かるるんと聖夜祭
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■ショートシナリオ担当：姫野里美 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：普通 成功報酬：0 G 71 C 参加人数：8人 サポート参加人数：-人 冒険期間：12月17日〜12月23日 リプレイ公開日：2009年01月02日 |
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●オープニング
聖夜祭と言うのは、西洋では特別な意味を持つ。まぁ詳しい事はジーザス教の関係者が怖いので割愛するが、ジャパン流に言うなら【暮れと正月がいっぺんに来てる】騒ぎなのである。
ここロシアでもそれは変わらず、特に国境をジーザス教【黒】と定めているので、聖夜祭はそれなりに盛大な準備が整えられていた。
「招待状、ですか？」
「はいっ。仮装パーティだそうですから、王妃様もお忍びで参加できますよ？」
王宮、王妃のいる場所。その一室で、お付のお琴嬢が、王妃に招待状を見せていた。持ってきたのは議長ン家の秘書官、レイくんだが、それには、パープル女史が書いたらしい文面で、どうぞお忍びで‥‥と、割とまじめな文章がつづられていた。
話は、数日前に遡る。
「聖夜祭のパーティ？」
「うんっ。皆でわいわいにぎやかにやるですよっ」
何度か顔を合わせた事があるカルルから、訪問を受けたパープル女史。きらきらとお目目を輝かせるカルルから事情を聞き、内容を尋ねる。
「そうね。面白そうかもしれないわね。で、何をやろうっての？」
「うーん、ご馳走を食べてー、ケーキつくってー」
嬉しい人もそうじゃない人もみんな集めて楽しめれば良いのだー！ と、言い張るカルル。
「それじゃ、ただの食事会じゃない」
「じゃあ、何かアイディアはあるです？」
小首をかしげるカルルに、彼女はちょっと考え込んだ後、こう応えた。
「手っ取り早く仮装パーティなんかどうかしら。まるごとシリーズって、今どれくらい出てたっけ？」
「えーとえーと‥‥たくさん」
んなもん、把握してない。ため息をついたパープル女史、「あんたに聞いたあたしがバカだったわ」と、立ち上がってお出かけの準備。
「ああっ。先生どこへっ」
慌ててカルルが引き止めると、彼女はにやりと笑ってコートを羽織る。
「着るもんに詳しい人がこの辺に居たでしょ。ついてきなさいな」
「はーい」
向かったのは議長ン家だ。出入りの商人と言う立ち位置の彼は、まるごとシリーズの在庫のみならず、王宮内の好みにも詳しいだろうと言う話である。
「で、私にか？」
「聖誕祭って、あんたんとこの双子、誕生日でしょ。そろそろお誕生日会の思い出が根付く頃じゃない」
事情を話した後、そう締めくくる彼女。
「えーと、外見年齢はこんなんだが‥‥」
「きにしなーい。と言うわけで、これとこれとこれ、よろしくね」
もっとも、議長宅の子供とて、暦年齢はともかく、外見はまだようやく立ち上がってスプーンが扱えるようになったくらいである。物心がついているかどうかすら怪しい。しかし、パープル女史は気にせず必要そうな品を見繕い始めた。
「何か楽しそう」
「んー。まぁこういうのは楽しまないとね。せっかくのパーティなんだし」
口元に浮かんだ笑みを見て、カルルは『頼んでよかった』と思う。こうして、王宮には議長を通じて、招待状が届けられたのだ。
「と言うわけだそうですわ。心配なら、中の人がバレないように、何か衣装を調えていただきましょう？」
もはや行く気満々のお琴ちゃん。王妃様、表情変わらないまま、「‥‥え、ええ‥‥」と応えるしかない。
その結果。
「‥‥王妃様が、少しだけ顔を出されるそうです」
「って、それは王宮近くに場所を用意しなければならないじゃないか」
嬉しそうなお琴に水がさせなかったらしい王妃様、結局ご挨拶程度なら‥‥と、ＧＯサインを出したらしい。王宮からの返答を伝えるレイに、頭を抱える議長だった。
で。
「と言うわけで、候補はこんな感じ。どこがいいかしら？」
