●リプレイ本文
あれこれ相談の結果、まずは、プレゼントの中身を買いにいこうと言う事になった。
「おっかし、おっかし☆ 美味しいおっかし☆」
うきうき気分のニーナ・ブリューソワ(eb0150)。買うのは教会へのプレゼントだと言う事を、すっかり忘れ切っている。
「あなたの頭の中には、食い物しかないのー?」
「だって〜。子供が喜ぶものって、甘いものとかだったら、無難じゃない」
ナスターシャ・ロクトファルク(ea9347)がじとっとした目で、即座にツッコミを入れる。やけに弁が立つニーナをいぶかしみつつ、彼女はさらにこう言った。
「いや、世の中には、甘いものが苦手な連中もいると思うけど。レインボーリボンだとか、そう言った綺麗なものの方がいいわよ。絶対」
「えぇー。私、お菓子が良いのっ」
じたじたじた。駄々っ子の様に、頬を膨らませる彼女。
「お嬢様が食べるんじゃないんでござるよ‥‥」
「ぎくっ」
神裂楓(ea9878)が、やや肩を落としながら、そう言うと、ニーナは後ろ頭に冷や汗を浮かべながら頬を引きつらせ、二・三歩後ずさってしまう。
「食べる気満々だったわね」
「な、何のことかなぁ。あ、アレなんか良さそうかも☆」
図星を突っつかれたニーナ、くるっと回れ右をして、見回した中で、一番高そうな店に、びしぃっと人差し指を指し示す。
「高そうな店でござるなー」
「老舗そうではあるわね。よし、入ってみよう」
幸いな事に、雑貨屋の並んだ一画にあったその店は、ナスの御希望にもかなったらしい。ほっと胸をなでおろすニーナをよそに、3人は殆どショッピングを楽しんでいる女学生そのまんまの姿で、店へと入って行ったのだが。
「わぁ、可愛い〜」
並ぶきらびやかな小物に、ニーナは今までの不機嫌さはどこへやら、目を輝かせてそう言った。
「ふむ‥‥。確かに出来は良いが、多少高いでござるな。もう少し何とかならないでござるか?」
「こちらは逸品ものですからねぇ。御予算が厳しいと言うのであれば、こちらはどうでしょう」
値札を見ると、彼女達がまとめ買いをするには、少々予算オーバーだ。楓が、出てきた店のお兄さんを相手に、値下げ交渉をもちかける。と、向こうも手馴れたもので、そう言うと、小さなローズキャンドル付の、色とりどりのリボンを出してきた。
「これなど、お手頃かと。柄も、お嬢様方にぴったりですよ」
「いや、拙者は‥‥」
店員は、楓が身に着けるものと、すっかり勘違いしてしまった様子。困惑した表情の彼女に、ナスが助け舟を入れる。
「プレゼント用なの。10本まとめて買うから、もう少し安くならない?」
「そうですねぇ‥‥」
少しだけなら、融通が効きそうだ。店員の様子に、そう確信した楓、ここぞとばかりに、瞳を潤ませる。
「ジャパンから、わざわざここまで来たのだが、実家には、15を頭に私の帰りを待ちわびているのでござる。せめて、多少なりとも元気な証を送りたい」
「1、2本分ぐらい、構わないでしょ? ね☆」
それにあわせるように、ナスもおねだりの表情。腰の辺りでは、ニーナがごろごろと、猫のように喉をならしている。
「ここで安くしてくれるなら、友達に、このお店が良いって宣伝してもいいんだけど」
だめ押しの様に、ナスがそう言った。ニーナの行為に、なんだかんだと文句をつけちゃあいるが、子供達に喜んでもらおうと、必死にようだ。
「分かりましたよ。お嬢さん方には勝てませんね。じゃあ、2本はオマケって事で。その代わり、御学友にしっかり宣伝してくださいよ」
「「「はぁーい☆」」」
店員が、首を縦にふって、プレゼントを包んでくれる。それを受け取った3人は、かなり余った予算を手に、オマケのお菓子購入に走るのだった。
その頃、御馳走と男の子向けプレゼントを調達しに行った組はと言うと。
「後、9Gですか。プレゼントにお金を回せるように、御馳走用のニワトリは、出来るだけ安く、美味しい物を選びたいですね〜」
市場の食料品を売っているあたりで、周囲を見回しながら、教会に供されるニワトリを探すユエリー・ラウ(ea1916)。
「一番安いのは、直接生きてるトリさん仕入れる事だろうけど、〆られる人がいないのよねー」
近所の牧場から、手数料無しで仕入れた品が安いのは、学食でも証明されている。が、残念な事に、今の面々には、料理に詳しい人間がいなかった。
「まぁ、そこまで無理をする事はないと思います。仕入れたら、氷で包んでしまえば良いのですよ」
