【Bride War】皐月台風3

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月25日〜05月30日

リプレイ公開日:2007年06月03日

●オープニング

●王妃様の護衛
 さて、それからしばらくしての王宮では。
「お琴が行方不明か‥‥。まったく、どこで油を売っているのやら」
 春の公式行事に向けて、警備の素案を練っていたトーマ、侍女からお琴が帰ってこないとの報告を聞き、不機嫌そうな表情を、ますます険しくしている。
「トーマ様。ギルバード殿が、火急の用件とかで」
 そこへ、別の衛視が、議長の面会を継げた。王妃気に入りの織物商。無下にするわけにもいかず、しぶしぶ彼は応接室へと通す。
「実は‥‥。このような状態でして」
「ふむ‥‥。なるほど、そう言う事か‥‥。だとすると、手が足りないな」
 お琴が、何か事件に巻き込まれた事を告げる議長に、思案する様子のトーマ。しかし、「警備の人間を増やしますか?」と言う問いには、首を横に振る。
「そうだな‥‥。少し考えさせてくれ」
「では、他に仕事もあります故、その間に、あいさつ回りを済ませてまいります」
 レオンから、トーマにも事情がありそうだと聞いていた彼は、一時その場を辞した。
「そうするといい」と見送った彼、再び警備用の配置図を手に、考えをめぐらせる。
 と、その時だった。
「くくく‥‥。悩んでいるようだな」
 今まで誰もいなかった室内に、突如として響く青年の声。
「誰だ!」
 はっと振り返った窓際。ここは二階であるはずのそこに、トーマと良く似た青年が1人。衣装まで若干のデザインと色が違うだけと言うその姿の彼は、こう名乗る。
「我が名はブルーレイ‥‥」
「‥‥また貴様か」
 ぎろりと睨みつける彼に、ブルーレイはすいっと音もなく近づき、軽く舌なめずり。
「言葉が過ぎるぞ、トーマ殿。貴殿とて、口惜しく思っているのだろう‥‥?」
「黙れ! 私は‥‥私はただ‥‥」
 見透かされるような口調に、彼は声を荒げる。逆にブルーレイは落ち着いた声で、こうささやいていた。
「その想い、かなえてやろうと言うのだ。望め、さすればかなえられん」
「この‥‥!」
 刹那、腰の剣に手をかけ、切りつけるトーマ。しかし、その一撃は空を切り、身代わりに彼の机を差し出す。
「おいたは禁止」
「く‥‥」
 気がつくと、ブルーレイは既に背後にいた。突き飛ばされるように転がされる音。それを、扉の外で聞いた議長、無礼を承知でかけこんでくる。
「トーマ様、いかがなされました?」
「‥‥別に。なんでもない」
 そこにいたのは、妙に穏やかな表情のトーマ。しかし、声質に表情はない。
「これは‥‥」
「私はこれより、王宮に戻る。ギルバード殿、用向きがあれば、他の者に申し付けられよ」
 トーマの命に、頭を垂れる議長。そのまま、彼の元を強制的に辞す形となった彼だったが、即座にレオンを呼び寄せ、書状を渡す。
「すぐに冒険者を集めろ。王妃とトーマ殿に、危難が迫っているとな」
「え‥‥?」
 怪訝な表情を浮かべる彼に、議長はこう続けた。
「嫌な予感がする。トーマ殿には、秘めた思いがあると聞いたしな。警護の人数を増やしてもよかろう」
「‥‥かしこまりました」
 頭を垂れる彼。そして翌日、こんな依頼が、ギルドへと流されていた。

『王妃の身辺を警護する冒険者の方々を募集します。なお、くれぐれも内密に願いたいので、それなりの変装が出来る方をお願いします』

 この程度なら、少し経験のある冒険者なら、どうと言う事はないだろう。そう踏んでの条件だったらしい。

●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4295 アラン・ハリファックス(40歳・♂・侍・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