数日後、会場を提示してくるパープル女史。候補は３つだ。
その１・女官長が管理している屋敷の広間。普段は女官達が談笑する憩いの場。ただし、飾りつけはこれから。
その２・議長が色んな会議とか打ち合わせとかに使う広間。飾りつけはそれなりだが、王宮からけっこう移動が必要。
その３・離宮の広間。移動する必要はゼロだが、手続きが面倒。持ち込む品もいちいちチェックや申請が必要だったりするので、準備に時間がかかる。
一番都合の良さそうな場所を選んでもらうつもりらしい。そこまでまとまると、ギルドを通じ、冒険者宛に告知が行われるのだった。
『みんなで集まってくりすますぱ〜ち〜をしよ〜♪』
招待状には、カルルらしい、明るい文面でそう書かれた手製のカードが添えられ、『とくべつげすともくるかも！』と、付け足されているのだった。
●今回の参加者
ea0061 チップ・エイオータ（31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国）ea1060 フローラ・タナー（37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国）
ea1123 常葉 一花（34歳・♀・志士・人間・ジャパン）
ea4675 ミカエル・クライム（28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国）
ea8110 東雲 辰巳（35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン）
ea8785 エルンスト・ヴェディゲン（32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国）
eb2257 パラーリア・ゲラー（29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国）
eb3530 カルル・ゲラー（23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国）
●リプレイ本文
パーティに先立ち、議長ことギルバード・ヨシュアと、その妻フローラ・タナー（ea1060）は、主催のカルル・ゲラー（eb3530）と共に、王妃との面会を取り付けていた。「‥‥と言った事情でございまして。王妃様も楽しめるパーティーでなければ、招待する意味がありませんわ」
警備の責任者だと言う騎士を相手に、離宮の広間を貸してくれともちかけるフローラ。王妃の移動等を考えると、離宮内で行った方がいいだろう。そう利点と警備や食事面での負担の軽減を訴える彼女。
「もし不届きな輩がいれば、私達でなんとか。それに、警備の方々にも、楽しんでいただきたいですし」
提出されたスタッフの名簿と、その簡単な経歴を見る限り、もし王妃を狙われても、対処が出来そうだ。そう判断したらしく、係りの人は首を縦に振る。
「ほらカルル。あなたからもお礼を言って」
「ありがとうなのー」
それでもフローラはそう言って、カルルにも礼を言わせている。許可は下りたらしいので、女官長にチップ・エイオータ（ea0061）がこう申し出る。
「ごちそう、作るんだ。調理場、貸してもらえないかな？」
その並んだ料理のイラストに、彼女は優しく頷いて、協力を申し出てくれるのだった。
薄闇に包まれる広場に、キャンドルがともされる。パラが飾りつけたクリスマスの飾り、チップ達が持ち込んだリースが、そのキャンドルに照らされる、常葉一花（ea1123）が持ち込んだ若木のツリーが雰囲気を盛り上げ、チップの貸したドレスをはじめ、それぞれの衣装に身を包んだゲスト達が見守る中、壇上に上がった主催のカルルは、天使の笑顔でご挨拶。
「にゃっす！ ぼくはカルルだよ〜。今日は楽しんでいってですっ♪」
猫耳に猫足のサンダル、借りてきた子猫のミトンを見に付けた彼は、そう言ってぺこんと頭を下げる。
「カルルよくやったのにゃ〜。今宵はみんなで幸せになろ〜☆」
