必殺掃除人募集中!

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜11月29日

リプレイ公開日:2004年12月01日

●オープニング

 30年前‥‥。
『この屋敷は我らのものぞ‥‥』
 嵐の中、屋敷の中に響き渡る、低い声。
「うわぁぁぁっ! 来たぁっ!!」
「逃げろっ! 捕まったら一環の終わりだ!」
 その声に脅されるように、逃げ回る人々。その後ろには、白い影。
「よもやこの屋敷を明け渡す事になろうとは‥‥」
「せっかく手に入れたものを‥‥」
 外では、そう言いながら、屋敷の扉に錠前を降ろす男達の姿。
 重々しい音を響かせるその鍵は、全てに闇をもたらすのだった‥‥。

 そして、現在。
「うわー。酷いな、こりゃ」
「何年も使ってなかったからなー」
 そう言いながら、バケツやモップ、それにほうきと言った掃除用具を携えて、30年はたっていると思しき錠前を開ける作業員達。
 ところが、その彼らが上げた顔の先で、何か白い影のようなものが、通り過ぎていく。
「今、何か通らなかったか?」
「気のせいだろ」
 もう1人は、全く気付かない。それをよそに、中央の階段を拭いていた作業員が、踊り場の上を見上げて、こう呟く。
「でけぇ蜘蛛の巣‥‥」
「おい! 見ろよ!」
 と、それを共にやっていた作業員が、階段の裏側を見て、驚いた声を上げた。皆を呼び寄せ、その白い物体を引っ張り出して見ると。
「これは‥‥抜け殻‥‥?」
「ってー事は‥‥」
 顔を見合わせる彼ら。デカい蜘蛛の巣。そして、大きな抜け殻。白い影。導き出される答えは、1つしかない。
「よし。見なかった事にするぞ!」
「おう。引き上げだ!」
 身の危険を感じた彼らが、自分たちに被害が及ぶ前に、その屋敷を後にしたのは、言うまでもない。

 数日後。ケンブリッジの商店街をふらつく、紫の服の女性。フリーウィル冒険者学校の教師、ミス・パープル女史である。そんな彼女が向かったのは、ケンブリッジギルドだ。
「いらっしゃい、先生。また依頼ですか?」
 受付担当の老紳士は、彼女が差し出した書類に目を通しながら、そう尋ねた。と、彼女は「似た様なものかしら」と頷きながら、とんとんっと書類を叩いてみせる。
「ちょーっとした事なんだけどね。せっかくだから、生徒にやらせようかと思って」
 そこには、低学年でも分かりやすいよう、大きな文字で、こう書いてあった。

『必殺掃除人募集中!』

 ジャパンの吟遊詩人にでも、影響を受けたのだろう。彼女は、こう説明してくれる。
「今度の遠足、私が受け持っている生徒の行き先は、知り合いの持ってる別荘なんだけど、最近手入れしてなかったらしくて。タダで貸してあげるから、その代わりに掃除してきてくれってさ」
 商人って、ちゃっかりしてるわよねーと、右手を揺らす彼女。
「ただねぇ、最近お化け話が出てて。少し気になるから、引率と称して、ついていこうとは思ってる」
 少し真剣な表情で、パープルは注釈をつけた。左手は、相変わらず動いていなかったが、右手で動かすハルバードだけでも、生徒達を守る事は出来るわ‥‥と、そう言いたげである。
「そんな事言って、本当は自分が遊びたいだけなんでしょう」
「をほほほほほ。何の事かしら」
 じと目でそう言ってきた老紳士のセリフを、明後日の方向向いて、はぐらかすパープル先生。
「時に、この依頼は、学生さんじゃないと駄目なのかね?」
「ううん。そんなこと無いわ。手伝ってくれるなら、誰でも大歓迎よ」
 特にカッコイイおにーさんなら☆ と、趣味丸出しの彼女。その回答に、担当の爺さんは、「いーですけどね」と、やや呆れながらも、書類に承認サインを入れる。
「では、張り出しておきますから、何か注意があるようでしたら、伝えて下さいね」
「いつも悪いわねー」
 そう言って、ギルドを後にするパープル女史。数日後、その別荘をお掃除してくれる面々を募る依頼が、公開されたのだった。

