【聖杯探索】復讐のゴルロイス〜先遣隊〜

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 36 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月06日〜05月15日

リプレイ公開日:2005年05月14日

●オープニング

●プロローグ
 その机は、巨大な机であった。ぐるりと円を成したその机は、アーサーが王座につきし時より、キャメロットの城と、キャメロットの街と、そしてイギリス王国とその民たちを見守ってきた座であった。
 その名は円卓。勇敢にして礼節を知る騎士たちが座る、王国の礎。そしてそれを囲むのは、アーサー・ペンドラゴンと16人の騎士。
 すなわち、誉れも高き『円卓の騎士』である。
 その彼らの目に映りしは、円卓の上に浮かぶ質素な、それでいて神々しい輝きを放つ一つの杯。緑の苔むした石の丘に浮かぶそれは、蜃気楼のごとく揺らめき、騎士たちの心を魅了する。
「‥‥『聖杯』じゃよ」
 重々しい声の主は、マーリンと呼ばれる一人の老爺。老爺はゆっくりと王の隣に立ち、その正体を告げた。
「かのジーザスの血を受けた、神の力と威光を体現する伝説‥‥それが今、見出されることを望んでおる。世の乱れゆえに。神の王国の降臨を、それに至る勇者を望むゆえ‥‥それすなわち、神の国への道」
 老爺の言葉が進むにつれ、その幻影は姿を消していた。アーサーは円卓の騎士たちを見回し、マーリンのうなずきに、力強く号令を発する。
「親愛なる円卓の騎士たちよ。これぞ、神よりの誉れ。我々だけでは手は足りぬ‥‥国中に伝えるのだ。栄光の時が来たことを!」

●遺跡の奥で
 時、同じくして、コーンウォール地方にある遺跡、メイドンカースルでは。
「ゴルロイス様、よろしいでしょうか?」
 遺跡の最奥部。石造りの台座で、瞑想する黒いフルプレート姿の男性。見た目は、まるで青白い顔をした、黒髪の美丈夫である。と、そこに、1人の魔導師風の青年が、片膝をつき、臣下の礼を取りながら、声をかけた。
「お主は?」
「私めは、閣下にお仕えする軍師の1人にございます。現世の肉体は失ってしまいましたゆえ、この様な姿になっておりますが」
 見慣れぬ姿の魔導師に、疑問を投げかける男性。
「俺を起こしたからには、それ相応の用件があるのだろう。早く言え」
 機嫌の悪そうな態度のゴルロイス。と、魔導師は顔を上げもせず、こう報告した。
「ウーゼル卿の息子が、動き始めました」
「ようやくか。遅いな」
 待ちわびた‥‥と言わんばかりの主の姿に、彼はこう続ける。
「すでに、配下の者達には、配置に着くよう、申し渡しておきました。ただ、現世での肉体を失っている者も多うございますので‥‥」
 そこで、言葉を濁す魔導師。と、ゴルロイスは彼が何を言いたいのかを悟ったのだろう。玉座に預けていた身を起こし、こう尋ねた。
「不死者だけだとすると、少し戦力に不安が残るな。指揮は、誰が取っている?」
「はい。我が配下の中で、比較的理性を有している者を中心に」
 スケルトンや下級レイスでは、猿並の知能しか持ち合わせませぬ故。と、魔導師はそう言った。そこだけは、自信たっぷりである。
「レベルの低い者には、対処出来そうだな。だが、念には念を入れたい。何か策はあるか?」
「そう仰られると思いまして、遺跡の事を少し調べてまいりました」
「ここの、ことか?」
 玉座を軽く叩くゴルロイス。
「はい。古い時代のものゆえ、どれほど役に立つかわかりませぬが、使えるトラップも多いよしにございます。よろしければ、御身自ら、その起動を」
「わかった」
 返答は短いが、それはすなわち承認だと、その魔導師は感じる。その証拠に、彼はくくく‥‥と喉を鳴らしながら、こう言った。
「さて、我が元にたどり着くは、いかな勇者かな‥‥。久方ぶりに楽しき戦になりそうだ‥‥」
「本当に。では、私めは、他の者達に伝えて参りますので、御前を失礼致します」
 より深く頭を垂れ、ゴルロイス公の前を辞する魔導師。
「ゴルロイス様、ヤる気満々じゃん☆」
 その傍らには、道化師めいた衣装を着たシフールが侍っている。どうやら、配下であるようだ。
「人をからかうヒマがあったら、冒険者達の動向でも調べて来い。お館様は、どう言っていた?」
