華麗に盗んで☆

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月08日〜11月13日

リプレイ公開日:2004年11月15日

●オープニング

 ある日、冒険者達の間で、実力ありと噂される者達が、極秘裡に呼び出された。
「今回の依頼は、下手をするとお縄になりかねない依頼だ。それゆえに、細心の注意を払って挑んで欲しい」
 リスクも高い故に、報酬も多い。ざわめく冒険者達に向かって、フードを被った担当官は、こう告げた。
「やってほしいのは、とある屋敷に潜入して、お宝をすりかえて来ることだ」
 どう言う事だろう。そう言わんばかりに、ざわめきが大きくなる。そんな彼らに、担当官は咳払いを1つすると、詳細を告げた。
「行って欲しいのは、キャメロットのとある屋敷だ。ここで、ある品物を取引する商談が行われる。諸君には、商人の手から、取引相手に品物が渡される前に、ニセモノとすりかえて来て欲しい」
 どうやら、5日後にその商人から、この間やぎ祭をしていたブライアン氏へと、品物が手渡される事になっているらしい。居場所がわかっているうちに、本物を取り戻して来て欲しいようだ。
「どうしてそんな真似を?」
「この品物と言うのは、とある家に保管されていた160年前の遺産だが、諸所の事情により、元の持ち主から、商人の下へと流出してな。ただ、自身の物であると言う証明が出来ない。それを考慮した結果だ」
 詳しい事は、伏せられているのだろう。確かに違法かもしれないが、さりとて理不尽な依頼と言うわけでもない。その灰色さが、冒険者に依頼する理由かもしれなかった。
「ふむ‥‥」
「良心が咎めると言うのなら、予告状でも出しておくか、もしくは聞かなかった事にしてくれて構わない。ただ、依頼人は、件の品が来る事を心待ちにしている。ニセモノは既に用意してあるので、すぐに取り掛かってくれ」
 依頼に強制力がないのも、その辺りに関わっているのだろう。受けるかどうかは別にして、誰かが「他に条件はありますか?」と問うと、担当官はこう言った。
「うむ。最大の問題は、屋敷が街中なので、下手に騒ぐと、勘違いした近所の住民が、街の警備隊に通報する可能性があることだ」
「あのあたりは、冒険者街で人も多いしな‥‥」
 騒ぎの中、同僚とも言える連中の間を逃げ回るのは、得策ではないかもしれない。もっとも、冒険者の中には、そう言った騒ぎを助長する事を、一番得意とする輩も多いのだが。
「その事を充分に考慮の上、任務に当たってくれ。健闘を祈る!」
 あえて、騒ぎを起こすのも一興だろう。そう付け加えて、担当官は話を締めくくるのだった。

