【豪州国交】ブラック・パール

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月19日〜06月26日

リプレイ公開日:2009年07月03日

●オープニング

 オーストラリアが、ロシアに国として認めて貰うには、それ相応の「国力」というものがいる。それは、特産品であったり、加工力だったりする。
「これ、良いんじゃないかしら」
 そのリストを、議長宅で見せて貰っているミカエルがそう言った。厳しい検査を潜り抜け、ロシアに届く品物は多くない。しかし、それには国の豊かさを示す品が確かに記されていた。
「真珠?」
「ええ。こっちではあまり採れないでしょ?」
 確か、もっと南の方まで行かなければ、お目にかかれないシロモノである。しかも、こちらで採れるのは、かなり小さなものだ。
「ふむ。確かにこれならば、国力を示すのに充分かも知れんな」
 そう思った議長は、すらすらと手紙を書いてくれた。それは、月道を通じ、オーストラリアへと届く。いくつかの手を経て渡されたそれに、返事が届いたのは、それから十数日程経った頃だ。
「うーん、結構大変ねぇ」
 戻ってきた手紙にはこう記されていた。例によって、訳しは語学に堪能なパープル女史である。


 前略 ミカエル・クライム様

 真珠は我が国にとっても、貴重な品です。天然ものの為、職人が一つ一つ採取してくるのです。
 加工等は、当国で行っておりますが、数は多くありません。
 それでもよろしければ、大きな真珠が取れるエリアというものがございます。
 遺跡の周囲に、格子状の岩礁があり、その下では、大きな真珠貝が鎮座している報告があります。が、危険な海洋恐竜が群れている為、うかつには近づけません。
 幸い、ムゥ時代の小さな祠が没しており、そこに逃げ込めば、海竜をやり過ごす事が出来る為、危険を冒す者もいないではないので、真珠貝には、珍しき黒い真珠が隠されている事もあると聞き及びます。ただ、私が生まれてこの方、成功した試しはございません。古い文献で知ったのです。
 それでもよろしければ、入り口までは我が精霊船でご案内できます。水中呼吸の品に関しては、人数分くらいはご用意できますので、よしなに願います。

 ハイドより。

 どうやら、遺跡までは案内をつけ、持ってきたものを、王宮への貢物として相応な形にする事は出来るが、それに付随する危険は、そちらで賄って欲しいとの事である。手伝ってくれとも言うが。
「オーストラリアの恐竜達と、まともに相手が出来る者なら、問題はないだろう。水中で呼吸が出来るなら、だが」
「魔法使えるのかしら」
「大丈夫でしょ。魔法なんだし。それに、遺跡はあんまり深くないそうよ」
 訳したパープル女史がそう言った。なんでも、真珠遺跡は、浅瀬が数m続いた後、格子状の浮いた岩礁があり、その下が深く切れ込んでいる。深さはだいたい20mくらい。下にいけばいくほど、大きな真珠貝がある。しかし、その周囲には危険な海恐竜の目撃例が後を絶たず、そこまで潜っていくマーメイドは多くない。幸い、格子岩礁の下側10mくらいの所に、洞窟型の遺跡がある。陸地があるため、そこに逃げ込めば、体の大きな海恐竜をやり過ごす事は出来る。ムゥの遺跡だと伝えられているが、細かい事は調査した事がないので、わからないそうである。
 だが女史は、眉をひそめながら、二枚目をめくる。

 ただ、気になるのは、その危険な海域に、遺跡調査の名目で、人が派遣されております。今のところ、取り立てて本国に被害はないのですが、その報告を境に、今まで1匹2匹程度だったのが、最大6匹まで膨れております。何か刺激をしてしまったのではないかと危惧しておりますが、参考にしていただければ幸いです。