「そうだねぇ。結構頭は回るみたいだよ。下手に悪戯仕掛けられなくて、ホント、いらいらするよ。あ、ロイヤルオーダーは、今の所反応なし☆ どうも、思いっきり引っ掻き回しちゃえーって事みたいー。ま、頑張ってよ。あたしはテキトーに、ちょっかいかけとくからー☆」
 そう言い残すと、シフールは姿を消した。
「‥‥早く来い。ウーゼルの息子。父に晴らせなかったこの汚名。そなたで漱いでくれる‥‥」
 一方、誰も居なくなった玉座で、ゴルロイスはまるで、果し合いの相手を待ちわびるかのような表情で、そう呟くのだった。

●哀しき公
 さて、その頃。
「ゴルロイス様だと? 本当に、その返答が?」
 レオンの占いを聞いたギルバード・ヨシュア。その顔色が、明らかに変わっっている。
「間違いありません。あの、ご存知なのですか?」
「話していなかったかな。昔、世話になった事がある。ゴルロイス様は、その昔、まだウーゼル陛下の御世だった時、かの方のライバルとされた方だ。ただ、策略によって、既に命を落とされたと聞いているが‥‥」
 そう答える議長。
「失脚‥‥ですか?」
「いや。少し、違う。あの方は、その様な方ではない。ここからは、王家の名誉に関る事なので、あまり話したくはないのだが‥‥」
 言葉を濁す議長に気を使い、レオンは質問を変える。
「そんな方が、どうして‥‥」
「誰か、後ろで糸をひいている奴がいるな‥‥。ゴルロイス様は、そやつに上手く取り入れられているのだろう。何とかして、お救い申し上げねば‥‥」
 倒すのではなく、救うと。はっきりそう言った議長に、レオンは難色を示した。と、彼は、穏やかな表情で、問うて来た。
「既に、死者だと言う事は解っているよ。だが、死者に敬意を払う事も、冒涜された死者を救う事も、受けた恩を返す一端だとは思わないかい?」
 まだ、納得のいかない彼に、議長はこう続けた。
「そうだな‥‥。もし、私が教会の陰謀で、不死の者にさせられたとしたら、お前はどうする?」
 レオンとて、その辺りの分別がわからぬ年頃ではない。しぶしぶと言った調子で、深く、頭をたれるレオン。翌日、ギルドに、こんな依頼が乗った。

『コーンウォール・メイドンカースル遺跡中央部への調査隊求む。この調査は王国の聖杯探索の一端であり、参加する事は、王国への礼儀と忠節を示すものである。なお、内部で見つけた装飾品に関しては、ギルバード・ヨシュア殿に報告の上、換金してもらう事』
 翌日、ギルドに乗る依頼。それには、こう追記してあった。
『遺跡には多数のアンデッドが確認されている。この為、先遣隊と本隊とを、分ける事とする』
 どうやら、先にアンデッド殲滅部隊が乗り込み、その二日後に、内部へと潜入する部隊が到着する手はずのようだ。

●今回の参加者

 ea0210 アリエス・アリア(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0337 フィルト・ロードワード(36歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0433 ウォルフガング・シュナイダー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1704 ユラヴィカ・クドゥス(35歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3397 セイクリッド・フィルヴォルグ(32歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0884 グレイ・ドレイク(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ヨシュア・グリッペンベルグ(ea7850

●リプレイ本文

●遺跡の光景
 議長の元から、必要物資を貰いうけ、挨拶を済ませた一行は、余計なトラブルに巻き込まれる事もなく、遺跡にたどりついていた。ミュール・マードリック(ea9285)なんぞは、まるで特殊な工作兵の様に、ローブのフードを目深く被っている。
「この状況は、あまりのんびりと休憩なんぞは、入れられないか‥‥」
 フィルト・ロードワード(ea0337)のセリフ通り、遺跡にはそこらじゅうにアンデッドが溢れていた。
「砦みたいだね。シルバーアロー、借りれて良かったよ」