「えぇと、ステップはこうでしたっけ‥‥」
 自前のエンジェルフェザーを着込み、来賓のお嬢様と言った風情のシシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)、不安そうに足元を確かめる。こういった場の作法は、心得がないらしく、騎士姿のシオンの後ろに隠れたままだ。
「あまり無理はしなくて良いわよ」
 そんな彼女を、エスコートするように手をとるシオン・アークライト(eb0882)。傍から見れば、貴婦人と騎士と言った風情。まぁ、2人とも女性なのだが。
「うーん、今日は王妃様を題材にした方が、良いんでしょうね」
 一方、礼服を身につけたルーティ・フィルファニア(ea0340)がそう言う。一応、歌を歌えるだけの喉は持ち合わせているので、今回は楽士見習いと言う触れ込みだ。
「ねぇ、アラン‥‥あれ?」
 が、その彼女とペアを組むことになったアラン・ハリファックス(ea4295)、いつの間にか姿を消している。見れば、テーブルの方で、女性陣‥‥たまに男の子が混ざってるが‥‥に囲まれていた。
「いや、市井の歌はここには似合わないのでね」
 そう誤魔化している彼。襟元を乱した礼服で、リュートベイルを小脇に抱え、流行の『ちょい悪』を気取っている。もっとも、実は楽器が弾けなかったりするのだが。
「ただ町で蒼穹楽団、という楽団の名を聞いたら足を運んでほしい」
 しっかり宣伝だけは済ませる彼。そうして、今度は議長に挨拶する為、パーティ会場を巡回し始めた。
「教えてあげなくて良いのかなぁ」
 そんな彼らの様子を、少し離れた場所で見つけたエリヴィラ・アルトゥール(eb6853)、ドレス姿のまま、ペアを組むことになった一花に尋ねている。
「パトロールを兼ねるって事で、良いと思いますわ」
 言われた方の常葉一花(ea1123)、給仕係に紛れ込んだらしく男装姿だ。何しろ、いつもの格好では、トーマに『ギルバードの所のメイド』として、バレてしまう可能性が高かったから。
「では、こちらも巡回を始めましょうか」
 自前のエンジェルドレス。その内側に潜ませたナイフを確かめつつ、そう言うエルヴィラ。仕立て屋らしく、丁寧な作りのそれを着た彼女、頭部には真実のサークレット、帯は巨神の力帯。ブラッドリングまではめ込み、見た目の華やかさ以上の力を出せる装備を持ってきていた。
「そうですね。これを持っていれば、どうにかなるでしょうし」
 一方の一花は、普段からクリスタルソードを武器にしている都合上、持ち合わせている装備は普段と変わらないが、その代わりに、その場にあったトレイに、給仕らしく杯と皿をいくつか乗せていた。これで、どこにいても『給仕』として押し通せるだろう。
「まずは‥‥来賓かなぁ」
 そんな一花をお供に、エルヴィラは王妃に挨拶をと詰め掛ける来賓を、1人づつ確かめる。そんな彼らの中に、議長がいた。どちらかと言うと仕切る方に回されているのだろう。来賓と歓談しつつ、王妃に負担にならないよういくつかのグループに分けている。
「よう。相変わらずそうだな、議長」
「おかげさまで、イギリスにいた頃と、余り変わらない仕事を請け負っているよ。なんなら、帽子の一つでも誂えさせようか? アラン」
 旧知の間柄なのだろう。議長も余り気取らずに話しているようだ。
「そいつはお任せするが、それより次の子供はいつ作―――もといできるんだ?」
「‥‥既に2人いるんでな。まずはその子が落ち着いてからだ」
 一花が弄ってるせいか、さすがに返答が手馴れてきたようだ。と言うか、こんな場所で、うろたえるわけに行かないと言うわけだろう。
「そか。まぁ、最近は英国離れでな。ジャパンで一旗上げるのも一興と思っている」
「君なら、どこへ行っても上手くやれそうだしな」
 一花が弄る気配がないので、会話は自然と普通の物になる。事件は、その頃合起きた。
「お2人とも、このような場所で壁の花ではもったいない。どうぞ、フロアにお出でになりませんか?」
 来賓の1人らしき貴族が、シオンとシシルに、そう声をかけてきた。
「いえ、賑やかな場所は得意ではないので‥‥」
 フロア内では、目立たないようにしようと努めていたシシル、やんわりと断ろうとしていた。ところが、その来賓を案内していたらしい礼服の御仁が、こう一言。
「だろうな。離れれば、仕事に差し障りもあろうし」
 そう、トーマである。ドレス姿のシシルにそう言う彼の表情は、まるで警戒するような厳しさだった。
「バレてるのでしょうか」
「‥‥さすがに、今回は指導係がいないからねぇ」
 不安そうなシシルに、シオンは軽く唇をかみ締めて応える。騎士としての礼儀作法には、かなり熟達しているつもりだが、かといって演技力は欠片もない。辺りを警戒する視線は、隠しきれなかったと言うところだろう。
