ねぼすけを起こそう!

■ショートシナリオ&
コミックリプレイ


担当:姫野里美

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月08日〜02月13日

リプレイ公開日:2005年02月16日

●オープニング

 武闘大会が定例化した昨今、キャメロットには腕に覚えのある者達や、それを見物する者達が、多く訪れる様になった。だが、そんな彼らの中で、ある1つの噂が囁かれるようになった。
「知ってるか? また、やられたんだってよ」
「怖ぇなぁ‥‥。せっかく来たのに、おちおち外も出歩けねぇや」
 会場近くの酒場で、エール片手にぼそぼそと話す観光客達。
「いったい、何があったんですか?」
「知らないのかい? 最近、この辺りじゃ、霧の夜に出歩いた観光客は、雷の精霊に抱かれてしまう‥‥って、評判なんだぜ」
 なんでも、観光客の何人かが、夜出歩いた際に、電撃を放つ謎の生物にやられ、怪我をすると言う事件が多発しているそうである。怪我そのものは大した事はないが、人々はそれを『雷の精霊に目を付けられた』と評しているようだった。
「そう言うわけで、このままで行くと、せっかくの大会なのに、見物客が減って、いずれ商売上がったりになってしまうと思ったんですよー」
 翌日、冒険者ギルドでは、頭を抱えながら、職員にそう説明しているガイドさんの姿があった。
「それで、うちにそいつを捕まえて欲しいと‥‥」
 職員が、そう言ってガイドに確認を取っていた時である。
「すみませーん‥‥。あの、頼みたい事があるんですけどー」
 扉が開き、涼やかな声を響かせたのは、年の頃なら14歳くらいの、絵に描いた様な金髪の、エルフの美少年である。
「依頼かい?」
「はい。実は‥‥眠ったままの兄を起こすのに協力して欲しいんです」
 職員の問いに、頷く彼。話を聞いてみれば、数日前から鼻の下を伸ばしたまま、昏々と眠り続けていると言う。
「いずれは、武闘大会に参加したいと言っていたのに、このままでは‥‥それもままなりません。それで、起して欲しいんです。これは、支度金です」
 両親は出稼ぎでカンタベリーに行っており、ほとんど兄弟2人っきりだそうである。心配するのも道理と言うわけだ。
「しかし、起こすつったってなぁ‥‥」
「それなんですけど、家の近所にいた占い師さんが、良い知恵を授けてくださったんです」
 なんでも、その占い師曰く、世間を騒がせている謎の生き物の電撃を浴びせれば、一発で起きるよと助言をしてくれそうである。そこで、少年は、なけなしの金を払って、兄を起こす為、その謎の生物を探して欲しいと言うのが、依頼の趣旨のようだ。
「なるほど‥‥。麗しい兄弟愛ですな。そう言う事なら、是非私も協力させていただきましょう」
 横で話を聞いていたガイド。そう言うと、財布から足りない分の依頼料を出した。そして、依頼の申込書に、こうしたためる。

『周囲を騒がしている謎の電撃生物を、無傷で捕獲して、不幸な兄弟の力になって欲しい』

 こうして‥‥冒険者達は、その謎の電撃生物を探す事になったのだが、ギルドの職員はぼそりとこう言った。
「しかし‥‥。何故、お前の兄貴は眠り続けているんだ‥‥?」
「原因はわかりません‥‥。でも、確か‥‥。眠り始めたのは、この間の霧の晩に、綺麗な男の人の影を見た時からのような‥‥」
 寝ぼけていたのだろう。あまり記憶が定かではないと言った調子のエルフの少年。どうやら話は、一筋縄ではいかないようである‥‥。

