【Bride War】皐月台風１
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■ショートシナリオ担当：姫野里美 対応レベル：1〜5ｌｖ 難易度：普通 成功報酬：1 G 35 C 参加人数：6人 サポート参加人数：-人 冒険期間：05月23日〜05月28日 リプレイ公開日：2007年05月31日 |
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●オープニング
●憂鬱なかの君を想いてロシアの春は遅い。
雪が雨へと代わり、その雨が止み、地表の雪が融け、そして凍った大地が鼓動を始めて、ようやく春と言えるのだ。
そこにたどり着くまで、およそ二月。その分、ロシアでは盛大に春を祝う。それは、王室でも変わらない。
だが、その春の訪れとは逆に、気分を沈ませる御仁がいた。
「トーマ様が、ご気分が余りよろしくないようなんですのー」
どういうわけか、議長卓でお茶をしていたお琴、レオン相手に、最近のトーマの様子を相談している。
「何処か具合でも悪いのですか？」
「いえ。お仕事は、きちんと続けられておりますわ。ただ、時折王宮の‥‥国王陛下がいらっしゃる場所を見ては、ため息をつかれて‥‥。寂しそうにしてらっしゃるんですの」
レオンが尋ねると、彼女は彼の様子を告げる。公式行事である５月のパーティが近づくにつれ、憂鬱な気分になっているようだ。
「それは‥‥」
その様子を聞いたレオン、ちらりと主の方を見て、くすりと笑う。
「何か、お心当たりでも？」
「いえ、議長が昔似たような症状だったので」
きょとんとした表情で、お琴が尋ねると、彼はそう答えた。口をあんぐりと開けるお琴に、レオンはこう続けた。
「お琴さんもお心当たりがありませんか？ 確か、ジャパンでは、高貴な身分の奥方に仕えてらしたとかで」
「そ、そう言えばっ！ あのため息は、高坂様とおんなじですわ〜！」
心当たりをを思い出したお琴、急に目を輝かせる。「そう言うことですよ」と、余り心配しないように告げるレオンの前で、お琴はがたんっと立ち上がる。
「こうしてはおられませんわっ」
「え？」
怪訝そうに首をかしげるレオンに、お琴はまるで吟遊詩人から恋物語でも聞いた様に、こう語る。
「トーマ様が高坂様で、陛下がお館様なら、エリザベータ様はお方様ですもの。何とかして差し上げなければっ」
ばたばたと帰り支度をする彼女。レオンが「どこへいくのです？」と尋ねると、お琴はこう言った。
「確か、王妃様に献上された御本を集めたお部屋があったはずですわ。そこへ行って、解決法を探してきますの！」
きっと、解決案があるはずですわー！ と、屋敷を後にする彼女を、レオンは「良い案が見つかると良いですね」と、見送るのだった。
●献上品
ジ・アースでは、月に一度、月道と呼ばれる移動魔法の道が開く。
世界各地に存在するその道は、異国への扉であり、また異国からの珍しい品が届く日でもある。
沢山の物と人、そして情報が行き来する中、その『珍しい品』は、遥か遠くからやってきた。
「ずいぶんと細かくリスト化されているな‥‥」
「密輸対策らしい。違反が無いか、一つづつ確かめろとのお達しだ」
月道の近くにある検閲所では、届いた荷物を担当の者達が、チェックしている。それは、リストにないものがあれば、即座に破棄されてしまうと言う、大変厳しいものだった。
「今までは、許可証の無い者は通さないでよかったのに‥‥」
「仕方が無いさ。こう言うものは、貴族やあちこちの領主が欲しがる品なんだし」
ぶつぶつと文句をこぼす担当官。送りつけられたのは、各種植物のサンプルや、恐竜の骨や皮、謎の砂だ。
「薬になるんだっけ？」
「そう言う話だ。細かい事はわからないが、粉にして混ぜ込むと良いらしい」
骨が、東方において薬になる事は、少々学問をかじった者なら、どこかで聞く知識だ。もっとも、それが確かかどうか、彼らにはわからなかったが。
「こっちは？」
「ブランの元って書いてあるが‥‥。そうは見えないな‥‥」
