【豪州国交】奪われた貢物

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月14日〜09月19日

リプレイ公開日:2009年09月25日

●オープニング

 ここ数日、正直言ってそんな予感はしていたと、女史いわく。
 何しろ買い物に行ったら、子猫の死体にあたるわ、花壇の花は枯れるし、果ては水桶が振ってくるし。
 しかし、それでも仕事はやってくるわけで。その日、パープル女史は、お琴嬢に呼び出されて、議長宅へ赴いていた。
「ようやくここまでこぎつけたって所ねー」
「はい。ただ、このままではまだまだ国交成立までは先です。そこで、ご協力を賜りたく」
「迎えに行くまでは構わないわ。んと、そうすると、その後に会談をセッティングって形になると思うんだけど」
「陛下はやはりお忙しい方ですし。宮中では段階を踏んでもらわないと困ると言う話もございます。そこで、離宮を使いまして、宮中側近の方に、御使者の方々とお話し合いの場を持ってもらおうと言う事になりまして」
「って言っても、何を話すのよ」
「実は、決まっておりませんの」
「はぁ?」
「今回は、宮中側近の方と会っていただくのが目的ですから。護衛も宮中の方がやってくださいますし。方々も、後はクイーンズランドにいる方々が、本当に信用にたる方々かと分かれば、大丈夫だと言われますでしょうから」
「なるほど。報告書だけなら、いくらでもでっち上げられるし。証人が必要ってことね」
「はい。よろしくお願いいたします」
 そこでそんな会話が繰り広げられていたそうな。

 数日後、キエフ・月道‥‥。
「お久しぶりです。女史」
 月の輝きが収まると、異国の人々が姿を見せる。深々と一礼する少年は、向こうで言う礼服なのだろう。水の中でも動きを阻害しない服を身につけていた。いくつか装飾品も所持しており、いかにも使者と言う趣だった。
「ええ、元気だったかしら?」
「はい。こちらもようやく完成いたしまして。これで、我が国の国力を、王国にお知らせする事が出来ます」
 その彼が持ってきたのは、大きな彫像に布をかけたようなものだ。運んでいるのは、見覚えのある職人達。おそらくハイドが気をきかせ、調整の為と称してつれてきたのだろう。そんな彼に、レディさんは遙か遠くに見える宮殿を指し示す。
「そうだといいわね。さて、王宮までちょっと歩くけど、頑張って行きましょうか」
 できあがった貢ぎ物を運べば、今回のお迎えは終了である。だが、物事はそう簡単には進まなかった。
「‥‥ストップ」
 右腕のライトハルバードが、使者の前に差し出される。
「どうしたのですか?」
「そこ、隠れてないで出てきたら?」
 ハイドの問いかけには答えず、女史は緊張した面もちのまま、彼女は路地の陰にむかってそう言った。
「‥‥あらあら。バレちゃったわね」
 姿を見せたのは、髪の短い女性と、数人の男達。体躯が立派なところを見ると、蛮族だろうか。
「隠してないでしょ。何の用かしら?」
「手を組まれると、やっかいなのよね」
 くすくすと、相手の女性に笑みが浮かぶ。そのまとう雰囲気は、闇に魅入られたもののように見えて、ハイドは思わず女史にしがみついていた。
「パープル様‥‥」
「大丈夫。抱えて下がってなさいな」
 こくんとうなずく少年。と、相手の女性は首もとに手をあて、配下とおぼしき彼らに合図を送った。
「あんまり使いたくなかったんだけどねぇ。まぁ流石に使わざるを得ないか」
 その日、キエフの路地裏で、戦闘の音楽が長く響いていたという。

