【イグナイテッド】赤き復讐鬼
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 46 C
参加人数:10人
サポート参加人数:5人
冒険期間:11月29日〜12月06日
リプレイ公開日:2004年12月07日
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●オープニング
●迫害
イギリス王国首都・キャメロット。だが、街から少し離れれば、そんな‥‥きらびやかな印象は、欠片も持てなくなる。
その村も例外ではなかった。背後には、霧に覆われた深い森。1年の大半は農作業に追われ、娯楽も少なく、そして‥‥女性すら少ない村。
そんな‥‥閉鎖的な村で、ある1人の少年が、迫害を受けていた‥‥。
「やめ‥‥」
数人の若い村人に囲まれた、色の薄い金色の髪を持った少年。年の頃は、17歳くらいだろう。色の白い肌とは対照的に、瞳は目の覚めるような紫だった。
「へ。ハーフエルフの言う事なんざ、聞けるかよ」
人ともエルフとも違う、尖った耳を、囲んだ村人が引っ張る。バランスを崩し、地面へと転がる彼に、村人達はさらなる罵声を浴びせていた。
「女みたいな顔しくさって」
揶揄する様にそう言う村人達。彼らが押さえつけているハーフエルフの少年の、細い腕からは、幾筋もの細い傷、そしてぽつぽつとした火傷の跡が見える。どうやら、ここに来る前から、相当に痛めつけられているようだった。
「なぁ、本当にオンナにしてやろうぜ」
「ここの所ご無沙汰だしな。おもしれぇ」
地面に押し付けられて、声も出せないでいる彼に、村人達はそう言いながら舌なめずりをしてみせる。
「いい声で鳴いてみな!」
べり、と。布を引き裂く音がして、少年の上着が引き剥がされる。
「やぁ‥‥」
痛めつけられた体では、突き飛ばす事も出来ない。力の入らない彼を、村人達はいいように弄ぶ‥‥。
そして。
既に抵抗を諦め、硬く唇をかみ締めたまま、己に与えられた試練に、耐えている様子を見せる彼に、村人の1人が焦れたようにこう言った。
「けっ。なかねぇのかよ。悔しかったら、反抗してみな!」
挑発する様な行為に、初めてその少年が、敵意を見せる。
「こ、この‥‥っ!」
がり‥‥と、嫌な音がして、村人の肌に一筋の赤い印が走った。
「てめぇ! 何しやがる!」
引っかかれた痛みに、村人達の苛立ちが頂点に達する。
「生意気だ! やっちまえ!!」
それは、少年にとって、さらなる不幸を呼び寄せる結果となってしまった。
「ハーフエルフの癖に!」
「あうっ!?」
逃れようとした少年の足をひっかけ、再び地に伏せさせる村人達。起き上がろうとした彼に浴びせられる蹴り。残虐な行為は、少年の悲鳴と抵抗がなくなるまで続く‥‥。
「おい。なんかおかしいぞ?」
ようやく収まったのは、それからしばらくたってからの事だった。
「ぐふ‥‥っ」
激しく吐血する少年。流石に異常に気付いた村人達は、顔を見合わせる。
「ど、どうする?」
「ほうっておこうぜ。どうせハーフエルフだし」
「そーだな。きっと大した事ねーし」
しかし、誰も救助の手など差し伸べない。自分達が行った行為など棚上げて、そのまま彼を放置し、その場を立ち去ってしまう。
「誰か‥‥助けて‥‥」
苦しげに呻きながら、少年の口から、そんな言葉が漏れる。
と。
『助けて、あげようか?』
薄れ掛けた意識に響く、もう1人の声。
「だ‥‥れ‥‥」
僅かに開けた瞳に映ったのは、少年より、少し年上の青年。髪も瞳も黒い‥‥どこか冷たい表情をした男だった。
『誰でも良いだろ。あーあ、可哀相に。こんなに怪我をして』
頬に、ひやりとした指先の感触。と、その正体不明の御仁は、声を低くして、こう囁いた。
『ここから救い出して欲しいんだろう? 手を貸してあげる。その代わり‥‥魂を貰うよ』
「あぅ‥‥」
少年は応えない。ただ、僅かに首を動かしただけ。
『ふふふ。答えられないか。そうだよね。もう‥‥死んでるんだもんね‥‥』
