【豪州国交】書簡を届けに

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 30 C

参加人数:11人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月19日〜06月03日

リプレイ公開日:2009年05月30日

●オープニング

 その日、ミス・パープルことレディは、王宮へと向かっていた。
「王宮からの呼び出しとはねぇ」
 その手には、王妃の紋章の刻印された羊皮紙がある。王妃自身の署名があるそれに、なにやらただならぬ雰囲気を感じ取ったレディさんは、その日の予定をキャンセルして、王宮への扉をくぐる。
「王妃様からの書状をお持ちですか‥‥。少々あちらの控え室でお待ちください。身元の確認を行いますので」
 さすがにフリーパスと言うわけではないが、呼び出しの書状と、普段貴族達の館に出入りしている教師である事受けて、セリフが敬語になっている。この辺りは普通の手続きなので、気にせず待っていると、程なくして、王妃付侍女長の部屋へと通されていた。
「王妃様、かの師をお連れしましたぁ」
「‥‥これを」
 王妃が既に上座に座っている。相変わらず無口で無表情な王妃様ねーと思うレディさんの心境なんぞお構いなしで、彼女はテーブルの上から、お琴にある書簡を持って行かせた。
「あらこれ‥‥クィーンズランドからの書状じゃない?」
 見覚えのある紋章に、そう呟く。が、さすがに向こうの言葉で書かれたものなので、経験者でないと読めないらしく、言語に長け、なおかつオーストラリアへの長期滞在経験のある彼女が呼ばれたらしい。
「なんと、書いてあるのですか?」
「んーと‥‥」
 お琴が王妃の疑問を代弁する。眉をしかめつつ、独特なその文字を解読しにかかるレディ。それによると、こうだった。
「月道の向こうと、お付き合いを?」
「ああ。そろそろ頃合だろうと思ってな。こっちも、それなりにごたついてるが‥‥だからこそ、こっちに味方を引き入れておきたい」
 言いだしっぺは、長男である王子だったようだ。
「しかし、古参の者達が、なんと言うか‥‥」
「そう言う為にお前がいるんだろ? ハイド」
 ただ、向こうでもそれなりに‥‥こちらと同じ様に政治の都合とか言うものがある為、どうやら、王宮に出入りする神官である少年‥‥ハイドが、交渉の窓口に立ったらしい。かなりの長文であるはずのそれを、彼女はさくっと短くしてしまった。
「どうも国交を結ぼうとしてるみたい。向こうでも案内する手はずを整えてるってさ」
「まぁ‥‥」
 驚いた顔をするお琴。表情の変わらない王妃の代わりに、コロコロとよく変わる娘である。
「月道も繋がってるけど、国としての関係はまだ築かれてるどころの話じゃないし。ある程度はつながりがあるから、そろそろちゃんと国と国とのお付き合いを始めたいんだって」
 問題は、国としての面識が皆無な所だ。
「でもぉ、そんな事いきなり言われても、国王様になんと申し出て良いやら‥‥」
「そりゃあねぇ。それで、向こうもどうして良いかわからないらしいわよ。さすがにいきなり使者送りつけて、お友達になってくださいはどうかと思うしね」
 いわば、国境向こうの貴族が、いきなり手紙で交友の申し入れをするよーなモンである。さすがにそれはちょっとと、向こうも思ったらしく、とりあえず王宮宛に手紙を託した模様。
「まずは‥‥話し合いを‥‥」
「あー、はいはい。その辺は何とかしとくわ。まぁ、問題はどう仲を取り持つかとかだけど。要は陛下やその周囲に要る側近さん達に、まっとうな国だと信用してもらえばOK。わかった?」
 頷く王妃様。レディさん、そんな彼女に不敬罪でとっ捕まりそうな態度でもってこう言う。
「いいこねー。それじゃ、とりあえずこちらの代表さんだかなんだかよこしてくれる?」
「‥‥お琴」
 元気よく「はーい☆」とお手手を上げる彼女を見て、レディさん、ため息ひとつ。
「もう少し信頼性のある人がいいんだけどなぁ‥‥」
 いくら王妃様付きの侍女で、それなりに薙刀の心得があっても、所詮は侍女その1。
「で、こっちにか‥‥」
 で、めぐりめぐって呼び出されたのは、議長だ。
「適任でしょ?」
 商人としての面識。王妃御用達の看板。月道向こうと取引するには、うってつけの人材である。

