悲しまないで。今度、ごちそう作って貰うんだ。アルヴィンも食べて行ってよ。せっかくのお祝い事なんだから、さ」
「うん‥‥」
 性格的に、余りそう言ったことに口出しの出来ないアルヴィン。だが、その場は頷いたものの、やはり気になったらしく、彼は手紙をしたためていた。
「アルヴィン? あら、あの子、郊外で落ち着いたんじゃなかったかしら‥‥」
 複数に送られた一通を受け取ったのは、レディことパープル女史である。しばらく、文面に目を通していた彼女は、その手紙を片手に、近衛騎士が帰ったばかりの議長宅を訪れていた。
「そんなわけで、奉公に行った先の村で、巻き込まれたみたいなのよねー。でも、私はエリザベータ様の護衛を頼まれてるから、助けに行けないしさー」
 そう言って、手紙を見せる彼女。事情を聞いた議長は、「これは‥‥。なるほど、そう言う事か‥‥」と、表情を曇らせる。
「何か、問題でもあったの?」
「ああ。同じ村に、うちのリーンが行ってる。おまけに、例の討伐命令が下ってる村の近くだ」
 因果と言うのは、不思議なものだな‥‥と、彼は言う。ただ違うのは、粛清命令が下っている村が、大きな屋敷なのに対し、村の方は、近隣数か村に同じ通達がなされているようだ。
「ですが議長、この状況では‥‥」
「別チームを作って、こちらもどうにかするしかあるまい。せっかく出来た絆を、失わせるわけにはいかないしな」
 もちろん、そんな事を王室がやっているとは思えないが、さりとて単刀直入に尋ねれば、不敬罪に問われかねない。極秘裏に動くしかなさそうだ。

『針子の友人が、生贄に差し出されそうです。どうやら、まともな儀式ではなさそうなので、彼らを助け、その陰謀を暴いてください』

 議長の名を出さないのは、レオンなりの配慮と言うものだろう。

●今回の参加者

 eb6701 カンジス・コンバット(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6993 サイーラ・イズ・ラハル(29歳・♀・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)
 eb9567 シーリス・サイアード(19歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb9649 モケ・カン(33歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 ロシアの冬は寒い。真冬ともなれば、昼日中が氷さえ寒がる温度なのは、承知の通り。そんな日には、人の温もりが欲しくなるのが人の常だった‥‥。
「しかし、怪しくそして危険な匂いがプンプンするのぉ。気を引き締めて任務遂行するぞい!」
 村の外。雪に覆われかけた森で、カンジス・コンバット(eb6701)はそう言った。気合を入れる彼に対し、シーリス・サイアード(eb9567)は、何処か遠くを見るような表情で、静かにこう呟く。
「私は、報酬が貰えれば良いけどね‥‥。枕に侍るのは、いつもの事だし‥‥」
 踊り子と名乗ってはいるが、実際はそれ以外の営業で稼ぐことも多い彼女。と、そんな彼女に、今度はイルコフスキー・ネフコス(eb8684)が異を唱える。
「合意の上ならいいけどさ。無理強いは良くないよ。それに、厳しい生活をしている人から、生贄を出させるなんて酷いや」
 こうして相談の結果、モケ・カン(eb9649)とシーリスが外で待機。その間、イルコフとカンジスの2人は、堂々と村に入ると、まっすぐリーンの元へと向かった。
「ふむ。ここが例の村か‥‥。召し上げの少年は、どこにいるのかの?」
「こっちです」
 議長からの事があったリーンは、彼らを快く迎え入れ、カンジスの問いに案内してくれる。
「こんにちは。えぇと、おめでとうって言ったら良いのかな。僕、アルヴィンくんのお友達なんだけど。お話、聞かせてもらってもいい?」
「え、ああ。いいけど‥‥」
 身支度を整えていたらしいその少年の背後には、旅に出る際に持たされる服があった。まるで王侯貴族のような品だったが、見る者が見れば、少し安っぽいと思う代物だ。
