【真・カンタベリー物語】霧の湖のサメ退治

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月25日〜01月30日

リプレイ公開日:2005年02月01日

●オープニング

 一面に広がるは、視界を塞ぐほどの濃い霧。
 僅かに波の音が聞こえる所を見ると、おそらくは水辺の町。
「ふふふ。これでいい‥‥」
 その、霧の立ち込める深夜の波打ち際で、何やら投下する黒い人影があった。
「僕を苛めた奴なんて、どうなろうが知った事か‥‥」
 その耳は、エルフほどではないが、人のものでもない。そう言うと、その人影は、村人が目を覚まさぬうちに、その場から立ち去っていく。
 微かに血の匂いを残しながら‥‥。

 それはさておき、カンタベリー近郊の、ある村では、村長がこんな事を言い出していた。
「えー、今度、村内行事の一環として、寒中水泳をやりまーす」
「えーーーー! 寒いじゃないスかーーー!」
 わざわざ村の若い衆を呼び出してまで、そう通達する村長に、村人は文句を垂れまくっている。
「何不満そうな顔してんのよ。だいたい、普段、あれだけ食べてるんだから、多少寒くたって平気でしょうに。やるったらやるのよ!」
「うーい」
 しかし、一度言い出したら聞かない村長さんらしく、ぴしゃりとそう宣言する。止めても無駄なのは分かっているので、村人達は、渋々準備に取り掛かっていたのだが。
「おーい。これで良いのか?」
「ああ。充分だと思う」
 網やロープを利用し、船の上から『会場』を作る彼ら。目印の浮きが、30mくらいの範囲で、ぷかぷかと浮いている。
「よし。さっさと上がろうぜ。冷えてきやがったし」
 普段、慣れ親しんだ道具である。作業にそれほど時間を要するわけではない。さすがに風も厳しくなったので、撤収しようとしたのだが。
「なんだ? あれ‥‥」
 ざばざばと水面を蹴立てて進む影。その中心部には、特徴的な三角ひれが見える。
「きしゃぁぁぁぁっ!」
 どこから声を出して居るのかは分からなかったが、水面を割って現れたのは、巨大な‥‥鋭い歯を持つお魚だった。
「うわぁぁぁっ! シャークだーーーーーー!!!」
「何でこんな所にいやがるんだよ!」
 村人は大慌てである。4m半の体躯は、船の上から見ても、充分怖い。
「俺が知るか! さっさと逃げるぞ!」
「おう!」
 体当たりでも食らって、湖に投げ出されたら、命の保障はない。大急ぎで陸地へと上がる村人達だった。
「え。シャークが?」
「どうすんですか? 村長」
 と、それを聞いた村長、「うーん」と考え込んだものの、やおら村の『予算箱』から、金貨を出して、こう言った。
「このままだと、行事が出来ないわねぇ。仕方がない。冒険者呼んできて頂戴」
「へいへい」
 どうやら、だからと言って、寒中水泳大会を中止するつもりはないらしかった‥‥。

『海岸に現れたシャークを退治して下さい』

 そんな依頼が、ギルドに張り出されたのは、まもなくの事である。

 ところが。
「なぁ‥‥。正直、俺は嫌なんだが」
 依頼を出した帰り道、使者役の村人が、ぼそりと一言。
「奇遇だな。俺もだ」
 そう答えて居るもう1人の表情を見れば、出来れば、このままシャークに居座ってもらって、中止になれば良いと思っているらしい。
 そんな彼らの前に現れたのは。
「ふふふ。そうだよね。ヤダよね」
 少々鋭い目付きの少年だった。
「何だ、お前?」
 深く帽子を被っている彼に、村人がそう問いかけるものの、「誰でも良いじゃん。ただの通りすがりだよ」と、意味ありげに応えている。
「それより、話は聞いたよ。ふふ、そう言うときは、妨害しちゃえば良いんだよ。皆でね」
「おー、なるほどー」
 そんな彼の様子に全く気付かない村人は、ぽんと感心したように手を叩いている。
「よし! 青年団集めて、こっそり足止めしとこうぜ」
「おー!」
 そのまま、若い連中を集めに行く彼ら。
「ふふふふ‥‥。全ては予定通りっと‥‥」
 それを見て、少年がほくそ笑んだのにも気付かずに‥‥。

●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0418 クリフ・バーンスレイ(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0941 クレア・クリストファ(40歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1123 常葉 一花(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea3657 村上 琴音(22歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5534 ユウ・ジャミル(26歳・♂・バード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ルクス・ウィンディード(ea0393)/ 狂闇 沙耶(ea0734

