賢者様に会わせて!

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月17日〜09月22日

リプレイ公開日:2008年10月03日

●オープニング

 その日、ロシアで家庭教師を務めているパープル女史は、担当者から相談を持ちかけられ、冒険者ギルドへと赴いていた。
「ふーん、セージねぇ。でも、私の知っているセージは、月道の向こう側なんだけど‥‥」
 とある東洋系の冒険者から、同行者を募られたと言ういきさつを聞かされ、首をかしげるパープル女史。さすがに、王宮管理の月道を利用してまで‥‥となると、ギルドの範疇を超えてしまう。
「いえ、当人からフランク出身のセージが、ケーニッヒブルグにいる筈って言う申請は受けているんですよ」
 しかし、冒険者ギルドの人は、そう言って申し込まれたある書類を見せてくれた。それには、ケーニッヒベルクと言う、フランク王国に近い国境近くの町で、フランクから来たセージが、街の運営を手助けしていると書いてある。
「ああ、そう言えばいたわね。そんな子」
 名前は忘れたけど‥‥と、同じ文章が頭の中に呼び起こされる。本人には覚えた記憶が無いのに、勝手に。
「ただ、セージの皆様は、ご職業柄、特性が特性ですから‥‥。ケーニッヒブルグのどこにいるかわからなくて」
「それを探るのも、セージ的には修行だしね。記録とか、出してないの?」
 ケーニッヒブルグまでは、高速船で行けば、一週間程度だろう。だが、街で運営を手助けしているとは言え、男女もわからなければ、名前もわからない。たどり着き、それを探すのも、相手にとっては試練の一環。セージとは、そんな試練を幾たびも重ねて、ようやくたどり着けるものなのだ。
「王宮の図書館に行けば、何かわかるかもしれませんが、何しろ量が多いですし、そこまで手間もかけられませんよ」
 キエフの王宮には、公文書の他、様々な蔵書を収める書庫がある。しかし、その中から、ケーニッヒのセージに関するものだけを抜き出すのは、骨が折れそうだった。
「ギルドに問い合わせてみるしかなさそうね」
「手紙、出してみます」
 残るは、セージにかかわりありそうなギルドに、問い合わせてみる事である。

 数日後。
「あー、すみません。向こうから、こんな書状が届きました」
 相手から冒険者ギルドに手紙が届いた。それには、詩篇や謎かけを記した羊皮紙が添付されている。
「これ、向こうの住処にたどり着くヒントみたいなものねぇ」
 それには、課題として謎賭けをしたアイテムを持ってくるように記されていた。そして、ケーニッヒの街中ではなく、暗号で記された道のりをたどって、自宅まで来いと言うものだ。
「存外と、優しい方のようですな」
「そうかしら。ゴールは教えるけど、道は自分でって所よ。これ」
 ギルドの職員に、そう答える女史。読んでは見たが、果たして冒険者達に解けるか、微妙な暗号だった。おまけに、出没するであろう障害は、まるで記されていない。
「でもこれで、大体の場所は大丈夫ですかね?」
「そうね。後は現地に行って、確かめるしかないわね」
 きっと、その辺りの事も、試練の1つなのだろうと言うことで、ギルドの職員は、壁に【同行者募集】の張り紙を示すのだった。

 ところが。
「あれ? そういえば、ケーニッヒへの定期便に、蛮族が出るって言う話が‥‥」
 その募集を見た冒険者達から、妙な噂が流れてきた。なんでも、金目のものを奪う他、征服した証と言わんばかりに、下着だけを奪っていくらしい。
「俺はアンデッドだって聞いたぞ」
 その多くは、愉快犯的な立ち位置だったが、一部にアンデッドを従えている蛮族がいるところを見ると、二種類いるようだ。
「どうやら、課題集めも一筋縄ではいかないみたいね‥‥」
 既に秋の気配が聞こえてくるキエフで、早めの冬支度といった所だろう。そう思ったパープル先生は、同行者の難易度を、一段階上げるのだった。