確かに、海岸の砂と比べて、若干輝いてはいる。が、彼らの知るブラン鉱と言うのは、赤褐色の岩に、消し炭のように細かく入っているものだ。目の前にある砂は、とてもそうは見えなかった。
「失礼します。例の品の引き取りに来たのですが」
「あ、ギルバードさん。月道の資材の代金、届きましたよー」
そこへ、議長がレオンを伴い、姿を見せる。王室から、通達を受けていた係りの者は、その一部を見せ、そう報告する。
「結構な数だな‥‥」
それだけでも、結構な数に上る。荷馬車一台分はあるだろう。
「誰か雇いましょうか」
「そうだな。王宮に持っていく都合上、冒険者の方が良いだろう。手配を頼む」
頭を垂れるレオン。
『王宮にオーストラリア産の品々を運びます。結構な数がある上、不貞の輩に狙われる可能性がありますので、力の強い冒険者の皆様、護衛をお願いいたします。
月道からキエフの王宮まで、短い道のりではあるが、路地や建物も多く、それなりに考えて輸送しなければならないようだった。
●今回の参加者
eb5072 ヒムテ（39歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷）eb5723 サスロイト・テノール（27歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国）
ec1103 アスタルテ・ヘリウッド（32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国）
ec1621 ルザリア・レイバーン（33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国）
ec1929 カナン・マラクレット（25歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国）
ec2073 瀬名 北斗（37歳・♂・浪人・人間・ジャパン）
●リプレイ本文
「しかし、月道の向こうからの荷ねえ。ロマンだわー」アスタルテ・ヘリウッド（ec1103）は興味深そうに、木箱にしまわれたそれを覗き込んでいた。見れば、その木箱には、ナンバーが書かれていた。そして、それはどうやら添付されていたリストに対応しているようだ。
「中身見れないのが残念ね。ま、仕事の内だからしょうがないけど」
木箱の隙間からは、良く分からない緑の葉や、乾いた木の皮みたいなものが垣間見える。それを見たルザリア・レイバーン（ec1621）は、そのまま木箱を開け始める。目を丸くするアスタルテ。
「いいの？」
「破損しやすい品もあると聞いたのでな。梱包しなおして、損害のないようにするのは、仕事のうちだろう」
見れば、木の皮で簡素に包まれたそれは、あちこち焦げていて、耐久性はなさそうだ。それをルザリアは、荷物の中に押し込めていた麻布で包んでいく。
「あとは、隙間をこうして‥‥。これでいいな」
いびつな形をしたその骨の間に、彼女は皮袋を丸めた物を、突っ込んでいた。それを、極力隙間なく馬車に積むよう指示する彼女。
「こうしておけば、少しくらいの衝撃では、荷がズレ動かないだろう」
残った隙間にも、布を詰めていくルザリア。どうやら、引越し荷物をまとめるのと、同じ要領らしい。
「けっこう大きいものだな。毛布でくるんでおいた方がいいかもしれん」
要注意マークが入った、何かの陶器は、カナン・マラクレット（ec1929）が毛布の切れ端を使って、梱包していく。元の倍くらいの大きさになったそれを、荷馬車の上に積み上げていく彼女。
「荷物が動かないように、気をつけてくれ」
「ああ。祖国に届いた大切な荷だし、無事必ず送り届けなければな‥‥」
手伝っていたサスロイト・テノール（eb5723）がそう答えている。こうして出来た隙間に、彼女とアスタルテが潜む予定だが、何しろ、結婚記念日祝いの献上品だ。下手に傷つければ、首が飛びかねない。
「わざわざキエフ半周して、運ばなきゃいけないのが、ちょっと面倒だけどな」
一方その傍らでは、地図をたどって、どこを通るのか確認中のヒムテ（eb5072）。
