船上聖夜祭を守れ!

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月24日〜12月29日

リプレイ公開日:2005年01月01日

●オープニング

 聖夜祭。年末を彩るこの一台イベントを楽しみにしているのは、何も庶民ばかりではない。貴族もまた、それを楽しみにしていた。
 ドーバーにある貴族の屋敷。沿岸にあるこの町で、海上貿易を手広く行っているバンブーデン伯爵の家では、行儀見習いとして奉公に上がっている少女、トゥイン・パレスが、主にとてもわくわくとした表情で、こう尋ねていた。
「御方様、今年の聖夜祭はいかがいたしますの?」
 遠方へ手紙をしたためている最中らしい主‥‥バンブーデン伯爵は、活発すぎる彼女の質問にも、顔色を変える事無く、こう答えてくれる。
「ふむ。それなんだが、今年は家の庭海で、船上パーティを催そうかと考えておる」
 海上貿易主である彼にとっては、ドーバーは裏山のようなもの。ゆえに、バンブーデン氏は、かの海峡をそう呼ぶ事がある。と、それを聞いてトゥインちゃんは、うっとりとしたように、手を組み合わせた。
「まぁ素敵。それでは、早速招待状を手配いたしますわね」
「待て待て。そう事を急いではいかん。ドーバーも、だいぶきな臭くなってきた。招きよせたる貴族の子息令嬢に、万が一でも怪我を負わせてはいかんしな。この辺りをハイランドに手配させている。それが終わってからでも、遅くはあるまい」
 待ちきれない様子の彼女に、バンブーデン氏がそう釘を刺す。普段はお付きの者やらがいるので、大丈夫なのだがパーティともなると、行き届かない事もある。その辺りをフォローし終えてから、出しても良いだろうと。
「でもぉ‥‥」
「そなたは御代と、ドレスの選定でもしておればよい。そうだな。カンタベリーの議長殿も招待する予定ゆえ、申し出れば心を砕いてくれよう」
 そう手配してくれるバンブーデン氏。人々が着飾る聖夜祭は、織物業界にとっても掻き入れ時だ。ビジネスパートナーでもある伯爵夫人と、その世話係の頼みとあれば、相談に乗ってくれるだろうと。
「わかりました。御方ぁ、警備が決まったらぜーったいに教えて下さいね」
 手間のかかる娘御を見る表情をしてみせるバンブーデン氏に、トゥインは念を押すと、己が仕える主‥‥御代と共に、お買物へとでかけるのであった。

 そして。
「これ、トゥイン。そんなに早く歩いては、転んでしまうのじゃ」
「だって、嬉しいんですもの。こんなに可愛いドレス買って貰ったし☆」
 両腕に頭飾りの材料やら、ドレスやショールなどを山ほど抱えたトゥインは、夫人を先導するように、小走りに歩いていた。
「困った子じゃのう。聖夜祭までには、まだもう少し時間がある。そのように慌てぬでも、大丈夫じゃ」
「うふふ。聖夜祭☆ 御方様と、御代様と、ハイランドと一緒に聖夜祭☆」
 夫人が注意するが、夢見る乙女モードに入ってしまった彼女は、ルンルン気分で、今にもスキップを踏み出さんばかりである。
「聞いておらんのぅ‥‥」
 はしゃぐ側仕えの姿に、夫人が苦笑したその時だった。トゥインと御代の足元に、矢が突き刺さる。1本や2本ではない。明らかに2人を狙って、次々と‥‥である。
「何者です! 御代様をバンブーデン伯爵夫人と知っての狼藉ですか! 事と次第によっては、許しませんわよ!」
「‥‥‥‥引け」
 トゥインがそう叫ぶと、矢を放った男達は、ちらりと屋根の上に姿を見せたかと思うと、即座に消えていく。
「何だったのでしょうか、今のは‥‥」
「わからぬ。だが、御方様も、恨みを買うことの多いご商売。もしや、その関係かもしれぬのぅ」
 バンブーデンが商売をしているドーバー海峡には、海賊が出没している事もある。それなりに対応を取ってきた為、あちこちで恨みを買っている事も多い筈。と、そう話す御代。
「冗談じゃありませんわ! 私はともかく、御代様にまで手を出すなんて! ハイランドに言って、もっと警備を強化してもらわなくては! このままでは、安心して聖夜祭パーティが出来ませんわ!」
 興奮した様に喚くトゥイン。
「相変わらずぱわふりゃあじゃのぅ。もう少し、落ち着いて欲しいものじゃ」
 そんな御代の心配をよそに、彼女はさくさくと館へ戻っていくのだった。

