【基礎訓練】迷宮庭園を駆け抜けろ!

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 39 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月25日〜04月28日

リプレイ公開日:2005年05月03日

●オープニング

 イギリスの御夫人と言うのは、とかく庭の手入れが大好きな種族である。屋敷の庭を綺麗に手入れし、どこにも負けない花で飾られたガーデンを作るのは、イギリス奥様連合の、大切な任務の1つだ。ここ、ケンブリッジでも例外ではなく、雪解けの時期に合わせて、庭では徐々に花々が芽吹き始めていた。
「ラビリンス早抜け勝負‥‥?」
「ええ。今度、入学してくる生徒達の訓練を兼ねてって話でね」
 さて、話は毎度おなじみケンブリギルドから始まる。いつものように、授業の依頼を貼り付けにきたスパイ養成課担当教師ミス・パープルは、受付嬢にそう言った。
「それで、うちの担当では、こう言う事をやろうって話になったのよ」
 彼女が差し出したのは、羊皮紙に記された、基礎訓練のお知らせである。
「知り合いの勤め先に、庭木で迷路作ってる奴がいてね。離れとそこ使って、何かやろうと思って」
 庭の手入れに気合の入っている婦人達の中には、防衛を兼ねて、庭木を迷路の様に整えている者もいる。等身大のラビリンスと化している場合も少なくない。そういった場所では、時折生徒達が実習に使用していた。
「何かって何を‥‥」
「新入生をいきなりグリーンヒルのドラゴンレイクやら、ドーバーブリッジに放りこむわけ行かないでしょ。そこの庭使って、まずは腕試しに、早抜け勝負をやってもらおうって所かしら」
 まぁ、スパイ養成課のカリキュラムを考えれば、基礎訓練としては、優しいくらいのイベントだろう。そう考えた受付嬢、こう言ってのける。
「でも、けっこうあっさり抜けられちゃうと思いますよ」
「んー。じゃあ妨害役、2人くらい混ぜておくわね。捕まって、泥を塗られたらアウトって事で。後、イースター時期だし、途中に卵のオモチャを、チェックポイント代わりに置いておくわね」
 つまり、その卵を拾いつつ、妨害役の追跡をかわしながら、迷路を抜けて、ゴールを目指せと言う訓練らしい。
「そうねぇ。終わったら皆で、花を愛でながら、お昼ご飯ってのも、悪くないかしらね」
 大して時間がかかる訓練でもないと思っているのだろう。あーだこーだと食材の調達先を口にしながら、そう言うパープル女史。
「なんだか楽しそうですね。では、これは張り出しておきまーす」
 それを聞いた受付嬢が、サインをしてくれる。ほどなくして、ギルドの告知版に、こんな募集が載った。

『スパイ養成クラスでは、基礎訓練として、庭園迷路を使用して、早抜け競争を行います。新入生妨害役の生徒も同時に募集しますので、御用とお急ぎでない方は、参加してくれると嬉しいな☆ byパープル』