●今回の参加者

 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb0356 高町 恭也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)
 eb4668 レオーネ・オレアリス(40歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ec0132 カサンドラ・スウィフト(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

鳳 令明(eb3759)/ ニセ・アンリィ(eb5734)/ シーナ・オレアリス(eb7143

●リプレイ本文

 オーストラリアには、月道を使って行き来する。だが、あの頃とは違い、簡素だが地面に『道』らしきものが出来ている。その為、前ならばフォトドミールまで2日は掛かった道のりが、1日程度で向かう事が出来た。
「ガザニア、ここがお前の生まれ故郷だぞ。さて、彼らは元気にしているかな」
 イグニス・ヴァリアント(ea4202)がそう呟きながら、相棒と‥‥そして火霊のカンナをつれ、立派な外壁を持つフォトドミールの門をくぐる。
「久しぶりだな。俺達のこと憶えているか?」
「無論だ。アレだけの大騒ぎだったのだからな」
 忘れるわけがなかろうと言いたげなイェーガー。どうやら、心配するほどではなさそうだ。
「こっちも、あの時の卵は元気に育っているぞ。種類がちょっと違ってきたようなんだが‥‥」
「精霊の力や、環境によってはそうなってしまうのだろう。こちらも、そんな話を聞いた事がある。あまり気にするな」
 そのイェーガーに、ディオニクスになるはずだったガザニアを見せるが、彼も精霊から話を聞いていたのか、さほど心配はしていないようだ。
「そうだな。ところで、交流会を行うそうなんだが‥‥」
 変わって恭也がここに来た目的を話す。挨拶を済ませ、その交流会にイェーガーが出席できないかどうかを訪ねてきた。結果は大丈夫なようだ。
「今のところは表立った被害は出ていないが‥‥。油断は出来ないだろうな」
 同じ用件だった高町恭也(eb0356)が、そのイェーガーから報告を受け、そう答えている。やはり、マーメイドを狙い、入り込もうとする不届き者が要るようだ。
「マーメイドの王国がある事が、少しずつ出回っているらしい‥‥。通りで国交をとなるわけだ」
 国交ができれば、合法的にマーメイドが月道を通る。それを狙っているのかもしれない。こうして、おのおの挨拶と現状確認を済ませた一行は、その状況を書物へと記す。
「他に、何か足りない物はあるか?」
 そこへ、レオーネ・オレアリス(eb4668)が切り出した。復興の進み具合は大丈夫そうだが、よくよく見れば、補強のすんでいない所も多い。
「そうだな。少し補強剤を追加したほうが良いかもしれん。だいぶ丈夫に組んではあるが、やはり強度を保つに越した事はないしな」
 この辺では手に入りにくい金属材を配置した方が良さそうだ。それらを話し終えると、一向はイェーガーにも招待状を渡し、それぞれの作業へと取り掛かる。
「んと、ミルクがないとすると、煮汁を出汁にして‥‥。やっぱり、マーメイドさんに食べて貰うなら、お魚がいいかなぁ?」
「どうかしら。夏のロシア料理っぽいものにすれば、珍しがられると思うわよ」
 料理人として付いてきたカルル・ゲラー(eb3530)、パープルことレディさんや、その連れ合いである東雲辰巳(ea8110)に聞きながら、メニューを調整している。と、その時、外で誰かの悲鳴が上がった。どうやら、天敵に見つからないよう営巣していた場所に、気付かなかった模様。
「行くぞガザニア。ほっ。よっ」
 もっとも、護衛についている恭也やイグニス、それにレオーネも、この事は予想していた。ので、まずイグニスが、相手に狙いを定め、ダブルアタックを食らわせる。悲鳴を上げて巣に戻っていく恐竜さん。
「お前らの相手してると、豪州に戻ってきたと実感できるよ」
 少し、満足げにそう呟くイグニス。それでも、気になるようにこちらを見ている恐竜に、カルルが興味深げにこう言った。
「なんて言ってるのかなぁ」
 カルルが様子を見に行った。インタプリティングリングが通訳した所によると、巣にある卵が心配なようだ。そのことを伝えると、商人さん平身低頭で申し訳なさそうにしている。
「あはは。鳥さんと同じだね。あっちのはどうかなぁ」
 カルルが、水辺で草を食んでいたブロントザウルスに目をつける。そぉっと驚かさないように近づき、リングを使うと、どうやらブロントさんは、自分達をサルの親戚だと認識しているようだ。
「草食恐竜さんは、平和なんだねー。お友達になりたいな」
「そう言う概念があると良いけどね。そうだ、ちょっとよりたい所があるんだ。センセ、いい?」
 頷くレディさん。ミカエル・クライム(ea4675)はそう言うと、ある場所へと向かった。これまでの事前情報で、精霊達はこの一年で、色々と動けるようになったらしい。彼女が目指したのは、遺跡にいるはずの炎の精霊ミリオンフレイムの所だった。
『‥‥なにやらにぎやかになってきたと思ったら、お前らか』
「お久しぶりです。ミリオンフレイム様。この子は私のお友達。異種族の友を求めて、こちらに」
 一礼するミカエル。どうやら、自分の望みを気遣ってくれたようだ。深々と頭を下げるカルル。そのおめめが期待できらきらと輝いているのに、ミリオンフレイムは少し不思議そうな顔をしながらも、『ふむ。ならば、我が眷属には応じさせておこう』と言ってくれる。マーメイドも、属性こそ違うが、精霊に近しい種族。きっと、良い返事をもらえる事だろう。
「じゃ、そのマーメイドさん達に、会いに行きましょうか?」
 こうして、彼女達もまた、クイーンズランドへと向かうのだった。