●今回の参加者

 ea6855 エスト・エストリア(21歳・♀・志士・エルフ・ノルマン王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7693 フォン・イエツェラー(20歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb8588 ヴィクトリア・トルスタヤ(25歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ec4179 ルースアン・テイルストン(25歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785

●リプレイ本文

 ケーニッヒブルグに限らず、セージはあちこちの町に必ず1人はいると言う話である。それはイギリスもロシアも関係なく、今回応じてくれたのは、そんな彼らがギルドを通じて話を聞いたかららしかった。
 で、そのギルドの所在を尋ねる前に、町の道具屋に地図が設置されているのを見つけた楠木麻(ea8087)は、ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)にそれを写し取ってもらうと、皆の前で広げて見せた。
「これでよし。後は、道を探すだけね」
 皆の考え毎に、バーニングマップで調べていこうと言う計画だそうである。そのため、一行は通行人の邪魔にならないようにと、道の隅っこでもって、課題文の解読に挑んでいた。
「まずは、カナリヤと子猫の十字路‥‥か」
 枕詞になっているそれを繰り返すエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)。道程の方は、分かる部分から、ある程度地図とも照らし合わせてあたりをつけると不明な部分も見えてくるかもしれない。と思ったのだが、中々に難しそうだ。
「難しいです。住民の方に小鳥と子猫の像がある所をお訊ねしましょうか」
 色々な意見が飛び交う中、わかんない事は地元民に聞け! と言わんばかりに、ルースアン・テイルストン(ec4179)は通行人Aにそんな像があるかどうかを尋ねた。
「なるほど、看板ですか」
 ルースに親切な通行人Aさんが教えてくれたのは、入り口に目立つ看板を示した2軒のお店だった。確かに十字路に面しており、片方の食堂兼酒場は猫を屋号にしている。
「確かに、酒場の女性を子猫ちゃんって言いますものね。カナリヤは歌うから吟遊詩人かな」
 エスト・エストリア(ea6855)、そう確信する。もう一軒は、その酒場に吟遊詩人や歌い手さんや踊り子を紹介する場所のようだ。
「ひょっとして、この先に川があったりしません?」
 ルースがそう尋ねると、その通行人さんは、川の他、小さな湖があることも教えてくれた。
「バーニングマップでも確かめて見たけど、この先の川を上るのが正解みたい」
 そのデータを元に、麻が魔法で確かめる。と、その灰もやはり川と湖を示していた。
「やはり、上流を進めと言うことでしょうか」
 ヴィクトリアがその灰の地図をメモりながら、そう答えている。
「だろうな。湖もこの上流にあるみたいだし」
 エルンストも川と判断したようだ。同行しているフォン・イエツェラー(eb7693)も「魚の小路って言ったら、川しか思いつかないですよ」 と言っていた為、その川を遡ってみることにした。
 近くの村の水源にもなっているようで、人は多い。水車小屋なんかもある中、一行が子猫とカナリヤの十字路に即して、歩いていると。
「あ、見えた」
 程なくして、湖のほとりにぶつかった。川そのものはその対岸に広がる森へと注がれており、周囲は緩やかな起伏になっている。
「なるほど、期日が短かったのは、こう言う事でしたか‥‥」
 ヴィクトリアがメモを片手にそう言った。キエフからケーニッヒへ続く日程に照らし合わせると、微妙に日数が合わない。それは、課題それぞれの道のりがものすごく短縮されているかららしかった。
「綺麗‥‥」
 麻がその森を見てそう呟く。ロシアには針葉樹が多いのだが、この地には、なぜか紅葉した木々がいくつか生えていた。
「向こうにも山があります。アレを越えて行けと言うことでしょうね」
 ルースが森の先を示す。上り坂になった先には、断層が見え隠れしており、丘になっているようだった。
「残念! 屋根じゃなかったか」
「ええ。どうやらあの二色を一回目と考えるのが正解みたいですね」
 エストは屋根の色だと思っていたらしい。フォンは、その紅葉が赤とオレンジなのを指摘する。
「川はあの変色した部分に続いているから、おそらくあそこから三日なのだろうな」
 エルンストが課題文を思い出したのか、そう指し示す。確かに川岸には、運搬用なのか、道が続いていた。
「あっ、でもまだ課題の品、見つけてない!」
「水に関わるものだから、ここから探せとと言うことだろう」
 麻がそう言うと、エルンストは湖を示す。確かに大きな湖は『海』と称されていたことを思い出した彼女、なるほど‥‥と、こう言った。
「よぉし、探すのに結構時間かかりそうだし、早く済ませよう」
 こうして、一行はその課題を探しながら、森の奥へ向かう事になったのだった。