「どこの国でも、バカがいるって事かしらね」
 ミカエルが、そう呟いたとか何とか。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0664 ゼファー・ハノーヴァー(35歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb0356 高町 恭也(33歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4668 レオーネ・オレアリス(40歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 依頼を受けた面々は、月道を経て、オーストラリアへと足を踏み入れていた。
「わぁ、見てください、見てください、恐竜ですよ、あっちには変わった動物やモンスターが‥‥凄い、凄い」
 すっかりオーストラリア移動の足となった精霊船の上で、外を見渡している沖田光(ea0029)。
「ああ、ブラキオの奴だな。襲ってはこないから安心しろ」
 おめめきらきらさせて、興味津々と言った調子の彼に、レオーネ・オレアリス(eb4668)がそう解説している。
 そんな中、真珠を捕りに向かう前に、ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)の希望で、まずは遺跡を調査していたという人達へ話を聞きに行く事になった。
「ムゥといえば、噂では住人全員がゴーレムだったとか、人面岩から巨大なゴーレムを呼び出して操っていたとも‥‥」
「えぇぇぇ! そうなの?」
 沖田は深刻な顔をして、指を立てる。驚いた表情のミカエル・クライム(ea4675)。脇からレディさんが「あるわけないでしょ」と突っ込んできたので、2人ともちょっと残念そう。
「あったら面白いのに。ま、出会ったら話を聞いてみましょ」
 そう言って、ミカエルは足を速めた。ゼファーの話では、この先の建物に、調査に赴いた面々がいるらしい。
「あれが調査の面々がいる塔か」
 ほう、と感嘆の声をもらすゼファー。賢者がいる塔をイメージしていたが、マーメイドのそれは、海中深くまで伸びていた。マーメイドの国なので、いわゆる『空』は、こちらでは海の底深くにあたるのだろう。そう解釈する彼女。
「恐竜達を呼び寄せてしまった理由も気になるが‥‥それよりもただの遺跡調査員ではない、ということはないといいのだが」
 高町恭也(eb0356)がそう言って、ハイドにつなぎを取るよう頼んでいる。しばし姿を消した少年は、ややあって塔から戻ってきた。どうやら、会ってくれるようだ。
「あそこには遺跡があるという。誰から依頼があったのか? 他に派遣された者は?」
「実は、王族に連なる方が、我々もそう言ったことに目を向けるべきだとおっしゃいましてね」
 名前は濁した。王宮の事だ。人間達と同じ様に主家にご迷惑が云々とか言う話があるのだろう。ただ、どこか別の国が‥‥と言うわけではなく、彼ら探検隊との接触によって、こちらも文化事業を行うべきだと言う話になっただけと、その青年は説明してくれた。
「ふうん、本当にただの遺跡調査なのかしらねぇ」
 だが、そんな話にも、ミカエルは意味ありげにそう言ってくる。世の中、浪漫だけでは動かない人間もいる。
「あまり歓迎はされていないようだな」
 接触前に、リヴィールエネミーを使っていたゼファーは、今相手にしている調査担当の青年が、心よくは思っていないことを感じていた。見つかったものを見せてもらったが、いくつかの陶器の欠片と、金属片らしい。
「他にも遺跡は調査しているのか?」
「はい、各地に向かっています」
 その割には、こちらへ来る途中で、そのような集団にお目にかかった事はなかった。そこに、違和感を感じるゼファーは、石の中の蝶に注意を払うが、蝶はびくともしない。
「何か我々が調べて困ることでも」
「いや、もし新たな発見があったり、遺跡を調べに行くと言うのであれば、こちらにも教えて欲しい。私も、ムゥの事について、色々知りたいのでな」
 鉄面皮。そんな表現の似合う彼に、ゼファーはそう申し出るのだった。

