変態男を捕まえろ!
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月06日〜11月11日
リプレイ公開日:2004年11月11日
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●オープニング
それは、霧の深い夜の事だった。
「だいぶ遅くなっちゃったねぇ。兄さん」
「ああ。この天気だし、早いとこ、家に戻った方が良さそうだ」
買い物帰りなのだろう。大きな荷物を抱え、家路を急ぐ兄弟2人。年は10代後半と、20代前半と言ったところだろうか。エルフなのか、少し線が細い。
「あれ?」
と、そのエルフ兄弟のうち、弟の歩みが止まる。
「そこの影に誰か居る」
「そりゃあ、通行人くらいはいるだろ」
建物の影から伸びる、男の影。兄貴の方は、まったく気にせず、そこを通り過ぎようとしていた。
「でも、さっきからこっち見てない?」
「気のせいだって。行くぞ」
さっさと家に帰ろうと言うのだろう。二の足を踏む弟をせかす兄。ところが、暗い路地を横切った刹那、闇の中から、「きひょひょひょひょ‥‥」奇怪な笑い声が聞こえてきた。
「「え?」」
2人が思わず振り返ると。
「ま、まぶしいっ?」
ライトの魔法も神々しく、明かりの中に照らし出される身体。思わず目を押さえた兄弟の目の前に現れたのは、全裸にマスカレードだけをつけた男だった。
「きひょーーーーーーひょひょひょひょひょ!!!!」
そいつは、奇怪な笑い声を上げたまま、ピンクの刀身を持つ剣を、横薙ぎに一振り。驚いたのは、兄弟のほうである。
「に、にひさん。か、係わり合いにならない方が‥‥」
「そ、その方が良さそうだ」
くるりときびすを返し、あわてて逃げようとする兄弟。
「きーーーーーーひょひょひょひょひょ!!!!!」
そんな彼らに、その男は笑い声を上げながら追いすがり、持っていたピンクの刀身を持つ剣で、背中から一刀両断。
「うわぁぁぁっ! 僕の服がーーー!」
哀れ全裸に剥かれてしまう彼。そう、切り裂かれたのは弟の服だけ。
「きーーーーーーひょひょひょひょひょ!!!!!」
「ぎゃああ!!! 俺の服までーーーー!」
しかも、その仮面の全裸男は、それではまだ飽き足らないのか、再び高笑いして、兄の方にも、同じように剣を振り下ろす。結果、犠牲者が2人に増えた。
「きひょーーーーーーひょひょひょひょひょ!!!!」
やることを済ませたと思ったのか、その全裸男は、笑い声を残しながら、霧深い商店街へと消えていく。
「どうしよう。こんな格好じゃ帰れないよー」
「泣くなッ。たぶん冒険者ギルドに言えば、どうにかしてくれる筈だっ!」
残された兄弟は、買い物袋で、大事な部分だけ隠すと、あわてて冒険者ギルドへと駆け込むのだった。
翌日。
「と、これが事件の概要だ」
早速集められた冒険者に、ギルドの担当官は、その事を包み隠さず話していた。
「あのー、全然わけ分からないんですけど‥‥」
「うむ。説明しよう。キャメロット内にある商店街で、夜な夜な剣を持っては、若い男を襲っている変質者が居るらしい。しかも、襲われるのはたいてい10代の少年やら、20代でも細い方だそうだ」
背格好が女性と見まごうようなタイプと言えば、分かりやすいだろう。先だっての兄弟も、身包みはがされ、弟の方は、ショックで寝込んでしまったらしい。目を点にする冒険者達に、そう続ける担当官。
「犯人の特徴は‥‥?」
「若い女性冒険者にはあまり聞かせたくない話なのだが‥‥、必ず全裸で現れるそうだ‥‥」
しかも、顔が分からないように、舞踏会用の仮面をつけている。年恰好は、大柄で筋骨隆々とした中年男。ジャイアントか、背の高い人間だろう。目撃者と言うか、被害者の証言では、割と毛深くて、ピンクの刀身を持つ剣を持っているそうだ。なんともはた迷惑な話である。
「そこで、商店街の方々からの依頼で、このはた迷惑な変態男を捕まえ、二度とこういった事を起こさないように、とっちめて欲しいそうだ」
