聖水と魚竜
|
■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月23日〜11月28日
リプレイ公開日:2009年12月02日
|
●オープニング
キエフの夜は長い。あちこちできな臭い匂いが漂う中、その事件は思わぬところから発覚した。
発端は、議長ことギルバード・ヨシュアは、発見された魔法陣の分析に必要だと言われ、王宮へと召集された所からである。あれこれ分析したものの、魔法陣の浄化方法が分からないのである。既に、レディさんと々症状の御仁があちこち現れていた。
「ふむ。どうやら被害が拡大してきたみたいね。ひょっとして、こっちにも被害出てない?」
「ええ。王妃様が倒れられたのも、もしかしたらそのせいではないかと‥‥」
やっぱり呼び出されたレディに、宮殿の文官がそう教えてくれる。困惑した表情は、原因が特定できずに難儀していることを物語っていた。
「やはり、そう簡単には消えませんか‥‥。何か、方法はご存知でしょうか?」
「東洋には、布の汚れを取るのに、川の流れを利用すると申します。聖水が大量にあれば、洗い流せるやも知れません」
その手段なら、魔法陣を浄化する事が出来るかもしれない。問題は、そろそろロシアは大地がいてつき、全てが雪と氷に閉ざされるシーズンだと言うこと。
「ここは、豪州に応援を頼んではいかがでしょうか。あちらはこちらと季節が逆。そして何より、水の精霊に守られている国と言う事ですから」
議長がそう提案した。商人として、出入りしている都合もある。大量の水を輸入するのなら、手はずは整えてもらえるだろう。
「なるほどね。確かにそれがあれば、あたしの具合もよくなるかもしれないわ」
騒動は、最初に倒れたレディことパープル女史にも届いていた。豪州への出張願いと共に。
「体の方は大丈夫なのでしょうか?」
「平気よ。たぶんね」
相手はレイである。王宮から使いに出たようだ。会議はまだ続いているらしい。だが、書状を託された彼は、レディに引率を頼むと、ギルドへと向うのだった。
その頃、豪州では。
「ハイド殿、今月の分が届きました。お確かめください」
神殿には、少年神官ハイドが、他の神官達と仕事を行う部屋もある。ロシアからアリススプリングスへ送られる書簡のうち、いくつかは議長の差配で、クイーンズランドへ届くようになっていた。もっとも、配送の都合で、その頻度はおおむね1ヶ月分に1度といったレベルらしい。基本的に、港湾管理局の面々が、中間にある村まで取りに来ると言った状況だった。
「最近、海が穏やかではありませんね‥‥」
「精霊様も、心穏やかではないようです。どうやら、天候不順は、何やら精霊力の衰えが関わっているようなのです」
神官達は、その中でも精霊に関わりのありそうな書簡を受け取っている。ここの所、豪州では海が荒れているらしく、神官達は精霊の調子が悪いのではと思い、現在調査中だ。
「月道の向こうが関わりあるかもしれません‥‥。あっ」
その一端として、書簡を紐解いていたのだが、ハイドが声を上げた。レディさんから、貢ぎ物の件で、相談があったらしい。重ねて、そちらにも聖水があるか等と書いてあった。
「どうした?」
そこへ、そのレディさんそっくりの王子様が姿を見せる。
「ああ、王子。ちょうど良いところへ。どうやら、知らぬ間に大変な事になっているらしいです」
相変わらずふらふらしている癖は抜けないようだが、ハイドは構わず事情を話した。
「母上の体調も芳しくないしな。やはり、肝を狩りに行かねばならんか‥‥」
深くため息をつく王子。どうやら、荒事をしなければならない事に、心を痛めているようだった。
そして。
「えーと。つまり魔法陣の効果を薄れさせる聖水の原料を輸入する代わりに、モサの肝を取ってこいってことね」
「そう言う事です」
既知であるハイドに事情を聞かされ、頭を抱えつつもそう答えるレディさん。こうして、冒険者ギルドには、以下のような依頼が記される。
『聖水の原料確保の為、豪州への使者を募ります。色々と事情があって、代金代わりに、滋養強壮に効くモササウルスの肝を狩りに行きます。神聖な儀式でもあるので、それなりの方をお願いいたします』
なお、狩った者達には、モササウルスへの供養として、儀式にも参列して欲しいそうである。こうして、豪州に造詣の深い冒険者達が集められることになったのだった。
●リプレイ本文
豪州からの要請で、冒険者達は必要とされる品々を手に入れる為、港で準備を行っていた。
