【プリパ!】囮は借り物
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月16日〜01月21日
リプレイ公開日:2007年01月20日
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●オープニング
●預けるのは慎重に
その日、議長宅には、とある馬車が横付けされていた。金色の装飾で縁取られたそれは、かなり身分が高い事を示している。その、いわゆる『高貴なるお方』が、議長に申し出てきたのは、針子リーンを、従者として貰い受けたいと言う旨だった。
「あの器量ならば、今度のパーティにも華を添えられるというもの。是非お願いしたい」
その御仁曰く、王宮で行われるパーティで、デビューさせたいので、その時までに磨いておきたいそうだ。保護したいきさつがいきさつなので、そう言ったことには、慎重にならざるを得ない議長に、「すぐにとは申さぬ。今度のパーティまでに、色よい返事を聞かせてくれ」と、羊皮紙に書かれた紹介状と、本人へのプレゼントらしきシルクスカーフを置いて、屋敷を後にする彼。
「レオン。冒険者ギルドに使いを。仕事を頼みたい」
その紹介状とスカーフを、ひとまずは預かりながら、議長はそう言った。「それでどのような‥‥?」と、用件を聞くレオンに、彼は一言「身元調査だ」と告げる。頭をたれ、ギルドへと向かうレオン。
「この方が、本当にリーンを従者として使うのか、それとも別な意図か‥‥。調べて来てほしいそうです。確か、辺境同盟の1人と伺いました」
羊皮紙に描かれた似顔絵と、紹介状に書かれた名前を示し、ギルドへ説明するレオン。と、職員の1人が、あれ? と言う顔をする。
「この人、確かこの間、酒場のあたりで見かけましたよ。確か‥‥そこの酒場で、パーティの夜にぴったりの人形が見つかったと言ってましたが‥‥」
職員の話では、黒いコートを着た御仁と、なにやら話しこんでいたそうだ。王宮は既に登城の時刻を終えており、皆が家路に、もしくは夕食や歓談に向かう頃の話なので、気にも留めていなかったそうだが。
「ふむ‥‥。その貴族はともかく、相手の男が気になる。もし、その話が本当だとすると、リーンを囮に使うわけには行かないな」
話を聞いた議長、報告書の写しを手に取った。それには、いくつかの依頼に黒い服の御仁が現れ、なにやら各地の有力者に働きかけて、いらぬ騒動を起こしているようだ。どうやら、今回のリーン騒動は、その黒い外套の男にたきつけられて、計画されたものらしい。おおかた、リーンに警備や侍女達の目を引きつけさせるか、もしくは飾り立てて貢物にし、その隙を狙って、エリザベータ様や要人を襲撃と言ったところだろう。
「だが、ここまで怪しいとわかっていれば、依頼は多少変わってくる。向こうが利用しようとしているのは、リーンの姿形。ならば、それごと冒険者に頼むがいいだろう」
「かしこまりました」
頭を垂れるレオン。こうして、冒険者達には、次のような依頼が通達された。
『針子を囮に、王妃を襲撃する計画があるようです。以前から計画されていたもののようなので、この機会を利用し、逆に襲撃者をあぶりだすようにしてください。なお、襲撃場所はぷりんせすパーティの、メイン会場のようです』
なお、事情が事情なので、あまり表ざたにはしたくない。ゆえに、作戦には出来れば礼服で挑まれたし。
●リプレイ本文
●衣装は借り物?
