【天使の祈り】ヒノミとヒメニョ
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:8人
冒険期間:06月12日〜06月17日
リプレイ公開日:2009年06月27日
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●オープニング
壁が壊れてから、割と簡単に行き来できるようになった各地。その月道を利用して、1人の女性が降り立っていた。
「えぇと、お迎えがこのあたりに‥‥」
不安そうに周囲を見回す彼女。大きな荷物と、みやげ物らしい箱を抱えている。と、そこへ必要以上の笑顔を浮かべた男が近づいてきた。
「ここの者ですが‥‥。どうしました?」
「あー、いえ。迎えを待っているのですが‥‥」
何の疑いもなく事情を話すヒメニョ。とある飲食店に頼まれ、吟遊詩人としてこの地にやってきたそうだ。
「キエフは、不慣れな者には、迷路と化します。よろしければ、ご案内しましょう」
「まぁ、ありがとうございます。荷物まで持っていただいて」
それが彼女を月道で見た最後だった。待てど暮らせど一向にやってこないヒメニョをいぶかしみ、飲食店側が、パープル女史を訪ねている。
「何で私が呼び出されるのよ」
「依頼内容的にお詳しそうだったので‥‥」
飲食店側が差し出した広告には、しっかりはっきり『限定秘書喫茶』の文字。どうやら店の従業員に、各貴族で働く秘書官の格好をさせ、お客をその主に見立てると言うイベントのようだ。で、そのアドバイザー兼コンセプターとして、ヒメニョを召喚したらしい。
「話は聞いてるけど、私の所へ来るのは、スポンサーに会った後にしますって、手紙に書いてきてるわ」
その件は、知り合いであるパープル女史の元にも届いている。今度仕事でロシアへ行くので、お食事くらいはご一緒できませんか? と、書かれていた。
「約束を違える様な方なのでしょうか‥‥」
「ありえないわねー。提出物が遅れる事はあっても、人に会う事を違える子じゃないんだけど、キエフって密集してるから、道がわかんなかったのかもしれないわ」
店主と相談した結果、キエフに不慣れなので、迷子になったのだろうと言う判断に。そうと決まれば、市内をあちこち探すだけ。
「ったく。この忙しいのに、何をやってるんだか‥‥」
で、まずは情報収集する為に、少し離れた場所にある酒場まで足を運んだのだが。
「ひめちゃーーん、こっちお酒3つねー」
「はいはーい。ただいま〜」
そこのウェイトレス‥‥。手足を露出しまくった黒い上下にふりひらエプロン着用で、お盆持って絶賛お給仕中のちびい女の子。
「‥‥ちょっと」
「こうして、私は逃れられない運命の輪にいたのです‥‥」
しかも、どっか明後日の方向向いて、勝手にナレーション入れちゃったりする。
「ヒメニョッ。男装美人のいる、ちょっと小洒落た休憩所作るんじゃなかったっけ? あんたいったいなにやってんのよ!」
ぐいっと襟首掴まれて、はたと気づいたヒメニョさん、ひよぇぇぇぇと青い顔しながら、事情を説明してくれた。
「と、トラブルですぅ! ちょっとした恩返しで‥‥。困っていた所を助けていただいたので、その借金を返しに‥‥」
なんでも、どこの世界にもよくいる悪い兄さんに捕まっていた所を、ここのご主人がお金払って買い戻してくれたので、その借金を返している真っ最中なのだそうだ。人、それを人身売買と言う。
「どこの世界に、道案内で借金こさえるバカがいるのよ。まぁ、適当に帰りの旅費稼いだら離脱しなさいな。あら?」
が、そこまで話した瞬間である。夜だというのに、店の窓が明るく輝いた。隣は確か教会が儀式等に使う小物を取り扱うお店である。みやげ物屋も兼ねていた筈だ。
「何かあったかしら」
「取材の種ですねっ」
様子を見に行った2人が見たものは。
「あ、あのぅ。ここは‥‥どこでしょう?」
羽生えたお嬢さんが、困った顔して座り込んでいる。
「て、天使?」
