奪われたヤギ壷

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月14日〜06月19日

リプレイ公開日:2004年06月23日

●オープニング

 イギリス‥‥キャメロットから徒歩で2日ほど行った、テムズ川河口の村‥‥。
「ほらー、ちゃんと一列に並んでー」
「並ばないと、食っちまうぞー」
 川の見える草原。後ろには、深い森が広がる、そんな他愛のない極普通の農村で、若い兄弟が、ヤギを放牧している。
 ところが。
「なぁ、兄貴‥‥。なんだ? あれ」
「さぁ‥‥」
 兄弟が、ローブ姿の一団を見て、目を瞬かせている。と、その時だった。
「ガブ! ゴブガブ!」
「ホブゴブ! ゴブブ!」
 そのローブ姿の一団が、いきなり纏っていたそれを脱ぎ捨てる。
「うわぁぁぁ! ゴブリンだーーーー!」
 慌てふためく兄弟達。
「ど、どうしよう兄貴!」
「と、とりあえず落ち着くんだ!」
 とか言いつつ、ヤギを追う棒をおろおろと振り回しているあたり、本人が一番落ち着いて居ない。
「ヤギ! ホブゴブ!」
「ゴブ! ゴブゴブ!」
 ヤギ飼いの2人が、おたおたしているうちに、ゴブリン達は、放牧しているヤギ達を捕まえ、次々と連行して行ってしまう。
「ああっ! 僕の愛しのシロが〜!!!!」
 とは言え、ヤギ飼い達に、なすすべはない。極普通の一般市民が、ゴブリンに立ち向かうようには、出来て居ないのだ。逆に、ゴブリン達に追い掛け回されて、村へ逃げ回る羽目になってしまう。
 世の中、悪い事は重なるもので、村に帰ったヤギ飼い達を待ち受けていたのは、更なる悲劇だった。
「兄貴! 村の教会が!」
「んなもん、みりゃあ判るわい!」
 イギリスでは、どんな小さな村にも、必ずジーザス教の教会がある。政の中心である庁舎‥‥この場合は村長宅である‥‥と、生活の中心である井戸が、村の暮らしを支えているのだが、それがゴブリン達に襲われているのだ。
「ど、どうしよう!」
「と、とりあえず皆と合流しよう!」
 自分達2人では敵わないと思ったヤギ飼いさん達は、ゴブリン達から身を隠すようにして、やはり逃げ回っていた村人達と合流する。
「村長! 何が起こったんだよ!?」
「壷がーーー! うちの壷がーーーー!」
 村長に話を聞こうとすると、彼は頭を抱えたまま、そう訴えてきた。
「しっかりしてください。壺が一体どうしたというのですか!?」
「俺にもわからんが、村に安置していた壷が、ゴブリンどもに奪われたー! どうしようー」
 喚き倒す村長。彼は、頭を抱えていたが、やおら冒険者ギルドへ連絡を取るように告げるのだった。
 そして。

依頼:うちのヤギ知りませんか。
内容:この間、村をゴブリンに襲われました。奴らは、村の財産であり、生活の担い手であるヤギを浚って行き、それだけでは飽き足らず、村の教会に安置されていた、大切な壷をも奪って行きました。
 その壷は、村に代々伝わる由緒正しき壷で、大切なものです。
 どうか皆様、ゴブリンたちの手から、壷とヤギを取り戻してください。

また、その下には、注釈として、以下のような事が書かれていた。

ヤギ:村の収入手段。奪われたのは白ヤギが3匹、黒ヤギが2匹。既に食われている可能性が高いが、首輪だけでも持って帰ってほしい。

壷:村に伝わる酒の壷。大小2つあり、それぞれ『閣下の壷』『姫の壷』と呼ばれている。大きい方には女性の絵が描かれ、小さい方には、男性の絵が描かれているので、見ればすぐにわかる。名前の由来は不明だが、壷から注がれた酒を飲むと、やたらと脱ぎたくなると言う言い伝えがある。ただし、酒を飲むと陽気になるのは、誰しも同じなので、真偽の程は、定かではない。なお、奪われたのはコレだけではなく、他にも古い品々がある。