 とりあえず、湖を海と認識して、そこから集めることにした。
「海の方はこんなものかなぁ‥‥」
 麻、ニジマスのウロコかなんかを集めてきて首を捻っている。が、それにはエルンストがツッコミを入れた。
「この場合、貝殻の方が妥当だろうな」
 貝殻の内側が、虹色に光っている場合もある。麻の持っていた本にも、そう言う貝殻がある事は記されていたが、それはもう少し南の方じゃないと取れないとあったので、リストからはずしていたそうだ。
「気になるのでしたら、こうすればよろしいのでは?」
 ヴィクトリアがそう言って、拾ってきた貝にウロコを山盛りにする。
「あとは‥‥。これを使って‥‥と」
 で、その周囲を、別の貝から虹色に光る部分をマイスターグレーバーを使って、丁寧に切り取っている。
「次は森‥‥。妖精のいたずらな花飾り‥‥」
 川沿いの森を歩きながら、ぶつぶつと課題文を思い起こす麻。そこへ、ヴィクトリアが『各自予定表』と書かれたメモを取り出しながら、首をかしげる。
「お花屋さんで、聞いてきたんではなかったでしたっけ?」
「ああ、そう言えばそうだった!」
 ぽんっと手を叩く麻。まだ町に居る時、彼女にメモって貰いながら、情報収集をしていたわけだが。
「ってわけなんだけど‥‥」
 事情を説明したが、花屋のお姉さんにはわかんないようだ。件の場所には、珍しい草花があるが、花屋で取り扱うより、レンジャーの領域らしかった。確かにくしゃみを引き起こすようなものはあるし、ハーブティにするようなものもあるのだが。
「ふむ。菌環あたりだとすると、キノコだろうか」
 メモを手に、そう考えこむエルンスト。とりあえず、一番最近発見された妖精の輪に向かおうと言う事になった。
「妖精の悪戯といえば、取替え子だと思うのですが‥‥」
「この国だと、それは悪戯と言うよりは祝福になってしまうだろう」
 エストの案にそう言うエルンスト。他の国では忌み嫌われる生まれのハーフエルフ。だが、ロシアではハーフエルフは優良人種だ。他では災いの象徴かもしれないが、ここでは神様の贈り物になりかねない。「それもそうですね」と納得したエスト、再びお花の線に戻る。
「これにそれらしいのは乗ってるけど‥‥」
「候補、いくつもありますね。ではこうしてみるといかがでしょう」
 博物誌と首っ引きで確かめている麻に、ルースはその一輪を麻の髪に挿し飾る。
「それじゃあ花飾りっぽくないですよ。こっちの蔦植物を絡めて見ればいかがでしょう」
 と、エストがそう言って、周囲にあった蔦を指し示した。白い花のついたそれは、加工だけならしやすそうだ。それに、他の植物に寄生して花を咲かせる姿なら、いたずらに相応しいのではないかと。
「これに、この辺りの花を仕込んでおけば良いんじゃないかな」
 そう言って、色々な花を持ち込んでくるルース。こうして花冠を作った二人は、それを麻の頭にかぶせ、いたずらな花飾りと命名するのだった。