 その頃、屋敷では。
「何。巨大なミミズ‥‥?」
「はい。ここの所、船乗り達の間から、目撃証言が多発しております」
 執事兼秘書の青年、ハイランドからそう報告を受けているバンブーデン氏。なんでも、太さが一抱えほどもある、10mの大きなミミズが、この所頻繁に目撃されているらしい。
「ランドウォームの親戚か‥‥。まさか、海にまで出ようとはな‥‥」
「冬場になって、エサを求めて上がって来ているのでしょう」
 現に、沿岸には食い荒らされたと思しきキラーフィッシュの死骸等が打ち上げられている。行方不明者がいると言う噂も有った。
「いかがいたします? パーティともなれば、格好のえさかと」
 パーティには、奇想天外な料理も供される。美味しい香りに誘われてしまうのは、人もモンスターも変わらない。それを狙うのも道理と言うもの。
「だが、単純に警備を増やせば良いと言う問題でもないしな。とりあえず、船子達には、補強工事をするよう、通達しておけ」
 船の防御力を上げる様、指示をするバンブーデンに、ハイランドが頭を垂れる。
「御方様ッ!」
 と、その直後、乱入してくるトゥイン・パレス嬢。
「なんだ、トゥイン。打ち合わせ中だぞ」
「それ所ではございませんわっ。御台様が、謎の連中に襲われたんですのっ!」
 ハイランドの言葉を遮って、そう報告する彼女。
「なんだと!? それで、御台は!?」
「この私が、怪我などさせませんでしたわ。御方様ぁ、あんな温い警備では、御代様に怪我をさせてしまいます。ここは、今度のパーティに、冒険者をお雇いになってくださいまし」
 ただ慌てていただけなのを棚に上げて、トゥインはそう言った。バンブーデン氏は、ほっとした表情ながら、傍らのハイランドに、問うている。
「むむぅ‥‥。我が警備隊は、それほど頼りないか?」
「まぁ、例の海ミミズの件もありますから、臨時要員を雇い入れるのも、宜しいでしょう。それに、パーティともなれば、招かれざる客人からの招待状も届きますし」
 彼はそう言って、持っていた手紙の束を見せた。それには、明らかに脅迫状と思しき文面もある。大方は嫌がらせのそれは、この時期には風物詩ともいえるものだ。
「では、私、早速キャメロットに行ってまいりますわね」
 その答えを聞いたトゥインは、そう言いながら、優雅に一礼してみせた。既に、出掛ける準備は整えている様子。その確信ぷりに、少々呆れながらも、伯爵は快く使い役を任せてくれるのだった。

『パーティの護衛役を募集します。聖夜祭パーティには、知り合いの貴族を始め、多数の子息令嬢が招かれています。要人を狙って、きな臭い脅迫状も届いているので、念の為、皆様に護衛していただく事になりました。むろん、いざと言うときの保険なので、事が起こるまでは、想いの相手と、楽しんでもらって構いません。なお、カンタベリー在住の貴族、ヨシュア議長も、遠方からの来客を連れて、参列するそうです』