「こいつは、祝いの匂い袋じゃ。高貴な方に召し出されるのじゃから、それなりの身支度をせんといかんし、持っているといい」
 その少年に、そう言って香りの出るハーブを固めた袋を差し出すカンジス。
「調合したのは僕も一緒だから、安心して」
「ありがとう‥‥」
 安心させるように、アルヴィンが口添える。そこへ、祝いの席が設けられた事を告げる旨が知らされる。友人として、後をついていった二人が見たのは、このあたりにしては豪勢な膳だった。
「わぁ、すごいご馳走だねぇ」
 イルコフがそう言って話しかける。別れるのが辛いのか、心ここにあらずと言った少年。そんな彼に、イルコフはこう問いかける。
「ところで、どういう人にお仕えするの?」
「よくは知らないけど、村長は王宮に仕える人だって‥‥」
 彼が聞いているのは『王宮の偉い人』と言う話だけ。その一つ一つを確かめるように、イルコフは続ける。
「ふぅん。選んでくれたのは、村長さんなの?」
「正確に言うと、村長さんのところに、時々来る黒い服の人‥‥」
 少年は首を横に振った。何でも、時々‥‥月に一度程度、村長の元に、高価そうな服を着た、貴族風の青年が来るそうだ。もちろん、村の者ではない。しかし、イルコフはそれ以上聞こうとはせず、別な事を尋ねる。
「そっか。連れて行かれるのが、どう言う方向かは、わかる?」
「途中までなら‥‥」
 村から出るまでは、見送りは許されている。それ以上は、警備上の都合とかで、追いかけさせてはもらえないのだそうだ。と、そこまで話した時、周囲の大人が、咳払いを一つ。
「あまり話していると、大人達に目をつけられそうじゃのう‥‥」
「そうだけど‥‥。このまま放っておく訳には、いかないよー」
 少年の傍を離れようとしないイルコフ。仕方なさそうにため息をついたカンジスは、少年のハンカチを手に、こう言う。
「わかった。では、連絡にはわしが行こう。これ、かりていくぞい」
「お願いします」
 こうして、カンジスはイルコフが少年にかまっている間に、それをペットのボルゾイにかがせた。上手く後を追ってくれるかどうかは半々だが、狩猟犬の本領を発揮してくれれば‥‥と、カンジスは思う。
 そして翌日。アルヴィンのお友達だから‥‥と、上手い事言って、見送りの馬車を確かめた二人は、黒塗りの馬車に吸い込まれていく少年達を見送りつつ、チャンスをうかがっていた。
「今のうちに、サイーラさんに連絡しないと‥‥」
「アルヴィンと一緒に、別れを惜しむ演技を頼む。連絡は任しておけ」
 頷いて、目元に手を当てているアルヴィンの横で、道中の無事を神に祈っているイルコフ。大げさなそれに、周囲の視線が向いている間に、カンジスはその人ごみを抜け出し、少し離れた場所にいるサイーラ・イズ・ラハル(eb6993)の元へと走るのだった。

「現場を押さえるのが一番でしょうね‥‥」
 サイーラが上空から木臼に乗って、雪道を進む馬車を追っていると、それはやがて止まり、もう一台の馬車と合流する。そこからは、見覚えのある御仁を含めた数人が、取り囲むように姿を見せていた。
「あれは‥‥。そう、やっぱりそう言う事ね‥‥」
 視察団の1人。事情はわからないが、やはり息はかかっていたらしい。徐々に距離を詰めていたその時だった。
「誰だ!」
「いやんっ!」
 ナイフが飛んでくる。バランスを失い、転がり落ちる彼女。雪の上に尻餅をついたサイーラに、手にした剣や槍が突きつけられる。
「しまった‥‥。まぁいいわ。ここで潜り込むのも一つの手だし‥‥ね」
 抜け出す事はいつでも出来る。だが、横目に移った少年達の乗る馬車が心配だ。
「貴様、一体何のつもりだ」
「あら、ごめんなさい。可愛い男の子が見えたから、ついつい着いてきちゃったのよ」
 警護の面々と思しき男が、剣を突きつけながらそう問うと、彼女は口元に挑発的な笑みを浮かべつつ、しなだれかかる。
「ほほう? ならば何故こんなものを」
「あら。見かけはちょっと悪いかもしれないけど、立派な私の移動手段よ」
 いぶかしがられている原因は、乗っていたパパ・ヤガーの木臼だったようだ。まぁ、確かに不審を煽るような代物ではあるが、中身はちょっと変わったフライングブルームみたいなもの‥‥と説明する彼女。