その日、怪しまれぬよう礼服を身に着けるため、参加者は控え室へと集まっていた。だが、その中に1人、当初の予定には無かった御仁がいる。
「で? 結局なんで私が駆り出されるのよ」
「いや〜、後学の為に」
礼服姿のレディさんに、相変わらず鼻の下を伸ばしている東雲辰巳(ea8110)。議長を説得して、連れてきたらしい。
「それにほら、人数足りないし、要人警護とか、色々あるからなっ」
「そんな事言って、単に一緒に行きたいだけでしょ」
さらに言い募る東雲だったが、ずびしぃっと指差して言われ、ぎっくぅぅぅ! と顔を強張らせる。
「べ、別にその方が都合が良いからであって! てか、お前こそ、その衣装はなんだよ」
「‥‥パーティなんだから、それなりの格好してないと、怪しまれるでしょ」
が、その割には、化粧もしてりゃあ、礼服も着こなしている。そして、そんなレディさんと同じ状況なのが、レミィ・エル(ea8991)である。
「一理あるな。私もパーティとかは、あまり好きではないのだが」
口ではそう言って渋っているような素振りだが、選ぶ洋服は、その理美容の知識でもって、しっかりコーディネイトした、スリットの入ったドレスである。
「その割にはきっちり着込んでるじゃないか」
「だから、隠れ蓑だと! それに、こうした方がダーツも取り出しやすいしな」
東雲の突っ込みに、ムキになって答えるレミィ。確かに、ダーツ部分がアクセサリーに見えるような装飾が施され、いざと言う時への対処がしやすいようになっている。それをしげしげと見ていた彼、やおらレディの方へと向き直り、こう呟いた。
「うーん。レミィのを見ていると、レディにも何かアクセントを入れた方が良いな‥‥」
そして、バックパックをごそごそと漁る。一瞬、なにやら箱のようなものが見えたが、東雲はそれをわざとらしく奥に押し込んでしまった。
「って、何隠したのよ」
「べ、別にっ。あ、あった。これだ」
で、その代わりに取り出したのは、宝石のついたペンダントだ。
「綺麗ですわね〜」
感嘆したようにそう言うメイユ・ブリッド(eb5422)。と、東雲はそれをあんぐりと驚いたままのレディさんの首にかけてしまった。
「‥‥遅くなったけど、クリスマスプレゼントだ」
耳元でささやく彼。ぼふんっと顔を朱に染めるレディさんに、周囲からくすくすと微笑ましい笑い声が漏れる。
「ばか‥‥。何かいてるのよ‥‥。見せられないじゃない‥‥」
ぽそりとそう呟くレディさん。彼女が落とした視線の先には、ペンダントに刻まれた『愛し君に永久の忠誠を』の文字。
と。
「な、何するんだよっ」
直後、がんっと殴られる音が響いた。見れば、東雲が盛大なツッコミを食らっている。
「ひ、人前でそう言う事しないでちょうだいっ。これはありがたく受け取っておくけどっ」
ふいっと明後日の方向を向きながら、そのペンダントを大切そうに握り締めているレディ。
「照れ屋なんだなー」
「う、うるさいわねっ」
レミィに言われて、完全に背中を向けてしまう彼女。人前では、あまりいちゃつきたがらない性格は相変わらずなようだ。と、そんな女性陣2人の姿を見て、レイブン・シュルト(eb5584)がこう一言。
「しかし、話を聞くと、武器の持込が厳しくて、やっかいそうだなー。ダガーは用意したが、剣だと無理かな?」
長さ40cmのダガーは、その気になれば、袖に隠しておけるが、1mのロングソードだと、やはり厳しいだろう。と、背中を向けたままのレディさんが、こうアドバイスしてくれる。
「大きいのは、何か理由をつけるか、レミィみたいに工夫しないとまずいかもしれないわね。けど、それは相手も同じだから」
パーティでは、大きな武器は入り口で預かる事になっている。警備上の都合と言う奴だが、従者等にも徹底されている為、もし紛れて入るにしても、暗器めいたものしか持ち込めないようだ。
「ふむ。ならばこれでどうにかしてみるか‥‥」
それを聞いたレイブン、そう言ってダガーを隠し持ち、パーティ会場へと向かうのだった。
●囮もお仕事です。