●リプレイ本文

●聞き込みと説得
 準備を済ませた冒険者一行は、依頼のあった村で、聞き込みを開始していた。
「うぅむ。中々上手くいかぬのぅ」
「こうも冷たく扱われるとは思いませんでしたね」
 頭を抱える村上琴音(ea3657)と、ニコニコしながら後ろに冷や汗を浮かかべているクリフ・バーンスレイ(ea0418)。居留守を使われる事も多い。
「せめて地図でもあれば良いのだが‥‥」
 言葉を濁すアリオス・エルスリード(ea0439)。相手は水中モンスター。場所が重要なのだが、せめて村人にその様な場所があるかどうかだけでも、聞きたいと言った所だ。
「相手は水中の生き物じゃしなぁ。村長殿も、そう言った事を考えて欲しかったのじゃが‥‥」
 繋ぎのユラヴィカ・クドゥス(ea1704)の話では、偉そうな女性だと言う事だ。
「まずは現場に向かってみませんと」
「そうだな‥‥。地図が貰えないのなら、自分達で確かめる‥‥しかないだろう」
 クリフのセリフに、アリオスはそう答え、サメが現れると言う湖へと向かう。村の中心部からは、少し離れた場所にあるそこは、荘厳な雰囲気に包まれていた。
「あれ? 皆さん、どうしたんです? 村長の所に行ってたんじゃあ‥‥」
 そんな中、反対側から数人のお供を連れた村長を見て、クリフが目をぱちくりとさせる。
「それが‥‥、サメが出たって報告がありまして‥‥。様子を見に行くって言って、聞かないのですよ」
 ルーティ・フィルファニア(ea0340)がそう言った。口調は困っている風情だが、顔は困ったように見えない。きっと、何とかできる手段を持ち合わせているからだろう。
「なるほどー。いやー、けっこう壮観ですねー」
 のほほんとそう言うクリフ。見れば、湖の上を、特徴的な三角鰭が、2つほど元気に水を蹴立てている。
「のんきに見てる場合じゃないと思うが‥‥」
「いやー、湖にシャークなんて、滅多に見れるものでもないですし。まぁ、村人さん達も困ってるようなので、やってみますかー」
 陸上に上がられない限り、そうそう攻撃は食らわないだろう。ほっといて周囲の整備をする方が先決だと。
「と言うわけなので、皆さん、丘の方に上がってて下さい」
 すっかり見物人モードの村人達に、クリフはそう言った。だが、村人達は顔を見合わせるばかりで、いっこうに動こうとしてくれない。
「危機感がまるで無いな‥‥。あのサメが、どれだけ自分達の生活に影響を及ぼすか、わかっていないようだ‥‥」
「うーん、どうしましょう」
 アリオスが厳しい意見を言った。村人が、どうしてそこまで反対をするのか、理由を知らないクリフは、首をかしげている。
「あのー、聞こえませんかー?」
 と、そこへルーティが、近くの地面めがけて、グラビティーキャノンを打ち込んだ。驚いて固まる村人に、ルーティは首を斜めにして『危ないですよ』と微笑んで見せた。
「まったくもー。自分達の愚行に、まだ気付かないの!?」
 そんな彼らを、クレアが一喝する。
「クレア殿の言う通りなのじゃ。寒中水泳大会は中止になるかもしれんが、大きくて凶暴なサメがいつまでもいたら、湖の魚も食べられてしまうし、漁や湖の船の交通に極めて危険なのじゃ。それでは、寒中水泳が中止になっても普段の生活や命が危ないのじゃ」
 口ごもる彼らに、ユラヴィカはそう説得した。確かに、敗れた網や、悠然と泳ぎ回るサメの姿を見れば、寒中水泳は言うに及ばず、漁にも影響は出る。
「我々は、危なくて湖には入れないからなどと言う理由だけはない。シャークは貪欲な生き物だと聞く。そうなったら、どうなると思う?」
 だめ押しをするように、アリオスがそう言うと、村人はようやく納得したようだ。
「寒中水泳は考えてもらえるように、わしからも村長説得に協力するから、サメ退治の邪魔はしないでいてもらえるとありがたいのじゃ」
「わかったよ‥‥。追い込むなら、東の入り江が良いと思う。少し遠浅になっているから」
 そう言って、村人はサメ退治に適した場所を教えてくれるのだった。

