【厳冬の罠】王妃様をお出迎え☆
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月22日〜12月27日
リプレイ公開日:2006年12月30日
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●オープニング
さて、キエフでは。
「聖夜祭には、楽しい楽しいご宴会ですわ〜☆」
「珍しい異国の食べ物も出されると聞きますわ」
王妃の視察旅行でお留守番役のお琴と、その先輩侍女は、のんびりとした日々を過ごしていた。聖夜祭の準備でも忙しい日々ではあるが、国王も王妃も王室顧問も出掛ける準備に目を向けているので、王宮にどこからと流れる空気が、爽やかなものに変わっていた。
ところが、である。
「大変です〜。王妃様のお通りになるルートに、蛮族が出ているから、気をつけるようにとのお達しが〜」
「まぁ、どうしましょう‥‥」
侍女達にも、その報は届いていた。多発する目撃情報は、キエフにまで及んでいるようだ。
「王妃様は、どちらまでいらっしゃるのですか?」
「確か、あちこち回られて、最後はグースラと言う開拓村まで、プレゼントをお渡しに行かれるそうです」
しかも、国王と王妃では、行き先がまるで違う。そう‥‥護衛を分断するのが目的であるかのように。
「どのくらいかかりますの?」
「歩いても半日程度とか。それほど遠くはありませんわねぇ」
心配そうに尋ねる侍女に、お琴が尋ねると、彼女はそう言ってくれた。
「では、せめてお帰りの日にはお迎えに参りましょう。グースラからキエフに到着するまで、私どもでお守りすればいいのです」
「ですが、ラスプーチン様は、あまり護衛をおかれるのを良しとしたがりませんので‥‥」
物々しくなりすぎるので護衛をあまり多くするなと言うのは、王妃の身の回りを世話する侍女達にも、通達されているらしい。
残念そうな表情を浮かべていたお琴だったが、はたと手を叩いた。
「あ、そうだ! 影供ですわ!」
「カゲトモ?」
聞きなれない単語に、先輩はそう尋ねてくる。と、彼女はこう説明してくれた。
「はい。私の故郷ジャパンでは、こっそり護衛することを『影供』と呼ぶのです」
「なるほど。それならば、いざと言う時にも間に合いますわね」
こうして、ギルドを通じ、冒険者達にも通達が行った。
『王妃様をお迎えに行き、影ながらお供をしていただく方を募集いたします』
当然影なので、公式には認められないかもしれないそうである。
だが、その頃。
「いいか、野郎ども! ぬかるんじゃないぜ!」
「うぇっさー!」
少々柄の悪い御仁が、森のあちこちで、気炎を上げていた。いくつかの集団がある中で、その1人‥‥リーダー格と思しき御仁が、ナイフを掲げながら、こう激を飛ばしている。
「あのヒゲ面の親父は気に食わないが、お手当ても貰っている事だし。頑張って働いてやろうじゃねぇか!」
その左手には、農具をむりやり改造したと思しき鎌があった。しかも、それには鎖がついており、見た目にも強力なインパクトを与えそうな武器だった。
「ちょうど獲物が居ますぜ。兄貴の好きそうな子が」
手下の1人らしき御仁が、はるか遠く‥‥騎士と話をしている年頃の少年を指差す。
「へぇ、美味そうだな。王妃の周囲にも、そう言う子がいるんだろ?」
「そうブルーレイ様はおっしゃっておられましたねー。国王んところにも、貴族の好きそうな男の子がいるみたいっすよ」
にやにやと‥‥子羊を眺めるかごとき目で、様子を伺っている彼ら。総勢10人程度のグループだ。皆、それぞれ騎乗動物を携えている。馬だったり、馬でなかったりするが。
「じゃあ、話は簡単だ。仕事しながら、めぼしい奴は掻っ攫って俺のところに持ってきな。女は山分けにしていい。クリスマスの余興にちょうどいいからな!」
「うぇっさー!」
奇声を上げながら、森の中へと消えていく御仁。その近くの看板には、『グースラまで後半日』と書かれていた‥‥。
●リプレイ本文
●23日朝