「そぉね。その方が腐らないしね」
エルネスト・ナルセス(ea6004)の提案に、頷くミス・パープル(ez1011)。幸いな事に、彼はアイスコフィンが使える。買ったお肉の時間を止めておく事は出来そうだった。
「さて、では美味しいニワトリのお肉を、知っている人はっと‥‥」
あとは、中身を手に入れるだけ。そう呟いたユエリーが、目を付けたのは、道端で井戸端会議に興じている、近所のおかみさん達だ。
「なるほど。毎日台所に立っている彼女達なら、観察眼も確かと言うものか‥‥」
そのまま、店の情報を仕入れに行くユエリーを見て、ジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)が感心したようにそう言った。と、しばらくして、一通り話し終えた彼、皆のところへと戻ってくる。
「どうやら、近くにあるみたいです。あ、ついでに珍しい品物がおいてある店も聞いておきましたよ。なんでも、そう言った妖しげなお店は、裏通りの方にあるとか」
「ふむ‥‥。裏か‥‥」
探すモノも、裏通りにあると聞く。行ってみようと思うジラ。
「いやぁ、一口に市場と言っても、色々なお店があるようですね。まずはそこへ行って見ましょうか」
「そうね」
そんなわけで、一行は教えられた通り、安売りの食料品店が並ぶ界隈へと向かったのだが。
「あそこが良さそうです。ちょっと行って来ますね」
まだ、夕食の時間には早すぎるその店には、人もまばらだ。そんな中、出来るだけ人の多い店を選ぶユエリー。
「ばぁちゃんのクッキー、今だと、40C。カンタベリーから直輸入、ノルマン製のハーブをたっぷりと使ってるんだって。買わないと損だよ」
店番を頼まれたのだろう。目指す店では、まだ少年と言っても良い年頃の若者が、近所のおかみさん達を相手取り、必死で売りさばいている。
「すみません、これ、3個で1Gになりませんか? 量を買うんで、オマケして欲しいんですけど」
「え、え‥‥。でも‥‥」
そんな彼女達にまざり、エルネスはそう切り出した。お金を貰うのに一生懸命だったその店員は、思わぬ申し出に、すっかり戸惑ってしまっている様子。
「あらあら、ダメよ。そんな可愛いお店番に、無理難題を言っちゃ」
「顔が緩んでるぞ」
ジラにそう言われ、パープル女史は「をほほほほ。何のことかしら。そう思うなら、手助けしてあげなさいな」と促した。
「仕方がないなー」
上着を外し、本日の戦闘装束たる神父服を晒しながら、ジラは「け、けど。ちゃんと正規の値段で売らないと、親方が‥‥」だとか、「安くても量を売る。これも商売ですよ☆」などと交渉と言う名の値切りを、熱く続けているエルネスの所へと乱入する。
「小さな店主殿、日頃教会で人々の安寧を祈り捧げる神父様や、孤児達の為に、目に見えぬ御奉仕をいただけませんか?」
「あ‥‥」
口調こそ丁寧だが、言ってる事はエルネスと同じく、要は『安くしろ』である。彼と一番違うところは、店員の手を柔らかく包み込み、瞳を覗き込むように顔を近づけている仕草だ。
「神への奉仕で不足なら、どうかお願いします。私の為に」
優雅に、かすかな色を漂わせて。その手の甲に、軽く口付けるジラ。
「‥‥わかりました。少しだけなら‥‥」
誘惑耐性はまったくついてなかったらしく、ぽぽーっと頬を染めてしまった店員くん、あっさりと陥落する。結果、エルネスの言い値になった。
「ついでに、これも頂きたいんですが。そうですね、さっきのキス代に、手羽先分くらいは、安くしてくれると、大変ありがたいのですが」
「‥‥は‥‥はい‥‥」
頃合を見計らい、ユエリーがニワトリのお肉を持ち出した。すっかり上せてしまった少年は、そのまま要求どおり、安く上げてくれる。
「まぁ、ざっとこんなもんだ」
「あーあ、かわいそうに。詐欺じゃないの。知らないわよ〜」」
パープル女史に突っ込まれても、顔色の変わらないジラ。しかし、両手に荷物を抱えたままそう言っても、あまり迫力はない。
「ふん。偽善とは芸術だ。とやかく言われる筋合いはない。俺の知ったこっちゃないな」
「本当に偽善者ですねー」
きっと、今頃は家庭内紛争が勃発しているかもしれないが、手に入れるものを入れた彼にとっては、それこそどうでもいいことなのだった。
そんな感じで、皆の協力もあったおかげで、買い出しは、かなり予算を残して、物をそろえる事が出来た。