●黒幕
 さて、入り江に移動した彼らは、他の村人達が入ってこないようにする為の策を、ユウ・ジャミル(ea5534)に任せ、シャークを呼びつける算段を準備していた。
「まぁ、こんな感じで、時々脅かしておけば、村人も寄ってくる事はないと思いますよ」
 ファンタズムで、ごつい用心棒の姿を映し出しながら、そう語るユウ。6分程度しかもたないが、彼は、自身の鋭い聴覚で、足音を聞きつける度に出せばいいと考えているようだ。
 そんな中、クリフは周囲の様子に、首をひねっていた。
「しかし、シャーク‥‥って、水の生き物なんですが、なーんかおかしい気がするんです。気のせいでしょうか?」
「まぁ、珍しい事ではあるが、ありえない事でもあるまい」
 アリオスが自身のモンスター知識に照らし合わせながらそう言った。だが、その考えには、ルーティが首を横に振る。
「よくは知りませんけど‥‥、琴音さん言ってましたよ。『淡水の』湖に、海水の魚が存在するのはおかしいって」
「そうか‥‥。感じていた違和感は、これだったのか‥‥」
 納得した顔のクリフ。と、そんな彼に、ユラヴィカがパタパタと上空を飛び回りながら、こう言った。
「うーみゅ。この所、デビルだの海賊だのが、背後にいたりした依頼も多かったし、湖にサメは明らかに怪し過ぎじゃからのぅ。操っている奴がいないか、見てみるのじゃ」
 そして、テレスコープの魔法を唱え、水面や対岸の様子を見始める。
「あれ、今何か映った様な気がしたのじゃが‥‥」
「どこです?」
 クリフの問いに、ユラヴィカは無言で入り江の反対側を示す。見れば、何かが茂みの向こうで小さく動いた。周囲の木々から判断するに、どうやら人影のようだ。
「ちょっと待ってて下さい。確認してみます」
 ブレスセンサーを唱えるクリフ。それもやはり、こちらを伺う人影を示す。
「見てきますね」
 のほほんとそう言うルーティ。そして、入り江の向こう側へと向かった。
「あのー。誰かいるんですかー? あ! ちょっと待ってくださいよぉ!」
 その声に、人影は茂みから走りだしてしまった。
「まったく、手間のかかる‥‥」
 移動中にそれを見ていたクレア、ミミクリーの魔法で腕を伸ばす。ぎゅいんとのびたそれは、人影の襟首を掴んで、引き倒していた。
「痛たたたっ。なにすんだよぅ」
「あなたは‥‥」
 すッ転んだその人影は、よく見ればハーフエルフである。しかも‥‥まだ少年。
「なんだよっ。おかしいのかよ」
「いえいえ。私の義妹もハーフエルフですから、別に変に思ったりはしませんよ」
 じろりと睨んでくる彼に、ルーティはそう言った。ロシア出身の彼女、親戚にもハーフエルフは数多い。別に、偏見などカケラも無い、と。
「あの、よろしければ、事情を聞かせていただけません? 困り事があるようなら、相談に乗りますけど」
「‥‥う、うん‥‥。実は‥‥」
 その彼女の申し出に、少年はこうなってしまった仔細を話してくれるのだった。