こうして、一行は荷物を積み込み、キエフ巡航へ出発するのだった。
キエフの街は、思いのほか人が多い。特に今は、国王夫妻の結婚記念日にあたる為、祭を見に来た観光客、警備の兵士や、その家族等でごったがえしていた。
「こんな軽装でいいのかなぁ」
旅装束と言うよりは、ちょっとその辺に‥‥と言った衣装の瀬名北斗（ec2073）、不安げに呟く。
「まぁ、私の場合、元々装備も軽装だし、顔も知られてないし、怪しまれないとは思うけど‥‥」
カナン、苦笑しながらマントの留め金を確かめる。レザーアーマーをそのまま見せていると、いかにも‥‥と言った格好だが、かといって脱ぐわけに行かないので、逆に着込んじゃったようだ。そこへ、北斗と同じように上着を脱いだ状態のヒムテが、安心させるようにこう言った。
「護衛を雇うほどの代物だって、宣伝して回るのも何だし」
大きな剣や盾を持った物々しい装備では、奪われたくないと豪語しているようなものである。
「なるほど。大きな護衛と思われないようにする為‥‥ですか」
「そう言う事。適度に警戒、程ほどにリラックス、なんてな」
北斗に頷くヒムテ。見慣れた街だ。狙われさえしなければ、割と旅行気分でゆっくり出来るだろう。もっとも、実際にそうなるかどうか分からないが。
「えぇと、最初のルートは、商店街‥‥。酒場のある辺りを抜けて、居住区と広場を通る‥‥か」
書き込まれた地図を確かめながら、そう言うカナン。両側に様々な店を並ぶその通りは、彼らの他にも、様々な荷馬車や馬、人が通り、たいそう賑やかだった。
「人が多いですねぇ」
その行きかう人々を、次々見比べながら、ため息をつく北斗。
「色んな店があるからね。特に今は、祭りの期間で、多数あいていると思うし」
中には、この祭りを当て込んできた旅芸人や、吟遊詩人等も多い。本来の顔を隠して興行に打ち込む者もいる。
「あの中に、襲撃者がいたら、かなわないわね」
「そうじゃないと良いんですけどね」
護衛だとわからないように、勤めて明るく振舞いながら、彼らに紛れて、襲ってくる輩がいないか、警戒するカナンと北斗。
「その割には、兵士が多いな‥‥」
「宮廷が、色々物騒だって話も聞くしねぇ」
荷馬車の真横にいたルザリアが、一般人に紛れた警備達を見つけてそう言い、ヒムテは酒場で聞いたらしい噂を口にする。
「さすがに、こんな賑やかな所で、大手を振って襲うって事はないかな」
北斗がそう言った。種族も職業もバラバラだが、数だけは多い。こんな所で襲えば、あっという間に通報されてしまうだろう。敵も、その辺りは考えているのか、欠片も姿を見せない‥‥かに見えた。
「だと良いけどな」
ヒムテが、厳しい表情で、そう言った時である。
「あれ？ 芸人さん‥‥？」
北斗が、困惑したようにそう言った。見れば、仮面をつけた道化師の一団が、こちらへとやってくる。
「何っ！？」
前の方を歩いていた北斗とカナン。そこに、ゆったりした衣装の彼らが、その内側から、きらめく刃を踊らさせる。
「うわっ」
北斗が、隠し持っていたナイフで、相手のナイフを受け止める。
「こいつら、荷物を狙って！？」
カナンも、同じように下げていた剣で、ナイフを受け止め、中にいる２人へ合図する。
「ああそうだ。思った通りだな」
そう言うヒムテ。気付くと周囲をくるりと道化師達が取り囲んでいた。
「荷には指１本触れさせん‥‥」
合図を受けたサスロイト、持っていたヴカシンの剣を抜き、道化師達の前へ躍り出る。が、彼らは逆に包囲網を狭めていた。
「ちょうどいいわ。捕まえて、洗いざらいしゃべってもらいましょうか！」
その瞬間、馬車に潜んでいたアスタルテが、荷物を傷付けないように、ゆっくりと立ち上がる。そして、襲撃者へそう言い放つと、敵の動きを止めるべく、その足元を狙って、シューティングポイントアタックを放った。
「やぁん、上手く捕まえられないじゃないぃ」
十人張りの強弓は、威力こそ大きいが、いくら軽いガディスアーマーとは言え、板金鎧を着た状態で、重い両手弓では、２０秒に１度が、行動限界だ。
「無理して捕まえようとするな。迎撃できれば、それでいい！」
