【入学式】度胸試しの壷ルーレット
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■ショートシナリオ
担当:姫野里美
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月18日〜04月23日
リプレイ公開日:2005年04月23日
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●オープニング
梅は咲いたか、桜はまだかいな‥‥と言うのは、ジャパンの誰だかが詠ったモンではあるのだが、花を愛でる心とゆーのは、イギリス人も変わりない。と言うわけで、毎度おなじみケンブリッジスパイ養成クラス、ミス・パープルの元では、新入生歓迎の為、あるイベントが企画されていた。
「用意したのは、これで全部ね?」
パープル女史が手にしているのは、良く似通った壷である。数は6個。それがテーブルの上に綺麗に並べられていた。
「はい。ぶどう酒も、市場からせしめてきましたぁ」
セッティングを手伝っている受付嬢の腕には、前の年の秋に仕込んだぶどう酒の樽がある。
「けど、一体何をやるんですか?」
「ルーレット・ゲーム☆」
怪訝そうに尋ねる受付嬢に、パープル女史はいかにも彼女のクラスらしく、紫の花を飾りながら、そう答える。
「あら、楽しそうですね」
「なんでも、どこかのお国では、幾つかの食べ物だか杯だかの中に、一つだけ不味いものを混ぜて置いて、それを引き当てたら負けって言うゲームがあるそうなの」
度胸試しの為、酒場で時折行われているらしいの。と続ける彼女。
「そんなものがあるんですか」
「スパイたるもの、強靭な精神力が必要でしょ。それで、歓迎パーティの時に、余興の一つとしてやってもらおうと思ってね。あ、もちろんセンパイ諸氏が、新入生に度量を示す為にやるのもOKよん」
だから、こう言うセッティングにしたんだ‥‥と、パープル女史のセリフに、納得する受付嬢。円形に並べられたそれには、壷ごとに、装飾の施されたカップが置かれ、華やかな印象になっている。
「なるほど。でも、不味いものって、何用意したんです?」
「うーん。正直、食べ物を粗末にするのは良くないと思ってねぇ。食べ物の変わりに、こんなものを用意して見たわ」
パープルが取り出したのは、置かれた壷とそっくりの壷である。
「壷‥‥?」
「名工ヒノミ・メノッサ様作、禁断の壷〜♪ マジカルシードから、借りてきちゃった☆」
うふふふっと含み笑いを漏らす彼女。その壷に注がれた甘い濃厚な酒を飲むと、脱いでしまうとか言う噂がある壷だった。
「い、いーんですか? それ‥‥」
「壊さなきゃ良いのよ。それに、新入生歓迎と、スパイの度量を試す為だもの」
彼女のテーブルには、どこから仕入れたのか、スゥィート・ベルモットの小さな樽がある。
「と言うわけで、度量を示してくれる新入生及び先輩諸氏、大募集ッ! あ、他の中身は、何もしなければ、普通のお酒だから、ぶっ倒れたりはしないわよ☆ 何もしなければね☆」
「かわいそうに‥‥」
犠牲者が多発しそうなその光景に、受付嬢はこっそりと冥福を祈るのだった。
●リプレイ本文
さて、話は当日の早朝に始まる。
「んふふふ〜♪ 当たりは多い方が楽しいよね♪」
すっかりセッティングの済んだテーブルで、何やら仕込んでいる、チカ・ニシムラ(ea1128)と、常葉一花(ea1123)。
「どれがノーマルの壷か、わかるの?」
「あ、良く考えたら、どれがどれだなんて、わかんないや‥‥」
一花にそう言われ、はたと気付くチカちゃん。
「任せて。確か‥‥あの壷は『いい』ものでしたわね‥‥。ふふふ♪」
彼女が、何を意図しているのかわかった一花は、そう言うと、チカの持っていた禁断の壷に、パープル女史が置いて行った、スゥィート・ベルモットを注ぎ込む。そして、いったんそうやって注いだ酒を、他の壷にも混ぜて行き、結局全ての壷に、スイートベルモットが注がれてしまった。
「混ぜちゃうの? 貴重なお酒なのにー」
