テーラー家やぎ祭り・やぎの祠を取り戻せ!

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 75 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月12日〜10月20日

リプレイ公開日:2004年10月18日

●オープニング

 それは、とある祭の準備をしていた時に起こった。
「ほらほら、お祭まで時間がないの。エチゴヤに発注してあるアレが来るまでに、全部終わらせないと!」
 岩山のふもとにある祠。その前に、なにやら布製の、やぎを模した彫像を並べている数人がいる。その1人、明らかに作業の村人じゃあないだろうな格好をした女性が、てきぱきと指示を飛ばしながら、そう言った。
「って、ヒメニョさん‥‥。なんであなたが仕切っているんですか」
 すぐ側に居た背の高い青年が、控えめすぎるぐらいに、そう声をかける。と、彼女はにこやかな笑顔の向こう側に、ちょっぴりとげとげしい態度を隠しながら、こう言った。
「そりゃあ、ブライアン様がとーーーっても不甲斐ないからですわ☆ 今回の祭だって、あたしがうっかり早めに到着しなかったら、ほとんど進んでなかったでしょうに」
 ちなみにヒメニョ嬢、招待されたわけではなく、後輩にあたるブライアン氏がそう言うイベントをやらかすと聞きつけて、自主的に『営業させて☆』とのどを鳴らしたため、旅費は思いっきり自腹である。
「だって色々と覚えなくちゃいけない事や、やらなくちゃいけない事がたくさんあって、忙しかったんだもん‥‥」
「ほらほら、泣かないの。殿方なんですから。愚痴なら、お祭の時に聞いてあげます」
 かの人が、それを断れない性格なのを承知の上で、ずりずりと引きずっていくヒメニョ嬢。
「お説教されそうな気がする‥‥」
「何でも良いでしょ。ほら、ちょうどお祭に良さそうなやぎの彫像見つけてきたし」
 彼女が示した先には、鎮座まします2mほどのヤギの木像がある。
「どっから持ってきたんですかぁ!」
「あの中。別に触ってもつついても、反応なかったよ」
 あわてるブライアン氏の目の前で、ヒメニョはそういいながら、木像をつついてみせた。が、別段動き出す様子もなく、沈黙を守っている。
「そ、そうなんですか?」
「うん。蹴っ飛ばしても見たけど、大丈夫だった。たぶん、ブライアン様の御先祖サマが、お祭のために残して置いてくれたんだよ」
 ばしばしと背中をたたき、さらにはパンチまで入れてみたが、やっぱり動き出す様子はなさそうだ。
「まぁ、それならいいんですが」
 ほっと安心して作業に取り掛かるブライアン氏。そうして‥‥準備は滞りなく進んだ筈なのだが。
「っくし」
 日が落ちると同時に、霧が濃くなってきた。それに伴い、気温も急降下している。おかげで、くしゃみを連発する羽目になってしまった。
「風邪ですか?」
「違うけど、冷えてきたなー。そろそろ日も落ちてきたし、今日はここまでにしようと思う」
 何しろ、二泊三日の壮大なお祭だ。準備にもそれなりに時間がかかるというもの。いつの間にか、すーっかりヒメニョに仕切りを奪われてしまったが、それでもブライアンさんは「そうですね」と言いながら、その日の作業を切り上げたのだった。
 だが。
「あ、あれーーーー!?」
「これは‥‥」
 翌日、再び準備を始めようとしたヒメニョとブライアン氏は、訪れた祠の前で、目を丸くしていた。
「ちょ、ちょっとぉ! 何が起こったの!?」
「私に聞かれたってわかりませんよぉ!」
 風に煽られた程度では、説明がつかないほど、盛大に荒らされている。まるで、誰かがここにやってきて、一晩中騒いでいたような壊されっぷりだった。
「誰よ、こんな悪戯しやがったのはー!」