●今回の参加者

 ea2554 ファイゼル・ヴァッファー(30歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea5381 ミア・フラット(32歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6870 レムリィ・リセルナート(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8677 アルベルト・ハザードライド(28歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「初めまして‥‥。アルと言います。騎士と言っても戦闘なんかは出来ないんですけど‥‥掃除ですから関係ないですよね?」
 軽く自己紹介するアルベルト・ハザードライド(ea8677)。
「まぁ、面子が増えるのは、良い事だ」
 そこへ、 顔だけは真摯な表情でそう言ったのは、彼女の荷物を山ほど持たされた東雲辰巳(ea8110)である。
「その格好言っても、全然かっこよくないわよ」
「持たせたのはお前だろうが!」
 両脇に抱えるほどの大荷物に、ぎゃーぎゃーと喚く彼。
「左腕で抱える分持つって言ったの、東雲じゃない。自分で言っといて、文句言うんじゃないわよ」
「うーん。こんな奴だったかなー‥‥」
 頭を抱える彼。最初の『ろまんちっくな再会』イメージが、吹き飛びかけている。
「そうだ、これからどう呼べば良いかな。『パープル女史』も変だし、いつまでも『姫』というわけにもいかないだろう?」
 それを払拭する為か、東雲は着替えながらそう尋ねた。
「そうねぇ。レディとでも呼んでくれればいいかしら。生徒じゃないのに、『先生』もおかしいしね」
「レディか‥‥」
 ふっと満足げに笑う東雲。話だけ聞いていると、至極シリアスで真面目な雰囲気なのだが、バケツに入れられた雑巾やほうき、腰にさした埃とりが、全てをぶち壊しにしていたり。
「こらそこ! 先生にべたべたくっつかないで仕事する!」
 で、そんな東雲の後頭部をすっぱーんと叩くレムリィ・リセルナート(ea6870)。
「いや別に‥‥。ただ話をしてただけなんだが‥‥」
「はいはい。そんなのは、お夕飯を済ませてから、のんびり語らって頂戴。夕方までに綺麗にして、タウンガイドの目玉にするんだから」
 気合が入っている彼女。自称・制作委員会委員長故の言動だろう。
「だいたい、あそこの2人は、真面目にお掃除してるんだから、東雲もちゃんと手伝えー」
 彼女が指し示した先では、他の生徒と共に、無言で掃除に励んでいるファイゼル・ヴァッファー(ea2554)の姿があった。
「ん‥‥?」
 と、食器棚を拭こうとした彼の手が、途中で止まる。
「パープル女史。何か、妙なモノがあるんだが‥‥」
 そう言いながら、手招きする仕草を見せるファイ。指し示されたのは、古くてもお宝とは言いがたい、血まみれの食器だった。
「だいぶ前に、虐殺があったって事だな‥‥」
 彼がそう言った直後、響いた悲鳴に、皆がはっと顔をあげる。何か言う前に、飛び出していくパープル。
「1人で行かせるかよ!」
 後を追う東雲。その彼が目撃したのは‥‥。
「あれは‥‥! 蜘蛛か!?」
 世間では俗にグランド・スパイダーと呼ばれる類である。
「いや。既に‥‥死んでる」
 しかし、その命は途絶えて久しい。にも関わらず、こうして彼らを襲っているのは、負の生存本能の賜物と言ったところだろう。
「何でも良いから、手伝え! うわっ」
 そう叫んだファイの手元に、バケモノ蜘蛛の糸が発射される。
「く‥‥。避けそこなったか‥‥」
 持っていた日本刀の鞘で受け止めるも、力は強い。ぎりぎりと引き寄せられる彼。
「下手に近付くと絡まれるわよ。ああもう、近付けやしない!」
 それを、自慢のハルバードでたたっ斬ろうとするものの、蜘蛛の足に阻まれて、中々上手く行かないパープル女史。そのうちに、彼女もまた、糸に絡まれてしまう。
「くっ。こいつを借りるぞ!」
 東雲が、そう言いながら、レムが抱え込んでいたピンクの刀身を持つ剣を奪い取った。どうやら、アンデッドと言う事で、魔法剣を使わなければと思ったらしい。