●今回の参加者

 ea0781 アギト・ミラージュ(28歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1501 シュナ・アキリ(30歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2307 キット・ファゼータ(22歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3003 シャウル・ローラン(35歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea3071 ユーリユーラス・リグリット(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「増強した警護は、これで全部か‥‥」
「はい。あ、自警団には、言っておきましたわ」
 その日、他の何人かの採用者と共に、ディーネ・ノート(ea1542)とシャウル・ローラン(ea3003)を紹介する、常葉一花(ea1123)。と、一礼する彼女の横で、ディーネが開口一番、こう切り出す。
「予告状が、JJとトリニティって話だが、本当か?」
「な、何故それをッ!」
 顔色を変える主人。そんな彼に、彼女は、いかにも聞いてきましたという様な調子で、こう言ってのけた。
「街じゃもっぱらの噂よ。あの2人が目を付けるなんて、相当すごいお宝ですね」
「む、むう‥‥。そんなにすごい奴なのか‥‥」
 頭を抱える主人。すっかり怯えきっている彼に、シャウルもまた、彼女の噂話を証明するような事を告げる。
「聞いた事がある。なんでも、『風を自在に操り、その動きは雷の如く。人さえも盗む事が出来る』との事だ」
「私も、若い女性を華麗に盗んだとか言う話を聞いた‥‥」
 頭を抱えたまま、そううめく商人。どうやら、仲間のアンドリュー・カールセン(ea5936)がばら撒いた噂は、順当に浸透しているようだ。
「それだけの盗賊ともなると、ただ警備の人数を増やすだけでは不安ですね」
「いっそのこと、偽物を怪盗に盗ませて、やり過ごすのはどうだ?」
 そんな商人を安心させるかのように、ディーネとシャウルがそう提案する。
「では本物は、私が肌身離さずに持っていますわ」
 不安がる商人に、一花もそうフォローをいれた。そして、エプロンドレスの紐を緩めて、本物に見せかけた『偽物』を、胸元にかける。今宵は、このまま泊り込む予定だ。
「その荷物は?」
「私の身の回りの物です」
 その泊り組のもう1人、ディーネが持ってきたのは、結構な大きさのバックパックである。
 ところが、そのバックパックが、もぞもぞと動き出した。
「まさか! 盗賊の手先か!?」
 警戒する商人さん。と、袋の口が緩んで、中からひょこりと手が伸びてくる。現れたのは、一人のシフール。
「ユーリ!? お前、一体なにやってるんだ!」
「酷いですぅ! 今度こそ僕を一緒に連れて行ってくれるっていったのにぃ〜」
 シャウルが驚いたようにそう言うと、ユーリユーラス・リグリット(ea3071)はもみくちゃにされて、半泣きになりながら、頬を膨らませて見せた。
「お知り合いですか?」
「ああ。ちょっとしたな。ったく! あれほど付いて来るなって!」
 目を丸くする商人に、シャウルはぶつぶつと説教垂れながら、そう言った。だが、彼女は声の調子を1オクターブ上げて、矢継ぎ早に続ける。