 ところが、シシルは意を決したように、トーマにこう告げる。
「いえ、できればお相手いただきたいです」
 彼女、着飾ってはいるが、生業は薬草を扱うウィザードである。こう言った場所のダンスはおろか、民族舞踊さえ踊れないはずだが。
「‥‥大丈夫?」
「ずっと張り付いているわけにもいかないもの」
 心配そうに尋ねるシオンに、彼女はそう言って見せる。まったく踊らないのは、かえって目立つからと考えているようだ。
「それに、トーマ様って確かそう言う趣味の方よね。張り付いてたら、きっとステキな光景がっ」
 いや、半分は己の煩悩に違いない。多少語弊はあるが、王妃を守る為、トーマに張り付くのも策だなと思ったシオン、彼にこう申し出る。
「私もお相手くらいはいたしますわ。ですが私は、騎士として王妃様の祝いに駆けつけたまで。踊れないわけではないんですが、その辺りを少し考慮して欲しいのです」
 このままの格好ならば、彼の相手をしながらでも、充分に王妃の側に貼り付ける。そう判断する彼女。
「なるほど。では、貴殿の相手は私が。そちらのお嬢様には、こちらを相手にしていただこうか」
「お願いしますわ」
 トーマが受けてたとうと言わんばかりの台詞で、それぞれの相手を指定する。シシルには声をかけた若い貴族が。そしてシオンには、トーマ自身が。
「出来れば、王妃様を楽しませたいのです。近くで踊りたいのですけど、構いませんか?」
 口実だけなら作れる。そう思い、王妃から付かず離れずの位置を保とうとするシオン。気取られぬよう、トーマに持ちかける。
「‥‥‥‥留まっていられるかな」
「やってみせますわ」
 重ねた手に力が入る。だが、その肌はひんやりと冷たい。踊っている間も、ずっと生きている人間の感覚がしなかった。
「何をきょろきょろしているのです?」
「こ、こう言った場所は慣れていなくてっ」
 一方のシシルはと言うと、礼儀作法もへったくれもない様子で、すっかりあわててしまっている。何とかして、王妃の方を見ていようとするのだが、演技力のないせいか、きょろきょろと落ち着きがない。
「うーん。あれでは不審人物がバレバレだねぇ」
「まぁ、今回の面々は、全員演技皆無だから、仕方がないかと‥‥」
 おかげで、ホールを回っていたエルヴィラと一花に、そう言われてしまうくらいだ。そしてそれは、シオンも感じ取っていたらしく、こう思っていた。
(「上手い事誘導されてしまっているわね‥‥」)
 先ほどから感じる違和感。それを何とかしてエルヴィラ達に伝えたいのだが、いくら彼女が『それとなく』王妃に近づこうとしても、すべて先回りされてしまう。
(「明らかに怪しいんだけど‥‥。さて、どうやって伝えようかしら」)
 このままでは、王妃からある程度の位置をキープしようとしても、反対側に歩かされてしまう。黙り込んだシオンに、トーマはにやりとこう言い放つ。
「どうした? 私のリードではつまらないか?」
「いや。そうではないですわ、ただ、やはり慣れていない事をするものではない‥‥とね」
 そう応えて誤魔化すシオン。おそらく、表情からしてバレてしまっているだろう。と、その時だった。
「王妃様、キエフから火の手が‥‥!」
 場内に悲鳴が上がった。見れば、開けられた窓から、反乱の火の手が上がっている。それを見て、慌てふためく来賓達の中、トーマが言ったのは。
「‥‥ラスプーチンの奴め‥‥。早まったな‥‥」
 至近距離のシオン、はっきりとそう聞いた。やはり、こいつは何かある。そう感じ取った彼女、わざとこう囁く。
「あら、何か計画ミスかしら?」
「‥‥ちっ」
 トーマがシオンを突き飛ばす。その瞬間、彼女はするりと彼から離れ、王妃の下へと駆け寄っていた。
「申し訳ないのですが、ダンスはここまでで」
 一方のシシル、警戒モードに移行したのか、貴族の手を振り切って、同じように動いた。
「離れた! こっちも動きましょう!」
 それを見たルーティも、アランと共に王妃へと駆け寄る。
「さて、どこから来るのかな‥‥」
 アランが、そう言って、周囲を見回した時である。ざわめく来賓の間で、一花の悲鳴が上がった。見れば、ナイフを持っているのは、来賓ではなく、一花と同じ礼服を来た給仕の面々だ。
「しまった。来賓ではなく、お給仕の方が!」
 組んでいたエリヴィラが、ナイフで応戦する。ナイフをトレイで受け止めている一花の反対側から、スマッシュを振り下ろした。
「大丈夫? 一花」
「え、ええ」
 こくんと頷いて、彼女は自分の武器となるクリスタルソードを召喚する。
「考えてみれば、道理の通る話ですよね‥‥」
 一方で、ルーティは混乱する会場の中を、王妃へと進みながら、そう言った。アランが「どういう事だ?」と尋ね返すと、彼女はこう続ける。
