ゴースト・イン・ザ・聖夜祭

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月25日〜12月30日

リプレイ公開日:2005年01月03日

●オープニング

 いつもと変わらぬ冒険者養成学校の朝。それは、紫色のリボンをつけたフライングブルームが、教室の玄関に突っ込んでくる所から始まる。
「きゃーーーっ。どいてどいてどいてーーー!」
 片腕が麻痺しているせいか、今ひとつコントロールが危ういパープル先生。悲鳴とともに、どんがらがっしゃんと掃除用具が散乱する音が聞こえてくる。
「お、先生来たぜ」
「上がって来る前に整列しとけー」
 体の良いチャイム代わりになっているそれ。ばたばたと整列し始める生徒達。それが終わる頃、何食わぬ顔をしてパープル女史が姿を見せる。
「きおつけー! 礼ー!」
「おはよーございまーす」
 この辺りは、普通の学校となんら変わりない。『ん、おはよ』とか返しながら、パープル先生は、授業を開始する。
「えー、世間様では、そろそろ聖夜祭。楽しみにしている奴も多いとは思うけど、そんなあんた達に、今日は飛びっきりのお知らせを持って来て上げたわ☆」
 ニヤリと笑う彼女。こんな時は、ろくな事を考えていないのは、生徒達もよく知っている。
「はいはーい。ナッちゃん、お部屋入っといで」
 パープル女史がそう言うと、足音もなく、1人の少年が入ってくる。驚いたのは、生徒達だ。
「始めまして‥‥。ナオリと言います‥‥」
 消え入りそうな声で挨拶し、ぺこりと頭を下げた彼。その膝から下は、空気に溶け込んでしまっている。
「せせせせせ先生っ。それ幽霊っ!?」
「えーい、わめくな。おまいら! 冒険者が、幽霊の1人や2人や3人や4人で驚いてるんじゃないっ!」
 狼狽しまくる生徒達を一喝してみせるパープル。まぁ、冒険者がアンデッド風情に驚いていたのでは、さの間に合わないと言う所だが。
「今度の授業は、この子を成仏させる為に、尽力して欲しいわけよ。ナっちゃん、事情を話してくれるかしら?」
 パープルに促され、少年はぼそぼそと身の上話を語りだす。
「実は‥‥僕‥‥、去年の聖夜直前に、病気で死んじゃって。楽しみにしていた演劇会、見にいけなかったんです。それが心残りで‥‥」
 聖夜祭のこの時期、ケンブリッジでも、様々なイベントが行われている。生徒達が行っている演劇会もその1つだ。どうやらこの幽霊少年くん、それが気にかかって、化けて出てしまったらしい。
「お願いします。僕を演劇会に連れてってください」
 ぺこりと頭を下げるナオリくん。それをフォローするように、パープル女子がこう言う。
「魔法学校の方で、期末テストを兼ねて、演劇会が行われている筈です。もし、この子が暴走するような事があれば、レイスになってさまよってしまう危険性も有ります。そうなれば、喜ぶのはデビルだけ。なので、満足出来るように、手配をして下さい」
 どうやら、この辺りが学校に持ち込んだ理由のようだ。と、彼女はそこで口調を変え、こう続けた。
「まぁ、魔法学校や騎士学校の生徒さん達と協力するのも良い手段ね。演目のアドバイザーに、他の冒険者さん達に話を聞くのも、有り。この辺りは、先生の方から、ギルドに依頼を出しておくわ」
 その話を聞くに、自分達で演劇を組んでも良さそうだ。
「なお、当日行われる筈だった演目は、聖夜の伝承歌を元にしたものだったそうです。ツリーの飾り付けや、リース作りもあって、忙しいとは思うけど、頑張って成仏させてあげてね。あ、念の為に言っておくけど、魔法やシルバー製品で無理やりとか言うのは、不可だからね!」
 よもやそんな事をする奴はいないと思うけど。と、注釈をつけるパープル先生。
「まぁ、それ以外は普通の聖夜祭パーティと一緒だから。それじゃ、頑張ってね☆」
 何でもないことの様に、そう締めくくる彼女。こうして、お化けと一緒の聖夜祭が、幕を開けたのだった。

●今回の参加者

 ea1000 蔵王 美影(21歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9644 ノルン・カペル(23歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

