あの子を探して

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月10日〜02月15日

リプレイ公開日:2008年02月17日

●オープニング

 ロシア王国王妃‥‥エリザベータが住む王宮には、様々な用件をこなす侍女達がいる。今回、呼び出されたのは、雑用係兼お外回り担当のジャパン人侍女、お琴だった。
「あ、あのっ。わざわざご指名とは、私何かやらかしましたでしょうかっ」
 名指しで呼ばれ、緊張した表情で直立不動のお琴ちゃん。が、王妃様はゆるりと首を横に振った。
「あの子を‥‥、トーマを探して‥‥」
 心配そうな王妃の手元には、小さな肖像画が収まっている。そこには、少女の王妃と、子供のトーマ。そして他にも似たような顔の子供がいる。おそらく、親戚同士の集まりか何かの折に、描いたものだろう。
「あのぉう。トーマ様は、ラスプーチン様の配下だったんですよね?」
「そんな子じゃない‥‥」
 困惑したお琴が、確かめるように尋ねると、王妃は小さく言って首を横に振った。どうやら、彼女はトーマがただ騙されていただけ‥‥と主張しているようだ。
「うーん、どうしましょう。行き先がわからないんですけど‥‥」
「お願い。きっと、泣いてるから‥‥」
 王妃にとっては、弟みたいな存在なのだろう。トーマが、夫である国王に思いを寄せていた事は知っているが、それもどうやら兄に対する憧れが捻じ曲げられてしまったものだと、解釈しているようだ。
「わかりました。きっと何とかします。だから王妃様、泣かないでくださいな」
 手段なんぞ思い付いていなかったが、お琴はそう言った。きっと、何とかなる。王妃が、こんなに心配しているのだから。
「広域情報だと、ギルドより議長さんの方がよろしいですわね。きっと」
 彼女は、退室したその足で、織物業者のギルバート・ヨシュア宅へ向かうのだった。

 さて、その頃。
「ああもうっ。半年もほったらかしてたら、すっかり置いてきぼりじゃなーい」
 オーストラリアでのギルド設立関係上、ロシアのギルドで依頼方式について尋ねに来たミス・パープルことレディさん。
「うーん、これみると、ロシア国内でも、情報バラけてるみたいね‥‥。やっぱり、実際調べて見なきゃ行けないかしら‥‥」
 頭を抱える彼女。一介の教師である身分では、たかが知れている。しばし考えた彼女は、知り合いでもあるギルバード家へ向かう事にした。織物業者である彼ならば、それなりに広域情報にも長けていそうだ‥‥と言うわけである。

 で。
「私とて、万能の身分ではないんだが‥‥。レオン、何か問題は起きているか?」
 女性二人から尋ねられて、少々困った表情の議長ことギル。彼は、秘書として勤めている少年に、ここ数ヶ月の事を言うよう告げた。
「そうですね。辺境のほうでは‥‥何やら村長が交代しているとか言う話を聞きますが‥‥」
 ロシア近辺は、ギルが見回りに出られる為、問題があればすぐに報告が来るようになっている。しかし、辺境や開拓されたばかりの村では、そう言うわけにも行かないようだ。
「ああ。今度一度、訪ねていかなければならないと言っていた村だな。あの男が目撃されているのは、そのあたりか‥‥」
「針子の話では、昼間、他の者が仕事している間に出かけて行ったとか‥‥。ちょうど、納入されている糸の量が減ったのと同時期です」
 そう話すレオン。今は真冬な為、それほど問題にはしていなかったらしい。お琴やレディに言われ、ようやく気付いたと言った感じだ。
「私の方では、ラスプーチン様は北に向かったらしいと言うお話を聞きましたわ」
 一応、お琴もセンパイ侍女に色々聞いてきたらしい。それによると、鉱山のある北で、見覚えのある顔を見た御仁がいるそうだ。
「この寒いのに、悪役は元気ねぇ。そう言えば、アルヴィンも蛮族の数が増えて、ハーブが取りにくくなったって、手紙で嘆いてたわね」
 レディさんも、いない間に届いた手紙を見返してそう言った。教え子の1人である少年は、イギリスでの経験を生かして、今は自然観察の勉強を兼ね、薬師の真似事をしているそうである。
「うーん。やはり、偵察部隊を送り込むべきでしょうか‥‥」
「そうだな。冬だからと言って、契約している村をほうっておくわけにも行くまい。ついでに、冒険者達から、各地の情報を持って来て貰えば良いだろう」
 話はまとまったようだ。