物言わぬ死体となった彼を見下ろして、その『使者』は、ほくそえんだ様な言葉を漏らすのだった。
●襲撃
1年後、村では。
「ん‥‥? なんか、匂わないか?」
「そう言えば‥‥」
農作業をしていた村人が、鼻を引くつかせる。どこからともなく流れてきた、『妙な匂い』の原因を探ろうと、彼らが周囲を見回したときだった。
「なぁ、あれ‥‥なんだ?」
森から現れる、異形の姿。
『ウォォォォン‥‥』
空気を震わせるような声を出して、村へとなだれ込んできたのは。
「うわぁぁ! モンスターだーーーー!」
バグベアやコボルト戦士のアンデッド、そして普通より体の大きなインプ、グレムリンなど、主にアンデッドとデビルが、森から次から次へと現れていた。
「ふはははは! 者ども! 出来るだけいたぶり殺せ! 1人残らず生かして帰すなよ!」
その中心にいるのは、フードを深く被った黒衣の魔道師風の青年。
「あ、あれは‥‥!?」
「きっと、あいつが呼び込んだんだー!」
いや、体躯が小柄な事を見ると、少年なのかもしれない。
「愚かなる人間どもよ! 泣け! 喚け! 貴様等の叫びが、我を慰める歌となる!」
僅かに覗くフードの内側からは、真紅の髪の毛と、炎のような瞳が覗く‥‥。
「俺達が何したってんだよ!」
「と、兎に角、キャメロットへ使いを出せ!」
「逃げるのが先だろ!」
大慌ての村人達。口々に、そんな言葉を話しながら、モンスターがいない方向へと逃げ惑う。
『村がモンスターに襲われています。相手は、時間をかけて、じわじわと村を滅ぼすつもりのようです。誰か助けて下さい』
程なくして、キャメロットギルドに、そんな連絡が入ったのだった。
●リプレイ本文
キャメロットからの先遣隊を名乗る冒険者達が、潜んでいたハーフエルフの少年を連れて行き、そのまま姿を消してから、数時間後。村は、訪れる夜の帳と共に、新たな恐怖に支配されようとしていた‥‥。
「悪しき者どもめ! この白騎士が相手ですっ!」
フライングブルームに跨った、神聖騎士。華美な聖職者の衣服に身を包み、真紅の髪をもつその者の名は、フローラ・タナー(ea1060)。
「フローラ! こっちだ!」
と、そこへ、ライディングホースで乗り込んできた希龍出雲(ea3109)が、そう叫んだ。
「美人の危機なら、放っておくわけにも行かないんでな。覚悟!」
そう言うが早いか、出雲が刀を抜く。北辰一刀流の構えから放たれたそれは、ソニックブームとなって、15mほど先にいたズゥンビを切り裂いていた。一瞬退くアンデッド達。見れば、彼だけではなく、来生十四郎(ea5386)、閃我絶狼(ea3991)など、数人の冒険者が、ライディングホースで乗りつけている。
「ちっ。流石に丈夫だな。3人じゃ、手が足らないか?」
だが、とどめを指すには至らない。変わらず、自分たちに向かってくるズゥンビ達に、出雲はそうぼやく。
「相手にとって不足はないさ。クリスタルソード、召喚ッ!」
そう言った絶狼が茶色の光に包まれる。その直後、彼の手の中に現れたのは、80cm程の水晶剣。
「ま、即席魔剣だが、今回みたいな時には有効だろ‥‥。6分しかもたないってのが問題だがなっ!」
それをしっかりと掴むと、彼はそう言いながら、目の前にいたインプを横薙ぎにたたっ切った。動きの止まった所に、オーラショットが飛んでくる。
「不死者の群れに襲われるなんて、心細かったでしょう。援軍が向かっていますからご安心を」
安心させるように笑いかけ、魔力に糸目を付けずに、リカバーを施しているフローラ。ズゥンビの毒にやられた村人には、ピュアリファイをかけていた。だが、その反動か、次第に魔力が失われていくのが、はっきりと分かる。
「命あっての物種だな。いったん退くぞ!」
つらそうな彼女の様子を見て。絶狼が突破口を切り開く。
「死体風情がうっとおしいってえの‥‥。今度こそちゃんと死に直しておけ」
