●リプレイ本文
「ふぅ‥‥ここが有名なヒノミ・メノッサ様の住まう地オーストラリアですか」
「久しぶりのブラン弄り、楽しみだわ♪」
「ほんとにオーストラリアは、未知の体験が一杯で」
わくわくと目を輝かせているのは、常葉一花(ea1123)もミカエル・クライム(ea4675)も沖田光(ea0029)も一緒だ。遠くには、ディノニクスの姿もちらほらと見える。だが、流石に大きな精霊船で降り立った冒険者達には、恐れでも抱いたのか、遠巻きに見つめるのみだった。
「一応達人でヒートハンド使えるようになったけれど、 加工し易くなったりするかしらね〜?」
「こいつもあるしな。大丈夫なんじゃないか」
ミカエルのセリフに、船の蔵から、雪切刀也(ea6228)が魔法炉を引っ張り出してくる。魔法の力が施されたらしい炉には、びっしりとルーン文字が記されていた。
「それにしても、相変わらずここも興味深い施設をしているな」
その炉を運びこみながら、ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が周囲を見回す。遺跡と言うのが相応しいそこは、何に使ったんだか分からない道具の跡が散乱していた。
「漸く、此処まで漕ぎ着けることが出来たか‥‥」
刀也も感慨深く炉を設置している。元々そうだったのか、偶然なのか、炉はぴったりとその跡に収まっていた。
「未知の探求。遺跡や未開の地の探索も中々思うようにはいかんし、己の望む生き方をするというのも難しいものだな」
様々な知識を集め、活用していく。それが、ゼファーの望んだ冒険者としての生き方だったが、それらしい事が出来るようになるまで、なんだかんだと5年くらいたっている。現実は厳しいものだ。
「力を貸して頂いた方達。そしてブランの剣を作った先達、それら全てに敬意と感謝を」
刀也もまたそう言った。発端は私情だったが、今はそれだけではない。封印の剣は、これから起こりうる事件にも、きっとその力を貸してくれるだろう。
「早速研究を始めなければ。浪漫ですしなぁ」
このために来たと行っても過言ではないフレイ・フォーゲル(eb3227)が、材料を降ろしている。刀也も、議長に頼んでおいた材料と共に、エレメンタラースピア。それに様々な鍛冶道具を持ち出してきた。
「黒曜石、豪州精霊の力は借りれないだろうか」
【ここをどこだと思っている。兄上、いらっしゃるんでしょう】
黒曜石が刀也の申し出に、そう答えている。と、その刹那、炉から激しく炎が吹きあがり、筋骨隆々とした人の姿となる。
【騒がしいと思えば、やはりお前たちか】
「きゃー、ミリオンフレイム様☆ お久しゅうございます♪」
ミカエルが抱きつかんばかりにして駆け寄ってきた。その姿に、炎の精霊は口の端にかすかな笑みを浮かべて、こう褒めてくれる。
【ずいぶんと頑張っているようだな。まだ理想には届かぬか】
「はい、研鑽の道ですわ」
ドレスの端を上げて、礼服を着た時のように答えるミカエル。そんな精霊達の力と、これだけの道具があれば、刀の一本や二本は何とかなるだろう。何度かブランに携わった事のあるフレイは、そう判断していた。
「えぇと、この案内によれば、幸運を呼ぶブランアクセサリーはハートで、体験談が続々と‥‥」
沖田、どこから持ってきたのか、いかにもうさんくさい怪しげな広告の写しを、熱心に読んでいる。一花曰く、最近若い女性に人気の界隈で出回っている広告だそうだ。
「なんだかわくわくするにゃ〜。そだそだ、お姉ちゃんと旦那さんに記念の品を作ってあげるの〜♪」
そんないかがわしい広告が出回るほど、ブランは人気らしい。カルル・ゲラー(eb3530)は、家族の為に人気の品を送ろうと考えているようだ。
「これを送ったら‥‥はっ、いや、なんでもありませんなんでもありませんから」
沖田、何か思う人はいたらしいのだが、口にすると倒されると言う冒険者特有のジンクスを思い出し、口をつぐんでいた。
「ここにデザイナーのペンがありますから、インスピレーションを高めるのも悪くないでしょうなー」
フレイは全身鎧一式のデザインを描き始めた。それを見て、沖田もアクセサリーらしきデザインを書き始める。だが、どうみてもそれは記号にしか見えなかった。
「うーむ、どうしたものかな‥‥いいアイデアが思い浮かばない」
その沖田がハートやキューピッドらしき記号を描いている姿を横目で意識しながら、なかなかデザインのまとまらない東雲辰巳(ea8110)。
「こんなものどうかしら‥‥」
見かねた一花が、何やら男の子な記号が絡んだデザインをアドバイスしている。一応恋愛成就系のお守りを参考にしたようだが、どうみても一般向けではなかったのは、言うまでもない。