 そして。
「なぁなぁ村長、どうでも良いんだが、ヤギならもう食われてるんじゃねーか?」
「気にするなッ!!!!!」
 ヤギ飼い達にツッコまれてる村長。
「だいたい、そんなのんびりしていて良いのかよ。アレ、盗まれたのが領主様にばれたら、コレだろ?」
「うー‥‥、依頼はかけたから、大丈夫だと思うー‥‥」
 首を切る仕草をしてみせる村人に、不安そうな村長。
 そう。
 村から奪われた壷は、その昔、領主から拝領した品と言う事で、盗まれた事がばれれば、管理不行き届きで、首が飛んでしまう事も、充分考えられる。
 こうして‥‥冒険者達の集うギルドに、又1つ、新たな依頼が提示されたのだった。

●今回の参加者

 ea0068 霧島 葵(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0582 ライノセラス・バートン(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1087 クオード・デリファー(28歳・♂・ナイト・エルフ・ロシア王国)
 ea1264 ブロッサム・マーカス(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1337 森崎 風稀(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2010 アモレ・ジャイアンキング(38歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2260 ロディ・オーガスト(35歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea2731 レジエル・グラープソン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

「村人の協力が得られない以上、私達でトラップをしかけるしかありませんね」
 そう言って、霧島葵(ea0068)は、村長の納屋から、道具をひっぱりだしてくると、仲間の冒険者達に、スコップだの鍬だのを持たせ、落とし穴の制作に精を出していた。
「ったく‥‥。こんな回りくどい事やらんでも、突っ込んでぶちのめしゃー、すぐ終わるのによー」
 ぶつぶつと文句を垂れ流すロディ・オーガスト(ea2260)。
「文句を言うな。向こうのゴブリンは10匹程度だが、もしかしたら親玉がいるかもしれないし、取り戻さなければならないものもあるんだから」
 そんな彼に、同じ様に穴を掘っているライノセラスがそう言う。
「くっそー。こうなりゃやけだ!」
 きっぱりと説教され、ロディはぶつくさ言いながらも、言われるままに穴掘りに勤しんでいる。
「あと、どれくらい掘れば良いのだ?」
「そうだな。もうちょっと広めの‥‥ライが頭まですっぽり入るくらいの大きさがいいんだが」
 大きさを測っていたライノセラス・バートン(ea0582)の問いに、現場監督な霧島は、両手を広げ、具体的な大きさを示して見せた。ジャイアントがすっぽり入るほどとは行かないが、人間が這い上がれないほどの大きさはほしいらしい。
「だとすると、もう少し掘らないとダメだな。やれやれ、半日がかりか‥‥」
 しかし、それだけの大きさともなると、1時間2時間では、掘れそうにない。無駄口ばかり叩いているロディの姿に、もう少し時間がかかると判断したライノセラスは、アモレ・ジャイアンキング(ea2010)にこう言った。
「先に、他の準備を整えておいてくれ」
「もう始めてますよ」
 その彼女の腕には、村から持ってきた薪が、何本も収まっている。
「薪は、どれくらいで運び終わりそうなんだ?」
「んー、こっちも半日かかりそうね‥‥」
 予定が崩れまくりよー。と、やっぱり文句を垂れ流しているアモレ。本当は、村の人々の協力を仰ぎたかったのだが、運んでいる最中に襲われたら、たまったものではないと、薪の使用許可を出すに留まっている。おかげで、作業がはかどらない事この上ない。
「今のうちに、川の方の作業も進めないといけないんだけど‥‥」
「こっちは穴掘りで手一杯だな。行って来てくれないか?」
 霧島にそう言われ、彼女は頷きながら、再び村長宅へと向かう。
「何だか大騒ぎですが、大丈夫なのでしょうか?」
「心配しないで下さい。所で、村長。船を一艘借り受けたいんですが。それから、泳ぎの得意なものを調達してほしい」
 不安げな彼に、アモレは川の方を指差して、そう言った。
「いったい、何を‥‥?」
 怪訝そうな表情を浮かべている村長に、アモレはこう切り出す。
「実は‥‥ゴブリンを川に追い込むつもりなのですが、乗って沈む泥の船がほしくて。一艘底に穴を開けて、トラップとして用意したいと‥‥」
「勘弁して下さい」
 即答する村長。今度は、アモレが怪訝そうな表情を浮かべる番だ。
「何故です?」
「そんなに船も多く所有しているわけじゃありませんし‥‥。大切な交通手段と、生活必需品です。ゴブリンと一緒に沈められたんじゃ、たまったもんじゃありませんよ」
 近くの村への重要な交通手段でもあり、買出し手段でもある船。漁に使ったり、荷物を運んだりと、重要な役割をになっているそれを、そう簡単に壊されてなるものかと、彼は必死だ。
「そう言うものなのですか‥‥」
「そう言うものです!」
 まだイマイチ理解していない様子のアモレに、村長は一抹の不安を覚えずには、いられないのだった。