●湖の中心で愛を語って釣り上げろ
「何、デビルの仕業だと?」
 アリオスがそう言うと、ルーティは頷いて、少年から聴き出した事情を説明する。それによると、御多分にもれず迫害を受けていたハーフエルフの少年が、どこかから入り込んだアガチオンに、言葉巧みに騙くらかされ、水門を空けさせてしまったようだ。
「こんな所にまで、デビルがおるのかー」
「奴らはどこにでもいるのよ。それをどうにかするのが、私達の役目だと思うわ」
 頭を抱えるユラヴィカに、クレア・クリストファ(ea0941)がそう言いながら、自分の腕を切った。後で、レフェツィア・セヴェナ(ea0356)にリカバーかけてもらう予定で、自ら餌となったようだ。
「さぁ、美味しい食事だ。上手い事ひっかかってくれよ‥‥」
 一方では、アリオスが、借りた銛に突き刺した魚を、入り江の水際にゆっくりと沈めている。隣では、ルシフェルが用意した大量の『餌』を流していた。中身は、漁で使わないが、肉食魚には御馳走の内蔵フルコース。湖は、100mそこそこ。サメの嗅覚をもってすれば、気付かない事は無いだろう。魚の暴れる音と、血の匂いで誘い込めば、彼らの思う壺と言うものだ。
「サメどもめ。パリでは蟹と戦い、キャメロットではサメと戦う我が雄姿、得と拝むが良い!」
 振り返れば、入り江の波打ち際、豪華なマントに六尺褌とゆー実に漢らしい格好で、仁王立ちしているユウ。
「来たわ。さっそくかぎつけたみたい」
 クレアがそう言った。見れば、サメが水面を蹴立てている。それを見て、彼女は水につけていた腕を引き抜く。白い肌から、一筋の血がぽたりと落ちた。
「ふふふ。幾ら巨大でも、幾ら賢くても‥‥所詮はただのお魚。思い知らせてあげる」
 そう言ってフレイルを構える彼女。着ているブラックローブとあいまって、これではどっちが悪役だか、分からない。
「お前が世界の平和を乱す悪のサメか?! 俺達が成敗してお造りでも鉄火巻きでも食べ物にして喰ってやる!!」
 びしぃっと指を突きつけるユウ。と、3匹のうち一匹が、ユウに向かってスピードを上げた。
「うわァッ。本当に襲ってきたー」
「当たり前だ!」
 まさか追いかけてくるとは思っていなかったらしい。ルシフェル・クライム(ea0673)に突っ込まれつつ、ユウは厄介な事に巻き込まれたと言った風情でたちどまる。
「‥‥効果あるかどうかわかんないけど‥‥」
 彼が唱えたのは、チャームの魔法。それはまるで、一目ぼれにでもなったかのような効果を、サメにおよぼしていた。
「よし。一匹は確保」
 方向を変えた鮫を見て、嬉しそうにそう言うユウ。人、それをサメに愛を語ると言う。
「油断するな。まだ2匹も残ってるんだ!」
 ルシフェルが、そう叫びながら銛を出した。それには、ロープが括り付けられ、反対側は木に固定されて、簡単には外れない仕組みになっている。
「ギリギリまでひきつけろ。逃げられたら元も子もないからな」
「わかっておるのじゃ」
 借りてきた小船の上で、琴音が言う。ここで逃げられたら、最初からやり直し。村人と宴会の為にも、ここは一発で仕留めたい。
「よし、今だ!」
 タイミングを計るルシフェルの声に、琴音はマジカルエブタイドの魔法を唱えた。すると、水位が3m程下がり、サメは浅瀬へと追い込まれる事になる。
「食らえッ」
 そこへ、ルシフェルが投網を投げつけた。漁は得手ではないので、その網は、せいぜい視界を阻害する程度にしかならないが、目くらましには充分だ。
「こっちきたぁ!」
「お前の相手はこっちだ! 間違えるな!」
 じたばたと暴れたサメが、すぐ後ろにいたレフィに牙を向く。すぐそこにおいてあったロープ付の銛を、スピアの要領で叩きつけるルシフェル。ぐさりと音がして、血の匂いがあたりに漂った。
「セヴェナ、動きを止めろ!」
「わかったー!」
 そのルシフェルが、サメと格闘しながら、レフィに叫んだ。と、彼女はサメ達に向かい、初級のコアギュレイトをかける。成功率の高い魔法に、びちっと固まってしまうサメ達。
「頑張るのじゃ、馬ーーー」
 ロープを馬に引かせ、陸近くにまで上げようとするユラヴィカ。そのかいあってか、暴れるサメは、巨体をずりずりと次第に浅瀬へと乗り上げて行く‥‥。
「よし、頭を狙え! 身体は出来るだけ傷つけるなよ! 後で美味しく頂くんだから!」
「分かってますよ! グラビティーキャノン!」
 今度は遠慮はいらない。最大パワーで魔法を打ち込むルーティ。
「これでも食らいなさい! 魚は大人しく人間に食われるのが定めなのよ!」
 クレアが容赦なくフレイルとナックルでもって、頭の解体に走っている。おかげで、サメの鼻先はぼこぼこだ。
「身体には打っちゃ行けないんですよねぇ。じゃあこうしましょうか」
 同じくその鼻先に、クリフが落ち着いた表情で、ウインドスラッシュを打ち込む。こうして、身動きの取れないサメを、皆でタコ殴りにした結果、サメは美味しく切り身になってしまうのだった。
 なお、引き上げられた切り身は、宴会で酒の肴にしても、なお余るほどだったので、残りは村の備蓄食の材料として提供し、その代償にとして日程分の保存食が『お土産』として補充された事を追記しておく‥‥。