 一方、その『船』の中心部には、雪切刀也(ea6228)とゼファー・ハノーヴァー(ea0664)の姿があった。
「ただいま」
 駆動部分ともいえるそこには、鉱石を思わせる女性の姿がある。相変わらずの冷たい印象に苦笑しつつ、刀也がそう言うと、精霊‥‥黒曜石は、こう言った。
『‥‥おかえり。とでも言えば良いか?』
「約束どおり、僕は帰ってきたよ。こっちでの活動目処がついたからね」
 口調を柔らかくして、そう微笑む刀也の手には、竹の水筒がある。杯は二つ。同じく竹製だった。聞きたい事があるらしいゼファーは、自分のカップを持って来ているようだ。
「俺の故郷じゃ、仲良くするのに、杯を交わすのさ」
『‥‥人の風習と言うのは、面白いものだな』
 テーブルも肴さえないが、その杯を受け取る黒曜石。幾百年の時を過ごしてきた彼女にとって、一年はさほど長い時ではなかったのだろう。そう言って微笑む。
『壁を越えられぬ我が身が疎ましかった。こちらも、色々と忙しかったのでな』
 それでも、彼女はそう言った。ゼファーが、気になったらしく、「何か、あったのか?」と訪ねてくる。それによっては、組んだルートを変更しなければならないから。
『壁を壊して、月の道が通ってから、悪しき気配が流出している。こちらでも押さえていたが、こぼれ出る悪しき気がある。気をつけると良い』
 考え込むゼファー。だが、彼女は首を横に振った。
『こちらに居たのとは少し、違うようだ。ただ、とても巧妙に入り込んでいる‥‥っと。こんな話をしたいのではなかったな』
「いや、警告はありがたく受け取っておくよ」
 予想される危険を伝えに出て行くゼファーとは対照的に、長く入り浸る刀也だった。