 自身の矢筒に、銀矢を積み込みながら、そう言うアリエス・アリア(ea0210)。彼の感想どおり、溢れると言うよりも、まるで遺跡そのものが、要塞か砦のように配置されており、そこに守備兵の様に、アンデッドがいる。
「亡者の墓を荒らしているようなものだな。この数は。向こうに見える建物にも、別働隊が潜入しているのだろう?」
 セイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)が、その様子を見ながら、そう言った。彼の言う通り、遠方の森にも、ところどころ崩れた建物が垣間見える。どうやら、相当に広い遺跡だと、認識しなおさなければならないようだった。
「森の中なら、まだ大丈夫のようです。直接見えない場所に、ベースを設営しましょう。いくらなんでも、ノンストップでは厳しすぎます」
 馬車を降りたフローラ・タナー(ea1060)が、積み込まれたテントや毛布等をおろしながらそう言った。だが、すべてをおろせば、結構な量になる。その様子に、グレイ・ドレイク(eb0884)が苦言を呈す。
「荷物は、必要最低限のものだけでいいと思うぞ。ふむ‥‥。天井があるのは、ほぼ中央部のみ‥‥。なら、こいつでもOKか」
 彼が取り出したのは、メタルクラブだ。遺跡の現物を見るまでは、太刀や、ロングソードも考慮に入れていたのだが、こうした砦めいた建造物なら、遠慮は要らないようだ。ズゥンビは強化されていると言う噂もある。ダメージを増やす為に、出来るだけ重い武器を選びたいようだった。
「レイスもいるようじゃなー」
 エックスレイビジョンで、中の状態を確認していたユラヴィカ・クドゥス(ea1704)が、そう言った。壁の向こうには、ズゥンビやスケルトンばかりではなく、完全に人の姿を取ったまま、生き生きと動いている者もいる。その向こう側が見えない所をみると、おそらく憑依したレイスだろう。
「そーですねぇ。じゃ、念の為、オーラパワーを使っておきましょうか♪ 他に、いる人います?」
 語尾が歌う様に跳ね上がるのは、トリア・サテッレウス(ea1716)の癖なのだろう。しかし、口癖と有効な策は別問題である。手を上げた幾人かに、彼はオーラパワーを付与していく。そんな中、フィルトがユラヴィカにこう尋ねた。
「数は、どれくらいだ?」
「うむ、遺跡の外輪部には、ところどころに、10匹ほど固まっておる。殆どは、スケルトンか、さもなくば、鎧を着けたズゥンビじゃ。ここからだと、中の方は良く見えないのじゃが」
 つまり、仕事を終えるためには、その拠点を守るズゥンビ達を倒す事が、必要のようだ。それを聞いて、フローラはある作戦を提案する。
「効率の良い戦い方が、必要なようですね。どうでしょう。疲労が一気に蓄積しないように、こう言った陣を組んでみるのは」
 彼女が、地面に枝で書いて見せたのは、前列と後列を入れ替えながら、入れ替わりたち変わり、円形になって攻め込んで行くものである。
「ジャパンで言う所の、車掛りと言う奴だな‥‥」
 それなりに兵法の知識のあるウォルフガング・シュナイダー(ea0433)が、そう評す。実物を見た事はないが、かつてジャパン語を習った時に、そんな話を聞いていたようだ。
「相手の強さが分からんので、それが有効かはわからんが、数を戦えば、傾向も見えてくるだろう。お前の悪友は、何だと言っていた?」
「いくら強化されているとは言え、基本的なものは変わらないと言っていた。ズゥンビは頑丈で、人間型生物が好物。スケルトンは、あの外見だし、突きでは、ダメージを与えらないそうだ。まぁ、切って叩くのが基本だろう。レイスは‥‥そちらの方が詳しいか」
 そのウォルフガング、フィルトの問いに、出発前に友人から聞き出したらしいアンデッド知識をご披露する。と、彼のセリフに補足を入れるような形で、アリッサ・クーパー(ea5810)がこう告げる。
「どうも生前の記憶を残している方々がおられるようです。世の中には、強い妄執に捕らわれ、より陰湿に、生きるものを狙ってくる種もいます。一見しただけでは、判断つきかねますが、痛覚さえ麻痺し、もっと素早いズゥンビもいるかもしれません。おそらく、そう言ったちょっと上位なアンデッドが、ここの拠点兵長になっているのでしょう」
 神学者だと言っていたが、アンデッドに対する造詣は、ウォルフの悪友にも引けを取らないようだ。確証を得たフィルトは、うぞうぞと蠢くアンデッド達を見据え、方針を決める。