『北の開拓村で、村長が急に横暴になったり、ラスプーチンに良く似た方が目撃されているそうです。蛮族が横行して、冬の貴重な備蓄、収入源が奪われている情報もあります。王妃様も、親戚の方を探しているそうなので、一度、偵察に行って来て下さい。また、その折にここ半年で目立った動きを見せた諸侯の事も報告していただけるとありがたいです』

 文章が長いのは、ある意味仕方がないと言う事だろう。

●今回の参加者

 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6738 ヴィクトル・アルビレオ(38歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 一行は、貴婦人フローラ・タナー(ea1060)の護衛と言う形を取る事になった。本当は、知り合いの教師にも同行してもらいたかったらしいのだが、冒険者は自らの力で困難を切り開くモノと一喝され、すげなく断られたので、冒険者達だけだった。それでも、議長とギルドから、トーマの人となり、それに肖像画の写しを手に入れたので、何とかなりそうだった。
「トーマくんがらすぴ〜と一緒にいるなら、らすぴ〜と接触してそうなトコを訪ねてみるのが吉だよね。この場合、あそこかな?」
 旅人の身なりをしたパラーリア・ゲラー(eb2257)が、入り口からでも見える大きな家を見つけてそう言う。
「情報収集が最大の目的です。火の粉は払いますが、出来るなら危険は避けてくださいね」
「任せて、パラのマントと隠密行為は偉大なんだもんっ」
 準備を終えると、ちょうどフローラがそう言って村長宅へと入るところだ。その一方で、パラーリアがパラのマントと、軽業師としての身の軽さで、天井裏へと上がりこんで行く。
「話は伺っておりますが、お手紙では近いうちにご当主が見えられるとか‥‥。何故奥方様だけなのです?」
 応接間に通されたフローラだったが、いきなり敵意全開の台詞を吐かれてしまう。もっとも、この辺りは議長からアドバイスを受けていた通りなので、余り動揺していない。
「家庭事情と言うのは、様々だからな。所で、道中蛮族が出ると言う話だったんだが、どうなんだ?」
 自らも子を持つ親であるヴィクトル・アルビレオ(ea6738)、そう言って、話題を逸らしてしまう。
「出没するも何も、村はずれに駐屯地が作られてしまいまして」
 どうやら、村長の話では、近くに陣取って、にらみを利かせていると言った状況らしい。街の方へ向かう街道沿いとは反対らしいが、色々と用立てる物が近辺に生えているのは、アルヴィンからの手紙でも判明している。
「納品数が少ないのも、そのせいでしょうか?」
「え、ええ。手先の器用な女性に、針子をやってもらっているんですが、何しろ若い娘を外に出すのを渋る親が多くて‥‥ねぇ?」
 村長に言われ、お手伝いさんは、困惑したように首を縦に振った。その、不自然な振る舞いに、フローラはこう切り出す。
「工房の方を見せてください。それと、出勤簿などがあれば、見せていただきたいのですが」
 奥方の要求とあらば、開示しないわけに行くまい。そう思ったのか、真面目に様子を確かめようとするフローラを、案内しようとする村長。
「今の内に、実際の状況を」
 後ろに居た常葉一花(ea1123)に、フローラがそう指示する。言われた彼女が向かったのは、先ほどのお手伝いさん達の控え室だ。
「蛮族はともかく、そんな良い男がいたら、目立つよねぇ」
 彼女達の話では、もしトーマがいたら、こんな風に閉じこもっては居ないとの事。確かに、村長や年長者には、家から出るなとも言われているが、蛮族達に女性の姿が見られなかったので、代わりに浚われてしまうんじゃないかと、疑っているようだ。
「なるほど。トーマが飼われるには、充分な環境ですわね」
 吟遊詩人等から、話を聞く事も多い彼女、その女性の代わりにトーマを差し出す状況も、充分考えられると判断するのだった。