 翌日。
「た、大変です! パープル様が!」
「何、彼女ほどの腕前の持ち主が‥‥」
 議長宅では、蜂の巣をつついた騒ぎになりつつあった。
「だーーーっ! もう、なんなのよあの女ー!」
 ベッドの上で、元気そうに手当された腕をふりまわす女史。その傍らには、申し訳なさそうなハイド少年がいた。
「‥‥元気じゃないか」
「元気じゃないわよ。どうもあの女に呪いかけられちゃったみたい。おまけに献上品奪われるしっ」
 なんでも、あのバトルで配下を追いかけている間に、後ろの献上品を奪われてしまったようだ。相手は、黒服のスマートな感じの男達ばかり6人。さすがの女史とて、蛮族と魔の者両方を相手にするのは、いささか分が悪すぎたというもの。
「申し訳ありません。僕がいたばっかりに‥‥」
「でかいもんだから、まだ遠くまでは行ってないわ。側近さんとの面会も間近だから、急いで追いかけて取り返しておいで!」
 うきーっとベッドの上で怒鳴る女史。しかし、すぐに顔色が悪くなる。なんでも、通常のけがだけでなく、何かたちのよくない呪いをかけられたようで、回復率が恐ろしく低下しているそうだ。そんな魔法は聞いたことがないので、何か手がかりになるかもしれないと、女史は言う。
「やれやれ。引き伸ばす係も必要だな。レイ、ギルドまで行って来てくれ」
「かしこまりました」
 一礼するレイ。こうして、ギルドには再び依頼が乗ったのだった。

「盗まれた献上品を取り戻してください!」

 なお、期限は側近達との会合が行われるまでだそうである。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 その日、キエフの街中で、怒りに燃える冒険者の姿があった。
「んもーーー! 信じらんないっ。人が苦労してこぎつけたって言うのにぃ!」
 町の一画。ギルドにほど近いここには、占いを生業とした者達が集まっている。恋に悩む乙女が訪れる事も多いその界隈で、ぷーっと湯気を吹き上げているのは、ミカエル・クライム(ea4675)だ。
「落ち着け。それを調べる為に、ここにいるんじゃないか。さて、どれにするかな‥‥」
 雪切刀也(ea6228)がそう言って、周囲を見回す。あちこちに占いのマークを掲げた天幕やら、水晶玉や占星道具を乗せたテーブルなんかが置いてある。
「と言うわけで、呪術の類に詳しい人や、凄腕の使い手の噂とか、最近流れてきていけすかないとか、そう言うの聞かせて欲しいんだけど」
 ミカエルが切り出すと、なんでも、ウラル山脈のふもとにある鉱山では、最近、もそっと奥の方に、巨大な龍のようなものの姿を見たそうだ。
「その中に、オーストラリアを悪く言う人とかいなかった?」
 豪州はわからないが、ただ少し変わった呪いをかけられた噂は聞いたそうだ。占い師自身が実際に目にしたわけではないが、山脈に通じるといわれている村や町を中心に、かなり広範囲にかけられているらしい。
「パープル女史、最近次々と不幸に遭遇されていたようですし、これは呪いも含めて計画的犯行ではないでしょうか?」
 その話を聞いた沖田光(ea0029)が、そう指摘する。もしかしたら、毛色の変わったデスハートンの可能性がある‥‥と。
「まぁデビルの仕業というのが一番分かりやすくて、しっくり来るが」
 未知の呪いかはたまた魔法か。いずれにしろ、人間のあずかり知らない所をやるのは、まず魔の者と、相場は決まっている。そう告げるイグニス・ヴァリアント(ea4202)。
「……悪魔絡み…かねぇ……。 その辺は勘弁願いたいところだが」
 が、何度も修羅場を潜り抜けてきた刀也も、やっぱりそれは苦手なようで、むぅと顔を曇らせるのだった。