「何だか知らんが、服が邪魔だ! こんなもの脱いでくれるわっ」
 着ていた着物をがっとはだけ、帯をしゅるりと外す東雲に、頭を抱えているレム。エロスカリバーは、相手を剥くわけではなく、脱衣衝動に駆られる魔法剣である。その効果で、東雲は、敵の目の前でストリップショーをやらかすとか言う剛毅な真似をやらかしている。
「大丈夫か?」
 ピンクのもやが、とってもせくしぃな東雲を見て、切り裂かれた糸を払いのけながら、頬を染めているパープル。こっちも、切った拍子に、上着がはがれて、ちょっぴりせくしぃ。
「遊んでないで、手伝ってよー!」
 元の持ち主はと言うと、ナイフを片手に蜘蛛と格闘中。仕方なく、そのままの格好で、挑みかかる東雲。
「やっと斬れたか‥‥。ずいぶんと頑丈だったな」
 いかに丈夫であろうとも、相手は一匹である。程なくして、バラバラにされてしまう死体蜘蛛。その死体を見下ろして、ファイは首をひねっていた。
「まさか、この血まみれの食器や何かは、こいつが原因か?」
 壊れた食器を指してみせる彼。
「いや。その割には、骨も残っていないのはおかしいだろう」
 東雲が、着物を直しながらそう言う。
「そうね‥‥。見なさい」
 と、その死体を観察していたパープル女史が、今まで隠れていた蜘蛛の腹部を指した。焼け爛れたそれは、一目で致命傷と分かる。
「って事は、もう1匹入るって事?」
「噂に聞く白い影か‥‥」
 ここに来る前、先に行った清掃業者が、仕事をキャンセルした話を思い出し、レムにそう答える東雲。
「おそらくな。前の持ち主と言った所だろう。何で死んだんだか知らないが、いい加減消えてもらいたいもんだ」
 ぼそりと言うファイ。と、その時だった。
『ここで騒ぐのは、何者ぞ‥‥』
 空気を震わせるように響く、低くくぐもった声。それと同時に、白い人影が浮かび上がった。
「まーまーそう怒らずに。あたし達分かり合えると思う」
 とりあえず笑顔で語りかけ、友好的に右手を差し出すレム。だが、その幽霊は、敵対心をむき出しにしたまま、こう言ってきた。
『子供か。まぁいい。餌には足りないがな‥‥』
「え、なに? 子供って誰がっ! そんな事言う人は、お仕置きだよ!」
 むっとした表情のレム。そう宣言すると、日本刀をぬいて、突進する。だが、確かに食らわせた筈のダブルアタックは、すかっとその身体をすり抜けてしまった。
『死ね‥‥』
「け、剣が通じない!? インチキじゃぁーん! 意地悪ッ!」
 間合いを詰め、その喉もとに手を伸ばしてくる亡霊。
「せんせー! こいつ、何とかしてよぉ」
 そう言いながら、パープルの後ろに逃げ込むレム嬢。
「当たり前じゃない。アンデッドには普通の武器は通じないって、授業で教えたでしょうが」
 そう答えるパープル嬢。彼女の、授業での専門分野はデビルやアンデッドなど、『負』の生物達である。そこだけ教師の顔をする彼女に、レムは日本刀から、シルバーナイフに持ち替える。
 それに変わり、今度はファイが、拳にシルバーネックレスを巻きつけ、即席のナックルでもって、ぶん殴ったのだが。
「うわっ! 何だこいつ!?」
 打ち込んだその腕先に、激しい痛みが走り、彼は慌ててそれを引き抜いていた。
「直接攻撃は避けた方が良いわね。レイスは触っただけで怪我をするのよ」
「どうしよう。いくら1匹と言っても、こんなナイフ一本じゃ、どうしようもないし」
 解説するパープルに、レムが困った表情で、そう言った。
「待て!」
 と、そこへ響き渡る凛とした声。ステンドグラスを背に、持っていたロングソードを突きつける、マスカレード姿の少年。
「人の世に彷徨い出でた不浄なる霊よ。それ以上の狼藉はこの私が許さない!」
 ステンドグラス越しの光が、きらきらと天然の演出をかもし出している。
「って、また変なのが現れたわね」
「私か? 私は‥‥そう、仮面の騎士『ホークアイ』とでも呼んでくれたまえ」
 パープル女史のセリフを、『正体を聞かれた』と思ったらしい彼は、まるで伝承歌の主人公のようなポーズで、そう名乗った。
「どうみてもアル‥‥」
「しーっ。そう言うのは言っちゃ駄目よ」