「竹が手に入らなかったが、これでも良いだろう」
 刀也が、ミカエルが持ってきた浮き袋と、イグニス・ヴァリアント(ea4202)が持ってきた網袋を、軽い木の板を竹簡状にした物にくくりつけている。準備が進む中、文献で真珠の色を確かめていた東雲辰巳(ea8110)が、ぼそりと呟く。
「うぅむ、真珠か‥‥‥‥。この辺りは青みがかってるらしいが、紫色のとかもあったりするんだろうか?」
「やっぱり狙うからには大粒のブラックパールとかが良いわね♪  あ、レッドパールなんてないかな〜、あったら良いな☆」
 ミカエルも、自分のカラーに合わせた真珠を見てみたい模様。狙い目がなんとなく分かる発言である。頭を抱えたレディさん、こう答えていた。
「紫も赤もないこたぁないでしょうけど、激烈にレアよ。だから高いんじゃない」
 確かに文献にも、稀少度が高いと書いてあった。その文献には、他にも首飾りや髪飾り、それに薬にも転用可能と書いてある。それを見て、雪切刀也(ea6228)もこう聞いた。
「加工する術は失われてるのだろうな。水の精霊に、その辺りの事、聞けないか?」
 ハイドが、神殿へと走っていく。いや、泳いでいくと言ったほうが正確か。
「ふむ。色づけはともかく、加工は容易と言う事か‥‥。そうだ。ついでにブランの加工についても聞きたいんだが‥‥」
 数刻の後、刀也は黒曜石と共に、水の精霊の神殿にいた。そしてついでに、自分の目的についても、質問を重ねる。と、精霊はこう答えた。
「あの鉱石は、高温で加工する粘土のようなものですから‥‥。温度を維持する事が出来れば、色々な物になるでしょうね」
 そう言う意味では、加工のしやすい物体でもある。精霊が覚えている限り、アクセサリーやお守り、盾にもなっていたそうである。
「なるほど。だったら次は、そのめちゃくちゃ高温の粘土を、扱えるようにするのが先決だな」
「難しいものだなー」
 聞いてきた話を、皆にも報告すると、黒曜石はそう答えてくれた。無から有を作り出すのは、存外大変な事のようである。

