魔法陣の向こうへ

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 51 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月21日〜11月24日

リプレイ公開日:2009年12月01日

●オープニング

「では、件の魔法陣は、キエフに害なすものと判断してよろしいのですね?」
 冒険者達の持ち帰った魔法陣の情報と、その一部は、王宮の賢者達が調べていた。
「はい。持ち帰った一部から判断するに、古い材料が織り込まれているようです」
 サンプルを見て、判断する議長。その一部から、文字の書かれた布が見つかった。他にも、持ち帰った品々は、その魔法陣の影響が、広範囲に及んでいることを物語っていた。
「早急に対応が必要ですな」
「まずは、件の村を拠点として押さえる方が先でしょう」
 だが、あちこちできな臭い匂いが漂う中、その事件は思わぬところから発覚するのだった。
「王妃様のお加減が悪いとか‥‥」
 会議同日、王妃の宮殿。警備の兵達が心配しているのも当然で、ここのところ、王妃は体調を崩して、部屋からあまり出られないらしい。なんでも、魔法陣に弟の様に可愛がっていた親戚の名が書かれており、心労のあまり‥‥と言うわけだ。医師の話では、噂になっている呪い云々の前に、体力が低下しているとの事。
「おかわいそうに。それで、その従弟君の行方はわかったのか?」
「いや、まだだ。おそらく、魔法陣の書かれた鉱脈のどこかにいるんだろうって話だが」
 首を横に振る兵士達。魔法陣からそう遠くない場所に、その生贄となるべき者達は捧げられているのだろうと、識者達は話していたそうだ。
「やっぱり、冒険者達が派遣されるんだろうか」
「だろうな。そもそも見つけてきたのもやつらだし‥‥」
 そう言っていたすぐ横で、冒険者ギルドへ向う文官の姿が見えた。きっと、派遣申請の書類だろう。だが、入れ替わりに入ってきた兵士の報告に、その場が凍りつく。
「おい、大変だ。ウラルの鉱脈に近い村が、黒い竜の隊に壊滅させられたそうだぞ!」
「なんだって!? それってもしかして、魔法陣の近くだったりしないか?」
 頷く兵士。それは、今まさに文官が捜索願を出してこようとした先にある村だった。冒険者達の報告を聞き、複数の人間を派遣しようとして発覚したらしい。
「今王宮が人員をかき集めてる。すぐに準備をしてくれ!
 こうして、ギルドには捜索願の他、こう付け加えられることとなった。

『トーマ殿捜索隊求む! ただし、現地は黒い竜部隊に蹂躙されており、大変危険である。気をつけて出立なされたし』

 願わくば、生き残った村人達も避難させて欲しいそうだった。

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)

●リプレイ本文

 沖田光(ea0029)曰く。
「多くの村人さんが、無事だといいのですが…それにしても、いきなり村を襲うなんて、絶対許せません」
「トーマから情報を聞き出して、一気にチェックメイトといきたいところだ」
 答えるイグニス・ヴァリアント(ea4202)。魔法陣と黒い恐竜を排除し、トーマの保護をする為、冒険者は件の村へと向っていた。
「やはりブラン製の聖剣が必要か‥‥」
 道すがら、議長からの手紙を広げていた雪切刀也(ea6228)は、そう呟く。議長にブラン製の剣が必要かどうかをたずねて見たところ、有効ではあるそうだ。
「黒曜石、心当たりはないか?」
 普通は何らかの別手段を併用する必要がある。それを、刀也は自身の剣に宿る精霊に尋ねていた。壁の取り払われた今、遥か豪州にいる彼女も、薄ぼんやりとかすかな姿を表す事は出来るようになっていた。
『聖なる力、と言う事であれば、末の妹が一番力が強い。ただ、制御には助力がいるだろう』
 半透明な姿のまま、そう答える黒曜石。色で言えば『白』をつかさどる精霊の妹は、そう言えば教会のような遺跡で、天使の姿を模していた事を思い出す。どうやら、豪州以外の土地で、封印の術を使うのには、それなりの材料が居るらしい。
「ねぇ黒曜石のおねえさん。ついでなんだけど、レミエルおねえさんの事、何か知らない?」
 カルル・ゲラー(eb3530) がそう尋ねたが、こちらの事はよくわからないらしい。
「うーん、レミエルおねえさんが悪い人じゃないと良いんだけど‥‥」
 願わくば、ラスプーチンの味方ではない事を祈りたい彼。
「直接聞いた方が早い気がするがな。見えてきたぞ」
 イグニスが先のほうを指し示した。見れば、毛皮に身を包み、黒い恐竜に跨った蛮族が、いく人も見えた。
「恐竜さんはわるい人に利用されてかわいそう。何とかしてあげたいにゃ〜」
 その目つきの悪い恐竜達をを見て、カルルはぽそりと呟く。
「それじゃあ、いこっか、黒曜石。 何時も通り、何時もの様にね」
『‥‥そうだな』
 足を踏み出した刀也だけに、精霊の声は届くのだった。