「こうすれば、すべてが禁断の壷仕様に‥‥☆ 楽しいパーティになりますわよ。うふふふふふ」
自分が考えて居るのより、さらに騒ぎを大きくしようとしている一花の姿に、ちょっぴり引いてしまうチカちゃんでした。
新入生歓迎パーティと言っても、やる事は何も宴会ばかりではない。マジカルシードでは演劇が組まれているのと同様に、フリーウィルでも、歓迎の為の余興が行われていた。
「それでは、次は在校生による歓迎の踊りです。華麗なる舞、どうぞ、御堪能下さい」
パープル女史が飾った紫の花を一輪手に取り、歓迎会の司会進行を進めているユエリー・ラウ(ea1916)。以前、練習試合の司会も勤めた事があるので、このあたりは手馴れたものだ。
「ミカエル・クライム。参ります☆」
一礼して、ミカエル・クライム(ea4675)が魔法を発動させる。ファイヤーコントロールを唱えた彼女は、手に持ったたいまつから躍り出る炎を、自在に操って見せた。そして、アッシュエージェンシーを唱え、分身に、ステージ上にあった的を持たせると、次はファイヤーバードの魔法を唱える。見事な炎の舞に、割れんばかりの拍手がなった。
「緊張の焔舞の後は、ビザンチン帝國の民族舞踊で、和やかにお楽しみ下さい☆」
舞台袖に消えて行くミカエルに変わって、緑色の礼服に着替えたユエリーが、余興の民族舞踊を披露する。
(「ふふふ、先輩としての手腕を見せるには、充分かな☆」)
彼が、パープルクラスの象徴である紫色の花を持って舞うのを眺めながら、ミカエルは自信たっぷりにそう思うのだった。
先輩諸氏の余興が終わり、生徒達は思い思いのテーブルにて、会食となった。テーブルの上には、誕生日の近い一花のつてで、誕生日用特別料理と、お菓子が並べられている。そんな中、今回のメインイベント、禁断の壷ルーレットが始まっていた。
「それじゃ、一回目、回しまーす」
チカが、楽しそうにくるくるとテーブルを回す。新入生達がごくりと喉を鳴らす中、その動きがぴたりと止まる。テーブルに示された矢印の先に居たのは。
「あれ、あたし?」
なんとチカちゃん本人である。
「はーい。それじゃ、飲んでもらいましょうか〜」
不気味な笑いを浮かべて、杯を差し出すパープル。そこには、とろりとした甘い香りのする液体が、並々と注がれている。
「こ、こう言うのは勢いだよね♪ チカ・ニシムラ、いっきまぁす!」
やや緊張した面持ちをしながら、チカちゃんは、その液体を一気に喉に流し込もうとした。
「げほっ。がほっ」
「あーあ。そんなにいっぺんに飲むからー」
だが、一口目で咳き込んでしまい、一花に背中をさすられている。
「これはお姉さんが預かるわ。チカちゃんは、こっちのローズヒップティーにしようね」
「はぁい」
そんな一花から、赤いハーブティを渡されて、大人しくそれを口にするチカちゃん。と、そのカップを持って、彼女が向かったのは、パープル女史の所。
「と言うわけなので、先生。チカちゃんの変わりに飲んでください」
自分に矛先が回ってくるとは思わなかったらしく、一花にカップを差し出され、一瞬固まってしまう彼女。
「って、一花お姉ちゃん。それって‥‥」
しかも、途中でカップが変わっている。だが、彼女はキャラクター性上、呑まないわけに行かないらしく、止めようとした東雲辰巳(ea8110)を制して、それを一息に飲み干していた。
「って、これ違う酒りゃないのよー」
「あら、そうでしたかぁ?」
味が違う事に気付いたパープル女史、カップを置いて一花に詰め寄ろうとするが、タイミングが一瞬ずれてしまったらしく、するりと逃げられてしまう。
「逃がすか! 東雲! 捕まえなさい!」
「おう」
高みの見物を決め込もうとした彼女を、パープル女史に命じられた東雲が捕まえる。
「当たり前よう。あらしをなんらと思ってるの? 罰よ。あんらもろみなさい」
乾いた笑いを浮かべる彼女に、杯が無理やり押し付けられた。
「ほーら、美味しいれしょ?」
「そうれすねぇ。美味しいれすよぉ」
が、そこまでは、一花とて『想定の範囲内』とかいう奴だ。
「何か一花ちゃん。目が据わって‥‥」
「せんせぇも一口どぉぞ」