 ギルドで、猫をかぶったトゥインが説明していたのは、それから程なくしての事である。

●今回の参加者

 ea0123 ライラック・ラウドラーク(33歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0277 ユニ・マリンブルー(25歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0393 ルクス・ウィンディード(33歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1493 エヴァーグリーン・シーウィンド(25歳・♀・バード・人間・イギリス王国)
 ea1877 ケイティ・アザリス(34歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3486 オラース・カノーヴァ(31歳・♂・鎧騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5597 ディアッカ・ディアボロス(29歳・♂・バード・シフール・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 バンブーデン伯所有の船は、張り巡らされた水路の入り口に、数多くの蝋燭で飾り付けられ、停泊していた‥‥。
「どうです? 怪しい連中は‥‥」
「一長一短ですわね。どれも疑わしいといえば、疑わしいですし‥‥」
 受付をこなしながら、ディアッカ・ディアボロス(ea5597)の問いに小首をかしげる常葉一花(ea1123)。ここに来る前、一通り調べて見たが、どれも不審と言えば不審。信じられると言えば信じられる。唯一、はっきりした証拠は、数日前に現れたと言う海賊と、バンブーデン伯の敵対する海賊が、同じものだと言う事。
「受付では、チェックしきれませんか‥‥」
「今のうちに、たらふく酒を飲ませてしまえば、足も鈍ると思うのですが‥‥」
 赤いサンタ風ドレスに身を包んだ彼女は、そう言ってにやりと笑う。
「あ、メイン料理が出て来たみたいだよ」
 ユニ・マリンブルー(ea0277)の言葉に、舞台を見れば、まるで東洋の屏風に描かれている鳥の様に飾りつけられた、チキンの丸焼きの御登場だ。会場の反対側に登場した狩人を見ると、どうやら、あれでこの鳥を撃って、狩りを再現と言った趣向のようである。
「危ないッ!!」
 すたたんっと、その矢がそれて、貴賓席にいた御台の足元へと刺さる。直後、『狩人』は、見張り台から姿を消していた。
「捕まえろ! 生け捕りにして、仲間の居場所を吐かせるんだ!」
 アリオス・エルスリード(ea0439)が命じた、その時である。
「大変です! 沖の方から、巨大なヘビのようなモンスターが!」
「出たな、ナマモノ」
 見張りの報告に、そう呟くアリオス。匂いにひかれてか、ミミズが海面へと姿を見せたらしい。
「そこの方! 抵抗すると、海ミミズのご飯にしちゃいますわよ!」
「まぁたトンデモ台詞を‥‥」
 その騒ぎに乗ずるように、一花が、びしぃっと指先をつきつけながら、そう言った。
「笑った‥‥?」
 だが、潜り込んだそ奴は、彼女の台詞をたわごととでも受け取ったのか、不敵な笑みをもらしている。
「えさにされても構わないとおっしゃいますのね! そう言うことなら、覚悟は出来ておりますわ。シーウォーム、やっておしまいなさい!」
 直後、船を揺さぶる轟音。
「うわっ! 本当に体当たりされてるぞ!」
「あら。根性のある」
 他人事のような感想を述べる一花。
「ああ言うナマモノは殿方にお任せ致しますわ」
「おう、任せろ!」
 彼女が確信犯的に言った横で、オラース・カノーヴァ(ea3486)が、そこらへんに預けたままのヘビーボウをつかみ、甲板へと走って行く。
「ふん、海にいるからって、触れないと思うなよ!」
 海面目掛けて、矢を撃ちまくる彼。失った分は、後で依頼者から補充してもらう予定だ。
「そうね。エリ、攻撃って『ムーンアロー』しか出来ないけど、これだと遠くからでも攻撃できるでしょ」
 そう言って、エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)が、ムーンアローを唱えた。的がでかい分、指定もやりやすい。
「効いてない‥‥?」