 ナオリと共に、聖夜祭の準備を進める他のクラスへと見物に行った蔵王美影(ea1000)とノルン・カペル(ea9644)は、飾り用のクッキーを作る調理場へと遊びに来ていた。幽霊が校内を行き来するのに、生徒達が顔色1つ変えないのは、御影に持たせた偽物の召喚珠と、東雲辰巳(ea8110)の根回しの賜物だ。
「出来た☆」
 悪戦苦闘の結果、石のオーブンからは香ばしい匂いを立ち上らせるクッキーが、姿を見せる。だが、肝心のナオリの顔は、さびしそうに曇ったままだ。
「あ、そうか。幽霊だから、食べられないんだっけ」
「どうしましょうか‥‥」
 考えてみれば、幽霊のナオリが、現世の物質を触れないのも道理である。それに気づいた美影、暫く考え込んでいたかと思うと、使い終わった調理器具に手を伸ばす。
「ちょっと待ってて。これ、貸してね」
 彼が奪っていったのは、高さのあるコップと皿だ。美影は、それをまるで祭壇のように組み合わせ、クリスマス用の花をコップに飾って、クッキーをよそると、最後にフォークを一本、クッキーの中央に指した。
「何してるの?」
「ナオリくんが、クッキー食べられますようにってお願いするんだ。ばーちゃんが言ってたんだ。ご先祖様にご飯上げる時は、こうしろって」
 お供え物のつもりらしい。祖霊もナオリも、両方とも『向こうの世界の人』だもんね。と、美影はやたら明るく言った。手を合わせれば、程なくしてナオリの手元にも、今作ったばかりのクッキーが現れる。どうやら、それで食べられるらしい。
 そのクッキーと、出来あがった飾りを持って、生徒達は玄関の所へと向かったのだが。
「ねぇねぇ、どこにつける? 言ってくれれば、好きな所につけてあげるよ」
 流石に、それは無理だろうと思った美影は、その実体のない手の代わりに、望む所へと飾り付ける。
「じゃあ、あの一番上‥‥」
 ナオリが指定したのは、ツリーの一番上だ。その要請に、彼はひときわでっかく輝く星へと手を伸ばす。
「と、届かない‥‥っ」
 が、身長120cmの美影には、少しばかり高すぎたようだ。
「私がつけますの‥‥」
 ノルンがそう言いながら、腕を伸ばした。
「大丈夫?」
「平気、です‥‥」
 めまいでも起きないかと心配してくれるナオリ。自分は既に、死んでいるのにも関わらず。
「よぉし、これで完璧だっ」
 出来あがったツリーを見て、満足げな美影。
「何を騒いでいるかと思えば‥‥。寝れないじゃないか」
 そこへ、お喋りする生徒達の声を聞きつけて、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が起きてきた。多少、着ていた服が乱れている所を見ると、夜の不寝番に備えて、昼寝こいていたようだ。
「教室で寝るなよ‥‥」
「そこが一番近いんでな。もう一寝入りしてくる」
 ぎろっと生徒達をひと睨みし、『静かに騒げ』なんぞと無理難題を残しつつ、元の教室へと戻っていくエルンスト。
「‥‥素直じゃないな」
 そんな彼を見て、東雲はぼそりと呟いていた。