チカちゃんが、思わず実況中継をしてしまっている。そんな中、酔っ払った一花が行ったのは。
「あー。一花お姉ちゃんが、パープル先生にちゅーしてるー」
勢いと言うものは恐ろしいもので、一花、カップから含んだ酒を、口移しにパープルの喉に流し込んでしまったのだ。
「おおおおお前ッ! 大それた事をっ!」
「おかえしですわ☆」
慌てふためく東雲の前で、一花は平然とした表情を浮かべている。
「ひっく‥‥。あら、なんか皆が増えて見える‥‥?」
「ったく‥‥。調子に乗って、急に飲み過ぎるからだ。ほれ」
それほど、酒の強い方ではないパープル、へたり込んでしまう。そんな彼女に、東雲が水を差し出していた。
「うるひゃいわねー。いいりゃないのよぉー」
ぶつぶつと何事かぶちまけつつ、その水をくいっと飲み干すパープル女史。が、文句は止まらない。
「わかったわかった。続きはベッドで聞いてやる。覚悟は良いな?」
そのパープルの顎をくいっと持ち上げ、低い声音であらん事を口走る東雲。良く見ると、彼が持っていた壷も、すでに空っぽである。どうやら、彼もすっかり酔っ払っているようだ。
「私、しーらないっと☆」
きっかけを作った一花はと言えば、知らん顔である。
「お前らなぁ! 新入生の手本となるべき教師と在校生が、へべれけになってどうする! だいたい、新入生に示しがつかんだろうが。お前ら少し、夜風で酔い覚まししてこいっ!」
そこへ、例によって例の如く、途中から乱入したエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が、雷を落とすのだった。
ところが、戻ってくると、エラい事になっていた。
「あ、せんせー。ミカエルお姉ちゃんが大変なのー」
パープルの姿を見るなり、チカちゃんがそう言いながら、駆け寄ってくる。
「って、エルンストはどうしたのよ」
「新入生のお世話で、手が離せないんだってー」
残していた筈のエルンストを見れば、無理して大騒ぎをした新入生に、水を飲ませたり、倒れてしまった者に、用意していたマントや毛布をかけたりと、奔走している真っ最中だ。
「頭痛‥‥。で、何が大変なの?」
「あれ」
チカちゃんが指し示した先には。
「256番、ミカエル・クライム。またまた歌いまぁす☆」
調子っぱずれの歌声を垂れ流しつつ、上機嫌で炎の舞をご披露していた。
「何、やったのよ」
「お酒はどれも同じだからって、壷の中身、皆飲んじゃったの」
頭を抱えるパープル先生の姿に、してやったりと言った表情のチカと一花。
「あー、熱いー。熱いよー」
そうこうしているうちに、ミカエルは酔いが回ったのか、上着に手をかける。
「こらっ! そこの新入生っ! 何見てんのよ! あらしの体を見れるのは、兄上だけよっ」
騒ぎが大きくなり、注目の的になっている彼女。自分から脱ごうと言うのに、見るなだの何だのと文句を付けていた。
「ふえーん。兄上〜。ミカエルはこんなに頑張ってるのにー」
挙句の果てには、突然泣き出してしまう。どうやら、完全に酔っ払って居るようだ。巻き込まれる新入生が、気の毒と言えば気の毒である。
「泣かないで。そんなに涙を流しては、兄上とて、喜んではくれませんよ」
と、そこへ助け舟を出した御仁がいた。司会を追え、会場に戻ってきたユエリー・ラウである。彼は、どさくさにまぎれて、彼女の素肌を晒した肩を抱き寄せると、ここぞとばかりに、そう口説いていた。
「ひっくひっく‥‥。うわぁーん。じゃあ付き合えー」
いや、見ようによっては、酔っ払いの面倒を見て居るだけにも見える。そんな彼に、ミカエルは手近にあった壷を、ユエリーに押し付けた。
「はいはい。分かりましたよ」
「あっ。それは‥‥」
一花が思わず声を上げる。それは、準備でチカと共に仕込んだ、禁断の壷だったからだ。
「おや、私もなんだか熱く‥‥」
「きゃははは。大当たり〜。ひっかかった〜」
ミカエルは、そんな事とは露知らず、脱ぎ始めたユエリーを見て、大喜びだ。
「おー♪ お兄ちゃんの裸げっとー♪ わざわざキャメロットから来たかいがあったね〜♪」
同じ様に大喜びなのが、仕込んだ張本人のチカちゃんである。