 語尾がファンシーなのは、本人の嫌がらせに違いない。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2059 エリック・レニアートン(29歳・♂・バード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3993 鉄 劉生(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea5420 榎本 司(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8110 東雲 辰巳(35歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8785 エルンスト・ヴェディゲン(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●悪い子はいませんか?
 その日、庭園には、朝から新入生と在校生が、ほどほどに集まっていた。新入生の中には、まだ自信がないらしく、何人かで挑もうと言う面々も多い。
(「一人の方が気楽だしね」)
 だがエリック・レニアートン(ea2059)は、そんな彼らを一瞥すると、エントリーを済ます。一通りの説明を受けた後、彼は1人で、迷宮内へと入って行った。
(「さて。あまり時間は稼げないからな‥‥。少しは歩き回らないと‥‥」)
 そんな事を考えながら、エリクはサウンドワードの魔法を唱えた。今はまだ、初級レベルしか唱えられないが、先々を確認しながら進むには、充分だ。
「ふむ。こっちは外れ、と。あっちに、泥塗られた子。どうも、ゴールから拾いに来てるか‥‥。回り道ルートを取らないって事は、あまり頭の良い妨害役じゃないみたいだね」
 直接、エッグのある方向にむかっているらしい妨害役の姿を察知して、彼はそう考えた。そして、その妨害役と鉢合わせないように、慎重に回り道を繰り返す。その結果、植え込みを1枚か2枚隔てたあたりまで、近づくことが出来たのだが。
(「すぐ近くに、先輩‥‥か。向こうの道は、確か行き止まりだって言ってたし‥‥、こっちはさっき通った‥‥」)
 目印がわりにつけておいたマークが、エリクに道を教えてくれる。警戒しながら、次の角を曲がった刹那だった。
「ワルイゴはイネガーーー!!」
「‥‥‥‥‥‥」
 目の前に現れる、牧草のマントを背負った、オーガっぽい仮面の先輩。声を聞くと、先日、パープルのいる職員室で騒いでいた、鉄劉生(ea3993)のようである。たっぷり、茶の葉が開くくらいの間は、沈黙が流れただろうか。
「って、何でおどろかねぇんだよ! オーガだぞ! なまはげって言う!!」
 反応のないエリクの姿に、文句をつける劉生。
「美しくないから。それに、本物のオーガみたいに怖さがあるわけでもないし」
 材料が上手く調達できなかったのだろう。本来なら、もう少しごてごてしいのだが、だいぶ貧相なナマハゲさんである。
「う。やっぱり、ありあわせじゃ、威厳がなかったかっ」
「そう言うこと。そんなのじゃ、思いっきり引いちゃうだけだから」
 そう言って、彼が劉生の横を通り抜けようとした時だった。
「待てぇい!」
「まだ、何か?」
 低い声音に、振り返るエリク。
「何かじゃねぇ! 肝心な事忘れてるだろう。ここで会ったが百年目! 泥塗られて、お帰り頂こうかっ!」
 うがーっとまるで本物のオーガのように、鼻息あらく、劉生はエリクに襲い掛かる。
「冗談じゃない。捕まってたまるか。スリープ」
「‥‥ぐぅ」
 しかし、エリクはぼそりとそう言うと、スリープの魔法を唱えた。とたん、劉生は動きを止め、その場に倒れ付す。
「これで良いかな。二度と来ない様に、盛大なマークを付けておこうっと」
 後に、監視役のルーウィン・ルクレール(ea1364)にたたき起こされた彼の顔には、自身の泥で、盛大な×マークがつけられていたと言う。

●目には目を。葉には葉を。庭園には庭園を。
(「こっちは、まだ誰も来ていないようだね‥‥。エッグはまだ1つだけ‥‥。上手く取れると良いんだけど‥‥」)
 暫く進むと、かなり静かになっていた。どうやら、一番乗りのようだ。
「そこの人、隠れてないで、出てきたらどうだい?」
 不自然に咲いた花。事前のチェックで、このあたりに妨害生徒が潜んでいる事を知っていたエリクは、確信に満ちた声で、そう声をかける。
 と、その花が動いた。
「やはり派手すぎたかな。本当は、褌姿で参戦も考えたが」
 現れたのは、額やら髪やら手やら腰元やらに色とりどりに花をつけた榎本司(ea5420)である。
「うわ、びっくりした。当たり前だよ。だいいち、色合いがバラバラじゃないか」
 驚いた顔をしながらも、エリクはつかつかと司に歩み寄り、身体のあちこちに飾られた花を、修正しにかかる。
「これはこう‥‥。これは、こっちの方が綺麗かな‥‥。駄目だよ。飾る時は、きちんと色合いを考えないと」
 まるで、盛り付けをするように、さくさくと色を整えて行く彼の姿に、司は泥を塗るのも忘れて、こう尋ねた。
「付かぬ事を聞くが、そなた、職業は何だ?」
「料理人」
 それなら、納得も行く。おそらく、料理に彩りを添えるのと同じ要領で、花を飾り付けているのだろう。
「納得した所で、そこをどいてくれないかな。通らないと、後ろのエッグが取れないんだけど」
「断る。通りたいなら、自身で通れば良かろう」
 と、彼は違う魔法を唱えた。怪訝な表情を浮かべる司の前で、生み出されるのは闇色の空間。
「シャドゥフィールドか!」
「‥‥御名答」
 その暗闇に紛れ、エリクはまんまと司の妨害を潜り抜けてみせる。後に残ったのは、空っぽのエッグの台座。
「してやられたな。よく似合ってるぞ」
 満足げにそう呟く彼の所に、リトルフライで監視に当たっていたエルンスト・ヴェディゲン(ea8785)が、嫌味交じりに、降りてくる。
「あれは不正にはあたらないのか?」
「魔法を使うなとは言われていない。危険もないしな。お前達も見習え。オーガに泥を塗られるようでは、工作員として役に立たん」
 その後ろには、司と劉生によって泥をぬられれた新入生達が、折り重なるように倒れている。
「さて。卵は後1つだが‥‥。どうなるか様子を見て来るか‥‥。先生、ここは頼む」
 そのエルンストに、他の生徒を押し付け、後を追う司。どうやら、先程の結果を、覆したくて仕方がないようだった。