 ところが、世の中はそううまい事だけではない様だ。
「‥‥噂の蛮族でしょうか、アレ」
 ペットの隼であるシェアラが、警戒するように彼女の元へと舞い降りる。その直後、森の木々の間に、人の影。敵意を隠していない所を見ると、この周囲で商人を襲っていると言う集団だろう。
「人数は13人‥‥。まぁぎりぎりか‥‥」
 ブレスセンサーを使って確かめると、ほぼ一行の倍の人数だ。パーストを使うと、自分達が花探しに躍起になっている間に、準備完了してしまった事がうかがえる。
 と、その直後だった。
「うわはははは!」
 森の中から、髪を振り乱した大男が登場している。盛大な音量もさることながら、一行を唖然とさせたのは、その装束だった。
「何だ‥‥アレ」
 皮のズボンと、素肌の上に毛皮の外套。それだけでも充分インパクト絶大なんだが、もっと嫌んなのは、頭に鬼模様の金襴な褌を被っていたことだ。
「我が名は褌王! 命が惜しくば‥‥」
 げんなりしていた麻を、びびっていると判断したのか、褌王様、巨大な音量で一喝‥‥しようとした。
「ローリンググラビティー!」
 いきなりエストが魔法を使う。跳ね上げられて悲鳴を上げる褌王。
「うちの王様は、あのくらいじゃびくともしない! きっとよみがえって来る!」
 浮き足立ったのは、他の面々だ。その台詞に、エルンストは『石の中の蝶』を確かめる。
「変化はないな。アンデッドの類か‥‥」
 警戒する彼の表情が厳しくなった。自分達の会話が、あらぬ疑いをかけられている事を知った盗賊達は、腰を手に当てて踏ん反り返る。
「違う。王様はとっても頑丈で丈夫なだけなんだ!」
「ふむ‥‥確かにそのようだ」
 もう一度ブレスセンサーをかけてみると、褌王、無事だ。
「王様が戻ってくるまでに、あの魔術師達をひん剥け。それーーー!」
 いっせいに向かってくる盗賊。
「ゴーレムさん、あいつらを倒して!」
「忍犬さん、お願いします」
 麻とルースが、それぞれのペットをけしかけた。本人はストーンウォールで足止めし、その間にペット達がそれぞれの手段で襲い掛かる。
「僕の出番がー」
「そう言うな。今回前衛は、あの2人とお前だけだからな。仕方あるまい」
 出遅れてしまったフォン、げんなりした表情だ。が、エルンストに言われた通り、そこに褌王が復活してくる。
「うぉぉぉ。私の可愛い部下達に何をするかぁぁ! こんなところで褌を諦めてはいかぁん!」
「懲りない人ですねぇ。ちょっと反省してもらいましょう」
 フォン、そう言って、褌王に勝負を挑んでいる。その足元に、エストがコアギュレイトをしかけ、馬の動きを止めていた。ルースが魔法で視界をふさぐ。褌王、フォンにドツかれ、哀れ秋の小川にまっしぐら。
「恐ろしい敵だった‥‥」
「全くです」
 ロープで縛られ、ぞろぞろと町のほうへ歩いていくご一行様を見送りながら、エストと麻はその疲労感を癒すのだった。