スマッシュで切り裂き、数を減らす彼。その間を、フローラが「皆、頑張って!」と励ましていく。そのかいあってか、十数人の村人を抱えたはずの彼らは、戦線を離脱する事に成功したのだった‥‥。
1時間後。彼らは村で一番頑丈な建物‥‥すなわち、教会へと避難を完了していた。
「申し訳ないですが‥‥、少し休ませて下さい‥‥。罠の下準備は‥‥任せます‥‥」
頑張りすぎたせいか、倒れこんでしまうフローラ。マナウス・ドラッケン(ea0021)から、村人に使ったアイテムの補給を済ませると、そのままうとうとと眠ってしまう。
「しかし‥‥、引っかかるな‥‥」
入り口にバリケードを設置し終わった出雲が、気付いたようにそう呟く。
「何故、一気に攻め落とさなかった‥‥」
マナウスが、腐臭以外の臭いもすると、教えてくれた。
「まあ、こっちは依頼をこなすだけだがね‥‥。もっとも、人が指揮してるなら絶対理由があるはずだ。それがどんな物かは判らないがな‥‥」
村人達に、じろりと視線を移す絶狼。と、それまでバリケード作りにせいをだしていた十四郎も、何やら思いだすように、こう言う。
「そう言えば、さっき調べてきた時も、何やらおかしかったな‥‥」
ここへ来る前、森の獣を狩る要領で、簡単な罠を仕掛けていた彼。その時に、森から現れると言うモンスター達の痕跡を探していたのだが、それがまるで、彼らの中にいる『何か』を探しているようだった、と告げる。
と、ここを防衛拠点に選んだ王零幻(ea6154)が、それを聞いて、村人達にこう尋ねた。
「襲い方が陰湿だな。襲ってくるような相手に心当たりはないのか?」
顔を見合わせる村人達。
「そう、例えばさんざんな『世話』をしてやった者がいる、とかな」
若い何人かが、びくりと顔をこわばらせた。
「気を悪くしたらすまない。だがギルドで聞いた話だと、死人憑き達を率いて襲ってくる青年は、じわじわと時間をかけて村を滅ぼすつもりらしいって事だった。話に聞いた数の手勢が有れば、言葉は悪いが、この位の規模の村ならギルドに助けを求める暇も与えずに、壊滅する事ぐらい可能だろう? それなのにそうせず嬲るようなやり方は、率いている奴は何か村に深い恨みでもあるんじゃないかと思ったんだ」
叶朔夜(ea6769)のセリフを聞いて、村人達は顔を見合わせる。まるで、触れられたくない事を尋ねられたかのように。
「私もそれは聞いておきたい。敵の正体を知る事は、大切な事だからな」
後押しをするように、ソルティナ・スッラ(ea0368)が教会の明かりに火を点しながら、そう言った。すると、長老と思しき老人が、重い口を開く。
「実は‥‥、この村では、どういう訳か、女子があまり生まれませんでな‥‥。おまけに、こう言う土地ですから‥‥」
かつて、この村には、1人の『よそ者』が住んでいた‥‥と、悲劇を話す長老。ただし、誰は伏せたままで。
「なるほど‥‥。度良い不満や鬱憤の捌け口だったって事か。それが自ら災いを招く結果に
なった訳か‥‥」
叶は、その中にいるであろう『犯人』に向かって、言い含めるかのように、そう答える。
「誰も、彼を庇うものはいなかったのか‥‥」
「皆、自分が報いを受けるのが怖かったのでしょう‥‥」
私も、その一人です。と、長老はうつむいたまま、そう答えている。集団心理、と言う単語が、叶の頭をよぎった。
「だが、村を守るのが私の受けた依頼だからな。この事は、後回しだ‥‥」
「ですが、これだけは言わせて下さい。北には、彼らの集う王国もあります。ハーフエルフは、決してあなたたちが考えている様な、魔族モンスターの類ではありません」
「肝に‥‥命じて置きます」
神妙な顔つきの村人達。確かに、これだけの被害を出せば、反省もせざるを得ないと言った所か。
「ところで、連中は、どちらの方角から来るんだ?」
「奴らは、常に西から現れます‥‥。分かっているのは、それだけです‥‥」
朝日の見えやすい方向だ。死人が恐れる方向としては、相応しい。他に、理由があるのかもしれなかったが。