「つまり、動きの機敏な、頭の良さそうな奴を、率先して倒せば、いいわけだな」
「そう言う事です。一般的に、アンデッドの知性は、猿以下ですからね」
 議長の前にいる時と違い、ずいぶんとそっけない口調のアリッサ。営業用スマイルも消えている所をみると、気を使う必要がなくなって、地が出てきたと言う所だろう。
「でも、一見しただけでは、わからないわね。クリエイトハンドで、何とか見分けが付かないかしら」
「無理だと思います。それなら、ピュアリファイの方がマシです」
 フローラのセリフに、ぴしゃりと言い放つアリッサ。残念ながら、白の神聖魔法に関しては、彼女の方が造詣が深い。試す前に、結論が出てしまい、不服そうなフローラ嬢。そんな彼女に、フィルとがこう言った。
「下手に手を出して、駒を失うわけには行かん。実験は、他の時にしてくれ」
「仕方ありませんね」
 彼女とて、長丁場に挑むのに、無駄な魔力を使うほど、愚かではない。しぶしぶ納得したフローラ嬢に、フィルトは頷いて見せると、こう宣言する。
「よし、指揮系統を叩けば、烏合の衆になるだろう。隊列は、フローラが話した通りだ。くれぐれも、陣を崩すなよ! 行け!」
 そのセリフを合図に、切り込んで行く冒険者達。
「あらら。これでは、どっちが隊長だか、わかりませんわ」
 リーダーシップを奪われたフローラ、その姿に、思わずそう呟いてしまうのだった。

●墓荒らしとは紙一重
 戦いは、パーティの最前列から始まった。当然と言えば、当然の流れではある。
「しかし、これだけいると、どれから手をつけていいか、わからんなっと!」
 ミュールが、そう言いながら、動きの遅いスケルトンを見つけ、攻撃を仕掛けるより早く、スマッシュEXを叩きこんでいた。
「そう言う割には、片っ端から、手を付けていると、思うが‥‥なっ!」
 その彼と、背中を合わせるように、グレイがズゥンビの攻撃をかいくぐりながら、メタルクラブを、ぶぅんっと唸らせる。人の子よりも強い力で振り下ろされたクラブは、目の前の敵を、脳天から叩き潰していた。
「複数相手の戦いは、苦手なのは、代わらないさ。とにかく、数を減らさないとなっ!」
 キャメロットの武闘大会では、ついこの間、国内ランキングで1位に輝いたほどの実力を持つ彼。しかし、大会とは勝手の違うそれに、目の前にいる敵を、片っ端から倒す事に、重点を置いている。コナン流の豪快な戦術は、下手に立ち回るより確実に、アンデッドの数を減らしていた。
「意外と頑丈だな」
 足を叩き潰され、頭を除去られても、ズゥンビ達は、変わらず進軍してくる。
「そりゃあ、基本的にはズゥンビだからな。痛みを感じないんだろ」
「あるいは、痛みを感じる脳味噌がもうないとか」
 その姿に、多少の気色悪さを感じながら、背中を合わせる2人。作業が単調になってはいるが、相手が何も言ってこないのだから、仕方ないと言うものだ。
「違いますよ。奴らは痛みに苦しんでるんで、それを和らげる為に、こうして襲ってくるんです」
「「へぇー」」
 そこへ、後ろのほうで、コアギュレイトを使って、アンデッド達を足止めしていたアリッサが、間違った知識を正していた。
「なんで、少しでも早く、昇天させるのが、奴らに対する礼儀なんですよ」
「腐った死体に、礼儀もへったくれもないと思うがな」
 彼女が動きを留めたスケルトンに、クラブを振り下ろすグレイ。動きの止まったそれに、フローラがとどめとばかりに、ピュアリファイの魔法を施す。浄化され、存在を失い、ただの骨と化すスケルトン。
「引く事は適わぬ。全力で押し通れ!」
 合図など要らない。別のスケルトンからの剣を、自身のクルスシールドで受け流していたセイクリッド、まずは攻撃力を落とす為といわんばかりに、自身のクルスソードを、刃を寝かせて刀身が出るように持ち替え、相手の剣を持つ腕へと叩きつけていた。たまらず、剣を落とすスケルトン。
「あなた方に恨みはありませんが、僕はこの国を愛しています。土に帰っていただきましょう!」
 そこへ、トリアがスマッシュでトドメをさす。多少ダメージは低いが、その分、スマッシュEXよりは当たりやすい。
「闇雲に戦っては、物量に消耗させられるだけだ。チェスも全ての駒を取る必要はない。全てを指揮するキングを取れば、こちらの勝ちになる。頭を狙え! 頭を!」
 と、その戦いぶりを見たフィルトが、そう指示を飛ばした。