 残るは二つである。鉱物か何かと思う麻とエルンストだったが、それらしきものは本にはない。と、そこへフォンがこんな事を言い出した。
「雪かもしれません」
「そうですね。ジャパンでは「六花」と呼ばれる事もありますし〜」
 エストがそう例えを引き出した。しかし、この辺りでは、山頂に雪を抱くほど高い山は見当たらない。なおも周囲を捜索すると、森の中に隠れるようにして、洞窟が見えた。
「寒い。これ付け替えましょう」
 そう言ってアデプトリングと炎の指輪をつけかえるヴィクトリア。洞窟は下り坂になって地中へと延びているが、そのひんやりした空気は、天然の氷室になっているようだった。
「ここ、山頂近いですし、これじゃないでしょうか」
 ルースが、その奥にある氷を見てそう言った。ちょうど、一塊分置いてある。
「容器に入れるのはともかく、断熱しなければな」
 けっこうな大きさがあるが、このまま運べば、賢者の家に着く前に、溶けてしまうかもしれない。
「雪だまさん、お願いね」
 もっとも、そこは冒険者、麻のペットの雪だるま、ヴィクトリアのアイスコフィンで、どうにか運び出す。それを持って、最後の課題へと挑む麻。
「空色は水?」
 と、ルース。空色が川となると、切り取る岩戸は水門あたりだろうかと予想する。
「確かに、川で水ならそれ関係かもしれませんね」
 あまり余計な事を言うと、周囲が混乱しそうなので、それに同意だけして黙るフォン。
「橋や水門、窓、四方を壁に囲まれて天井のない空間等を連想しますね。はっ」
 意見をメモに取っていたヴィクトリアが、並ぶ単語と周囲を見比べて、はたと気付く。
「この両側、まるで扉みたい‥‥」
 そう言って、彼女は川の両岸を示した。森から続くその川は、大きな岩の間をすり抜けている。それはまるで両開きの扉だった。しかも、道はその辺りで途切れている。
「なるほど、くぐらずにということは、脇から通るか、空から行くかだろうか」
 上を見上げるエルンスト。同じ様に見上げた麻、視線の先に赤い屋根を見つけた。どうやら、何とかしてそこを上って屋根までたどり着けと言うことだろう。
「た、大変ですよ?」
「何とかするしかあるまい。道具はあるようだしな」
 見れば、川の水をくみ上げる為のロープや桶、生活用具がある。と言う事は、それらと手持ち用具を駆使しなさいと言うことだろう。
「あー、死ぬかと思った」
 何とか上に上がった麻、ほっと胸をなでおろす。顔を上げたそこには、赤い屋根の家と、そこから町のほうへと道が伸びており、家の入り口には町で聞いた賢者の名前が書いてあった。
「よし、頑張ったんだし。弟子にしてもらうぞっ!」
 どうやら間違いなさそうだ。そう判断した麻は、さっきまで大騒ぎしていたのをすっ飛ばしたかのように明るく笑って、扉を開く。
「あら、意外と早かったですね。いらっしゃい」
「賢者様! 私を弟子にしてください!」
 開口一番、その賢者様に頼み込む麻。
「その前に。言ったものは持ってきましたか?」
「は、はい。これでよろしいでしょうか?」
 ぴしゃりとそう言う教師っぽい賢者様に、麻は皆でかき集めていた課題の品を、テーブルの上に載せる。しばし、検分していたセージは、ややああって、指で○を作った。
「‥‥そうね。まぁいいでしょう。合格」
「「「わぁい!」」」
 大喜びの麻とヴィクトリア、それにエスト。
「ところで、これは何に使うんだ?」
「ああ。そこに座って待っていて下さいね」
 エルンストがそう尋ねると、彼は渡された品を、台所へと持っていった。何を作っているのかと思いきや、しばらくして戻ってきた彼は、湯気と香りの立つお茶を人数分、持ってきていた。貝殻が、クッキーを載せている。どうやらあれはお茶の材料だったらしい。それをテーブルの上に置き、一行に提供してくれた。
「それで、弟子入りの件は‥‥」
 エストが返答を求める。一度、ウィザードに戻らないといけない可能性を、彼女は心配していた。
「それが、ギルドでは今、弟子を受け付けていないんですよ。ですが、会えるならまた会うのは構わないと思いますよ。たくさんお話しする事もね☆」
「わぁい」
 その返答を聞いて、大喜びの麻。
「モノは言いようだな」
 どうやら、登録上セージと名乗る事は出来ないが、よしみを結び、教えを請う事は可能なようで、安心するエルンストだった。