【イグナイテッド】闇の囚われ人
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月30日〜12月05日
リプレイ公開日:2004年12月07日
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●オープニング
●プロローグ
――学園都市ケンブリッジ
幾つもの学び舎が建てられ、様々な人々が勉学に勤しむ町である。
この巨大な学園都市はハーフエルフを受け入れる事を宣言した。
――ハーフエルフ
少なくともイギリスの民は、彼等が迫害の対象とされている事を知っている。
ジ・アースでは、混血種を禁忌に触れた存在として忌み嫌う傾向があり、狂化という身体的特徴が神の摂理に反した呪いといわれているからだ。
では、ケンブリッジに何故ハーフエルフが暮らしているのか?
「学問を受ける者に例外はないのです!」
――生徒諸君よ、平等であれ!
学園理事会の言葉であった。ケンブリッジは寛大な町として、評価される事となる。
しかし、学校とは閉鎖された小社会だといわれるものだ。
光の当たらない場所で、ハーフエルフ達は苦汁を舐めているかもしれない――――
●兄を捜して
舞台となったのは、1年の大半は農作業に追われ、娯楽も少なく、そして‥‥女性すら少ない村。背後には、霧に覆われた深い森。
「う‥‥」
その‥‥凍えるような寒さの、薄暗い森に放置され、少年は傷だらけの身を起こした。人とは違う耳を見ると、ハーフエルフなのだろう。
「どうし‥‥て‥‥」
こんな目に会わなくちゃ行けないんだろう‥‥。知らず涙がこぼれてくる。見れば、体のあちこちには、傷だけではなく、明らかに嫌がらせと思われる赤い痣が点在している。おまけに、上着は引き裂かれて、ただの布と化していた。
話は、数時間前に遡る‥‥。
彼は、ちょうど一年前、行方不明になった兄を捜して、村に来た。
だが、村についた直後、排他的な村人達に捕まり、森へと追い詰められてしまっていた‥‥。
「こいつ、綺麗な肌してやがるし、慰み者にしてやろうぜ!」
「よそ者だ。構う事ァねーしな!」
彼を、突き飛ばす村人達。その拍子に、被っていた帽子が外れ、地に転がってしまう。騒ぎに呼び寄せられるかのように、次々と現れる村人達。多勢に無勢とはよく言ったもので、いつしか、少年はすっかり村人に囲まれてしまっていた。
「もう逃げられないぜ」
「や、やめ‥‥っ!」
再び、突き飛ばされ、地に伏す彼。兄に良く似た白い肌に、擦り傷が出来る。それを見て、村人達は舌なめずり。
「こいつもオンナにしてやろうぜ」
「ああ。あいつに似てるしな」
上着に手がかかる。抵抗しようとしても、その手は他の村人に押さえつけられ、動かす事が出来ない。
「やっちまえ!!」
「あぁ‥‥っ‥‥」
思い出すのもおぞましい迫害‥‥。いや、理不尽な暴力。
『あーあ。酷くやられたねぇ‥‥』
と、そんな彼に、ばさりと上着をかぶせる手があった。
「誰‥‥」
『キミの兄貴の知り合いだよ』
振り返れば、黒髪に黒瞳の青年の姿。冷たい表情ながら、そう言ってくれる彼に、少年ははっとした表情を浮かべる。
「兄さん!? 生きてるの?」
心配した様子の少年。と、その青年は笑みを浮かべてこう申し出てくれた。
『会わせてあげようか』
「どこに‥‥あうっ」
だが、会いに行きたくても、今は体があまり動かない。
『祈れば良い‥‥』
そんな少年に、彼はそう言った。
「そうすれば、会わせてくれるの?」
『そうだよ。キミの祈りが、兄貴に届けばね』
クレリックなのだろうか。良く見てみれば、身なりもきちんとしている。
「兄さん‥‥」
その言葉を信じ、少年は上着を羽織ったまま祈りを捧げる。
それが、兄を救う術だと信じて。
ところが。
「うわぁぁ! モンスターだーーーー!」
変わりに聞こえたのは、村人達の‥‥悲鳴。
「う、嘘‥‥!?」
見れば、どこか燃えているのか、村の方の空が、赤く染まっていた。
『キミの兄貴は、あそこにいる。あの中心にね‥‥』
「そんな‥‥!」
驚愕する少年に、青年は、耳元でこう囁く。
『気に病む事は無いさ。キミの兄貴やキミを酷い目に会わせた村なんだ。これくらい、当然の罰って奴だよ』