 月道の周囲は、人も多い。それでも、人の途切れた隙間を狙い、荷馬車の跡を調べているジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)の姿があった。
「俺もそれなりに追跡能力はあるはずだが…こーいうのは相棒の得意分野だったな。奴になったつもりでやってみるか」
 知己の心情に倣い、地面へと屈みこむ。その一方で、沖田は何か気付いた事がないかと、月道の係員を尋ねている。
「現場百回、手がかりは金のわらじを履いてでも探せと、かの名奉行様や鬼平様、一つにかける親分さんもおっしゃってますしね」
 どこの御仁なのか、ヨーロッパ系の冒険者達には分からなかったが、きっと『偉い人』なのだろう。その格言に従い、現場での聞き込みに精を出す。
「使者殿の話では、蛮族と呼ばれる方々が荷馬車を取り囲んでいたとの事ですが‥‥。何か気づいたことはありませんか?」
 うーんと眉を潜ませる係員。冒険者の利用も多いここでは、一般的でない格好をしていても、あまり気にしていなかったようだ。どうやら、結構前から、月道を狙っていたらしい。
「俺の故郷じゃ、餅は餅屋って言うんだよ。こう言うのは、専門家に任せな」
 その一方で刀也は愛犬の涼を連れて、JJの所へ追跡参戦に来ていた。轍の跡は複数あるが、インタプリティングリングがあるので、指示は的確だ。
「確か、その献上品は骨が使われてる筈なんだよな。涼、匂いを辿れるか?」
 職人さんが持っていた品を出し、その匂いを追うよう指示する。「わん」と頷いた涼、いくつか重なる轍から、北の方角へ向う轍を選ぶ。
「追跡はそんなに難しくなさそうね」
 その様子を見て、安心した様にミカエルが言った。目印さえあれば、後はJJがやってくれる。
「これだけの大掛かりな移送となると、目撃者も絶対いるだろ。献上品も蛮族も、相当目立つはずだからな」
 月道の建物からだいぶ離れた頃、イグニスは周囲を見回す。住宅街を抜け、そこから先は、各種街道に伸びているのだろう。
「あのあたりがよさそうですね」
 沖田が指し示した先には、街道の向こうにある村に、荷物を発着する荷馬車の停留所があった。何匹かの馬が、体をブラッシングされていたり、飼い葉を食んでいたりする。そんな馬達の世話をしている一人に、イグニスが近寄って言って、聞き込みを開始した。
「この辺りでデカイ荷物を抱えた怪しい連中を見なかったか?」
 献上品は、かなりの大きさと重さを持つ。もし、ここから積み出したのなら、目撃情報くらいあるだろうと言う算段だ。それによると、冒険者にしてはちょっと上品さに欠ける風体の連中が、布をかけた大きなものを、裏の方でこっそり降ろしていたそうだ。
「何か特徴とかありませんでしたか?」
 目撃したのは、降ろしている所だけで、その後どうなったかは知らないそうだ。うーんと考え込む沖田。
「なぜ妨害に出たか、そこが重要な気がします…真珠の取引が始まって困る宝石業者か、あるいは密輸グループとか」
 念のため、荷馬車屋の人にも聞いて見たが、ここで取引されている宝石の類は、おおよそ山で採れた鉱石を元にしたものばかりらしい。中には書類不備だったり、必要な手続きを踏んでいなかったり、こっそり水増ししていたりと、それなりに『密輸』と言われる類の騒動はあるが、組織だったものではないようだ。
「やはり、荷を入れ替えてるな。ここの馬車は、どこへ向かうんだ?」
 一方、刀也は涼から匂いが途切れてる事を告げられ、そう判断した。荷馬車屋さんによると、ここから出発するのは、おおむね鉱山のある山岳地帯へ向う荷馬車で、日によって違う開拓村を回る、いわゆる定期便と言う奴らしかった。
「よし、追いかけてみるか‥‥」
 貢ぎ物の奪われた日のルートを教えてもらい、そちらへと向う。と、程なくして、再び同じ匂いを発見した涼が、刀也にお知らせしている。傍から見れば、吼えているようにしか見えない姿だったが、リングを持つ彼には『見つけたよっ』と嬉しそうに言う涼の声が聞こえた。
「ここから川を上ったっぽいな。この先には‥‥開拓村か」
 そこには、道をさえぎるように川が流れていた。
「そろそろ日が暮れる。急がないと‥‥な」
 おそらく、不逞の輩は、その川をそのまま渡って行ったのだろう。そう判断するイグニスが見上げると、日は高いが、風は夕暮れ時の涼しさが混ざり始めているのだった。