「って、あんた確か‥‥オーストラリアにいたはずの‥‥」
そう、その少女は、かつてオーストラリアの教会遺跡にいた筈の少女だった。かなり実体化しており、どう見ても羽飾りをつけた10歳くらいの女の子‥‥にしか見えないのだが。
「お久しぶりでございます。えぇと、ここはろしあというお国ですよね? お兄様達に転移させてもらったのですが‥‥」
しかも、伝承で聞く天使と違い、ぶっちゃけ威厳なんか欠片も無い。どうしたもんかと、考えあぐねていると、店の方で再び大騒動。
「た、大変だよ。預かってた例の本が無くなってる!」
ばたばたと確かめれば、オーストラリアの商人から【国交樹立が近いから】と、事情で店に保管してあったヒノミ・メノッサの新作が、消えうせていたらしい。
「もしかして‥‥。転移の衝撃で消えた?」
「‥‥‥てんいのしょうげきってなんですか?」
分かってない天使さん。
「じゃあ、あんた?」
「私ならそんなものは自分で書きます」
借金のかたに奪ったとか言う話でもないらしいヒメニョ。一応詩人の端くれなので、手に入れるくらいなら、自分で作り出すだけのプライドは持ち合わせているようだ。
「んーと。色々面倒くさい事が一気に起きちゃって。お店も、客の入りに影響があるから、さっさと解決して欲しいんだってさ。報酬は、何かデビル退治に必要な品を、天使が出すからって」
頭を抱えたパープル女史が、ギルドまで出向いたのは、翌日の事である。
●リプレイ本文
「お久しぶりでございますお姉さま方、お元気でしたでしょうか?」
そう言って、妖艶な笑みを浮かべる常葉一花(ea1123)。挨拶を済ませた一行は、お店の片隅にある椅子に座ったままの天使嬢(仮名)を取り囲んでいた。
「可愛い〜。お持ち帰りしたいですねぇ♪」
とか言って、抱きしめちゃってる一花。
「まぁ、まずは仲良くなる方が先決ですよ」
と、フローラ・タナー(ea1060)がそう言って、屈みこむ。と、真似したカルル・ゲラー(eb3530)が、にっこりと笑顔でシェイクハンド。
「にゃっす! ぼくはカルルだよ〜。天使さまのお名前はなんていうの〜? ぼく、がんばるからよろしくよろしくなの〜」
「私はフローラ。お父さまとお母さまがつけてくださった名前なの。花と春と豊穣を司る女神様の名前なんですって」
そう言って、取り出したのは麗しき薔薇。彼女宅の双子は、それを見て大喜びするのだが、彼女は、きょとんとした様子。そして、しばし首をかしげていたが、ややあってこう言った。
「お兄様達からは、末の姫って呼ばれました」
どうやら、きちんとした名前はないらしい。
「名前が、周囲を説得する材料になるかと思ったのですが‥‥」
残念そうなフローラ。と、事態を見守っていた東雲辰巳(ea8110)もこう言う。
「要は、天使であることを証明できればいいのだろう?」
「悪い子には見えませんし、様子をみてはいかがでしょう?」
そう言ったフローラの指先には、聖なる豹の指輪がはめ込まれていた。いつの間にか、胸元には薔薇、手には商人の扇子を持っている。そのおかげか、店主、何も言えずにいる。おそらく、ついてきたフリッツ・シーカー(eb1116)が、剣こそ抜いていないが、プレッシャーをかけているのも一因だろう。
「そうも言ってられませんよ。まず、疑いを解く事が先でしょう。天使の主だった特徴って、わかります?」
その間に、ファング・ダイモス(ea7482)がパープル女史に、天使の一般的なイメージを聞いてきた。
「んー。あの辺りの壁に掛かってる感じよ」
女史が指し示したのは、隣の店で売っているタペストリーだ。それには、少女とペガサスが寄り添っている絵が織られている。聖なる絵と言った感じのそれに、ファングは裏の路地に続く扉を勝手に開けた。
「だったら、うちの子を使えば良いかなと。ちょっと失礼しますよ」
合図すると、てくてく現れたのは、白い翼を持つペガサス。慌てる店主さん。
「こいつもまた、天の使いと称されています。ほら、ご挨拶して」