 とにかく、村の危難を退けるのが先だ。と言うわけで、冒険者達は急ぎ村の中へと向った。
「分かれてとも考えたけど、まとまって動いて蹴散らさないとっ」
 各個撃破と考えていたミカエル・クライム(ea4675)だったが、1匹づつ仕留めておいた方が良さそうだ。野放しにしていたら、他にも被害が出てしまう。
「奇襲に気をつけてください。どうやら、村中に散らばっているみたいです」
 村には障害物も多い。物陰から襲われる事を警戒する沖田。周囲を見回し、警戒しながらも、トーマを探す。イグニスもトーマを探していた。見つかれば保護と行きたいところだが、ミカエルが声を出しながら探すと、程なくして、路地向こうから恐竜達が2匹、姿を見せた。
「あっちを排除した方が良さそうだな」
 トーマ捜索は後回しだ。そう判断したイグニスは、懐に飛び込む用にして、足元へダブルアタックを食らわせる。
「えぇい、あっち行きなさいっ」
 庇うようにミカエルが炎の壁を作り出した。回り込んだ恐竜達の速度は落ちていない。その走り方は、イグニスの見てきた恐竜と同じなのに。
「相手は元ディノだな。く‥‥ずいぶんと素早い割に、硬いっ」
 手ごたえは、まるで金属を殴りつけているようだった。どうやったのかは知らないが、出会った恐竜達より、かなり強化されているようだ。
「ここまでおいでなさい!」
 常葉一花(ea1123)が、一見すると無防備な姿で、おててを振っている。周り込んできた恐竜達が牙を剥き、その爪を振り下ろそうとした。
「そう易々とはやらせん!」
 イグニスのソニックブームが突き刺さった。足止めされたそこに、沖田が炎の翼を纏う。
「素早い…でも、炎の翼なら負けません」
 ミカエルの手によってエリベイションの加えられた彼、正面から突っ込んで行く。その間に、高速詠唱を使った一花がクリスタルソードを手に、フェイントアタックを食らわせていた。
「さぁ捕まえた! トーマの事、喋ってもらおうか!」
 そうして、バランスを崩した恐竜を、捕まえようとするイグニス。だが、倒れても恐竜の方が、パワーが上だった。押さえ込もうと苦労している間に、乗り手に逃げられてしまう。
「‥‥退け。主殿に報告する必要が出た」
 そんな事を言いながら、何やら支持している蛮族達。程なくして、姿が見えなくなる。
「元々、ただの警戒見張り要員ってとこか。本隊は別に居そうだな」
 あっさりと手を引いた事に、イグニスはそう判断した。報告にあった恐竜より、数が少ない。あちこちに壊れた家財道具が散乱している所を見ると、すでに本隊は別ルートで出発した所か。
「それより、村の人を助けないと!」
「怪我人が居るかもしれないしな」
 ミカエルにそう答えるイグニス。それに倣い、村人達を探す事にした。恐竜の外見を考えると、教会へ行くのが妥当だろうと言うことで、一行は教会へと向った。戦闘音を聞きつけて、教会の中がざわめいている。
「もう、大丈夫ですから、安心して出てきてください」
 沖田が安心させるようにそう答える。と、閂の音がして、扉が開いた。見れば、数人の村人達が、疲れた表情で座り込んでいる。
「怪我をしている人は言ってね。一応、食料も持ってきたから」
 礼を返され、ミカエルがちょっとくすぐったそうにしている。イグニスが、ハーブの束を使って応急手当をしていると、暖かい食事を作り始めた一花が、にやりと笑ってこう言った。
「その代わり、ちょっと教えて欲しい事があるんですけどね」
 邪悪っぽい笑みが浮かんでいるのは、気のせいではないだろう。
「それで、襲われた心当たりってありますか?」
 聞き役は沖田のようだ。
「うーん。とは言え、地下の仕事だし‥‥わからないな」
 だが、いきなり恐竜達が沸いて来て、鉱山を追いだれてしまったらしい。頑丈な家をお持ちの鉱夫もいたが、先ほどの恐竜が乗り込んできて、家財道具をめちゃめちゃにしてしまったそうだ。その後は、見張りが数多く、はじめのうちは、村から出る事も、かなわなかったそうだ。
「何か、目撃した事とか、ありませんか?」
「でかい箱車が通って行ったな。壊れモンを運ぶ時みたいな奴が」
 沖田が尋ねると、あちこちから目撃したと言う声が上がった。
「他に、何か聞いた人は?」
「うめき声‥‥かなぁ」
 これもまた、聞いた人が多い。場所を特定するべく、刀也が鉱山に詳しい者から地図を調達し、その目撃した地点を、1つづつ書かせ始めた。それぞれ、仕事をしていた場所で聞いたそうだ。全ての目撃者が書き終わると、網の目のような鉱山に、ルートマップが出来上がる。
「大分入り組んでるが、この辺りが怪しいと見た」
「私もそう思います。広さも、議長のお屋敷くらいありますし、何かを閉じ込めたり隠しておくには、充分ですわ」
 目撃者が多い場所を指し示して、そう言う刀也。と、覗き込んだ一花も賛成票を投じている。隠しておくなら広い倉庫が妥当だと思ったのだろう。
 こうして、一行は鉱山の地下へと潜るのだった。