 育ちの良さそうな横顔を見て、真の姿に気付いた東雲だったが、パープル女史に口を押さえられて、黙り込む。
「いくぞっ! バケモノめっ!」
 やる気満々の彼。片腕にオーラシールドを作り出し、挑発するように構えてみせる。
「ちょっとぉ、あんまり苛めないでよ〜? 計画がパーになるじゃない」
「って、どっちの味方なんですかぁ!」
 レムの一言に、つんのめる彼。その拍子に、自分のロングソードを落としてしまう。
『殺す‥‥』
 相手のレイスはと言うと、冗談の通じる性格ではなかったらしく、低い声でホークアイへと腕を伸ばしてくる。
「危ない! レム、アレを!」
「はい先生! ホークアイさん、これ使って!!」
 パープル女史の声に答え、レムが持っていたエロスカリバーを、ホークアイに向けて放り投げた。
「ありがたい!」
 何も知らない彼、疑いもせず、そのピンクの刀身を抜き放っていた。
「鎧が邪魔です!」
 で、やっぱり、エロスカリバー効果で、着ていたネイルアーマーをぽいっと放り捨てている。ケツえくぼがとってもキュート。
「パープル女史、絶対にアレが目当てだったな」
「そんな顔をするな。俺だって呆れてるんだから」
 ファイがいやんな顔を浮かべているのを見て、頭を抱える東雲。
「剣さえ持てれば、貴様程度にやられる俺じゃないっ! とうっ!」
 しかし、魔法剣なのは同じな訳で、ホークアイはそんな事を言いながら、床を蹴る。と、それを見て、レムはレイスに指先を突きつけながら、こう叫んだ。
「そこの幽霊さん! 痛い目見たのはわかったでしょ!? 大人しくお家に帰りなさいっ! だいたい、我侭ばかりじゃ、この先、生きてけないよ」
 奴の家はここなんじゃないか? とか、もう死んでるだろう。とか言うツッコミは、怖いので誰もやらないようだ。
『えぇい、うるさい! 人間どもの言う事なんぞ聞けるかぁ!』
 レイスの方も、説得しても無駄そうである。声を震わせて、こう叫ぶ。
『この屋敷は我等のもの。渡してなるものかぁぁぁ』
「先生。この幽霊さんは、出ていきたくないみたいですから、このままにして置きません? 渡る世間は共存共栄って言うし」
 何とかして欲しいと訴えるレム。しかし、パープルはそんな彼女に対し、首を横に振る。
「無駄よ。レム。ごらんなさい。もう、原型すら保てなくなってるわ」
『おのれ‥‥』
 パープルが指し示した先では、食らったダメージで、既に薄ぼんやりとした影でしかなくなっているレイスの姿。
「わかりました。そう言う事なら。オーラパワー、チャァァァジッ!」
 そう言ったホークアイの体が、淡いピンクの光に包まれていく。影が、そんな彼を捕らえようと、腕を伸ばした。
「食らえッ! ひっさぁつ! ホークアイ・アタァァックッ!」
 既に、言葉さえ話さなくなったレイスを、真っ二つに成仏させたのは、その直後の事である。
 そして。
「いやぁ。一時はどうなるかと思いましたが、助かりました。で、コレはどなたに‥‥」
 ホークアイがエロスカリバーを差し出しながら、お礼を言っていた。
「‥‥ああ。レディに渡しておいてくれ」
 確信犯的にそう言う東雲。後ろの方で、レムが「それ私の‥‥」と訴えたが、途中でファイに口をふさがれている。で、何も知らないホークアイさん。仮面をつけたまま、それをパープルへと渡してしまう。
「では、私めはコレでッ!」
 くるっと踵を返し、さわやかな口調で、颯爽と去って行く彼。直後、残されたパープル先生は、半ば強制的に持たされた剣の、その魔力によって犠牲者と化す。
「誰か楽器持ってないか? 曲があると、抜群に雰囲気出るんだが」
 人によって作用が違うらしく、ゆっくりと身に付けていた衣装を脱ぎ落としていく彼女を見て、東雲が鼻の下を伸ばしながら、そう要求してくる。
「おや。何かあったんですか? って、妙齢の女性が何やってるんですかぁぁぁ!」
 直後、何事もなかったように、今たどり着いたと言わんばかりの顔をしてみせる、素顔のアル。突然、目の前で繰り広げられたストリップショーに、顔を真っ赤にして大慌てだ。
「誰か止めなさいよ」
「「やなこった」」
 野郎の裸はお断りだが、美人の裸は歓迎なのか、レムのツッコミに、東雲もファイも、首を横に振るのだった。