「じゃあ、ヒートハンド行きますね」
大きな塊から、使いやすい量をもぎ取るには、それなりの力がいる。ブランもそれと同じだった。
「けっこう難しいわねー」
ヒートハンドを達人クラスで使えるようになったミカエルも、苦労しながら引っぺがしている。しかし、各種魔法の薬でのブーストもあり、何とか全員分を賄う事が出来た。
「まずはトレイあたりから作るのが妥当でしょうね。あとは、カップかな」
ブラン製の食器など、メイドとして使いやすそうなものをチョイスしている一花。それにアクセで花を添えれば、需要にも合うだろうと思ったようだ。
「ジーザス教縁のものか、オーストラリアらしいものか、それともかんざしか‥‥」
まだ悩んでいる東雲。とりあえず、思いつくままに粘土をこね始める。まずはサンプルを作ってみようと言うわけだ。
「イメージとしては、羽とか花かしら。 羽は天使の祝福な感じで、花はお祝いに贈ったりするじゃない?」
ミカエルが作ろうとしているのは、けっこう細かいパーツが必要なので、作業台の上には、花びらが舞っていた。
「ふむ。羽根か‥‥。今ひとつジャパンらしくはないが‥‥」
「羽アクセは対の仕様にして、恋人や家族と一つずつ持つように、とか。ねぇ?」
ミカエルと東雲が、共にパープルさんの方を見ていた。花を作ると言う光景にあわせてか、カルルがデザインしたのは、4つ葉のクローバーだ。
「加工大丈夫そうなら、こういうのにしたいにゃあ」
「それなら、こっちは春に咲く花辺りをモチーフが良さそうね」
幸せを運ぶ葉っぱに合わせるのなら、やはり花だろう。と、ゼファーが調べてきた知識をこうお披露目してくれる。
「花言葉だとスイートピーだそうだ。あとは、こいつをモチーフにしても良さそうだな」
彼女が取り出したのは、大アルカナの一部だ。幸運や転換期を意味する運命の輪、希望を告げる星、目的を遂げるや成功を意味する世界のカードである。
「うーん、この角度が‥‥‥‥難しいです」
結局、沖田は門出と言う事で、門松を何とか作ろうとしているようだ。それに、ミカエルのアドバイスに従い、花のモチーフを合わせて、華やかなものを作る予定。
「こんなところで学んだ知識が役に立つとは‥‥人生は分からないものだな」
美術に鉱物知識と言うのは、冒険で使う機会が少なかったらしいゼファー。しかし今は、それがとても役に立っている。おかげで、デザインには素人もいたが、何とか形になりつつあった。
「閃きましたっ‥‥芸術はファイヤーボムです!」
もっとも、沖田のように何だかよくわからないモノが出来上がってしまう事もあったが。
練習は済んだ。本番はここからだ。
「ぼくね、ブラン製のネギをつくってみよ〜とおもうのっ」
「そんなに大きいのがいけるかしら‥‥。カップは出来たから、銀のトレイくらいはいけそうですけど」
武器だか日用品だかわからないものを作ろうとしているカルルと一花。まぁ、仕込み箒は一応武装だし、銀のトレイで殴れない事もないので、武器と言えば武器だが。
「曲線とかの練習になるかな〜ってのがあるのよね。前のと比べるってことでネックレスでも良いけれど、ヘアアクセやブレスレットが良いかな」
花やはねで練習した曲線を生かし、何やら作り始めているミカエル。細いチェーンは中々に難しいので、大降りの鎖にして、ブレスレットにしている。
「やはりそうなるか‥‥。だとすると、こっそり作るしかなさそうだな」
東雲、ようやく形が出来上がったようだ。色々考えた結果、かんざしに羽根飾りがついている。もう1つはペンダントトップのようだ。
「アクセはそれでも良さそうですが、武器となると、そうはいきませんぞ」
何やらとがった形のアクセを見て、フレイはそうアドバイスしてきた。見れば、刀也をはじめ、ゼファーも東雲も一花も、敵に一撃を加えそうなものばかりなので、フレイはノルマンで学んだらしい技術を踏襲し、アレコレと道具を並べ始める。何しろ、人と同じくらい。いや、場合によってはそれ以上はあるシロモノだ。苦労もするのだろう。
「私もだ。やはり撃ち貫くと言う要素は外せないだろう。そこに、刀としての機能を追加したい」
ゼファーが並べているのは、解体した弓と同じパーツだ。先端にエッジが持たせてあり、2振りの刀を組み合わせたもののようにも見える。その間に、はめ込めるパーツを作り、格闘と射撃の両方に使えそうな代物だ。
「問題は、刀を組み合わせるのまでは出来るが、そうすると扱いが難しくなるな‥‥」
刃の部分に弦を張るので、力加減が難しい。かと言って力のかかる部分を補強すると、今度は格闘武器としての切れ味が落ちる。
「ここのカバーを一瞬で外せるようにすると、配合バランスがおかしくなる‥‥。こっちの強度が3か4くらいだから‥‥。うーん、もう少し目的を絞るか‥‥」