 その頃、他の面々は、開拓村のあちこちで、聞き込みを行っていた。
「最近あちこちで蛮族による被害の話しを聞くんだがこの村は大丈夫かい?」
「大丈夫もへったくれも、いつこっちに攻め込むかわからないのよねぇ」
 村に一軒くらいは、村人の憩いの場になっている場所があるものだ。商売として成立しているかは定かではないが、中に従業員らしき女性がいたので、マクシーム・ボスホロフ(eb7876)は話を聞く事にした。
「村長さんは、何も手を打たないの?」
「一応、表立ってこっちにちょっかいを出してるわけじゃないし、近づかなければ教われないから、近くに熊が住んだと思えって事らしいわ‥‥」
 村長の話を聞くと、ショートカットの女性はそう答えてくれた。
「遭遇するのは、村はずれか‥‥。キエフとは逆方向だが、確かに通らない道ではないな‥‥。中に、身なりの良い男がいるのを見た覚えはないか?」
「そうねぇ‥‥。確か、えらそうな金刺繍のコート来た奴は、混ざってたわね」
 集落は見た事が無いが、蛮族そのものは見た事があるそうだ。持ってきた肖像画の写しを見せるマクシームに、彼女は首を横に振る。
 一方、ヴィクトルもまた、村での情報収集を開始していた。
「村長が最近変わったと聞いたが、いつ頃からなんだ?」
 話に寄ると、一月くらい前だそうだ。どうやら、以前の村長とは、完全に別人らしい。中身が違うから、そう言う事もあるだろう‥‥と言った感じに捕らえていたようだ。
「ふむ。村長が誰か違う村の人間と会っているとか言う話は、聞かないのか」
「あったら、そいつらから話を聞いてる。あーでも、村の酒場に人は増えたなー」
 怪しい人間を探したかったのだが、どうやら村人はそうは思っていなかったらしい。もっとも、酒場に出入りしている従業員が、女性給仕だか歌姫さんだかを1人増やしたそうだ。
「そいつに、村長は何か言ってなかったのか?」
「いや、その村長の紹介だし。ああでも、村はずれのお偉いさんには、手を出さない方が無難だってさ。ちょうど、あんな感じに見えたんじゃないか?」
 話を聞いた相手が指し示したのは、子供の相手をしているイルコフスキー・ネフコス(eb8684)の姿だ。
「ねぇねぇ、こんなおじさんを見かけなかった?」
 そのイルコフ、大人達を避け、彼らから話を聞き出そうとしていた。子供達の方が、素直に物事を話してくれるかと思った故の行動だが、彼らもまた、森は出入り禁止区域になっているようだ。たった一つ違うのは、その場所に、大人達には内緒の、子供達用の要塞がある事。
 話を聞くと、子供かパラしか入れないような、小さな洞窟があるそうだ。普段は祠が建てられており、子供達はその空間で、時々冒険者ごっこをして、遊んでいるそうである。
「なるほど。禁止地域は、このあたり‥‥と」
 それを、地図に書き込むイルコフ。
「保守的な村長だなぁ。以前からそうだったのか?」
 その姿は、酒場にいたマクシームにも見て取れた。彼のような聖職者にも、余り係わり合いになろうとしないところを見ると、相当保守的になっているのだろう。開拓村では珍しいかもしれないナーと思った彼、そう尋ねて見る。
「今の村長に変わってからね。前の時は、むしろ積極的だったし‥‥。でなけりゃ、こんな所に村なんて作らないわ」
「なるほど。村長が変わってからの生活はどうだ? 何か困ったことが生じたりはしていないか?」
 女性給仕は首を横に振った。もし、困っていたら、ギルドに相談する‥‥と。納得した彼は、最後にこう尋ねた。
「前の村長はどうしたんだ?」
「居たら、交代なんてしてないわよ」
 存命中ならば、前の村長を尋ね、経緯を聞こうと思ったが、この当ては外れてしまったようだ。聞きたい事を聞いたマクシームは、女性に一杯奢り、仲間との待ち合わせ場所へと向かうのだった。