ロシアには、厳しい冬将軍が訪れていた。だがそれでも、冒険者達は外へと出向かなければならない。セブンリーグブーツのゴールド・ストーム(ea3785)とエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)、フライングブルームのジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)は、先行して王妃の後を追いかけていた。
「荷物を預けておいて正解だったな。持ってたら、ここまで動けないし」
雪を踏みしめながら、そう言うストーム。同じようにセブンリーグを履いたエルンストが、こう呟く。
「20年ぐらい若ければ、つかまっておいて内部に潜入するという手が使えない事もなかったかもしれないが、さすがに今は無理だろうなー‥‥」
国王の所にいる年若い少年と言うのは、彼の弟子であるアルヴィン少年の知り合いかもしれない。そう思ったエルンストは、それを狙う蛮族を放ってはおけず、依頼へ参加したようだ。
「ポーリェ、大丈夫かなぁ‥‥」
一方、フライングブルームで、王妃の下へはせ参じながらも、愛馬を心配するジェシュ。そのポーリェに荷物を預けた為か、ブーツ組よりもさらに早い機動力を誇る彼は、上空からすぐにその一行を見つけていた。
「お琴さんから、護衛を承りましたジェシュと申します。あの、責任者の方は‥‥」
「ああ、ちょうどいいところへ! 実は、王妃様とラスプーチン様が、蛮族に浚われて!」
神経質そうな女性衛視が、すがりつくようにそう言っている。その中に、トーマの姿はなかった。
「えっと、どこで行方不明になったか、わかりますか?」
「は、はいっ。確か、村から西の方角ですっ」
ジェシュが確かめるようにそう尋ねると、彼女はそう答えた。どうやら、キエフに戻る途中で、襲撃を受けたらしい。
「気を落とさないで下さい。絶対に助け出してきますから。あと、僕の仲間が、後で連絡を取りに来ますので、よろしくお願いしますね」
衛視を励まし、帰還のルートを聞き出したジェシュは、すぐさまブルームで取って返し、すぐ近くへ来ていた仲間の所へと、報告していた。
「‥‥と言うわけなんです」
その報告を受けたエルンスト、村へは入らず、回り込むようにして、賊が目撃されたと言う襲撃場所へと向かった。焚き火の跡がまだくすぶっているそこは、襲撃された後らしく、踏み荒らされた雪と下草が残っていた。
「ゼロ、どうだ?」
エルンストのペット‥‥ボルゾイのゼロが、飼い主に言われ、くんくんと焚き火跡の周囲に鼻をおしつける。ややあって、ゼロが何かを見つけたらしく、銜えた獲物をエルンストへと差し出した。
「こいつは‥‥使い終わった矢だな」
ストームが、それを見て判断する。鏃もついていないし、半分しかないが、その尾羽がついた枝のような形は、間違いなく射掛けられたものだった。
「まだこの近くにいるかもしれないな‥‥蝶の動きはないが、少し探査してみよう」
エルンストがそう言って、ブレスセンサーを唱えた。手にした石の中の蝶は、まったく反応していなかったが、魔法は近くの森に、賊が潜んでいる事を教えてくれた。
「どうやら追跡は出来そうだな。紅鷹、頼むぞ」
そう命じるエルンスト。愛鷹は、くぇぇと一声鳴くと、主の示した方角に、飛んで行くのだった。
●23日昼
一行は、紅鷹の向かった先を追う形で、森の中へと分け行っていた。
「方角的には、キエフに向かっている途中で、直角にそれてますね」
ジェシュによれば、衛視から聞き出したルートから、若干それているらしい。と、その周囲を見回したストームが、こう言った。
「この辺り、待ち伏せや襲撃には適した地形だよな‥‥。あの木の陰なんか、撃ち込まれそうだぜ」
彼が指し示した先には、まるでその言葉を裏付けるように、いくつもの足跡がある。
「足跡が馬だけじゃないな‥‥」
それを見て、エルンストはそう言った。残されたのは、蹄の跡ばかりではなく、獣の足跡も見て取れる。
「追いかけてみましょう」
ジェシュがそう言って、フライングブルームにまたがった。機動性の高い空飛ぶ箒は、しばらく走らせると、高価そうな馬車を囲む一団の上空へと差し掛かっていた。
「いた‥‥!」
気付かれないよう、ぴったりと上空へ張り付く。ややあって、動かないことを確かめたジェシュは、近くの樹に、紅鷹が止まっているのを見つけ、繋ぎの文を持たせた。