●今回の参加者

 ea0681 カナタ・ディーズエル(27歳・♂・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea3385 遊士 天狼(21歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4127 広瀬 和政(42歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5153 ネイラ・ドルゴース(34歳・♀・ファイター・ジャイアント・モンゴル王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9037 チハル・オーゾネ(26歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 話を聞いた冒険者一行は、ひとまず依頼人の家へと向かっていた。
「しかし、男を見て眠り病にかかるとは‥‥。なんとも微妙な‥‥」
 ベッドの上では、エルフの青年がいる。それを見るなり、ため息しかりのカナタ・ディーズエル(ea0681)。まだ清純な美少女が眠りについたままとゆーのなら、それなりに納得も出来ようが、いかに美麗とは言え、大の男がそんな姿になっていれば、どうにかした方が良いと思うのも、道理と言う奴であろう。
「あーあ。兄さん、また捕獲してる‥‥。ほらほら、それは抱き人形じゃないよ」
 弟くんの方が、ぶつぶつとそう言いながら、彼が抱え込んだ遊士天狼(ea3385)を連れ戻そうとする。が、あまり力はないらしく、上手く行かない。
「どれどれ、あたしに任せな」
 それを見たネイラ・ドルゴース(ea5153)、寝言ほざく青年を、ベッドの端へと叩き込み、天を強引にひきはがしていた。
「どうでも良いんだが、この場でその格好は止めろ。子供の教育上良くない」
 そんな彼女に、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)がぴしゃりとそう言った。思った事ははっきりと口にする性格の彼女、若い未婚のお嬢さんが、半裸でうろうろしているのが、我慢ならなかったらしい。
「そうか? この方が動きやすいんだが」
 ぶつぶつ言いながら、とりあえずバックパックに納めていたマントを羽織る彼女。が、動く度に見えそうになっているので、弟君の方は、目のやり場に困って真っ赤になってしまっていた。
「着るならちゃんと着ろ‥‥。だから、こう言うアホが増えるんだ‥‥」
 そう言うと、ガイエルはもじもじとしていた弟くんを捕まえて、『ちょっと聞きたい事がある』と、皆に知られないよう別室へと連れ込んだ。
「つかぬ事を聞くが。貴殿の兄上はその、女子より男の方が好みでは無いか?」
 怪訝そうな表情を浮かべる彼に、そう尋ねるガイエル。と、弟君は一瞬目をぱちくりとさせたが、こう答えてくれた。
「好み‥‥て言うか、女の人が苦手みたいです。ほら、よくいる女嫌いって奴。アレです」
 なんでも、昔女性に酷い目にあい、それ以後、『女は怖い』と口にするようになったとか。
「なるほど‥‥、それなら、つじつまは会う‥‥」
 納得した表情のガイエル。カナタが「どう言う事だ?」と尋ねると、彼女はこう答えた。
「いや、インキュバスの仕業ではないかと思ったのでな‥‥」
 考えすぎなら良いのだが‥‥と、そう続けるガイエル。それを聞いたチハル・オーゾネ(ea9037)が、おずおずとこう言った。
「あのー、思ったんですけど、情報があまりにも少なすぎますし、ここは1つ、そのにゃんこと‥‥それから、その占い師さんを探してみた方が、良いと思うんですけど」
「そうだな。考えすぎならば良いのだが、まずは猫を捕まえてからの話だ」
 ここに居ても、寝ているエルフの姿を眺めているだけになる。それならば、街へ出て、情報を集めた方が有意義と言うものであろう。
「あたしはここに居るよ。こいつを眠らせた奴が、再び姿を見せるかもしれないからね」
「‥‥手は出すなよ」
 1人、居残る事を告げたネイラに、ガイエルはそう釘を刺すと、他の面々と共に、姿を消した猫と占い師の行方を探しに行くのだった。