そりゃあそうだろう。こんな奴が夜な夜な現れては、商売にも差し障りが出る。
「なお、所持していた剣は、証拠品として押収するので、持ち出しは厳禁とする。以上だ!」
担当官は、そう言って釘をさした。どうやら、そう簡単に、レアアイテムが手に入るものでもないらしい。
●リプレイ本文
あっという間に夜になった。
「いーですか。何があっても、今日は外に出ちゃ行けませんよ。危ないですからね」
御山閃夏(ea3098)が、そう言いながら、店を閉めている商人に、触れ回っている。ジェームス・モンド(ea3731)、クリオ・スパリュダース(ea5678)、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)が、バーのママさんや、八百屋のオバチャン、さらに被害者から話を聞いて見ると、隣の商店街と仲が悪く、バイト募集している所に、エージェントとゆー名の変態仮面を送りつけられた可能性が高いらしい。
「本当にこんなんで引っかかるんでしょうか‥‥」
その後ろには、男装した大隈えれーな(ea2929)の姿があった。不安そうな彼女に、クリオがぼそりとこう解説する。
「いっくら近場とはいえ、こんな寒い時期にマント1枚で、表をうろつこうと言うバカだ。あまり頭はよくないだろうさ」
普通なら、ここで犯行を控えるってもんだろうが、そこまで気の回る奴ならば、最初から奇声を上げて、美少年を剥き倒すなんざやらねぇだろうと、そう言う訳である。まぁ、真相は本人から聞くとして、まずは捉える事が先決だ。
「ねぇシスイさん。あの綺麗な男の人と恋人同士、ってホントですか!?」
これみよがしに、シスイ・レイヤード(ea1314)に大きな声で尋ねているえれーな。
「どこから‥‥、そんな話が‥‥」
目を丸くするシスイ。彼が全力で否定しようとすると、彼女は声を潜めてこう言った。
「しっ。これも犯人を捕まえる為なんですから、合わせて下さいな」
「わかった‥‥」
仕方なく、反論を飲み込むシスイ。と、そうやって2人が、『仲の良さそうな美少年カップル』を演じていた時だった。
「なんか‥‥視線を感じる‥‥出たか?」
「そのようですね」
項の辺りに突き刺さる視線。出来れば関わり合いになぞ、なりたくはなかったが、そうもいかないようだ。
「2人とも。こっちへ」
と、そんな2人を手招きする閃夏。見れば、彼女も大きな胸をサラシで潰し、暗い色の男性用着物を着ている。ただし、幾ら普段から好んでそう言う衣装を着ているとは言え、その大きな胸は、隠しようがなかったりするのだが。
「植え込みの中に潜んでますから、目につきやすい場所に座ってて下さい」
昼間のうちに調べておいた商店街の地図によれば、並んでいる店を抜けた辺りに、ちょっとした広場がある。その植え込みの前にベンチがあるから、そこで待ってなさいと、彼女が指示をした、まさにその時であった。
「ぎゃー!!!」
すぐ近くで響く男の悲鳴。ついで、風に乗って流れてくる笑い声に、一行は急いで被害があったと思しき方向へと向かったのだが。
「こ、こいつは昼間の‥‥!?」
周囲で見張っていたディアッカが驚く。そこで剥かれていたのは、昼間目をつけておいた、バイト兄ちゃんだったのだ。その証拠に、保存食の臭いが、染み付いている。
「犯人は‥‥おそらく、その辺にいる筈だ‥‥」
耳の良いシスイがそう言った。他の面々も、何か走り去ったような音は聞いていない。
「そのとぉーり‥‥」
それを証明するように、シスイの真後ろに姿を見せる人影。振り返った先に居たのは、マントだけを羽織った仮面の中年男だった。
「きーひゃひゃひゃひゃ‥‥!」
マントを翻し、全身から湯気を立てながら、走りだす犯人の変態仮面。
「ここじゃ不味い! 引き寄せるぞ!」
「わかってる!」
狭い路地だ。早いところ抜けて、安心してけり倒せる場所に移動しなければ。そう思ったシスイ、えれーなと共に、広間の方へと向かう。
「いやぁぁぁん。けっこう早いですのぉーー」
目撃証言どおり、見てくれの筋肉程度には、体力がありそうだ。
「我慢しろ! もう少しで広間なんだから!」
