【軽温上着】トナカイ教団

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月12日〜03月17日

リプレイ公開日:2008年03月19日

●オープニング

 軽くて温かい上着。
 それについて、冒険者達に実験をしてもらった結果、やはりトナカイとウサギ、それと樹皮紙に使う木の皮を薬品につけて柔らかくし、カバーに使うと言う方向性が良さそうだと言う事になった。
 問題は、ウサギや樹皮はともかく、トナカイをとなると、計画が大規模になってしまうと言う事だ。そこで、既存の牧場に掛け合って、トナカイ分を増やすと言う事になった。
 そう言うわけで、議長が仲立ちとなり、織物ギルドに、原料を調達できそうな牧場を、紹介してもらっていたところ、その一つで。
「何びとたりとも、この地に入ってはならぁぁぁぁん!」
「トナカイ様は、神聖なものなのじゃああ!」
 村にある牧場の入り口で、頭に角をつけ、肌色の重そうな肉襦袢と布を纏ったちょっと太めらしき御仁が、そう叫んでいる。
「なんだアレ」
 議長からの手紙を見た村人が、トナカイの世話をするついでに、様子を見に来て、怪訝そうな顔をしている。なんでも、年末あたりから、牧場の外柵に当たる、野生のトナカイ出没エリアで勝手に見張りや、謎の踊りを踊っているそうな。
「妙な奴だなぁ‥‥。大丈夫なのか?」
「こっちから手を出さなければ平気だろう」
 いぶかしむ村人達だったが、もっそい怪しい以外は、別に村の財産を勝手に弄るわけでもなく、ひたすら怪しい祈りと踊りを捧げているので、触らぬ神にたたりナシを決めたようだ。
 ところが。
「って、あいつらトナカイの世話も自分達でやる気かっ!」
「冗談じゃないぞ。花子は今、野生のダーリンに恋煩い中で、気が立ってるんだっ」
 牧場の掃除をしようとした村人が、村長の所に文句をつけてきた。なんでも、トナカイの世話をしようとしたところ、角でつつかれ追い返されてしまったらしい。
「どうする。このままだと、花子が駆け落ちをしてしまうっ」
「なにぃ。そしたら、家の太郎の縁談はどうなるんだっ」
「いや、俺としては、このままワイルダーくんとくっつけても‥‥」
「毛並みがボロボロになるっ。そしたら、ヨシュアの旦那が買い取ってくれないぞっ」
「それは問題だ!」
 一応商売なので、勝手に世話をされては困ると言う事だろう。そんなわけで、村人はギルドに依頼の手紙を出す事になった。

『居座っているトナカイ教団を追い払ってください!』

 なお、教団に悪意は欠片もなさそうである。

●今回の参加者

 ec1621 ルザリア・レイバーン(33歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec3559 ローラ・アイバーン(34歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ec4450 ヒューゴー・ランバート(28歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

 依頼を受けた冒険者達が、牧場の入り口で見た者は、頭に角飾りをつけ、怪しげな歌を歌いながら、まるで悪魔の召喚儀式のよーに、ぐーるぐると回っていた。
「あれを追い払うのか‥‥。正直、やっかいだなー」
 その、淀んだ目つきを見て、頭を抱えるルザリア・レイバーン(ec1621)。本気で信じているのかどうかはわからないが、その姿を見る限り、まっとうに戻すのは、相当に面倒そうだ。
「やっかいなのは、村人の方だろ。妙な教団に住み着かれて、さぞ迷惑な事だろうさ」
 肩をすくめるヒューゴー・ランバート(ec4450)。だからこそ、ギルドに依頼が来たのだろうが、深いため息をついたルザリア、げんなりした表情のまま、足を踏み出す。
「説得して見るか。まず武力行使の前に、話し合いだ」
「通じる相手だと良いけどな。トナカイを傷つけず、なんとか出て行ってもらうことは出来ないだろうか」
 実力行使もやむをえないと思っているのは、彼女ばかりではなく、ヒューゴーものようだ。すぐ近くまで寄って来た二人に、教団の面々は目も暮れず、ひたすらトナカイ踊りを踊り倒している。
「無理じゃないか。あーゆーの飼ってると」
 その1人を指し示すヒューゴー。やけに立派な体格の御仁だった。肌色の肉襦袢を着ており、そこかしこから湯気が立っている姿は、やけに気合の入った変態ぶりだった。
「野生のトナカイは村の財産に非ず。よってこれらを信仰対象とする事に文句はないのであります」
 そんな彼らの姿観察していたローラ・アイバーン(ec3559)、まるで詩を読み上げるように、そういい切っている。
「そう言うもんかなー」
「御意。しかし、村が飼育しているトナカイはれっきとした村の財産。これを侵害する事は、犯罪行為。排除するのは正当。されど、依頼内容は対象を追い払う事。「捕縛し、役人へ引き渡せ」とない事は温情ある内容と考える次第」
 陽小明(ec3096)が首をかしげると、彼女はまるで王様にでも報告するような口調で、続けた。小難しい事を言っているが、要は『追っ払えばいいんじゃない?』と言う事だ。
「ともかく、村で情報収集だな。あいつら、こっちに来ないと良いんだけど」
「村長の家なら、かぎつけられる事もないだろう。ついでに、地理状況も分かるだろうしな」
 ともかく、特徴が分からなければ、対応の仕様もない。そう判断した冒険者達は、村長宅で情報を集めるのだった。