 キャメロットの街には、昼でも夜でも、どこかに人がいる。そんな彼らに話を聞くべく、一行は手分けして、情報を集めていた。目的地は、武闘大会近くの酒場や露店等である。
「聞いた話によると、電撃猫が現れるのは、このあたりを歩いて、一時間かかるかかからないかって言う範囲で、出没しているらしいですよ。それと、白い猫さんと、黒い猫さんがいるそうです」
 手製の地図に丸をつけながら、そう話すチハル。それを見て、カナタは『ふむ』と顎に手を当てた。
「2匹いると言うわけか‥‥。だが、これを見ると、行動範囲は普通の猫と変わらないな。街の連中は、なんと言っていた?」
「行動は猫だから、構わなければ、被害は少ないと思うと言ってましたわ。そうそう、名前は『サンダービースト』と言うらしいです」
 つまり、触ろうとしたり、捕まえようとしたりしなければ、電撃を食らう事もないと考えていたようだ。
「襲われたツアー客に聞いてみたが、やはり皆猫派だ。そして、あの話を吹き込んだ占い師は、猫が出没する様になってから、営業を始めたらしい」
 そして、青年が眠りにつくと同時に姿を消した。と、そう報告するガイエル。ここまで状況が揃うと、疑わしいを通り越して、真犯人めいてくる。
「普通の猫と同じか‥‥。だとすれば、捕獲はそれほど難しい手段ではないな。後は、占い師だけだな‥‥」
 そんな彼女の結果を聞いて、カナタはそう言った。今のところ、その占い師は、まだ出没していない。夜になれば、また話は変わるだろうが。
「どう考えてもなんか怪しいよね〜‥‥。ん〜、猫さんを奪おうとしてる悪人さんじゃないといいんだけどな〜」
 チカ・ニシムラ(ea1128)がそう呟くが、ガイエルが聞いた占い師の風体を考えると、良い人ではなさそうだ。
「ついでに綺麗な男の人の影ってどんな感じの人なのかな? ちょっと気になるんだけど」
「あのね、エルフの兄ちゃの話だと、綺麗な兄ちゃが現れるのは、霧の深い夜なんだって。電撃にゃんこは、昼霧は関係ないみたいだけど、だいたい夜に現れるみたいだよ」
 彼女の問いに、天ちゃがそう報告してくれる。弟に聞き出した事を元に、幼顔に見えるのを利用して、にゃんこの出現時間や場所等を、聞き倒した結果だ。
「霧の夜か‥‥。うーみゅ。そういえば以前に霧の中に出たデビルがおったのー」
 と、それを聞いて、占い道具をいそいそと用意しつつ、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が以前おきた事件を話してみせる。
「どうも状況から見るに、何かの目的でサンダービーストを狙っている奴が、にゃんこを捕まえるために、依頼主の兄上に何かの呪いをかけておいて、起こすにはにゃんこの電撃がいいなどと吹き込んだのではないかという気がするのじゃ。依頼人の記憶があいまいなのも怪しいのじゃ」
 水晶玉を覗き込みつつ、彼はそう言った。
「だとすれば、猫を捕まえた際に、何らかの行動を起こすだろう。そこを押さえれば良い話だ」
 彼の占い結果に、頷く広瀬。
「どっちにしろ、相手の行動がにゃんこなら、すぐ捕まえられそうだねっ☆」
 天ちゃがとても嬉しそうに言う。
「そう上手く行くと良いがな‥‥」
 電撃の事をすっかり忘れている風情の彼に、カナタは苦笑しながら、厚手の手袋を用意させるのだった。

 電撃にゃんこことサンダービーストの捕獲は、夜に行われる事になった。理由は色々あるが、その方が電撃が目立つとか、夜行性だからだとか、聞き込みの結果を踏まえての措置である。
「あんな簡単なもので、大丈夫なのか?」
「動きを止めれば良いだけだ。それに、傷つけるのも問題だろうし」
 ガイエルの問いに、カナタはそう言いながら、罠を用意する。それは、木の棒に籠をかぶせただけの、ごく簡単なものだ。
「でも、できれば罠なんか使わずにお友達になりたいな〜。猫さん抱けないかな〜?」
 その様子を見て、チカは少し口をへの時にまげなから、指を口元に当て、首をかしげている。まるで、おいしそうなクッキーを前にした時の様な姿に、ガイエルが「痺れるから止めておいた方が良いと思うぞ」と忠告していた。
「ん〜、とりあえず猫さん達が好きそうなので気を引いたら、来てくれないかな〜?」
「そう思うなら、チカ。あの餌を頼む。福袋で引いてきた、猫の好きそうなアレだ」
 のほほんとそう言った彼女に、カナタがあるものを要求した。
「あ、わかった。アレだね☆」
 そのチカが、バックパックから取り出したのは、ケンブリッジの福袋で当てた、不思議なマタタビである。しかし、猫の姿はおろか、鳴き声も聞こえない。
「もっと強くておいしそうな匂いを出せば、きっと遊びに来てくれりゅと思うの」
「そう思って、これを用意してみたんだが」
 天の言葉に、ガイエルが差し出したのは、干した魚の保存食。どうやら、それを焼けと言う事らしい。
「鼻が曲がりそう‥‥」
 焚き火にかざされるそれに、他の面々が鼻を押さえている。いぶされた魚は、見た目にもはっきりと分かるほど煙を上げ、近所の猫達を呼び寄せてしまっていた。だが、サンダービーストの姿は無い。
「どこかに隠れてるかもしれないよ。だって、彼らはとーっても臆病なんだって、兄ちゃ達が言ってたもん」
 天ちゃがそう言った。その手には、お手製の白ふわ猫じゃらし。
「えぇと、撒き餌撒き餌‥‥っと」
 おもむろに彼がばら撒き始めたのは、保存食として作ってあった鰹の干したものである。
「そっか。それで釣ればいいんだね」
 その姿を見て、チカが持っていた魔法少女の枝を、下向きにし、猫じゃらしの様に振り始めた。と、積み重なった壷の内側から響く、別の猫の声。どうやら、現れた様だ。
「みゃあぉ〜」
 その声を真似るようにして、鳴き真似を始める天ちゃ。
「あの、一体なにを‥‥?」
 1人、わかっていない様子のチハルが、小首をかしげてそう尋ねると、天ちゃは『猫さんとお話してりゅの』と答えてくれる。それが功を奏したのか、白いサンダービーストが壷から出てきた。
「えぇと、くれぐれも驚かせないようにして下さいね。下手に挑発とかしたら、元も子もありませんので‥‥」
 そのバチバチと派手な音を鳴らす姿に、多少びっくりしてしまったのだろう。ガイエルの後ろに隠れながら、チハルがそう忠告するのだった‥‥。