 とりあえず、依頼を先にこなそうと言う事で、一向は問題の海域へと向かった。小船に網袋を積み、ゼファーがブレスセンサーを唱えると、水中に大きな生き物が3〜4匹いると言う事が分かる。
「回りに道具がないから、いるのはミニモサだけかもしれないな。気をつけて潜る事にしよう」
 沖田がそう言って、借りた水中呼吸の宝珠を身につける。相談の結果、まずは15mくらいを目指して潜る事になった。
「やっぱり、全員で行った方が良いんじゃないか?」
 イグニスがそう言い出した。
「いや。まずは半々で試した方が良いだろう」
「俺がまず潜ろう。泳ぎは得意だ」
 刀也がそう言うと、レオーネが先に手を上げる。相談の結果、その2人がまず潜り、その数分後、他の面々が潜る事になった。
「岩陰とかにいるらしいんだけど」
 流れは、割と穏やかだ。岩陰を探すと、そこで急に流れが変わる。結構抵抗は強い。潜れるだけでは駄目そうだ。
「なるべく大きくて綺麗な貝を探せばよいということだな」
 恭也が岩の影を覗き込む。水中呼吸の可能な宝珠の便利さを感じながら、足を動かすものの、海草がへばりついていて、岩だか貝だかわからなくなっている。
「まさか黒真珠の魔力が、かつてムゥに災厄を‥‥」
 沖田がそんな事言っていたが、レディさんに思いっきり否定されてしまった。
「このあたりに、たくさんあるようだね」
 その沖田が見上げた先には、格子状の海草が連なっており、その下の方に、大きな貝があるようだ。その下は岩場になっているのだが、ちょっとつつけば剥がせそうである。
「紫色はないかなぁ‥‥」
 東雲、まだ探している。個人的なことだとか言っていたが、パープルセンセにちらちらと視線を向けている辺り、一目瞭然だ。だが、外からでは今ひとつ良く分からない。
「仕方がない。とりあえず黒と大型メインで探すか」
 中には、紫がかった黒とか、薄い紫な青とかあるかもしれない。皆と同じ様に、15m近辺で、貝を探す東雲。そうすると、程なくして海草に囲まれた黒い塊が見つかる。
「てこの原理で‥‥と。ああ、これなんかよさそうですね。えぇい」
 クリスタルソードの魔法を唱えた沖田は、その先を貝の下に挟んだ。
「危ないっ」
 手を出したところ、レオーネに手をはたかれた。直後、貝の口が急に閉じる。その貝の口は、挟まれたら怪我ではすまないくらいに、とても鋭利だった。
「気をつけないといけませんね」
 沖田はレオーネと2人がかりで、貝をひっぺがす。それを、イグニスが持ち込んだ網袋に入れて、お手製の浮きをつけて海面へ浮上させる。海面にはハイドがいて、それを船に引き上げてくれる手はずになっていた。
「あの奥を採りたいんだが‥‥」
 そう言うレオーネ。大きな貝はそれよりさらに5mほど下だった。だが、泳ぎの堪能らしいレオーネがいくら足を動かしても、中々底までいけなかった。どうやら、潮流が激しくて、そこから先にまで行けないようだ。
「お、ミニモサが来た」
 沖田がそう言った。見れば、潮流の向こう側から、サメのような動きで、海竜が泳いでくる。彼らが進路を向けたのは、潮流の向こう側にある巨大貝だ。
「なるほど、目当ては真珠貝の中身か‥‥」
 納得する恭也。どうやら、ミニモサにとって、真珠貝の肉は好物だったらしく、先ほど狙っていた辺りで、貝を咥えばりばりと噛み砕いている。中身の真珠ごと。
 その体が冒険者達の方を向いた。
「隠れろっ」
 刀也が途中の遺跡を指し示す。方向転換する一向。だが1人、レディだけが遅れてしまう。
「レディ、こっちだ」
 東雲が腕を引っ張り、レオーネが反対側から押して行く。かなり距離が離れていたせいか、何とか追いつかれる前に、遺跡へとたどり着く事が出来た。
「大丈夫か?」
「さすがに上手くバランス取れないのよねー。ありがと」
 東雲が、心配そうに確かめると、彼女はにこりと笑顔で答えてくれた。染まった頬を人に見られるのは照れくさいので、彼、回れ右して勾玉を取り出す。これでしばらくはしのげるはずだ。
「で、ここが例の遺跡か‥‥」
 レオーネが石の中の蝶に目を向けるが、動きはない。
「暗いな。明かりつけよう」
 ゼファーが、持っていたリングの効果を発動させる。ほんのりと点った明かりが周囲を照らす。そこへ刀也が細工道具を持ち出してきた。これなら、回りに突いたコケや土を、遺物を傷つけずに掘り出せそうだ。
「結構本格的ねー」
「どうも、細工作業をしていた場所らしいな。この台座なんか、使いやすそうだ」
 ミカエルが興味深そうに見守る中、ゼファーが、台座を調べている。試しに、持っていた貝を当てはめてみると、ぴたりと一致していた。