「えーと、必要なのはモササウルスを1匹、清めた大桶、運搬用精霊船の手配‥‥っと。あとなんだっけ」
ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)が、品物を1つづつ確かめている。レオーネ・オレアリス(eb4668)が軍用馬に荷物を載せて来てくれた。
「翼竜避けの紐と、水に潜る為の宝珠だな」
青く輝く宝珠は、水中戦には必要不可欠と言う事で、レオーネが借り受けてきた。紐はまだ使わないので、港で預かって貰うことになった模様。
「海でモササウルスと戦えということか・・・ 面白いが笑えんなー」
宝珠をしげしげと眺めつつ、そんなことをぼやいているレオーネさん。一方のガブリエルは、オーストラリアが初めてらしく、楽しそうにしている。
「やれやれ、私は純粋に冒険がしたいんだがな。 オーストラリアまで来ても、デビルと無縁ではいられないか」
「デビルはどこにでも居るもの。ここにだって居るかもしれないわよ?」
肩を落とすゼファー・ハノーヴァー(ea0664)に、船のヘリに座ったパープル女史はそう答えている。
「悪い冗談はよしてくれ。いつぞやのように、直接絡んでこないだけマシなのだろうがな」
鳴りを潜めて居るだけかもしれないが、それでも表面にでないだけましと言うもの。ふと、そう思った彼女は、何とはなしに聞いて見た。
「そういえば、ブロードの奴は一体誰の配下だったのだろうな?」
「さぁね。本人に聞かないと。東雲、それとっとと運びなさいよー」
肩をすくめて見せたレディさんが、東雲辰巳(ea8110)にそう指示している。
「うう、すみませんレディさん」
何故か大きな荷物運搬させられている東雲。何でも、『遅刻の代償』に、今日1日はこき使われているらしい。
「あーあ、身から出た錆とは言え、こきつかわれてるのは、ちょっと可愛そうだな」
「き、気にしないでくれ。それより、体調は大丈夫なのか?」
同情しているらしいゼファーに、首を横に振って答える彼。それよりも、レディの方が気になるらしく、荷物を運びながらもそう問うていた。
「トーマを助けに行った方が成功したみたいだから、なんとか動けるようにはなってるわ」
「そうか。あんまり無茶はしてくれるなよ」
首の辺りをこきこきと鳴らしているレディさん。まだ本調子ではなさそうだが、なんとか仕事が出来るまでには回復したようだ。
「儀式に参加したら、直るかなぁ」
「さぁね。こっちは詳しくないから」
礼服を用意していたガブリエルの問いに、首を傾げる彼女。ただ、古来より肝臓は滋養強壮に効くらしい事は教えてくれた。
「まぁ、何とかしよう」
恐竜の肝が同じ様な薬効を持つかどうかは知らないが、やるだけやってみようと思うレオーネだった。
準備を終えた一行は、神官のハイドくんを船頭代わりに、モサのいる海域へ向っていた。
「まずはモササウルス狩りだよねー。えぇと、どこに行けば良いのかな」
首をかしげるガブリエル。目的の場所までは、案内してくれるそうだが、レオーネはそこでこう注文をつけた。
「群れているモサを狙うのは危険が大きい。 狙うなら、群からはぐれたモササウルスの個体を狙いたいんだが」
「何しろ戦場は陸上のようには動けない水中だしな」
ゼファーもそう言って頷いている。と、ハイドくんは、頷いて見せてから、こう教えてくれた。
「はい。モササウルスは基本的に海の王者ですから、子供の時期を除くと、あまり群では行動しません。えさが足りなくなりますから」
どうやら、その辺りは陸上のティラノや、他の捕食動物と変わらないらしい。繁殖期になると群れを作ると言うが、その辺は他のトカゲや虎も同様だ。そんな解説を聞いている間に、船は目的の海域へとたどり着いている。宝珠を受け取っているゼファーに、ガブリエルがこう尋ねた。
「えっと、水中呼吸の可能な宝珠を使うようだから、ウォーターウォークは必要ないかな〜。 スクロールは濡れちゃうけど、文字は滲まないようだから水中でも使える、はずなの」
「いや、必要だろう。何しろ水中では陸上のように動けんしな」
首を横に振る彼女。頷いたガブリエルは、軍馬に乗り込んだレオーネに、魔法をかける。これで、モサの海域でも問題なく動けるはずだと。
「流すぞ? 場所はこのあたりか?」
「撒き餌、セットしたぞー」
時間切れギリギリまで粘ろうと、レオーネは宝珠を握り締める。愛馬の首筋にも宝珠がぶら下がっており、いつでもスタンバイできる状態だ。