 電撃猫を上手い事捕まえた冒険者達は、それをカナタのマントで大切そうにくるむと、依頼人の家へと向かっていた。
「おやおや、守備良く猫を手に入れたようだねェ」
 その途中、濃い霧の向こう、ちょうど依頼人の家の影から現れる、身長1m程の、小柄なローブ姿の男。
「お前か‥‥占い師と言うのは‥‥」
 今まで、猫探しには関わっていなかった広瀬が、表情を厳しくする。人相風体は、弟が目撃したと言う男そっくりである。おそらく、彼に余計な知恵を吹き込んだ奴に間違いないだろう。
「何者だ? あんた」
 同じく、ずっと弟くんと一緒に居たネイラも、彼を後ろに隠し、占い師を睨みつける。
「誰だって良いだろ。ま、霧の中から現れる奴っつったら、だいたい分かると思うけど」
 そのセリフと共に、霧が濃くなった。よく見れば、ローブの内側から立ち込めている。彼自身が発している様な印象を受ける。その光景に、ユラヴィカがはっとした表情になった。
「おぬし、もしやこの前の!」
 以前、マーメイドの怨恨にかこつけて、事件をややこしくしたデビルがいた事を思い出したのだ。ところが、その占い師は、くくく‥‥と、不気味に笑いながら、こう言う。
「あんなのといっしょにしないでくれよ。まぁいいや。猫は一匹じゃあない。兄弟を奪われた猫が、どう思うかだねェ」
 ぱちりと指を鳴らす。と、どこからともなく、「みゃあお・・・・」と猫の鳴き声と、バチバチと言う放電の音。
「もう一匹居たのか!」
 カナタが、白猫を捕まえる時に聞いていた事を思い出して、悔しげにそう言う。と、占い師は、そのしわだらけの腕を、彼らに向け、こう言った。
「さぁ、兄弟を取り返しておいで」
「ふぎゃああっ!!」
 放電が大きくなる。そして、そのまま地を蹴り、冒険者たちへと飛びかかろうとした。
「やめりゅの! 天ちゃと猫ちゃはお友達なの!」
 白猫を庇う天ちゃん。しかし、黒猫は、魅了されているのか、構わず引っかこうとする。
「いけません!」
 そこへ、チハルが再びスリープを叩きこんだ。専門レベルのそれに、猫はあっさりと陥落する。
「天、怒ったの! 電撃にゃんこをいじめりゅわりゅい子は、『めっ』すりゅの!」
 目の前で、『友達』を狙われた天は、そう言うとごそごそと懐をまさぐり、丸めた薬らしきものを、占い師に向かって投げつける。
「ふぐっ!?」
 その丸薬らしきものは、あまり投げに自信が無い天の腕でも、問題なく入ってしまう。
「特製の気付け薬だぉ! 苦いだろー」
 えっへんと自慢げな天ちゃん。ごっくんと飲み込んでしまった占い師‥‥いや、デビルくんは「うわー、げろまずだよー。うえーん。お方様ー」と、げふげふ咳き込みながら、姿を消してしまう。
「なんだったんだ。いったい」
 眉根をしかめたままのガイエル。大きな口をたたく割には、苦い薬らしきもの一発で引き下がるあたり、大したデビルではなかったのだろう。
 残るは、エルフの青年のみである。

 そして。
「広瀬! コイツを使え!」
 浪々と響く、ガイエルのバーニングソード。それは、広瀬和政(ea4127)の刀に、魔と闘う力を与えてくれる。しかし、インキュバスはそれでも笑っていた。
「俺はデビルとしての役目を果たして居ただけさ。もっとも、もうすぐアレが動き出すだろうけど」
 まるで、何か‥‥巨大な陰謀でも動くような口ぶり。そんなインキュバスに、広瀬は素早くサイドステップを踏み、刀を横薙ぎに払う。
「ぐぁぁ・・・・っ・・・・! ・・・・様・・・・!!」
 胴を分かたれた魔の下僕は、何か‥‥言葉にならないセリフを残し、元の闇へと戻るのだった。

●コミックリプレイ

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