と、そこまで聞き終わった直後、マナウスが外に仕掛けた鳴子が、いっせいに音を立てた。
「来たようですね‥‥」
ソルティナが、自身にオーラエリベイションをかけた。
「嗅ぎ付けられたか。ならば、始めよう。死にぞこないと俺たちとの戦いをな!」
どこか楽しそうなマナウス。そう言うと、弓が撃ちやすいように、教会の天窓付近へと登る。
「ソルティナ・スッラ、行きます!」
剣にオーラソードを付与しつつ、ソルティナが窓から打って出た。
「元気だな。ほんじゃ、俺達も負けずに斬りに行きますか」
その後に続く十四郎。村人達の行為には、あまり釈然としていなかったが、仕事は仕事と割りきって、シルバーダガーを振るう。納得はしていなかったが、村が怪物に滅ばせるのも、放っておけないようだった‥‥。
その頃、常葉一花(ea1123)は、襲撃の騒ぎに乗じて、アンデッド達のボスがいるべき場所へと向かっていた。彼女が選んだのは、西の‥‥村を見下ろす高台だ。
(「村の噂が正しいのならば、おそらく仕上げを確認する為に、姿を現すはず‥‥」)
その根拠となっているのは、村で聞いた噂話、一年前、この森で行方不明となったハーフエルフがいるらしい事。
そして。
「おかしいな‥‥」
異変に気付いたのは、彼女ばかりではなかった。スケルトンにディザームをかけ、ズゥンビにソニックブームを食らわせていた十四郎も、である。
「お前も気付いたか‥‥。ボスがいない、違うか?」
出雲が、シルバーナイフでとどめを指しながら、それを指摘した。こくりと頷く十四郎を見て、彼は何を思ったか、周囲に聞こえるような大声で、こう叫んでいた。
「そこにいるんだろ! 雑魚ばっかよこしてんじゃねぇ!」
と。
「ふん、どうやらばれていたようだな」
その声が届くギリギリの場所。村を見下ろす高台に、姿を現す青年。
「お前か! この事件の黒幕は!」
「ああ、そうだ。冒険者が現れたと言うのでな。少し様子を見ようと思ったが、そちらがその気ならば、やり方もおのずと変わってこようと言うもの」
きっぱりとそう言う彼。
「よぅ。俺達を恐がらせたいなら、テメぇが来な! それとも、そんな勇気もねーのか!?」
えー、おい! なんぞと、小馬鹿にするようなセリフをはいてみせる彼。
「そんなに私を怒らせたいか‥‥」
「ああ。怒る根性が残っているならな‥‥」
当然と言わんばかりの出雲。そうでもしなければ、目の前に引きずり出す事など出来ない。それは、傷を穿つような真似をしてでも、彼を正面に立たせたかったから。
「良いだろう。もう茶番は止めだ。我が本当の姿を見せてくれる」
青年はそう言った。そして、魔法の詠唱に入る。
(「まさか‥‥!」)
その光景に、茂みに隠れてすぐ側で見ていた一花が、異変に気付く。だが、既に遅い。
「我が怒り、我が哀しみ、その身で存分に受けるが良い!」
風に煽られ、魔法発動の光に包まれた彼の髪は、狂おしいほどの緋色。と、それを見ていたマナウスが、銀の矢をつがえ、こう叫んでいた。
「貴様‥‥。それでも我らが森の民の血を引くものか! 恥を知れ! 己が力を御することも出来ずに一方的な力を振るうとは言語道断! その血‥‥全て吐き出すが良い!」
「いけない‥‥!」
このままでは、あの少年は殺されてしまう。そう思った一花は、思わず彼の前に飛び出していた。
「あうっ!」
撃たれた矢は、急所を外れ、彼女の肩口へと突き刺さる。傷口から血を流す彼女を見て、驚く少年。いや、彼ばかりではない。撃ったマナウスも、だった。
「だめ、ですよ。こんな、こと‥‥」
ね? と、落ち着かせるようにそう言う一花。
「ケンブリッジには、あなたの味方もいますから‥‥」
肩を押さえて、膝をつく。致命傷には至っていないが、さすがに痛いものは痛いようだ。
「お前‥‥。何故‥‥」
「だって‥‥。復讐なんて、悲しすぎるもの」
どうにかして、止めようとする一花。だが、それでも彼は。
「‥‥どけ」
低く、無表情に。
「貴様ら人間どもなど、二度と信じはしない。どうせ、我らの事など、虫けら同然にしか思っていないのだから!」