「今のうちにエリベイションを使っておこう」
船の上では、ゼファーがフレイムエリベイションのスクロールを広げている。順番にかけていく中、パープル女史も対象に入っていた事に、東雲が青い顔をしていた。
「レディは前に出ない方が‥‥」
「戦力足りないんだから、ンな事言ってらんないでしょ」
ぴしゃりと言われ、ため息をつく東雲。止めようったって止まらない女性なのは、重々承知している。
そうしていると、レオーネと言う名の珍しい餌に惹かれたのか、かなり遠くで盛大な水しぶきが上がった。見れば、モササウルスの大きなひれが、海面に見え隠れしている。
「現れたな。俺が囮になる。後は頼んだ」
レオーネがたずなを引いた。船上で待ちの戦法になる彼女、船の上で体にひもを付け、足元を安定させようとする。
「こっちでカウンターを用意しておく。なるべくひきつけてくれ」
「心得た!」
答えたレオーネが、水面で馬を走らせ、濡れた地面のようにパシャパシャと軽く水が跳ね、それを獲物と勘違いしたらしいモササウルスが後を追いかけてきた。
「えぇい、体重くなーれっ!」
そこへ、ガブリエルがアグラベイションのスクロールを広げている。ゼファーが念の為と「終わったら、こっちにもウォーターウォークを頼む!」と言っていたが、その前にやる事があった。
「待って! アイツの出鼻くじく! 下がって!」
簡単に言うが、やるのは難しい。たずなを引き、体を捻るレオーネ。馬首が船からそれた。そこへ、ガブリエルが得意なアイスブリザードをお見舞いする。
「氷の嵐よ!」
ぶしゅうっと伸び上がったモサの半身が氷で覆われた。だいぶ動きの鈍くなったそこへ、東雲が隠身の勾玉を使ってこっそり近づいて行く。
「どこまで通じるかわからんが、やってみるかっ」
ある程度距離を詰めたところで、ソニックブームを横合いから撃つ。どてっぱらに命中した刹那、モサが体を大きく水に潜らせた。
「来る‥‥」
レオーネが警告を発した。水中深く潜ったはずのモサが、勢いを上げて泳いでくるのが見えたから。
「鼻先を狙え!」
「わかった!」
その間に、岩礁へと上ったレオーネが、ゼファーに答えて、ポイントアタックの要領で、狙いを定める。そこへ、モサが空中へとジャンプした。
「あれだけ大きいと、当てるのは‥‥こっち!」
カウンター気味に、太古の宝剣でシュライクをお見舞いするゼファー。がつっと手ごたえがあり、モササウルスの鼻先に、赤い筋が走る。が、その直後、水面へとダイブするモササウルス。
「やばいっ!」
体を固定している他の面々はともかく、左腕の使えないパープル女史は、支えきれない。手を伸ばす東雲。しっかりとその腕を掴んだ。
「礼は言わないわよ」
「期待してないさ」
にやりと笑う。その間に、レオーネが一撃を食らわせ、離脱している。見れば、水域には膨大な量の血。
「とどめを!」
「はいっ!」
ゼファーが剣を突きたて、ガブリエルがムーンアローで着実にダメージを与えている。と、程なくして、ぴくりとも動かなくなるモササウルス。
「やった! 沈んで行く!?」
「って、沈ませちゃ駄目じゃない!」
歓声を上げるガブリエル。とは対照的に、パープル女史が頭を抱えている。底はかなり深い。あわててゼファーが投網を持ってくる。
彼女が、水平線のある方を指し示した。見れば、見覚えのある三角ひれ。
「血の匂いに引かれたサメが集まっては面倒だ。こいつを使え!」
ばしっと投げつけ、絡めとる。そして、網の先を船にくくりつけ、全力で曳航するよう合図。
「やれやれ。トカゲ1匹狩るのも大変だな‥‥」
レオーネさんが岩場の上でそう呟いていた。
モササウルスの死体は、港に着くと他のマーメイド達の手で、神殿へと運ばれていった。まるで鯨を狩った時みたいだ‥‥と、東雲は思う。
「準備が整ったみたいだな」
待つこと暫し。案内された先は、儀式の為の身だしなみを整える部屋だった。大きな水鏡が中央にしつらえられ、マーメイド特有のぴったりしたドレスや装飾品が並ぶ。
「こっちも準備完了だよー」
わざわざ礼服を持ってきたガブリエルが、くるっと回って礼服でポーズを取っている。そうして、様々にドレスアップした面々が案内されたのは、モサの遺体を台座の上に載せ、神官服を身につけたものが、解体用の刃物を持って、祝詞を唱えている場面だった。
「儀式‥‥か。 信仰上の形式なのかと思うが、或いは実際に何らかの影響があるのだろうか」
「精霊様も、女王陛下と添い遂げられる方ですから、それなりに生命力が必要なんです。いわゆる肝油みたいなものですね」