「でも‥‥」
躊躇うものの、中々起き上がろうとしない彼。
『それよりも、会いに行かないのかい? 折角、数年ぶりに再会するのにさ』
「あ、ああ‥‥」
青年にそう言われて、ようやくよろよろと、身を起こす。だがそれは、村に起こった災厄を止めるためではなく、己の願いをかなえる為。
『ふふ。それでいいんだよ。それで』
青年がそう言って、少年を抱え込むように支えている。
「そうだね‥‥。あんな村、どうなったって、構うもんか‥‥」
頷く少年。彼が受けた仕打ちを考えれば、『少しばかり痛い目に合っても』と考えたのも、無理はない。
(兄さんを苛め殺した村なんて‥‥)
そう考えている少年に、青年は満足げな笑みを浮かべているのだった。
●悲劇を止める為に
「と言うのが、手紙の内容です」
数日後、フリーウィル冒険者学校スパイ養成クラスでは、担任のパープル女史が、珍しく厳しい表情をしながら、生徒達にそう説明していた。
「差出人は書いていません。余計な嫌がらせを、恐れたのでしょう」
冒険者ギルドでは、あまり取りざたされないのだが、世間一般では、ハーフエルフと言えば、触りたくないアウトロー的な存在である。現に、ケンブリギルドでも、受付嬢の中には、彼らが来ると、奥へ引っ込んでしまう者もいた。その事を考え、あえて差出人不明のまま、垂れ込んだのだろうと、彼女は言う。
「文面からはデビルが関わっている可能性も見えます。そうなれば、スパイ養成クラスの腕の見せ所ですしね」
理事会は、ハーフエルフでも訳隔てなく受け入れるように、との意向を宣言している。しかし、それ以前に、救えそうな者を見捨てる事は出来ない。
「既に、キャメロットギルドに、救援要請が出されているようです。このままでは、いずれそのハーフエルフの少年も、『モンスターの一味』として、村人から袋叩きにされてしまうでしょう。その前に、何とかしてあげてください」
厳しい表情を崩さぬまま、パープル女史はそう言った。何か思い入れでもあるらしい。知り合いにでも口添えしたのか、報酬が多い。幸いな事に、その村へは、ケンブリッジから行く方が、若干近い。上手く行けば、何も知らない先輩諸氏に駆逐される前に、辿り着ける筈だ。
「混乱の村から、手紙にあった少年を助け出し、心の闇を取り除いて、ケンブリッジまで連れてくる事! それが、今回の課題です。皆、気を引き締めてかかるように!」
それを含めながら、パープル女史は、ぴしゃりとそう言って、言葉を締めくくるのだった。
●リプレイ本文
その日、ケンブリッジから到着した東雲とメイシアが見たのは、黒煙を上げる畑と、破壊された幾つかの建物、そして‥‥死体だった。
「酷い‥‥」
「ああ。めちゃくちゃだ」
焼け焦げたもの、切り裂かれたもの、農機具を武器がわりに持ったままのもの等、様々である。顔をしかめるメイシア・ラウ(ea8255)に、東雲辰巳(ea8110)はこう言う。
「こんな中で、魔に魅入られたら、後々まで尾を引きそうだな」
「それでも、こんなの駄目だと思います。いくら、理由があったって‥‥」
何の罪もない人を‥‥と言おうとして、メイシアは口ごもった。手紙によれば、村人達は、そのハーフエルフの少年に、不当な迫害を加えた‥‥とある。罪がないとは言い切れない。
「そいつを止めるために、こうやって、わざわざキャメロットに連中に先んじて、乗り込んできたんだ。今は、そのハーフエルフの子を助ける方が先だろ」
「ええ。異種族婚が、神の摂理に反しているとしても、子供に罪はありませんからね‥‥」
そう言って、彼女は村外れへと向かう。生き残った村の人々の離しでは、そこで何やら怪しげな人々がいるらしい。
と、そこでは。
「ちょっとぉ。別に怪しい奴じゃないってばー!」
「わかるもんか。お前だって、あいつの手先だろ」
聞き覚えのある声に、そちらへ向かってみれば、数人の男達に囲まれたレムリィ・リセルナート(ea6870)の姿があった。
「違うってば〜! あたしはただ、道に迷った行商中の武器商人だってー!」
「じゃあ、何でこんな上等の馬に乗ってんだよ。このあたりじゃ、見たことねぇぞ」
文句を言うレムに、村人達が根拠にしているのは、彼女が乗ってきたライディングホースだ。
