【真・カンタベリー物語】仕立屋兄弟を守れ
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 46 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:12月18日〜12月25日
リプレイ公開日:2004年12月27日
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●オープニング
キャメロットにほど近い、カンタベリーの町‥‥。
「ギルバード様。これが、例の剣ですか‥‥」
精緻な彫刻の施された木製の箱。テーブルの上に置かれたそれ開ける、金髪の少し目はきついが柔らかい印象の少年。
「そうだ。知り合いのつてで手に入れてきた」
その少年に、ワインを傾けながら言ったのは、長い銀髪を持った、紅の瞳を持つ青年だ。名をギルバード・ヨシュアと言う。
「ずいぶん古い剣ですね‥‥。エ‥‥ス‥‥リ‥‥?」
優雅に微笑む彼に、金髪の少年が、そう言いって見せた。そして、そのすらりとした白い剣に、記された銘を読もうとする。が、ギルバードはやや厳しい調子で、こう告げる。
「レオン。触ってはいけないよ。何が起こるかわからないから」
「あ、はい」
手を引っ込める少年‥‥レオン。そして、変わりに青年にこう尋ねた。
「しかし‥‥、ジャパンの方々は、何故これをご入用なのでしょう‥‥」
「異国の珍しい品と言うものは、どこの国でも重宝されるものだよ。こんな正体不明の剣でもね。ほら、うちの町でも、ジャパンの下着は大人気じゃないか。教会の連中は、あまり快くは思っていないようだが」
セリフの途中で、エルフの青年の表情が、面白くないように曇る。
「引渡しは、いつになるのですか?」
「今度の月道開通日だ。その時に、例の2人も見えられる事になっている。ジャパンの珍しい衣料を持ってね」
開通日は、毎月15日。もう間もなくである。と、そんな彼にレオンは恐る恐るといった表情で、こう切り出した。
「ギルバード様。そうすると、1つだけ問題が‥‥。最近、海路に海賊が出るとの事なのです。それで、占ってみたのですが‥‥。その‥‥夢をみまして‥‥」
「ふむ‥‥」
青年が身を起こす。その彼に、少年は今朝方見た夢の内容を話し始めた。
たゆたう海の底‥‥そんな表現がしっくりする青い空間。
「野郎ども! なんだい! 今月のアガリは!」
そこに、場違いなほどの大声が響く。出しているのは、口は悪いが女性のようだ。
「いやー、世の中そう言う日もありますよー」
肩を竦めて見せる、部下と思しき女性達。やはり口が悪い。しかし、もっと特徴的なのは、その腰から下。魚の尾を持つその姿は、どうやらマーメイドのようだ。
「リーナ親分! 良い知らせが入りやした!」
と、そこへ、別のマーメイドが泡を蹴立てて飛び込んで来た。
その彼女が告げたのは、どこから聞き入れてきたのか、先ほどエルフの青年が話していた職人の護衛計画だった。それを聞いたリーナ、面白そうな話だ‥‥と言わんばかりの表情を浮かべている。
「ほほぅ。そいつは好都合。異国からの品って事は、さぞかし値の張るもんだろうしな‥‥。よぉし! 野郎ども! そいつを分捕って、ぱーっと宴会だ!」
「「合点承知!!」」
声をハモらせて、リーナの後をくっついていくマーメイド達。向かう先には、大きなアカウミガメたちの姿が。その泡に掻き消され、場面が切り替わる。現れたのは、噂に聞くジャパンの光景だった。
「外国の人がいっぱい‥‥」
「そりゃそうよ。外国ですもの」
山ほどの荷物を抱えた男性と女性。女性の方が年かさだろう。年のころなら、27歳と、20歳といった所だ。
「って、姉さん。どこにいるんだよ」
「だって、金髪や銀髪の方々ばかりで‥‥」
ところが、姉の方は周囲の人々に、スッカリ気後れしている模様。弟の方は、むしろ憧憬の眼差しで、西洋の冒険者達を見つめているのだが。
「誰も取って食べないから、大丈夫だって!」
「うん‥‥」
弟に言われて、ようやく柱の影から出てくる姉。どうやら、かなり奥ゆかしい性格のようだ。
「カンタベリーかぁ、ギルバード様って良い人だと良いなぁ‥‥」
「そうね。素敵な方だと良いわね」