「了解。頭蓋骨に打ち込むんだね☆」
 と、何を勘違いしたのか、中ほどにいたアリエスがスケルトンの頭蓋骨に、シューティングポイントアタックを打ち込んだ。文字通り頭を砕かれ、闇雲に持っていた剣を振り回すスケルトン騎士。
「危ないっ」
 その無差別な攻撃が、アリエスへと遅いかかった。それを、すんでのところで庇うミュール。
「こっちだって、手一杯なんですから、無理はしないで下さいよっ」
「分かってるよ。ちょっと油断しただけだって!」
 即座に、フローラ嬢の指示が飛ぶ。今度は、外さない。と再び矢を番えるアリア。
「怪我、大丈夫です?」
 その間に、フローラは、ミュールに駆け寄り、リカバーを施そうとする。
「この程度、かすり傷だ。つつ‥‥」
「我慢しないで、手当てを受けておいて下さい。長丁場なんですから」
 文句なんぞ言わせない。アリッサにばかり頼るわけには行かないのだ。自身で出来る手当ては、頼らずともやっておきたい。
「わかった」
 すなおに、その申し出を受けるミュール。
「おやおや、御立派な騎士殿が出てきましたよ♪」
 そこへ、トリアが楽しそうな口調で、そう言った。口元がきゅっと真一文字に結ばれている所を見ると、やや緊張していると言ったところだろう。積極的に前には出ないが、後ろに引く気はなさそうだ。
「ゴツいのと、のっぽと女騎士っと。さしずめ、腐ったでこぼこトリオって所か‥‥」
 現れたのは、ウォルフガングや、セイクリッドと同じくらいの背丈を持つエルフのナイト、身長はトリアくらいだが、見るからにゴツそうな、ドワーフのナイト。そして、アリッサやフローラと同じ背丈ながら、目付き厳しい女性騎士である。皆、一様に土気色の、青白い表情をしている所を見ると、死体にとりついたレイスだろう。
「一対一なら、闘技場で慣れてる。俺は右のをやるぜ」
 ミュールが獲物に選んだのは、同じ背丈のエルフのレイス騎士。
「じゃあ、左をやってやるよ」
 グレイは、ドワーフのレイス騎士を選んだようだ。
「では、私は真ん中を」
 残ったトリアは、自身よりやや高い女性騎士を、相手に選んだようだ。
「謀略に踊らされし、栄光の騎士たちよ! 再び眠りにつかれよ!」
 仕掛けたのはグレイが先である。先手必勝とばかりに、ドワーフ騎士に、スマッシュを食らわせる。
「流石だ。腐っても、元騎士か‥‥」
 セイクリッドが、感嘆したように、そう言った。見れば、ぐしゃり、と嫌な音がして、死体がひしゃげている。オーラパワーを付与されたそれで殴られ、レイスは哀れな遺体を脱ぎ捨てて、素の霊体となり、グレイへと襲い掛かった。
「ケンブリッジの打撃騎士の名にかけて、この戦い、負けられない。ここで眠られよ!」
 触れられれば、怪我をするそれを、左腕のライトシールドで受け止めるグレイ。避けきれず、じゅうっと焼けるような痛み。悲鳴を押し殺し、彼はそのレイスの脳天に、スマッシュを振り下ろした。その攻撃で、レイスの体が、半分ほど使い物にならなくなったが、まだまだ元気のようだ。
「そう言うのは、もう少し素早く、パワーをこめてやるんだよ!」
 彼の戦いぶりをみたミュール、魔力を伴った自身の剣を、横に薙ぐ。空に逃げるレイス。それを、『かかってきな』と言わんばかりに挑発する彼。フォローをするように、鳴弦の弓に持ち替えたアリエスのシルバーアローが狙い撃つ。青白い姿のレイスの表情はわからないが、即座に向かってきた所を見ると、反応があったようだ。
 それこそが、ミュールの思う壺。
「くぅっ!」
 ミドルシールドで攻撃を受け止めた左腕が、やはり避けきれず、鈍く悲鳴を上げる。その痛みを押し殺し、エルフレイスの攻撃をがっちりとくわえ込んだ彼は、持てるパワーを全て込め、袈裟懸けにレイスを叩き斬っていた。
 グレイよりも、パワーと重量をもつその一撃は、レイスに反撃の機会を与える間もなく、真っ二つにしてしまう。
「やれやれ。皆さん元気ですねぇ♪」
 残りの1人、トリアは、その戦いぶりをみて、肩をすくめる。そんな相棒の姿を咎めるセイクリッド。
「トリア、お前も騎士なら騎士らしく、気合を入れろ」
「そのつもりですがね」
 いつもこの表情なのは、性格なんですよ。と、続ける彼。その姿に、セイクリッドはそれ以上説教する事無く、相手の女性レイス騎士を見据え、こう言った。
「‥‥行くぞ。貴様らの魂に‥‥浄化の光を‥‥AMEN」