一応、それなりに身分証明のいる会場ではあったが、曲がりなりにも神聖騎士資格を持つレディと、その従者役として東雲が。そしてレイブンも貴族資格を持っているので、その従者としてメイユとレミィが同行すると言う形になった。
「結構多いな‥‥」
周囲を見回して、そう呟く東雲。会場内は、それなりに入場制限が敷かれているにも関わらず、かなり人数がいた。ほとんどは王妃とその側近や貴族仲間‥‥出入りの業者と言った所だ。いかにオープンなパーティとは言え、招待状がなければ入れないし、遠慮する部分もあるのだろう。
「王妃様と直接話せる機会でもあるし。それに、今回は競技会も開かれてるからじゃないかしら」
それでも、明らかに付け焼刃といった着飾った御仁達もいる。油断は出来ないわね‥‥と、注意を促すレディに、東雲はぼそりと一言。
「レディは出ないのか?」
「‥‥礼儀作法なんて、忘れちゃったわよ」
彼女が、堅苦しい作法が嫌いなのは、以前から分かっていた話だ。禁断の書を読む事は出来るが、さすがに詩を読み上げるのは、照れくさいのだろう。「そうか」と、それ以上は何も言わない彼。
「あれが針子の少年か‥‥。どうやら、会場内に友人がいたようだが‥‥。人気者だな」
そんな中、レイブンがリーンを見つけ、そう言った。見れば、以前の依頼で顔を知った子と、何やら歓談中。礼服を着せられ、気弱な性格から、若干頼りなく見えるその姿は、貴族達の保護欲をそそったらしく、結構注目の的だ。
「例の貴族は、議長に張り付かれてるアレか。武器を隠し持っているようには見えないが、従者も多いし、油断は出来ないな」
レミィが、その注目の視線を浴びせかけている1人を指摘して、そう言う。彼女から見る限り、武器で体が膨らんでいるようには見えない。
「どうやってあぶりだすんだ?」
「それを考えるのが、今回の仕事だろう」
レイブンに聞かれ、そう答えるレミィ。しかし、彼女とて自慢の視覚で、隠し持っていそうな御仁達を探すくらいしか、案はない。
「まぁ、まずは挨拶しながら、不審者を絞り込む方が良いだろう。もうすぐ競技が始まるから、それに乗じてって事じゃないかな」
東雲が、一際人の多い辺りを指して、そう言う。『順番に並んでくださいましぃー』と、聞きなれた声が聞こえるあたり、王妃もその辺りに出てくるようだ。
「なるほど。やってみよう」
それを見て、頷くレイブンは、即座にその人だかりへと紛れ込むのだった。
●ただいま警戒中
王妃への人だかりは、すぐに解消されていた。いや、正確に言うと、競技が始まった為、人々の興味がそちらへと移ったようだ。
「会場自体は、それほど広くないか‥‥」
見回して東雲がそう言った。会場は、離宮の広間。王妃の屋敷の食堂も兼ねているだけあって、若干こじんまりとした印象がある。
「王妃様の離宮だから、王宮ほどでもないと思うわよ。もし、これが国王主催の‥‥ともなると、規模は3倍じゃ済まないと思うけど」
そう解説してくれるレディさん。しかし、当の主はと言うと、護衛のはるか向こう側だ。
「てんこもりだなー」
そう呟く東雲。議長には簡単に挨拶を済ませたものの、肝心のエリザベータは、ガードが硬くてなかなか近づけないのだ。それでもなお、王妃の周囲に目を配る東雲。
「あの人だかりだと、誰かがこっそり仕掛けても分からないかもしれないな。ちょっと調べてみる」
そんな中、テーブルに置かれた料理を毒見しつつ、レミィは罠が仕掛けられていないかどうかを、軽くチェックしてくるそうだ。
「その間、リーンは俺が見ておこう」
注意しておかなければならない人材は多い。その1人であるリーン少年には、レイブンが護衛に着く事になったようだ。「頼んだわよ」と答えるレミィ姐。
「ねぇ、あの人ちょっと変じゃない?」
と、その時。対人鑑識には自身のあるらしいメイユが、1人会場を離れつつある御仁を見てそう言った。室内で、薪ががんがんと焚かれているにも関わらず、黒い外套を着込んでいる。
「どうした?」
東雲がそう尋ねると、やはり気付いたらしいレミィが、こう告げてくる。
「ちょっとここを頼む。依頼にあった黒い服の男らしき姿が見えたんでな」
「心得た」
頷く東雲。と、メイユもこう言いだす。
「私も行くわ。もし突き出す場合、捕まえる人が必要でしょ。それに、人を見る目には自信があるし」