 翌朝。
「空が白んできましたね‥‥。そろそろ頃合でしょうか」
 暁の女神が、放牧地を美しく染め上げる頃、レジエル・グラープソン(ea2731)がそう言った。
「よし! 火をつけろ!」
 霧島が、そう言いながら、皆に合図する。それを受けて、次々とたいまつを薪に投げ込む他の面々。
「美味い具合に、煙が流れていくな‥‥計算どおりか」
 隠密行動や、戦場工作になれた彼らにとって、森の奥に都合よく煙を流し込むのは、さして難しい作業ではない。
「この状況では、馬は連れて行かないほうが無難だ。歩いた方が早いしな」
 炎に怯える愛馬を慰めているクオード・デリファー(ea1087)。そう言って、燃え盛る薪から、馬を遠ざける。レジエルも同じ様に、愛馬を避難させていた。
「わかった。行くぞ」
「ええ」
 見れば、ちょうど森に煙が充満した頃合だ。そう言って追い出し組の彼と、霧島は、煙と戦いながら、クオードの偵察によって発見された、彼らの巣穴へと向かう。
「いたぞ!」
 そこでは、ゴブリンが、盗んだ品々を抱えている。しかし、アモレが予想したように、煙で慌てふためいているようには見えず、単に明け方のうちに、盗品を運び出そうとしているだけに見えた。
「やはり壷を持っていますね‥‥。うかつに攻撃出来ないです」
「慌てるな。川まで誘導するんだ」
 レジエルの言葉に、霧島はそう言った。それを聞いたレジエル、足元の小石を拾い上げ、こう叫ぶ。
「ゴブリンども! こっちだ!」
 ひゅーんっと飛んで行った小石は、一番手前にいたゴブリンの後頭部に命中する。
「ゴブッ!?」
 振り返ったゴブリンを尻目に、森の外へと走りだす霧島。
「おーにさんこちら! 手の鳴る方へ!」
 頭にたんこぶを作ったそのゴブリン、追いかけろとばかりに、2人を指差した。
「よし、上手い事追いかけてましたね」
 それを見たレジエルと霧島は、してやったりとばかりに、にやりと意味ありげな笑みを浮かべあう。
 タイミングを合わせ、彼らは、木が比較的まばらに生えた場所へと誘導していく。煙のあまり流れていないそこは、回り込みやすく、2人を追い込みやすいように見えた。
「ゴブブゴブ!」
 木の陰に、わざと見えやすいように隠れた霧島に、棍棒をふりあげるゴブリン。
「甘い!」
「ゴブ!?」
 その刹那、霧島の動きは掻き消えてしまう。目を丸くするゴブリンのすぐ後ろに、全く同じ動きをしている霧島本体の姿。振り返ったそれを、力の限り殴りつけ、足元に開いた落とし穴へと叩きこむ彼。
「えぇい、素直に落ちなさい」
 じたばたと往生際悪く、落とし穴の端っこに引っかかっているゴブリンを、穴のそこへと蹴り落とすレジエル。
「怪我、してませんか?」
「ん? ああ、かすり傷だ」
 彼の言葉に、大した事はないと、答える霧島。その様子に、レジエルは、出しかけたリカバーポーションをひっこめる。どうやら、使う必要は、なさそうだ。
「オラァッ! お前らでストレス解消だ!」
 見れば、ちょうどロディが、駆け込んできて武器を振り下ろしてきた所だ。たかだかゴブリン1匹に、チャージングとスマッシュを食らわせると言う問答無用の攻撃をした結果、穴に落ちたまま動かなくなるゴブリン。