ファングのセリフに、ぺこりと頭を下げるあたり、頭は良いようだ。そのまま天使に近づくと、彼女の頬をぺろりと舐める。
「うちのチャージウインドだって、こんなになついとんやで? そう簡単に懐かへん幻獣が懐いたら、やっぱ普通とちゃうやろ」
頭の上に乗りながら、イフェリア・アイランズ(ea2890)がそう言う。気付けば、彼女もペガサスを連れこんで、天使の隣に寄り添わせていた。
「ペガサスが懐き、知り合いのおられるこの方は、紛れも無く天使様です」
気がつけば、複数のペガサスに囲まれた中に座る少女という、隣の土産屋が、涙流して喜びそうな光景になっていた。それを、自信たっぷりに見せ付けるファング。
「うーん‥‥」
「仕方がない。レジストデビルを使ってごらん?」
それでも、納得していない様子の店主に、ファングはそう言っている。天使が怪訝そうな顔をしている中、ペガサスは彼女に魔法をかけた。
「何をしたんだ?」
「この魔法は、魔をはじく効果を持ちます。これが無効化されるのなら、デビルではないと言う事ですよね」
店主の問いに。そう答えるファング。だが、店主は今ひとつ納得していない表情。知らないものから見れば、魔法の種類が何なのか区別がつかないと言ったところだろう。
「状況証拠にしかなってませんわね‥‥」
「やるだけやってもらおう。一時的でも信用が取れれば良い」
ため息をつくフローラにそう答える東雲。と、ファングは天使に膝を折り、こう訪ねた。
「天使様、お歌は歌えますか?」
首をかしげる彼女。
「魔物は、歌など歌えないものです」
こくんと頷いて、彼女は発声練習をしている。が、どちらかというと、頭に直接響いていく感じだ。おそらく、人や動物の発声とは違うのだろう。だがそれでも、ファングはその歌にあわせて、民族舞踊の振り付けをしてくる。和やかな雰囲気になる中、東雲は店主にこう提案した。
「なぁご主人、この子の身柄、うちで預かれないか?」
「こんだけやられちゃ、構いませんが、どうするつもりで?」
散々証拠を提示されて、反論する気が失せたようだ。流れる子供の歌声と、店の中に溢れるペガサス二匹、踊る戦士を見れば、それも納得する光景だ。
「その間に、本が見つかれば良いだろう。そうじゃなかったら」
東雲、放置されていたヒメニョさんを振り返る。「え」と雑巾もったままきょとんとしている彼女を見て、にやりと笑った。
「こっちで何とかするさ」
どうやら、彼女に何とか手伝わせようと言うつもりらしい。店主が「そのまま持ち逃げは困りますよ」と苦笑するのだった。
で、結局天使が天使だったとか言う証明はうやむやのまま、まずは無くなった本を探す事にした。
「えーと、今日は助っ人にムージョおばあちゃんをよびましたっ」
しゅたっとお手手を上げて、知り合いらしき冒険者を呼び出したカルル。ヴァンアーブル・ムージョが「よろしくのう」と挨拶する中、そして、ヒメニョにびしぃっと指先を突きつける。
「はいそこのひとっ。事件がおきた時間を教えてくれるかなっ」
店が終わったあとだから、明け方だそうである。
「あとご主人さんに、本の管理していた場所とか教えて欲しいなっ」
そう言うカルル。別に秘密にすることはないそうなので、場所まで案内してくれる。仰々しく飾り付けられた木製の書見台。ちぎれた鎖が、奪われたことを物語っている。
「なるほどのう。では早速使ってみるかのう」
そう言って、パーストの魔法を使うムージョ老。その意識に、事件当夜のイメージが流れ込んでくる。それには、女性の手が鎖を切る光景。ただし、今の彼女の手ではない。
「ふむ。見る限り、確かにその嬢ちゃんではないようじゃ」
もちろん、天使でもない。
「だいたい、ヒノミの新作って、うちの教義じゃタブーなものばかりじゃない」
「とすると、そこの天使様の目的地じゃないよな。ここに、行き先はあるか?」
ファングがそう言って、キエフの地図を広げて見せるが、彼女は「よくわかりません」と首を横に振る。と、東雲がこう言った。
「連れて行ったほうが早いんじゃないか?」