「だって〜。全然つれてってくれないんだもの〜。役に立つって言ってるのに〜。だから、ちょうど入口にいた、この人の荷物に紛れて〜」
「そんなに騒ぐな‥‥」
 眉をしかめるシャウル。と、ユーリはまるでオーガの首でも取った様な表情で、指先をびしぃっとつきつけ、さらにまくし立てた。
「あー! 酷い! 僕の事、うるさいシフールって思ったでしょー!」
「いや。思ってないが‥‥」
 勢いに押され、声が小さくなってしまう。その様子を見て、彼女はほーらごらんなさい! と言わんばかりに、胸をそらす。
「嘘! その目は絶対に思ってる! うわぁぁん! どうせ僕はお荷物ですよぉ〜」
 で、反応がないと分かるや否や、くるっと踵を返して、泣きながら庭の方へと逃亡してしまった。
「ったく。あちこちうろつかれるよりはマシだ。連れ戻してくる」
 唖然としている商人に、シャウルはそう言いながら、憮然とした表情で、後を追いかけて行く。
 で、その逃げ出したユーリはと言うと。
「むー。僕はこんなに役に立つのに、皆してバカにしてー」
 広い庭を、ぶつぶつと文句垂れ流しながら、いそいそと探索中。
「うぅぅ〜」
 そこへ、庭に放し飼いにされていた猟犬が、唸り声を上げながら、近づいて来た。別に、後れを取るつもりはなかったが、思わず後ずさりする彼女。
「がうがうがうっ!」
「きゃあっ」
 そこへ吠えられて、驚いてしまったのか、尻餅をつくユーリ。
「こら。お前ら! 女の子襲っちゃ駄目だろ」
 その犬を、一生懸命押さえ込んでいるのは、キット・ファゼータ(ea2307)。しかし、飼い主以外の言う事は聞かないのか、そのままずりずりと彼を引きずっていこうとする。
「こらそこ! 何やってる!」
 騒ぎを聞いて、屋敷の庭師が駆けつけてきた。
「へ? ここ、誰かの家だったの? てっきり公園かなんかかと‥‥」
「番犬飼ってる公園があるかい!」
 すっとぼけて見せる彼だったが、却って疑われてしまったようだ。
「もしや、怪盗の仲間か!? よし! 締め上げてやる!」
「うわーん。兄ちゃーん。助けてー」
 捕まってたまるかーとばかりに、じたばたと暴れるキット。見れば、ユーリも首根っこを押さえられ、引きずられかけている。
「あー。すまん。連れがここに紛れてこなかったか?」
 と、そこへ、堂々と正面玄関から殴りこんできた少年がいた。その少年に、庭師の注意が一瞬それる。その隙に、キットは、とっとと逃げ出してしまう。そんな彼らを後ろに庇いつつ、アンディはこう告げた。
「自分は親子二代であの怪盗を追い続けている。こいつは、弟でな」
 まだ若いが、落ち着いた態度の彼、キットよりは信用されたらしい。と、そこへユーリを追いかけてきたシャウルが、姿を見せる。
「なんだ、お前も来てたのか」
「ちょっと調べものしてたんで、多少遅れたがな」
 顔見知りらしい2人。と、シャウルはアンディを指して、こう紹介していた。
「用心棒仲間だ。怪盗の事を聞いたのも、こいつからでな」
 重要な情報源に成る事をアピールする彼。と、アンディの方も、言葉を丁寧なものに変えて、こう申し出る。
「任務は遂行します。我等の悲願、かなえさせてくれませんか?」
「まぁ、そう言う事なら‥‥」
 疑いを払拭したらしいその庭師、あっさりと主の所へと案内するのだった。
 その頃、どさまぎで、敷地の外に出たキットとユーリが、何をしていたかと言うと。
「上手く行ったね☆」
「ああ。あとはこいつを、JJ達に伝えるだけだ」
 2人してにやりと笑い、追いかけっこのふりをして得た、屋敷の内部情報を、JJ達の元へと届けに行ったのだった。