と、パラーリア・ゲラー（eb2257）。うさみみメイドが、ぎゅむっと抱きしめた動きにあわせてぴこぴこと揺れる。それぞれが主催に感謝の意を示す中、パラは片手を上げて合図する。
「みんなとクリスマスパーティーをたのしもっ♪」
ぱしんっと手を叩くと、一花が厨房に続く扉を開けた。と、チップがワゴンに様々な料理を並べて持ってきた。
「うわぁ、大きな皿〜」
離宮にあるパーティ用の大きな皿を見て、目を輝かせるカルル。
「配りますから、手伝ってくださいな」
一花がメイド仕事の出番とばかりに、皿を持った。その上に乗った魚のパイ包みや揚げもの、ハムと蕪の紅白マリネ、サーモンの刺身、シードル等の飲み物が、次々とテーブルに並べられていく。その頭にはかわいらしい猫耳が乗っかっていた。大きな皿は執事らしく礼服に猫耳をつけた東雲辰巳（ea8110）が運んでいく。
「しかし‥‥、完全にネタが被ってるわね」
「考える事は皆同じ‥‥か。せっかく用意してもらったんだが‥‥そうだ」
既に動物丸ごと系は、彼で４人目である。このままでは目立たないなと思った彼、ぽんっと何かに気付いたように。自分が付けていた猫猫シリーズを、マスカレイドに礼服ドレスなパープル女史の頭の上へ付け替えてしまった。
「まるごとシリーズもってないのよねー。これじゃ駄目だったかしら」
自らの衣装を見下ろすミカエル・クライム（ea4675）。エチゴヤのドレスならば、ちょっと良い感じのものを所持しているのだが、仮装と言うには至らない。そこで、手持ちの中から、巫女装束を着てきたのだが、普通すぎたかもしれない。
「そんな事ないと思いますわ。オリエンタルマジックって感じで。何なら貸しましょうか？」
「ううん、大丈夫。それに、こっちではあまり見ない衣装だし。これも仮装よね」
一花が付けていた耳を差し出す。が、彼女は大丈夫‥‥と言わんばかりにして首を横に振った。そして、いつも手にしている杖を片手にくるりと回ってみせる。と、すぐ側にいた近衛の騎士の何人かが、ぽっと頬を染めていた。
「先生、僕達礼服なんですけど、駄目だったのでしょうか」
「いや。不審な衣装を着るよりはましだろう。普通の仮面舞踏会なら、これを付けておけば充分だ」
不安そうに自身を見上げてくる礼服姿のアルヴィンに、同じく礼服姿のエルンスト・ヴェディゲン（ea8785）は、そう言ってマスカレイドを差し出すのだった。
そうして、パーティが始まってしばらくたった頃だろうか。不意に、入り口が騒がしくなる。近衛の兵や女官達が急に緊張した面持ちになっている所をみると、王妃様がいらしたのだろう。気付いた一花が、たったったとお迎えに向かう。
「えとえと王妃様はじめまして〜♪ ぼくカルルです」
主催のカルルがぴょこんとお辞儀する。お琴の後ろから、静々と歩いてきた王妃は、相変わらず表情の薄い面持ちで、それでも優雅に一礼してくれた。
「むう‥‥」
たくさん話せば、笑顔を見せてくれるかと思ったカルル、ちょっと残念そうだ。が、そこへお琴が前に出て、こう言う。
「王妃様はたくさんお話しする事に慣れてらっしゃらないだけですわ。だから、私が代わりにおしゃべりします〜」
仮装と言うことで、お琴も普段の洋装ではなく、和装になっている。それを見たカルルは、興味を彼女に移したようだ。
「あ、キミがお琴ちゃんだね。武田のお殿様とはどんな関係だったの〜？」
「主従関係と言う奴ですわ。残念ながら、寝所に呼ばれるには魅力が足りなかったようですの」
以外と大胆な感想である。聞き耳を立てていたミカエルと一花が、目をしばたかせている。
「し、寝所って、ベッドルームの事‥‥よねぇ？」
「まぁ、ジャパンの風習では、よくあることらしいですわ」
元々ジャパンの志士だった一花、それは人身御供的な意味ではなく、名誉な事なのだと解説してくれた。
「王妃様、心配そうですわね。そうだ」
もじもじしているお琴の方向を向いている王妃を見て、フローラはそう呟く。お気に入りの女官といって良いだろう。その心を少しでも晴らしてあげようと、彼女は連れてきたペットの不思議な雪玉を、そのひざの上に預けて見る。
「‥‥可愛い」
「王妃様も動物は好きなようだな。アルヴィン、この子達も見せに行ってやれ」