彼女の魔法は、怪しい人物を捕らえるには、重要だ。そう判断したレミィは、彼女と連れ立って、仲の良いお友達同志のように、その外套の男をつけて行ったのだが。
「あれ? いない‥‥」
会場を出て、外へ通じる回廊へと足を踏み入れたとたん、姿を消してしまう。
「こっちには来なかったよな?」
即座に回れ右をして、後ろで待機していたメイユに尋ねたが、彼女も首を横に振るばかり。
「おかしいな‥‥。忍び歩きが気付かれたとも思えないが‥‥」
こう見えても、獲物に気付かれない為の足捌きには自信がある。板張りの床でも、音を立てない位の腕だ。
「一体どこに‥‥」
そう言って、窓の外を見た刹那‥‥である。同じ外套を着た御仁が、お外を馬車置き場まで移動する真っ最中だ。
「いつの間に外へ‥‥。怪しいわね。捕まえちゃいましょう」
メイユがそう言って、高速詠唱でコアギュレイトを唱えた。だが、その外套を着た御仁は、たいした抵抗をする風でもなく、その場に硬直してしまう。
「あ、あれ? 何か変だな」
あわててそちらに向かってみれば、真っ青な顔をしていたのは、線の細い執事風の青年。効果時間が切れて、座り込んだ彼は、驚いた風情でこう文句をつけた。
「な、何をするんですかぁ! 僕はただ、主に言われて‥‥」
馬車の方に置いてある荷物を取りに行っただけだった模様。
「って、じゃあなんでこの外套を?」
「はい。外は寒いだろうからって、主殿が貸してくれたんですが‥‥何か?」
メイユの問いに、怪訝そうに答える執事くん。その言動に、偽りは見えない。念の為、持ち物チェックをしてみたが、小銭と招待状以外は、特に怪しいものは持っていなかった。
「しまった! やられた!」
その時、会場の方から、騒ぎが聞こえてきた。囮だと気付いたレミィ、即座に取って返す。と、会場では、王妃を守ろうとする集団と、不埒モノを止めようとする集団で、ちょっとした騒ぎになっていた。
「これじゃ近づけないわよっ」
「切る訳にもいかんし‥‥やっかいだな」
レディと東雲は、その騒動に巻き込まれてしまっているようだ。刀もライトハルバードも持ち込めない状態では、おのれの腕力に頼るしかないのだが、レディさんは左腕が使えない。東雲も礼服を着ているせいで、動きが鈍い。そんな中、一際大きな声が上がる。
「リーン!?」
「緊張と恐怖で狂化起こしたわね‥‥」
その瞳も、髪も、真紅に染まっている。ハーフエルフに特有の危険信号だ。前後の見境がなくなった彼は、一刻も早くこの場から逃れようと、暴れている。
「お待ちなさいっ!」
そこへ、凛とした声と共に、コアギュレイトの魔法がかけられた。即座に歩みを止めるリーン。と、響き渡る高笑い。
「間に合ったか!」
ほっとしたような東雲。と、回廊の入り口で、狂化状態となったレミィが、びしぃっと指先を突きつけ、こう宣言する。
「おーーっほっほっほっ!! あなた達の行動など、お見通しですわ!」
その刹那、スカートを翻し、太ももに仕込んだダーツを、手にするレミィ。周りがのけぞって避ける中、彼女は華麗にくるりとターンすると、手にしたダーツを投げつける。それは、騒ぎに乗じて逃げようとしていた者の手にぐさりと突き刺さっていた。
「ふふん。このわたくしがここで一番輝いていますわ」
ほほほ‥‥と軽く高笑いするレミィ。見事賊に一撃を与えた彼女を、周囲が『ヴァルキリーの使いか‥‥』と目を丸くしていたとか。
「お怪我は‥‥」
「‥‥大丈夫」
その隙にエリザベートに駆け寄り、安否を確かめる東雲。一方のレミィは、他に襲撃者がいないかと周囲を見回すが、騒ぎが大きくなりすぎて、確かめられなかった。
「奴は逃げたか‥‥」
「あとは議長達に任せておきましょ」
悔しそうにそう言うレミィに、レディさんは参加者の中にも、冒険者はいるから‥‥と、まずは気を失ったリーンくんの保護を優先させる。
「そうだな。早くこのちゃらちゃらした服を脱ぎたいものだ」
動きづらくて仕方ないのは、レミィばかりではなく、レディや東雲も同じである。こうして、襲撃者こそ退けたものの、リーンを傷つけてしまった為、部分的成功となるのだった。