「分かってますぅってばぁ。私だって、ぬ、脱がされる訳には、絶対絶対ぜ〜ったい、いかないんですーっ」
振り回すピンクの剣。持っている奴に脱衣衝動を与えるとか言う噂があるが、それなりに切っ先も鋭い。男装はしているが中身は立派なメイド忍者のえれーな嬢、剥かれまいと必死である。
「しまった! 回りこまれた!?」
ところが、路地を曲がった所で、犯人に追いつかれてしまう。
「きーひゃひゃひゃひゃーーーー!」
笑い声一閃。剣が振られて、上着がはらりと落ちる。
「わ、私の服が‥‥」
だが、呆然としているのは、えれーな嬢ではなく、シスイの方だった。
「さようならシスイさん。あなたの犠牲は明日の朝ご飯くらいまでは、忘れませんわ‥‥」
「まだ死んでないっ!」
涙を零しているえれーなに、シスイがツッコミを入れる。見れば、別に服が落ちただけで、お肌には、かすり傷1つついていない。一方、それを見て、犯人は何かがツボに入ったらしく、腹を抱えて大笑いしてる。
「何がおかしい‥‥」
「え?」
シスイの声が低くなった。そして、どよーんとした声のまま、こう続ける。
「今まで‥‥自分の素肌は‥‥誰にも‥‥見せた事は‥‥ないんだぞ?」
どうやら、剥かれるのは初体験だったらしい。そのセリフを聞いて、犯人さんは仮面の下のお肌を真っ赤にさせながら、ぽりぽりと横頬をかいている。どうやら、運命感じちゃってる模様。
「‥‥きつい‥‥オシオキだな? 食らえっ!」
シスイってば、問答無用で自分が知っている風の攻撃用魔法を叩きこんでいた。ちなみに、高速詠唱は持っていないので、1つづつ順番に唱えていると思いねぇ。
「うわぁぁっ。シスイがキレたーーーー!」
「あたしたちを巻き込むなぁっ!」
大変なのは、周囲に居た関係のない冒険者である。
「あ、まだ生きてるのじゃ」
「意外としぶといですねー。念のために、ぶち込んどきましょうか」
ユラヴィカとディアッカのは、傍観を決め込むらしい。まぁ、何もしないのは問題なので、とりあえず動けないようにシャドウバインディングで、地面に縫いとめておくディアッカ。
「きひゃーーーーひゃひゃひゃひゃ!!!」
無駄に元気な犯人。自分の元気さ加減をアピールするかのように、剣を振り上げて高笑い。
「やっちゃいます?」
「そうですわね」
その様子を見て、えれーなと閃夏が顔を見合わせた。その様子に、このままボコられて終わりか? と、シフール2人はは考えたが、そうは上手く行かないのが、世の常である。
「待てぃっ!」
パン屋の煙突の上に立つ人影。
「貴様か‥‥。全裸道を汚す愚か者は‥‥! そんな貴様に、今、骨の髄まで全裸の真髄を教えてやる!」
彼は、そう言って、煙突の上から飛び降る。みれば、マントを羽織り、獅子を模したエクセレント・マスカレイドを装着した、レオンロート・バルツァー(ea0043)だ。
「とぅっ!!」
纏ったマントがばさりと脱ぎ捨てられた。中から現れたのは、鍛え抜かれた立派な全裸である。
「あだっ!」
体が軽いわけぢゃあないので、盛大に頭から突っ込んでしまう彼。そこへ、女性陣が文句をつけた。
「こらーーー。レオンさんまで脱がないで下さいよ!」
「だいたい、なんであたしには、目もくれないのよ」
どうやら、納得行かないようである。
「ポリシーとゆー奴だ! えぇい、我が全裸道をバカにするでないわ」
スタンアタック使ってまでボコスコに殴られて、そう訴える変態獅子仮面氏。
「そこまでだ!」
「またか‥‥」
月を背に、今度は反対側の教会の屋根に、すっくと立つ人影に、ディアッカが頭を抱えている。で、人影こと陸奥勇人(ea3329)は、そんな周囲の状況なんぞ見えていないのか、屋根の上で腕を組みつつ、こう言い放つ。
「美しい月夜が霧に隠れるを幸いと、己が欲望を剣に映し、罪無き若者に狼藉を働く者。人其れを、変態と言う‥‥」
それを見た獅子仮面は、ネタが被ってるなーとか言う顔をしながら、あえて問いただした。
「誰だお前っ!」
「貴様らに名乗る名前はないっ!」