 ブラックホーリーで、死体から叩きだされるレイス。しかし、その動きは、肉体を持っていたときと、あまり変わらない。
「怒られちゃいましたよ。と言うわけなので、串刺しになって下さいねっと♪」
 オーラパワーを付与したスピアを、力強く繰り出すトリア。剣よりはリーチの長いその攻撃は、アリエスの射撃により、あまり空を飛ぶ事を許されなかったレイスを捉え、地面へと落とさせる。
「きりがねぇな」
 それだけの攻撃を加えても、中々敵の包囲網は、少なくはならない。その状況に、フローラがこう言った。
「いったん引きましょう。無理やり押し通る事はありません。このままだと、消耗させられるばかりです」
「しかし‥‥」
 長期戦になりそうな提案に、首を横に振るフィルト。と、そこへ、ミュールがこう言った。
「いや、俺もフローラの案に賛成だ。このまま、むやみに戦ったら、俺も敵にまわりかねん」
 死体を相手にしているから良い様なものの、このまま戦場の高揚が続けば、狂化を招く事態にもなりかねない。暴走した自分が、戦列を崩さない可能性は、ゼロに等しかった。
「わかった。こちらの駒は、一つもとられない様にしなければならないしな。一度、ベースに戻り、作戦を立て直すぞ」
 長期戦になるよりも、仲間を失い、総崩れになる方が恐ろしい。総判断したフィルトは、フローラの案を受け入れ、砦の外に築いたベースキャンプへと、方向を変える。
「仕方ないねっ。突破するよ! ついてきて!」
 ランスを小脇に抱えたトリア、先頭に立って、包囲を狭めようとするアンデッド達に、チャージングを食らわせる。
 こうして、戦場での半日は、あっという間に過ぎて行ったのだった。

●指揮官を倒す為に
 ベースに戻り、手当てをして、体力と魔力を回復した冒険者達は、アリエスの糸と松脂の警戒により、自分達を監視している輩や、伝令達がいる事を知り、彼らが役目を果たす前に、指揮官を叩こうと、遺跡の奥へと歩を進めていた‥‥。
 アリッサが照明を持ち、ウォルフガングが、遺跡の壁に、剣で印をつけている。そんな中、探査役のユラヴィカ、あまりの仕掛けの多さに、思わず文句が飛び出していた。
「そっちにもスケルトン。あっちにもトラップ。ああああ。もうー。混乱するばっかりなのじゃー」
 エックスレイビジョンで、壁の向こうやら、床などを調べていたユラヴィカ、ぷーぷーと頬を膨らませていた。
「落ち着いてよ。必ず道はあるはずだから」
 戦場工作に詳しいアリエス嬢、ユラヴィカが調べた場所を、丁寧に安全確認している。
「トラップはなし。と、残ってるのは‥‥。えいっ」
 壁に向かって、銀礫を投げる彼女。しかし、反応はない。と、その様子を見て、ウォルフガングがこう言った。
「思ったんだが。敵の居住区なのだろう? それほど、トラップはないのではないか?」
 道理ではある。だが、念には念を、と言う奴だ。と、そう説明するフィルト。
「また曲がり角じゃ。だんだんこんぐらがって来たのぅ。マップもぐちゃぐちゃじゃ」
「ユラヴィカ、うかつに前に出るな。落とされても知らないぞ」
 マッピングしながら、そうぼやくユラヴィカ。ふらふらと出て行きそうになるのを見て、ミュールが引き戻している。
「少し、魔法を使ってみる」
 と、それを見かねて、セイクリッドが、デティクトライフフォースを唱えた。だが、生きている者の反応はない。
「つまり、この先に居るのは、デビルかアンデッドしかいないと言うことだな」
 本当は、それでゴルロイスの居場所を探ろうと考えていたのだが、反応がない所を見ると、既にアンデッドとなっている事を、確認しただけのようだ。
「向こうから、スケルトンナイトが3体くるのじゃ。うひゃあっ」
「くっ。やはり気付かれたか」
 隊列を組んで、入り口から奥へと進もうとした彼らに、ユラヴィカが警告を発する。剣を抜くセイクリッド。
「入り口でこの調子とは、先が思いやられるな」
「後ろから来ました!」
 しかも、騒ぎを聞きつけた指揮官クラスが、途中から、部下を送りつけたのだろう。ゾロゾロと出てくるアンデッド達を見て、トリアがこう言った。
「なるほど。警戒代わりと言うわけですね♪」
「ああもう、にこやかに言ってる場合と違うー!」
 隊列を崩していないからいいものの、ここでパニックを起こせば、すべて水の泡である。そう考えたトリア、落ち着いた表情で、奥の死体を指差した。
「これは地ですよ。どうやら、あの奥にいるのが、指揮官クラスのようですね」