「ちょっと目を離したらこれだもんね。新入生がびっくりしてるじゃないの」
自分の事は棚に上げ、呆れるパープル女史。そんな彼女に、ユエリーがこう言った。
「いいじゃありませんか。仲良くするくらい。ねぇ?」
「ぱーぷりんしぇんしぇも混ざろうよ〜♪」
ろれつの回ってないミカエル、今度はそのパープル女史に、壷を押しつけようとする。
「誰がパープリンよ。あたしはもう脱がないわよ」
「んじゃあ、エルンストしぇんしぇぇが飲めー」
彼女が拒否すると、矛先はエルンストに向かった。いつもなら、そこで雷の2、3発でも落ちようものだが、今回は相手が裸の女性である。出来るだけ見ないようにしながら、少々控えめに止めに入る。
「い、いや俺は‥‥。良いから服を着ろ! 年頃の娘が、みっともない!」
「けちぃ」
その割には、鼻の下が多少緩んでいるようだが、そこはまぁ気にしないでおいてあげよう。
「じゃあ、あたしが飲んで見る〜」
ところが、エルンストが突っ返したそれを、今度はチカちゃんが飲んでしまった。
「こんらまずいものを飲ませるなんて、なんれ奴だ。ろりあえずお前もろめ」
「だから、俺は‥‥」
とたん、顔を真っ赤にしたチカちゃん、服を脱ぎつつ、手当たり次第に周囲の『お兄ちゃん』に絡み始める。むろん、勧めるのは例の壷に仕込んだ酒だ。
「むー。あたしのお酒が飲めないとでも言うの〜?」
しかも、断ると、ふくれっつらで今にも泣きそうな顔になってしまう。やる気のない声で、パープルがエルンストに催促すると、彼は驚くべき事を口にした。
「ふむ。ここまで実例を見せられると、中々興味深い現象だな」
目がきらーんと輝いている。いや、彼の杯には、殆ど手がつけられていない。むしろ、ここまで大騒ぎになるとか言う禁断の壷に、研究者魂が刺激されてしまったのだろう。
「何らかの作用が働いているのは確かだな。魔法によるものか、それとも薬物効果か‥‥。実験してみたい。パープル、おつきのそいつを借りるぞ」
「え、俺?」
で、その実験台に指名されちゃったのは、肩を出したセクシーなイブニングドレスによって来た新入生を、護衛の名の下に蹴散らしていた東雲である。
「女性だと、さすがに差しさわりがあるだろう。それとも、お前のお姫様を実験台にしたいのか?」
「い、いや‥‥。それは‥‥」
これ以上、大事なレディに肌を晒せるわけには行かない。そう考えた東雲、しばし悩んだ後、エルンストから壷をひったくる。
「と言うわけだ。飲め」
「えぇい、男は気合だ! 度胸だ! 根性だ! 反感上等だ!」
訳のわかんない気合をかけつつ、一気に飲み干す東雲。
「レディ‥‥。俺を見てくれ‥‥」
指折り数えて20秒後、どうみても、男性ストリップにしか見えない(しかも観客は約1名)姿で、思いっきり着ていた衣装を脱ぎ始める彼。しばらく前、エロスカリバーを持たせた時より、パワーアップしているようだ。
「ふむ。さっきの女性陣の騒ぎと比べると、多少効果発動が遅いようだな‥‥。壷に普通の酒では変わらなかったが‥‥。個人差があるとすれば、面白い研究材料かもしれん」
「って、レポートまとめてないで、こっち何とかしなさいよー」
ぶつぶつと何やら頭の中で、レポートを作成しているらしいエルンスト。一方、東雲のたった一人の観客(?)のパープルは、困惑した表情で、逃げ回っている。
「他にどういった確認方法があるか、各自宿題とする。思いついた奴は、順次、私の所までくるように。なお、今回は特別なので、以後、こう言った騒ぎは控える様にな」
そんな酔っ払い集団を格好の材料にして、おもむろに講義なんぞ始めてしまうエルンスト。
「やれやれ。結局うやむやになりましたか‥‥」
脱いだだけで、さほど酔っ払ってはいなかったユエリーは、今度はゆっくりと杯を傾けながら、修羅場の光景を、そうまとめるのだった。
なお、無意識のうちに片付けてしまった東雲が、壷を抱えて爆眠こいて、肝心な場面を見逃したとか、新任の小次郎先生から指導を求められて調整中になったとか、やっぱり全員二日酔いで倒れたとか、一日では騒動が終わらなかった事を追記しておく。