 その頃、工房へ案内されたフローラは。
「ここ一週間は稼動していませんね‥‥」
 静まり返った工房を見て、そんな事を話していた。村長の話では、その頃から蛮族がちらほら姿を見せた為、大事を取っているとの事。
「蛮族は移動しているわけではない。表向きは、従う姿勢を見せている‥‥か」
 やはり、議長の代理で来ている身分には、そう言った事は話せないのかもしれない。仲間が集めている情報と、照らし合わせる事が必要だと思ったフローラは、宿に戻ると言い残し、待ち合わせ場所へと向かった。
「なるほど、どうやら北の地には、何か秘密があるようですわね」
 待ち合わせ場所は村の外。一花も合流し、かき集めてきた情報を交換する。
「怪しいなぁ。でも、石の中の蝶は、反応してないから、悪魔つきとは違うみたい‥‥」
「こっちにもないから、違うだろうな」
 パラが持っていた『石の中の蝶』を観察するが、マクシームともども、その動きに変化はない。
 話を総合すると、村長が変わったのは、数ヶ月前。以前の村長は行方不明。村の女性が外へ出ないのは自衛策。空席にしておくわけにいかないので、新しい村長が来た。が、そこへ蛮族も現れて、何を思ったか、表立って動くの禁止。しかし、議長には従うフリ‥‥と行った所だろう。議長の話では、物資が村に送り込まれているのは、通常時とさほど遜色はないようだ。あとは、村長の趣味が変わったとかで、嗜好品が少しばかり増えているとの事。
「でも、トーマ殿以外にも、何人かいなくなっている方はいるみたいですわね」
 もっとも、その商人ギルドでも、今までと送付先がかなり違っていたりと言う事もあるようだ。
「いったい誰が居なくなってるの?」
「辺境連盟の方が何人か‥‥。どうやら彼らも、ラスプーチンに抱きこまれていたらしくて」
 ラスプーチンは、さすがに宰相と言うだけあって、かなりの貴族を抱きこんでいたようだ。中には、現在もなお行方不明になっているものもいる。
「トーマさんも、多分その類なんじゃないかなぁ。操られてたって方が、話の信憑性高いし‥‥」
 イルコフが、その貴族達もトーマも、ラスプーチンの手によって細工をされたんではないかと推測する。
「ともかく、出現ポイントもわかりましたし、行ってみましょう」
 その推論を確かめるべく、一花は蛮族達の駐留地へ向かう事を提案するのだった。