「さすがに深海のナマモノだけあって、皮膚が厚いようだな」
 アリオスが厳しい顔つきで、そう言う。たった一つ問題があるとすれば、威力が低すぎて、ミミズにかすり傷しか与えられないと言った所か。
「いや、多少は効いて入るみたいだが‥‥」
「船の下、もぐりこんじゃいましたよぉ」
 そうこうしている内に、ミミズは船の下へと潜り込んで行ってしまう。このままでは、見失ってしまう。
「このままじゃ倒せねえな。エサでも撒くか。これ、ちょっと借りるぜ」
「って、それ私のベリーパイ!!!」
 そんな彼らの目の前で、オラースが拾い上げたのは、一花が持っていた木苺のパイだった。
「そーら、大ミミズ! 美味しいデザートだぜ!」
「あああああ!」
 可哀想に、パイはそのまま海の中。
「中々出てこないな‥‥」
「食べるものが違うんじゃない?」
 しかし、ミミズは中々浮上して来ない。やはり、あれだけ巨大化すると、食性も植物より動物が良いのだろう。
「埒があかねぇ。ちょいと失礼。フォロー頼むぜ!」
 そう言うとオラースは、借りた礼服を脱ぎ、腰にロープをしっかりと巻きつけると、ロングソードに持ち替え、そのまま海の中へとダイブする。
「ああもう。無茶するんですからぁ。一花さん?」
 パイを奪われた一花はと言えば、なにやら虚空に向かってぶつぶつと呟いていた。
「よくも‥‥よくも私のデザートを‥‥。楽しみにしてたのに‥‥」
「終ったら、もう一度パーティしましょうよ。皆が楽しむのを助けるのが冒険者のお仕事ってパパ達言ってましたもん。それに知らない人に混じるより、きちんとお仕事終わらせてからおとうしゃま達とお祝いする方が良いですの」
 それを慰めるエヴァーグリーン。両親の冒険者仲間に育てられた彼女、その心得は、骨の髄まで叩き込まれているらしい。
「ふふふ、そうね‥‥。オラース、後で覚えてなさいよ‥‥」
 同意しながらも、何故か冷たい表情を崩さない一花。食いものの恨みは恐ろしい。
「こんのぉぉぉぉぉ! 食らいやがれッ!」
 その、恨みを買ってしまったオラースはと言うと、水中でミミズと格闘中だった。
「きしゃぁぁぁ!」
 がぼごぼと激しく泡が立つ。日ごろから鍛えた水泳技術がなければ、とっくの昔に溺れ死んでいるところだろう。しかし、それでも海洋生物に分があるのは、否めない‥‥。
「うわっ!」
 程なくして、オラースは海ミミズの顎に引っ掛けられてしまっていた。
「く‥‥。このままじゃ‥‥」
 夕食代わりにされてしまうのは、時間の問題だ。覚悟を決めたオラースは、そののこぎりのような顎に足をかけ、ロングソードをさかさまに持つ。
「頼むぜ、俺の脚!」
 足の裏に、激痛。だが、かまっていられない。心の中でそう叫ぶと、彼はその剣を、ミミズのあごに思いっきり突き刺していた。
「ぎしゃああ!」
 鮮血を撒き散らしながら、ミミズがオラースを放す。すかさず、ロープを引っ張る彼。
「海が‥‥」
「急げ! 引き上げろ!」
 違う色に染まって行く海を見て、アリオスが鋭い口調でそう命じた。
「オラース、ミミズは!?」
「何とか追い返した。暫くは大人しくしてるだろ」
 甲板の上に引き上げられた彼、荒い息をつきながらも、自信たっぷりに笑う。そんな彼に、乗り合わせていたらしきクレリックが、リカバーを施してくれた。
「これで‥‥ミミズ倒す人がいるからって、諦めてくれると良いのですけど‥‥」
「在り得ませんわね‥‥」
 エヴァの言葉に首を横に振る一花。あれだけの巨体が、それで引き下がったとは思えない。おそらく、様子見と言った所だろう。
「やはり、あのミミズは、暗殺者の一味だと御考えですか?」
「ああ。海賊達が手下にしている可能性が高い‥‥」
 ハイランドの問いに頷くアリオス。
「報告書によれば、大きな亀を飼いならしているようですからね。ミミズも同じようにしていても、不思議はないでしょう」
 ディアッカが調べてきた事を引き会いに出しながら、そう言った。
「問題は、襲撃を予測出来ないところだな。海に居る間は、発見も難しい‥‥。しかし、海の生物が会場にやってくると言うことは、光に惹かれてくる可能性も高い‥‥」
 考え込むアリオス。と、彼はじーっと甲板の明かりを眺めていたが、おもむろにハイランドへこう言った。
「俺に考えがある。船をいっそう貸してくれ。それと、予備の蝋燭とたいまつを用意して欲しい」
 何やら、彼に良案があるようである‥‥。