エルンストが、にぎやかしに連れてきた珍しいペンギンと猫を、アルヴィンに持って行かせていた。急に動物園と化した中心にいる王妃に、フローラは水色のヴェールを差し出す。
「よろしければ、こちらを付けていただけませんか？」
こくんと頷いてくれる王妃様。内心拳を握り締めたフローラは、一花に頼んで衣装一式を持ってきてもらう。そして自分は子供２人の衣装を着替えさせていた。
「うわぁ、綺麗〜。きっと王様も気に入ってくれるよ」
元々白をベースにした衣装に、青を貴重にしたヴェールと小物はよく似合う。その姿に気付いたカルルは、嬉しそうに寄ってきた。
「そう言えば、王様とはどうして知り合ったの？」
話そうとはするが、どう言ってまとめるか決めかねているようだ。いやそれ以前に、王族貴族に特有の政略結婚と言う話が絡んでくるので、言葉を選んでいるらしい。
「ああ、王妃様は一般的な出会いではないのですよ。王位の関係で‥‥ねぇ」
一花がそうフォローを入れる。その姿を、どこか懐かしく見ているお琴を見て、カルルは声を小さくして聞いて見た。
「ねぇお琴ちゃん‥‥。もしかして、帰りたいと思ったりしたことは？」
「そ、そりゃあ。少しはさびしいと思ったりもしますけど、冒険者の方々には、ジャパンの方も多いですし、大丈夫‥‥ですわ」
強がっているようにも見えるカルル。だが、笑顔で答える限り、大丈夫のようだ。
「わぁ、可愛い〜」
そうこうしているうちに、フローラが子供のフェーリクスとフォルトゥナに、それぞれ童話の衣装を着替えさせてきた。もっとも、抱えているフローラは角飾りに毛皮のマントでトナカイ風、議長がふりひらブラウスの王子様風だった。
「いや、可愛いは可愛いんだが‥‥。フローラ、何故トナカイなんだ？」
「配役が変でしょうか？」
欠片も疑っていない表情で、首をかしげているフローラ。見つめられて、思わず黙り込む議長。
「相変わらず奥方に甘い旦那ですわねー」
顔が赤いのは、仕様のようだ。フローラの方は、子供が喜べば満足らしく、ペンギンや雪玉に触ろうとしている２人の面倒を見て嬉しそうにしている。
「あによその顔は」
一方、まだ子供のいない夫婦の片割れ‥‥東雲が、モノ欲しそうにしているのを見て、向かいで杯を傾けていたパープルがじとーっと眉根をしかめる。
「あー。ひょっとして東雲さん、まぁたえっちな事でも考えてたんでしょー」
そんな彼女に、後ろからじゃれ付いたミカエルが、びしぃっと指摘してきた。
「またとはなんだ、またとは。別に俺はその‥‥いーなーとか、思ってただけで‥‥」
慌てて視線をそらす東雲だが、その態度が既に肯定してしまっている。と、やっぱり寄ってきたパラが、その腰のあたりをつついた。
「えとえと、赤ちゃんはいつごろ欲しいですか〜？」
「２、３年以内には‥‥って、何を言わせるかー！」
うっかり本音を答えてしまい、自爆している東雲。広間中をにぎやかに駆け回る彼らを尻目に、カオスと化してくるパーティ会場を、のんびりと見守っていたエルンストが、思い出したように呟く。
「そういえば、以前作った風呂はどうなったんだろうなー」
「手入れがされているかどうかは定かではないですけど、有用なら村の人が何か活用していると思いますよー」
答えたのは一花だ。詳細は定かではないが、きっと生活に溶け込んでいる事だろうと信じて。
「家族風呂には規模が大きすぎると思うがな」
使ってもらえるならそれで良い。そう思い、杯を傾けるエルンスト。
「オーストラリアもそんな感じかしらね。皆、元気にしているといいな。ねー先生、どう思う？」
通りすがりに聞いたミカエルが、追いかけっこを止めてパープル女史に尋ねている。近頃の世界情勢が情勢なので、少し心配らしい。
「危難は排除したんだもの、もし何かあれば、連絡してくれるはずよ。きっとね」
経過期間を数えたらしい彼女は、そんなミカエルの頭をくしゃりと撫で、信じる心を持つよう諭すパープル女史だった。
そんな騒ぎが一段落した頃だった。
「お疲れ様、少し休まない？」
喧騒から離れたベランダ。給仕役のパラに、チップがそう言って飲み物を差し出す。