 当のブライアンさんよりも、ヒメニョの方が、ぷりぷりと怒っている。
「これ、何の跡だろ‥‥」
「人間の足跡じゃないわね‥‥」
 テーブルクロスの上にくっきりと残った足形は、シフール程度の大きさだが、人のそれとはかけはなれている。まるで、ヤギのような足型だった。
「んもー! 手の込んだ事してーーー! 全部やり直しじゃないのーーーー」
 汚れたテーブルクロスを撤去し、もう一度セッティングをやりなおすヒメニョ。文句を言いまくりながらも、てきぱきと作業をこなしていく彼女を見て、ブライアンさんは少しうらやましそうに「めげない人ですね‥‥」と呟くのだった。
 しかーーーし! 話はこれで終わったわけではない。
「もー頭来た! 今夜は絶対に正体見極めて、縛り首にしてあげるわ!」
 それから2日。会場が、二度も続けて同じように荒らされていたのだ。しかも、決まって夜中にである。そこで、とりあえず夜まで待って、悪戯している連中を見極めようという事になったのだが。
「あーうー‥‥。何で僕まで‥‥」
 やる気満々のヒメニョ嬢の後ろで、毛布と防寒着持参で、一緒に見張り番させられているブライアン氏。
「おだまり。あんたの土地なんだから、付き合いなさい!」
「しくしくしく‥‥」
 確かに道理ではあるのだが、細いブライアンさんには、この極寒の霧は少々つらそうだ。
「いつまでもメソメソ泣いてるんじゃないの。ほら、犯人が現れたわよ」
 と、その霧の向こう側から現れる、影数匹。
「何アレ」
「人‥‥じゃありませんね‥‥」
 シルエットからして、人型ではない。それは、またたくまに数を増やして行き、会場へと乱入してくる。
「‥‥うそ」
「‥‥幻じゃ‥‥ないみたいです」
 至近距離まで来た彼ら。その招待とは。
「ふはははは! この会場は、我らテラマスターズが乗っ取ったー! 返してほしくば、チーム戦で挑むがよいっ! 以上だ!」
 岩陰で様子を探っていた2人に気付いたグレムリンが、びしぃっと指先突きつけて、鼻息代わりに霧を噴出しながら、でっかい声で宣言している。
 そう! 会場を占拠した集団は、あろう事かデビル達だったのだ!
「‥‥‥‥‥‥おにょれクソデビルどもめ‥‥」
「ひ、ヒメニョさん‥‥?」
 すっくと立ち上がるヒメニョ嬢。ブライアンさんが足元から『やめましょうよぉ』とつつくが、そんなものはなかったことにして、こう言い返す。
「あたしの職場を乗っ取るたぁ良い度胸ね! 絶対叩き出してやるから、かーくごなさいっ!! をーっほほほほほほ!!!!」
「ケケケケ、やれるもんならやってみなー!」
 グレムリンの周りに引っ付いていたインプが、そう言いながら、あっかんべーと舌を出す。
「ちゅーわけで、ブライアン! 行くわよ!」
 呆然と見守っていたブライアン氏の首根っこをひっ捕まえ、ずりずりとキャメロットの方へと向かおうとするヒメニョ嬢。
「え? どこへ‥‥」
「冒険者ギルドよ! 決まってるでしょ!!」
 どうやら、冒険者を10人ばかり呼んできて、一網打尽にしようという腹積もりらしい。
「って、だからなんで僕を巻き込むんですかぁぁぁぁぁ!!」
「当たり前でしょ!!! あんたン家の祭なんだから、協力するの!!」
 問答無用! 一緒に来るの! といわんばかりにして、連行していくヒメニョさん。ブライアン氏の「うえぇぇぇぇん! 酷いやぁぁぁぁぁ!!」と言う悲鳴は、夜空に溶け込むばかりだった。
 で、三日後。
「ほほぅ。それは手ごたえがありそうですな」
「そーなのよ。んだから、見てくれのいいの、10人ばっかり耳をそろえてくれる?」
「ま、まぁ募集はかけておきましょう」
 キャメロットギルドに、『いけ好かないデビルどもを叩きのめしてくれるイケメン大募集!!』と言う告知がなされたのは、それからまもなくの事である。