不安と・・・・期待の入り混じった表情を浮かべる二人を残し、光景は次第に揺らいでいく。
それが、夢の内容。
「ふむ‥‥。しかし、陸路では、時間がかかりすぎる‥‥。道にも慣れていないだろうしな」
と、その話を聞いたギルバードは、額のあたりに手を当ててそう言った。ややあって、レオンにこう指示を出す。
「レオン、キャメロットで護衛の冒険者を雇ってくれ。人選は任せるが、くれぐれも、お客人に傷を負わせぬように」
かしこまりましたとばかりに、深く頭を垂れる彼。
『カンタベリーへ、織物師と、仕立屋の姉弟を護衛して欲しい』
数日後、キャメロットの町に、織物商ギルバード・ヨシュアの名で、そんな依頼がかかったのだった。
●リプレイ本文
出発前、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)と琥龍蒼羅(ea1442)は、港の酒場で、海賊の噂を聞いて回っていた。
「なかなか、思った奴がいないのぅ」
まだ、宴たけなわと言う時刻ではない為、大騒ぎをしている御仁と言うのは、中々いない。ユラヴィカが、そう言って、話を聞きやすそうな船乗りを探していた時である。
「よう、兄貴。1人かい?」
目の前のテーブルで、そう声をかけた男がいた。見れば、先日、依頼を共に受けていたトール・ウッド(ea1919)である。
「なんじゃ、あ奴も情報収集か」
「しっ。黙って様子を見ていよう」
つつきに行こうとしたユラヴィカを、蒼羅はそう言って制した。と、ウッドは目星をつけた船乗りに、酒を一杯注ぎながら、こう尋ねる。
「実は、船でカンタベリーに行こうと思ってるんだ。兄貴も船乗りだろう。ちょっとばかり話を聞いても良いか?」
奢られて気を良くしたのか、その船乗りは、カンタベリーへの海路を話してくれる。それによると、外洋のあたりは潮が複雑で、進路が限られているらしい。噂の海賊達も、身動きが取れない所を狙ってくるらしいと言う事を、教えてくれた。
「その海賊の事、もうちょっと詳しく教えてくれんかのぅ」
敵の話が来た所で、ユラヴィカが割って入るように、おいてあった酒樽の上に乗っかりながら、そうきり出した。怪訝そうな表情の船乗りに、彼は聞きたかった事を尋ねる。
「例えば‥‥手口とか、襲撃された状況とか」
その疑問に、酒の回った船乗りの兄ちゃんは、聞かれていない事まで、すらすらと答えてくれる。なんでも、その海賊は、巨大な亀を何匹も使って、ドーバー海峡近辺で荒稼ぎをしているマーメイドらしい。噂では、女性ばかりの集団で、その場で『食われた』船乗りも、目撃されているようだ。
「凶暴じゃなー。お宝には、普通に反応するのであろ?」
「ああ。話を聞いた限りじゃ、舶来モノや、珍しい品物には、目がないらしい」
別の船乗りからも話を聞いていた蒼羅も、同じ様な話をしている。
「ふむ。そいつは面白そうだな‥‥」
その、女海賊団の噂に、ウッドは目じりを緩めて、にやりと笑って見せるのだった。
海賊が出るまでの間、冒険者達は、思い思いの方法ですごしていた。
「ふふふ。追試って言われた時は、どうしようと思ったけど、こーんなにイイ男がそろってるんじゃ、先生に感謝しなくちゃねぇ」
防寒具等をそろえ、交換する為の着替えを用意しながら、鼻歌歌いださんばかりのレムリィ・リセルナート(ea6870)。居並ぶ依頼参加の男性陣は、どれもこれも上級品だ。今頃、先生がくしゃみしてるだろーなーと思いつつ、彼女は、そう言いながら船室に向かう。
「うわぁ、綺麗な布ですぅ。こんなのでお洋服作れたら、幸せですよねぇ」
そこでは、ユーリユーラス・リグリット(ea3071)が運び込んだ布を見て、目を輝かせていた。
「ところで、何かリクエストはありませんか?」
彼女は、竪琴を持ち出しながら、加護乃兄弟に続けている。が、加護乃鶴之助はフィルト・ロードワード(ea0337)とチェスの勝負中で、あまり聞いていない。
「んもー、男の子って、そう言うのには関心ないのかしら。お姉さんのほうは、どうです?」
「残念ね。今から、ちょっと夜釣りに行こうかと思ってたのよ」
だが、その彼女から、加護乃小鳥を奪い取ったのは、フローラ・タナー(ea1060)だ。なにやら緊張している様子の彼女を、何とか解きほぐそうとしていたらしい。
「そう言えば、なんでイギリスに来たのじゃ?」