 とっぷりと陽の落ちた頃、冒険者達はキエフから1日と言った趣の町にいた。まだ山岳部には遠いが、ここ10年以内に出来た町だろうと言った真新しさが、町のそこかしこに見えている。
「涼も、匂いがこのあたりで途切れたと言ってる。道がぬかるんでるから、流されちゃったんだろうな」
 地面には、どういうわけか水が撒かれていた。天候が急変した覚えはないが、ぬかるんでいて気持ちが悪い。轍は‥‥それをつけた犯人だろう荷馬車が、町の入り口に置いてあった。馬の姿もない。
「まずは相手に見つからないように、ブツを抑えないと。ジョーイさん。頼むわ」
「JJでいいぜ」
 刀也の弁に、JJはさっくりと言って、町の中に足を踏み入れる。ここから先は、潜入や偵察に長けた彼の仕事だ。ただ、奪還は皆で。それが約束だった。
(轍の後は止まってるが、これだけの重さの品だ‥‥。それと人数が入る家なら、決まってくる‥‥)
 お宝の匂いには敏感だ。条件を省みて、見合う家を絞り込んでみれば、だいたいの目星は付けられる。己の判断を信じ、JJは町の中で一番大きな屋敷へと滑り込んでいた。
(いたいた)
 屋根伝いに侵入し、天井裏へとお邪魔する。まずは状況を確かめるべく、使用人の部屋と思しき場所へ入ると、仕事を終えたらしき男達が、酒を片手にカードかなんかを広げている所だった。おそらくは見張りでも仰せつかっているのだろうが、まるで警戒はしていない。その為、JJには、中の会話がよく見えた。どうやら、パープル女史が言っていたその女ボスというのが、別室にいるようだ。
(ふむ。どうやらあのお姉ちゃんか‥‥。ここは説得しとくべきかね)
 貢ぎ物の権利は、その女ボスが握っている。後ろにある事情もおそらくそうだろうと予想したJJは、天井裏の梁を伝い、奥の部屋を目指す。と、入れ替わるようにして、ひときわ体格のでかい男が部屋に入ってきた。ジャイアントかもしれないが、いまは細かく確かめている隙がなさそうだ。
(おっと、あぶねぇあぶねぇ。あれが族長ってやつか‥‥)
 だが、見張り達を束ねているのは確かだろう。JJは慎重に身を潜ませる。
「おかしいな。気配を感じた気がしたんだが。警戒しておけ。水の化け物王国は、冒険者と手を組んだって言ってたからな」
 巨体に見合った声で怒鳴り散らす。「へーい」とテーブルの上を片づける見張り達。だが、その動きよりも、JJは族長と呼ばれた男の弁が気になっていた。
(なるほど、そう言うことか。つまり、あのボスを追いかければ、お姉ちゃんの顔を拝めるって所だな)
 そう思ったJJは、部屋を出ていく男を追いかけるようにして、天井裏を進む。程なくして、男は一番奥の部屋で止まっていた。どっかりと椅子に腰を下ろす音が聞こえる。のぞいてみれば、つい数刻前までこの家の主だったと思しき御老体が、壁の隅っこの方に追いやられており、主の席に族長が。そして、その視線の先、窓辺にたたずむようにして、少々冷たい感じだが、ショートカットのロシアン美人がいた。テーブルの上には、まごう事なき貢ぎ物。
 くす、と女の笑みの端がつり上がる。と、女性は貢ぎ物の台座を愛しげになでた。まるで、装飾を付け加えるかのように。その雰囲気が、何となくパープル女史と似ていると感じた直後、JJのうなじが総毛立つ。
(やばいかな)
 危険信号だと感じたJJの方へ、女ボスが顔を向ける。見つからない自信はあったが、世の中には上がいる。用心を取ったJJは、くるりと回れ右。
(あの女、どうやら蛮族じゃねぇな。よし、ほかに何か探してみよう)
 願わくば、何か面白いネタをと。そう思うJJだった。