●今回の参加者

 ea0333 フォーリス・スタング(26歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0370 水野 伊堵(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0454 アレス・メルリード(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0680 市川 綾奈(28歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea4200 栗花落 永萌(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea6015 ライカ・アルトリア(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea6386 ジェシカ・ロペス(29歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

「これは‥‥大変そうですねぇ」
 来る途中で大雨に降られ、水を吸って重くなった衣装を、悲しそうにつまみ上げているヒメニョ。それを見て、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)が気の毒そうな表情でそう言う。そんな2人に、栗花落永萌(ea4200)が確認する様に問うた。
「相手が現れるのは夜だけなんですよね?」
「うん。なんでか知らないけど、昼間には現れないの」
 まぁ、相手はデビルだ。夜行性だったとしても不思議はあるまい。それはそれで、対処の仕方もあると言うもの。
「なら、戦闘はおそらく夜ですから、明かりを多めに用意した方がいいですね。手の空いている方、灯りの確保をお願いします」
 彼女の指示を皮切りに、冒険者達は思い思いに準備を進め始める。徹夜になる可能性を考えて、作業小屋で睡眠を確保するディアッカ・ディアボロス(ea5597)とユラヴィカ・クドゥス(ea1704)。夜に備えて毛布や防寒着を配っているアレス・メルリード(ea0454)や、持ち込んだパラのマントで、姿を潜ませる水野伊堵(ea0370)と、色々だ。
「汚れたり、壊れたりする可能性もありますから、そう言ったものは、あらかじめ別にしておいてくれないか?」
 そんな中、ライカ・アルトリア(ea6015)がそう提案した。相手を警戒させない為に、そのままにしておくのは有効な手段だが、やはり被害は少ないに越した事はないと言いたいようだ。
「そう言えば、ひとつ聞きたい事があるのですが」
 怯えた子兎のような表情を浮かべているブライアン氏に、フォーリス・スタング(ea0333)が問うてきた。
「あの、やぎの木像の事なのですけど。あれを置いた日からデビルが出る様になったんですよね‥‥?」
「ええ‥‥」
 苛められる訳ではなさそうだと判断したブライアン氏、少々ほっとした様子で、質問に答えてくれる。
「ならこれが何か関係ある様な気がするのですが‥‥。壊されていない、って言うのも奇妙な点ですしね」
「それについて、村の古老や、同業者から話を聞いていませんか? 祠の由来でもなんでもいいんだが、もし曰くのあるモノだったら、最終的には元の場所に戻しておいた方が良さそうですし」
 フォーリスが問いただすのを見て、話せばきちんと反応を返してくれる御仁だと思ったディアッカも、そう尋ねてきた。
「どれどれ。わしが鑑定して進ぜよう!」
 それを見て、お宝大好き根性が刺激されたのか、ユラヴィカがぱたぱたとぶっ飛んできた。そして。
「うむ。こ、これはっ! 蝙蝠羽に鎌! そして、この紙のようなものは、まさか契約書!!!」
 ンなもんは見ればわかるんだが、そこはそれ、雰囲気と言うものだ。どうやら、彼のレベルでは、まだ見た目まんまな所しかわからなかったらしい。
「ああ、そう言えば、ご近所の老人が仰ってましたね‥‥」
 ディアッカが思い出したようにそう言った。彼が聞いてきた所によると、この辺りでは昔、人を闇の道に引きずり込もうとする悪いやぎが居たらしい。どうやらこれは、それを模ったようだった。
「何かわかったのですか?」
「うむ! 兆候が見られたのじゃ!」
 不安そうなブライアン氏。と、ユラヴィカはぐいっと自身たっぷりに胸をそらす。そして、ブライアン氏の目の前にぱたぱたと飛んで行って、その顔をじーっと見つめた。
「わ、私の顔に何か‥‥」
 あとずさるブライアンに、彼はびしぃっと指先を突きつけ、こう宣言する。
「おぬしの背後には、やり忘れたか、遣り残した仕事の影が見えるのじゃ!! 不吉なのじゃ!」
「えぇっ!?」
 がーんとわざわざ効果音つきで、口をあんぐりと開いて驚くブライアン氏。
「それはともかく、以前、マーメイドの怨恨にデビルが介入して、事を大きくした例もあってのー。おぬしの家や祭関係で、恨みを買っていたりする事があれば、話して欲しいのじゃが」
「そ、そりゃあ‥‥。まだ仕事を覚えたてで、中々お客様の要望に答えきれてない事もありますけど‥‥その事は、ギルドの親方や、同業の皆さんだってご存知ですし、僕だって一生懸命やってるんですよぉう」
 だから、恨まれる筋合いはない筈‥‥と言いたげなブライアン。
「つまり、心当たりはないと?」
「いえ、ありすぎてどれがどれだか」
 爽やかにそう答える彼に、ユラヴィカ以下冒険者達+ヒメニョから、「「「なお悪いっ!!」」」なんぞと言うツッコミが、盛大に入った。
「これが出て来てから、デビルがでる様になったんでしたっけ?」
「はい。そうです。この人が、余計なもの持ってくるからー」
 頭にたんこぶを作ったブライアン氏、うりうりとヒメニョを突付きながら、フォーリスの言葉に答えている。「このやぎが、何らかのキーになっているのは、明らかだな。だが、ただ待っていても連中は集まるまい。どうする?」
 酒でも用意しておびき寄せようか? と、そう問うて来るアレス。ライカも「動かした方が良いのでは?」と提案していた。
「いや、祭が終わるまではそのままにしておいた方が良いと思います。異変があれば、向こうも警戒するでしょうし」
 しかし、2人の意見に、ディアッカが異を唱えている。
「ふっふっふ。わしに良い考えがあるのじゃ」
 と、ユラヴィカが占い道具片手にこんな事を言い出した。どうやら、占ってみたらしい。
「何かお告げでも!?」
「うむ! 占いによると、テラマスターズを倒す為には、美味しくない飲み物が必要だそうなのじゃ!」
 突拍子もない提案に、目をぱちくりとさせるご一同。
「よぉし。んじゃ、そこの綺麗なお兄さん、出てきたらぶん殴ってね。んで、シフールの2人は、MJの準備☆ で、ブライアン様。お金出して☆」
 にこっと笑顔でヒメニョに要求されて、しくしくと涙に暮れるブライアン。
「かわいそうに。尻に敷かれてると言うか、何と言うか‥‥きっと今回の報酬やらは全部彼女に無理矢理出させられたんだろうな‥‥」
 そんな2人の様子を見て、アレスはぼそりとそう呟くのだった。