 その結果。教団連中は、時折村の食堂で、ご飯を食べている事が明らかになった。
「あれが教団の本拠地か‥‥」
 大勢で一番大きなテーブルを囲んでいる彼ら。その食事光景は、酒場にいる冒険者達となんら変わらない。少し離れたテーブルで、その様子を見守りつつ、そう呟くルザリアに、ヒューゴーは「そんな大げさなモンでもないと思うがな」とツッコんでいる。教団の食事は、しばらく終わりそうにないのを見て、ローラはつかつかと近づき、こう言った。
「お前たちは完全に包囲されている!」
「4人で何言ってるー!」
 思わずツッコむヒューゴー。だが、ローラはぶんぶんと首を横に振りながら、自慢げに胸をそらした。
「いや、警告と退去勧告といえば、これであろう」
 ぎんゆーしじんさんも、そんな話してたぞっ! と、その根拠を述べる彼女。だが、喧嘩を売られた状態にも関わらず、教団の面々は、応じる気配がさらさらない。
「さもあらん。やはり感情論に囚われているようでありますな。実力行使しますか」
 腕まくりするローラ。だが、それにはルザリアが首を横に振る。
「いや。それならばそれで、手段と言うものがある」
「ほう」
 話し合いで解決しようと言うのだ。が、目配せされたヒューゴーはと言うと、借りてきたらしい白い手袋を片手に、こう言い切っていた。
「トナカイ教団よ! 我々は貴様達を滅ぼそうと言うのではない。正々堂々、果し合いを申し込む!」
「いやそれも何か違う」
 思わず突っ込むルザリア。そこまで騒いで、ようやく教団は関心をもったのか、こちらへと向いた。そこでルザリア、貴族や商人に交渉するときと同じ様に、こう言い出す。
「ともかく、そちらの代表者に会いたいのだが、取り合ってくださるだろうか?」
「む。いいだろう。ちょっと待っていろ」
 ご飯を食べていた信者らしき御仁が、隣のテーブルに居た、一際デカい角飾りをつけた女性を呼び出している。ややあって、同じテーブルについたルザリアは、事情を話してみた。
「‥‥と言うわけなのだ。なんとかならないだろうか」
「とは言え、キエフは人数満杯で断られてしまったのでなぁ」
 彼女達としても、出来れば安全な場所で、トナカイ信仰を布教したかったのだが、昨今のキエフ住宅事情に追われ、ここまで来てしまったらしい。「我々は放浪のかあいそうな身の上なのだ!」とふんぞり返る彼女に、ローラがシャオミンを指し示して、こう言った。
「やはりそーなるかー。実は、夢枕に、花子殿が姿を見せてな。我らにトナカイの化身様を使わしたのだ」
 華国出身の彼女、ロシアの御仁から見たら、エキゾチックな神官殿に見えたらしい。実際は武道家なんだが、口数が少ないので、納得してもらえたようだ。
「な、なんとっ。道理で異国の香り漂うお方だとっ」
「一体何の話ですか‥‥」
 もっとも、本人は欠片もそんなつもりはないらしく、軽く頭を抱えている。
「し、しかし花子様は数時間前に、優雅に草を食んでおられ‥‥。ああっ、いないっ!」
 しかも、幸か不幸か、外の花子ちゃんは、もう一方の冒険者に連れられ、何だか籠に入れられていた。
「き、貴様ら! 花子様を一体どこにっ!」
「ここにおられます。さぁ、シャオミン様、お言葉を」
 そう言うローラ。花子の化身の言葉なら、高い確率で従うはず。
「‥‥私はそんな柄じゃないですよ」
「適当に、私は、教団の皆が傷つく事は本意ではないとか、オーラを出すとかしてくださいませ。後はこちらで何とかする所存」
 困ったようにそう言うシャオミンに、ローラはこっそりとそう言った。そう言われても、オーラ魔法はまだ上手く使えない。仕方なく、シャオミンは依頼を受けた時から考えていた一言を、彼らに告げる。
「皆、あなた方の行為に村人は迷惑している。村人達の邪魔を止めなさい」
 別に、トナカイがどうこうという話ではない。出来れば、飼育の邪魔をやめて欲しかっただけだ。しかし、トナカイコートが功を奏してか、教団の面々は、ぼそぼそと顔を見合わせる。
「む、むうっ。ど、どうしようっ」
「花子様の言う事だしなぁ‥‥」
 このまま、ローラの思惑通り、無血解決も二次被害の発生も抑えられるかと思ったその時だった。