「なるほど、それは名案だ。だが、相手はあの怪盗JJ、そしてその最大のライバルともいえるトリニティ。油断は出来ん」
 話を聞いたアンディは、いかに旧知の宿敵と言わんばかりの態度で、商人にそう言って見せた。
「そんなに有名なのですか‥‥」
 ただでさえ、シャウルとディーネに、怪盗がどれほど恐ろしい相手なのかを吹き込まれている彼、不安そうな表情を見せている。
「そうだな‥‥怪盗に的を絞らせないように、2重に罠を張った方が良いだろう。ディーネと、シャウル以外の人は別室に待機しててくれ」
 てきぱきと指示を飛ばすアンディ。初対面であれこれと仕切られて、戸惑った様子の商人に、彼は安心させるように、こう言った。
「何、心配は要らない。奴の行動パターンは、自分が一番知っている」
「わかりました。よろしくお願いします」
 その堂々とした態度に、彼はアンディを信じたらしい。そう頷いて、今回の警備計画から、屋敷の間取り等を、事細かにしゃべってくれた。
「では、それを元に、外の仲間に怪盗のアジトを調べてもらおう」
 それを、羊皮紙に書き留めたアンディは、『あの様子では、ユーリはまだ中をうかがって入るだろう。渡してきてくれ』と指示をした。
 そして。
 鐘が鳴り響き、予告状の時間が来た事を告げる。
「本当に大丈夫なのでしょうか」
「ここで私が鍵を預かって入る限り、あれは奴らには、指一本触れさせません」
 胸元に押し込んだ鍵を、そう言って指し示すアンディ。
「ふぁーははははは!」
 笑い声が響いたのは、そんなやり取りをした直後の事だ。
「お前は!!!」
 その目の前に居たのは、マスカレードをつけた、アギト・ミラージュ(ea0781)こと、怪盗トリニティのシルエットだった。
「我が名は怪盗トリニティ! 予告状の通り、お宝を頂きに参上したぜ!」
 広間を見下ろす出窓の側で、高らかにそう宣言する彼。
「くう! だが渡さん!」
 アンディが、後ろの戸棚を隠すかのように動く。と、トリニティは、そんな彼らの前で、窓から消えうせてみせた。
「ふははははは!」
直後、全く違う方向から、トリニティの笑い声が響く。
「あっちだ!」
 その声に惹かれるように、広間を飛び出していくアンディ。その後ろに、警備員達が続く。と、それを見て、窓の上に乗っかっていた彼は、マスカレードの下で、ほくそえんでいた。
(「ふふふふ。あとは、アレを盗めばOKっと。あー、仲間がいる仕事って、幸せだねぇ」)
 種明かしは簡単である。そもそも、彼は窓から飛び降りちゃいない。忍び歩きで、こっそりと近付いて、クライミングの要領で、上に上がっただけ。後は、大騒ぎしているアンディに合わせて、ヴェントリラキュイで、自分の笑い声を、効果範囲内から飛ばせば、囮の怪盗トリニティ様の出来上がり。
「くそう! どこへ行った!?」
 姿を見失う警備員たち。と、その目の前に現れたのは。
「俺はここだぜ。とっつぁん☆」
 屋根の上から現れる、怪盗JJことジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)。
「貴様は! 怪盗JJ!」
「久しぶりだな。相変わらずの様子で」
 不敵に‥‥アンディを見下ろす彼。ざわめく警備員の前で、アンディはJJにこう言った。
「今日こそ貴様を捕えてやる! そこを動くなよ!」
「やなこった。悔しかったら、おっかけてみな!」
 そう言うや否や、屋根の向こう側へと飛び降りる彼。当然の事ながら、アンディ達はそれを追いかける。
「ふふん。予定通りだな」
 その盛大な足音を立てて、派手な追いかけっこを繰り広げる彼らを見て、ほくそえんでいるJJ。見当違いの方向を駆けずり回ってくれているアンディの助力もあって、追っ手をまく事には、成功したらしい。
「さて、仕上げますか」
 彼は、仲間であるシャウルとディーネが見張る大広間へ向かう為、ロープを使って、難なく一花が眠る部屋へと潜入する。
「おーおー。ぐっすり寝てやがる」
 で、その一花はと言うと、偽物を身につけたまま、ぐっすりと爆睡中。寝姿がちょっぴりセクシーだったが、JJには、誘惑光線は出なかったようだ。
「こいつが本物です」
 広間へとやってきた彼に渡される、『本物』の首飾り。一花がすり替えて、ディーネへと渡したものだ。それを受け取ると、彼は警備員達が気付かない家に、とっととその場を撤収する。
「こっちはOKだ。後は任せたぜ」
 彼が向かったのは、外で待っていたシュナ・アキリ(ea1501)の元だ。
「ええ。じゃ、後は怪盗2人のお手並み拝見って所ね」
 さっさと受け取ると、彼女はそのまま、屋敷の前を離れる。面倒な事はキライだ。余計な火の粉がかからないうちに、36計逃げるにしかず。
「JJ。急がないと、いくらバカでも気付くぜ?」
 声が近くなってきたのを受けて、人足先にこっそりと抜け出てきたトリニティが、植込みの影からそう言った。
「わぁってるって」
 そう答えると、JJは再び屋根の上へと登る。
「俺はこっちだ!」
 自らを誇示する彼。それを見て、警備員達が色めき立つが、アンディが「そっちは偽物だ! 本物は向こうに行ったぞ!」と叫ぶのを見て、やっぱり違う方向へと向かっている。
「あれっ!? 猟犬どもが寝てる!」
 しかも、強力な追っ手の筈の猟犬達は、スリープの魔法で、ぐっすりと眠りこけていた。
「ふふふ。月に変わって‥‥です♪」
 どうやら、魔法を使ったのは、ユーリらしい。
「あばよ! とっつぁん!」
 こうして、泥棒2人は、商人の屋敷を、引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、嵐の様に去っていく。
 翌日。
「これであんたの願いはかなえたぜ」
 さっさと撤退した仲間達をよそに、今回依頼人の元に、盗んできた品々を置いて帰っているJJの姿があった‥‥。