きっぱりと断る陸奥。そして、おもむろに大鷲を模した形のエクセレント・マスカレイドを着用し、こう宣言する。
「だが天空よりの使者、大鷲仮面がそれを許さない! 貴様の悪事は露見した。神妙に縛につけ!!」
「って、名乗ってるじゃない」
そんなものは、その場の勢いと言う奴だから、気にしないであげようね。えれーなちゃん。
と、そんな彼に追い詰められた格好となった変態さんに、ようやく追いついたクリオが、びしぃっとその素顔を見抜いてみせた。
「油商人ケビン・マッカラン。おたくの正体はお見通しだ」
「な、何故それを‥‥!?」
仮面の下から、くぐもった声が漏れる。
「あ、しゃべった」
「だってアレ、犯人が好きでやってる可能性の方が、大きいじゃろ」
驚いた表情を浮かべている閃夏に、ユラヴィカがそう言った。と、クリオはそんな彼には目もくれず、調べてきた事を突きつける。
「おたくは九月某日、被災者救援のため商人ギルド代表団の一人としてケンブリッジに向かい、そこで福袋を購入したな」
「む、むう‥‥」
言葉に詰まる変態仮面。そこへ、今までバーのママさんと話し込んでいたらしいモンドさんが、強い口調で、罪状を並べ立てた。
「もう逃げられんぞ。お前を猥褻物陳列罪、並びに狂気不法所持で逮捕する!」
「い、いいじゃないかー! 別に殺してるわけじゃないしっ」
納得行かないのは、変態仮面さんの方。
「甘い! 甘いぞケビン!」
そんな彼に、獅子仮面さんが、びしぃっと指先を突きつけた。
「ひ弱な男を脱がし、自己の肉体美を誇張しようとする! そして、顔を隠す為だけに着用していると言わんばかりの、ポリシーの欠片も無いマスカレイド! 己に自信を持てぬ貴様は、全ておいて三流なのだ! 貴様には、全裸になる資格はない!」
少し間違った解釈をしている気がするが、気にせず変態男に駄目出しをする。と彼は、ポージングを決めながら、こう続けた。
「見よ、この肉体美を!! 今の俺は、全裸で有って全裸で有らず! 自信と言う名のオーラを纏う事により、美と言う名の衣を着ているのだ!!」
オーラ魔法は使っていないはずなのだが、汗でキラキラと輝いている。
「どうでも良いんですが。いちいち言葉を切りながら、ポーズを変えないで下さいよ」
「言わないで。頭痛くなるから」
周囲で呆然と見ていたクリオに、閃夏が頭を抱えている。
「うぉぉぉ!! 何と言う神々しい裸体! アニキ! いや、師匠と呼ばせてくだせぇっ!」
「良いだろう! 貴様に裸体の美学、とことんまで教えてやるっ!!」
一方の2人はと言うと、例の変態さんは、すっかり獅子仮面の肉体美に魅了されてしまったらしく、何やら意気投合してしまったようだった。
「ちょっと待て! じゃあ俺の犠牲は‥‥」
納得行かないのは、お肌まで晒しちゃったシスイだ。と、そんな彼に、変態仮面さんはにへらと鼻の下を伸ばしながら、一言。
「あ。別に俺とつきあいたいって言うなら、構わないよ。うん」
どうやら、美少年ばかり剥いていたのは、本人の趣味嗜好らしい。よく見れば、目が、シスイのピンク色に注がれている。
「‥‥大鷲仮面さん。やっちゃって」
えれーなが、憮然とした表情でそう言った。
「成敗!!」
直後、大鷲仮面に後頭部から思いっきりぶん殴られたのは、言うまでもない。
んで、翌朝。
「うふふふ。我慢して下さいね。ジャパンでは大流行なんですよ」
片手に小さな桶を持ち、えれーなと閃夏が、にやぁりと笑いながら、そう言って、緑色の物体をケビンさんの脛あたりに、たっぷりと塗りつけている。
と、オシオキタイムに従事させられている犯人の肩を、ぽむと叩き、モンドさんがいかにも含蓄の深い顔で、こう話を締めくくった。
「これはその剣が起こした不幸な事故なのかもしれません。でも、俺は思うんです、欲望に貴方が流されてしまわなければ、この事件は起きなかったのではないかと‥‥。時間はたっぷりある、もう一度じっくり考えてみてください」
「反省したから、もう勘弁‥‥」
しかし、モンドの耳には、既にフィナーレの曲が流れ始めているらしく、明後日の方向を向いたまま、反応はないのだった。