「何やってんだ。お前ら」
そこへ、ミカ・フレア(ea7095)が飛んで行って、そう言うと同時に、一番手前にいた村人に、蹴りを叩きこんでいた。
「ってぇ‥‥。何をしやがる!」
「それはこっちのセリフだ。人のダチに、ケチつけてんじゃねぇ」
言いながらも、再び蹴りが飛んでいる。説教するのは苦手らしい。
「ミカ、そんなに蹴るな。バカがさらにバカになる」
「んだとぉ!? このガキ!」
ヴァイゼン・キント(ea8751)のセリフに、気色ばむ村人達。
「何か間違った事を言ったか? 大勢を1人でいたぶるような真似をして。頭が悪いといわざるを得んな」
見下すような態度の彼。その瞳が、ちらちらと赤くなっていた。それを煽るように、ミカも「やるか?」と、挑発するような仕草をしてみせる。
「やめなよ。2人とも!」
だが、それを殴り飛ばすレム。
「なに熱くなってんのよ。あたしは大丈夫。だいたい、あんたが先にキレたら、誰があたしを止めるの!?」
「そうですよ。納得行かないのはわかりますけど、ここは穏便に。ね?」
その中に割って入ったのは、メイシアだ。彼女は、『先遣隊』と称して、軽く自己紹介を済ませると、こう続ける。
「この方達も、その1人。疑わしい自称があるので、身分を伏せていただけですわ」
何やら陰謀の臭いがしますのでね。と、いかにも中央から来た風情を漂わせつつ、である。
「と言うわけですので、ここは素直に情報提供していただけませんか?」
顔を見合わせる村人達。あんなものを見せられれば、戸惑いもすると言うものだろう。
「素直に従っておいた方が無難だぜ。中央に言われて、やばい目に合ってもいいのかい?」
「それは‥‥わかった」
ミカに凄まれて、頷く村人。それでも視線を合わせないようにしながら、地面に簡単な村の地図を描く。
「じょ、情報提供はしたからなっ。後は勝手にやれよっ」
そのまま、すたこらさっさと逃げてしまう彼ら。残された冒険者達は、呆れたり、腹を立てていたりと、様々である。そんな中、メイシアが、それまでにいた場所に、チェックを入れて行く。
「私が最初についた場所がここ、そして、現在地がここ‥‥。ミカさん達がいた場所がこのあたり‥‥」
「と言う事は、まだ村の半分は残っている計算だな‥‥。よし、言ってくる
「ちょっと待ってよぉ!」
そのまま、まだ捜していないエリアに走るミカを、慌てて追いかけるレム。
「行動派ですね。それでは、私達は、村の反対側を探す事にしますか」
「そうだな。どのみち、俺は村には入らない方が良さそうだしな‥‥」
メイシアの感想に、耳を布で隠したヴァイは、村の反対側へと、足を伸ばすのだった。
そして。
「何か、迷子の子犬を探している気分ね」
「そんなほのぼのとしたものじゃないがな」
レムの感想に、厳しい表情を崩さないエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)。迷子探しにしては、周囲のきな臭いにおいと緊迫感が、全てを否定してしまっている‥‥と。
「見付かりましたか?」
と、そこへ、外をあらかた探し終えたメイシアが、おいついてくる。
「ううん。まだ。どこに隙間があるのか、分からなくて。ヴァイは?」
「外で待っているそうです」
村に入りたくないとの事で、と説明する彼女。
「それで、状況はどうですか?」
「あんまり良くない。だいたいこの辺りかなーっていうのは、分かるんだけど‥‥うわっ!」
そう答えたレムの目の前で、アンデッドと化したパピヨンが、飛び出してくる。
「風よッ!」
エルンストがウインドスラッシュで羽を落とす。そこへ、ミカがファイアーボムで丸焼きにしていた。
「急がないと、日が暮れたら、この程度では済みませんしね」
その様子を見ていたメイシア、そう言うと、クレバスセンサーを唱えた。
「‥‥見つけました。あれです」
「OK! なるほど、上着ひん剥かれたままで、樽の中になんか、居るわけないもんねっ」
彼女が示したのは、教会に付随した納屋だ。エルンストのブレスセンサーも、そこに『誰か』が潜んでいる事を示していた。
「キミ、大丈夫っ!?」
「‥‥っ‥‥!?」