「そうだなぁ。まず冒険者ギルド連れてくか。ヒメニョさんも。そっちの方が、情報手に入るだろ?」
確かに、ああいった『特殊な』本は、一般の商店より、闇マーケットの方が情報が早いだろう。そう言った者達の情報は、ギルドの方が早い。
「よろしいです?」
借金の踏み倒しだけは困ると、店主は念を押すのだった。
カルルが呼んだ助っ人はもう1人いた。インタプリンティングの使い手、鳳令明である。近所の動物達から、明け方の目撃例を集めてきたようだ。
「ただいまー。カルル、聞いてきたよー」
それによると、やはりヒメニョは従業員用の部屋から出ていないし、部屋を覗いたカラスも、そういった大きなものは見ていないそうだ。
「やはり、誰か別の奴が、ヒメニョを犯人に仕立て上げた。そしてタイミング悪く、ここのエンジェル嬢が、道を間違えた‥‥だな」
そう結論付ける東雲。
「で、どうする? どこから攻める?」
「まずは迷子のお届けだ。それが終わったら、その情報を元に疑いを晴らす」
ファングの問いに、そう答える彼。しかし、そこにはパープル女史が異を唱える。
「とは言え、ギルドに持って行ったら、面倒じゃないかしら」
「私に良い場所がありますわ」
が、それにはフローラがにこりと微笑む。こうして、彼女が天使の手を引き、連れて行った場所は‥‥自分の家。
「‥‥うちは、迷子の取扱所ではないんだが」
すなわち、議長の屋敷である。頭を抱えるギルに、奥さんこういっておねだり。
「いいじゃありませんか。豪州ロシア大使なんですし」
「そりゃあそうだが‥‥」
まさか向こうの迷子を保護する事になるとは‥‥。と言った風情。しかも、背中には立派な翼が生えている。
「私も外交の品が気になりますから。お兄様には会えそうですか?」
「遠い所にいると思う」
どうやら、オーストラリアと言いたいらしい。とりあえず、工房併設の従業員用礼拝所にいてもらおうと言う事になった。
「それで、キエフにこられた理由とか、あります?」
「あ、はい。実はお兄様から、これを皆様に届けてと‥‥」
腰を落ち着けたファングが、そう尋ねると。天使ちゃんが取り出したのは、『天使の祈り』と呼ばれる品。
「こいつは‥‥証拠品になるな」
確信を得る東雲。それが、一般的な場所には出回っておらず、幸運のお守りとして広く知られているのは、店主とて認めるところだろう。
店主が、平伏するよーにしてわびたのは、それから間もなくである。
改めて、本探しになった。掌を返して、事件解決に繋がる証拠となりそうなものを持ってきた店長。何でも、本を手に入れたのは、ある店の紹介で、さらに従業員も最近ごっそり入れ替わったとか、掘れば怪しいと思えるような事がらばかりである。
「怪しいのは確かや。可愛い子でやる気満タンにしてきたし、証拠集めにいこうやないか」
そんな新人さんと、周囲の綺麗なお姉さんの胸元に、鼻の下を伸ばしたイフェリア、ばしっと腕を鳴らして、その紹介された店へと紛れ込んでいた。
「場末、陰謀、いかがわしい‥‥なんて素敵な響きなのでしょう」
うっとりと夢見ている一花はさておき、まずは昼間からである。この辺りでは珍しく、昼間も食堂として営業していると、彼女は調べてきた。
「まさか、こっそり店主が読んでいるなんてこと、ありませんわよね?」
「むしろ賜りものという事で、お客を呼び込めればと考えていたようですわ」
これも、一花が聞き込んできた結果である。オープンな状態なので、誰が狙っていても、分からなかっただろう。
「昼間は、大して動きはないみたいだな」
忙しそうに料理が運ばれていく。客層は様々だが、若い連中が多い。この辺で働いている人達だろう。と、そこへファングが、ヒメニョが働いていた帳簿を持ってきた。
「借金の帳簿を借りてきた。読めるか?」
「レディ、頼む」
専門的知識のいる帳簿である。翻訳はパープル女史だ。それによると、借金を立て替えたのは、いまいる食堂の常連客らしい。
「ふむ、じゃあその御仁が人身売買の一味かもしれないって事やね」