今まで蓄えた錬金術と鉱物の知識を駆使しても、目的のモノに近づけるには、苦労しているようだ。スレイヤー能力をつけるのは、それがクリア出来てからと結論付けている。
「そうねぇ、やっぱり実力を示すためには、ワンドの方が良いかな」
「作るのでしたら、まずはこうして延べ棒を作るところからですな。いくつか量産して、それから加工していきましょうか」
同じ様にヒートハンドの達人クラスを、何とかして引っ張り出してきたフレイが、ミカエルの希望に応じて、丸い棒のようなものをいくつも量産して行く。真っ赤に焼けたような金属の棒は、そのまま振り下ろしても充分な長さになっている。それにミカエルは先ほどの練習を生かして、炎の意匠を施している。
「恐竜さんの意匠の付いたペーパーナイフとか、鋏とか素敵だと思うんですが‥‥」
そんな彼女たちの加工風景を見て、沖田も何か武具らしきものを作っている。こちらはそれほど大きなものではなく、小柄程度だった。
そんな中、一番苦労しているのは、今回ブラン細工の依頼を出した刀也だった。
「こっちはそうは行かないがな。く、中々融合しない‥‥」
純ブランを抽出したのはいいが、素材として提供したブランミスティック+αと、中々混ざらない。固定されてしまえば、後は用意した魔法の篭手とハンマーがあるので、日本刀と同じ打ち方が出来るのだが、ゴウニュの麦酒とエリベイションでブーストしても、上手く乗せる為には、根気が必要なようだ。
「こっちもだ。今度はエッジが上手くいかない‥‥」
「何とかミリオンフレイム様のお力を借りれれば良いんだけど‥‥。お願いします。どうか、炎を」
ゼファーもまた、鋭さを出すための苦労をしていた。それを見てミカエルは、その場にいるであろうミリオンフレイムに、助力を頼む。
【ふむ、よかろう‥】
炎の色が青白く変わる。
「おお、炎が‥‥。この温度なら‥‥いけますぞ!」
かつて携わった時には、それくらいの高温なら、何とか素体の加工は出来たと言う知識があるフレイ。だが、魔力が心配だったので、刀也は富士の名水を彼女へ渡していた。
「魔力が足りないなら、こいつを使ってくれ。エリベイションもいるか?」
「大丈夫‥‥多分っ」
「くうう、さすがに時間が足りませんな。クリエイトゴーレムは難しいようです」
ブラン製の全身鎧を死ぬ気でくみ上げたフレイ、何とか動くようにしたいが、人型になるのが精一杯かもしれない。だが、時間をかければ、なんとかなりそうだ。
「いまだ! 型に流せ!」
一方、刀也は溶けたブランを、用意した型に流し込んでいる。熱波が伝わり、肌をちりちりと焦がすが、諦めるつもりはなかった。
「こんのぉぉぉ」
力押しで、刀の形に治める刀也。何とか形になってきたそれに、彼は更なる工程を施す。
「まだだな。まだ剣の形をしたブランの棒に過ぎない‥‥」
「こっちも手伝ってくれ。こっちはもっと大物なのでな」
ここから先は、他の面々が手伝った方が効率が良いだろう。そう判断した刀也とフレイは、手分けしてブランの粉を使い、磨きの作業に入る。
「このままでは時間が足りないな。先に護符を作りますかな」
魂を入れる作業と言うのは、結構な日付が掛かるようだ。そう判断したフレイは、先にアンデッドスレイヤーの護符を用意する事にした。
「アンデッドだけじゃない。デビル‥‥魔を封じる魂を‥‥。そうだ、白の姫に助力を頼めるか?」
刀也、不死の者と魔の者の両方を封印したいと思っているらしく、黒曜石にそう尋ねた。頷いた彼女は、精霊船の上で、妹の姫に思いを送る。
【姉さまの、お友達?】
【友達といえるかどうかわからんが、大切な人だよ。守る力が欲しい】
その会話は、刀也の頭にも流れ込んでいた。いや、声だけではない。幼い少女の姿を持つ白の姫に対し、型までの黒髪、白い肌に気の強そうな若干釣りあがった眉。それを黒い服に包み混んでいる黒曜石の姿は、多くの敵に囲まれた中で磨かれた、若い軍人のようだと、刀也は思った。
【よく分からないけど、姉さまの大切な人なら、お手伝いする‥‥】
少女の声で頷く白の姫。姉の頼みならと、作業場へ舞い降りる。まるで、白き羽を降らすかのように。
「よし、いける‥‥。黒曜石、最後の力だ。お前の力で、どうかまとめてくれ」
「‥‥本来は、兄上の役目だが、な」
その白い羽が、黒曜石の力で、ブランの刃に収束されて行く。それは、力を宿した証。白き聖なる剣になった瞬間。
【我が名は‥‥】
目覚めた剣の心が、刀也に伝わる。
「不散紅葉。精霊と人の力を持つ、魔を封する銘‥‥だ」
【‥‥しかと受け取った】
自分の大切と思うものを贈る習慣は抜け切れていないが、剣はその名を確かに受け止めてくれるのだった。