「りょーかいっ！」
ヒムテの助言に、彼女は矢を二本に変えた。３０秒に１度の行為だが、その代わり威力は倍だ。１人が、腕を貫かれて動かなくなった。
「首が体からさよならしたくなければここから消えろ！ かかってくるならそれ相応の覚悟をしてもらわねばな」
その間に、サスロイテは馬車の上から、そう一喝する。高い場所からの恫喝に、死の道化師達は、そのまま踊るようにして、囲みを解いて行った。
「大人しく言う事を聞いてくれたみたいですね」
「そうかな。まだ先は長そうだが」
ほっと胸をなでおろした様子の北斗に、ルガリアがそう呟く。気付けば、アスタルテが射抜いたはずの敵さえいない。
「一寸王宮が物騒だし、色々考えた方が良いわよね‥‥」
そう答え、再び荷の中へ潜むアスタルテだった。
次のエリアは冒険者街だ。
「相変わらず、違う意味で賑やかだなー」
ヒミテが苦笑しながら、そう言った。今日も相変わらず、彼らと彼らのペットが、どんちゃん騒ぎを繰り広げている。通称『最もデンジャラス』なエリアである。
「僕らも人の事言えないだろ」
そう答える北斗。と、隣のカナンが、マントのフードを被りなおしているのを見て、怪訝そうな表情を浮かべた。
「おや？ 何か都合の悪い事でも？」
「いや、知り合いに顔を見られると、問題だから」
それこそ、すぱーんっと頭をはたかれかねない。誰が見ているか分からない都合上、うっかり警戒しているとバレるのも、問題だから。
「大丈夫そうですよ。襲ってくる気配ありませんし」
周囲の気配を探っていた北斗、そう言ってくれる。
「あまりキョロつかない方が良い。ここいらあたりだと、勘の鋭い者には、バレてしまうから」
「そうね‥‥」
馬車の側、中央辺りにいたルザリアにも、そう言われたため、カナンはフードを取った。そして、いかにも『ただの日常』と言ったふりをして、歩を早めていく。
「ようやく出口か。まぁ、こんな所で襲うわけもないしな」
「かえって危険だしな」
ルザリアが杞憂だったか‥‥と言った表情で、後ろを見返すと、ヒムテが空を行きかう大型魔獣を指してそう答える。下手に襲い掛かれば、それこそ彼らを含めた住民全員が敵に回りかねないからだ。
こうして、下手なスラム街よりよっぽど怖いエリアを抜け、しばらく大通りを歩くと、今度は高い塀に囲まれ、入り口に衛視の常駐する高級住宅街へとたどり着く。
「問題は、ここからだな‥‥」
ルザリア、いつでも剣を抜けるようにして、そう呟く。一方では、カナンが荷台をこんこんと叩いて、中にいる２人に合図。
「そろそろ警戒地域よ。よろしくね」
こんこんっと合図が返って来た。外の音はちゃんと聞こえているようだ。こうして、ごろごろと荷馬車を引いていくと、入り口の衛視に停められてしまう。
「予想通り停められたな」
「仕方ないですよ。今はお祭り期間中で、警戒が厳しくなっているんですから」
ヒムテが軽い口調でそう言うと、北斗が世間話をするように答えている。その彼らの目の前では、２〜３人の衛視が、荷馬車を取り囲み。書類を片手に、質問開始。
「え、えーと‥‥。なんと言うか、あははは」
どう答えていいかわからず、あいまいな笑いを浮かべるカナン。口下手で、嘘のつけない性格の彼女、まごついたように、ルザリアに助けて光線を送ってしまった。
「落ち着け。我々は正規の依頼で動いているんだ。それでは、余計怪しまれてしまうぞ」
「そうだった。えぇと、確か依頼書がありましたっけ‥‥」
彼女が書類を持っている事を思い出すカナン。交渉をルザリアに任せる事にする。その書類をちらりと見た衛視は、あっさりと通してくれた。
「このまま、何もなく終わるのでしょうか」
不安げにそう言うカナン。既に、道のりは高級住宅街の半ばを過ぎている。息を潜めているような静寂感が、荷馬車の周辺を包み込んでいた。
だが、その静寂に、違和感を感じていたヒムテ、周囲の屋敷を取り囲む塀の影に、人の姿を見つけて、こう警告する。
「そうでもないぜ。おーっと？ こっちに熱烈視線をくれてる素敵な挙動不審者を確認っと」