 迷路のようなとはよく言うが、普段は作業しているので、そこかしこに案内の看板が立ててある。だが、奥へ向うと、時折灰色の恐竜達が見えるようになっていた。
「ちょっと見てくるねー」
「俺も行こう」
 カルルがコートを被り、こっそりと隠れながら進む。ランタンをイグニスに預け、インフラビジョンの使える刀也が進もうとすると、その前にミカエルが魔法を唱える。アッシュエンジェーシーで作り出された、ミカエルそっくりの分身が、同じ歩き方で進む。と、その直後、足元がカランっと鳴り、反応した恐竜が一斉に襲い掛かった。
「トラップか。仕掛けられていると言う事は、近い証拠かな」
 アッシュの囮を食べた恐竜は、きょとんとしていたが、ややあって散り散りに巡回を続け始めた。さほど頭はよくないらしく、カルルはその後から、意外な物を見つける。
「見て見て。足跡見つけたよっ。これ、きっと尻尾だよね」
 そこまでは決して珍しくはない。ただ、足跡が壁に消えている以外は。
「ひょっとして、隠し扉だったりして」
 マッピングを見ながら、頭を悩ます刀也に、一花がそう言った。念の為、インフラビジョンを唱えているが、怪しい事は変わらない。
「手がかりはないしな。メイドの勘とやらにかけてみるか」
「じゃあ、押してみますね。えい」
 ずいぶんと気の抜けた掛け声だったが、それなりに刀は振るえる身分だ。一花がひょいっと押すと、壁があっさりと崩れ去った。
「ずいぶんと遅かったじゃない」
「あー、レミエルお姉さん☆」
 嬉しそうにカルルがそう言う相手は、ここのところ、あちこちで姿を見せている女性だった。彼女は、くるりと踵を返すと奥へ向う。
 その先に、まるで植物のつるが巻きついたかのように、幾重もの『根』でつながれたトーマの姿があった‥‥。