 村人の言っていた地は、数時間歩いた場所にあった。移動式の毛皮のテントと、ログハウス風の建物が数軒建っている。
「リヴィールマジックで、へんなのかかってるのは‥‥。わぁ、沢山ありそう」
 初級のスクロールを広げるパラーリア。だが、さすがに厳しい気候で野外生活を繰り広げようと言う人々なので、キエフや他の国の人々が知らない品も多いようだ。ところどころで青白く光り、魔法の品が供給されている事を物語る。
 と、そこへ。
「ん? あれは‥‥。村長さんですわね」
 駐留地の入り口にやってくる村長。なんだか慌てた風情で、中へ向かって行く。門番らしき蛮族に、二言三言言伝ると、やってきた他の蛮族を連れて、森の奥へ。
「追いかけてみましょう」
 方角は北だ。もしかしたら、何か悪しき計画でも立てているのかもしれない。そう思った一花、後を追う。だが、頭は回るが、隠密技能はそれほど高くない彼女、忍び足を立てていても、気配は隠しきれない。
「だれだ!」
 振り返る蛮族。
「行けない‥‥!」
 慌てて身を隠す彼女。と、その前を、蛮族は彼女たちとは違う方向へ走り出す。見れば、何処かで見た覚えのある後姿。
「ああもう、仕方ありませんわねぇ。足止め、お願いしますわ」
「もうやってますわ」
 村人かもしれない‥‥と思った一花がそう言うと、フローラが蛮族に向けて、コアギュレイトを唱えた所だ。その間に、一花はクリスタルソードの魔法を唱える。
「こっちに!」
 中衛が魔法を唱えている間、ヴィクトールが追われていた少年を庇うように、手招きする。直後、高速詠唱付きのブラックホーリーで、牽制弾を放った。
「あ、あれ? 一花さん」
 ぜぇはぁと駆け寄ってきたのは、依頼で何度か顔を合わせた事のあるハーフエルフの少年、アルヴィン。そこへ、再び蛮族の足音が聞こえてきた。
「弓使いばかりではないが、さてどうするかな」
 手に弓や槍等を持っている。しかし、どちらかと言うと、駐留地に侵入しようとした不届き者を確かめようとしている様子なので、やろうと思えばしとめられると判断するヴィクトル。
「無理はしないさ。情報収集に問題が出る。追い払う程度にしよう」
 しかし、マキシームはそう言って首を横に振った。このままやり過ごし、引き続き情報を集めようと提案する。
「えっと、ちょっと頑張っててね」
 直後、パラーリアがそう言って、マントを被る。そして、得意の身の軽さで、足音を立てないように歩き出した。
「どうやら、何か考えがあるみたいです。ひきつけてくれますか?」
「わかった。そう言うことなら、仕方が無いな」
 イルコフがホーリーを唱える間、ヴィクトルはホーリーフィールドの魔法を唱える。白い光が周囲の雪に跳ね返り、気付いた蛮族達がこちらへと向かってきた。
「舞い上がれ!」
 パラーリアがスクロールを広げて、ローリンググラビティの魔法を唱えた所だ。不意を突かれた蛮族達は9m上空へと舞い上がり、どさりと新雪の深く積もったあたりへと落ちていた。そこを、アイスコフィンで固めるパラーリア。それを、力のありそうなマキシームが、待機させていた馬に引きずらせる形で、少しはなれた場所へと移動する。
「これで怪我も安心ですわ」
 なーんて事を、もっともらしく言いながら、リカバーをかけるフローラ。全ては、パラーリアがチャームで魅了しやすくする為だ。
「ごめんね。痛かった? もう大丈夫だよ」
 パラーリアが、仕事でお客に振りまいているのと同じ笑顔で持って、そのお手手を取る。既に、チャームのスクロールは詠唱済だ。その魅了の力を持って、彼女はこう申し出る。
「お兄さん、村長さんとお友達なんでしょ? あのね、蛮族さんに聞きたい事があるの。お話してくれるかな☆」
 元々、育ちのよさそうな顔立ちをした彼女。チャームの魔法効果で、蛮族くんAは、ぺらぺらと知っている事をしゃべってくれた。
 それによると、理由は良く分からないが、リーダーがここに逗留する事を決め、村長と何らかの約束をしていたらしい。さらに、その数日前、リーダーがラスプーチンらしき御仁と会っていた事を教えてくれた。
「時系列をきちんと説明してくれませんか? トーマさんは、確かに居たんですね?」
 フローラがそう確かめると、蛮族くんAはそう答えた。ここに駐留した頃、ラスプーチンがリーダーと顔を合わせており、それと前後するように少年が駐留地に居た。そして、その数週間後、村長がリーダーと話している頃を境に、ある女性へ引き取られたと言う。ショートカットの、ちょっと冷たい感じの美人だったそうだ。
「まさか」
 心当たりのあるマキシーム。そう言えば、村の酒場で、似たような雰囲気の女がいたような。慌てて、村へと戻る彼。
「おい、ここに居た女はどうした!」
 主の話では、小金を稼ぎ終わったからと言って、引き止めるのも聞かず、西の方に行くと旅立ったそうだ。念の為確かめて見ると、確かに村へ来た頃、護衛と称してトーマらしき少年を連れていたとの事。
「やられた‥‥。そう言う事か‥‥」
 灯台下暗しとはこのことだな‥‥と、どこかで聞いたジャパンのことわざを思い出すマキシームだった。
 どうやら仕事は、まだまだ山積みのようである。