 それから、数時間後。
「ふふん。こう言う衣装を、一度は着てみたかったのよねー」
 深いスリットの入った、セクシーなレザードレス。ミンクのロングコートと合わせたライラック・ラウドラーク(ea0123)は、似合うでしょ? と言わんばかりに、胸をそらす。
「今頃、ミミズさんは、からっぽの船を追いかけて、沖へと進んでる頃だね」
「ああ。ナマモノさえ消えてくれれば、後は暗殺者数人なだけ。これだけ人数がいれば、叩き返せるだろうよ。まぁ、これだけ警備がいるんだ。そのまま引き換えしてくれれば良いのだが」
 エヴァの言葉に、頷くアリオス。彼の考えた策と言うのは、ミミズの習性を利用し、光でおびき出す事だった。
「だといいですけれど‥‥」
 不安げな一花。と、そこへ何やら騒がしい供を連れたゲストが乗り込んでくる。
「ふぅん、あれがヨシュア議長か‥‥。人気者だね」
「大方は、彼ではなく、彼の扱っている服や、お金に目が眩んでいるんだろう」
 ケイティ・アザリス(ea1877)の感想に、そう解説するハイランド。女性もかなり多いが、必ずしも彼個人のファンではないと。
「まぁ、せっかくのパーティなんだから、楽しんでおきましょ。ねぇ、ハイランドさん?」
「私は仕事中だ。あまり酒を勧めるのは、控えてもらおう‥‥」
 そう言って、ケイティ差し出された杯を、きっぱりと断る彼。
「狙ってるわね」
「ちょっと好みなのよ☆」
 同じ様に張り付いているユニに、ふふりと意味ありげに答えるケイティ。その手元には、どさくさまぎれに頂戴してきた、高い酒が転がっている。
「危険なタイプか‥‥。向こうも、違う意味で危険と言えば危険だが」
 そんな彼女達の話に割って入るように、真幌葉京士郎(ea3190)がそう言った。彼は、女性陣の相手を余儀なくされているヨシュア議長を真摯な眼差しで見つめると、
「そうなのですか?」
「噂は、キャメロットにも聞き及んでいるよ。トゥイン嬢。なんでも、なかなかのやり手だと聞くが」
 彼は彼なりに、ヨシュアを警戒しているらしい。もっとも、トゥインにそう言いながら、微笑んでいるあたり、目の前に居る女性達を取られまいと企んでの事なのかもしれなかったが。
「いやですわ。そんなに、見つめないで下さいまし。照れるじゃないですかぁ」
 べしべしとそんな京士郎の背中を叩きまくるトゥイン。
「い、痛いよ。トゥイン嬢‥‥」
「ご、ごめんなさい」
 頭に血が昇ると、自分の行動に責任がもてなくなるタイプの様だ。
「すっかり気に入られちゃったみたいねー」
「ああ。御台様は、元々ジャパンの出身でな。トゥインは、御台様からの話で、すっかり憧れを抱いてしまった」
 ケイティがそう言うと、ハイランドが彼女の生い立ちを語ってくれた。
「それで、べったりなんですのね」
「あれは、ある意味仕方ないと思う」
 まぁ、それは、京士郎のナチュラルなナンパっぷりを見れば、一目瞭然なのだが。
「それでは私は、ケーキの準備がございますので。失礼致しますわ」
「逃げたな」
 照れくさくなったのか、深々と一礼をして、御台の後ろに隠れてしまうトゥイン。もったいないものである。
 ところが。
「トゥイン、後ろだ!」
「え?」
 その彼女の背中に、姿を見せる黒い影。振り返った先に、ナイフが飛んで行く。
「大丈夫かい?」
「ありがとうございます‥‥」
 それは、彼女に届く前に、京士郎の鉄扇によって防がれていた。と、それを合図に、わらわらと暗殺者が姿を見せる。
「現れたな」
 ルクス・ウィンディード(ea0393)が、そう言いながら剣を抜く。