 船は、早く進んだ。精霊の力を利用して進むそれは、他のどの国にもないものだ。だが、ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)はアクアシップを運転できる東雲に頼み、一足早くクイーンズランドにたどり着いていた。
(さすがにマーメイド。安全なのは海の奥。あぶれた奴は陸の上。住み分けてるってことか)
 目つき、雰囲気。同類、同業者だからこそわかる『裏』の空気。それらを感じ取るのは、海の中よりも、陸に近い場所だった。
「っと、こんな所でぼーっとしてると危ないよ!」
 と、女性の声がして、軽くとんっと衝撃が走る。が、JJは顔色1つ変えず、その首根っこを押さえていた。
「ちょい待ち。そのおててに握ったモン、返してもらおうか。え? ヒノミの嬢ちゃん」
「ちぇー。もうばれたか。色々やってる人間様が居るって聞いてね」
 被った帽子の中には、よく見知った顔。ヒノミの一族に連なる少女だ。そんなに分かるような行為をしていただろうか。心当たりのない彼に、ヒノミはこう告げる。
「この町じゃ、泳がない奴は大体分かるよ。特にこの界隈じゃね」
 蛇の道はなんとやら‥‥と言ったところか。
「手荒い歓迎だな。もしかして、なにかやらかしてる?」
「してるわけないじゃん。もうおっかない目はこりごりよ」
 どうやら、彼女なりの歓迎らしい。本気で狙ったわけではない仕草に、彼はにやりと笑って、その肩を抱き寄せる。
「なら安心だな。この辺は詳しいんだろ? 案内してくれよ」
「はいぃぃ?」
 硬直するヒノミ嬢。まさか、デートになるとは、思わなかったようである。