レムが踏み込むと、千切れた上着を抱えて、怯えた表情で、隠れようとする少年の姿があった。
「俺はケンブリッジから来たモンだ。ギルドにお前を助けろって依頼が出たんでな」
「ケンブリッジ‥‥? どして‥‥?」
動きの止まる彼。そこに、レムがこうフォローを入れる。
「ケンブリッジの学校は、ハーフエルフも分け隔てなく受け入れてくれるって。僕もそこの1人なんだ。うちのセンセは、ちょっと押しが強すぎるけど、わざわざ僕達をここに寄越してくれたし、きっと力になってくれるよ」
笑顔で自分の担任教師をこき下ろす彼女。だが、少年は壁に張り付いた状態で、こちらを向こうともしない。
「駄目か‥‥。やっぱり、同族じゃないと、耳を貸してくれないのかな‥‥」
「ともかく、見付かったのですから、安全な場所に。いえ、迎えに来てもらった方が正解でしょうね。ここ、お願いします」
肩を落とすレムに、メイシアはそう言って、今だ少年を捜しているであろう同族‥‥つまり、ハーフエルフの冒険者達を呼びに行く。
「見付かったって?」
程なくして、ヴァイセンの他、村の外にある高台で、敵の動向を探っていたリュイス・クラウディオス(ea8765)とケヴィン・グレイヴ(ea8773)も、姿を見せる。
「あーあ、何やってんだよ。かわいそうに、この寒空に、こんなもん一枚で‥‥」
冷え切った肌が、微かに震えているのを見て、そう言いながら、ヴァイは、バックパックから、予備の旅装束を取り出し、少年に被せてやる。
「寒かっただろ? もう、凍えなくて良いんだぜ」
それでも、彼は答えない。と、焦れたようにリュイスがこう言った。
「黙りかよ。いい加減にしろよ? 恨むのは、わかるが、程ほどにしておけ」
「人‥‥なんて‥‥」
ようやく、それだけを言った少年に、今度はメイシアが、少しかがみこんだ姿勢で、こう言った。
「私は不当な迫害を受けた事がないので、あなたと同じ痛みは分かりません。ですが、傷付けられたら痛い事、苦しい事は分かります。ケンブリッジはハーフエルフも受け入れてくれるそうですし、ここでじっとしているより、一度尋ねてはいかがですか?」
「そうだよ。ここまで頑張ってきたんだろ? もう一度だけ、人間の良心って奴を信じてみない?」
レムも、そう続ける。
「けど‥‥。あの人は‥‥」
その2人の態度に、少年は少しだけ態度を軟化させたのか、戸惑ったようにそう言う。
ところが、その時だった。
「まずいぞ。例の連中、まだ陽もおちてないってのに、ちょっかいかけてきた‥‥!」
刀を片手に東雲が、そう言いながら飛び込んでくる。窓から見れば、外にいるのは、奇声を上げて、建物を壊しているアンデッドたちの姿だった。
「‥‥っ‥‥」
それを見た少年が、何かを求めるように起き上がり、外へと出ようとする。だが、目の前に広がる戦を‥‥いや、虐殺を見て、その足が止まる。
「お前の兄貴はモンスター共のド真ん中だ‥‥。危険だぜ? 着いてってやるけどよ」
そんな彼の肩に飛び乗り、ミカがそう囁いていた。
「だが、村にはは入れないだろう。出て行けば、確実にやられる」
「そんな事はわかってる! けど!!」
リュイスがそう言うと、少年は今度こそはっきりと、そう反論する。そんな彼に、東雲が一言。
「俺もついていこう。何、絶対に死なせはしないさ」
まだ、彼をそそのかした黒髪の青年は、姿を現していない。それを防ぐ目的で。
「なら、約束してくれ。兄貴の状況を確認し終わったら、ケンブリッジに来てくれると」
「わかったよ‥‥」
ヴァイに頷く少年。その態度は、相変わらず硬化したままだ。
「上手く行けば良いのですけど‥‥」
そう呟くメイシア。そう、彼女が抱いた不安の通り、そう容易くは行かなかったのである‥‥。
不安が的中したと悟ったのは、外に出て、しばらくたってからの事だった。
「きりがないっ」
次から次へと現れるアンデッドやズゥンビ達。まだ、日は暮れていない今は、本体ですらない筈なのに、すでに事切れた死体をも取り込んで、人数は膨れ上がっていた。
「ひ‥‥」
そんな中、血まみれの手を伸ばし、死に際の憎しみを、直接叩きつけようとする村人もいる。あとずさる少年に、エルンストが怒鳴りつけた。