「記録は、この辺を映していけば良いかな?」
「遺跡調査か。何かこういうのをすると冒険、という感じがするな‥‥」
 恭也がそう言いながら、奥の方へと進んで行く。その後ろから、遺跡の様子を書きとめている刀也が続いた。
「集まる原因、遺跡の中にあったりしないでしょうか? 子モサが入り込んで出てこないとか」
 沖田も気にはなるようだ。と、ゼファーがその先に泉のようなものがわき出ていることに気付く。まさか結界の維持? と思い、近づいて行くと、湯気の立つ水が、こんこんと噴出していた。
「ここ見てみろ。これじゃないか?」
 その周囲だけ、色が違う。それは、遺跡の脇に掘られた水路を流れ、海に注ぎ込んでいる。その割に、遺跡が水で埋まらないのは、天井に穴が開いており、そこから青い空が見えているせいのようだった。
「この絵によると、これは宝石加工に使ったようだな」
 その暖かい泉の回りに目を向ければ、貝のマークと、丸い玉が描かれている。刀也が記録に取りながら、そう判断していた。
「残されてるパールとかないかな‥‥」
 東雲が、泉を覗き込む。しかし、中は濁っていてよくわからない。その周辺には、足跡がいくつかついていた。おそらく、先に聞いた調査員のものだろうと、恭也は判断する。と、その時、入り口の水辺でばしゃりと音がした。
「だれだっ」
「あ、あれ? もうこちらにきてたんですか」
 ゼファーがリングを向ける。そこにいたのは、彼女が会っていた代表者のようだ。と、レオーネは出来るだけ穏やかな口調を心がけながら、こう声を帰る。
「あなたが、調査員ですか。我々はロシアからの特使。出来れば、ご協力いただきたいのですが」
 あまり、揉め事は起こしたくない。
「国交を結ぼうと言う方ですね。それは構いませんが、まずは、あれをどうにかしてくれませんかね」
 彼はそう答え、後ろを指し示した。直後、伸び上がるようにミニモサが入ってきて、牙をむく。その狙いは、先ほど入って来た調査官だ。
「いやー、我々も実は避難してきてまして」
「最近目撃例が多いと聞くが、何か知らないのか?」
 イグニスが、すかさずそう訪ねた。調査官は、あいまいな表情を浮かべたままだ。業を煮やしたイグニスは、ある質問をぶつけてみる。
「まさか、恐竜の卵を狙ってとか?」
「‥‥いや、そのですね」
 ばつが悪そうにしていた彼だったが、ややあって、持っていたポーチから、丸いものを取り出す。黒い‥‥真珠によく似た卵。
「こいつを取り戻そうとしていたのか‥‥」
「申し訳ありません。ですが、恐竜の卵は、ものによっては、非常に滋養の豊富な食料ともなります。人が、鳥の卵を食べるのと同じ事です」
 ゆえに、高価な値が付いている事も珍しくはないと。どうやら恐竜達は、この暖かい海で卵を産み、貝でその栄養を補おうとしている模様。
「最近増えてきたのは、産卵期だったと言う事か‥‥」
 イグニスがそう言って話をまとめた。直後、卵かえせーと言わんばかりに、海竜が吼えてくる。
「とりあえず、足止めから始めましょ」
 ミカエルがスモークフィールドを唱える。まともにやっても分が悪い。イカの墨と同じ要領で、周囲を黒く染める。
「所詮は恐竜、動物だ。痛い目を見れば引き下がるだろう」
 持っていた轟乱戟を銛のように持ち、陸地側から突き刺すように繰り出すレオーネ。身を翻し、海中へと逃げて行くミニモサ。
「やられっぱなしというのは性に合わんのでな!」
 そこへ、ソニックブームを叩き込むイグニス。ミニモサの厚い鱗では、たいしたダメージを与えられないだろうが、威嚇には充分だ。
 その間に、彼らは確保した貝をかき集め、海上へと戻るのだった。

「なんとなく気になるので見せてもらえるなら見せて欲しいが‥‥」
 手に入れた貝は、そのまま工房に運ばれた。見学希望の恭也が見守る中、開封作業が行われ、中の真珠があらわになる。その真珠に、職人達は慎重に金飾りを施して行った。その工程は、刀也の希望する、ブランの加工にも通じているように、恭也には思えた。
「紫の真珠はないか‥‥」
 一方、開封作業の進む貝を見回し、残念そうに呟く東雲。周囲には誰もいない。
「ずいぶんとこだわるわね」
「いや、これをこうしたら、似あうと思ってな」
 レディさんにあきれられる中、そう言って、青みがかった一粒を手に、その胸元へとおさめてみせる。
「‥‥バカね」
 こつんと額をはじかれる東雲。けれど、その東雲が伸ばしてきた腕には、抵抗せずすっぽりと収まってくれるのだった。