 演劇と一口に言っても、魔法学校のクラスも色々とある。掲示板に記された各クラスのプログラムを眺めながら、美影は問うた。
「どれにする? 色んなのやってるみたいだけど」
 決めかねているナオリに、ノルンが控えめな口調ながら、こう助言をした。
「聖ジーザスが、産まれる時の話‥‥。受胎告知とかが‥‥いいと思います‥‥。聖夜祭だし‥‥」
「じゅたいこくち?」
 美影がそう聞き返す。そんな彼に、ノルンは、いつも持ち歩いている聖書を見せた。その巻頭には、天使が聖ジーザスに赤子が授かった事を教えるシーンが、子供にも分かりやすいよう、イラスト付で書いてある。
「でも、どれも同じ事、書いてあるよ」
「そう言う事なら、僕の出る奴見に来てよ。ちょっとした仕掛けがあるんだ」
 小首をかしげるナオリ。見れば、プログラムには何クラスか同じ演目を行っているらいものがある。その様子に、美影は自分のクラスを指差してそう言った。
「それでもいい?」
「私は構いません‥‥」
 こくんと頷くノルン。そうして3人は、美影が出演すると言うその劇へと見に行ったのだが。
「あれ‥‥? 美影様は‥‥?」
「東雲センパイもいない‥‥」
 途中で、その美影と、後ろを着かず離れずだった東雲の姿が消えた。
「はぁ、間にあった。アイツの晴れ舞台、ちゃんと見ておかないと、後で拗ねられちゃうわ」
 かわりに現れたのは、ようやく授業報告書を書き上げたらしいパープル女史だ。
「先生。皆がいません‥‥」
「ああ、ほら、見てごらん」
 不安そうなノルンに、彼女は舞台上を指し示してみせる。と、そこではサンタ帽を被ったままの東雲が、アシスタントと言う名のにぎやかしその1として、舞台で大工仕事にせいをだしている。
「あれは、晴れ舞台って言うのですか‥‥」
「うふふふ。よく似合ってるわよー☆」
 額に汗してエキストラしている東雲を、とっても楽しそうに見ているパープル先生。きっと、ここに来てまだ数ヶ月の彼が、舞台に出れるだけ上等と思っているのだろう。余計な突っ込みはただでさえ短い寿命を知事メルだけだと、ノルンはあえて口を挟まない。
「あ、美影だー」
 ナオリが、舞台を見てそう言った。既に物語は、佳境に入っている。演目は、受胎告知をする為に、7人の天使が、デビルの魔の手を逃れながら、山と谷と海と、ロマンスを越えて行くと言うもの。美影の役どころは、捕まって水牢に入れられてしまった天使様の1人だ。
「あんな所に入って、平気なのかなぁ‥‥」
「笑ってますから、大丈夫だと思います‥‥」
 不安そうなナオリに、ノルンがそう答えている。見れば、美影は水の入った樽に落ろされながらも、親指を立てつつ、観客にアピールしていた。
「泡が出てきた」
「東雲大変ねぇ‥‥」
 ぶくぶくと盛大な白いものが立ち上っている。見れば、東雲を始めとする大道具係が、必死で泡を起こしていた。
「わぁっ」
 その泡が、微塵隠れの効果で、派手にはじけ飛ぶ。舞台に、ファイアーコントロールの鮮やかな光が舞った。直後、樽のすぐ前に現れる美影。
「まったく‥‥。危ない真似して。後でお説教ね」
 苦笑しながらそう言うパープル先生に、ナオリがぽそりと「かわいそうに‥‥」と気遣うような一言。
「ナオリ様‥‥」
 そんな、心優しき幽霊に、ノルンは心に秘めていたお願いを言おうと、決心するのだった。

 一方、喧騒を離れ、ツリーの見張り番専属と貸していたエルンストの下に、ようやく出番を終えた東雲が訪れていた。
「静かだな。ここ」
「ああ。俺はこう言う方が良い」
 いまだ劇の行われている学園内では、ツリーだけがひっそりと佇んでいる。そんな静寂を打ち破らないようにと、エルンストの声は押さえたままだ。
「そうか?」
「バカ騒ぎに付き合うほど、子供でもないさ。ここで見張ってた方がマシだ」
 周囲のうわついた空気は、研究の邪魔だったしな‥‥と、東雲の反論に答える彼。既に、聖夜祭を楽しむような年でも性格でもないと言うのは、彼にはナイショだ。
「それに、邪魔者が居たら事だしな‥‥」
「デビルか。その時は、その時だ」
 ここ、ケンブリッジでも、そこかしこから、魔の手が伸びている様な気がしているエルンストに、東雲はそう言う。そんな彼に、エルンストはと言えば、「だといいがな‥‥」と、静かに言うのみだ。
「どうでもいいが、さっさと席をはずしてくれないか」
「劇の片付けは良いのか?」
 不機嫌そうな彼に、エルンストは首をかしげた。
「鈍い奴だなー。約束してるんだよ。レディと」
「ああ、そう言う事か」
 着物の内側が、不自然に膨らんでいるのを見て、一体何をやらかそうかとしているのかを知り、エルンストは姿を消してくれる。
「お疲れさま。まったく、そこまで手伝わなくたって良いのに」
 変わりに現れたのはレディこと、ミス・パープル。
「記憶、やっぱりないっての、本当なんだな」
「悪いわね。覚えてたら、知っていたかもしれないけど」
 ひねくれた言い方なのは、やはり同じ。けれど、東雲が実はお祭り好きなのを知っている彼女は、そこにはいない。
「いいさ、別に。飲むか?」
「頂くわ」
 それでも、パープルは東雲が差し出した、ホットワインを受け取ってくれた。幸せが宿ると言うエチゴヤのマグカップから、ほかほかと湯気が立ち上っている。
「そうだ、お守りがある」
 そんなパープルに、東雲は着物の内側に納めていた小箱を出して見せた。
「これは‥‥?」
「聖夜祭には、大切な人にプレゼントを贈るって聞いたんだが‥‥」
 入っているのは、銀のペンダント。それを、彼は自らの手でつけてくれる。
「やだ。もう。そんな‥‥」
「そう言うなよ。照れくさいのはオレも同じだ」
 顔が明後日の方向を向いているのは、赤い顔を隠す為だろう。視線を合わせられないのは、パープルも同じだったが。
「じゃあ‥‥これはお返し。知り合いから貰った流用品で悪いけど」
 と、彼女は東雲に、精悍な鷹頭の彫刻があしらわれたマント留めを渡す。
「流用品って、お前‥‥」
 確か、この手のマント留めは、ノルマンの復興用福袋に入っていた品の様な気がする。
「‥‥そう言う事にしといて」
 素直に渡すのは、やはり照れくさいらしい。ふっと微笑んでみせる2人の空気が、同じものになる。だが、その刹那だった。
「きゃあっ」
「うわ、火がっ!」
 2人の燃え上がった空気に引火したかのように、足元から炎が立ち上っていた。見れば、気付かぬ家に色紙に引火し、下草に燃え移ってしまったらしい。と、その瞬間、真上から屋根に降り積もった雪が、2人の頭を冷やすかのように、降り注いでいた。
「つ、冷たい‥‥」
「当たり前だ、馬鹿者っ」
 降りてきたのはエルンストだ。どうやら、邪魔しないように、建物の2階部分に居た所を見つけ、リトルフライで降りてきたらしい。
「まったく‥‥。不寝番が火事起こしてどうする!」
「す、すまーん‥‥っ」
 東雲が、延々と説教を食らってしまったのは、ある意味仕方のない事だろう‥‥。