「じゃ、こっちの方が良さそうだね」
 それを聞いて、アリエスが武器をスリングから、鳴弦の弓へと切り替える。両手がふさがってしまうが、この際、仕方がない。
「こっちは俺がやる。支援を頼む」
 後方にいたフィルトが、オーラパワーを唱えた。これで、アンデッドに対しては威力があがるものの、外と違い、ここには天井がある。大きな得物を振り回すには、多少狭すぎた。
「かといって、あっちに行ったら、ここの倍はおるしのぅ。うわ、また増えたのじゃー!」
 わたわたと飛び回るユラヴィカ。
「邪魔だ。どいてろ」
 そんな彼を押しのけ、ウォルフガングは、自前のオーラパワーで、魔法の剣と化させた剣をちゃきりと構え、こう言った。
「‥‥ソニックブームを撃つ。前を開けろ!」
 その刹那、ウォルフガングの剣から、衝撃波が飛んで行く。密集状態になった遺跡内で、味方を巻き込まないようにそう言ったのだろうが、それは逆に敵にも警戒をさせてしまう。と、見通しの良くなったところで、テレスコープを使ったユラヴィカが、大声を上げた。
「あー! あそこに、いかにも妖しい黒尽くめがおるー!」
「御名答‥‥」
 ゆらりと姿を見せる、黒ローブの男。わずかに覗くは、骨と皮ばかりになった、土気色の指先。
「って事は、あれを倒せば、後は烏合の衆になるか‥‥」
 フィルトが、剣を向けようとしたその時だった。
「あれれー。そんな事、していいのかなー」
「あいつは!」
 ひょいっと場違いな明るい声で、黒ローブの影から飛び出してくるシフール。道化師の衣装を身に着けた彼女は、手にナイフをお手玉しながら、こう言った。
「さて、ここでクエスチョンです。今、アンデッドさん達は、頭の良いレイスさんに管理されて、秩序だって動いています。ここで、レイスさん達の首を切ったら、どうなるでしょーう?」
 鼻歌交じりに、ケタケタと笑いながら、そう告げるシフール。
「制御のなくなったアンデッドは、目の前の生物に、見境なく‥‥」
 はっと顔を上げるアリッサ。そもそも、アンデッドには猿以下の知能しかない。枷を失えば、自分達だけではなく、生ある者を求めて、近隣の村へと進軍を開始してしまうだろう。
「正解ッ。それでは、やってみましょーう♪」
 危惧する彼女の目の前で、そのシフールは、かしゃんとナイフを鳴らした。と、それを合図に、黒ローブの周りで、死体に取り付いていたレイスが、その肉体を捨て、冒険者達へと遅いかかる!
「ふん。貴様如きが、俺に取り付こうなんぞ、100年早い!」
 今までは、100%の力ではなかったのだろう。持っていた長剣で刺し、銀剣で切り裂く術を見せ付けるウォルフガング。両手利きではないため、命中率は落ちるが、その代わり、一体ずつ確実に倒していた。
「おにょれ、ちょこまかとー! 待つのじゃー!」
 一方では、ユラヴィカがそのシフールを追い掛け回している。昼間なら、サンレーザーが使えるのだが、今は夜。効果を発揮しない時間帯である。
「じゃあ待つ」
「ぶっ」
 おまけに、突然止まられて、鼻先を思いっきりぶつけてしまう。
「あたたた」
「へへへー。ばーか。あっかんべー」
 額を抱えて、ふらふらと地面に落ちるユラヴィカ。そんな彼に、シフールはバカにしたように、お尻をぺんぺんして見せる。
 ところが。
「バカは貴方よ」
 背後から、冷たい声が聞こえ、直後ひゅんっと風をきる音。
「あだっ! もうー、何するんだー」
 アリエスの放った銀の矢は、シフールの羽をかすめて、壁に突き刺さっている。次は外さないとばかりに、狙いをつけたままのアリエスを見て、そのシフールは嘘泣きをしてみせながら、こう言った。
「こうなったら、ゴルちゃんに言いつけてやるー☆」
「逃げるなー!!」
 怒鳴り散らすユラヴィカ。が、そのシフールは「やっだぽーん♪」と、奥の方へと向かってしまう。
「追うぞ」
 ウォルフガングが、そっけなくそう言うと、静かに足を踏み出した。その表情には、強い者にあって見たいと言う思いが垣間見える。
「そうですよ。ここまで来たんですし、ゴルロイス公の顔でも、拝んで帰ろうじゃないですか♪」
 無口な彼の代弁者となったのは、陽気なトリアである。
「わかった。ただし、消耗が激しくなったら、すぐに引き返すぞ。いいな」
 警告するフィルト。ポーションも残り少ない。フローラとアリッサと言う、回復役がいても、その魔力は無限ではないのだから。