「さぁ、私の思うままに踊りなさい‥‥」
 興味深そうに近づいてきたその男の目を見つめ、彼女はチャームの魔法をかける。
「彼女はキエフで世話になった踊り子です。道中の興を添えるのに、役立つかと‥‥」
「よろしく。お兄さん☆」
 引っかかったらしい彼、雇い主らしき御仁に、そう言ってくれた。服を軽くつまみ、優雅に一礼してみせるサイーラ。と、彼は少し不満そうな表情で、こう言ってくれる。
「ふむ。まぁいい。不穏な真似をしたら‥‥わかってるな」
「ええ。もちろんよ」
 場はわきまえてますわ☆ と続けるサイーラ。しかし、彼らには内緒で、こんな事を呟く。
「本当は魔女なんだけどねぇ‥‥」
 魅惑の踊りにご用心。ひっかかったらヤケドじゃすまない☆ と、心の中で歌う彼女。そして、不安そうな表情を浮かべたままの少年達の下へと滑り込む。
「大丈夫。私のお友達が、きっと助けに来てくれるからね」
 そこだけは、本心を告げる彼女だった。

「ここを越えれば、ブルーレイ殿の迎えが来ている筈だ‥‥」
 聞きなれない人物の名前。しかしサイーラは、それよりも違う事に気付いていた。
「ねぇ、キエフへ行く道って、こっちだっけ? 方角的に反対だと思うけど」
「当たり前だ。向かうのは王宮ではないのだから」
 やっぱりそう言う事か‥‥と、そう思う彼女。自分が召し上げられたのではない事を知り、落ち着かない少年達。すぐにでも他の仲間に知らせたいサイーラだが、残念ながら今の状況では、連絡が取れない。
 一方その頃。当の別働隊の2人は、村の外で、馬車をいまや遅しと、待ちわびていた。
「おっせぇなぁ、他の連中は。やっぱり、締め上げて吐かせた方が早かったんじゃねぇの?」
 いらいらしたようにそう言うモケ。個人的には、力づくで‥‥と考えていたようだ。
「二手に分かれてって案が出てたんですから、私はそっちに賛成ですよ」
 気性の荒い彼を、そう言って引きとめるシーリス。そんな彼女を見て、モケはこう呟く。
「ま、今回は見送っておくか‥‥。お、ようやく来たみてぇだな」
「怪我をしませんように‥‥」
 ガラガラと音を立てて近づいてくる馬車。高まる緊張に、シーリスはぎゅっと拳を握り締めた。
「こっちに来てるって事は、尻尾つかんだみてーだな。行くぞ、シーリス!」
「ちょっと、早いわよ!」
 そのまま、剣を片手に馬車へと向かうモケを、彼女はあわてて追いかける。と、そこではサイーラが、イリュージョンの魔法でもって、相手をぎりぎりと締め上げているところだった。
「さて、これで良いかな‥‥っ!」
「ふん。やはりギルドの回し者か‥‥。商品の動きがおかしいので、少しルートを変更したが、見事に引っかかったようだな」
 もっとも、締め上げられているのは、首謀者と思しき雇い主ではなく、見張りの方。雇い主の男はと言えば、悠然とした態度で、そう言っている。
「じゃあ、最初から殺すつもりで‥‥」
「無論だ。大事な商売を邪魔されては困る」
 おそらく、少年達を売り飛ばす気なのだろう。この見栄えの少年達ならば、買い手はいくらでもいる。
「何か問題でもあるかな? 踊り子のお嬢さん」
「大ありよ! 商売ってのは、同意があって成り立つのよ!」
 くくく‥‥と、嘲笑する彼に、サイーラはそう言い放つ。体を売る商売を否定はしないが、無理強いはよくない‥‥と。
「それでは元手がかかりすぎるのでな。やれ!」
「しまった‥‥」
 雇い主がそう命じた刹那、魔法をかけられていたはずの相手が、その呪縛から抜け出る。何かアイテムでも持たされていたのか、武器を片手に、彼女をしとめようと迫る‥‥。
「うひょあぁぁぁっ!」
 その剣が、彼女の体をなます切りにする前に、目の前の1人が、ばっさりと切り捨てられていた。
「間に合ったわね」
 ほっと胸をなでおろすサイーラ。
「けっ。ナンだかしらねぇが、気にくわねぇんだよ!」
 見ればモケが、ロングソードを片手に、そう挑発している瞬間だった。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ」
 駆け寄るシーリスに、彼女は頷いてみせる。だが、駆けつけたとて、ピンチは変わらなかった。