 そして、数時間後、日はとっぷりと暮れ、そろそろデビル達が現れようと言う時間になった。
「毛布を持ってきて正解だったな。だいぶ霧が濃い‥‥」
 アレスが、寒そうにしているヒメニョに、持ってきた毛布をかけてやりながら、そう言った。幸い、雨は上がってはいたが、代わりに霧が出始めている。それが、体温を徐々に奪っていくのに気付いたからだ。
「普段、ここまで霧が出る場所じゃないんですが‥‥」
「静かに。誰か来たぞ」
 霧のむこう。ゆらりとした影が、ちらほらと姿を見せ始める。尻尾や蝙蝠羽があるところを見ると、デビル達のようだ。
「しかし凄い数のデビルですね‥‥。これよりも上位のクルードと戦った事もあるのですがあの時は一匹だけでしたし‥‥」
 フォーリスが感心したようにそう言った。見れば、デビル達は、姿形こそ様々だが、どいつもこいつも紫色の上着を羽織っている。中には、少しだけ上位なのだろう。やたらとへこへこされている黒い上着のデビルが5匹。ヒメニョ嬢の話によると、ここに現れ始めたときから、その格好をしていたらしい。
「これだけのデビルが出て暴れているのか? 意外と踊っているだけとか」
 ライカがそう言った。よく見れば、連中はオクラホマミキサーではなく、リンボーダンスを踊ってる。ピンクと銀色のしましまドレスや、赤いドレスのインプが、盛大にひっくり返っていた。
「私には、チーム戦やってる様に見えるけど」
 市川綾奈(ea0680)の言葉によく見れば、それぞれのデビルには、何人かの応援団がついている。リンボーダンスが終わると、今度は小石でコイントスに励み始めた。
「うむ。どうやら、ゲームをしているようじゃ。とすれば、アレが終わった暁には、用意した酒で酒盛りを始める事じゃろうて」
 ユラヴィカが、『占いの結果』と言い張りながら、そう言った。と、それを聞いた栗花落、ヒメニョを引っ張って、ぼそぼそと何か耳打ちする。
「終わったみたいね。お酒見つけて、大喜びしてる」
「そろそろ、やっておいた方が良さそうですね」
 その間にもデビル達は、ジェシカが用意しておいた禁断の壷。それに満たされたエールを見つけて、歓声を上げている。それを見て、ディアッカがファンタズムを唱えた。と、直後。
「見付かった!?」
「いや、幻に反応しているだけだ!」
 ぎゃーぎゃーと大騒ぎしているデビルたちの矛先が向けられているのは、ディアッカが作り出した『隠れているように見える冒険者』の幻だ。
「えぇい、幻だろうとなんだろうと同じ事! 誰だ!」
 リーダーと思しきインプが、びしぃっと指先を突きつけてそう叫ぶ。それを見た栗花落、ヒメニョに合図を送る。
「をーほほほほ! そこのデビルども! けちょんけちょんにして差し上げますから、かーくごなさいっ!」
「さすがに本職の吟遊詩人さんですねー」
 ぱちぱちと拍手を送る彼女。あっかんべーと舌を出して帰ってきたヒメニョを、岩の裏へと押しやった。
「おにょれ! お前ら、喧嘩の売り方が素人だぞ! そう言う奴にはこうだー!」
「待て待て! こんな所でバトルっては、素人衆に迷惑が及ぶ。ひとつ、こいつで飲み比べと行こうではないかっ!」
 ぴょンぴょんと飛び跳ねながら文句をつけるデビルに、ユラヴィカがそう言いながら、目の前に樽を置いた。それには、木枠の部分にドクロのマークが書いてある。
「いいだろうっ! 危険物早飲み勝負だっ!」
 デビル達、受ける気満々である。彼らは樽の蓋を叩き割ると、ぐいっと豪快に流し‥‥込もうとした。
「ちょっと待て! これ油じゃないか!?」
「えぇい。つべこべ言わずに、とっとと飲めーーー!」
 おまえがしかけたんじゃろー! と、意地悪な事を言い出すユラヴィカ。体格が同じくらいの相手なので、妙に燃えているらしい。
「むぅ! 俺達は誰の挑戦でも受けるのが筋だ! たとえそれがどんなに痛い冒険者でもッ!」
 並々と注がれた油を、喉に流し込むデビル。が、飲みきれずに盛大に吹いてしまっている。
「やっぱり、いくらデビルでも、あれはキツかったみたいじゃなー」
 ユラヴィカが勝利を確信したかのようにそう言った。
「ぎゃー、水ー! 水ー!!」
「逃がすか! 皆! 例のものを!」
 そのまま逃げ出そうとしたデビル。しかし、そう簡単に逃がすわけには行かないとばかりに、ジェシカ・ロペス(ea6386)が、手に手にあるモノを取った。
「そーれ! 投げ込めー」
 複数の冒険者達から、盛大に白い煙が上がる。どうやら、小麦粉か何かのようだ。
「物理攻撃がデビルに効くか! あーばよっ!」
「消えた?」
 そう言い残し、姿を消そうとするデビル達。しかし、背中についた粉は、そう簡単に消えない。それこそが、ジェシカの目論見。
「いや‥‥。近くに潜んでいる筈です!」
「よし! 探せ!」
 後は、それを追いかければ良いだけである。同じ様に小麦粉を投げつけていた水野、愛剣を抜き、その刀身をぺろりと舐めながら、ニヤリと笑う。
「『堕龍』‥‥。貴方とならば、どこまでも‥‥」
 正直、かなり怖い。後ろでヒメニョとブライアンが、手に手を取って怯えている。
「見ィ〜つけたぁ〜‥‥」
 が、当の本人は、全く気付かない様子で、悪魔のような極めて邪悪な笑みを浮かべ、バーニングソードで燃え盛る武器を構えて襲い掛かる。
「お前等、今すぐ肉の塊にしてやる‥‥。ククク‥‥祭りのメニューに焼肉を追加じゃぁぁ!!」
「何で見付かったんだー!?」
 デビル達、まったく分かっていない。いや、無能だからこそ、下級どまりなのだが。
「会場は後で直しますので勘弁してくださいね‥‥!」
「うっぎゃあ!!!」
 そこへ、フォーリスがファイアーボムを打ち込み、デビル達はこんがりと焼かれてしまった。
「今のうちに、保存食を詰め込んで、きゅーきゅー言わせてやるのじゃー!」
 ユラヴィカがれっつごー! と、デビルを指した。残りの面々は、栗花落のアイスチャクラ、フォーリスのバーニングソード、アレスのオーラパワー、ケンイチのムーンアロー、ライカのホーリーと、綾奈のシルバーダガー等、めいめいの手段でもって、散らされてしまう。
「‥‥ちなみに、私は食べたくないッ!!」
 ちゅどーんっとファイアーボールが盛大な音を立てるのを背景に、水野嬢はそう宣言して、剣を鞘に納めるのだった。