「それがだな。ギルバード殿は、英国にお洒落な服を広めようとしているらしい。これは、その為のサンプルってところだな」
同じジャパン出身の蒼羅が、その理由をユラヴィカに言った。どうやら2人は、新作織物とそれで仕立てた服の為に、招かれたらしいと。
「ああもう。気を使わせるから、船酔いし始めちゃったじゃないですか」
青い顔をしている小鳥に、フローラがリカバーの魔法を施そうとした。が、彼女は首を横に振って、甲板をさす。
「そうですね。風にあたってみましょうか」
海風なら、心を落ち着けてくれるかもしれない。そう思って彼女は、小鳥と共に、甲板へと上がる。
「月明かりが照らす夜の海は、昼とはまた違った顔を見せてくれますね‥‥」
そこでは、防寒着を着込み、甲板で見張りをしていたエリス・ローエル(ea3468)が、海面をみつめながら、そう呟いている。闇の帳が下りた後の海は、さながら人の世にあらざる世界のようだった。
「あら?」
ふと見れば、釣り道具持ったフローラ嬢が、小鳥を甲板に連れ出している。
「釣れます?」
「さぁ‥‥。でも、意外と人魚が引っかかったりするかもしれないですし」
隣に陣取った彼女に、そう声をかけるエリス。しかし、フローラは苦笑しながら、首を横に振るばかりだ。
「かかった!?」
その直後、小鳥の竿がしなる。それは、ぐいぐいと力強く、彼女達を海へとひきづり込もうとする。
「手伝って! 引き込まれたら3分で凍死よ!」
フローラに促され、慌てて竿を戻すのに力を貸すエリス。その3人のパワーに、釣り糸の方が先に根を上げてしまった。
「あーあ。切れちゃった」
「仕方がありませんよ。この場合は」
残念そうにそう言うエリスに、フローラがそう言って慰めた。しかし、彼女が同意を求めた小鳥はと言うと、強張った表情で暗い海面を見つめている。
「どうしたの?」
フローラが問うと、彼女は無言でそちらを指差した。つられる様に見てみれば、そこには、しぶきを蹴立てる何かの影。
「あれは‥‥、亀!?」
目の良いエリスがそう言った。視線を凝らしてみれば、それは2m程の巨大亀だ。
「海賊じゃ! 背中にマーメイドが乗ってて、口から白い糸が垂れておる!」
見張り台で、テレスコープの魔法を使っていたユラヴィカが、フローラに向かってそう叫んでいる。それを聞いていたエリスが、「船室へ! 弟さんともども、そこにいてください!」と言いながら、小鳥を部屋へと押し戻した。
「エリス、これを!」
レイピアを抜き、迎撃しようとする彼女に、フローラが柱にくくりつけたロープを投げて渡した。戦闘ともなれば、海に放り出されるかもしれない。それを防ぐ為だった。
「ふふん。あの銀髪貴族、どうやら護衛を雇ったようだねぇ」
不敵に笑う、先頭のマーメイド。そんな彼女に、エリスは魔法を打つ体勢になりながら、警戒のセリフを言う。
「これ以上近付くなら、それ相応の代償を支払う事になりますよ!」
「上等だ。いつもいつも手ごたえのねぇ奴等ばっかりだからね。ちったぁ楽しませてくれるってモンだよ!」
止まる気はなさそうだ。仕方なく、彼女はホーリーの魔法を、彼女達に向かって放つ。
「その程度かい! 生温すぎだよ!」
「やっぱり威力が弱いか‥‥」
邪悪なものにダメージを与える魔法ではあるのだが、鍛えられた彼女の肌には、かすり傷程度しか与えていない。
「なぁに、動きを止めてしまえばよいのじゃ。フィルト殿、頼むぞえ」
「任せておけ。勝負はまだ終わっていない」
弟を捕まえて、チェスをやっていた彼、早いところ続きがしたいらしく、ユラヴィカから網を受け取って、向かってくる海賊達に投げ放つ。わたわたと逃れようとする海賊達。そんな彼らに、上空からティアラ・サリバン(ea6118)がテレパシーで叫ぶ。
「助けてあげよう。マーメイドから逃げるんだ」
『姐さんに何するんスかー!』
どうやら、亀達は嫌々従っているのではなさそうだ。それを知った彼女、急ぎスリープへと切り替える。高速詠唱で唱えられたそれは、何匹かの亀を眠らせたが、全てと言う訳には行かなかったようだ。
「ゆっくり眠って下さいなのですぅ〜」
ユーリもスリープの魔法を唱えていたが、こっちはあまり効果を発していない。
「お前は2人の側にいるのじゃ! 何かあったら任せたぞ」