「どうやら、タダのごろつきではなさそうだな‥‥」
それを読んだエルンスト、言われた通りの場所へ出向き、そう判断する。材料は、手にした石の中の蝶が、ゆっくりと羽ばたいている事。
「どうしましょう‥‥。あまりこちらから仕掛けたくはないのですが‥‥」
明らかに普通の人間とは違う。ジェシュが、判断を仰ぐ。
「捕まえないと、王妃の居場所が分からんからな。それに、尋問したい」
エルンストがそう指示をした。と、彼に代わり、隠密行動に長けたストームが、見張りの後ろ側へと回り込む。
「ったく面倒くせぇな。まぁ、やってみるさ」
口ではそう言いながらも、彼は体当たりを食らわす。そこへ、ジェシュがアイスコフィンで固め、捕縛していた。
「なるほど‥‥。そう言う事か‥‥」
そうなれば、後はエルンストの出番である。焚き火で解凍した後、事情を聞きだす彼。それによると、『ロシアの上層部にいる偉い奴』の手引きで、一ヶ月ほど前から国境を越え、この辺りに潜伏していたそうである。もっとも、見張りにはその『偉い奴』が誰なのか、知らされていなかったそうだが。
「ジェシュ、この事、他の奴らにも伝えて来てくれ」
「わかりました。行ってきます」
すでに後発組は近くまで来ているはずだ。彼ら‥‥フローラ・タナー(ea1060)、常葉一花(ea1123)、真幌葉京士郎(ea3190)に連絡を取る為、一番機動力の高いジェシュが、冬の空へと舞い上がるのだった。
●23日夜
その頃、後発組は、ようやくベースとなる村へとたどり着いていた。
「そうですか。やはりキエフで聞いた話は、本当だったんですね‥‥」
残念そうにそう言うフローラ。嘘であればいいと願っていたが、どうやらそう言うわけにはいかないようだ。
「美しき女性の危機に、手を貸さぬわけにはいかんからな‥‥。それに、聖なる祭りを前に、無粋な輩はいらん」
ぱしん‥‥と、鉄扇を閉じながら、そう語る京士郎。彼は、出発前に聞いてきた王妃の巡礼ルートを下に、ここまで来たのだが、既に襲撃された後だったようだ。
「ええ、心配です。それに、騎士団がキエフを空けている間に何か起きなければ良いのですが‥‥ 」
口ごもるフローラ。どこか、心ここにあらずと言った風情だ。
「王室に残された予定では、明日にはこの村を出立する予定だったんだが‥‥、それらしき状態ではないな」
「既に、先行組は森に入ったようですわ。連絡に来たのは、ジェシュだと思います」
村の者に話を聞くと、半日程前、本来の護衛に連絡を取りに来たフライングブルーム姿の魔術師がいたそうだ。と、その話を聞いていた一花、フローラにこう声をかける。
「フローラ、無理はしないで。旦那様のこと、気になるんでしょう?」
「え、ええ‥‥。ギル、本当にごめんなさい‥‥」
腹に手を当てる彼女。王妃を心配するあまり、思わず依頼に参加してしまったが、考えてみれば身重の自分に被害が出れば、悲しむのは夫だ。
「‥‥‥‥有事の際は無理をせず、荒事は俺達に任せてくれ」
「そうならないように、セーラ様、お守りください」
京士郎が、気遣うようにそう言うと、フローラ自身もわかっているのか、頷いて腹に手を当て、祈りを捧げていた。
「それにしても生まれてくるのは、男の子なのか女の子なのか‥‥。元気な子に生まれてほしいです‥‥って、こんな依頼に参加していては危ないですよね」
祈り終わった彼女、苦笑しながらそう話している。たぶんに情緒不安定になっているのかもしれない。妊婦には、よくある事だ。
「ああ、いたいた。皆さん、王妃様の行方がわかりましたよ」
と、そこへ上空から、ジェシュがブルームで追いついてくる。事情を説明すると、「それは、急いで追いかけなければな」と、京士郎がすぐさまそう言ってくれた。
「既に、キエフへ連絡が行っているそうですから、他の冒険者達も、追いついてくると思います。それまでに、どうにかしようと思うのですが」
「では、私はその冒険者さん達との連絡係に徹していますね」
ジェシュの報告に、そう答えるフローラ。
「くれぐれも無理は禁物ですよ」
「わかってます。心配しなくてもいいですよ」
一花の心配そうな表情に、大丈夫だから‥‥と、念を押す彼女だった。
●24日