「‥‥演技力のない極秘警備がうろうろしてるんですもの。わざわざ来賓に混ぜ込むより、武器の隠し持てる係員に混ぜた方が、警戒されませんわ」
 なるほど、と頷くアラン。来賓なら、『部外者』として警戒もされるが、『給仕係』なら『王宮勤め』と思われる。
「それもそうだな。だが、警戒されているとわかっていて、何故‥‥」
 その辺りが引っかかるアラン。普通なら、襲撃を中止しそうなものであるが。
「投げてきたぞっ!」
 王妃の周りを固められたと思った敵は、遠距離からナイフを投げてきた。
「させないよっ!」
 その刹那、目の前のテーブルをひっくり返し、盾代わりにするエリヴィラ。木のそれに、すかかんっと突き刺さるナイフ。
「今のうちに‥‥アグラベイション」
 ここまで混乱した以上、あまり意味はないかもしれないが、それでもルーティは、テーブルに隠れて魔法を唱えた。これで、相手の動きが鈍くなる筈である。
「こっちが持っていないと思うなよ!」
 接近戦を挑んでくる相手は、アランがリュートベイルで受け止めている。その彼曰く。
「護衛の相方も護衛対象も依頼の面子も、全員文句なしの美女とはな。ラッキーだ」
 鼻の下が絶妙に延びていた。
「そんな事言ってると、これ渡さないわよ!」
「気にするなよ!」
 シオンにたしなめられ、逆に挨拶代わりと言った風情のアラン。そんな彼に、シオンは相手の武器を叩き落とすと、アランの顔すれすれの位置に投げてよこす。
「あぶねぇなぁ」
「だったら口には気をつける事ね」
 それを引き抜き、装備するアランに、彼女はそう忠告してくる。
「こんな事になるとはね。けど、ここで王妃を守るのが、騎士の努めってものでしょ」
 まるで偶然居合わせたふりをするシオン。その背中で、シシルはちょっと不満そうに言う。
「攻撃魔法は使えない‥‥。えぇい、頭を冷やしなさい!」
 唱えたのはクリエイトウォーター。ばしゃぁぁんと風呂桶をひっくり返したような水が、敵の頭上に降り注ぐ。
「あら、結構ステキ」
 腐った女子の彼女、水も滴る礼服姿に、ちょっとときめいていたり。
「王妃様、こちらに!」
 その間に、シオンが王妃を別室に連れて行こうとしていた。急に引っ張られたお琴が悲鳴を上げているが、後で詫びを入れておけば良いだろう。
 と、王妃は。
「‥‥トーマは‥‥」
 その口から、姿の見えない衛視の名が漏れる。
「そう言えば!」
 はっと振り返るシオン。気付けば、彼の姿が側にない。
「警備はどうなっているの!?」
 オマケに、本来集まるはずの護衛さえ、姿を消していた。一花曰く「反乱を抑えるのに手間取っているのかも!」と言う事だが、それにしては、来るのが遅すぎる。
「ここは、私達でどうにかするしかなさそうね」
 そう思うシオン。と、そんな彼女の前にすいっと突きつけられる剣。
「そうは行かない‥‥」
 トーマだった。
「貴方がいては、邪魔なのですよ‥‥」
 いや、その刃は、まっすぐ王妃に向けられている。瞳は澱み、声に生気がない。その卓越した対人鑑識能力で、明らかに、何かがおかしいと感じ取ったシオン、王妃に確かめる。
「王妃様、失礼ですが、あのトーマ様は、本物ですか?」
「‥‥はい」
 頷く彼女。表情こそ出ていないが、唇がわずかに震えている。
「‥‥どうやら、操られてるか、反逆かのどちらかね」
 できれば、前者であって欲しいと願うシオン。
「覚悟、するがいい」
 刃が振り下ろされる。
「いけない!」
 はっと気付いたシシルが、高速詠唱のアイスコフィンでその動きを止めようとする。だが。
「‥‥させぬ」
 ひゅっと風を切る音がして、彼女の足元が救われた。体術を心得ていないウィザードのシシル、不安定なドレスを着ていたせいもあって、尻餅を付いてしまう。
「何っ!」
 詠唱の途切れた瞬間、その黒き風は、トーマの姿を隠したように見えた。
「逃げたか‥‥」
 いや、窓に駆け寄ったアランは、腕を伸ばしたままのトーマが、何者かに抱え込まれているのを、目撃する。
「奴は後回しにしようよ。今は深追い禁止。何があるか分からないし!」
 エルヴィラがそう言って、まだ残っている敵にスマッシュをお見舞いする。そこへ、ようやく他の警備が駆けつけてきたのだった。

 そして。
「そうか。やはり、トーマ殿がな‥‥」
 報告を聞いた議長、残念そうに言う。騒動の後、トーマは姿を消した。まだ、本当に裏切ったのか、ただ操られているだけなのか、わからなかったが、いなくなった事は事実だ。
「追撃はしませんでした。王妃様を守る方が優先でしたから」
 報告しているのはエルヴィラだ。彼女もまた、少し残念そうである。
「いや、構わない。トーマ殿の事は、後日どうにかしよう。ご苦労だった」
 こうして、パーティの護衛は、王室から正式に礼状が届く事件となった。だが、議長は、このままでは終わらないなと考えているようである。