 翌日、デビル達を撃退し、何とか元の状態に戻した冒険者達は、二手に分かれて会場の設営やりなおしを行っていた。やぎの木像も、元あった洞窟に戻している。そして、綾奈の申し出により、報酬のオマケと言ってはなんだが、冒険者達も祭に参加して構わないと言う事になった。
「ねぇねぇ。余ったんだけど、飲まない?」
「あー! もらうー」
 にっこり笑った彼女が差し出したのは、禁断の壷に並々と注がれたお酒。ヒメニョ嬢、何の疑いもなくそれをぐびぐびと飲み干してしまう。百合属性の白い悪魔っ娘こと、綾奈。わくわくしながら、その変化を見守っていたのだが。
「うふふふ。捕まえた☆」
「ひ、ヒメニョさん?」
 本人が脱ぐより前に、綾奈の方が捕獲されてしまう。
「お姉様ぁ。殿方が、お祭の衣装を着てくれませんの。だ・か・ら☆ 変わりに脱いでくださいまし♪」
「んもー、ヒメニョさんってば、積極的なんだからぁん☆」
 押し倒されて剥かれつつ、綾奈、かなり嬉しそうである。ヒメニョさんの方も、「言う事聞かないとキスっちゃうぞぉ」なんぞと、悪ノリ。
 苦労して供物を運んできた面々が呆然としていたのは、言うまでもない。