 劇も終わり、美影とノルン、そしてナオリは、飾り付けたツリーへと向かっていた。
「綺麗‥‥」
 色とりどりの紙に照らされた蝋燭は、小さいながらも、幻想的な雰囲気をかもしだしている。
「どうしたの? ノルンちゃん」
 そんな中、ナオリは、ノルンがさっきからずっと黙ったままなのを見て、思わずそう聞いていた。
「ナオリ様は‥‥この眼を見て‥‥どう思われます‥‥?」
 そんな彼に、彼女はぽつりと、まるで狂化したハーフエルフのような眼を指差しながら、尋ね返してくる。
「綺麗な目だと思うけど‥‥」
「無理はしなくても良いですわ‥‥。怖い、目でしょう‥‥?」
 悲しい瞳で、ナオリをじっと見つめてくるノルン。と、そんな彼女に、ナオリはツリーに下げられた飾り玉をさして、こう言ってくれた。
「そんな事ないよ。ほら、同じ色」
「ありがとうございます‥‥」
 死者にとっては、生者の色はあまり関係がないらしい。そんな彼に、ノルンは思い切って、お願い事を切り出す。
「実は‥‥、私は体があまり良くありません‥‥。ですから、遠くない内にナオリ様のように死してしまうでしょう‥‥。その時‥‥あちらでもご友人が欲しい‥‥と思うのです‥‥。図々しいと思われるかもしれませんが、友達になってもらえますか‥‥?」
「いいよ‥‥。あっちで、待ってる‥‥」
 快く、了承したナオリ。かすれた声に気付けば、その姿が、かすれ始めている。どうやら、時間が来てしまったらしい。
「ナッちゃん‥‥?」
 美影が、顔を上げた。彼の前で、ナオリの身体は、次第に薄くなっていく。
「楽しかった‥‥。今日は、満足‥‥」
「あ‥‥」
 まだ、遊び足りないと言うかのように、腕を伸ばす美影。だが、掴んだのは冷たい空気だけ。
「美影、笑顔で送り出してやれ。夏になったら、盆祭りでもやればいい。先祖の霊を弔うのは、西も東も変わらないだろ」
 東雲の言葉に、美影はこくんと頷き、零れそうになっていた大粒の涙を、ぐいっとふき取る。そして、いつもの通りの明るい表情で、手をぶんぶんと大きく振った。
「来年になったら、またおいでねー。おっきな迎え火、焚いとくからさー!」
「うん。いっぱい遊んでくれて、ありがとう‥‥」
 その言葉に、ナオリは頷くと、もみの木の光に消えていくのだった‥‥。