「それくらい、自分で何とかしろ! いいか、文句があるなら他人に乗じたりせずに、自分が言え。石を投げるなら自分の手で投げろ。その程度のプライドも持てないから、悪魔に付け込まれる」
厳しい声に、少年が身をすくませる。と、ヴァイがそれを助長するかのように、静かにこう告げた。
「神も悪魔もアテになどならない、立って歩くのは自分だ。こんな風に、な!」
そして、せまってきた元・村人の死体を、ダブルアタックで仕留めてみせる。
「あーあ、酷いなぁ。めちゃめちゃじゃん」
そこへ、そう言いながら、姿を見せたのは、例の黒髪の青年。
「お前か、黒幕は」
「やだなぁ、人聞きの悪い。僕はただ、その子を導いてあげようと思っただけだよ。なのに、ちょっと目を離した隙に、こうだもんねぇ」
東雲の問いに、肩をすくめて見せる黒髪の青年。
「黙れ。人の心を弄ぶ貴様らを、生かしておくわけにはいかん」
「いいのかなぁ。僕を倒したら、そこの坊やの兄貴は、一生会えないよ」
しかし、その黒髪の青年は、ケヴィンに弓で狙いを定められても、顔色1つ変えてはくれない。
「構わん。お前の兄貴のいる場所くらい、予想はつく」
だが、迷う彼らを降りきらせたのは、東雲の一言だった。
「へぇ、何が分かってるって言うんだよ」
「ここに来る前に、色々と罠を張っておいた。それに引っかかる奴をたどっていけば、おのずとボスが出てくるだろうしな」
その言葉に、黒髪の青年から、笑みが消えた。そして、関心を失ったかのように、こう言う。
「冗談じゃないや、こんなバカどもとやりあうの。僕の主義じゃないね」
「あ、待って!」
腕を伸ばしかけた少年を制したのは、リュイスだ。
「やめておけ。今の俺達では、奴を倒すのは無理だ。それに、言われたのは、こいつをケンブリッジまで連れ出すことだしな」
「けど、そしたら、この子の兄貴は‥‥」
納得行かないレム。死してなお、憎しみ続ける彼の兄を、何とかして救いたいと思っているのだろう。その証拠に、こんな事を続ける。
「憎むって辛い事だよ? 死んだ後も憎み続けて! そんなの悲しすぎるじゃない」
「お前の気持ちは分かる。だが、あれを見ろ」
東雲がそう言って指差したのは、赤い髪をなびかせる魔道師の姿。高台から、惨状を満足げに見下ろす彼に、かつての面影はない。
「そう言うこった。あいつはもう、お前の事もわかっちゃいねぇ。ただのバケモノだ」
ミカがずばりとそう言う。足元にいならぶアンデッド達が、遠目でもざわめいているのが分かる。東雲のトラップ工作で、いくらか時間が稼げるとしても、滅びは目の前。その現実に、言葉を失う少年。
「脱出ルートは、既に見つけて有ります。出るなら、日の暮れないうちに」
メイシアが、急かすようにそう言った。それを聞いて、少年は後ろが身を惹かれるような表情をしながらも、自ら踵を返す。
「貴様のせいで‥‥」
途中、恨めしげに彼らを見る村人達。
「うるせぇ。コイツは俺らが連れて行く。仕事なんでな!」
そんな彼らの足元に、ミカがファイアーボムを打ち込んだ。そして、『ごちゃごちゃ抜かすんじゃねぇ、下衆が』と、低く呟き、村人達を睨みつけている。
「覚えておけ。我等にとって、お前たちを始末するくらいは、何でもない事を。だが、大地をお前達の薄汚い血で汚すことは出来ない。命拾いをしたな」
ケヴィンが、そう言葉を締めくくった。そして、少年の肩を守るように抱え、村を立ち去っていく。
「気を落とすな。俺の師匠とその家族は、ハーフエルフと普通に付き合う変人だ。お前の旅の道中に、温かい食事と寝床を提供してくれるはずだ」
村から脱出した後、ケヴィンは師匠宅の住所を教えながら、そう言った。
「なぁ、こんなもの見つけてきたんだが」
そんな彼に、リュイスが差し出したのは、何かの服の切れ端。
「兄さんの上着‥‥」
しっかりと、抱きしめて、嗚咽する少年。ようやく、その『死』を受け止める事が出来たのだろう。
「‥‥生き残れよ」
涙の跡を残したまま、貸されたヴァイセンの寝袋で、眠りについた少年に、ケヴィンは優しい表情で、そう呟く。
「もう、大丈夫みたいだな」
「ああ。後は、まとめて連れてくだけだ‥‥」
寄り添うようにヴァイセンが毛布に包まっている。それをみて、リュイスがそう呟き、エルンストは少しだけほっとした表情を見せているのだった。