ゼファーが、案内してくれた神官にそう尋ねると、彼はその『影響』を答えてくれた。精霊の滋養強壮材には、特別な処理が必要と言う事なのだそうだ。
「ふむ、精霊として扱うとはどのような?」
「はい、欲しいのは肝臓なのですが、畏敬の念を込めている竜なので、儀式を行って、その御魂をお慰めするんです」
うっかり肝臓だけ取って放置して、アンデッドになられても困るので。とは神官の弁。しかし、ゼファーには気になる事があった。
「まさか、そのうち精霊竜とか、デッドリーティラノと同じ様なモンになるとかは‥‥」
「精霊恐竜は、普段は外敵から守っているだけですから、墓場に近づかなければ平気ですよ。モサ様も、儀式を終えた後は、その海に帰って、今までと同じ様に生活していただけるんです。もっとも、ご飯は要らなくなるみたいですけどね」
首を横に振る彼。儀式を終えたモサの魂は海に還るらしい。
「なるほど。つまり ご先祖さまを祀るのと同じような感覚なのだろうか?」
レオーネの問いに頷く神官さん。神聖魔法にも似たようなモノがある為、特に違和感は感じなかった。
「ふむ、できればその肝臓を、レディと王妃様の為に、ひとかけら頂けないだろうか?」
と、作業と儀式の進む様子を見守っていた東雲が、納得したようにそう申し出る。しばし、他の神官たちと相談していたが、ややあって頷いてくれた。
「わかりました。では日持ちのするよう処理してきますので、2日ほどお待ちくださいな」
どうやら、乾燥するのに時間がかかるらしい。なので、一行は、その間に聖水の原料を調達しにいくのだった。
聖水の原料は、結構な量だった。
「次は水汲みか。ここは、体力自慢の男性諸君に任せるとするか」
口調は男性っぽくても、一応非力な女の子のゼファーさん、指定された泉の前で回れ右をしている。
「この子を使ってくれ。効率は上がるだろうし」
一方で。レオーネは水袋をたくさん用意し、軍馬の荷を降ろして対応に当たっていた。
「はいはーい、お水が通りますよー」
ただ、小さな水袋に汲んで運んででは効率が悪いので、ガブリエルがウォータコントロールを使って、一気に樽の中へ運び混んでいる。
「ほらそこ、サボらない!」
「ち、バレたか。仕方ない。こいつを使おう」
パープル女史に連行され、ゼファーは同じ魔法を封じ込めたスクロールを広げた。面倒だが、これも仕事のうちだ。
「帰りは、ミストフィールドを使えば、カーテンにはなると思うよー」
ガブリエルが、精霊船の上で、魔法を唱えている。それなりに走り回れる広さを誇る船なので、目隠しにはちょうど良いと思ったらしいのだが。
「さすがに水の匂いには敏感らしいな」
見張りをしていたレオーネが、近づく翼の音を感じで、盛大に呼子笛を吹き鳴らす。効果時間の過ぎた空を見上げれば、そこには翼竜が何匹も姿を見せていた。
「こっちの水はにーがいぞっと。届くと良いのだが」
弓に持ち替えたゼファー、レンジャーとしての本領を発揮し、その鼻先へ矢をお見舞いしている。当たらなくても良いらしい。
「半数落とせると無難なんだが‥‥なっ」
その間に、東雲がソードボンバーを翼竜達に向けて放った。何匹かが翼をやられ、地面へと落ちてくる。しかし、何匹かはそれを避け、船の上へと突っ込んできていた。
「抜けてきたか!」
ワイバーンに飛び乗り、戟を振り回すレオーネ。自分と同じか、それ以上ある本物の竜に、翼竜達は押され気味だ。
「こっちにはこないでよ。えぇいっ!」
ガブリエルが再びアイスブリザードをお見舞いしている。そこまでしてもなお怯まない翼竜達の姿に、パープル女史がぼそりとこう言った。
「どうも、さっきの儀式で、内臓の匂いが染み付いちゃってるみたいね」
「帰ったら湯浴みだな。そぉれっ!」
どうやら翼竜達はその匂いに釣られて居るらしい。単体も多くなった為、東雲はライトハルバードで相手をしているパープル女史の背中で、ソニックブームを投げつける。
「えぇい、こっちに来るなってば!」
ガブリエルがアイスコフィンで一匹を落とした。そこまでやって、ようやく危険を察知したのだろう。翼竜達が引き上げて行く。
「追撃どうする?」
「いや、このまま進んで良いだろう。無益な殺生しても仕方がないしな」
レオーネの指示で、一行はアリススプリングスまで、品物を届けに向うのだった。
こうして、一行は聖水を手に、キエフへと戻る事になった。
モササウルスの肝薬と言う、とても珍しい薬を手土産に。