「飛ばすのはいいけど、壷、割らないように気を付けて下さいね!」
 同じ様に、穴に落ちたゴブリンに、とどめをさしながらライノセラスがそう言った。このあたりは、個人の性格の差が出るらしく、レジエルの様に、穴に落ちたゴブリンは無視する者もいれば、彼のように徹底的に叩く者もいる。
「アモレさん! そっち行きましたよ!」
 だが、小物に夢中になっている間、リーダー格のゴブリンが、片手に壷、片手に斧を持って、逃走を図っていた。
「川の方へ追い込みましょう!」
 人間にゴブリンの言葉がわからないように、ゴブリンにも、人間の言葉はわからないはず‥‥そう予想したアモレ、ライノセラスにそう叫ぶ。そこには、クオードと、ブロッサム・マーカス(ea1264)、それに森崎風稀(ea1337)が待機している筈である。
「クオード殿! 今です!」
「任せろ!」
 駆け込んだゴブリンに、叩きこまれるディザーム。
「しまった! 壷が!」
 剣の柄でおててを強打されたゴブリン、痛みで思わず壷をぶん投げてしまう。壷自体は木製だったが、高く放り上げられたそれは、川岸の岩にでもぶつかれば、タダではすまないかもしれない。
「ライ! パス!」
 そうはさせじとアモレ、ボール投げの要領で、壷を激突から守る。
「そりゃあ! トス!」
 河原ではなく、放牧地の方へ流せば、無傷で済むだろうと考えたらしい。言われたライノセラス、同じ様に壷を拳で掬い上げるように、天空へと上げた。
 ところが。
「せーの! あたぁぁぁっく!」
 ちょうどその場に待機していたクオード、思いっきりそれを川の中へと叩きこんでいた。皆があんぐりと口を開ける中、壷は盛大に水の中へダイブ・イン。
「おのれ、ゴブリンども! 村の宝に何をする!」
 自分が落とした事は棚上げで、びしぃっと指先を突きつけるクオード。
「ゴブ! ゴブゴブゴブ!」
 俺じゃない。俺が悪いんじゃない。と言いたげに、首を激しく横に振るゴブリンのリーダーくん。逆に、クオードを指差して、お前のせいだ。と、名指しで非難。
「えぇい、黙れ。だいたい、あんたらが壷なんざ盗むから悪いんだ!」
 そんな彼の意見なんぞ、端から無視して、そう叫ぶクオード。その瞬間、彼の身体が淡いピンクの光に包まれる。
「俺の必殺技を食らうが良い! オーラショーット!!!」
 手から、光の固まりが飛んでいく。部下の大半を落とし穴で失ってしまったゴブリンくんが、多勢に無勢で敵う筈も無く、お怒りモードになった冒険者たちの手によって、袋叩きにされてしまうのだった。

 その日の夕方‥‥。
「おーい。ヤギの首輪、持ってきたぞ」
 川に腰まで使って、壷を探している冒険者たちの所へ、ライノセラスが、そう言いながら残った盗品を探して持ってきた。その手には、5匹分の首輪が握られている。やはり、すでにヤギは、ゴブリンの腹を満たしていたらしい。残念そうなヤギ飼いの少年。
「泣くなよ。壷、見付かったら、酒くらい奢ってやるからさ」
 そんな彼を、クオードがそう言って慰める。
 だが、まかり間違って『姫の壷』で酒を注がれた彼は、酒宴の余興で行った賭けに負けて、自分が脱がされる羽目になった事を、追記しておく‥‥。