「さて、必要なものは、こんな感じでいいですか?」
「ええ。助かったわ、ありがとう。後は、送ったから、遊んでて平気よ」
その余分な分は、皆で分担して運ぶはずだったその荷物を、頼んで届けてもらう事が出来るくらいの金額だ。
「そうですか。じゃあ、お言葉に甘えて、ちょっと本でも読みに行ってきます」
「すいません。私もついて行っていいですか? 美味しいハーブ店は、確保しておきたいんで。家内安全の為に」
ユエリーは、美味しいハーブティを出してくれる貸本屋があるとかで、そちらに向かうようだ。で、奥さんのご機嫌を取っておきたいエルネスも、場所を教えてもらうつもりらしい。
「良いですよ。先生も行きますか?」
「そぉねぇ。邪魔じゃなかったら、ついていかせてもらうわ。何か新しい本が入ってるかもしれないし」
誘われて、乗り気になるパープル先生。
「私達も買い物に行こうよ。さっき、珍しいお菓子のお店が、新しく出来たって話、きいたんだ」
一方のニーナはと言えば、いつの間に店情報をゲットしたのか、嬉々とした表情で、2人を誘い出そうとしている。
「えへへへ。ナイショ☆ なんでも、お砂糖を使った、ジャパンの珍しいお菓子を仕入れてるお店なんだって。楓、どんなのか分かる?」
「ふむ‥‥。飴なら甘いものと決まっているでござるが‥‥。ジャパンからの輸入品は、ここいらの5倍から、20倍は金がかかるでござるからなぁ‥‥。拙者が聞いたのは、郷土料理の店でござる。せっかくでござるから、3人で行って見るでござるか?」
高すぎて諦めた事があるらしい楓の提案で、彼女が見たと言う、郷土料理のお店へと向かう彼女達だったのだが。
「へぇ、亀料理のお店だって。一体どんな味なんだろうね」
コメカミを引きつらせる楓とは対照的に、興味津々のニーナとナス。
「さ、さぁ‥‥。拙者も、こう言う店は始めてござるから‥‥って、お嬢様! 勝手に入ってはダメでござる」
彼女が二の足を踏んでいる最中に、いそいそと店の暖簾をくぐってしまう。
「え? だって食べるんでしょ?」
「そ、それはそうでござるが〜」
既に店内には、強烈な臭いが立ち込めている。と、そんな彼女達の前に出されたのは、真っ赤な毒々しさ加減を持つ、いかにも強烈なお酒だ。
「やっぱりでござる〜」
「ちょっと楓?」
あまりの強烈さに、思わずうわぁぁんっとナスに泣きつく楓だった。
「うう、まだ臭いが残ってるでござる‥‥」
結局、よく煮込まれて、あまり亀だとはわからなくなった、初心者でも食べやすいシチューを堪能した3人。が、最初の血酒が、まだ頭に焼き付いているのか、楓は浮かない表情で、上着の臭いを気にしている。
「まぁまぁ、機嫌直して。林檎の蜂蜜漬けでも食べに行こう」
「うう、そうするでござる〜」
ナスの提案で、甘いもので口直しをしようと言う事になった。今年の林檎は美味しいらしい。さぞかし女の子で賑わっている事だろう。
「あれ? 今の、ジラさんじゃない?」
「そうだね。どこ行くんだろう」
そんな中、神父服のまま、裏通りにある雑貨屋へと向かおうとするジラを見つけるニーナ嬢。
「ニーナ! 待ちなさいよ! 尾行なんて失礼でしょ」
「ばれなきゃ平気だって!」
今は先生いないしー。と、ナスの手を振りきって、彼女はジラの行き先を確かめようとする。彼が入って行ったのは、とあるアンダーグラウンドな彫金の店だ。手に取った誓いの指輪は、通常男女のもののそれが、若い男2人に変更されている。
「一体何買ってるんだろう。まさか、恋人への指輪!?」
なにやら、交渉しているらしい。じろりと睨まれて、震え上がっている店員の姿に、ニーナは興味深々だ。
「別に人が何を買おうと勝手でしょ。ほらほら、行くわよ」
「うわぁぁん、ひきずって行くなぁぁぁ」
が、ナスに首根っこを掴まれて、そのままお外に出されてしまう。
「ナスターシャ殿、あまりお嬢様を小動物扱いしないで欲しいのだが〜」
「はいはい。さっさと行くわよ」
後ろで、楓がおろおろしながら、止めようとするが、どこ吹く風だ。
「お仲間かい? それとも‥‥」
「黙れ」
やっぱり気付いていたジラ、店員に突っ込まれて、不機嫌そうにそう答えた。
「覚えておけ。喜ぼうと悲しもうと関係ない。俺が贈りたいから贈る。そういうものだ」
バレンタイン精神とは、かくあらん。そう考え、指輪を納めるジラだった。