指定された先へ向かうと、既にエルンストとストームが、木の影から様子を伺っていた。
「既に気配があるな。おそらく、他の連中も、すぐ近くにいるんだろう」
京士郎が、周囲を見回しながらそう言った。言われて見れば、遠くの方からかすかに騒ぐ声が聞こえる。おそらく、森中に散らばっているのだろう。
「どうも、向こうは罠をしかけているようですね」
そう言った能力のあまりないジェシュにもわかるほど、分かりやすい罠を仕掛けている蛮族達。と、それを見たストームは、こう言った。
「なら、気配を消して目立たねぇ様にしねぇとな。他の奴らには、罠の解除を頼んでおこうぜ」
「ええ」
頷く彼。そして、エルンストの「仕掛けるぞ」の台詞に、まずアイスストームを仕掛ける。
「くそうっ! 気付かれたか!」
浮き足立つ蛮族達。ばたばたと武器を片手にこちらへ向かってくる中、木陰から響くリュートの音。
「ちょいと待ちな‥‥」
そう言って、目深に被った羽付帽子のつばを、くっと上に持ち上げる京士郎。
「聖なる祭りに無粋な輩は必要ない、お引き取り願おう」
呆然とする蛮族達に、涼やかな声でそう言う彼。その台詞に、我へと帰った蛮族が、ごくりとつばを飲み込みながら、問いかける。
「誰だ貴様は!」
「貴様等に名乗る名など無い!」
きっぱりとそう言った刹那、京士郎はソードボンバーを放つ。扇状に広がった衝撃派は、駆けつけた蛮族達を、ころころと地に転がしていた。
「あーあ。先越されちまった。食らいなっ!」
残った後衛と思しき軽装の御仁達へ、ストームが矢を放つ。そこへ、「今の気温なら、これでも足止めには鳴るはずです!」とばかりに、ジェシュがアイスストームを放っていた。
「俺の楽しみを邪魔しやがって!」
と、その刹那、リーダー格と思しき一人が、鎖のついた鎌で、京士郎の刀を奪い取ろうとする。
「そう言うのは、家でやれ!」
それを、ぎりぎりまで引き寄せて、手を離す京士郎。体勢を崩した所で、一気に間合いを詰め、懐に飛び込むようにして、腰に挿した鉄扇で、頭を打ち付けていた。
「いってぇ‥‥」
それでも、さすがに雑魚とは違うようで、頭を抑えたまま、とびすさる。見れば、鉢金が身代わりと言わんばかりに、雪の上へ落ちていた。
「祭りを前に刀にて血を流すは、やはり無粋だからな」
「仕方ねぇな。俺もあのヒゲ男の為に、命かけたくねーし。引き上げるぞ!」
もともと、やる気はあまり無かったようで、蛮族達は馬車を置いたまま、散り散りになっていく。
「やっと追いつきました‥‥。大丈夫でしたか?」
「ああ。問題はない」
リカバーを使うまでも無いよ‥‥と、駆けつけてきたフローラに、そう答える京士郎。
「しかし、ヒゲの男って誰だったんでしょうね」
「他の連中から聞き出した話だと、どうやらロシアの上の方にいる人物だそうだ。ルーリック家ではなさそうだが‥‥、わざと紋章をつけていない可能性もある。残念ながら、雑魚ではそれ以上は聞けなかったな」
エルンストが首を横に振る。もしかしたら、キエフに戻った後、情報の整理が必要かもしれない。
「では後は、王妃様の元へ向かうだけですね」
フローラが、そう言って、自身の身分証を片手に、王妃の無事を確かめる。人質に危害を加えては行けないと言い含められていたのか、特に怪我などはしていない様子のエリザベート妃。
「ところで、宰相殿は?」
「さぁ‥‥。別の馬車でしたから‥‥」
首を横に振る王妃。ラスプーチンが現れたのは、騒動が終わった頃のことだ。
「しかし、奴らがまた襲ってこないとは限りません。皆で護衛させていただきますわ」
ところが、である。
「って、フローラさん!?」
そう言った直後、フローラがお腹を押さえて倒れこんだ。
「いかん。産気づいた!?」
「大事じゃないですか! 僕、ちょっと議長さん呼んで来ます〜!」
ジェシュがあわてて箒にまたがる。そんな中、フローラは王妃にこう申し出ていた。
「我が子の洗礼を‥‥。分を弁えていないのは承知の無礼ですが、宜しければ神の祝福を賜りたく思います」
「わかりました。出来るだけの事はしましょう」
さすがに、こんなところで拒否はしない王妃。
こうして、ヨシュア家に新たな家族が増えた。
ただし、届出には『男児一名』『女児一名』が、同じ日付で書かれていたそうである。