彼がそう言って、持っていたダーツに手をかけた瞬間、次々と姿を見せるのは、先ほどと同じ仮面をつけた御一行だ。
「このタイミングで襲ってくるとはねぇ‥‥。もっと賑やかな場所で襲うと思ったけど」
「荷を考えれば、妥当な話だな。人ごみに紛れてより、人気のない場所で、駆けつける前に襲うと考えたか」
ヒムテがダーツを懐から取り出しながらそう言うと、ルザリアはシークレットナイフを構えながら、その理由を告げる。人ごみに紛れて襲う奴がいれば、人気のない場所で襲う奴もいると言うわけだ。
「出来ればちゃっちゃと追い払いたいトコだね」
ヒムテが軽くそう言った瞬間、取り囲んだ襲撃者達は、遠巻きにした状態から、矢を放つ。
「馬車から離れるなよ！」
「わかってるって。その為に、ダーツを持ってきたわけだしさ！」
緊迫した空気が堰を切り、ヒムテが襲撃者に向けて、ダーツを放った。同じように、ナイフをきらめかせるルザリア。
「こっちにも来ましたよ！」
「じゃあ任せた！」
反対側からも、矢を撃つ者達がいる。手の回らないヒムテとルザリアの代わりに、北斗とカナンに、相手を押し付ける。
「ははははいっ！」
「こっちだって、やれば出来るっ！」
隠し持ったナイフで、ブラインドアタックをかける北斗。その間に、カナンはたたっと駆け寄ると、弓矢を持つ襲撃者達に、ディザームをかける。
「カナンちゃん、危ないっ」
「わぁっ！」
腰に下げていたナイフをひらめかせる襲撃者。その刃を、代わりに受け止めたのは、馬車から降りたアスタルテだ。
「どけっ！ 我が剣の錆になりたいか！」
行く手に立ちふさがる敵は、ヴカシンの剣を力強く振り下ろして、成敗している彼女。既に、瞳は赤い。
「さっさと抜けるぞ！ 門を出れば、王宮の裏だっ！」
馬車の上で、出口となる裏門を指し示すサスロイト。ぺしぃっと北斗が馬へ鞭を入れる。スピードを上げる荷馬車に従い、彼らはやや強引に、高級住宅街を抜けるのだった。
目的の場所へ、冒険者達が到着したのは、日がとっぷりと暮れた頃だった。
「やっとついた‥‥」
ほっと胸をなでおろす北斗。門番に事の次第を告げると、受け取り場所と思われる倉庫へ案内された。
「騎士アスタルテ・ヘリウッド、ギルドの依頼に基づき只今到着致しました」
馬車から降りたアスタルテ、片膝を付いて、深々と挨拶する。後ろで、似合わない台詞に笑いをこらえている奴がいそうな気がするが、気のせいと言う事にして。
「これはこれは、ご苦労様です」
受け取り係と言う身なりの良い御仁は、彼らの知らない相手だ。
「これで一安心ですね」
「‥‥いや、まだだな」
ほっとしたようにささやく北斗に、ルザリオは厳しい表情のまま、首を横に振る。怪訝そうに首をひねる彼に、彼女はこう言った。
「血の匂いがする‥‥。それに、この気配‥‥。どこかに潜んでいるな‥‥」
姿は見えないが、あちこちから突き刺さるような視線が感じられる。そう思ったルザリオは、一歩前に進み出ると、担当貴族に、無表情のままこう言った。
「いえ、申し訳ありませんが、倉庫まで運ぶのが役目。お預けするわけには参りません」
「そんな事おっしゃらずに。遠慮は無用ですよ。荷運びの者もいますし」
貴族、ぱちりと指を鳴らす。と、幾人かの作業員が現れる。
「やはり、そう言う事か‥‥。アスタルテ、そいつに荷を渡すな。これは敵の罠だ」
そう言うルザリオ。驚きながらも、アスタルテは、背負った矢筒に手をかける。ぴしりと張り詰める空気に、ルザリオの瞳の色が赤くなりかける。それを見たヒムテ、相手にこう申し出た。
「ここらで退いてくれっと、俺らとしても有り難いんだがねぇ？」
荷物は俺らが運んでおくからさ‥‥と、続ける彼。ヒムテもまた、その『荷運び人』に流れる血の匂いを嗅ぎ取っていたのだ。
「まぁ、いいでしょう。やりようはいくらでもあります」
ここで事を起こしても、得にはならないと判断したのか、その怪しい荷運び人を引き上げさせる彼。
「長い１日になったな‥‥。無事に済んでなによりだ」
騒動を聞きつけてか、本来の衛視兵が駆けつけてくる。その中に、レオンの姿が混ざっているのを見つけたサスロイトは、そう言って、仕事の終焉を告げるのだった。