 よく見れば、トーマの外側を、クリスタルのようなものが張り付くように被っていた。
「あたしの炎で解かせれば良いんだけど‥‥。無理そう。中身までこげちゃうかも」
 ただし、透明度が高く、なおかつその内側が液体になっている。それでもなお、固体が保たれている所を見ると、溶かすにしても相当な魔力と火力が必要になってくる‥‥と、ミカエルは判断していた。
「奴が自力でどうにか出来れば一番なんだが‥‥」
「やるだけやってみるか。おい、聞こえてるのか?」
 刀也が言うと、イグニスが扉を叩くのと同じ要領で、こんこんっとその面を叩く。トーマ自身の反応はなかったが、代わりにその氷柱がうっすら明滅した。
「できれば手荒な真似はしたくない。が、抵抗するのなら強引にでも一緒に来てもらうぞ。心労で倒れた王妃の為にも」
 絶対に聞こえている。そう信じたイグニスは、倒れた王妃の容態を、少々大げさに語った。明日をも知れぬ命になっているとか、そんな類に。
「王妃様はアナタを想うばかりに倒されてしまったのよ、元気な姿を見せてあげて。 それに、利用なんかされてて良いの?」
 ミカエルも、なんとかその心をゆるがせようと、王妃の容態を肯定している。一花も、「過去に何があったかは、あくまで過去のこと‥‥。この先あなたが望む方向に対して、今何をやるべきかを今一度考えてみてほしいのですわ」と、言っていた。
「これあげる。んとね、いろいろあるとおもうけど、それでもみんな、家族で心配してるよ?」
 そんな中、カルルはとてとてと近づいて行って、まるで墓前にでも供えるように、持ってきたクッキーを差し出す。懐かしい香が周囲に漂ったせいか、明滅が激しくなった。
「王妃様、か…。なぁ。話が出来、それの通じる相手がいる…そんな当たり前が出来ない者の悔しさは分かるか?」
 皆の説得に、刀也が黒曜石の剣を握り締めている。家族、友達、恋人。手を伸ばせば触れられる。そんな当たり前の行為すら、今の自分には出来ない。
「方寸を焦がし続けても、決して手の届かない無力感は? 道化と自覚し、それで尚どうにかしたいと希う感情を知っているか?」
 色々とごっちゃになっているのだろう。声を荒げる刀也に、黒曜石がふわりと現れ、その剣を押し留めていた。
『落ち着け。お前が混乱してどうする。私はすぐ側にいる。お前の手の中にいるから』
「すまん」
 気持ちは、よくわかる。手を出しても届かないあの人は、元気ですごして居るだろうか。そう思う一花は、言葉をつづる。
「導き出した答えによってはそれを助けることもできるでしょうし、その逆もまた然り‥‥ただそれだけのことです」
「やり直しのきかない人生なんてありません…王妃様、本当に貴方の事を心配しているんですよ、お体まで悪くされて。王妃様の元気の為にも、一緒に帰りましょう」
 今まで黙っていた沖田が、駄目押しのようにそう言った。直後、明滅が繰り返され、氷にぴしりとひびが入る。
『今なら、なんとかなるかもしれん。おい、魔力を貸せ!』
 黒曜石がそう言った。どうやら、力を貸してくれるらしい。刀也がその剣を巻きついていた蔓の台に差し込むと、ミカエルが「あたしも手伝うわ!」と魔力を注ぎ込んだ。
 と、その中央部分に、透明なクリスタルが浮かび上がる。それは、上で見た魔法陣と同じ文様だ。
「あれが核!? 今のうちにアタックだよっ!」
 こっそりと近づいたカルルが、バーストアタックの要領で、体当たりを敢行する。刹那、ぱりんっと氷の砕け散る音。
「割れた!」
「よくやったわ」
 周囲を、その声と共にひやりとした空気が包みこんだ。見れば、トーマが吐き出されると同時に、中の液体がレミエルの持つ瓶の中へと吸い込まれていく所だった。
「く‥‥。やはり罠だったのかっ」
「いいえ。利用しただけよ」
 はっきりとそう言ったレミエル。どうやら彼女の目的は、トーマを納めていた『箱』のパーツだったらしい。後ろ側には、地上へと延びる通路が見えていた。
「ねぇ。レミエルおねえさんは、ど〜してラスプーチンのおぢさんに協力してるの? できればラスおぢさんとは縁切りしてほしいにゃぁ」
「ふふふ。協力、というわけじゃないけど。私は私の目的の為に動いているだけよ」
 カルルがお願いと言わんばかりにそう申し出るが、レミエルは首を横に振る。入れ替わるように現れたのは、先ほど恐竜に乗っていた蛮族達。
「見つけた! 鼠どもめ。その子を置いていけ!」
「そんな事させるか! この子は渡さん!」
 トーマはまだ目が覚めない。気を失っている彼は、イグニスにとって真実へ繋がる生き証人なのだから。
「そうよ。ようやく取り返したんだからねっ! ここで成敗して上げるわ!」
 ミカエルがそう言うや否や、ランタンの炎を増幅させる。すでに、カルルはミラージュコートで姿を消して、場所を移動中だ。
「えいやぁっ!」
 スマッシュが恐竜に炸裂する。そのおかげで、地上への道が開ける。退路をふさぐように、ミカエルがファイヤーウォールを唱えた。
「その程度、突っ切ってくれる!」
 蛮族達はその炎の壁さえ、ものともしない。デビルの力でも付与されているのだろうか。白刃が、無防備なトーマに遅いかかる。
「させるか!」
 がんっとそれを受け止める刀也。衝撃で目を覚ましたトーマに、彼はこう叫ぶ。
「トーマ! 自身の言葉を交わし、詫びてこい!それは、お前さんを望む王妃への誠意だ。恥なんかじゃない!」
 暫し、目を瞬かせていた彼だったが、すぐに何が起きたかを悟ったのだろう。複雑そうな表情ながらも、頷いてくれる。
「‥‥‥‥妃、か。あれほど敵視した相手に、心配されるとは‥‥。所詮、血は争えないと言うことか‥‥」
 一行が、トーマは王妃よりも皇帝陛下をお慕いしていた事を知ったのは、地上に戻ってからだった。