 様々な準備を終えた後、会合が開かれる段取りとなった。彼ら冒険者だけではなく、議長が相手をする商人達もいる。到着するなり、駆け寄ってきたハイド少年は、すっかり見違える神官の姿となっていた。
「久しぶり。神官に昇進したんだって? その頑張りやさんに、色々聞かせてくれないか?」
 アクアシップから荷物を降ろしていた東雲が、皆の問いたい事を代弁する。恭也とJJが、少し会場周辺を回ってくる間、刀也達は礼服に着替えている。暫し考えたハイド少年は、こう語った。
「実は、宮廷勤めや、神官の中に、不穏な影が見え隠れしているのです。なにがどうとはっきり申し上げられないのですが‥‥」
 ここにも闇が入り込んで要るのだろうか。そう思った刀也は確かめるように問うた。
「ひょっとして、黒曜石が言っていた『悪しきモノ』か?」
「おそらくは‥‥。ただ、実体をつかめていないので、手紙に記すわけには行かなかったのです」
 黒曜石が精霊だと聞いていたハイド、そう言って頷く。どこも情勢は変わらないようだ。クイーンズランド側も、出来るだけの手は打っているらしいのだが、デビルと戦う術は、ムゥの崩壊と共に失われてしまったので、ノウハウがないらしい。
「この前の事もありますし‥‥。よもやこっちまで、手を回してくるとは思えませんけど‥‥」
「まぁ、参列者も王室御用達の連中ばかりだからな。その辺りはわきまえていると思うが」
 不安そうなフローラ・タナー(ea1060)にそう答える議長。今、キエフが不安材料を抱えている事を知っている者ばかりだ。たとえ、王宮料理と比べて質素であったとしても、何も文句は言わないだろう。
「んと、メインは魚でいいかな」
 その料理担当はカルルらしい。中には、ボルシチの材料も見え隠れしていた。どうやら、フローラの指定で、普段食しているものの1ランク上くらいらしい。こうして、向こうの王宮代表である王子と、ハイド少年。それに港湾管理局の代表者や、向こうの商人達も加わり、交流会が始まる。
「国交を結ぶに当たって重要となるのは、現地の人々に国家としての認識があるか否かによるところが大きいと思う。その辺は、どうなんだ?」
 レオーネが、王子にそう切り出した。と、間に立つ形となったカサンドラ・スウィフト(ec0132)ことキャシーさん、港湾局の代表者にこう訪ねる。
「国家としての認識は充分にあると思うわ。ねぇ? リーダー」
「はい。我々は、精霊の妃である女王陛下を中心とした、神権国家であると教わりました」
 キャシーにそう答える港湾局の代表。彼らにも、国家である事の認識はいきわたっているようだ。
「はーい。すこしづつだけど民間レベルで交流が盛んになれば、自然とコッコウを結んでもいいかなぁ〜って流れになるかもって思いましたっ」
 料理もその一端だと、カルルが元気よく意見を述べている。
「こちらの衣装や風土紀などをプレゼントされてはいかがかと王妃様に進言してみたらどうかしら…ねぇ、ギル?」
「問題は、気候的に合わない事だがな」
 ああそうか。と思い当たるフローラ。ロシアは、夏場でも上着が必要な時があるが、こちらは逆に冬場でも上着はいらない。
「後は‥‥。陛下のオーストラリア訪問となると、それはもう調印式レベルかしら? 一先ずステップを進めて、王妃様や側近達の訪問・視察辺りは画策したいわね」
「まず、相互理解をするのは必要だろう。そして、互いに何を求め、認めるか。それをはっきりさせる必要があるな。利なくして、国家間の交流は成り立たん」
 ミカエルがわくわくとした表情でそう言うと、ゼファーは首を横に振りながらそう答えた。キャシーがポンっと手を叩く。
「輸出品の目録とかどうかしらね。ヒノミ一族の品は、こちらでは高値で取引されているのだけど」
 問題は何分にも手作り品なので、あまり量は出せないようだ。
「他に、何か特産物はないのかしら。物だけじゃなくて、技術的なものとか」
 ミカエルの問いに、商人の代表が、防水性の高い品なら、たくさん作れると答えた。
「面白い技術ではあるが‥‥、商人達の行き来だけなら、既にやっているしなぁ‥‥」
 東雲がそう呟く。
「では問おう。王子とやら。ロシアとオーストラリアが国交を結ぶのならばどのような形がいいか」
 レオーネが、話をまとめるように、王子に尋ねた。と、彼はそれに真面目な表情でこう答えてくれる。
「うちの賢者の話じゃ、国家として成立するには、領土、国民、統治機構、外交能力が必要なんだそうだ」
「国民と統治機構は問題ないでしょうね。これだけ証人が要るし」
 キャシーが港湾局と商人、それにハイド達を指し示す。
「となると、安全性だな。商売で稼ぐのは、商人の仕事だが、その商人たちが安全に商売が出来れば、そちらの言う交流もさかんになるだろう。その際、金銭面や領地などの面で、こちらが不利益を被っては困る」
「なるほど。ロシア側が一方的に有利になるようでは、植民地になるようなもんだしな」
 どうやら、レオーネの考えているのと、王子の考えは一致して要るようだ。全ては『対等に』と言う点においては、ゼファーも似たような考えを持っていた。
「マーメイドは不老不死の妙薬だなどという迷信が、未だに出回っている話も聞くしな。野放しでは両国の関係悪化は避けられん」
 かつて彼女は、マーメイドが『取引』されている事件に関わった事があるらしい。
「あとは、領土と外交かしら‥‥。外交官自体は任命できそうだけどね」
 それこそ、ハイドか港湾局、王子を引っ張り出せば良い話である。そう思っているらしいキャシーに、レオーネがこう言い出した。
「フォトドミールも、クイーンズランドの領に統括できないだろうか」
 都市国家として枠組みに入れられれば、ロシアとも対等に国交が結んでいけるのではないか‥‥と考えたようだ。いわゆる『ここまでが領土として認められている』と言う承認主張のようなものである。
「なんだか早く進みそうだね。僕、日記に書いて置こうっと」
 そう言って、手元の日記帳に書き記すカルル。どうやら、国交は思いの他早く結ばれそうだった。