「‥‥っ‥‥!!」
声は、届かなかった。それを示すかのように、少年は自ら見に纏うた黒い衣を外す。
「‥‥どうやら、すでに死者となっていたようだな‥‥」
晒された半身を見て、王がそう言った。そこには、生きているものの肌はなく、明らかにアンデッドと分かる肌が見え隠れしている。
「ならば、このまま滅ぼしてやるのが、礼儀と言うものだ」
彼の冷厳な面には、迷いのカケラも見えない。死者と共にあった彼にとっては、黄泉の国へと送る事もまた、課せられた役目。
「やれるものなら、やって見せるが良い!」
再び、襲いかかる彼。だが、相手は1人。夕暮れ時とは、形勢が逆。
「慈悲を。せめて、ひとおもいに」
王が、静かにそう言った直後、出雲と十四郎が、ソニックブームを放つ。
「がぁ‥‥っ!」
血反吐など吐かない。
「大地の精霊よ。我が手に、その白き牙を貸し与えたまえ‥‥!」
それが、死者たる証だと悟った一花は、迷いを降りきるように、クリスタルソードの魔法を唱えていた。
「ごめんなさい‥‥。あなたを、倒します!」
自らに言い聞かせるように、きっぱりと宣言する彼女。
「ばか‥‥な‥‥」
既に、その半分以上にダメージを負っていた彼が、その剣の露と消えたのは、まもなくの事。
「まだだ。もう1人、いる」
「ご名答‥‥」
姿を現したのは、黒髪の青年。そして、やや遅れて、ジャドウ・ロスト(ea2030)が姿を見せる。
「あーあ。皆殺しちゃって。少しくらい、残しといたってバチは当たらないのにねぇ」
そこだけ、悪戯小僧の口調へと戻し、肩をすくめる彼。それが、ますます皆の怒りを煽りたてる事も知らずに。
「哀れだな」
変わり果てた屍に落ちるのは、哀れみの目ではなく、軽蔑の眼差し。
「だろう? キミは、こうならないようにしないとな」
そんなロストに、黒髪の青年は、後ろからそう囁く。
だが、彼が示した答えは。
「冗談じゃない」
否定。その言葉を聞いて、黒髪の青年は、信じられないものでも聞いたかのように、「‥‥今、なんと言ったかな?」と、問い返す。
「貴様に従う義理はないと言う事だ。観察対象が失われた以上、な!」
そう言って、彼を突き放すロスト。こんな‥‥哀れな屍の変わりになるつもりはないと、はっきりと示してみせる。
「そう言うことか。なら、こっちも用はないねっ」
きっと周囲を見回したその黒髪の青年は、ここにいる必要はないと考えたのか、即座に踵を返す。
「そうはいかぬ! コアギュレイト!」
「何ぃ!?」
だが、その彼を、王が魔法で捉えた。あの時とは違う。今度こそ、逃がしはしないと。
「おまけだっ! 食らえッ!」
「ギャァァァァ!!!」
退路を絶たれた彼が、他の冒険者達の手によって、滅ぼされたのは、それからまもなくの事である。
翌日。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる村の者達。
「この状況を生みだしたのは、貴方達に原因があるのですよ」
そんな彼らに、ソルティナが厳しい口調でそう言う。
「ともあれ、これで村の平和は守られたんだから‥‥」
生き残った中には、この事件を引き起こした原因とも言える若い村人も含まれていた。お気楽にそう口にする彼に、出雲が怒鳴りつけた。
「バカ野郎! 本当の化け物はどっちだ!」
「それは‥‥」
言葉に詰まる彼ら。彼が受けた扱いと、その結果命を落とした事を思えば、そのくらいは言われても当然のように、叶には思えて仕方がなかった。
「きちんと、彼の菩提を弔ってやって下さい。そして、二度とこんな悲しい事を起こさせないように。それが、あなた達がするべき罪滅ぼしです」
手当てを受けた一花が、王の手によって、丁重に弔われた少年の墓標に、花を供えてやっている。その彼女の姿に、村人達もようやく反省したのか、同じ様に花を捧げている。
「‥‥‥‥俺はもっとうまくやる」
だが、そんな光景に、背を向けていたロストは、誰ともなしにそう呟くのだった。