「せっかくのパーティに、無粋な奴らだ」
 その姿に、京士郎はぱちんと扇を閉じてみせた。
「京士郎様! これを!」
「ありがたい」
 そこへ、トゥインがテーブルの下に隠していた、彼の愛刀を投げて寄越した、それを受け止めると、京士郎はすらりと抜き、正面を見据えて、こう言い放つ。
「聖夜祭の夜を血で汚すのは不本意だが、死にたい奴はかかってこい!」
 まるで、芝居か何かの様なシーンである。と、トゥインもまた、それにあわせるように、一歩進み出た。
「京士郎様! 私も御手伝い致します!」
「大丈夫。君は御台様の側に居てくれ。安心しろ。貴方達に指一本触れさせはしない」
 優しく声をかける彼。もっとも、いい雰囲気になったのもそこまでで、何か言いかけたトゥインを、ケイティがつかみ。ディアッカがメロディの魔法を唱える為、頭の上を舞台代わりにしてしまう。
「ほらほら、相手してるのは、僕達なんだからっ」
 一方のユニはと言えば、敵の注意を引きつけるため、足元へとダーツを投げ込んでいた。
「せめて一人でも仕留めろ」
「させるか!」
 後衛の彼女を黙らせるべく、暗殺者の何人かが間合いをつめる。それから守ろうと、ルクスが目の前にあったテーブルをひっくり返していた。
「ああっ! あたしのケーキが!」
 盾代わりに使われたそれの上に乗っていた、一花のパウンドケーキは、哀れ暗殺者に踏みにじられてしまう。
「ムーンアローよ! 緑のドレスの人に一番近いナイフを持ってる警備兵でも仲間でもない人!」
 そこへ、エヴァがムーンアローを打ち込んでしまった。
「おのれ‥‥。一度ならず二度までも‥‥! 良くも私の料理を‥‥! もう許しちゃおきませんわッ!」
 もはや、完全に残骸と化してしまったケーキを見つめ、ふるふると身体を振るわせる一花。
「一花さん!?」
「なくしたベリーの代わりに、貴方の血であがなっていただきますわ! その首、いただきます!」
 クリスタルソードを召喚し、相手の襟首をつかんで、つきつけている。直後、ぷしゅうっと鮮血が舞った。
「あんた達への聖夜祭は、牢獄の素敵なディナーさっ」
 その傍らで、上着を脱ぎ捨てたライラが、スープレックスを食らわしている。綺麗な足がちらちらと見えて、中々にセクシーだった。
「さぁ、終ったよ! お次は何だ!?」
 自慢の体術で、何人も黙らせた彼女は、リーダー格と思しき暗殺者に、そう告げる。
「降伏しろ。もうあんたに勝ち目はねぇ」
 後から合流したオラースが、静かな口調で諦めろと促す。と、暗殺者が取ったのは。
「‥‥引け」
「逃げたか‥‥」
 窓を破り、そのまま海へとダイブしてしまう。と、アリオスがこう言った。
「これだけの被害を出して、再びと言う事はないだろう。後は、安心してパーティを楽しめると言うものだ」
 見れば、何人かの暗殺者が、既に絶命して転がっている。
「今度こそ、美味しいパイを食べなくちゃ」
「ハイランドさーん、そこのスウィート・ベルモットよろしくー」
「朝までたけなわねー」
 宴は、まだ始まったばかりだ。嬉々として、失った分を取り戻そうとする一花とケイティ。
「君の瞳は、聖夜の夜を彩るあの星々のようだな‥‥。見る度に違った輝きを見せてくれる」
「いやですわ。京士郎様ってば」
「愛が痛い‥‥」
 京士郎はと言えば、相変わらずトゥインに粉かけて、手ひどい目に合っている。
「怖いもの知らず‥‥」
「一番の強敵かもしれないですね」
 ともあれ、何とか護りきった船の上では、そのまま明け方近くまで、宴会が続いていたのだった。