「た、大変ですっ。司祭様が、向こうで冒険者に捕まってます!」
 食堂内に駆け込んでくる信者その2。見れば、牧場の方で謎のトナカイ男が、村長ン家にひっくくられて行くところだった。
「な、なにぃ! まさかこいつらは‥‥ニセモノ!?」
「そ、そうに違いない!」
 とたんに敵意を向ける教団の方々。先ほどのリーダー格が、びしっと指先をシャオミンに突きつけ、こう問いただす。
「貴様ぁ! その毛皮をどこで手に入れた!」
「え、福袋だが‥‥」
 素直に出所を答えてしまい、教祖様、目の色を変える。
「何ぃ。では貴様は、あの悪徳商人エチゴヤの手先と言うわけだな。皆のもの、こやつらを成敗してしまえ!」
 たたき出せ! とばかりに、向かってくる信者達。その勢いに押され、冒険者は食堂からたたき出されてしまった。
「むう、バレてしまっては仕方ない。実力行使に及ぶのみ」
 そう言うローラ。手には、捕縛用としても使える縄ひょうがある。
「皆、出来れば蒼あざが出来る程度で頼む。刃物は使うな。懲らしめるだけだからなっ」
 ルザリアは、そもそも刃すら持っていない。代わりに、スヴァローグの篭手で、安全を確保していた。「心得たっ」と答えたヒューゴーの得物は、刃の付いていないメイスだ。
「おのれぇっ。こうなれば、司祭殿はまだか!」
 教祖様、そう言って援軍の到着を待つが、その頃の司祭は、教会に連行されて、いつ果てるとも分からないお説教の真っ最中だ。
「むううっ。万事休すかっ。いやっ、確か奴に貰った剣があったはずだ! もってこい!」
 教祖様、そう言って、何処かで見た事のある剣を、信者達に持ってこさせていた。そして、手にしたとたん、ピンクのオーラが立ち上る。その脱衣現象に、冒険者達はその剣がエロスカリバーだと気付いた。
「く‥‥。下手に突き飛ばせなくなったな‥‥」
 裸がどうのと言うわけではない。怪しい剣とは言え、刃はしっかり装着済みだ。そんな彼女に下手に体術をかけたら、弾みで怪我をしてしまうかもしれない。
「ふふふ。これで不逞の輩を追い払ってくれるわ!」
 対処をしかねているルザリアをよそに、教祖様はキレた笑いを浮かべながら、エロスカリバーを振り下ろす。ぶぅんっと空気が唸り、雪に大穴が開いた。
「これは‥‥。貴殿を甘く見ていた様だ。敬意を表し、本気で相手させて貰う」
 静かな闘志に火が付いたらしく、トナカイコートを脱ぎ捨てるシャオミン。身軽になった彼女は、迷わず地を蹴った。
「・・・参る!」
 トリッピングで持って、雪の上へと転がしたところへ、容赦なく蹴りを入れるシャオミン。
「おのれぇっ。卑怯なっ」
 退けようと振り回した剣からは、オフシフトで避け、代わりにカウンターをお見舞いしていた。
「俺、出番ねぇなー」
 その容赦ない攻撃に、ヒューゴーは、メイスを肩においたまま、のんびりと鑑賞‥‥いや、後方支援に徹している。
 ややあって。
「き、貴様。な、中々やるな‥‥」
 勝負は中々つかなかった。体中から湯気を立ち上らせる彼女に、シャオミンは、こう提案する。
「も、モノは相談だ。貴様ほどの実力があれば、新たな牧場の管理も出来よう。やってみないか」
 もちろん、教団流ではない、普通の世話だが。と、相手を睨みつけながらそう言ってきた彼女に、教祖殿も、これ以上争う気がないのか、頷いてくれる。
「良いだろう。騎士殿もそれならば、立派な貴公子になってくださる筈だしな」
「おお、素晴らしい。拳が奇跡を呼び、無血解決を産んだようだ‥‥!」
 感動したように、目を輝かせるローラ。
「これで、ワイルダーくんに恋路を邪魔するなと謗られる事もない‥‥。無粋な真似をする事もないしな」
 余力があれば、実力排除してもよかったのだが、どうやら馬ならぬトナカイに蹴られる事はなさそうだ。
「されど、生物とは例外無く他を糧に生きるが故に。まして人は同族すら…。生きるとは業の深い事でありますな」
 感慨深げに、そう言うローラ。こうして、トナカイ教団は冒険者達が新たに作った牧場の管理人として、居場所を確保する事になったのだった。
 めでたしめでたし。