「避けるので精一杯かな‥‥。何とか足止めできるといいんだけど‥‥」
 包囲網を狭めてくる相手。身を守る術を心得た彼女、相手が油断できない相手だと言うくらいは、なんとなくわかる。
「何とか持たせて頂戴。囲まれないうちに、後の2人を呼んで来ないと‥‥」
 そう言うサイーラ。幸い、木臼はすぐ近くに落ちていた。相手は5人。しかも、自分達より格上。このままでは不利すぎる。
「ひゃーーはははは! 食らいやがれ!」
 唯一勝機があるとすれば、敵陣のまっただなかで、スマッシュを乱打しているモケが、いい囮になっている所だろう。
「何とかしてみます‥‥」
 そう言うシーリス。
「任せたわよ。男の子たちを、傷つけるわけには行かないから」
 そう言って、サイーラは木臼を起動させた。普段の倍の速度で、かっ飛んで行く彼女を見送りながら、シーリスはナイフでもって、ガードの構えを取る。
「ガードしか出来ないけど‥‥。せめてこの子達の盾に‥‥」
 急所を庇うその構えをしながら、背中を馬車へと押し付ける。これならば、早々相手も入って来れないだろう‥‥と。
「この召し上げの真相解明、解決が目的なため相手側との衝突は、やはり避けられないじゃろなぁ」
 走りながら、そう呟くカンジス。と、そこへ上空から木臼に乗ったサイーラがおいついてくる。
「いたーーー!」
「あっ。サイーラさん! 無事でしたか!」
 イルコフがほっとしたようにそう言うが、サイーラはぶんぶんと首を横に振り、あわてた様子でこう訴える。
「それどころじゃないわよ! バレちゃったかも!」
「それは急がなくては! 案内してくれ!」
 間に合うかどうか不安だったが、それでも動かぬよりはマシ。いや、動かなくてはならない。カンジスはそう思い、借りた馬車を急がせる。
「はぁ‥‥っ、はぁ‥‥っ‥‥」
「ち‥‥っ、キリがねぇな‥‥っ」
 その頃、シーリスとモケの2人は、既に体力の限界に来ていた。ぜぇはぁと肩で息をする2人に、ボスの男は、こう言い放つ。
「この程度か‥‥。ブルーレイ殿が危惧する程でもないな‥‥」
 そのブルーレイと言うのが、おそらく黒幕だろう。しかし、気付きながらもシーリスは、諦めにも似た表情で、こう呟く。
「やっぱり、無理だったのかな」
「ちっきしょう‥‥。気にいらねぇ‥‥」
 対照的にモケは、相手をにらみつけていた。しかし、その体のあちこちからは、血が流れている。シーリスも、ナイフを持つ腕が、ぱんぱんに腫れ上がっていた。
「やれ!」
 ボスの男が、首をかききる真似をする。2人を囲む数人が、武器を振り下ろし、その切っ先で貫こうとした矢先。
「聖なる光よ!」
 凛としたイルコフの声がして、白い光が、馬車ごと包み込む。
「‥‥!」
 はじかれる剣。反対に、シーリスとモケに流れ込んできたのは、慈愛の女神セーラの柔らかな光だった。
「大丈夫ですか?」
 穏やかにそう言って姿を見せたのは、イルコフとカンジス。
「おせぇぞ!」
「よかった‥‥。死ぬかと思った‥‥」
 早速文句をつけるモケと、対照的にへたりこむシーリス。2人が怪我をしている事を見たイルコフは、残りのMPを使い、傷を癒していく。
「この状況では、殲滅は難しいのぅ」
「男の子確保する方に、専念した方が良さそうね」
 そのホーリーフィールドを守るのは、追いついたカンジスとサイーラだ。
「食らいなさいっ!」
 もう遠慮なんかいらない。絡みつく極上太さの茨を、相手の心へと送り込むサイーラ。引っかかった無抵抗の相手に、彼女は容赦なくローズ・ダガーを突き立てる。切りつける度、薔薇の花びらが舞った。
「こっちです!」
 その間に、イルコフが少年達を誘導している。傷の回復を済ませたモケとシーリスが、その援護に回っていた。
「おのれっ」
 追いすがる相手。しかし、そこにはカンジスが立ちはだかっていた。
「猟犬カンジスをなめるなぁ!!」
 スマッシュで、相手を切り捨てる。パワーチャージで、立ちはだかるそれを粉砕する。それを援護するように、イルコフのホーリーが飛んでくる。こうして、一行は少年達をつれ、馬車から逃れていく。
「逃げられたか‥‥。まぁいい、手はある」
 見送る形となったボスが、そう呟いていた。