●謎の庭師
「地図からすると、この道を必ず通るな‥‥。待ち伏せと言うのも一興か‥‥」
 その司、パープル女史から渡された、園内の地図を頼りに、出口付近で、エリクを待ち構えていた。その背後には、エッグが鎮座している。
「‥‥これが最後のエッグ‥‥」
「そこまでだ」
 姿を見せるエリク。その彼に、司は今度こそ逃がさないと言った風情で立ちふさがる。一種、緊迫した雰囲気が流れた。
「こらーーー! 人ン家の庭で、何をやっとるんじゃー!!」
 だが、その直後。髭面の園丁が、ほうきを片手に乱入してくる。
「おのれ、よくもわしの大切な庭木を傷モノにしてくれおって!」
 ほうきをびしぃっと突きつけ、2人に小言を言って来る彼。
「許可は貰っているが‥‥。それに、見た覚えのない庭師だな‥‥」
「た、たまたま留守にしていただけじゃい! 罰じゃ! 元に戻すまで、そこにおれ。馬鹿者!」
 廊下に立たされるのと同じ要領で、その場に釘付けを命じられてしまう司。別に、従う必要はないのだが、「問答無用じゃ!」と宣言されて、返す言葉がない。
「どうやら、たちの悪いのにひっかかったみたいだね。じゃ、僕はこれで」
 その隙に、エリクはさっさと司の横をすり抜けてしまう。庭師も、それには関知しないようだ。
「ワルイゴはイネガー!? ってかぁ! オラァ、かかってきやがれ!」
「むう。よそにも騒いどる奴らがいるようじゃな。わしはあっちを見てくるから、手を抜くんじゃないぞ!」
 逆に、他の生徒を生贄にしようとしている劉生の声を聞いて、すっ飛んで行く。
「あれ、エッグがない!?」
「残念だったですね。エッグなら、庭師殿が持っていきましたよ。見ませんでしたか?」
 ところが、さっきまでそこにあったはずのエッグが見付からない。探すエリクに、ゴールで待ち構えていた監視役のルーウィンが、そう教えてくれた。戦場では、カモフラージュも立派な戦場工作と言う事だろう。
「まぁ、卵を1つは持ってるみたいですし、クリアって事にはしてあげますよ。ああ、怪我とかしていませんか?」
「残念ながら無傷だよっ。それに、怪我したとしても、その程度なら自分で治せるしっ」
 くすくすと笑いながら、そう言ってくれるルーウィンだったが、プライドの高いエリクは、あっかんべーっとそれを拒否するのだった。