 さて、その頃、表の追跡組はと言うと。
「JJさん。遅いですね‥‥。中で身動き取れなくなているのかもしれません。やはり、足止めに動きましょう」
 踏み込むことを提案する彼。と、ミカエルも持っていた発動体を握りしめる。
「わかった。援護するわ」
 できるなら、表に連れ出してくれと頼む彼女。燃えやすい場所で、炎の魔法を使うのは、気が引ける。刀也も涼を下がらせ、剣に手をかける。いつでも飛び出せるように身構えた直後、沖田が扉に手をかけた。
「さぁ、おとなしくお縄についてください!」
 明王様の御前です! と言わんばかりに、巻物が広げられている。うろたえる蛮族達。
「ふん。人の苦労を台無しにする奴はこうしてやるわ!」
 そこへミカエルがファイヤーコントロールを襲いかからせた。乙女の怒りは、下っ端にも容赦ない。だが、その刹那だった。
「おっと。そこまでだ! そこの女、こいつがどうなってもいいってのか!」
 怒号が響いた。みれば、族長と呼ばれていた大男が、貢ぎ物を抱え込んで、そう言っている。彼の丸太のような腕をみれば、華奢な細工モノなど一瞬でぶっ壊れてしまうだろう。
「ああもう。近寄れないじゃない!」
 ミカエル、悔しそうにそう言う。得意の炎魔法では、貢ぎ物まで焦がしてしまいそうで。が、大男は気を失っていた部下をひっつかむと、回れ右だ。
「ほざけ。今のうちにとんずらだ!」
「く‥‥。生け捕りにしたかったんだが、無理か‥‥」
 事情を知りたかったイグニス、悔しそうに言った。が、族長が荷馬車でとんずらしようとしたのか、扉を開けた直後である。
「いーや、そうでもないぜ!」
「何!? うわぁぁ」
 馬、逆に家の中へつっこんできた。みれば、その背中には、JJが振り落とされないようにしがみついている。身の軽いJJ、そのまま落ちるなんて事はしない。軽くはねるように着地した彼が、そのままの勢いで跳ねるように大男の上へと駆け上がる。気を取られる族長。
「今だ!」
 イグニスの短剣がきらめいた。刹那、JJは族長の手から、貢物を抱え込んでいた。あまりスマートなやりかたとは言えなかったが、この際大胆にいくのも1つの手だ。そこに響いたのは、よく通る女の声だった。
「あらあら。何を騒いでいるかと思えば‥‥」
「よう姉さん。美人にむさいのは似合わないぜ」
 族長が、援軍到着と言うのを遮って、JJは女ボスにそう話しかけている。
 鼻息の荒い筋骨ムキムキの大男と、スマートな感じの金髪細身な青年とを見比べていた女ボスは、口元に笑みを浮かべて小首を傾げた後、裁定を下す。
「うーん。そうねぇ、ここは良い男の意見に従おうかしら」
 くるっと回れ右して、そのまま裏口に姿を消す女性に、族長はあっけにとられていたが、やけくそ気味に叫んだ。
「ここここ、こうなったら、全員やっちまえ!」
 騒ぎを聞きつけて、別棟にいたらしい蛮族が、入り口から乱入してくる。が、貢物さえ奪い返してしまえば、こちらのものだ。
「そう簡単に逃げられると思うな!」
「人のモノに手を出すからこうなるのよ!」
 そこへ、イグニスがダブルアタックで族長の脚に切りつけた。直後、ミカエルが、ここぞとばかりにマグナブローをお見舞いする。
 こうして、怒りに燃える冒険者さんは、あっという間に蛮族をノしてしまうのだった。

「マーメイドが水モンスターの元締めだってぇ? 誰がそんな根も葉もない迷信を‥‥」
 族長さんに話をさせた所、なんでもとある髭の偉そうな御仁から、オーストラリアがバケモンの巣窟で、そのバケモンを自分の部族の用心棒にくれると言われ、二つ返事で汚れ仕事を引き受けたらしい。顔を引きつらせるイグニス。
「だって、ラスの旦那が!!」
 言い訳をするように、族長さんは知った名前を口にした。
「ラスの旦那だって? まさか、ラスプーチンとか言わないか?」
 まさか‥‥と確かめるイグニス。と、族長さんはこくこくと頷いて、聞かれてもいない事まで、ぺらぺらと喋り倒し始める。
「確か、あの女がそう言ってた。そんで、そいつの命令に従うように言われたんだ。そこまで話したんだから、見逃してくれよー!」
 どうやら、彼はただの下っ端のようだ。ラスプーチン本人がコンタクトを取ったかも怪しいが、この国交を邪魔したい存在として、ラスプーチンの事を確信するイグニスだった。