「安心しろ。そう簡単に、倒れはしないさ」
 そんな彼に、セイクリッドは慌てもせず、そう告げるのだった。

●遭遇
 そして。
「おのれ、どこに行ったのじゃー」
 姿をくらましたシフールに、ユラヴィカがぎゃんぎゃんと文句付けていると。
「こっこだよーん☆」
 その後頭部から、振って湧いたように蹴りを食らわせた奴がいる。良く見れば、天井にシフールが通れるくらいの通路が穴が開いており、そこから降りてきたらしい。
「きゃははは。あんた面白い。御褒美に、リリィベルのオモチャにしてあげよう☆」
「なりとうないわー!」
 指差して笑われて、後頭部に大きなたんこぶを作ったユラヴィカは、シフール嬢改め、リリィベルに、きしゃあと怒鳴り返している。
 と。
「うるさいぞ、リリィベル。何を騒いでいる」
「ゴルちゃんってば、御挨拶だなぁ。せっかく、アーサーくんトコの兵隊、連れてきてあげたのに」
 そんな彼女の騒ぎを聞きつけ、闇の中から、気配も感じさせずに姿を見せた鎧姿の騎士。
「ほぅ。貴方がゴルロイス公か?」
「いかにも」
 セイクリッドの問いに、頷いてみせるゴルロイス。黒髪の、背の高い御仁。肌の色は、病的とも思えるほどに白いが、これはアンデッドになったが故と言った所か。
「これはこれは。噂に違わぬ美丈夫。出来れば、生きている間に、お会いしたかったですねぇ♪」
 年齢を考えれば、40代前半だろうか。しかし、ぱっと見た限りは、もう少し若く見える。その立ち姿を見て、トリアは、どこか嬉しそうにそう言った。普段から垂れ下がり気味の目が、興味深そうに輝いている所を見ると、個人的にお近づきになりたい感情が、多少なりともある模様。
「ふん。人の家の庭を荒らすとは、好戦的な騎士殿だ」
 そう評されたゴルロイスは、まるで高貴な騎士と手合わせをするかのように、眼前に剣を立て、敬意に満ちた礼を示すウォルフガング。
「やめといた方がいいよー。ゴルちゃんって、とーっても強いんだから」
「望む所だ」
 リリィベルの、あまり空気を読めていないような警告にも関わらず、彼は立てた剣に、オーラパワーを付与する。
「参る!」
 そう言うが早いか、彼は即座にソニックブームを放った。放たれた真空の刃が、ゴルロイスを捕らえようとする。
(「届かないのは、重々承知!」)
 初手が交わされることなど、最初から分かっているだ。その隙に、ウォルフガングは間合いを詰め、一撃必殺の剣を振り下ろす。
 だが。
「貴様如きの技など‥‥児戯に等しいわ」
 公がそう言うが早いか、彼のスマッシュEXは、むなしく空をきり、地面に溝を穿っていた。
「甘いな。スマッシュと言うのは、こう打ち込むのだ!」
 体勢を崩したウォルフガングに、ゴルロイス公の剣が打ち込まれる。鎧ごと叩き斬るような勢いで打ち込まれたそれは、彼を、床へと転がしていた。
「ぐふぁっ!」
 血を吐くウォルフガング。鎧こそ斬られてはいないが、骨が折れているようだ。
「なんて奴だ‥‥。一撃で奴を倒すとは‥‥」
 じっとりと、セイクリッドの全身に汗が滲む。そんな、動きの止まった冒険者達に、ゴルロイスが言ったのは。
「まだまだ、だな。俺の気が変わらないうちに、とっとと帰れ」
「く‥‥」
 剣の切っ先で、出口を指し示す。悔しげに唇をかみ締めるウォルフガング。だが、動けない。
 そんな彼に肩を貸しながら、フィルトがこう言った。
「引くぞ‥‥。俺達の仕事は、後に続く連中の仕事をやりやすくする事だ。それに、ポーションも残り少ないしな」
「覚えていろよ‥‥」
 必ず、戻ってくる。そう、言いたげなウォルフガング。そんな彼らに、追い打ちをかける様に、リリィベルがくすくすと笑う。
「ばいばーい、まったどうぞー」
「お前は黙るのじゃーー!」
 何もしておらんじゃろうがーと、反論するユラヴィカ。どうやら、彼も、リリィベルにすっかり気にいられてしまったようだ。
「アーサーに伝えておけ。もっと強い奴を寄越せ、とな」
「その望み、必ずやかなう事を、お約束します。ゴルロイス卿」
 見下すような表情のゴルロイス卿に、深く頭を垂れるフローラ。「楽しみにしてるぜ」と言わんばかりの公。
「いいのですぁ? あんな事を言って」
 帰り道、ウォルフの手当てをしながら、アリッサにそう問われるフローラ。
「私は、議長の集めた者達を、信じていますから」
 そんな彼女に、フローラは、後に続く者達を、そう評するのだった。