「時々、店に来るらしいです。前回、来た日を覚えていますか?」
イフェリアがそう確かめる。ファングに訪ねられ、ヒメニョは日付を答えた。それによると、3日前と5日前だそうである。結構正確なのは、その日ちょうど報告書の締め切り日だったからだそうだ。
「店の従業員に手先がいる可能性はありますね」
都合よく連絡が来たのは、そのせいかもしれない。一花の予想に、頷くファング。
「ほな、うち、怪しそうな人に忍び込んでみるで」
と、その様子を聞いて、イフェリアあこっそりと天井に張り付く。来るかどうかは分からなかったが、犯人は現場に戻ると言うし、天使騒動が気にならないわけはないから。
「きた」
と、しばらくすると、ヒメニョがそう言った。どうやら、今片隅に座った細面の男性が、立て替えてくれた御仁らしい。
「うち、ちょっと見てくる」
こっそりとそう言って、イフェリアがその足元に忍び込む。しふしふの利点を生かし、持ち前のしのび足でもって、気付かれない用に滑り込んだ。
「大丈夫かな」
「俺もついて行きますよ」
その後ろに、一花とファングの姿。一花の場合、尾行にはなっていないのだが、その後ろにしのび足を駆使するファングの、カモフラージュ役になっていた。
「私がさっき聞いてきた所によると、この店には、他にも借金をこさえていた人がいたみたいです。動機は充分ね」
その間に、フローラは先ほどの店で聞き込みをしてきた。それによると、他にも給金の前倒しをしている者達がいて、苦労しているとの事だ。
「別の店に入って行きますね‥‥」
そうこうしている間に、常連は別の場所へ。その会合の相手は‥‥騒ぎで店がつぶれて欲しい立場の人間。
「ふむ。どうやら、あの御仁が黒幕のようですね」
そう判断するファング。すかさずフローラが、カルルにこう言う。
「皆を呼んできて。多分、あの人が黒幕よ」
頷くカルル。程なくして、東雲とパープル女史も駆けつけてくる。そして、皆でいっせいに店の中へ‥‥。
「そこまでです!」
店の人、目をぱちくりしている。そこへ、一花が事情を説明し、奥の個室を貸して貰うよう申し出ていた。
「いや私は何も‥‥」
「異議アリ! こっちには証拠だってあるんだよっ!」
しらばっくれようとする当の御仁に、カルルが指先をつきつける。と、イフェリアが足元からにゅうっと背を伸ばして、その御仁に顔を近づける。
「あんさん、このまま嘘付き通しとったら、ええ加減耳から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタイワすぞ! この‥‥がぁぁっ!!」
最後の方は良く聞き取れなかったが、どうやら報告書にかけない様なセリフのようだ。くすくすと見下した視線を投げかけるパープル嬢と一花。
「残念ながら、逃がす気はありませんよ」
コアギュレイト唱える気満々のフローラ。そんな逃げ場の無い状況に、逆らう気の起きなくなっちゃった黒幕さんだった。
結局、真相はファングの予想したとおりだった。
すなわち、ヒメニョの借金を立て替えた者が実は人身売買の一味で、彼女に罪を擦り付けようとした。
「なんだか、二つももらっちゃったね」
全員の手元に、天使の祈りが二つずつ。と、東雲がそれを渡した天使嬢に、こう誘いをかける。
「よかったらうちの子にならないか?」
「は? 何言ってんのよあんたは!」
が、それに関しては、パープル女史に全否定されちゃったので、保留と言う事になった。
「借金は、本当によろしいんですか?」
「ああ。そこの嬢ちゃんのお守りを、店の客に見せてたら、結構な値段がついてね」
給仕姿のフローラに、そう答える店主。なんでも、もらった天使の祈りが高く売れて、その分と、フローラ達が一緒に働いたお給金で、借金は完済になったらしい。
「‥‥というわけで、結局色んな衣装を着てくれました。とても面白かったです。まるっと」
給仕服を着たまま、お茶会を繰り広げている女性陣を見て、カルル、手元の日記に書き書きとその光景を記すのだった。