「うん。皆おしゃべりに夢中だしね」
ほかほかと湯気を立て、甘い匂いを漂わせるそれを受け取るパラ。だが、その影に、青い石が挟まっているのを見て、彼女はしげしげとそれを見つめてしまう。
「これは‥‥？」
「ターコイズ」
確か、宝石の名前。青い青い、海のような石。
「この石ね、人からもらうとお守りになるんだって。今は大変な時期だから、パラーリアさんとカルルさんがずっと元気でいられるよーにね」
にこりと、笑う。自分を気遣うその笑顔に、パラの頬も自然とほころんでいく。
「ありがとう‥‥。今年も一緒のクリスマスが過ごせて嬉しいにゃ〜♪ あたし、チップせんぱいのこと大好きだよ〜」
背伸びをして、チップの頬にちゅっとキス。かわいらしいそのクリスマスプレゼントに、チップの顔が耳まで赤くなってしまう。
「でも、こんなの貰ったら、らっ、来年はどどどど〜しよ〜」
もっとも、パラ自身も、やらかしてしまった行為が恥ずかしいのか、２人してパタパタと慌てふためいているのだった。
そのベランダの風景を、反対側のベランダで、むすっとした表情で見ている女性がいた。
「あーあ。あっちは平和そうねー」
パープル女史である。待ち合わせ時間からは少し過ぎてしまっているが、待ち人はまだパーティ会場から姿を消したままだ。
「ったく、向こうが呼び出しといて、来ないって言うのは、どういう了見なのよ」
ぷーっと頬を膨らませる女史。すっかり冷えてしまい、小さくくしゃみをしてしまう。さすがに、心細くなったのだろうか。せめて呼びに行こうかと、部屋の方に振り返った直後だった。
「‥‥きゃっ」
背中から、抱きしめられる。軽く悲鳴を上げたパープルさんが見上げれば、勾玉をちらつかせる東雲の姿があった。
「んもう。何するのよ‥‥」
背中の暖かさに、怒る気力も失せたのか、声が尻すぼみに小さくなっていく。
「ちょっと驚かせたくてな。悪かった」
意趣返しのつもりなのだろう。人前ではあまり構えなかったから、意地悪してるのかもしれない。
「ちょっと早いかもしれないが、クリスマスプレゼント‥‥受け取ってもらえるか？」
軽く謝りながら、アメジストのリングを取り出し、その指先にはめる。
「そして、いずれその時が来たと思うまで二つとも持っていて欲しい」
レディが頷くより早く、真面目だがそれとなく柔らかな表情でシルバーリングをセットで手渡す。
「正式な叙勲は先の話として、今日限り宴の間は騎士を務めさせてもらいますよ、麗しき姫君」
口調を変え手の甲にそっと口づけし、その手をとる。
「そうね、今はあなたの貴婦人でいてあげる。あなただけのね」
静かにその告白を受け止めたレディは、つかまれた手を引き寄せると、まるで承認をするかのように、その唇へ大人なキスを授けるのだった。
ダンスの曲が、広場へと招く。紫のドレスが花の様に広がって。ところが、その手を奪い取った緋色の袴。ミカエルである。
「って。せっかく良い雰囲気だったのに、何をするー」
不満そうに口を尖らす東雲に、ミカエルは軽く舌を出しながら、パープル女史の腕を絡み取っていた。
「べーだ。あたしだって、少しは練習して上手になったんだから。パープル先生を独り占めに何かさせないわよっ」
そのまま引っ張っていこうとする彼女。ぎゅっと握り締めたその腕は、そう簡単に離してくれそうにない。
「よぉし。んじゃ、俺も余興をやってみようかな。音楽を頼むぜっ」
音楽が、ダンスの曲から軽快な調子に切り替わる。しかし、そのアクロバティックな動きには、いささかも鈍りがない。
「せんぱい、いっくよー」
パラがそう言って、彼の荷物から、小道具を投げている。それを受け取り、ジャグリングするチップ。その品物の１つがひゅーんと飛んで行った先には、カルルがいた。
「かるるさんたから、皆にお土産だよっ。はっぴーメリークリスマス！」
そのカルルが持った袋から、人型の小さなものが、参加者達へと降り注ぐ。それは、赤いクリスマス衣装を見に付けたくまさんだ。
「「「「「めりーくりすまーす！」」」」」
期せずして、声がハモる。こうして、クリスマスの夜は、にぎやかな音楽と共に、夢のように過ぎていくのだった。