「わかりましたのぉ」
船室に乱入されたら、護衛の2人が危うい。そこまでさせるつもりもなかったが、念には念を、と言うわけだ。
「だいじょうぶですの。絶対に傷付けさせませんから」
そう言って、彼女はムーンフィールドの魔法を唱えた。これで、少しは時間が稼げる筈である。
「そこの海賊ども! あんた達が探してるのはこのあたしよ!」
そこへもって、ジャパン語でそう叫ぶレムリィ。見れば、小鳥と服を取り替えたのか、上から下までジャパン服‥‥着物である。彼女は、背後に蒼羅とウッド、さらにフィルトを従えて、すっかり逆ハーレムのプリンセス様だ。
「飛んで火にいる夏の虫とはあんた達の事っ。ギルバード様に献上する格好の獲物が目の前にいるんだもの。ちょうどいいわ。者ども、日ごろの鬱憤晴らし兼ねて、こらしめてあげましょう!」
「ふん。獲物はどっちだか。それに、あの銀髪狸の配下かい。ちょうどいい。まとめてやっておしまいっ!」
彼女をお宝のジャパン人と思ったらしい女海賊は、レムリィをターゲットに指定する。
「皆! あたしにあわせて!」
嬉々として向かっていく彼女に、苦笑するウッド。そんな彼の横で、蒼羅がライトニングソードの魔法を唱えている。
「追い返せればいいだけだ。エリス、後よろしく」
「わかってますよぅ」
背後を彼女に任せ、そのまま切りかかっていく彼。
「切るや殴るだけが、戦いではありませんよ!」
登ってきたマーメイドに、エリスがコアギュレイトを打ち込んだ。もっとも、半分はレジストされてしまっていうので、足止め程度にしかならないようだったが。
「邪魔だよ!」
「それが仕事だ」
冷静な口調でそう言い、相手のハンドアックスを刀で受け止める蒼羅。しかし、その程度は予見していたのか、中々隙がつかめない。力任せにライトニングソードを横薙ぎにするものの、容易く避けられてしまう。
「なかなかやるな。ならば、小細工は不要。正面から叩き潰すのみ!」
シールドソードで海賊のハンドアックスを受け流していたウッドは、右腕に装備していたそれを、左手へと持ち変える。バランスを崩した海賊へ、彼は両手利きである事を活かし、そのまま剣を叩きこむ。
「見切れるか! シュバルツハーケン!!」
スマッシュEXを食らわせる彼。ふっとんでいく海賊を見て、レムリィがこう言った。
「やい! そこな低脂肪マーメイド! 見物決め込まないで、ちゃっちゃとかかってきなさいっ!」
「うるさい。ちんちくりんの人間風情が!」
根性と背丈はともかく、胸は自分の方が遥かに上である。態度のでかいボスを運命の好敵手と感じたのか、2人は、タチの悪いののしりあいを始めてしまう。
「おい、そこの。これ以上戦っても、損害が増えるばかりだ。とっとと引き上げた方が、無難じゃないか?」
「さぁ、どうかな‥‥」
約半数の手駒を失っても、まだ血気盛んな海賊達。その様子に、撤退を提案したフィルトは、「おかしいな‥‥」と、呟いた。
「何か気にかかる事でも?」
「大有りだ。何故船室までこない‥‥」
これだけの人数が居れば、彼らの囲いを突破して、船室まで入り込む事も、訳はなさそうである。だが、彼女達はそれをせず、あくまで甲板でのやりとりを繰り返している。
「まさか、陽動か!?」
その策は、彼ら冒険者達の間でも、常套手段だ。と、マーメイドの1人が、ニヤリと笑う。
「ご名答‥‥。ごらん!」
「あれは!」
見れば、ひと回り大きな亀に乗った一団が、こちらへと向かっている最中だった。
「くそ、こいつら皆、囮かよ!」
「その通りだよ! ここまでやられて、黙って帰れるかい!」
その大きな亀にのったマーメイドが、亀ごと船に体当たりする。激しく揺さぶられる船に、船室にいた面々が、悲鳴を上げる。
「しまった! 海水が!」
木製の船壁に、ひびが入り、海の水が流れ込んで来ている。
「あははは! 海の底で、死体ともども待ってるよ!」
そのまま亀ごと潜っていく海賊達。
「まだだ! 船足を上げれば、何とかなる!」
ストームを唱え、帆に風を当てて、船足を上げる蒼羅。
「一時はどうなるかと‥‥」
「まぁ、無事だったし、オールOKなんじゃない?」
その結果、何とか積荷が駄目になる前に、岸へとたどり着く船だった。
なお、この件を機に、鶴之助はチェスにハマり、小鳥は敬虔なジーザス教徒になったと言う‥‥。