●終わって昼飯
「エッグを無事取れたのは、これだけか‥‥。本格的に鍛えないと駄目なようだな」
 生き残った精鋭達に、頭を抱えるエルンスト。全体の一割にも満たない数に、今度はパープルがこう言った。
「もうちょっと考えないと駄目かもしれないわね。ま、難しい事は後回しにして、ご飯にしましょ」
 そこらへんは、まだ教師の端っこに引っかかっているらしい。準備を始める生徒達を見て、ルーウィンがこう言った。
「私はどうするかなー」
「はいそこ、お酒はだーめ。二日酔いと新入生多いんだから。あたしが飲んじゃう」
 酒を飲んでも良い年頃ではあるが、果実酒でも‥‥と言いかけたルーウィンを見て、パープル先生、速攻水筒を取り上げようとする。
「欲しいならそう言えば良かろう」
「だって、交換する物がないもの。今日、お茶しかもって来てないし」
 で、それをエルンストに取り返され、ぷくーっと頬を膨らませるパープル。
「いや、それでも構わないけど‥‥」
「そう。どれが欲しい?」
 並べられたのは、薄い布袋に入れられたハーブティの数々だ。一つ一つに、効能が書いてある。
「うーん。それにしても、飾り付けが足りないわね」
「仕上げを持ってきたぞ」
 準備が一通り終った後、パープル女史はそう言った。テーブルの上には、ぽつんと何か忘れたような空間がある。そこへ、先ほどの庭師が現れて、こう言った。
「あ! さっき、エッグ持ち逃げした奴!」
「言われんでも返してやるわい」
 見れば、その手には行方不明になっていたエッグがある。噛み付くエリクの目の前で、その庭師は、テーブルの上に、エッグを置いたのだが。
「ちょーーーっとお待ちッ!」
 きらーんっと目を光らせたパープル女史。その庭師の髭を、いきなり引っ張った。
「あだだだだ! レディ、痛い! あ!」
「‥‥やっぱり」
 貼り付けていた髭が、べりっとはがされ、現れたのは東雲辰巳(ea8110)である。
「バレたか。いや、おっかけっこに夢中なんで、妨害の妨害やったら、面白そうだなーと‥‥。怒るなって。昼飯奢るから。な?」
 詫びの代わりなのか、東雲は木陰に隠していた弁当を差し出した。普通よりかなり多い。一つには、レインボーリボンがつけてあった。中身を開くと、チーズや干したたら等、パープルの好物ばかりが詰めてある。どうやら、彼女専用の様だ。
「あんまり美味しそうに出来てないね。センセ、こっちにしておきなよ。こんなんじゃ、お腹壊しちゃうよ」
 料理人のエリク、一目見るなりそう言った。そして、持ってきた弁当を差し出す。中身は、黒パン、パン用にバター、白身魚を揚げたもの、食べやすいサイズに切ったチーズ、ローストチキン、生野菜。飲み物にミルクと言った感じだ。少々多めなのは、持っていない生徒用だろう。
「ふむ。これが西洋の弁当か。見た事のない揚げ物だな」
 興味津々の司。ひょいっとフライをツマミ食い。珍しがって、自身の弁当を差し出す彼を見て、劉生も割って入ってくる。
「あー! ずりぃ! 俺もー! センセ、これと交換しようぜ!」
「がっつくな。子供じゃないんだから」
 それをシャットアウトしようとする東雲。しかし、劉生はそれを無視して、パープルの弁当に入っていた鶏肉の燻製をほおばっている。
「うるせぇ。これ、センセの手作りか? 料理うまいなー。今度教えてくれよ!」
「‥‥あ、そう。おほほほほ」
 その彼にそう言われ、視線を明後日の方向にそらすパープル。
「パープル、教会の奴に作ってもらったな‥‥」
「そんな事、どうでもいいでしょ。1人で寂しく食べてないで、こっち来なさい」
 その事を、エルンストに突っこまれたパープル、お返しとばかりに、彼を昼飯会場に引きずり込もうとする。「巻き込むなー!」と抵抗するエルンスト。まぁ、残念ながら、隣の席はすでに東雲に占拠されていたのだが。
「先生ー、メシ終わったら、腹ごなしに一試合だけ、手合わせしてくれー」
「今日、ライトハルバード持って来てないわよ」
 そんな中、練習を申し込む劉生。噂に聞こえるパープルの腕前を見てみたいようだが、彼女は今の所、専用武器を持ってきていないようだ。
「じゃあメタルロッド貸すから!」
「そっちの方が重いじゃないのさ」
 手持ちの武器を貸してまで、手合わせしようとする劉生。そこへ、東雲が不機嫌そうにこう言った。
「レディにやらせるくらいなら、俺が変わりに相手になってやるぞ」
「お前はお呼びじゃねぇ!」
 初対面から、パープルを巡って仲の悪い二人、早速口喧嘩を繰り広げている。
「あー、うるさい。食事くらい、静かに食え!」
 そこへ、エルンストが、やっぱり雷を落として。
「ま。たまには、こういうのも、いいかな」
「毎日だと、ちょっと困りますけどね」
 相変わらず賑やかなパープルクラスに、エリクとルーウィンは、お互い苦笑するのだった。